日本人、女性
原作前
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ホグワーツで過ごす日々もついに3年目になり、辛うじて英語も聞き取れるようになってきた。苦手意識は消えないものの、ずいぶんマシになったと思う。
穢れた血、という差別用語をスリザリン生はよく使う。日本人である私は主に言われる側だった。
よくよく聞けば一般家庭生まれの魔女や魔法使いを指す言葉らしいので、陰陽師出身の私はそれには当てはまらないのでは?と思ったが説明する勇気もないのでただ受け流していた。
穢れた血であろうとなかろうと、私が魔法使いの子供でないのは確かだ。最初こそショックだったが人間慣れていくもので、またかという気持ちだった。この日までは。
スネイプ先生に研究室まで呼び出され、初めてのことにどきどきしていたら先生は私のレポートをすっと差し出した。レポートには大きく、穢れた血と書かれていた。
無言でそれを受け取り杖でなぞったが、時間が経っているからなのか私の文字とその嫌がらせのインクがしっかりと混じり、ぬぐえなくなっていた。
「三日以内に再度提出するなら減点はしないでおく」
「ありがとうございます。そうします。」
げんなりと肩を落としながらレポートをたたんだ。
呼び出しはそれで終わりだった。
今回の穢れた血ブームはそれで終わらなかった。ことあるごとに大声で叫ばれたりして、寮を超えて問題になってしまっているようだった。私としては数少ない友人であるトンクスがとても怒ってくれていたので、もうそれでよかった。
そんな日が続いたある日、頭からとんでもなく臭い腐った血をかけられた。ヤギの血だった。これにはさすがにマクゴナガル先生が大激怒。その場で嫌がらせの首謀者から50点も減点し、わたしの汚れをきれいさっぱり落として「気にしないで、あなたは立派な魔女ですよ」と言った。
私はそれに「自分が魔女だと思ったことはありません」と答えた。マクゴナガル先生はとてもうろたえていた。
その日の放課後、またスネイプ先生に呼び出された。今は提出しているレポートは無かったはずだけどと思いながら先生の研究室のドアを叩いた。
「苗字です」
「入れ」
先生は机の上に広げていた他学年のレポートを杖で片付けて、椅子に腰かけながらわたしを見た。私は立ったまま先生が何か話すのを待った。
「穢れた血だと言われ、ヤギの血をかぶったそうだな」
「はい」
「そして自分は魔女ではないと言ったと」
「はい」
「マクゴナガル先生がお前をいたく心配しており、寮監である私に面談をしろとのお達しだ」
なるほど、そういう呼び出しだったのか。特に怒られるものではなかったようで内心ほっと胸をなでおろした。
「ご迷惑をおかけしてすみません」
「なぜ自分は魔女ではないといった」
言葉に詰まり斜め上を見上げた。悲しいとか強がりとかではなく、上手く言語化できないのだ。単に魔女っぽくない、その一言に尽きるのだが英語でそのニュアンスを表現できない。
「立派な魔女ではないからです。」
「成績が悪いから実力が足らないという意味か。」
「いえ、ごめんなさい。説明がうまくできなくて、えっと」
もう一度言葉を探して目をつぶった。
「あなたは魔女なんだよと誰かがわたしに言ったことはありません。魔法を使えるんだよ、と教えられても、魔女だとは言いません。
ああそうです、ちょうど英語みたいなものです。このように私が英語を話しても、イギリス人にはなりません。あの、すみません。伝わりますか?」
スネイプ先生は無表情のまま少し沈黙してから、先ほどまでより小さな声で囁くように質問を続けた。
「自分を魔女だと思っていないから、穢れた血と言われても気にならないと?」
「はい。」
正直、そっちを聞くんだ?と思った。もっと、日本人でも立派な魔女だとかそういう普通のことを言われるのかと思っていた。多分、その場しのぎだってそういうこと言わないだろうなと思うけど。スネイプ先生は純血主義だ。
穢れた血という差別用語は、それほど魔法使いにとって重い言葉なんだろうか。
その後は戻っていいと言われて面談は終わった。
その日から嫌がらせは無くなった。首謀者は手ひどく怒られたに違いない。穢れた血と言われることは無くなったけど、私の心はもやもやする一方だった。
今まで、私は本気で自分が魔女ではないと思っていたのだ。
でもそれをマクゴナガル先生とスネイプ先生に驚かれたことで、なんだか自分の考えが間違っているような気になってきた。それはつまり、私は魔女なんだろうか。
日本人の私が魔女?英語だってネイティブとは程遠いのに?
人の少ない廊下から、がやがやと騒がしい中庭を眺めた。私が、彼らと同じ存在だというのだろうか。
「何を考えている」
突然後ろからスネイプ先生の声がして私は驚いて振り返った。授業や必要な要件ではなく、雑談のような形で先生がわたしに質問をするのは始めてだった。
私は先生を失望させたくないと思いながらしっかりと英語を頭の中で組み立てた。
「この前の面談のことについて、考えてました。」
「それで?」
「私は結局魔女なのか、ただの魔法を使える日本人なのか、どちらが正しいのかと」
先生は私と同じく中庭を眺めながら「どちらも正しいだろう」と言った。もっと会話を続けたかったが、私は何と返事をしたらいいのかわからなくなってしまった。
「魔女になりたいのか」とスネイプ先生が聞いた。
魔女になる、魔女になる。頭の中で言葉を反芻する。それはつまり魔女でなかったものが魔女になる、将棋の駒のように歩兵が≪と金≫になるようなイメージが浮かんだ。
「自分でもわかりません。いつか魔女になれたら、お返事できると思います。」
先生は珍しく悪意のない小さな笑みを浮かべながら「楽しみにしておこう」と言った。
それがすごくかっこよくて、急に顔を見れなくなって視線を足元に移した。頷いたふりをしてごまかした。