第2章
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――思い出せ……
――い、嫌、ごめんなさい、ごめんなさい……
――…………と……の石
――違う、違う……じゃない……
――……
――……じゃない、…………!痛いやだ、やだあぁああああ!
――…………!
赤い閃光が体に届くような痛みを感じて、それがただの幻だとわかるのに逃げるように目を閉じた。
なんの記憶かわからない、女の人の必死の叫び声が耳の奥にこびりついている。女優の演技が迫真に迫っていて、見ているこちらまで恐怖心が喉につまって呼吸が浅くなる。逃げたいのにまるで芋虫みたいにうまく体が動かなくて、非力さに絶望する。
「っはぁ、はぁ……」
夜中に嫌な夢を見た。ベッドの上で汗をかき、布団を引っ張って隙間なく体に巻き付ける。
このホグワーツに電気はない、つまり電球が無い。私が寝ようとベットに入るとふっと部屋が暗くなり、朝になると勝手に明るくなる、そういう魔法。それ以外で明かりを操作したいときは、何時でもハウスエルフを呼んでいいと言われている。
でもさすがに、怖い夢を見たから電気をつけて欲しいと夜中の3時に呼び出すのは気が引ける。
暗闇が怖い、部屋の隅が怖い。布団を頭から被って、逃げるように目を閉じた。
「顔色が悪い」
「最近、夜寝れなくて……」
翌朝、ようやく眠りについた頃に部屋が明るくなり、ちっとも休むことが出来なかった。朝ごはんを食べる気にもなれず、コーヒーにだけ口をつける。隣に座るセブルスがいつものジトッとした目をさらにジトジトッとさせていた。
「あーーへこむ……」
「朝からだらしない」
「うんごめん……」
セブルスの一つ奥、私と同じように日々顔色が悪くなっていくクィレル先生はまだ大広間には来ていなかった。
2月に入って、ハリーは再びクィディッチの試合で大活躍をした。開始5分でセブルスの近くを飛んでいたスニッチを掴み、セブルスは死ぬほど嫌そうな顔をしていた。
ホウキに乗る珍しい彼をもう少し見ていたかったのに、残念だ。魔法界の若い恋人は、自転車の2人乗りのようにホウキの後ろに彼女を乗せたりするのだろうか。セブルスはあまりやらなさそうだけど、一度乗ってみたいなと思った。
もしあの時、サマンサの体のままで君と青春を過ごしていたらそんな未来もあっただろうか、なんて。
なんとなく気分が晴れない日々だったが、不幸にして幸いなのは仕事に大きなトラブルが起きなかったことだろう。初めてのタスクが多く神経をすり減らす日々の中で、ただでさえ“マグル”なのだからと休むことなく仕事に齧り付いた。
まず毎日のように行うのは、各学年のシラバスの進行具合と生徒の技術力に合わせた、デッサンモチーフの微調整。初めのうちは手ごろな四角い箱などの直線から始まり、丸いボール、リンゴやバナナなどのフルーツ、様々な質感の布、液体と難易度をあげていく。それらを台の上に組み直す度に、手本となる参考作品を数時間かけてデッサンした。文字や言葉で説明するより絵の方がわかりやすいし、最低限これが無いと生徒は私の話しを聞きもしない。
自分で制作したシラバスは今年が初めてということもあり、学年末テストに向け上手く消化できるよう調整に追われた。O.W.L試験とN.E.W.T試験はホグワーツ外部の試験官が実施する、いわば共通テストのようなもの。その対策を練るために、過去の試験内容を振り返る。同時に、3年生、4年生、6年生のテストは私が考えないといけないので、カリキュラムに沿い実力を審査できるお題を考える。
それに加えて年季の入った伝統的な道具たちの手間のかかる手入れ。修復呪文でも物の劣化そのものを巻き戻すことはできない。折れた筆をまっすぐにすることはできても、ぱさぱさに開いた毛先はそのまま。これも予算とにらみ合いながら魔法画の画材屋に買いに行く必要がある。まだ商品をよく理解していないので注文用紙一枚で済ませると事故が多く、結局お店まで何度も足を運んだ。セブルスやらポモーナやら、いろんな人にお願いして付き添い姿くらましで移動する、暖炉間を移動するフルーパウダーはマグルには使えないからだ。
余談だが、個人的な感想として、付き添い姿くらましが最も上手だったのはミネルバで、最も手荒だったのはポモーナ。遠慮なく“しがみつける”という点では、やはりセブルスが一番よかった。何度やってももう二度と頼みたくないと思う体の不快感は変わらないが。
それからもちろん、私自身の魔法画の勉強。私がそれを実演することはできなくても、全く知らないまま絵の描き方だけを教えるのは不誠実というものだ。そして最後、実際に仕事として魔法画を描いて居る人に挨拶をして、生徒が卒業後に弟子入りできるようにコネクションも作らないといけない。大抵の場合、魔法界の画家は“魔法”画であることに誇りと矜持を持っているので、私は大変気を使って手紙という名の推薦状を送らないといけない——英語で。
「セブルス……助けて」
どう考えても最後のこれが一番の苦行だった。気分が最も乗らない作業であることはもちろん、他の作業を終えて残業のように取り掛かるので時間も遅くなるし、英語というあまりに“常識的すぎる”部分で誰かに助けを求めるのも心理的にハードルが高い。
夜の10時を回り申し訳なさで心を一杯にしながら彼の研究室をノックした。それでも、例え最後に残った心のエネルギーを空にしても、私の文法ミスなんてくだらないことのせいで生徒の将来に傷を入れるわけにはいかない。
「いいから持ってこい」
いつもは息をするように毒を吐く彼だけど、この時ばかりは優しかった。採点途中の生徒のレポートを脇によけ、さっさと寄越せとばかりに右手を伸ばし指先を軽く曲げる。ありがとうと言いながら、自分で下書きした手紙を渡した。セブルスはそれに数秒で目を通し、唐突にツラツラと訂正を入れ始めた。
「——喋るように書くなと言ったはずだが。“But”は“However”もしくは“On the other hand”、“And”は“Furthermore”もしくは“In addition”あたりにしろ、“So”も——」
「待って待って、もうちょっとゆっくり言って欲しい」
慌ててメモを取りながら授業のように真剣に耳をそばだてて、聞き漏らさないように努力した。セブルスが軽くため息をつく音が聞こえて、やはり出直そうかと伺うように上目づかいで顔をあげた。
「“So”ではなく“Therefore”、“Consequently”に書き換えろ」
「うん」
それでも彼がこの講義を続けてくれるのは、そうしてもいいと思っているからで。サマンサだった頃の図書館を思い出しながら、どうにか手紙の内容を整えていった。
「——ここだ。『私の生徒はとても絵が上手で、あなたの役に立ちます』……。お前はこれから、格式あるアトリエの門を叩こうとしている自覚はあるのか。これでは近所の子供の自慢話と変わらん」
セブルスが容赦なく横線を引く。
「どう直したらいい?」
「この生徒の強みは何だ。お前が保証する技術とは」
「……光と影の捉え方が正確。特に、魔法画に命を吹き込む前の、基礎的なデッサンの構築力が同年代の誰よりも優れてる」
「ならばそう書け。『本状にて推薦いたします我が校の生徒は、基礎造形における観察眼に秀で、貴殿の崇高な技法を吸収するに足る素地を有しております』——こうだ」
セブルスが赤文字でつらつらと行間に文字を書き入れ、私はそれを横からじっと眺めた。そんなやり取りを30分ほど繰り返し、最終的に今日セブルスが採点しているどのレポートより真っ赤に書き込まれた羊皮紙を受け取り達成感にほっと息を吐く。あとはこれを見ながら清書するだけだ——手書きで。
「ごめんねセブルス、夜遅くに。本当にありがとう」
「謝るくらいならもっと早くに持ってこい」
「ごめん……」
両手で乱暴に目を擦って、何度か瞬きを強く繰り返す。全く彼の言う通りで、昨日もおとといもどうしても疲れて寝てしまったことを反省する。セブルスが杖を振ると、目の前に3冊ほど重たい本が現れた。
『魔術的弁証:格式ある書簡と論文における構文論』『高位魔術師のための修辞学:品格ある文章術』『学術的精密:概念を言語化する論理的叙述の基礎』
ただでさえ時間がないのにこれを読むのかと顔を引きつらせながら、それでも彼のやさしさに感謝をして手を伸ばす。本の重さが手に乗った瞬間、右肩に筋を引っ張るような関節の痛みが走り、小さく唸りながら抑えた。
「……どうした」
「いやなんか……肩が痛くて。あのまぁ、よくあるんだけど」
肩こりとは切っても切れない強固な“ご縁”を結んでいるので仕方がないが、それでも痛い。水分を失った関節の間に砂利でも詰まっているかのような嫌な痛み方がして、怖くて動きを止める私にセブルスは眉を寄せた。
「ごめん大丈夫」
動かせる左腕を伸ばしたが、セブルスがサッと本を引いた。
「あの……ごめん」
「謝って何になる」
「……うん」
でもこれは冗談でも気を引きたい訳でもない、右肩が痛い。うだうだやっていたら怒らせるだろうかと軋む腕を伸ばそうとしたら、宙に浮いた本が動いてばこんと頭を叩いた。
「痛い」
「愚か者」
特別に卑屈になっているつもりもないが、たかだか肩こりを心配してくれると思っていなかった。彼が何か薬品を見に戸棚に行く後ろ姿を眺め、いたたまれなさに指先を揉む。
「舌を出せ」
「舌?」
セブルスが何かの小瓶とガラス棒のようなものを持ち、私を目線で急かす。口を開けて舌をべえと突き出し、立っている彼を見上げた。その舌先に、液体が付いているガラス棒の先を軽く押し付けられる。
唇を閉じ、口の中で舌を動かした。苦い、漢方のような味がした。
「痛みを一時的に取り除くだけだ、治癒はしない」
そう言われて右肩を動かせば、確かに先程までの激痛が嘘のように何も無い。ただ少し重たいなという感覚が残っている。面白くなって肩を回そうとしたらどこからかロープが出てきて右腕ごと体に巻きついた。
「う ご か す な」
「すみませんでした先生……」
きっと彼ももう疲れて眠いのだろう、いつもより雑にソファにどさりと腰掛けた。ちっともロープを解いてくれる気配はないので、窮屈なまま背筋を伸ばして横に移動する。
結局私と彼の関係は曖昧なままだ、それで困っていないし今はそれどころではないから構わないけれど、彼はどう思っているのだろうか。学校という場所で頻繁に“そういうこと”をしようとも思わないし、最後に体が触れたのは彼の誕生日のハグ以来か。
セブルスは何も言わないまま足を組んで先程私の頭を叩いた本を杖で浮かし、自分の前でペラペラと捲り始めた。利き腕が縛られたまま何もやることがない私はそっと目を閉じて背もたれに体を預ける。この時間は生徒の声もなく静かでほっとする。
隣にセブルスが居れば、あの怖い夢にうなされることも無い。
「セブルス、解いて……怖い」
「まだ同じ夢を見るのか」
そう言いながらセブルスが杖を降ったのだろう、体の締め付けがなくなってほっと息を吐き、床を見つめて肩を摩った。
女の人が痛みに叫ぶ夢、そういうものを繰り返し見る。今までの人生で繰り返し見る夢なんてのは寝坊と遅刻くらいなもので、こんなシチュエーションの固定された悪夢を何度も見ることなどなかった。いつかあの女の人の首がボギリと濁った音を立てて折れ曲がり、GameOverになる気がする。
普段なら気の所為で済ませても、ここは魔法の城なので、そういう嫌がらせもあるのかとセブルスに相談したのがバレンタインの頃。セブルスは私に呪いの類がかけられていないか確認してくれたが、そういった痕跡は無いと言った。
偏頭痛のような痛みも定期的に起こるし、私の体はこの世界に馴染むどころか悪化している気がする。
——疲れた。
流石にそのひとことは言わずに、体を横に倒して目を閉じた。彼の膝の上に頭を置いて、彼が不自然に体を強ばらせた感覚が首元に伝わったが怒られなかったので甘えた。
やっぱりマグルの私が魔法画の講師なんて、荷が重い。身の程知らずだと、自分が一番理解している。それでも他に仕事のアテはない、逃げたくもない。
歯を食いしばって耐えるだけの私の頭を、セブルスの手がそっと撫でた。よくやってるねとか、大変だねとか、下手な慰めの言葉はいらない。そんなものに意味はない。
その翌週、学年末の試験が始まる直前の夜、セブルスが私の部屋をノックした。
「あれ、珍しいね」
そう言いながら扉を広く開けて、そのままとりあえずお茶でも入れようかとコップに手を伸ばす。
「不用心だろう、せめて誰か確認してからドアを開けろ」
「えーホグワーツの中だよ?」
「そういう習慣をつけろという話だ」
「うーんわかった」
例え外に誰が居てもとりあえずドアを開けてしまう自信があるけど。第一、魔法使いの前でドアの施錠とか意味無くない?
「人の形をしてれば全て友達かお前は」
「やだ、なんで考えてることわかるの?セブルスってたまにそう言うことあるよね」
「顔に出てる」
そうだろうか。くすくすと笑いながら、ハウスエルフが作ってくれた水差しのアイスティーを注ぐ。
「冷たいのでいい?」
「ああ」
「こっちの人ってあんまり飲まないらしいね、アイスティー。夏でもホットだって。年中長袖の君みたいだなと思った」
「お前はようやくまともに服を着るようになったようだな」
「地下牢は夏でも涼しいからね」
セブルスの視線が私の服にあって、葬式のハンカチみたいな生地をした長袖のワンピースを見る。生徒も全員、一年中長袖を着ているので自然と自分も同じように肌を隠すようになった。
「何かあったの?」
ソファに座る彼の前にコップを置きながら、自分のために近くの丸椅子を引っ張った。
「用が無ければ来るべきではないか」
「ううん、その方が嬉しい」
珍しい事もあるものだともう一度笑った。
「ようやく1年が終わると思うとほっとするよ」
まだあと成績をつけるという大きな仕事が残っているが、授業がなくなるだけうんと時間に余裕ができる。
「今年もうちに来るのか」
「あー……そのつもりでいたけど、迷惑だよね」
「私はYesかNoだけを聞いている」
「……Yes」
分かりにくい優しさが自分にだけ伝わる、この特別な距離感が愛おしい。アイスティに口をつけながら、セブルスの顔を見て笑った。彼もまた悪の親玉のような薄ら笑いを浮かべながらグラスを傾けた。
「ありがとう。今年はさすがに少しお金払うよ」
「要らないと言ってるだろう」
「なんで?慈善事業?」
からかうように笑って足を組み、少しだけ言葉に含みを持たせる。
「もしくは恋人に格上げしてくれるの?」
「くだらない」
セブルスがふっと視線を逸らし、私もまぁいいかと追及を止めた。
「冗談だよ。でも感謝してるのは本当」
微妙な空気にしてしまったなと少し後悔する。こういう時はお酒に頼ろうと寝室に赤ワインをとりに行った。ベッドサイドに置いたままのボトルを掴み、また戻ろうとしたらセブルスがドアの近くに立っている。
「寝ながら飲むな」
「やだもう、あっちで待っててよ」
毎日ハウスエルフが片付けてくれるからそんなに散らかってはいないけど、インテリアにこだわりがあるタイプではない。
「ん……」
トンと軽くベッドに押されて腰掛ける。そのまま温かい唇が降りてきて、私は素直に目を閉じた。
「あの……ごめん、今生理……」
一瞬嫌そうな顔をしたセブルスにくすりと笑う。
「口でしようか?」
「断る」
「なんで?嫌いなの?」
最初に惚れ薬でした時、その行為自体は嫌がってなかったのに。
「……そういうことをしたいわけではない」
「ふぅん……」
性行為自体に欲求が少ないのだろうか。自分が人より積極的なタイプだとは思っていないけど、寂しさはあったかもしれない。友人や家族と連絡が取れない環境で、人恋しさを感じていた。ただ彼と、友達や同僚よりは近い特別な距離に居たいと思った。
右手で左手の腕の内側を抓って、目線をサイドテーブルのお酒に向ける。
「じゃぁあっち戻ろうか」
そう呟いた自分の声が、思ったより震えていた。
「……なまえ」
珍しく言いよどむようにセブルスが私の名前を呼んで、ベッドに押し倒すように馬乗りになった。お互いに服を着たまま、ゆっくりと口づけを深くする。
良いのだろうか、付き合わせているだけではないだろうかと思いつつ、体にかかる彼の重みと口の中を蠢く舌の感覚に流される。
「ん……セブルス……」
「……っ、触るな……」
それでもズボンの間をそんなに苦しそうにされていたらやっぱり気になるじゃないか。セブルスのコートを脱がし、サスペンダーを外して二人の上下を逆にする。強く抵抗しない様子を見ながら、ズボンのボタンを外してパンツ越しにさすった。
「……あったかい」
物理的に布に包まれていたからなのか、興奮すると熱を持つのだろうか、股間だけが別の生き物のように主張している。ベッドの上で上半身をあげながら足を開いているセブルスのあられもない姿に可愛いなと思った。
「良い?」
布の上から爪で形をなぞり、軽く首を傾げて聞いた。
「いちいち許可を求めるな……」
セブルスは居心地悪そうに目線を外す。
「君が嫌がってたからさ?」
くすくすと笑いながらパンツをずらし、直接手で数回しごいてから顔を近づける。無言のまま何度もキスをして、舌を伸ばしながら口に入れた。
彼の体に少し力が入るのがわかって、それを宥めるように足を撫でる。窮屈そうなズボンを脱がして、パンツも抜き取り足の間に身体を割り込ませた。
セブルスが杖を降って、部屋のあかりがほとんどなくなる。月明かり程度のそこで、またゆっくりと舌を伸ばす。完全に固く膨らんだそれを半分ほど口の中に入れてそのまま舌で転がした。
隠すように少し息を飲む音、ぴくりと震える体、小さく動く足、ベッドを掴もうとする指。そういう反応を一つ一つ見ながら、ただ愛おしいなと思う。
彼が上に乗るセックスも好きだし、自分が気持ちよくなることも好きだけど、同じように彼のことも満足させたいと思う。そして私以外では物足りないと思うように、深く包んで飲み込んで、忘れられない体験にさせたい。——私にとって、彼の“噛みつき”がそうであるように。
靴下をとって、指の先まで口に含む。親指の間に舌の先をねじ込んで、甘噛みしながらしゃぶればセブルスが小さくもういいと言った。
「……なんで?嫌い?」
「っ、そんなところまで舐めるな……っ」
「嫌いなの?」
薄暗い明かりに照らされて、苦悶の表情を浮かべている彼が目を逸らす。
「気持ちいい……?」
聞きながら、舌を伸ばして足の裏を舐めた。
「っ、はぁっ」
その吐息が、何よりの証拠で。バスルームの中でシャワーに打たれていた、16歳の少年を思い出す。あの時の細い腰、あばらまで浮いた体、真っ白な肌と震える瞳、その全てが食べてしまいたいほど可愛かった。
そんなご馳走を目の前にして、とめられるわけが無い。
いろんな場所を犬のようにくまなく舐めて、また足の間に戻って双鈴の裏までキスをした。少し蒸れた匂いと短い毛が鼻先をくすぐって、生々しさに生きているという実感が湧く。二度と出会うはずがなかった、別の世界のマグルと魔法使いが、地下牢の隅の部屋でまぐわっているなんて、ともすれば夢オチで終わってしまいそうなほど現実味がない。だからこうして、必要以上に深くつながりたいと求めてしまう。
「セブルス……」
「そこで、喋るなっ」
「……好きだよ」
「っ、……ぁ、」
そっとまたペニスを飲み込んで、喉の奥まで入れる。舌で包んで、匂いを嗅いで、唇を吸い付かせる。根元までしっかり押し込みながら、出したり入れたりを繰り返した。セブルスが体の芯を力ませて縋るように私の手を掴み、もうすぐだなと覚る。
「っ、は、……ぅ、もう……っ」
私から離れようとする彼の体を抑えて、促すようにストロークを早くした。
「っ、……!」
私の頭をぐっと押さえつけ、体がビクビクと震える。舌の中の裏筋の“管”が震えて、数回にわけで中身が出てくる。それを一滴もこぼさないように口を窄めて、最後まで味わった。
荒い呼吸のままぐったりと動かなくなる彼を見下ろしながら、私はわざとらしくごくんと喉をならした。
「美味しい」
「飲む奴がいるか……変態」
「君に言われたくないよ」
ベッドサイドのグラスに赤ワインを注ぎ、それをひとくち飲んでから軽くキスをした。別に私は口の中に残っていてもいいけど、さすがに自分のそれとキスはしたくないだろう。
セブルスははぁとため息をつきながら、私を雑に抱きしめて横になった。白いシャツに顔を埋めて、心地よさにそっと目を閉じる。
「セブルス可愛い、ムラムラした」
「なら今、礼をしてやる」
「流石にやだ、血まみれになる」
セブルスが私の首筋のシャツを引っ張ってそこに噛み付く。マーキングするように深く、痛みで呼吸が浅くなる。感覚が冴え渡って、セブルスの歯型まで覚えてしまいそう。顔にかかる髪の毛がくすぐったい。
「っ……、いた、い……っ」
数秒後、ゆっくりと解放された血管がじくじくと熱を持つ。そこを指でなぞられると、お腹の中まで焦らされるように気持ちいい。
「またそんな……見えそうなとこにつける」
「これがないと直ぐに肩を出すだろうお前は」
「ふふ、そうかも」
そう返事をすれば、消えないように何度も繰り返し痕を残してくれるだろうか。甘えるようにすがりつき、軽いキスをして首元に顔を埋めた。
数秒してセブルスがベッドから降りて服を整え、途中で杖を降って明かりを戻した。急に目の奥いっぱいまで広がる光に瞼を閉じて、数秒後に開ければ手をついているすぐ横に小さな箱が置いてあった。一辺が5cm程の小さな正方形の箱。
「……あの、これ」
忘れ物ですか?
「お前のだ」
恐る恐る蓋を開ければ、思った通り指輪が入っていた。1回閉じてもう1回開き、再び閉めてから彼の顔を見た。
「……ほんとに?」
「ただの護身用だ」
「どういうこと?」
「とりあえず身に着けていろ、肌に触れてればどこでもいい」
どの指にはめるか迷って、しばらくその小さな輪っかを見ていた。
一見すれば飾りのないシンプルなシルバーだけ、よく見ると内側に小さな石が嵌っている。とりあえず右手では作業の邪魔になってしまうので左手がいい、中指はやっぱりものに引っかかるし、そう言う意味では薬指が良いのだけど。
ちらりとセブルスの顔を見て、迷ってから人差し指にはめた。吸い付くようにサイズもピッタリで、そういう魔法なんだろう。
「……なんで?」
「何度も聞くな」
だって大事じゃないの、そこ。
「禁じられた森でユニコーンの死体が続けて発見されている」
「うん、ハグリッドから聞いた」
「闇の帝王が絡んでいると、ダンブルドアはみている」
「……それは知らなかった」
自分の左手を上から見下ろして、握ったり開いたり、上下を返してクルクル回す。
「……ありがとう」
まだ目線を指輪に釘付けたまま、呟くようにそう言った。セブルスが頭をぽんと叩き、子供のように撫でる。私は目を細めて喉を鳴らし、嬉しくて自分の指を噛んだ。