アメリカ人、女性
A Short Memory
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セブルスに開心術のことと事件について告白しても、セブルスは私を拒絶しなかった。こんなに前向きな気持ちになれたのは事件以来初めてだった。ちゃんとしよう、ちゃんと自分の心と向き合って男性への恐怖も克服しよう、強くなって地に足つけて生きよう。そう決心した。
ここで人生をやり直すんだ、もう失ってしまったものばかり数えるのはやめるの。
「魔法を使わないのか?」
摘んできたラベンダーを乾燥させるために手作業でまとめている時にセブルスがそう声をかけた。
「……執行猶予中の2年半は魔法使っちゃダメだったからね、何でも手でやるのが癖になっちゃって。スクイブみたいよね?うん、ちょっと練習だわ」
なんとなく魔法を使うのも少し怖かったし、何かやることがある方が気がまぎれるので家事ものんびり時間をかけるのが習慣になっていた。
事件後、あまり使わなくなった杖をポケットから出し、しげしげと眺めてからトンとラベンダーを叩いた。ラベンダーはするするとまとまり、あっという間に3つの束に分けられて壁に並んだ。
「うん、まぁまぁね」
「杖の素材は?」
「ハシバミ、ヘーゼルの木にユニコーンの尾よ。いい子なんだけどね、素直すぎるというか私のことが好きすぎるのよ」
もともとハシバミの木は繊細で所有者の気持ちを代弁する素材と言われている。あの事件の時、私の殺意を敏感に感じ取ってそれに応えてくれたのもこの子だ。もちろん殺したのは私で杖ではない。
魔力を込めてさっと振れば、家の中に温かい風が吹いて私の髪の毛をはしゃぐように巻き上げた。
「楽しそうだな」
「あなたと居るからね」
そういって微笑めばセブルスは鼻で笑うだけだった。照れるとちょっと捻くれるセブルスがかわいい。
「セブルスの杖は?」
「黒壇にドラゴンの琴線だ」
「セブルスらしい、意志の強そうな子ね」
セブルスが杖を振ると、逆に部屋の音がすべて消えたように静かになり傾いていた本もぴしっと背筋を伸ばした。
「……やだほんとにちゃんとしてるわ、真面目」
「君の杖が奔放なだけだろう」
「セブルスの杖はやりすぎよ」
セブルスは満足そうに笑いながら杖を撫でていて、とても強い絆が見えた。
「ちょっと妬いちゃうわ」
「……杖に?」
「だめ?」
「あまり聞かないなと思っただけだ」
私は笑いながらセブルスの手を取って自分の頭の上に置いた。
「杖だけじゃなくて私も撫でて欲しいわ」
「しょうがないな……。お前が望むだけそうしよう」
少しはにかんで、慣れない言葉で愛を伝えてくれるセブルスがとても愛おしかった。
セブルスは自分から私に触れてくることはしない。そんな優しいところも好き。毎日こうやって少しずつ体温を感じていると、だんだんと恐怖心も薄れてくる。過去の痛みを克服できると、そう思うと気持ちが少し前のめりになってしまう。
「……焦らなくていい」
「セブルスはなんでもお見通しね」
「お前が表情に出やすいだけだ」
キスをしようかなと思っていたのをやめて、私はそっとセブルスに抱き着いた。確かに、焦らなくていい。セブルスのそばを離れるつもりはないのだから。
「じゃぁ、ゆっくりするわ」
「ああ、そうしておけ」
――
その日も、いつものように家の中で過ごしつつ私は求人誌を眺めていた。
「うーん、全然ないのね、求人。」
「当たり前だ、それどころではないだろう。別に家に居ればいい」
「そうねぇ」
私はイギリスに来てすぐセブルスの家に引きこもってしまったからいまいち世の中の雰囲気を掴み切れていないが、連日の雑誌やらを見る限りイギリス魔法界はもう大変なお通夜ムードのようだ。
特に6月、ダンブルドアが死んでしまったことが人々の心にとどめを刺したようだった。アメリカでも、ダンブルドアの死はそれなりにビッグニュースとして届けられたが、もうかなりの高齢だったしそこまで悲劇的なニュースとは捉えられていなかった。
「そうはいってもセブルスにおんぶにだっこじゃちょっと申し訳ないわ」
「そうさせてくれ。今は家を出られる方が落ち着かない。特にお前みたいな世間知らずではな。」
「素直じゃないわ、もう。私のことが好きで仕方なくて心配だから家にいて欲しいって言ってくれてもいいのよ?」
くすくすと笑いながらテーブルの上のセブルスの手をつついた。セブルスもふっと笑いながら私の手を掴んだ。
「……ああそうだな、お前は人目を惹くから外に出したくない。他の誰の目にも触れない場所で、私だけの花であってほしい。」
まっすぐに目を見ながらセブルスがそういうから、今度は私が照れてしまった。普段あまりそういうことを言わない人が言うと、ちょっと強すぎる気がする。色気が。思わず目線を逸らしながら「からかわないでよ」と文句を言った。
「お前が言えと言ったんだろ?」
「そうだけど、ちょっと照れちゃうわ」
セブルスはしてやったりという顔でにやりと笑いながら、私の手に恭しくキスをした。これではいつもと立場が逆だ。
「悪くない気分だな」
「凶悪だわ、セブルスはかっこいいのよ。こんな事されたら心臓に悪いわ。」
思わずホグワーツに若い魔女の教職員はいないのかと少し心配になってしまった。優しくて誠実で一途で優秀、おまけに38歳独身男性。心配だ。
「真剣な顔をしてどうした」
「セブルスに余計な魔女が近づかないようにする方法を考えてたのよ、ピアスとか開けるのどうかしら?最近ピアスのペアルックがアメリカでは流行りなのよ。」
セブルスは一瞬驚いた顔をした後、肩を震わせて笑い始めた。
「ちょっと、なに?急に」
「お前は鏡でも見ながらしゃべっているのか?」
「失礼ね、真面目に考えてたのに」
「どう考えても必要ない、私には。お前の方が心配だな。ほら、だから家に居ろ。こんなもの見る必要は無い。」
そういいながらセブルスは杖を振って求人誌を魔法で消してしまった。
「まぁセブルスがいいっていうならそうするわ」
そういって笑っていたら、珍しくドアをノックする音が聞こえた。この家に来て初めての来客に驚いて私はぱっとドアを見た。セブルスも先ほどまでの穏やかな表情から一変させて、怖い顔でドアを睨んだ。
「私が出る」
「ええ……」
そういって、セブルスは杖を持ってドアを開けた。そこには、イギリスに来た最初の日に例のあの人のそばで見た、背の低いねずみのような男が居た。
「何の用だ、ワームテール」
セブルスが低く冷たい声で、突き放すように言った。
「へへ、あの方の呼び出しだ。今すぐマルフォイの館に来いと。それでその、隣の女があれか、あの方から」
「ワームテール、余計な口を挟むな。それからお前は私にそんな口がきける立場か?この前の自分の席順を忘れたか?」
男の言葉にかぶせるようにセブルスが厳しく咎めた。セブルス越しに男と目が合い、私はとても嫌な気分になった。彼の思考はとても下世話で、下心にあふれ、私を脱がして舐めまわしたいとはっきりそんな思考が漏れ出ていた。久々に味わうそれに身の毛がよだつ思いをしながら、思わず自分のスカートを引っ張った。
ああ嫌だ、そんな風に私の服を脱がせないで欲しい。
「お前は部屋に入ってろ」
「ええ、そうするわ。セブルス」
私はきゅっと唇を咬んで、自室に籠った。
男は呼び出しの伝言を届けに来ただけのようで、セブルスはすぐにマントを羽織り家を出た。
誰もいなくなった家の中で、少しほっとしながらまた紅茶を飲んだ。最近ずっと幸せなことが続いていたから、ちょっと油断していたような気がする。
セブルスは、きっと私を死食い人から遠ざけるだろう。彼は優しいから。でもそれでは私はセブルスの足を引っ張るだけのお荷物になってしまう。隣で一緒に戦えるとまでは思っていないけど、隠れるだけの恥ずかしい魔女では居たくない。
「私にできるかな、クィニーおばあちゃん」
イギリスに来る少し前、おばあちゃんは亡くなった。眠るように穏やかに。ジェイコブおじいちゃんはおいおいと人目もはばからず大泣きしながら、ありがとう、愛していると繰り返していた。ママも隠れて少し泣いていた。
クィニーおばあちゃんが最後に私に言った言葉は、愛してるわ、だった。クィニーおばあちゃんは、一時、グリンデルバルトの手を取ってダンブルドア率いるジェイコブおじいちゃんたちとも敵対していたらしい。人はあやまちを犯すのよと、クィニーおばあちゃんが言うのはとても説得力があった。どうやって自分の罪を克服したのかと聞けば、クィニーおばあちゃんはうーんと悩んで首を傾げたままだった。
ただ毎日、目の前を必死に生きてきたの、と。悪とか正義とか、そういうの難しいわよねと言って笑っていた。
呼び出しから戻ってきたセブルスは、緊張した顔のまま自分が校長に就任したことと明日のパーティに私を連れて行くように言われたと教えてくれた。私はシャンパンを取ってくると言って、保管庫に逃げた。
――セブルスがホグワーツの校長に就任した。38歳の若さで。いわゆる常識的な形での就任ではないのかもしれない、でもその事実に歪んだ嫉妬を覚えてしまった。
前科持ちになりキャリアのすべてを絶たれた自分が惨めに思えてしまったのだ。私は忘却術師という仕事が好きだった、誇りだったのだ。それを失ったのは自分の過ちのせいなのに。まだ縋ってる。
それから明日、死食い人のパーティに行くというのもとても怖かった。先ほどのワームテールという男、ああいうのがたくさんいるんだろうか。1人2人ならいいけど、それに囲まれて私は平静を保てるだろうか。
ぎぃとゆっくり扉の開く音がしてセブルスが私の様子を見に来た。
「ああごめんなさいセブルス、ちょっと迷っちゃって」
「うちに迷うほどシャンパンは無いが?」
「……そう、ね。お見通しね。」
「お前は隠し事が下手だな」
セブルスは私を心配してくれて、明日は行かなくてもいいと言ってくれたけど、それでも私は強がって行くと宣言した。
「……レア。ほとんどの死喰い人はお前が最も嫌う類の男たちだろう、あまり気分の良い場所ではない」
「ふふ、そんなの慣れっこよ。私、クィニーおばあちゃんに似て美人だからね。それに、私の隣にはあなたがいてくれるんでしょ? だったら、何だって怖くないわ」
どうしてこうも強がったのか、理由ならたくさんある。
――自分も有用だと示したかった。仕事もない、魔法も以前のようにはまだ使えない、何も無い自分にもまだ価値はあると思いたかった。
――負けたくなかった。過去のトラウマに、PTSDなんて心の病気に。
――愛していた、セブルスを。隣に居続けるために、乗り越えないといけないハードルだと思った。
――過信していた、自分のことを。元々私はそんなに弱いタイプじゃないし、セブルスという味方がいる今ならあの時みたいにひとりじゃない、大丈夫だと。
翌日、葬式みたいなドレスを着た。好みではなかったけど、これが1番悪の組織っぽいと思ったし、露出がほとんど無くて自分を守ってくれる気がした。
「――お手をお借り出来ますかな、レディ・レア。今宵の退屈な宴の主役の座はお前に譲るとしよう。私のそばを片時も離れないと約束するならな。」
「ええ、喜んで。私の愛する人。素敵なお誘いをありがとう、地獄の果てでも貴方について参ります。」
本当よ、本当なの。そういう強い決意をしたはずだったの。どんな辛い場所で例え死が待っていようと、セブルスの隣を諦めるつもりは無かったの。
イギリスに最初に来た時と同じ、豪華な屋敷に姿現わしで移動した。ここはマルフォイという、死喰い人の1人の持つ自宅なのだとセブルスから聞いた。私たちは時間ギリギリについた、セブルスがそうした。セブルスは例のあの人の右隣に座った。ざっと20人以上並ぶ死喰い人の中で、1番位(くらい)の高い席。
正直少し驚いた。セブルスの校長就任を祝う名目なのだから良く考えたら当然なのだけど、スパイという立場でここまで能力を示せるのかと。私は緊張でゴクリと唾を飲んだ。刺さるような数多の視線は、あまり好意的では無かった。嫉妬、屈辱、恨み、闘争心。みんながセブルスの席を望んでいる様だった。ヴォルデモート卿と名乗る人物の求心力を知った。
私の左隣に座った、アミカス・カローという人物は特にセブルスを妬んでいた。セブルスに届かない代わりに、私で鬱憤を晴らしていた。アミカスの性的なくどい視線と言葉も随分苦しかったが、それ以上に私を動揺させるものがあった。
この人たちは、全員人を殺したことがある。
ひたひたと、冷たい何かが背中をよじ登って来るような苦しい程の恐怖があった。お前が本当に怖いものはこれだろう?と、何かが耳元で囁いていた。
「口に合わないか、ミス・ヘイゼル。ここの厨房はお前の舌には合わないかも知れないが少しでも腹に入れておけ。」
セブルスが少しだけ声を落として気を使うように私に声をかけた。私でない私が、それに簡単に返事をした。
「ええ、ありがとう。」
ちょっともう、無理かもしれない。そんな言葉を飲み込んだ。正式な食事会にかかる時間はおよそ4時間。特別上流階級という訳では無いけど、マナーとしては一通り学んでいる。
いかなる理由であろうとも、基本的に途中で席を立つ事は許されない。トイレや化粧直しといった短い中座でさえ。私はここで、心の中心に巣食う恐怖の正体と向き合わないといけない。
コースはまだ中盤、どんなに短く見積もっても後2時間はかかる。
グロテスクな映像を、ちらちらと頭の端で見てしまって心が乱れる。そういう物を見ない方がいいと思いつつじっくり見てしまって後悔するという経験はきっと誰にでもあるだろう。あれには色んな名前がある。
負の好奇心とか、恐怖の報酬とか、アメリカだとネバーネッキングとか言ったりする。人間には未知の脅威を安全な場所から確認して学習しておきたいという生存本能が備わっているため、この好奇心が働くとされている、らしい。
今の私はそれに近かった。
アミカスという男性は、ノーマジを特に好んで殺していた様だった。弱い存在を痛めつけて殺すのが好きみたいだった。
ロドルファスという男性は、沢山の人を効率的に殺すのが好きみたいだった。橋を落としたり、人が集まる場所を爆破して、一度の魔法でたくさんの人が死ぬのが気持ちいいみたいだった。
ベラトリックスという女性は、特にヴォルデモート卿への忠誠心が高く、ヴォルデモート卿に気に入って貰えるように敵対する魔法使いを戦いの果てに殺すのが好きなようだった。
ドロホフという男性は、女性を殺すのが好きみたいだった。抵抗出来ないまで痛めつけて、犯して、死ぬまで犯して、死んでからも犯すのが好きみたいだった。これに1番吐き気がした。
「そういえばあんたさ、知り合いから聞いたんだけどマグルにレイプされたんだって?」
ベラトリックスがそう言って、当然のように1番喜んだのはドロホフだった。怖かった。死ぬほどに、怖かった。
ドロホフが目の奥を輝かせて私を見た。この女を犯して殺して犯したいと、そんな思考が濁流のように私を飲み込んで、身動きが取れなかった。名前の知らない女の人の死体がちらちらと見えて、まるでコレクションのようにそれを頭の中で並べていくのをやめて欲しかった。
――殺される、殺される。私が殺したように、私も殺される。
何が怖いって、誰かが誰かを殺したその場面が見える度に、私も思い出すからだ。私をレイプしたアイツらを、ノーマジを、彼を、人を、恋人を殺したあの夜のことを。
ああ、ああ。本当はわかっていた、わかっていたんだ、この3年間、私が苦しんだのはレイプされたからじゃない。男性だとか、性欲だとか、そういうのが怖いのは副次的なもので、被害者という立場に縋りたい私が叫んで居ただけで、本当に怖かったのはそうじゃない。
私は、自分が人を殺してしまったという、その事実が息が詰まるほど怖かったんだ。
「ミス・ヘイゼル、食事を楽しんでいるか?」
その日の食事会で初めて、ヴォルデモート卿が私に声をかけた。正直頭なんて1ミリも回らなかったけど、後で思い返せば回らなくて良かったと思う。私はひたすら、自分が殺した彼の顔を思い出していた。
付き合い始めた当初はそれなりにちゃんと愛していた、彼のこと。顔が好きだった、子供みたいに、無邪気にくしゃっと笑う顔が可愛かった。私を愛してると何回も言って、嬉しそうに笑うのが嬉しかった。開心術なんて欠片も知らずに、何でそんな事がわかるの?と純粋に驚く彼にほっとした。魔法を知らない彼に、安心していた。
「はい、とても」
愛していた。なのに私が殺した。
殺したあとの彼の体はとても重たかった。私はセックスが嫌いだった、体にのしかかる彼の重みが苦しくて、なんでそんなに全体重をかけるのかといつもイライラしていた。死んだ彼の体は、ベッドの上とは比べ物にならないほど重かった。彼が私を愛すとき、彼はちゃんと私が重くないようにしてくれていたのだと、殺してから知った。
私のトラウマは、自分で人を殺した事だ。
そんなことを考えながらヴォルデモート卿の赤い瞳を見た。彼はただ笑っただけだった。
その場を必死で繕って、何とか崩れ落ちないように耐えて、話しかけられれば自分じゃない誰かが返事をした。ドロホフが耳元で何かを囁いた時、言葉の中身はあんまり入ってこなかった。ただ近づいたその口が私の右の耳を噛みちぎってしまうのではないかと思って、怖くて震えた。
死喰い人の思考が頭から消えて、セブルスしか居ない事にようやく気づいて、私はその場に崩れ落ちた。いつの間に姿くらましをしたんだろう、きっとセブルスが手を引いてくれたんだろう。
これがフラッシュバックだったのか、4時間あまり無修正の拷問映像をみた新たな加害だったのか、そんなことは正直もうわからなかった。恐怖と、後悔と、悲しみと、苦しみと、過去と、現在と、そんな色んなものをゴリゴリとミキサーにかけて無理やり喉に押し込まれた様な気分だった。
泣きながら全部吐いた。何も食べれないまま逃げるようにワインを飲んでいたから、アルコールもキツかった。
「レア、レア、レア……!」
セブルスが何度も何度も私の名前を呼んでくれて、ようやく正気を保っていた。
助けて、苦しいの。こんなはずじゃなかったの、こんなつもりじゃなかったの。私、もっと、もっとなりたい自分があったの。
違うのよ。
ああ、死にたい。死にたいよセブルス。この3年間、どん底に辛かったけど、一度も死にたいと思ったことは無かった。死は、私の恐怖のど真ん中だったから。
「セブ、ルス……」
私も殺したの、愛してた彼を殺した。彼らと同じ、死喰い人と同じ。苦しい、何かが私を絞め殺そうとしてる、嫌だ、死にたくない、怖い。私は殺したのに。
「苦しい……」
もう何も、言葉にならない。
いつの間に眠ったのか、次に目を覚ましたのはベッドの上だった。セブルスがベッドサイドの椅子に座り、腕を組んだまま寝てた。朝日が窓から差し込んで、地球が回ってることに絶望した。
どうして時間は私を置いていってくれないんだろう。私を切り離してくれれば、私はこれ以上辛い思いをしないで済むのに。
そんなことをぼーっと思っていたら、「レア」とセブルスが優しく私に声をかけた。
とても悲しそうで、私を心配する悲痛な心が漏れ伝わってとても申し訳なくなった。いつもそう、母にも同じことを思っていた。
「おはよう、セブルス。……少し1人にしてくれるかしら、ごめんなさい。」
「……ああ。何かあれば何時でも呼んでくれ。」
「ええ……。ごめんなさい。」
セブルスはとても理解が深かった。私の心の状態に対して。
まず一言も私を励まなさ無かった。次に一言も私を慰めなかった。それは彼がお癒者さんだったからじゃない、彼自身もその経験があるからだ。
部屋の隅で丸くなって、食事も取らずお風呂にも入らず、散らかったゴミの中でうずくまっている多分少し若い時のセブルス。――セルフネグレクト。生きていくために必要な自分の世話を、自分でやらなくなること。
私があまり崩れていたら、多分セブルスの心も引っ張ってしまう。わかっているのに、大丈夫よと笑って部屋を出ることができない。
「ここを離れよう、レア。ヨーロッパを出て、暖かい地域に行こう。どこでもいい、君の好きな所に。」
ドア越しにセブルスがそう言って、私はぼろぼろと涙を流した。セブルスは本気だった、本気でイギリスを離れるつもりだった。私のために、私を心から愛しているから。
開心術は嫌なことばかり知らせるけど、大切な事も教えてくれる。セブルスは私を愛している、揺るぎなく、とても大きい気持ち。セブルスは私を失うことをとても恐怖している。
きっとそう、イギリス魔法界の未来なんかよりも深く、私のことを愛している。だってそうなれば良いと、私が願ったんだもの。世界の全てを敵にしても君を守る、そんなクサいセリフが今の彼には良く似合う。
セブルスが私を好きになってくれるように、この2ヶ月全身全霊をかけた。恋ってそういうものでしょう?セブルスの心の柔らかいところを探して、そこを優しく掘り返して私の愛で埋めた。そんな行為を毎日繰り返した。
セブルスが私に依存するように、そう仕向けた。でも自信があった。彼の愛を受け止めて、支える自信が。
でももう無理だ。私はまず、私の心と向き合わないといけない。こんな、トイレに行く気力すらない人間が人を支えられるわけがない。シャワーも浴びれずに髪の毛を垂れ流して、食事も取れずに空腹でイライラするような、そんな人物がセブルスの隣にいてはいけない。そんなのでは、彼はどこにも行けない。
セブルスはイギリスの魔法界の夜明けのために欠かすことの出来ない、ダンブルドアの大切な切り札だ。トランプのジョーカーみたいなもの。アメリカからぽっと出てきた、私がその歩みを止めてはいけない。
愛してるわ、セブルス。本当に愛してるの。心の底から、こんなに愛した人は初めてなの。あなたのすべてが愛おしかった。純粋な心も、不器用な優しさも、ああもう言葉なんで要らない。とにかく全部、愛おしいの。私の全部を投げ捨ててもいいほど、本当に愛しているのよ。愛している、愛しているのよ。
自分よりも、あなたを。