宮地と小さなクラスメイト(黒バス)
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1.日常
昼過ぎの少し眠くなる時間。
眠気眼を擦りながらの授業だったり、自習と言う名の談笑だったり、体育館や外での体育に励む生徒もいる。
そんな中、多目的室だなんて便利な名前の教室からは、カン、コンと軽い音が鳴り響いていた。
手に持つのは小さなラケット。
青い台の上を転がるのは黄色のピンポン玉。
「おい宮地!俺と戦え!!」
そう高らかに声を上げた男は、正面にラケットを突き付け、もう片方の手を腰に当てた。
周りにいるクラスメイト達は「また始まったぞ」と呟く。
そしてその宣戦布告を真正面から受け取った宮地清志は、片耳を指で塞いで顔をしかめた。
「鈴木、お前うっせぇよ」
「うっせくてもな、これは大事なことなんだ!!」
「はー…何が大事だって?」
「お前に勝つという野望が俺にはある!!」
呆れ顔の宮地の目の前、というよりは下の方に、何やらやる気に満ちた顔がある。
身長の低さだけならナンバーワン、秀徳高校3年生の鈴木咲哉だ。
勝手にライバル意識を持たれた宮地は、ことあるごとにこの咲哉に勝負を挑まれている。
今日の種目は、どうやら卓球のようだ。
「さあ!勝負だ!」
「まーいいけど?負ける気しねぇし」
「そんな余裕ぶってられんのも今のうちだかんな」
「ハッ、言ってろ」
こうして様々なことで勝負を挑んでくる咲哉に、宮地は一度も負けたことがない。
そしてそれは今日も今日とて変わることはない。
小さな体から戦意が喪失するまでに、そう時間はかからなかった。
「ああーッくそ!何で勝てないんだ!!」
大きな声を上げて、咲哉が椅子にどかっと座る。
案の定の結果は誰しもの予想通り、宮地の圧勝で終わった。
咲哉を見つめる周りの目がどこか優しいのは、この少々お馬鹿なキャラクター故だ。
「鈴木君、どうしてそんなに宮地君に勝ちたいの?」
「そりゃあ、男として!」
女子生徒からの問いにばんっと胸を叩く咲哉のその返答は、理不尽にも宮地には関係のないことだ。
しかし、それを見ていた宮地はふはっと吹き出し、咲哉の頭を大きな手で掴んだ。
「う、わ何する…っ」
「いつでも受けてやるよ。ま、やっぱ負ける気はしねーけど」
「い、言ってろ…絶対いつか負かしてやっからな…っ」
ぐぬぬ、と歯を食いしばりながら、宮地にがしがしと頭を撫でられる咲哉はどことなく嬉しそうだ。
そんな日常に、女子生徒たちは微笑ましくそれを眺めていた。
・・・
決して、意味も無く宮地へ挑んでいるわけではない。
咲哉は机に頬杖ついて、何気なく始まりの日を思い出していた。
宮地との出会いは、入学式のすぐ後。
同じクラスにいたそのでっかい男はめちゃくちゃイケメンで、女子の注目を当然のように集めていた。
「うわっ!」
ふらとよろけたのは、履き慣れない靴なんぞ履いていたからか。同時に初めての校舎に浮かれていたからか。
前のめりに倒れた咲哉の小さな体は、ぽすんっと何者かに受け止められていた。
「…っと、大丈夫か?」
「あっ、お、お前…」
「あ?はは!何だお前、ちっさ!」
ドキッとした。大きな手に支えられ、見下ろされて。
それはきっと、自分と違ってそいつが男らしい体格してるからだ。笑って頭なんて撫でるからだ。
「ば、馬鹿にしやがったな!!お前名前なんだ!覚えてやる!!」
「うわ、うっせぇな」
だからきっと、何か一つでも彼に勝てれば、そんな意味の分からない感情はなくなるだろうと。そう信じて挑み続ける。
そうでないと自分は、自分が変だと認めなければいけなくなるから…。
「おーい鈴木!」
「…」
「おい、鈴木寝てんのか!?」
「へ?」
不意に呼ばれ、咲哉はぱっと顔を上げた。
目の前には数学教師。その手に握られた丸められた教科書がぽすんっと咲哉の頭を叩く。
「ぼーっとしてたな?問3、解けるか?」
「えっえ、えっとー…?」
ぺらぺらっと辛うじて机の上に出していた教科書を捲り、へらっと笑いながら教師を見上げる。
すると教師は呆れた顔でため息を吐き、咲哉の後ろに目を向けた。
「全くお前は…。じゃあ後ろの…宮地!」
「あー…はい」
続いて名前を呼ばれた宮地は、少し間の伸びた返事をしてから当然のように答えを返した。
それは教師の納得する回答だったのだろう。うん、と頷き咲哉へと視線が戻る。
「鈴木、宮地に感謝しろよ?」
「~~~!!」
再びぽんぽんと教科書で頭を叩かれ、咲哉は「うう~」と言葉にならない呻きを漏らした。
それから続いて後ろからもぽすんっと教科書で叩かれる。
「バーカ」
その声は後ろの席の宮地のものだ。
悔しい、悔しいのに、どこかで喜んでいる自分がいる。
咲哉はぶんぶんっと首を横に振って、ふんっと鼻を鳴らした。
そんな咲哉の動きにすら反応して小さく笑う宮地の声に、薄らと頬を赤らめ口元をニヤつかせていたのは、咲哉だけの秘密だ。
・・・
そんな日常を過ごし、時間は放課後。
「…あ?お前まだいたのかよ」
夕暮れ空の下、オレンジに染まる教室で咲哉は顔を上げた。
宮地がタオルを肩にかけて汗を拭っている。
「あれ?部活、こんなに早く終わるっけ?」
「終わんねーよ、ちょっと忘れもん」
そう言いながら、宮地は咲哉の後の自分の席にきて腰をかがめた。
ふわふわで、薄い色の髪が目の前で揺れる。
「…なーんだ。一緒に帰れると思ったのにー」
ほんの少し浮かれかけた自分に恥ずかしくなる。
そんな咲哉に宮地も気付いたのか、チラと目線を上げて笑った。
「なんだよ?一緒に帰って欲しいって?」
「ち、違う!一緒に帰って…そう!弱点見つけてやろうと思ったんだよ!」
「はいはい、そーかよ」
忘れものが見つかったのか、体を起こして手提げを肩にかけ直す。
そのまま歩き出す宮地の手は、慣れた手つきで咲哉の頭をぐしゃと掴んだ。
「じゃあな」
「お、お、おう、また明日」
へらっと笑って手を振る宮地に、咲哉も思わず手を振り返して。
はっとしてから手をグーにして振り上げた。
「明日、覚悟しとけよ!!」
その咲哉の声に、軽く肩をすくめた宮地の背中が遠ざかる。
その背中が見えなくなるまで見送って、咲哉はふーっと大きく息を吐き出した。
別に、今以上の関係になりたいなんて思っていない。
今の関係が、楽しいからいいんだ。
咲哉は肩に鞄をかけると、駆け足に教室を後にした。
(第一話・終)
追加日:2017/09/24
移動前:2015/06/18
昼過ぎの少し眠くなる時間。
眠気眼を擦りながらの授業だったり、自習と言う名の談笑だったり、体育館や外での体育に励む生徒もいる。
そんな中、多目的室だなんて便利な名前の教室からは、カン、コンと軽い音が鳴り響いていた。
手に持つのは小さなラケット。
青い台の上を転がるのは黄色のピンポン玉。
「おい宮地!俺と戦え!!」
そう高らかに声を上げた男は、正面にラケットを突き付け、もう片方の手を腰に当てた。
周りにいるクラスメイト達は「また始まったぞ」と呟く。
そしてその宣戦布告を真正面から受け取った宮地清志は、片耳を指で塞いで顔をしかめた。
「鈴木、お前うっせぇよ」
「うっせくてもな、これは大事なことなんだ!!」
「はー…何が大事だって?」
「お前に勝つという野望が俺にはある!!」
呆れ顔の宮地の目の前、というよりは下の方に、何やらやる気に満ちた顔がある。
身長の低さだけならナンバーワン、秀徳高校3年生の鈴木咲哉だ。
勝手にライバル意識を持たれた宮地は、ことあるごとにこの咲哉に勝負を挑まれている。
今日の種目は、どうやら卓球のようだ。
「さあ!勝負だ!」
「まーいいけど?負ける気しねぇし」
「そんな余裕ぶってられんのも今のうちだかんな」
「ハッ、言ってろ」
こうして様々なことで勝負を挑んでくる咲哉に、宮地は一度も負けたことがない。
そしてそれは今日も今日とて変わることはない。
小さな体から戦意が喪失するまでに、そう時間はかからなかった。
「ああーッくそ!何で勝てないんだ!!」
大きな声を上げて、咲哉が椅子にどかっと座る。
案の定の結果は誰しもの予想通り、宮地の圧勝で終わった。
咲哉を見つめる周りの目がどこか優しいのは、この少々お馬鹿なキャラクター故だ。
「鈴木君、どうしてそんなに宮地君に勝ちたいの?」
「そりゃあ、男として!」
女子生徒からの問いにばんっと胸を叩く咲哉のその返答は、理不尽にも宮地には関係のないことだ。
しかし、それを見ていた宮地はふはっと吹き出し、咲哉の頭を大きな手で掴んだ。
「う、わ何する…っ」
「いつでも受けてやるよ。ま、やっぱ負ける気はしねーけど」
「い、言ってろ…絶対いつか負かしてやっからな…っ」
ぐぬぬ、と歯を食いしばりながら、宮地にがしがしと頭を撫でられる咲哉はどことなく嬉しそうだ。
そんな日常に、女子生徒たちは微笑ましくそれを眺めていた。
・・・
決して、意味も無く宮地へ挑んでいるわけではない。
咲哉は机に頬杖ついて、何気なく始まりの日を思い出していた。
宮地との出会いは、入学式のすぐ後。
同じクラスにいたそのでっかい男はめちゃくちゃイケメンで、女子の注目を当然のように集めていた。
「うわっ!」
ふらとよろけたのは、履き慣れない靴なんぞ履いていたからか。同時に初めての校舎に浮かれていたからか。
前のめりに倒れた咲哉の小さな体は、ぽすんっと何者かに受け止められていた。
「…っと、大丈夫か?」
「あっ、お、お前…」
「あ?はは!何だお前、ちっさ!」
ドキッとした。大きな手に支えられ、見下ろされて。
それはきっと、自分と違ってそいつが男らしい体格してるからだ。笑って頭なんて撫でるからだ。
「ば、馬鹿にしやがったな!!お前名前なんだ!覚えてやる!!」
「うわ、うっせぇな」
だからきっと、何か一つでも彼に勝てれば、そんな意味の分からない感情はなくなるだろうと。そう信じて挑み続ける。
そうでないと自分は、自分が変だと認めなければいけなくなるから…。
「おーい鈴木!」
「…」
「おい、鈴木寝てんのか!?」
「へ?」
不意に呼ばれ、咲哉はぱっと顔を上げた。
目の前には数学教師。その手に握られた丸められた教科書がぽすんっと咲哉の頭を叩く。
「ぼーっとしてたな?問3、解けるか?」
「えっえ、えっとー…?」
ぺらぺらっと辛うじて机の上に出していた教科書を捲り、へらっと笑いながら教師を見上げる。
すると教師は呆れた顔でため息を吐き、咲哉の後ろに目を向けた。
「全くお前は…。じゃあ後ろの…宮地!」
「あー…はい」
続いて名前を呼ばれた宮地は、少し間の伸びた返事をしてから当然のように答えを返した。
それは教師の納得する回答だったのだろう。うん、と頷き咲哉へと視線が戻る。
「鈴木、宮地に感謝しろよ?」
「~~~!!」
再びぽんぽんと教科書で頭を叩かれ、咲哉は「うう~」と言葉にならない呻きを漏らした。
それから続いて後ろからもぽすんっと教科書で叩かれる。
「バーカ」
その声は後ろの席の宮地のものだ。
悔しい、悔しいのに、どこかで喜んでいる自分がいる。
咲哉はぶんぶんっと首を横に振って、ふんっと鼻を鳴らした。
そんな咲哉の動きにすら反応して小さく笑う宮地の声に、薄らと頬を赤らめ口元をニヤつかせていたのは、咲哉だけの秘密だ。
・・・
そんな日常を過ごし、時間は放課後。
「…あ?お前まだいたのかよ」
夕暮れ空の下、オレンジに染まる教室で咲哉は顔を上げた。
宮地がタオルを肩にかけて汗を拭っている。
「あれ?部活、こんなに早く終わるっけ?」
「終わんねーよ、ちょっと忘れもん」
そう言いながら、宮地は咲哉の後の自分の席にきて腰をかがめた。
ふわふわで、薄い色の髪が目の前で揺れる。
「…なーんだ。一緒に帰れると思ったのにー」
ほんの少し浮かれかけた自分に恥ずかしくなる。
そんな咲哉に宮地も気付いたのか、チラと目線を上げて笑った。
「なんだよ?一緒に帰って欲しいって?」
「ち、違う!一緒に帰って…そう!弱点見つけてやろうと思ったんだよ!」
「はいはい、そーかよ」
忘れものが見つかったのか、体を起こして手提げを肩にかけ直す。
そのまま歩き出す宮地の手は、慣れた手つきで咲哉の頭をぐしゃと掴んだ。
「じゃあな」
「お、お、おう、また明日」
へらっと笑って手を振る宮地に、咲哉も思わず手を振り返して。
はっとしてから手をグーにして振り上げた。
「明日、覚悟しとけよ!!」
その咲哉の声に、軽く肩をすくめた宮地の背中が遠ざかる。
その背中が見えなくなるまで見送って、咲哉はふーっと大きく息を吐き出した。
別に、今以上の関係になりたいなんて思っていない。
今の関係が、楽しいからいいんだ。
咲哉は肩に鞄をかけると、駆け足に教室を後にした。
(第一話・終)
追加日:2017/09/24
移動前:2015/06/18
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