A×M短編集



新年を迎えた黒の教団

殆どの団員が新年を清々しい気持ちで迎えていたのだが、とある部屋に集められた団員達はウンザリした気分で新年を過ごしていた。

「リーバーさん、この書類はどこに置けばいいですか?」

「ん、どれだ…って!室長、何でこの書類がまだこんな所にあるんですか!」

「あ~、この書類そんなところにあったんだ~」

黒の教団室長室の年を跨いでの大掃除にかり出された団員達は膨大な量の書類、本、何か訳の分からない実験道具を見て溜息を零す。

「はぁ、本当ならミランダさんと初日の出を見に行く予定だったのになぁ…」

「悪いなアレン、悪いついでに向こうの棚の整理を頼む」

同じく大掃除にかり出されたリーバーの言葉を聞いて渋々棚の整理に向かう。
棚の整理をしようと乱雑に置かれた書物から一冊の本を抜き取ってみれば、書物は雪崩のように床へと散らばった。
また一つ大きな溜息を零すとアレンは床に散らばった書物をせっせと拾い本棚へと戻そうとした、その時-

「……あっ」

本棚の奥に、鈍い光を放つ薬瓶を見付けたアレンが驚きの声をあげる。
アレンの脳裏に昨年の悪夢が蘇った、見なかったことにしてもよかったがそれが元でまたあの悪夢が繰り返されたらどうしよう…
恐る恐るその薬瓶を手に取ったアレンはコムイの元へと足を進める。

「…コムイさん、この薬に見覚えありますか?」

自分の部屋の大掃除であるというのに手伝いもせずに椅子に座ってコーヒーを飲んでいたコムイはアレンの持ってきた薬瓶を見て顔を輝かせた。

「おやおや、どこにあったのそれ?」

「あそこの棚の奥です」

「へぇ、あんな所にあったんだぁ」

「また危ない薬じゃないでしょうね…」

「ああ、心配しないでよ、それはただの媚薬だから」

「はぁ、媚薬ですか」

………媚薬………?

「な、なんて物開発してんですか!」

「いや、偶然出来ちゃったんだ、あの時は面白かったよ~」

“あの時”に一体何が起きたのであろうか?
けらけらと笑うコムイの表情を見て、きっと本物の悪魔というものはこうやって笑うのだろうとアレンは思った。

「まぁ蝋で封もしてあるし、毒じゃないんだから元の場所にしまっておいてよ」

「はぁ…わかりました」

コムイの言葉を聞いて薬瓶を棚へと戻すアレン。
棚の整理を続けていると、大掃除に新たなる助っ人が現れた。

「皆、大掃除はかどってる?」

「お手伝いに来ました」

扉からリナリーとミランダが顔を覗かせた。
リナリーの登場によりコムイはきびきびと動きだし、ミランダの登場によりアレンはイノセンスを解放して大掃除に力を入れ始めた。
かくして、助っ人の登場により大掃除はみるみる内に終わりに近づくのであった…



「お疲れ様、皆そろそろ休憩しましょう?」

そう言ってリナリーは兄の部屋の大掃除を手伝ってくれた面々にコーヒーを振る舞った、重労働の後の一服は格別である。
ミランダは一杯のコーヒーを受け取ると、イノセンスを解放して棚に本を押し込んでいたアレンの方へと向かった。

「アレン君も、お疲れ様」

「あ、ありがとうございますミランダさん」

ミランダからコーヒーを受け取ると、それを一口飲んでみせる。
アレンはリナリーとミランダの心遣いに胸の奥が温かくなるのを感じた。
アレンがコーヒーを飲んでいる間にミランダはアレンの整理していた棚をぐるりと見て回る。
キチンと整理された棚を見て回っていたミランダの目に一つおかしな光景が飛び込んできた。
本棚の奥に何故か瓶が置かれていたのだ、アレンが置く場所を間違えたのだろうと思ったミランダはその瓶に手を伸ばした。次の瞬間…



ガシャン!



ガラスが割れるような音を聞いてアレンは振り返った。見ればミランダの足下で先程の瓶が割れている。
割れた瓶から謎の煙が上がり、ミランダを包み込んだ。

「ミランダさん!大丈夫ですか!?」

一目散にミランダに駆け寄るアレン、謎の煙を手で払いミランダを自分の方へと引き寄せる。

「あ、アレン君…何だか身体が……」

薄く紅潮しているミランダの顔、これはまさか…

「あらら~割れちゃったんだ~」

瓶が割れる音を聞いて二人の周りに集まってきた面々。

「ちょっとコムイさん!呑気なこと言ってないで、どうすればいいですか!」

「取り敢えず隔離かな」

「隔離って…」

「大丈夫大丈夫、薬の効き目が切れるのを待つだけだから。取り敢えずアレン君はミランダを部屋に運んでくれないかな」

「私…どうしたのかしら…急に身体が火照って…熱が出てきたのかしら…」

まだ自分の身に何が起きているのか解っていないミランダは自分の体調の変化に戸惑いを見せていた。
アレンは急いでミランダを抱き上げると、ミランダを部屋へと運んだ…


ミランダを部屋に運んでからアレンははたと気付く。
媚薬とは具体的にどうなってしまう物なのであろうか?
今のミランダの症状を見ると、風邪とそう代わりはなさそうに見えるのだが…そう思っていた矢先の出来事であった。

「アレン君…もう…駄目…早く…」

「え……えぇ…!?」

ベッドに腰掛けているミランダがおもむろに服を脱ぎだしたのだ。
薬のせいとはいえ、普段のミランダが見せない積極的な姿を見てアレンは狼狽してしまう。

「だ、大丈夫ですかミランダさん…?」

「分からないわ…何だか…おかしくなってしまったみたい…」

するすると服を脱ぎインナーだけとなったミランダが熱を含んだ瞳を向け無言でアレンに訴える。
まるでミランダの症状が伝染したかのようにアレンは身体の熱が上がっていくのを感じた。
アレンは不安そうなミランダの横へ腰掛けて、そっとミランダを抱き寄せた。
ミランダの不安そうな瞳を間近で見た時、安心させるためであったのかアレンはミランダの名前を口にする。

「ミランダさん…」

「アレン君…」

見つめ合う二人はそのまま、まるでそうする事が自然であるかのように二人は唇を重ねた。

「んっ…」

ここで初めてアレンはミランダの熱を直に感じた、熱い…いや、熱すぎる…これは…
恐る恐る唇を離しミランダの頬や額に手を当てたアレン。

「ミランダさん、凄い熱ですよ!」

「……そうなの…だから早く…寝かせて…」

ミランダの言葉を聞いて肩の力が抜けていくのを感じたアレン。

「なんだぁ…って、早く水と薬を…!」

「待って…アレン君…」

わたわたと急いで看病の支度を始めようとしたアレンにミランダは声を掛ける。

「私は大丈夫だから…傍にいて……」

ベッドに横になりながら、小さくアレンの方へ手を伸ばすミランダ。
アレンはミランダの言葉通り傍まで来ると、ミランダの手を小さく握った。
アレンがミランダの手を握るとミランダは安心したような顔をアレンに向ける。

「僕はどこにも行きません、安心して眠ってください」

「ありがとう…アレン君…」

アレンの言葉を聞いて、そっとミランダは目を閉じた…

………

……




次の日、ミランダの体調もすっかりよくなりアレンはコムイに昨日の事を報告に行った。

「コムイさん、あの薬媚薬でも何でもなかったですよ」

「う~ん、ちょっと古くなってたみたいだね」

割れた瓶と液体を調査していたコムイが残念そうに呟いた。

「でもさぁ、“お熱”になる薬には代わりなかったでしょ?」

上手いことを言ったつもりなのだろうか、得意そうな顔をアレンに向けるコムイ。
アレンはやれやれと言った顔を見せた後に、部屋から出て行った。
アレンが部屋から出て行った後に、コムイは割れた瓶を眺めてからふと思う。

(偶然とはいえ折角出来たのに勿体なかったなぁ……)

(アレン君の言ったとおり、ただの熱の出る薬になったのか…)

ぽりぽりと頭を掻きながら先程のアレンの言葉を思い出すコムイ。
ただアレンの言葉通りの事しか起きなかったのなら、コムイは一つだけ納得のいかない事がある。





(…それじゃあどうしてアレン君の首筋にキスマークがあったんんだろう?)

コムイの薬がどんな効果を見せたのかは、当事者であるミランダとそれに付き添ったアレンにしか分からないのである。

END
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