口付け

そのサーカスは
サーカスだというのに演者は先程の少年のピエロ一人だけであった

『まずは玉乗りにございます』

少年のピエロがそういうと
舞台の真ん中にどこからともなく少年の背丈と同じくらいの大きな球体が現れた
『さあさあ、この球体の上での演技…ご満足頂けたらどうぞ拍手を!』

そう言って少年ピエロが球体の上に飛び乗った

『はっ!』

そしてピエロはその不安定な球体の上に立つと
どこから取り出したのか
色とりどりのカラーボールやボウリングのピンなどを交え
不安定な球体の上で器用にジャグリングを始めた
時折球体から落ちそうになり
『あわわわわっ』と
ピエロらしいどこか滑稽な動きを交えての演技…

しかしミランダは
広いサーカスに自分一人
そのどこか幻想的な世界で見る素晴らしいピエロの演技に
何故か拍手をする気にはなれなかった

-どうしてかしら?あんなに素晴らしい演技なのに-
拍手をしない自分に戸惑っているうちにピエロの演技が終わってしまった

『お客様…この演技には満足頂けていないようで…しかしご安心を!まだまだサーカスは続きますゆえにきっとお客様をご満足させて差し上げます…さぁて次の演技は………』
そう言って次々と演技に入る少年ピエロ
それからもピエロの奇妙で素晴らしい演技が続いた

自分が丸々入ってしまう球体に入り外が見えないのに螺旋状の山を球体で登り……
まるで自分を糸のある操り人形かと思わせるような滑稽な動きを交えたダンス……
一人だけの空中ブランコ……
綱渡り…
ナイフ投げ…
人曲…
人間大砲…
……


たった一人の客
ミランダの為にピエロは奇妙だが素晴らしい演技を続けていた
がしかし、その演技のどれ一つとしてミランダは
顔色を変える事なく
ピエロに拍手を贈る事をしなかった……
2/6ページ
スキ