日本人、女性
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夏秋冬、そして最後に春。
日本で当然のように春からめぐる4つの季節は、ここでは夏秋冬春とめぐっていく。5年目ともなればそれなりに慣れたものだ。クリスマスのこの時期は、一年の終わりというより前半終わりの小休憩みたいなものだろうか。
毎年クリスマス休暇は実家に帰ってない。たかだか2週間で日本まで帰るのはあわただしいし時差ボケで余計疲れる。お年玉が惜しい気持ちはあるが、年明けに挨拶回りやらなんやらに付き合わされるのは勘弁だった。
それにホグワーツで過ごすクリスマスはとても神秘的で、特に大広間のクリスマスツリーは日本ではなかなか拝めないレベルだ。観光地に来たような気分で校内の装飾を見て回った。
誰もいない廊下を歩いて、天井にヤドリギの飾りを見つけて足を止めた。
最近までヤドリギとヒイラギの違いがよくわかっていなかったが、どちらも冬の飾りに使われる木で、ヤドリギは白い実を、ヒイラギは赤い実をつける。日本で見かけるのはほとんどヒイラギの方だろう。
二つの違いは何だろうかと考えながらしばらくぼーっと立っていると、「ヤドリギの下で待ち人か」と聞きなれた声がした。
「スネイプ先生」
振り返れば、先生がどこか馬鹿にしたような表情でこちらを見ていた。質問の意味はピンとこないが、イギリスではそういう習慣があるのだろうか。
特に待ち人はいない、クリスマスプレゼントを渡そうと思ってスネイプ先生を探していたのだ。
「先生に会えたらいいなと思ってました」
そういうと、スネイプ先生はなぜか苦々しい顔をした。
「意味をわかってるのか」
「意味?」
そう聞き返すと、今度は明らかに馬鹿にしたようなため息をつきながら「友達をつくれ」と言った。心外である。
「先生に言われたくないです。先程の質問にどんな意味があるんですか?」
その質問には答えてくれなくて、先生はふんと鼻を鳴らして校庭に目を向けた。朝からしんしんと雪が降り、幻想的な景色が広がっている。
スネイプ先生が目線を私に戻して口を開いた。
「私に何か用か」
「イギリスの学校ではクリスマスに担任にプレゼントを贈る習慣があると聞いたので、ちょっとしたお土産を」
長期休みの間に買っておいた小さなプレゼントバッグをローブの内ポケットから取り出した。
「そんな文化を調べる暇があるならヤドリギぐらい知っていろ」
「ヤドリギ?だいたいこういうのって魔除けとかじゃないんですか?」
まぁそういう定番の意味じゃないからスネイプ先生が文句を言っているんだろうと思うが。先生はプレゼントを無言で受け取り躊躇なく包みをびりびりと開けた。
どうでもいいが、イギリス人はどうして包みをわざわ破いて開けるんだろうか。日本人的にはついセロテープからきれいに開封したくなるものだが。
スネイプ先生は中から出てきた小さな緑色の布袋を手に乗せた。
「お香袋、サシェです。そんなに強い匂いの物じゃないので、お邪魔にならないかなと。」
プレゼントをあげるときというのはどんな些細なものでもちょっと緊張してしまう。スネイプ先生は表情が変わらないのでなおさらだ。
先生は軽くにおいをかいでから、そのまま無言でローブの内ポケットにしまった。多分、気に入ってくれたんだと思う。そのまましまったら服ににおいがつくものだから。
こっそり買った、同じ匂いのお香袋を自分のポケットの中でぎゅっと握りしめた。
しばらく雑談をしてどちらともなく大広間に向かって歩き出した。
「そういえばチキンってクリスマスの定番じゃないんですね」
「なぜそんな安っぽいものをわざわざクリスマスに食べる」
「海外のクリスマスはそういうものだって日本では伝わってるんですよ」
話しながらふと角を曲がったところで、深くキスをしているカップルに出くわして足を止めた。幸い向こうはまだ気づいていないようで、思わず踵を返すがここは一本道で、通り抜けないことには大広間に行けない。
一歩下がっておろおろと他の道を探す私を、スネイプ先生は馬鹿にしたように笑った。
「下がらないと見つかっちゃいますよ」
「見つかって困ることをしているのはあっちだろう」
「まぁそれはそうなんですけど」
当然、カップルはすぐにこちらに気付きスネイプ先生を見て驚いて走って逃げて行った。
「イギリスでも、クリスマスってそういうイベントの日なんですね」
「特にこの場所ではな」
そういってスネイプ先生が視線を上にあげるのでつられて天井を見上がればさっきのヤドリギと同じ飾りがここにもあった。
キスをしていたカップルと、ヤドリギの飾り。意味は分からないけどなんとなくヤドリギというものはそういうメッセージなのだと予想がつく。
ところで私はさっき「先生を待っていたと」そういう趣旨のことを言わなかっただろうか。ヤドリギの飾りの下で。
じんわりと顔が熱くなって、思わず自分の冷たい手をほほにあてた。
「知りませんよ、そんな文化」
小さな声でつぶやけば、くくと笑う声が聞こえた。スネイプ先生が声を出して笑うのは珍しい。
「大胆な誘いだったな」
「さ、誘ってません、、、」
「そうだったか?」
スネイプ先生はいつものようにさっさと歩き出した。私はそれを半歩下がって追いかけた。
大広間の大きなツリーを見ながら図書館で借りた『イギリスの文化と植物』を読み、クリスマスの章で手を止めた。
『ヤドリギにまつわる言い伝えの中でも特に有名なのが、「ヤドリギの下に立っている女の子にはキスをしてもいい」というお話で、ヨーロッパに古くから伝わるものです。クリスマスパーティーの夜にヤドリギの枝の下に立って、意中の男性が現れるのを待つなんてロマンティックですね。』
突然頭を何かではたかれて振り返るとスネイプ先生がいた。こんな失礼なことをするにはどう考えてもスネイプ先生しかいないので確認するまでもないのだが。
無言で差し出された箱を受け取って中身をみると、新品の羽ペンが入っていた。
「これは?」
「見てわかると思うが、説明が必要か?」
「そうですね、クリスマスには羽ペンでラブレターを綴れとジンクスがあるかもしれませんから」
先生がちらっと開いたままの本を見た。
「ちゃんと勉強したようだな」
「おかげさまで」
羽ペンが入っている箱を改めてまじまじと眺めた。
しっかりとした箱で、なんだか高そうだ。少なくともいつも自分が使っている文房具屋の安い羽ペンよりは。
先生がよく使っている羽ペンと同じ形に見えるから、その予備だろうか。
、、、これを私に?
「こんな良さそうなもの、いただいていいんですか」
「いらないなら捨てておけ」
「まさか!捨てるわけないじゃないですか」
再びきっちりと箱にしまって、自分の正面に置いた。使ってしまうのがもったいないくらいだ。嬉しくて、私はにやける口元がばれないようにマフラーを顔をうずめた。
「使えよ」
「開心術はやめて下さい」
「顔に書いてある」
それだけ言うとスネイプ先生はさっさと教職員向けのテーブルにむかい、私はいつもより少しだけ大きい声で「メリークリスマス、スネイプ先生」と真っ黒な背中に呼びかけた。
スネイプ先生は少しだけ足を止めて振り返り、またさっさと歩いて行った。