口付け

-どうしてかしら?あんなに素晴らしい演技であんなに可笑しい動きをしているのにちっとも楽しくないわ-

またしてもミランダが自分に戸惑いを感じていると、ピエロが困ったように言った

『うむむむむ、私めの演技にお客様はまだ満足出来ていないようだ』
頭を抱えて考え込むその姿もどこか人を笑わせようとした動きだった

『何故だろう…………ああそうだ!!』
突如思い出したようにピエロが膝を叩く

『申し訳ありませんお客様!私めは大切な事を忘れていました!』

-あら?何かしら?-

『ええ、今までの演技は私一人だったからです!』

-あら?今頃?-

『しかし困った事がありまして…』

-何かしら?-

『はい…大変我が儘ではございますが、お客様は私一人で満足させてみたいのです』

-あらあら、それじゃあどうするつもりかしら?-

『はい…私一人ではお客様を満足させてあげる事が出来ない…しかしお客様は私一人で満足させてあげたい……この願いを叶える術はただ一つ!』

-何かしら?-

ミランダが首を傾げていると
やはりどこか滑稽な動きをしながらピエロがミランダの元へとやってきた

-どうしたの?-

『いえいえ…ただお客様もステージに上がっていただこうかと…』

-え?-

『これなら私一人ではないしお客様も楽しんでいただける最高の方法かと…』

-私が?…無理よ……私は何も出来ないもの-

『そんなご謙遜を…大丈夫です…私めがついていますから…』

ミランダは何故か
この時何故か
ピエロの声にとても安心感を感じた
だから

-じゃあ…やってみるわ-
と答えたのだ

『ありがとうございます、お客様…』
そしてピエロは紳士的にお辞儀をし…ミランダへと手を差し延べた
その手を取るミランダ
観客は無し
二人だけのステージ

-それで私は何をすればいいのかしら?-

ステージ中央へと連れていかれ辺りを見回していたミランダがピエロに問い掛けた時
ピエロの姿はいつの間にかステージ後方へと動いていた

-どうしたの-

『お客様…お客様にしていただくことはたった一つ……それもとても簡単な事でございます…』

-何かしら?-

『それは…』

そういってピエロは懐から一輪の薔薇をとりだし

『お客様は私めからこの薔薇を奪えばよいのでございます』

とお辞儀をしながら言った
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