アメリカ人、女性
A Short Memory
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ダンブルドアを殺した。ずるずると重たい何かが肩にまとまりついているような気がして、夜はよく眠れなくなった。
闇の帝王に呼び出され固く手を握りしめ心を閉じ、素知らぬ顔でいつものように頭を下げ要件を伺えば、ダンブルドアを殺した褒美を与えると言われた。
「お前もそろそろ身を固めないか、いい頃合いだろう。我々優れた魔法使いは純血の子を残すべきだ、それも立派な使命と心得よ。お前は以前にも女を欲しがっていただろ?ちょうどいいのがいる。」
闇の帝王が杖を動かせば自分が入ってきたドアから静かに1人の女性が入ってきた。ウェーブがかった金髪に琥珀色の瞳、一般的に美人と言われる部類だろう。
「レア・ヘイゼルだ。生まれと育ちはアメリカだったな?」
「はい、そうでございます。」
にこにこと場違いな愛想笑いを浮かべて、どこか軽薄そうな女だと思った。闇の帝王にリリーの後悔を悟られる訳にはいかない私は、素直に頭を下げてその女を受け取った。
帝王の御前から下がり、今日から家へ住ませることになったその女へ特に声をかけることなくマルフォイ邸の長い廊下を歩いた。去年はワームテール、今年はこの女。結局、我が君にとってまだ自分の信用はその程度なんだろうと思うだけだった。この女がワームテールよりは聞き分けがいいことを願った。
「あの、なんとお呼びしたらいいでしょう?」
「……セブルスでいい」
初対面からファーストネームというのもやや抵抗があったが、上手くやっている体を示した方がいいだろうと思った。
「ありがとうございます、素敵なお名前ですね。私のことは、良ければそのままレアとお呼びください。」
「ああ」
緊張からだろうか、多少良くしゃべるがそれ以外は普通の女という印象だった。
「それにしても闇の帝王というお方はすごい豪邸に御住みなんですね、お庭にクジャクが居るなんて!あれはペットなのでしょうか?」
「さぁ、知らん」
マルフォイだなんだと説明するのは面倒だった。馬鹿みたいに広い庭を突っ切り、門を出て少し歩いたところで立ち止まった。
「手を」
「え?」
「付き添い姿くらましだ、家に帰る。お前が私の家を知っているとでも言うのなら話は別だがな。」
「あ、はい。ええ。」
女はやけに緊張してこわごわ私の手に自分の手を重ねた。面倒だがバラけてはもっと面倒なことになるので、ため息をつきながら腰に手を回しスピナーズエンドの家の近くに姿あらわしをした。目的地につくと女は青白い顔のままよろよろとふらつき、地面に座り込んだ。
「こんなところに座るな、人目につく。闇払いに見つからないよう手早く帰らねばならん、さっさと立て」
「は、はい」
私は女が立ち上がるのも待たずにさっさと歩き出し、少し遅れてコツコツとヒールの音が鳴り響いた。私は女が付いてこれるギリギリのペースで歩き、自宅まで着いた。
「ありがとうございます、セブルス」
「勘違いをするな、闇の帝王のご命令だ」
彼女は少し息を切らしながら、どこかほっとしたように微笑んだ。
女が来てから3日が経った。結論から言うと、ワームテールよりはマシだった。特に役に立つわけでもないがそれなりに立場をわきまえてはいる。一応、将来の伴侶という体でこちらに来ているのだから愛がどうのとわめきだしたら面倒だなと思っていたがそれもなかった。
ただ家の中を不思議そうに見て回り、「四角くて素敵なお家ですね」と言った。いかにも魔法使いらしい感想だ。可もなく不可もなく人畜無害、そんな言葉がよく似合いそうな女だと思った。
しばらくすると彼女は言葉遣いを崩して、友人のように話しかけて来るようになった。多少うっとおしかったが彼女は存外察しが良く、黙って欲しい時にはすぐ黙るのでそんなに不快ではなかった。
「あのねセブルス、1つやってみたいことがあって、パンを焼いてもいい?」
「パン?」
「そう!私の祖母がね、パン屋さんをやっていたの。昔からそれが憧れでね、でも母と祖母は折り合いが悪かったからあんまり家ではやらせてもらえなくて、ずっとやってみたかったの。」
「その程度なら好きにすればいい、キッチンは自由にしてもらって構わない。お前がものを壊すような愚鈍でなければな」
「本当?ありがとう!セブルスは好きなパンある?」
「特にない」
「固いパンとやわらかいパン、どっちが好き?」
「食べられれば何でもいい」
「じゃぁセブルスがおいしいって言ってくれるパンを目指すわ!」
いくら無表情で冷たくあしらってもにこにこと笑顔を絶やさない彼女を見て居ると、気を張っているのも馬鹿らしく思えてきた。
「私はねシナモンロールが好きなのよ。コーヒーと一緒に食べると苦みと甘さが癖になってね、いくらでも食べれちゃうの。でもちょっとカロリーが高いから、それだけ注意ね。」
「甘すぎるパンは好きではない」
「あら、そうなの?男の人はそう言う人多いわよね、うーん、じゃぁ……あれだわ、スコーン!ね、イギリス人はお好きでしょう?スコーンと紅茶!」
とてもいい案を思いついたと言わんばかりに、嬉しそうに彼女がそう言った。それがあまりに無邪気だったから、私はつられて少し笑ってしまった。そんな私を見て、レアは幸せそうに笑った。
「うん、スコーンにしましょう。でも初めて焼くの、上手くできなくても怒らないでね」
「スコーンを失敗するやつなど見たことが無いがな。失礼だがキッチンに立ったことはおありで?」
「もう、料理は得意な方よ?失礼しちゃうわ」
彼女は基本的にずっと家の中で過ごし、家事をする以外はパンを焼くか趣味の刺繍をしているかだった。自室にこもることは少なく、いつもリビングに居た。私が起きればおはようと声をかけて、出かけるときは行ってらっしゃいと言いながらわざわざ玄関まで見送りに来る。家に戻ればお帰りなさいと言ってマントを受け取り紅茶を用意して、食事をテーブルに並べる。まるで新婚の夫婦のようだと自分でも思った。
「どう?パンの腕前、少しは良くなったと思わない?」
「そうだな、初めの頃の石のように硬いパンよりはマシになったな」
「あれはちょっと失敗しちゃっただけじゃない。あんまりゆったら記憶消しちゃうわ、私、アメリカ魔法省の忘却術士だったんだから、忘却呪文は得意よ」
くすくすと楽しそうに笑いながら、彼女は自分が焼き上げたカンパーニュの断面をしげしげと眺めた。
「今日はね、パンとクッキーを教会におすそ分けしたのよ。喜んで受け取ってくれたわ、ちょっとだけいいことをした気分になれるわよね」
「不必要な外出は控えろと言ったはずだが?」
「すぐそこよ?歩いて5分!」
私はため息をつきながらパンを齧った。彼女は宣言通り次々とパンを焼くので当然二人では消費しきれず、気付いたら近所の教会に持ち込むようになっていた。子供たちが喜んでくれるからと、最近はクッキーなどのお菓子も作っていた。偽善者の遊びだなと思うと同時に、彼女がマグルにも全く分け隔てなく接するのには少し驚いた。
「お前は何故ここに来た?」
私はワインを置いて、少し探るようにそう聞いた。純血主義のかけらもない彼女が、なぜ急に闇の帝王の手を経由して私の元に寄こされたのか、彼女の人となりを知れば知るほど不可解だった。私のそんな視線に曖昧に笑いながら、彼女は抵抗なくしゃべり始めた。
「両親はどちらかというと純血主義なんです。祖母はね、あ、パンを焼いていた祖母、クィニー・ゴールドスタインって言うんですが、あ、ゴールドスタインは旧姓でね」
相変わらずあっちこっちに飛んでいく彼女の会話を頭の中で繋げながら聞いていった。
「アメリカではじめて、ノーマジと結婚した魔女なんです。あ、ノーマジはイギリス風に言うとマグルですね。」
「それくらいは知っている」
「そう、それでね、アメリカは長いこと魔法族とノーマジの結婚が法律で認められていなかったんです。だから母はアメリカではとっても珍しいノーマジとの混血の魔女になっちゃって、それでとても嫌な思いをしたそうで、母はノーマジ、あ、えっとマグルが嫌いなんです。あのー、そう、だから母は純血主義。祖母は真逆の……なんて言えば良いんでしょう、ノーマジ主義?」
彼女は首を傾げて、真剣に言葉を探し始めたので遮った。
「別に名前をつけなくていい、立場は分かった」
「そう?セブルスは頭がいいのね。そう、それで私は別にどっちでもないの。祖母も母も好き。人はみんなただの人だわ、頭の中はあんまり大差ないのよ。」
にこにこと笑いながら、話は以上だと言いたげな顔をしていた。
「それで?君がここまで来たことの肝心の経緯が抜けているが?」
ため息をつきながらそう付け足せば、彼女ははっとして少し笑った。
「そうだったわ。シンプルに、母が賛同しているの、闇の帝王の思想に。それで、優秀な魔女を歓迎していると聞いて私のことを推薦したの。母はね、ほっといたら私がノーマジと結婚するんじゃないかって心配してるの、祖母みたいに。だから……だからそう、それだけ。うん。」
なんとなく、最後の話の区切り方に違和感があった。
「マグルが好きなのか?お前は」
「ううん、その、違うわ。そうじゃない。」
やっぱりいつもの彼女らしからぬ歯切れの悪い返事だなと思った。隠し事が下手くそなやつだと思ったが、これ以上彼女の恋愛ごとを探る必要もないかと思い詮索はやめた。とりあえず親の思想で送り出されたということがわかれば十分だ。
「急に知らない人と一緒に住むなんてちょっと怖かったけど、相手がセブルスで良かったわ!私、本当に安心したのよ、一目見たと時からわかったもの、優しい人だなって。ねぇ、死喰い人って皆そうなの?」
「……私は優しくなどないし死喰い人は大抵粗暴な荒くれ者だ」
「そうなの?あんまりピンと来ないけど、セブルスがそう言うならそうなのね。うん、ちゃんと気をつけるわ。」
だからもう少し身辺に気をつけろとまた付け加えようと思ったが、先回りするように彼女がそう言ったので私はため息をついただけだった。
「祖母はね、あの若き日のダンブルドアと一緒に、グリンデルバルドとも戦ったのよ」
急に彼女がそんな話を始めるので、私は少し興味を持った。
「ね?凄いでしょう?それでね、そのグリンデルバルドとの戦いには、祖母が結婚した旦那さん、つまりノーマジも一緒だったのよ!」
「本当に?そんな話しは聞いたことがない」
「本当よ、私本人から何回も聞いたんだから!アメリカの魔法界ではきっと1番有名なノーマジの名ね、ジェイコブ・コワルスキー。母はそれがあんまり好きじゃないみたいで、結婚して1番嬉しかったのはノーマジの苗字じゃなくなったことだって良く言ってた」
「まぁ、気持ちはわからなくもないな」
「そう?スネイプってノーマジの苗字なの?」
「母が魔女、父はマグルだった。親しい友人に母の旧姓を名乗っていたこともある」
そんな自分のことをペラペラ話すべきでは無いと思いつつ、彼女があまりに自分のことを詳(つまび)らかに話すのでそれくらいはいいかと思ってしまった。
「そうなの、お母様の旧姓は?」
「……プリンスだ」
「素敵な苗字!セブルスにピッタリね!」
彼女の言葉を思わず鼻で笑った。どこをどう解釈したらぴったりに思えるのだろうか。
「でもスネイプって苗字もいいわよね、とっても珍しくて、すぐにあなただってわかるもの。」
「それは良かったな」
どうでもいいことに褒め言葉をつけるのが上手なやつだと思った。
「セブルスのご両親はどんな人?セブルスって、ラテン語が由来でしょう?厳しいとか、厳格なとか。だからとっても真面目なご両親で……あ、あのごめん、あんまり楽しい話題じゃなかったのね。」
彼女が話している最中で急に口をつぐんで、私はそんなに顔に出ていたかと思わずハッとした。肝心の彼女は曖昧な言葉を口から漏らして次の言葉に迷っていた。
「あの、セブルスはその、好きな色は?」
話題を逸らすにしてももっとマシな何かがあったのではないかと流石に笑ってしまった。
「ふっ……好きな色か。考えたこともないが、強いて言うなら黒だな」
「うん、うん、セブルスは黒似合うものね!いつもね、思ってたの、ローブもマントも真っ黒でかっこいいなって。あっ、服の話しよ!」
焦ったり照れたりと、よく変わる表情だ。
「……お前は?」
「え?」
「お前の好きな色は?」
もう一度聞き直せば、驚いた顔を今度は嬉しそうにほころばせた。
「私はね、ラベンダーグレーがすき。ラベンダーが好きなの、お花も、紅茶も、もちろん香りもね。ほらみて、刺繍もね、上手いのよ私」
そう言いながら杖を降って黒いシンプルなハンカチをどこからともなく呼び出して目の前で広げた。ハンカチの隅に、目立たない色の糸でラベンダーが描かれていた。
「これね、セブルスに作ったの。あ、でもこういうのはあんまり好きじゃないかなと思って、別に渡すつもりは無かったんだけど、その、作るのが楽しかっただけだから深い意味は無いわ」
黙ってそれを受け取ってまじまじと刺繍を見た。まるで売り物のようだった。
「貰っておこう」
「良かった!気に入ったなら何枚でも作るわ!」
「1枚で結構だ」
「つれないわ」
嬉しそうに笑う顔を見ていると、殺風景なこのリビングもどこか明るくなったような気がした。
「ね、今度ランプを買いましょう?ここはちょっと暗くて刺繍が刺しにくいの」
「好きにしろ」
「もう、セブルスの家よ?勝手にしていいの?」
「派手なものでなければな」
一緒に買いに行くのが楽しいのにと文句を言いながらやはり彼女は笑っていた。
数日後、彼女は宣言通りランプといくつかの小物を買ってきた。
「私物をリビングに広げるな」
「だってこのリビング、ものが無さすぎるのよ。花瓶くらい良いじゃない。」
「買うにしてもひとつでいいだろ。それからこれは鉢植えか?」
「うん、外にも置こうと思って!」
「……お前が手入れをするならな」
どうせ2ヶ月後にはまたホグワーツに戻るのだ、その時彼女がまだこの家に居るのかどうかはわからないが、居なくなったら捨てればいいと思った。彼女は機嫌よく笑って庭に出て、土をいじり始めた。
その日の夜には部屋の中が見違えるように花だらけになった。
「……おい、邪魔だ」
「えっ、そう?多いかな?」
レアはあっさりそう言って、5つほど散りばめられていた花瓶のうち2つを消失呪文で消した。
「このくらいなら?」
「好きにしろ」
本当は無い方が好みだが、目の前で2つ消して貰った手前仕方なくこちらも譲歩した。
「夏の花って華やかなものが多くて迷っちゃうわ。お花がたくさん咲くからこの時期は好き。ね、みて?このオリエンタルリリー、綺麗じゃない?百合の花は良いわよね、華やかで。あら?セブルスも百合が好きなの?ふふふ、意外ね。お花なんて興味無いかと思った。」
こちらが何かを言う前に、レアは私の顔だけ見て勝手にぺらぺらと喋り始めた。基本的に表情は変えてないつもりだったんだが、随分察しがいい。それに少しいぶかしく思いながら、確かに綺麗な百合の花だなと思い食卓の花瓶を見た。
まぁこれなら飾られていても悪い気はしない。リリーを思い出す。
レアは何も言わずににこにこと笑って私を見ていた。
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