宮地と小さなクラスメイト(黒バス)
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3.バスケ部
「…お前ら、何してんだ?」
休み時間、少し野暮用で教室から出ていた宮地は、戻ってくるなり驚くべき光景を目撃することになった。
「お、宮地」
「遅かったな宮地!」
「…は?」
無意識に低い声を吐き出した宮地の前には、見慣れた顔が二つの並んでいる。
一人は大きな瞳でじっと宮地を見上げ、もう一人は眉を下げて少し困った顔で宮地を見た。
「ほら、大坪のおじちゃんがお待ちだよ」
「…お、おじちゃんはないだろ」
「はー?自分が何を言ったかお忘れか?」
ずいぶんと親しげに肩を寄せている二人。
というより人懐っこいクラスメイトが大きな体に寄りかかっている感じだ。
「聞いてくれよ宮地、こいつ俺のこと宮地と友達の小学生って言ったんだぜ?」
「いやそれは…悪かったって」
「バスケ部でそうやって噂してたんだろコノヤロー」
「まあ否定は出来ないが…」
「ほら!」
咲哉が大坪の頭に手を乗せて、ぐしゃぐしゃと掻き乱している。
されるがままの大坪は、部活のことで宮地に話があって立ち寄ったところをまんまと咲哉に捕まったらしい。
宮地は教室のドアの前で立ち止まったまま、腕を組み溜め息を吐いた。
「…いいから、お前、大坪から離れろよ」
「遅れてきた宮地が悪いんだぞ」
妙な苛立ちに、宮地が眉間にしわをつくる。
なんなんだこいつは。誰にでもべたべたと。
もう一つ吐きかけた溜め息は、後ろから聞こえた声のせいで呑み込まれた。
「ってあれ?宮地サン何してんすか?」
声の主、颯爽と現れたその男に、宮地が更に顔をしかめて振り返る。
そこにいるのは、額を叩いてくれと言わんばかりに真ん中で分けられた前髪が特徴的の後輩。
「高尾…テメェなんつータイミングで来てんだ轢くぞ」
「は!?ひっどくないっすか!?」
バスケ部の後輩である高尾和成は、案の定騒がしく声を上げながら教室に入ってくる。
そしてその高尾の鋭い目と、咲哉の大きな目が向ける視線が真ん中で重なった。
「あ!バスケ部の後輩君!」
「宮地サン待ってる小学生!」
同時に交わされた呼び名に、宮地は額をおさえて肩を落とした。
高尾はしっかりと咲哉に人差し指を向けて、咲哉も咲哉で大坪に乗せていた手を高尾の方に向けている。
「は…お前今小学生って言ったな?」
「ってアレ?大坪サンもいる」
「こら無視すんな、こちとら先輩だぞ!」
「あっ、小さくて見えなかったっす」
「ちょ…おじさん、後輩の教育が行き届いてないよ!」
「って大坪サン、おじさんって…っ」
怒涛のやり取りの中、ぶはっと口を開けて笑った高尾に大坪もため息を吐く。
少し席を外していただけで、いつもの昼休みがどうしてこうも崩れるんだ。
宮地は組んでいた腕を解くと、長い腕で咲哉と高尾の頭をがつんと殴った。
・・・
弁当を広げ、もくもくとご飯を口に運ぶ。
目の前に座っているのは宮地ではなく、その後輩の高尾。
「なんだってこんなことに…」
箸を置き、ぽつりと文句を漏らす。
それから先程の名残が響く頭を掌で擦りながら、離れたところで大坪と話している宮地に目を向けた。
真面目な顔、副部長の顔だ。
「なー、鈴木サン」
とんとんっと指で机を叩く音に視線を戻す。
机に腕を乗せて堂々と占領して来る高尾は、じっと咲哉を見つめていた。
「なんでいっつも宮地サン待ってんの?」
「敬語がなくなってんぞ、後輩君」
宮地の後輩だと思って大目に見てりゃ。
弁当を避けて机に腕を乗せると、浸食された領域を取り戻すかのように高尾の腕にぶつける。
すると高尾はニッと口角を上げ、背中を椅子に預けて咲哉を見下ろした。
「人気者の宮地サンを独り占めできもちいーって感じ?」
「はあ…?」
「そういうことっしょ?下手に理由つけて誤魔化そうとしてるみたいですけど」
咲哉よりも低い声が、馬鹿にしたように笑う。
下手に理由つけて。
そうだ、下手に理由つけて近付こうとしている。勝負しろ、なんて、本当は仲良くなりたいだけなのに。
「そんなんじゃ、ねーし」
「じゃ、なんでいっつも好きでもねーのに待ってんすか?」
好きでもない、わけない。大好きだ。
咲哉は全く咲哉の心とは違うことを言っている高尾に全て見透かされているような気がして、きゅっと唇を強く噛んだ。
「宮地サンのこと、目の仇にしてんでしょ?」
「し…」
してない!!と叫びそうになり、ごくりと呑み込んだ。
その代わりに椅子が倒れそうな勢いで立ち上がり、それまで見下ろしてきた高尾を見下ろす。
「っ、うっせー!お前に話すことなんてねぇ!お前も敵だ!」
そのまま「覚えてろよ!」と叫びながらばたばたと教室を飛び出す。
逃げるように走り去った咲哉を、高尾は頬杖ついたまま見送った。
「ちょ…覚えてろって、まじで言う人初めて見た…ふは」
思わず笑いが零れる。
本当にマスコットキャラクターみたいな愛らしさだ。
なんて思っていた高尾は、背後から感じた殺気に背筋をしゃんと伸ばした。
「…高尾、テメェ何したんだ?」
「や…はは、ちょっと、イジワルしちゃいましたー?」
さっきまで大坪と話していたはずの宮地が、高尾の頭を大きな掌で掴んでいる。
高尾はひやりと頬に汗をつたわせながら、肩をすくめた。
「後でちゃんと謝れよ。つか一応先輩なんだから苛めんな」
「は、はーい…」
「ったく面倒だな」
ぱっと頭から手が離れたと思うと、宮地は長い足ですたすたと教室を出て行ていく。
このほんの数秒の出来事に驚いているのは、大坪だ。
大坪は椅子から立ち上がると、高尾の傍まで近付いた。
「珍しいな、お前が初対面にあんな風に突っ掛かるのは」
「あ、はは、個人的にちょっと、あの人に腹立ってたっつか」
「ん?」
「放課後あの人が保健室に居座ってるもんで、ちょっと、オレの癒しの時間が」
おまえな、と呆れた調子で大坪が眉を下げる。
高尾はそんな苦労の尽きない部長から目を逸らし、二人が出て行ったドアに目をやった。
「つか、ホントに仲良かったすね。宮地サンが仲良くするタイプと違うと思ってたのに」
「ん?まあ確かにな」
「なるほど、懐かれていい気分だったのは逆だったと」
やれやれと高尾が再び頬杖をついて目を閉じる。
大坪は「部活の話はどうするんだ」と帰って来ない宮地に頭をかいた。
・・・
ばたばたと煩い足音が通り過ぎる。
それを気にする生徒は然程いないが、大差あるサイズの二人の追いかけっこには見る人が振り返った。
前を走る咲哉はその背景など気付いていない。
「遅ぇ」
ばしっと背後からグーで殴られると、咲哉は前に数歩よろけて立ち止まった。
ばっと振り返れば、当然のように拳を向ける宮地が立っている。
「逃げるならもっと本気で走れよ、慌てて損しただろうが」
割と本気で走っていたはずだったが、宮地はすぐに追い掛けてきていたらしい。
そりゃコンパスが違うんだから、と思い掛けて留まる。今自分で自分を下げかけた。
「悪かったな、高尾…後輩が、何か言ったみてぇで」
「え?そ、それで追い掛けて来てくれたの?」
宮地の言葉に思わず笑みがこぼれ、咲哉はぱっと掌で口元を覆った。
そのまま宮地を見上げて宮地の言葉を待つ。
宮地は何やら不服そうではあるが、何か言いたそうに口を開いていた。
「…一応言っとくけど」
「ん?」
「別にお前に付き纏われてるとか、思ってねぇから。結構楽しいよ、お前」
拳を握っていたはずの手が頭に乗せられ、優しく咲哉を撫でる。
その手の隙間から見えた宮地は、目を細めて笑っていた。
「…っ」
それだけで、抑え込んでいた感情がどうにかなりそうだった。
口を覆う掌では隠しきれないくらい、顔が赤くなってしまう。ドキドキと胸が鳴って、その音で気付かれてしまう、そんな気がして。
咲哉はばしっと宮地の手を弾いて数歩後ずさった。
「で、でも、でも俺は!お前に負けねぇ!」
「はあ?」
「ま、負けないからな!」
その勢いのまま、再びだだっと駆け出す。
やっぱりすぐ追いつけそうだ。そう思いながら、宮地はまた走り出した咲哉を目で追い、手を腰に当てた。
「ったく…なんなんだ」
嬉しそうにしたくせに、どうして逃げるんだ。
考えるのも面倒で、宮地は何度目になるか知れない溜め息をついて、教室へ戻って行った。
(第三話・終)
追加日:2017/10/22
移動前:2016/02/28
「…お前ら、何してんだ?」
休み時間、少し野暮用で教室から出ていた宮地は、戻ってくるなり驚くべき光景を目撃することになった。
「お、宮地」
「遅かったな宮地!」
「…は?」
無意識に低い声を吐き出した宮地の前には、見慣れた顔が二つの並んでいる。
一人は大きな瞳でじっと宮地を見上げ、もう一人は眉を下げて少し困った顔で宮地を見た。
「ほら、大坪のおじちゃんがお待ちだよ」
「…お、おじちゃんはないだろ」
「はー?自分が何を言ったかお忘れか?」
ずいぶんと親しげに肩を寄せている二人。
というより人懐っこいクラスメイトが大きな体に寄りかかっている感じだ。
「聞いてくれよ宮地、こいつ俺のこと宮地と友達の小学生って言ったんだぜ?」
「いやそれは…悪かったって」
「バスケ部でそうやって噂してたんだろコノヤロー」
「まあ否定は出来ないが…」
「ほら!」
咲哉が大坪の頭に手を乗せて、ぐしゃぐしゃと掻き乱している。
されるがままの大坪は、部活のことで宮地に話があって立ち寄ったところをまんまと咲哉に捕まったらしい。
宮地は教室のドアの前で立ち止まったまま、腕を組み溜め息を吐いた。
「…いいから、お前、大坪から離れろよ」
「遅れてきた宮地が悪いんだぞ」
妙な苛立ちに、宮地が眉間にしわをつくる。
なんなんだこいつは。誰にでもべたべたと。
もう一つ吐きかけた溜め息は、後ろから聞こえた声のせいで呑み込まれた。
「ってあれ?宮地サン何してんすか?」
声の主、颯爽と現れたその男に、宮地が更に顔をしかめて振り返る。
そこにいるのは、額を叩いてくれと言わんばかりに真ん中で分けられた前髪が特徴的の後輩。
「高尾…テメェなんつータイミングで来てんだ轢くぞ」
「は!?ひっどくないっすか!?」
バスケ部の後輩である高尾和成は、案の定騒がしく声を上げながら教室に入ってくる。
そしてその高尾の鋭い目と、咲哉の大きな目が向ける視線が真ん中で重なった。
「あ!バスケ部の後輩君!」
「宮地サン待ってる小学生!」
同時に交わされた呼び名に、宮地は額をおさえて肩を落とした。
高尾はしっかりと咲哉に人差し指を向けて、咲哉も咲哉で大坪に乗せていた手を高尾の方に向けている。
「は…お前今小学生って言ったな?」
「ってアレ?大坪サンもいる」
「こら無視すんな、こちとら先輩だぞ!」
「あっ、小さくて見えなかったっす」
「ちょ…おじさん、後輩の教育が行き届いてないよ!」
「って大坪サン、おじさんって…っ」
怒涛のやり取りの中、ぶはっと口を開けて笑った高尾に大坪もため息を吐く。
少し席を外していただけで、いつもの昼休みがどうしてこうも崩れるんだ。
宮地は組んでいた腕を解くと、長い腕で咲哉と高尾の頭をがつんと殴った。
・・・
弁当を広げ、もくもくとご飯を口に運ぶ。
目の前に座っているのは宮地ではなく、その後輩の高尾。
「なんだってこんなことに…」
箸を置き、ぽつりと文句を漏らす。
それから先程の名残が響く頭を掌で擦りながら、離れたところで大坪と話している宮地に目を向けた。
真面目な顔、副部長の顔だ。
「なー、鈴木サン」
とんとんっと指で机を叩く音に視線を戻す。
机に腕を乗せて堂々と占領して来る高尾は、じっと咲哉を見つめていた。
「なんでいっつも宮地サン待ってんの?」
「敬語がなくなってんぞ、後輩君」
宮地の後輩だと思って大目に見てりゃ。
弁当を避けて机に腕を乗せると、浸食された領域を取り戻すかのように高尾の腕にぶつける。
すると高尾はニッと口角を上げ、背中を椅子に預けて咲哉を見下ろした。
「人気者の宮地サンを独り占めできもちいーって感じ?」
「はあ…?」
「そういうことっしょ?下手に理由つけて誤魔化そうとしてるみたいですけど」
咲哉よりも低い声が、馬鹿にしたように笑う。
下手に理由つけて。
そうだ、下手に理由つけて近付こうとしている。勝負しろ、なんて、本当は仲良くなりたいだけなのに。
「そんなんじゃ、ねーし」
「じゃ、なんでいっつも好きでもねーのに待ってんすか?」
好きでもない、わけない。大好きだ。
咲哉は全く咲哉の心とは違うことを言っている高尾に全て見透かされているような気がして、きゅっと唇を強く噛んだ。
「宮地サンのこと、目の仇にしてんでしょ?」
「し…」
してない!!と叫びそうになり、ごくりと呑み込んだ。
その代わりに椅子が倒れそうな勢いで立ち上がり、それまで見下ろしてきた高尾を見下ろす。
「っ、うっせー!お前に話すことなんてねぇ!お前も敵だ!」
そのまま「覚えてろよ!」と叫びながらばたばたと教室を飛び出す。
逃げるように走り去った咲哉を、高尾は頬杖ついたまま見送った。
「ちょ…覚えてろって、まじで言う人初めて見た…ふは」
思わず笑いが零れる。
本当にマスコットキャラクターみたいな愛らしさだ。
なんて思っていた高尾は、背後から感じた殺気に背筋をしゃんと伸ばした。
「…高尾、テメェ何したんだ?」
「や…はは、ちょっと、イジワルしちゃいましたー?」
さっきまで大坪と話していたはずの宮地が、高尾の頭を大きな掌で掴んでいる。
高尾はひやりと頬に汗をつたわせながら、肩をすくめた。
「後でちゃんと謝れよ。つか一応先輩なんだから苛めんな」
「は、はーい…」
「ったく面倒だな」
ぱっと頭から手が離れたと思うと、宮地は長い足ですたすたと教室を出て行ていく。
このほんの数秒の出来事に驚いているのは、大坪だ。
大坪は椅子から立ち上がると、高尾の傍まで近付いた。
「珍しいな、お前が初対面にあんな風に突っ掛かるのは」
「あ、はは、個人的にちょっと、あの人に腹立ってたっつか」
「ん?」
「放課後あの人が保健室に居座ってるもんで、ちょっと、オレの癒しの時間が」
おまえな、と呆れた調子で大坪が眉を下げる。
高尾はそんな苦労の尽きない部長から目を逸らし、二人が出て行ったドアに目をやった。
「つか、ホントに仲良かったすね。宮地サンが仲良くするタイプと違うと思ってたのに」
「ん?まあ確かにな」
「なるほど、懐かれていい気分だったのは逆だったと」
やれやれと高尾が再び頬杖をついて目を閉じる。
大坪は「部活の話はどうするんだ」と帰って来ない宮地に頭をかいた。
・・・
ばたばたと煩い足音が通り過ぎる。
それを気にする生徒は然程いないが、大差あるサイズの二人の追いかけっこには見る人が振り返った。
前を走る咲哉はその背景など気付いていない。
「遅ぇ」
ばしっと背後からグーで殴られると、咲哉は前に数歩よろけて立ち止まった。
ばっと振り返れば、当然のように拳を向ける宮地が立っている。
「逃げるならもっと本気で走れよ、慌てて損しただろうが」
割と本気で走っていたはずだったが、宮地はすぐに追い掛けてきていたらしい。
そりゃコンパスが違うんだから、と思い掛けて留まる。今自分で自分を下げかけた。
「悪かったな、高尾…後輩が、何か言ったみてぇで」
「え?そ、それで追い掛けて来てくれたの?」
宮地の言葉に思わず笑みがこぼれ、咲哉はぱっと掌で口元を覆った。
そのまま宮地を見上げて宮地の言葉を待つ。
宮地は何やら不服そうではあるが、何か言いたそうに口を開いていた。
「…一応言っとくけど」
「ん?」
「別にお前に付き纏われてるとか、思ってねぇから。結構楽しいよ、お前」
拳を握っていたはずの手が頭に乗せられ、優しく咲哉を撫でる。
その手の隙間から見えた宮地は、目を細めて笑っていた。
「…っ」
それだけで、抑え込んでいた感情がどうにかなりそうだった。
口を覆う掌では隠しきれないくらい、顔が赤くなってしまう。ドキドキと胸が鳴って、その音で気付かれてしまう、そんな気がして。
咲哉はばしっと宮地の手を弾いて数歩後ずさった。
「で、でも、でも俺は!お前に負けねぇ!」
「はあ?」
「ま、負けないからな!」
その勢いのまま、再びだだっと駆け出す。
やっぱりすぐ追いつけそうだ。そう思いながら、宮地はまた走り出した咲哉を目で追い、手を腰に当てた。
「ったく…なんなんだ」
嬉しそうにしたくせに、どうして逃げるんだ。
考えるのも面倒で、宮地は何度目になるか知れない溜め息をついて、教室へ戻って行った。
(第三話・終)
追加日:2017/10/22
移動前:2016/02/28