アメリカ人、女性
A Short Memory
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セブルスと写真を撮った。デートをした。手紙も書いてもらった。やりたいことを、全部やった。スコーンを焼く時に、セブルスを促して少し外出してもらった。セブルスが、私の自死を不安に思ってずっと家に居たことは気づいていた。
自殺なんてするつもりも、思ったことも無かった。死が1番怖かった。生きたかった、セブルスともっと一緒にいたかった。でも私がいたら、あなたの足を引っ張ってしまう。女として、何より私が私である為にそれだけは嫌だった。彼の手を引っ張る、そういう女性でありたかった。
精一杯の強がり。だけど全力の愛。
私は自分が夜寝る時に処方されていた、眠りの水薬を紅茶にいれた。
「おかえり、セブルス」
「ただいま、レア」
決心が鈍りそうだわ、セブルス。あなたの姿を見ると、愛おしくてたまらないの。たったの2ヶ月なのにね。あなたは私の希望だった。私の今までの全ての不幸は、あなたに会うための助走だったのと、そう思える程の幸せだった。
外出用のマントを受け取ってそれをそっと外套掛けに掛ける。紅茶をテーブルに並べて、手紙を受け取る。セブルスがふぅとため息をついて椅子に座る。背もたれに背を預けて、私が淹れた紅茶を飲む。私の目を見て、セブルスがほっとしたように表情を和らげる。
「ああ、落ち着くな」
紅茶を一口飲んで、セブルスがそう言った。
「うん、落ち着くわ」
私は涙を堪えながらそう言った。セブルスは眠そうにして、少し不思議そうに私を見た。
「ね、セブルス。ひとつだけ約束してね、これだけはずっと忘れないで。」
「……なんだ?」
セブルスはもう、ほとんど目を閉じていた。
「絶対に死なないで、生きることを諦めないで。あなたが死んだら私も死ぬわ。……だから生きて、セブルス。」
あんまり聞こえていなかったかもしれない。セブルスはもう穏やかに寝ていたから。私はそっとキスをした。薄い唇に少しだけ紅茶の味がした。涙が頬を伝って、首筋まで濡らすから邪魔だった。
「ずっとじゃないわ……。すぐに戻るわ。」
よく寝た事を確認して、セブルスの中の私の記憶を消した。ヴォルデモート卿から紹介された、そんな感じの女は居たけれど、彼女はセブルスに愛想を尽かして直ぐに別居したのよとセブルスの耳元で囁いた。彼の耳の形すら愛おしかった。
セブルスを自室のベッドで寝かせて、家の中を掃除して回った。私がこの家に来てから増やしてしまった、全ての物を消した。そのたびに迷った。
ここまでする必要は無いんじゃない?セブルスと共に先を生きればいいんじゃない?世話をしてもらってもいいんじゃない?私を守ることが、セブルスの頑張る理由になってるんじゃない?
でも同時に違うことも思った。
私の世話をする母が、段々と精神を病んでいくのをこの3年間ずっと見てた。繰り返したくはない。うん、2人でゆっくり療養出来るような、そんな世界ならいいのよ?でも違うじゃない。セブルスはただでさえ自分の痛みも抱えてるのに、私の事まで背負わせるのは嫌だわ。
ゴミを1つ捨てる度に、自分とそんな会話をした。
花束を捨てた。花瓶を捨てた。可愛い置物を捨てた。テーブルクロスを捨てた。お揃いのティーカップを捨てた。お気に入りのランプを捨てた。パンを作るためにそろえた道具を捨てた。お菓子を作るための金型を捨てた。沢山買った紅茶の茶葉を捨てた。
悲しみと同じだけ愛していた。ずっと一緒に居たかった。
最後に飲んだ紅茶の茶葉だけは捨てられなかった。セブルスが落ち着くと言ったから。彼はこの先きっと辛い立場になる、それが続く。その間のせめてもの救いになればいいも思った。そして1つだけでも、自分の痕跡を残したかった。
私は諦めてない、セブルスと永遠の別れをするつもりではない。でも今、2人でどこか国外に逃げることは現実的ではないと思う。もしここで逃げたとしたら、私はきっと長く罪の意識に囚われてしまう。自分のためにも、私は正面から向き合わないといけないとわかってたから。
セブルスのため、私のため、セブルスのため、私のため。まるで花びらを1枚ずつ引っ張るようにそんな言葉を繰り返した。
最後の1枚を引っ張って、私は家を後にした。
――
それからは灰色の毎日だった。私はまず真面目に精神科に行って、真面目に全ての罪を告白した。真面目に治療を受けて、言われた通りの生活をして、言われた以上の事をやらないように気をつけた。
セブルスのことを少しでも近くで知りたかったから、ホグワーツ近くのホグズミードの外れで家を借りた。
真っ平らな日々ではなかった。でこぼこで、大体へこんでいた。気分が酷く落ち込んで、ベッドから出れない日も多かった。自分の価値が失われたと思って辛くなるその度にセブルスと撮った写真をみて、写真の中の彼に話しかけた。
「ね、セブルスは本当に私のことが好きね?ヨーロッパを出てどこに行くつもりだったの?セブルスは暖かいところ苦手でしょう?いつもそんなに重たいローブを着てるんだから。
セブルスは本当はあんまり女の人と付き合った事がないんでしょう?ずっとその仏頂面だったんでしょう?でもそれで良かったわ、おかげで私になびいてくれたんだもの。
一生そばに居るって言ったのに、約束守れなくてごめんね。そばで、支えるつもりだったのよ?でもちょっと、迷惑かけすぎちゃうなって思って。私って思ったより弱かったのね。
あなたの記憶からは消したけど、約束通り傍には居るわ。今ね、ホグズミードに居るの。あなたのなるべく傍に居れるように。私がもっと強くなったらちゃんと会いに行くわ。きっと……会いに行くわ。愛してるから。あなたが好きだから、セブルス。ね。セブルス……。」
1人で暮らし始めて、最初は本当にぐだぐだで真っ当な生活も送れずに、1枚のクッキーをひたすら複製して死なないようにお腹にいれた。ベッドの上で丸くなって、知り合いの一人もいないイギリスに絶望した。
ただひたすらセブルスの名前が入っているもの全てをかき集めた。新聞、雑誌、ラジオ。その1番上に、写真と手紙を置いた。ベッドで丸くなりながら、流れる涙を拭う気力もなく、もう何度も読み返した手紙を開いた。
『最愛の人 レア
君に会えてよかった。君を大切に思っている。
君が私を選んでくれた、それが人生で最大の幸福だとそう感じている。
ありがとう。
どうかこれからも、君がそばに居ることを願っている。
愛をこめて セブルス 』
彼らしい、真面目で真っ直ぐで飾りの少ない嘘のない言葉。
「セブルスって本当、私のことが好きね……?」
短い手紙を読み終わって、もう一度そう呟いた。何も無くなった私の、唯一誇れること。あなたの愛を裏切らないようにしたい。
セブルスを愛している、離れているのにそれは日に日に強くなり、切ないけど温かかった。ちゃんと強くなっていつか私がセブルスを迎えに行くんだと、毎日それが心の支えになった。もう死喰い人に晒されても心配をかけないように強くなって、私はセブルスの隣に戻る。
聖マンゴ魔法疾患傷害病院でトラウマ、PTSDの治療を受けていたら、半年ほどして就業支援の話をされた。もうそろそろ社会活動を積んでもいい頃だし、忘却術を生かせるうちで働くのはどうかと。二つ返事でOKした。
この調子なら、ホグワーツの次の長期休暇の時にはセブルスに声をかけられるだろうか。セブルスはまたあの家に戻るよね?きっと。私の記憶を戻したら、彼は最初になんて言うんだろう。怒るかな、怒ってほしいな。
そんな日々を過ごしながら、季節は夏から秋、冬、春を迎えようとしていた。私の心はずっとセブルスのそばにあった。
――
ホグワーツ城が大戦の戦場になったと、一般人にそんな知らせが届いたのはすべてが終わったあとだった。ホグズミードが物々しいのなんて毎日のことで、まずは自分が死なないようにと部屋で丸くなってたらそんな知らせを聞いた。
セブルスの安否はとても気になったけど、ホグワーツ城は保護呪文で囲われたままで中に入る人は検閲に掛けられていて私は入れそうになかった。聖マンゴ魔法疾患傷害病院の方がまだ情報を得られるかもしれないと職場に行けば、たくさんのけが人の中で急に死にかけのセブルスが運ばれてきて、私は驚くしか無かった。
私よりよっぽど優秀な癒者がセブルスに治療を行い、一命を取り留めたと聞いた。それでも目を覚ますかどうかは分からないと。
声や匂いなどの五感に呼びかけると良いと聞いたので、私は毎日セブルスの病室に行った。いつも色んな人から見舞いのお花が届くので、それを綺麗に花瓶に飾るのが私の日課になった。
「セブルス、今日はガーベラよ。このお花を見ると春だなぁって思うわよね。私今ね、聖マンゴ魔法疾患傷害病院の事務員として働いてるの。忘却術の知識も少しは役に立ってるのよ?」
「みてセブルス、スズランよ。可愛いわよね、このお花。白くて小さくて、いい香り。5月ももうすぐ終わるわ、最近天気が良いの。あなたのおかげで大きな事件も終わったし、みんなまだまだお祭りムードだわ。ねぇ、ようやくあなたに会えると思ったのに、今度はセブルスが遠くに行くなんて聞いてないわ。」
「今日は立派なアジサイよ、セブルス。華やかね、このお花は。綺麗な青だわ。アジサイって不思議な花よね。ねぇ、セブルスはやっぱり怒ってるかしら。私が急にいなくなったこと。ごめんね、ちゃんと謝るから、目を覚まして欲しいわ……。」
「ね、セブルス、今日は綺麗な百合の花よ。もう夏になるわね。いい香りよ?今度ラベンダーも持ってきちゃおうかしら。さっき、ハリー・ポッターが来てたわ。お母さんの写真持ってきてた。ねぇ、でもまだそっちに行かないで。戻ってきて、私ここに居るわ、ずっと待ってるから……。」
全然目を覚まさないセブルスを見てると不安になる。起きなかったらどうしようって、このまま死んでしまったらと。そうならないように毎日ずっと両手を重ねて祈った。神様なんて信じてないから何に祈ればいいのかわからなかったけど。
「もう夏ね、今日はひまわりを持ってきたの。夏は好きよ、何かが始まる感じがして。前を向く気持ちになるわ。……レモンのジェラート、また一緒に食べましょう?」
「今日はね、私が育てたラベンダーよ。ラベンダーってね、本当に強いの。夏が終わって、花を切って、どう見ても枯れてるように見えるのにね、翌年にはまたちゃんと花を咲かせるのよ。ね……。セブルスもだから、季節を待ってるだけだよね……?」
ぽたりぽたりと涙が落ちて、ベッドのシーツに染みを作っただけだった。
「愛してるわ、セブルス」