Let's go カラスバ!
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その土曜日は朝からちょっと体がダルかった。でも体温を測ったら37.2だったから気のせいだと思って家を出た。ちょっと疲れが溜まってるんだろうなと考えて、明日は朝から夜までゆっくり休もうと思った。
いつもの地下水道でメガ結晶を削った。本当に、ここはたったの1週間ですぐに結晶が溜まる。ポケモンもどことなく攻撃的。なにか関係あるのか、ないのか、ある、のか、ない、、のか。
「おい!どうした!?」
「ああ、カラスバさん、、、すみません。仕事中に寝ちゃって、、、」
「いや、寝るって言うか倒れとったんや、熱もあるしなんでこないなるまで放っといたんや!」
ああ、仕事中に寝ていたから怒られた。
「すみません、すぐ残りやりますから、、」
「いやええって、病院いけや!」
「病院は苦手です」
「ど、あ、ほ!」
そんなに怒らなくてもいいのに、カラスバさんの怖い顔がもっと怖い、苦手だ。人の怒った顔は。
「怒らないで、、、」
「別に怒ってへんわ」
そんな青筋ピクピクさせて怒ってないは無理がある。
「とにかくもう出るで、ここ」
「でもまだ終わってないです、今日の分」
「いやもうええって」
「良くない、終わってない」
「ええって!」
「お、怒ってる、、、」
「だーーーー!もう!めんどくせぇ!」
気づいたら私はペンドラーの広い背中に乗って地下水道を出ていた。もうダメだ、指1本動かせない。
「病院は嫌、病院は嫌です、、、」
「わかったから、寝とけ」
「病院は嫌」
「しつけぇ」
次に目を覚ましたら知らない場所だった。慌てて辺りを見たらクロバットがベッドの隅で丸くなっていて、体を起こしてしばらくぼーっとそれを眺めた。
「おや、起きましたか」
急にドアが開いて、私は必要以上にびっくりして振り返った。
「ジプソ、さん」
「はい、驚かせてしまってすみません」
「いえ、こちらこそすみません。ここはどこですか?」
「事務所の仮眠室です、といってもほとんどカラスバさんの部屋ですがね」
「そうですか」
殺風景な少し狭い部屋には、簡単な机とベッドしかなくてまるで刑務所みたいだった。ベッドのシーツも布団も全部黒、私自身真っ黒なパジャマに着替えさせられていて、そんなに黒が好きなのかと思った。
「ご迷惑おかけしてすみません」
「いえいえ。あなたがうちで働いてくれて、とても助かっています。」
「そうですか」
「ご気分はいかがですか?」
「大分よくなりました」
まだ熱はあるんだろう、体はだるいけどさっき地下水道に居る時よりはマシだった。
「ここだけの話、あなたが来てくれてボスは明るくなりました。私やほかの部下たちとは違う、ご友人のようにお話になる、それが私はとても嬉しいんです。こんな時にすみませんが、改めてお礼を言わせてください。」
私は何も言わずにジプソさんをじっとみた。急に意外なことを言われて、脳みそがまだ処理しきれていなかった。
「私どもでは、ボスにプレッシャーをかけてしまいますから」
「ボスは、、、一人ではボスになれません。それではただの一匹狼です。他の部下の皆さんや、ジプソさんがいるから、カラスバさんはかっこいいんだと思いますよ。」
「、、、そうですね、ありがとうございます。」
ジプソさんはふっと優しく笑って、また扉に手をかけた。
「何か食べれますか?」
「あの、はい、もしあればゼリー飲料が欲しいです。」
「ああ、いろいろありますよ。持ってきますね。」
ぱたんとドアが閉じられて、私はそのままじっと動かなかった。まだ頭がぼーっとして上手く回らない、風邪をひくなんていつぶりだろう。しばらくそうしていたら、今度はカラスバさんが顔を出した。
「カラスバさん、、、すみませんでした」
「ほんまに、死んどるんかと思うたわ」
「そうですか」
「そうですかて、自分のことやろ、ったく」
カラスバさんは自分もゼリー飲料を片手にちゅーちゅー吸いながら、もう一つを私に差し出した。マルチビタミン、ベリー味。
「ブドウ味の方が好きです」
「注文つけるな、ボケ」
大人しくそれを受け取って、同じようにちゅーちゅー吸った。冷たくて少し甘くておいしい。人前で食事をとるのは苦手だけど、カラスバさんの前だとあまり気にならなかった。初対面で無理やりレストランに連れていかれたからだろうか。
カラスバさんはデスクにあった椅子を引っ張って、私のベッドサイドに座った。私はそれを眺めながら、今日地下水道で気になっていたことを話した。
「地下水道のメガ結晶、なんか街の他の結晶より、エネルギーが濃い気がします」
「エネルギー?」
「はい」
ふとカラスバさんの胸元に光る、丸い綺麗な石が目についた。ああそう、光の屈折がちょうどこんな感じだったと思ってふらりと手を伸ばした。
「これは?」
「、、、キーストーンちゅう石や、ポケモンのメガストーンに反応する」
「これがキーストーン、、、」
やっぱりそう、少し似てる。
「あの、キーストーン、は、、、」
使用時はどうなるんですかと、そう聞こうと思って少し固まった。カラスバさんの顔があまりに近かったから。そりゃそうだ、私は今カラスバさんの胸元についているキーストーンをゼロ距離で観察し、そのまま上を見上げてしまったのだから。
「ぁ、、、」
すみませんとか、失礼しましたとか、そう言ってすぐに引かないといけないのに、カラスバさんがなんだか楽しそうな顔のまま私の頬にそっと手を添えるから何も言えなくなってしまった。
「なんや、ずいぶん赤い顔やな」
「風邪、移っちゃうから、、、」
「だから、なんや?」
「だから、、、」
キス、してもいいですかと、そんなことを思ったら頭がくらくらしてきた。
「あほやなぁ、病人はちゃんと寝とけ。」
「そうします」
今日はもう全部おしまいだ。カラスバさんにそっと肩を押されて布団に戻り、私はおとなしく横になった。
「最近、本当に結晶多いですね。ワイルドゾーンも増えましたし。」
「せやな」
「クエーサー社は何かを知ってます、あのタワーには何かある。」
「バラしたらクビになるとちゃうかったんか?」
「あのタワーについては私の研究範囲でありませんから。守秘義務はありません。」
「都合ええな」
そう言いながら、カラスバさんが私の髪の毛を指に引っ掛けてくるくると弄った。
「この前、マスカットさんがミアレの救世主さんにキーストーンをあげていました。ランクはFまで上がったそうです、特例で。」
「ああ、セイカか」
「、、、お知り合いですか?」
カラスバさんが親しげにそう呼んで、少し胸がざわついた。
「なんや嫉妬か?」
「別に、違います」
にやにやと楽しそうに笑うカラスバさんの視線から逃げるように布団を被った。本当、タチの悪いヤクザだ。
「最強のメガ進化使いが街を救うって、どういうことなんでしょうかね。」
「さぁな、詳しくはよう分からんわ」
「メガ結晶からとれるメガカケラ、ここ半年で少しずつ変わってるんです。少しずつエネルギーの密度が上がってる。」
ミアレシティにきてようやく半年が過ぎた。同じ場所の同じ結晶を観察していると、少しずつ変化がある。街に野生のポケモンが集まりワイルドゾーンが増えたのと同じように、メガ結晶の量も増えて一つ一つの密度も上がっている。
「、、、少し怖いです」
パルデアの大穴も怖いけど、あそこは爆発した後だ。ミアレは違う、ミアレはきっとこれから爆発するんだと、根拠のない予感がする。それなのに、この街に人が溢れ何にも気づかずに生活しているのが怖い。
私はやっぱり寝てるのが落ち着かなくて、体を起こした。
「珍しいなぁ、あんたがそんな弱音吐くんは」
「風邪ひいてるからですね」
「せやな」
「カラスバさん」
「なんや」
「、、、私も名前で呼ばれたい」
セイカって、あの女の子をそう呼ぶなら。
「なまえ」
「はい」
「風邪ってキスしたら移ってはよ治るらしいな」
「迷信ですよ。でも、、、」
カラスバさんがまたそっと私の頬に手を添えた。
「試してみないとわかんないですね」
結局私から、そっと触れるだけのキスをした。ああもう限界、顔から火が出そう。カラスバさんは目を細めて笑っていた。
「カッコつける割には耐性ないなぁ」
「耐性、あるように見えますか」
「全然」
カラスバさんは喉の奥でくつくつと笑っていた。風邪が治るどころか熱が上がった気しかしない。いっそ本当に移ってしまえばいいのに。
クロバットはふぁと大きな欠伸をしてちらりと私を見てからまた寝直した。
その数週間後、ワイルドゾーンはついに19区画まで増えた。集まる野生ポケモンの凶暴さも高まっているし、暴走メガ進化するポケモンも増えた。
「クロバット」
夜は不安で寝られない。街中で目につくメガ結晶が雑に放置された地雷のように見える。こういう時、クロバットはおとなしく私の腕の中に来てくれる。彼を抱きしめてると少し安心する。だって彼は強いから。
最近クロバットを抱きしめているとカラスバさんのことを思い出す。よく分からない曖昧な関係。でも彼も強くてかっこいい。
「少し歩こうか」
クロバットを抱えながら夜のミアレシティを歩いた。家と職場と地下水道くらいしか行かないので、街の他の部分はあんまりよくわからない。
何となく、足はサビ組の事務所に向かっていた。ただの夜の散歩だ、会えると思ってたわけじゃない。
「あ」
カラスバさんが、綺麗な女の人と歩いていた。向こうもこちらに気づいて、少し驚いた顔をしていた。
「何やお前、こんな夜中に」
「散歩です、ただの」
「なあにこの子?カラスバさんのお友達?」
2人はお酒を飲んでいたんだろう、女性の方が特に酔っ払ってカラスバさんに擦り寄るように腕を絡ませた。カラスバさんはそれを振り払うことはしなかった。
女性は私を頭から足元までじっくりみて、鼻で笑った。
ええそうでしょうね、私はあなたみたいに見た目だけで勝負する女じゃありませんから。脳みそに価値がありますから。そんなことを少し思ったけど流石に口にはしなかった。
「、、、じゃぁ、また」
惨めだなぁと思った。私は化粧もしないまま部屋着のようなジャージを着て、彼女は髪の毛までバッチリ決めてどこに行くのかよく分からないドレスを着ていた。まさか結婚式帰りではないだろう、きっとそういう夜のお仕事の人だろう。私の知らない世界。カラスバさんの世界。
カラスバさんの目線を避けて、人通りの少ない路地裏に入った。ひときわ大きいメガ結晶が、壁に滲み出ていた。
「ほんと何なんだろうね、これ」
クロバットは私の頭の上を飛び回っていた。適当に歩いていたらホロベーターがあって屋上に上がった。今日は満月がとても綺麗だった。屋上に人はいなくて、私は椅子に腰掛けて空を見上げた。
「今日はこのままここで寝ちゃおうかな」
誰もいない空間で、独り言のつもりだった。
「そりゃ不用心にも程があるやろ」
何故かわからないけどカラスバさんが暗闇の中から歩いてきてそう言った。本当に何処にでもいるなこの人。
「デート中じゃなかったんですか?」
「ただの取引先の娘や。あんなつまらん女、俺の趣味やないわ」
「そうですか」
そう言いながら少しにやけてしまった。彼女じゃないなら良かったとほっとしている自分がいる。
「なんでこんなとこに?」
「誰かさんが死にそうな顔してはったからな」
「こういう顔は元からです」
「いつものクロバットはどこおるん」
「さぁ、彼は私のことが見えるどこかに居ると思います」
カラスバさんはあっそうと言いながら私の正面の椅子に座った。
「なんかあったんか」
「なんか、あった訳じゃないですが、、、。この街はなんか変です。大穴で感じるような、得体の知れない恐怖があって、それなのにそんな場所に沢山の人が暮らしてる。いつかたくさん人が死ぬような、そんな災害が怒るんじゃないかと、メガ結晶を見てるといつも思います。それを探るために私は来たのに、ハッキリしたことは何一つわからない。」
大きな月が落ちてくるみたいに近かった。
「それでお前、そんな焦って研究詰め込んどるんか」
「なんで知ってるんですか?私の実験スケジュール」
「そらお前、この街で俺の知らんことは無いで」
カラスバさんが当たり前のようにドヤるので少し笑ってしまった。
「ミアレの救世主は、今何してるんですか?」
「さぁ、知らんな」
「知らないこと無いんじゃないんですか?」
「しばくでお前」
揚げ足をとるようにからかえば、カラスバさんは青筋をたてながら笑った。
「土曜日、しばらくお休みしてもいいですか?」
「、、、なんでや」
カラスバさんが不機嫌そうに言った。
「メインの研究に、本腰をいれたいんです」
「そうか」
カラスバさんが守る街を、私も私なりに守りたい。できることなら、カラスバさんも守りたい。
「タワーには、あまり近づかない方がいいと思います。」
「、、、自分はそこにおるのに?」
「心配してくれるんですか?」
「当たり前やろ」
カラスバさんがそっと私の頭を撫でた。子供を慰めるように、怯えるポケモンをなだめるように。
「お前はうちの研究員や」
「一応、席はクエーサー社にあると思っていたんですが」
「そうか?ならちゃんと教えたらなあかんな」
カラスバさんの背後に見える月が、ギラギラ光っていてかっこよかった。
「お前が誰のもんか」
「、、、はい。」
今までの勉強の積み重ねも学歴もキャリアも、全部無かったことにしてこの恋に溺れたら気持ちいいだろうと思った。でもそんなの現実的じゃないってわかってる。
だから今だけ。
いつもの地下水道でメガ結晶を削った。本当に、ここはたったの1週間ですぐに結晶が溜まる。ポケモンもどことなく攻撃的。なにか関係あるのか、ないのか、ある、のか、ない、、のか。
「おい!どうした!?」
「ああ、カラスバさん、、、すみません。仕事中に寝ちゃって、、、」
「いや、寝るって言うか倒れとったんや、熱もあるしなんでこないなるまで放っといたんや!」
ああ、仕事中に寝ていたから怒られた。
「すみません、すぐ残りやりますから、、」
「いやええって、病院いけや!」
「病院は苦手です」
「ど、あ、ほ!」
そんなに怒らなくてもいいのに、カラスバさんの怖い顔がもっと怖い、苦手だ。人の怒った顔は。
「怒らないで、、、」
「別に怒ってへんわ」
そんな青筋ピクピクさせて怒ってないは無理がある。
「とにかくもう出るで、ここ」
「でもまだ終わってないです、今日の分」
「いやもうええって」
「良くない、終わってない」
「ええって!」
「お、怒ってる、、、」
「だーーーー!もう!めんどくせぇ!」
気づいたら私はペンドラーの広い背中に乗って地下水道を出ていた。もうダメだ、指1本動かせない。
「病院は嫌、病院は嫌です、、、」
「わかったから、寝とけ」
「病院は嫌」
「しつけぇ」
次に目を覚ましたら知らない場所だった。慌てて辺りを見たらクロバットがベッドの隅で丸くなっていて、体を起こしてしばらくぼーっとそれを眺めた。
「おや、起きましたか」
急にドアが開いて、私は必要以上にびっくりして振り返った。
「ジプソ、さん」
「はい、驚かせてしまってすみません」
「いえ、こちらこそすみません。ここはどこですか?」
「事務所の仮眠室です、といってもほとんどカラスバさんの部屋ですがね」
「そうですか」
殺風景な少し狭い部屋には、簡単な机とベッドしかなくてまるで刑務所みたいだった。ベッドのシーツも布団も全部黒、私自身真っ黒なパジャマに着替えさせられていて、そんなに黒が好きなのかと思った。
「ご迷惑おかけしてすみません」
「いえいえ。あなたがうちで働いてくれて、とても助かっています。」
「そうですか」
「ご気分はいかがですか?」
「大分よくなりました」
まだ熱はあるんだろう、体はだるいけどさっき地下水道に居る時よりはマシだった。
「ここだけの話、あなたが来てくれてボスは明るくなりました。私やほかの部下たちとは違う、ご友人のようにお話になる、それが私はとても嬉しいんです。こんな時にすみませんが、改めてお礼を言わせてください。」
私は何も言わずにジプソさんをじっとみた。急に意外なことを言われて、脳みそがまだ処理しきれていなかった。
「私どもでは、ボスにプレッシャーをかけてしまいますから」
「ボスは、、、一人ではボスになれません。それではただの一匹狼です。他の部下の皆さんや、ジプソさんがいるから、カラスバさんはかっこいいんだと思いますよ。」
「、、、そうですね、ありがとうございます。」
ジプソさんはふっと優しく笑って、また扉に手をかけた。
「何か食べれますか?」
「あの、はい、もしあればゼリー飲料が欲しいです。」
「ああ、いろいろありますよ。持ってきますね。」
ぱたんとドアが閉じられて、私はそのままじっと動かなかった。まだ頭がぼーっとして上手く回らない、風邪をひくなんていつぶりだろう。しばらくそうしていたら、今度はカラスバさんが顔を出した。
「カラスバさん、、、すみませんでした」
「ほんまに、死んどるんかと思うたわ」
「そうですか」
「そうですかて、自分のことやろ、ったく」
カラスバさんは自分もゼリー飲料を片手にちゅーちゅー吸いながら、もう一つを私に差し出した。マルチビタミン、ベリー味。
「ブドウ味の方が好きです」
「注文つけるな、ボケ」
大人しくそれを受け取って、同じようにちゅーちゅー吸った。冷たくて少し甘くておいしい。人前で食事をとるのは苦手だけど、カラスバさんの前だとあまり気にならなかった。初対面で無理やりレストランに連れていかれたからだろうか。
カラスバさんはデスクにあった椅子を引っ張って、私のベッドサイドに座った。私はそれを眺めながら、今日地下水道で気になっていたことを話した。
「地下水道のメガ結晶、なんか街の他の結晶より、エネルギーが濃い気がします」
「エネルギー?」
「はい」
ふとカラスバさんの胸元に光る、丸い綺麗な石が目についた。ああそう、光の屈折がちょうどこんな感じだったと思ってふらりと手を伸ばした。
「これは?」
「、、、キーストーンちゅう石や、ポケモンのメガストーンに反応する」
「これがキーストーン、、、」
やっぱりそう、少し似てる。
「あの、キーストーン、は、、、」
使用時はどうなるんですかと、そう聞こうと思って少し固まった。カラスバさんの顔があまりに近かったから。そりゃそうだ、私は今カラスバさんの胸元についているキーストーンをゼロ距離で観察し、そのまま上を見上げてしまったのだから。
「ぁ、、、」
すみませんとか、失礼しましたとか、そう言ってすぐに引かないといけないのに、カラスバさんがなんだか楽しそうな顔のまま私の頬にそっと手を添えるから何も言えなくなってしまった。
「なんや、ずいぶん赤い顔やな」
「風邪、移っちゃうから、、、」
「だから、なんや?」
「だから、、、」
キス、してもいいですかと、そんなことを思ったら頭がくらくらしてきた。
「あほやなぁ、病人はちゃんと寝とけ。」
「そうします」
今日はもう全部おしまいだ。カラスバさんにそっと肩を押されて布団に戻り、私はおとなしく横になった。
「最近、本当に結晶多いですね。ワイルドゾーンも増えましたし。」
「せやな」
「クエーサー社は何かを知ってます、あのタワーには何かある。」
「バラしたらクビになるとちゃうかったんか?」
「あのタワーについては私の研究範囲でありませんから。守秘義務はありません。」
「都合ええな」
そう言いながら、カラスバさんが私の髪の毛を指に引っ掛けてくるくると弄った。
「この前、マスカットさんがミアレの救世主さんにキーストーンをあげていました。ランクはFまで上がったそうです、特例で。」
「ああ、セイカか」
「、、、お知り合いですか?」
カラスバさんが親しげにそう呼んで、少し胸がざわついた。
「なんや嫉妬か?」
「別に、違います」
にやにやと楽しそうに笑うカラスバさんの視線から逃げるように布団を被った。本当、タチの悪いヤクザだ。
「最強のメガ進化使いが街を救うって、どういうことなんでしょうかね。」
「さぁな、詳しくはよう分からんわ」
「メガ結晶からとれるメガカケラ、ここ半年で少しずつ変わってるんです。少しずつエネルギーの密度が上がってる。」
ミアレシティにきてようやく半年が過ぎた。同じ場所の同じ結晶を観察していると、少しずつ変化がある。街に野生のポケモンが集まりワイルドゾーンが増えたのと同じように、メガ結晶の量も増えて一つ一つの密度も上がっている。
「、、、少し怖いです」
パルデアの大穴も怖いけど、あそこは爆発した後だ。ミアレは違う、ミアレはきっとこれから爆発するんだと、根拠のない予感がする。それなのに、この街に人が溢れ何にも気づかずに生活しているのが怖い。
私はやっぱり寝てるのが落ち着かなくて、体を起こした。
「珍しいなぁ、あんたがそんな弱音吐くんは」
「風邪ひいてるからですね」
「せやな」
「カラスバさん」
「なんや」
「、、、私も名前で呼ばれたい」
セイカって、あの女の子をそう呼ぶなら。
「なまえ」
「はい」
「風邪ってキスしたら移ってはよ治るらしいな」
「迷信ですよ。でも、、、」
カラスバさんがまたそっと私の頬に手を添えた。
「試してみないとわかんないですね」
結局私から、そっと触れるだけのキスをした。ああもう限界、顔から火が出そう。カラスバさんは目を細めて笑っていた。
「カッコつける割には耐性ないなぁ」
「耐性、あるように見えますか」
「全然」
カラスバさんは喉の奥でくつくつと笑っていた。風邪が治るどころか熱が上がった気しかしない。いっそ本当に移ってしまえばいいのに。
クロバットはふぁと大きな欠伸をしてちらりと私を見てからまた寝直した。
その数週間後、ワイルドゾーンはついに19区画まで増えた。集まる野生ポケモンの凶暴さも高まっているし、暴走メガ進化するポケモンも増えた。
「クロバット」
夜は不安で寝られない。街中で目につくメガ結晶が雑に放置された地雷のように見える。こういう時、クロバットはおとなしく私の腕の中に来てくれる。彼を抱きしめてると少し安心する。だって彼は強いから。
最近クロバットを抱きしめているとカラスバさんのことを思い出す。よく分からない曖昧な関係。でも彼も強くてかっこいい。
「少し歩こうか」
クロバットを抱えながら夜のミアレシティを歩いた。家と職場と地下水道くらいしか行かないので、街の他の部分はあんまりよくわからない。
何となく、足はサビ組の事務所に向かっていた。ただの夜の散歩だ、会えると思ってたわけじゃない。
「あ」
カラスバさんが、綺麗な女の人と歩いていた。向こうもこちらに気づいて、少し驚いた顔をしていた。
「何やお前、こんな夜中に」
「散歩です、ただの」
「なあにこの子?カラスバさんのお友達?」
2人はお酒を飲んでいたんだろう、女性の方が特に酔っ払ってカラスバさんに擦り寄るように腕を絡ませた。カラスバさんはそれを振り払うことはしなかった。
女性は私を頭から足元までじっくりみて、鼻で笑った。
ええそうでしょうね、私はあなたみたいに見た目だけで勝負する女じゃありませんから。脳みそに価値がありますから。そんなことを少し思ったけど流石に口にはしなかった。
「、、、じゃぁ、また」
惨めだなぁと思った。私は化粧もしないまま部屋着のようなジャージを着て、彼女は髪の毛までバッチリ決めてどこに行くのかよく分からないドレスを着ていた。まさか結婚式帰りではないだろう、きっとそういう夜のお仕事の人だろう。私の知らない世界。カラスバさんの世界。
カラスバさんの目線を避けて、人通りの少ない路地裏に入った。ひときわ大きいメガ結晶が、壁に滲み出ていた。
「ほんと何なんだろうね、これ」
クロバットは私の頭の上を飛び回っていた。適当に歩いていたらホロベーターがあって屋上に上がった。今日は満月がとても綺麗だった。屋上に人はいなくて、私は椅子に腰掛けて空を見上げた。
「今日はこのままここで寝ちゃおうかな」
誰もいない空間で、独り言のつもりだった。
「そりゃ不用心にも程があるやろ」
何故かわからないけどカラスバさんが暗闇の中から歩いてきてそう言った。本当に何処にでもいるなこの人。
「デート中じゃなかったんですか?」
「ただの取引先の娘や。あんなつまらん女、俺の趣味やないわ」
「そうですか」
そう言いながら少しにやけてしまった。彼女じゃないなら良かったとほっとしている自分がいる。
「なんでこんなとこに?」
「誰かさんが死にそうな顔してはったからな」
「こういう顔は元からです」
「いつものクロバットはどこおるん」
「さぁ、彼は私のことが見えるどこかに居ると思います」
カラスバさんはあっそうと言いながら私の正面の椅子に座った。
「なんかあったんか」
「なんか、あった訳じゃないですが、、、。この街はなんか変です。大穴で感じるような、得体の知れない恐怖があって、それなのにそんな場所に沢山の人が暮らしてる。いつかたくさん人が死ぬような、そんな災害が怒るんじゃないかと、メガ結晶を見てるといつも思います。それを探るために私は来たのに、ハッキリしたことは何一つわからない。」
大きな月が落ちてくるみたいに近かった。
「それでお前、そんな焦って研究詰め込んどるんか」
「なんで知ってるんですか?私の実験スケジュール」
「そらお前、この街で俺の知らんことは無いで」
カラスバさんが当たり前のようにドヤるので少し笑ってしまった。
「ミアレの救世主は、今何してるんですか?」
「さぁ、知らんな」
「知らないこと無いんじゃないんですか?」
「しばくでお前」
揚げ足をとるようにからかえば、カラスバさんは青筋をたてながら笑った。
「土曜日、しばらくお休みしてもいいですか?」
「、、、なんでや」
カラスバさんが不機嫌そうに言った。
「メインの研究に、本腰をいれたいんです」
「そうか」
カラスバさんが守る街を、私も私なりに守りたい。できることなら、カラスバさんも守りたい。
「タワーには、あまり近づかない方がいいと思います。」
「、、、自分はそこにおるのに?」
「心配してくれるんですか?」
「当たり前やろ」
カラスバさんがそっと私の頭を撫でた。子供を慰めるように、怯えるポケモンをなだめるように。
「お前はうちの研究員や」
「一応、席はクエーサー社にあると思っていたんですが」
「そうか?ならちゃんと教えたらなあかんな」
カラスバさんの背後に見える月が、ギラギラ光っていてかっこよかった。
「お前が誰のもんか」
「、、、はい。」
今までの勉強の積み重ねも学歴もキャリアも、全部無かったことにしてこの恋に溺れたら気持ちいいだろうと思った。でもそんなの現実的じゃないってわかってる。
だから今だけ。