A×M短編集
「失礼します」
アレンはコンコンとドアをノックしてからミランダの泊まる部屋に入る
ミランダの部屋に入るアレンの手には、氷水の入った洗面器とタオルが握られていた
「宿の人に氷をもらってきました、具合はどうですか?」
「…大分良くなったわ」
部屋のベッドに寝ていたミランダがゆっくりと身体を起こした
任務で雪国へと向かった二人であったが、ミランダは急な気温の変化と、不慣れな任務からのストレスか…風邪をひいて倒れてしまった
それが幸か不幸か、任務終了の帰還時の時の出来事
ミランダが倒れた際に、誰よりも早くミランダを担いで街の病院へと向かったアレン
医者の診断では風邪は安静にしていればすぐに良くなるとの事だったので、大事を取って街の宿に二、三日泊まる事となった
「…熱は下がってきたみたいですね」
ミランダの額に手を乗せて、安堵の息を吐いたアレンにミランダは申し訳なさそうに呟いた
「ごめんなさい、私…また足をひっぱちゃって…」
「そんな!風邪なんて誰だってひくんですから、ミランダさんのせいじゃありませんよ!」
そう言ってアレンは洗面器に浸しておいたタオルをミランダの額に乗せた
「今は風邪を治すことが先決です」
「…そうね」
そう言ってミランダはゆっくりと身体を倒す
額に乗せられたタオルが心地よかった
「ありがとうアレン君、私はもう大丈夫、風邪が移っちゃいけないから出て行った方が良いわ…」
病気で弱っていてもミランダはいつものミランダであった
こんな時でも自分の事よりも他人の心配ばかりしている
もっと自分の事を考えてください、とアレンは頭の中で考えてから苦笑した
ぎゅっ
「…アレン君?」
突然、アレンがミランダの手を握った
何事かと思ってアレンの顔を見るとそこにはニコニコとした顔のアレンがいた
「どうしたのアレン君?」
「僕、ここにいます」
「え…そんな、移ったら…」
「僕も昔、風邪をひいたんです」
ミランダの言葉をアレンが遮った
「アレン君…?」
「昔、僕が風邪を引いたときも移ったらいけないって部屋でひとりぼっちだったんです。でも…マナだけは側にいてくれて、こうして僕の手を握ってくれました。風邪を引いてるときこそ誰かに側にいてもらいたいものじゃありませんか?僕はマナが居てくれて凄く安心したんです。」
そう言ってニッコリと笑ってから
「だからあの時の安心を今度はミランダさんに」
アレンはぎゅっとミランダの手を握った
「アレン君…」
この時ミランダの顔が赤かったのは風邪のせいでは無いだろう
恥ずかしそうに顔を伏せるミランダ
「わかったわ、側にいて…」
そう言ってミランダはアレンの手を握り返した
「喜んで」
手から伝わってくるアレンの温もりは、とても優しかった。
END