高尾と保健室の先生(黒バス)
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・後日談①
保健室にいる男性養護教諭の午後は大体いつも同じだ。
体育があれば休む間はなく、休み時間も生徒の話し相手で休めず。
疲れやすい体は5限になると決まって睡魔に襲われる。
その日の仕事が済むと、咲哉は生徒用のベッドへと横たわった。
うっかりすると週直の先生に起こされるから15分だけ。運転の為の体力補給だ。
そう心に誓っても咲哉は眠りに誘われ夢を見る。
不安を、憂いを、愛しい子を。
罪悪感に苛まれ手を離す夢。
「せーんせっ」
明るい声が眠る咲哉の耳にすとんと落ちる。
薄ら開いた視界には、何度も夢に見た青年が映った。
「…高尾君」
「ほら起きて。もう帰んねーと」
「ん…今、何…?」
「何って、部活終わったとこ。帰ろうと思ったら保健室の電気消えてねーから迎えにきた」
よいしょと体を起こした咲哉に、高尾の手が添えられた。
暖かい手だ。それに、まだ部活の名残かしっとりと汗ばんでいる。
「高尾君、汗臭い」
「そ、そりゃしゃーないっしょ!?」
「あはは、嫌いじゃないよ。バスケやってる時の格好良い高尾君思い出すし」
咲哉の発言に高尾がぴたっと停止した。
それを横目に咲哉は白衣を脱ぎつつ、書類を棚へと戻す。
元々物を散らかしたりしないので、帰り支度はそれだけで済んだ。
「い、今の何!?誉めてんの!?誉めてんだよな!?」
「誉めてるよ」
「めっずらしー。先生、寝起きは素直になっちゃうタイプだ」
「さ、君も帰るよ。起こしてくれたお礼に送ってあげるから」
わーいと両手を広げて後ろをついてくる高尾は、普段から大体こんな感じだった。
つまり、感情が分かりやすく表に出るタイプ。
それでもこうして関係を続けられるのは、それ以上に高尾が賢い子だったからだ。
「いつもみたく近くにいちゃダメって言わなくていーんだ?」
「開き直った方が、男同士なんだし怪しい事もないかなと思って。君がそうしてるみたいにね」
「へへっ、だろ?」
「他の教諭にも、高尾和成を上手く扱ってますねって感心されたよ。君はそんなに問題児でもないだろうに」
高尾はクラスでも部活でも咲哉との仲を自慢しているらしい。
わざとらしく隠したりしない。
それが二人の怪しい関係を隠すのに良い方法だったのだ。
「ほら、乗って」
「サンキューせんせ!」
開けられた車に、高尾が無邪気に飛び乗る。
ぱたんと閉めてエンジンをかければ、ようやく二人きりだ。
「なぁ、今日先生のうち行っちゃ駄目?」
「駄目だよ。ご家族が心配するだろ」
「だーいじょうぶだって!友達んち泊まるって言うし…せっかくの休日じゃん?」
まだ返事をしていない咲哉の隣で、高尾は携帯を取り出し画面を叩いている。
便利な時代だ。今はスマホって言うんだと、女子生徒にバカにされた記憶は新しい。
「一週間、先生の傍にいらんなくて寂しいって思ってたんだぜ?」
「そんなこと言って、なんだかんだ保健室に来るくせに。…ちゃんと親御さんに連絡すること」
「っしゃ!先生やっさしぃー」
こんな風にほだされていて良いのだろうか。
今はまだ先生と生徒、もしも世間にバレたなら自分はテレビに名前が出ることになる。
でも彼の卒業はまだ2年も先、だなんて。
咲哉は自分の浅はかさに嘆きながら、それを悟られないように車を出した。
・・・
静かな住宅街に一軒家。
数年前までは母と父と姉との4人暮らしだったが、子を産んだ姉は家を出ていった。
そこまでは当然の話だが、赤子の面倒を見るという名目で両親も一時的だろうが姉を追いかけていったのだ。
その結果、仕事場の近い咲哉だけが家に残った。
それが良かったのか、はたまた宜しくないのか。
「いらっしゃい」
「おじゃましまーす」
咲哉は恋人…16歳の少年を自宅に連れ込む事に成功してしまった。
「高尾君、先にシャワー浴びていいよ」
「んー。そーだな。あ、一緒に入る?」
「馬鹿言ってないで。着替えは適当に用意しとくから」
高尾は慣れた調子で靴を脱ぎ捨て上がり込む。
咲哉はぱたぱたと高尾の足音が遠ざかるのを確認してから、手で額を押さえた。
「…振り回されてるな」
相手は自分と一回り離れた男の子だというのに。
咲哉は高尾のための着替えを用意し、続けて晩御飯の用意を始めた。
何かをしていないと、落ち着かない。
「高尾君は、きっと平気なんだろうな」
同じ屋根の下にいることも。無防備にシャワーを浴びることも。
咲哉は聞こえてくるシャワーの音にさえ頭を抱えていた。
・・・
高尾が入った後の浴室に、咲哉がぽこぽこと沈む。
二人で夕飯を済ませると、高尾が食器の片付けを買って出てくれたのだ。
その間に風呂へ行け、と。
「はぁ…」
高尾は良い子だ。
生徒としても良い子供だから、咲哉は余計に距離感に迷う。
こんな事ばかり考える自分が嫌で。
それでも男だから、考えずにはいられない不純な事。
はーっと深く溜め息を吐くと、咲哉はキュッとシャワーを止めた。
風呂に入ってさっぱり…は叶わなかったが、それでも後は寝るだけだ、何とかなる。
そう言い聞かせてリビングへ戻った咲哉は、足を止めて部屋を見渡した。
「あれ…」
高尾の姿がない。
咲哉は廊下に戻り、高尾の気配を探して自宅をさ迷った。
お手洗いのドアは空いている。寝室にもいない。
「…高尾君?」
角の部屋のドアが薄く開いている。
咲哉はそのほとんど利用しない自室を覗き込んだ。
「あ、先生、ごめん勝手にうろうろして」
「いや構わないけど。別に面白いものなんてないだろ?」
何か見つけたのか高尾の視線は棚の上に注がれている。
高尾の隣に立ち視線の先を追うと、そこには学生時代の写真が飾られていた。
「先生が好きになった人って…ここに写ってんの?」
「え…あー…そうだね、大学の頃の写真だから」
「どれ?」
写真に映る数人の大学の仲間。
ゼミ仲間の後ろに映る咲哉と、端に映る先輩。
彼とは本当に何もなかったが、この写真を撮った時の気持ちは。
「…知っても良い事なんてないだろ、高尾君」
「でもさ、せっかくだから知りたいじゃん」
ぱっと振り返った高尾の目が、真っ直ぐに咲哉を見つめる。
どうして隠すんだ。やましいことなんてないのに?
そう疑るような目に、咲哉はゆっくりと人差し指を持ち上げた。
「…この人だよ、左端の」
「へぇ。結構格好良いじゃん。この人が優しくて勉強出来た人、ね」
「はは、よく覚えてたね、そんな話」
適当に笑って、なんでもないような顔をして。
話を逸らしたかった咲哉に対して、高尾は写真から目を逸らさなかった。
「この人とセックスしたいとか、思ってた?」
「…え?」
予期せぬ高尾の発言に耳を疑う。
高尾の横顔にいつものようなヘラヘラとした笑顔はなかった。
「な、な…なんで、そんな事、急に」
「先生ってそういうの疎そうじゃん。でも年上っつーこの人には…抱かれたいとか思ってたのかなって」
「そ、その人とはそういう関係じゃないから…」
「でも好きなら思うだろ?オレは思う。先生の事抱きたいって」
下心が見透かされていたかのようで、咲哉は羞恥心と罪悪感から一歩下がった。
まさか、高尾の口からそんな。
「オレみたいな高校生のガキじゃ、先生欲情出来ないっしょ?だからタイミング分かんなくなっちまってさ」
「っ、そんな事…、」
「悪ィ、変な事言って。こればっかは我慢するから、気にしないで」
高尾は「さ、寝ようぜー」なんていつものノリに戻って歩き出した。
部屋から出て、向かうのは寝室。いつものようにこのまま眠るだけだ。
咲哉の期待通りに。健全に。何事もなく。
「高尾君…!」
咲哉の体は反射的に高尾に駆け寄っていた。
「僕は…君が、そういう事を考えていないのかと思って…」
「は、え?」
「君がその気なら僕は…だ…、っ、」
高尾と目が合って、自分が先走ったことに気付く。
咲哉が掴んだ腕は、純粋な男子高校生のものなのに。
焦る咲哉を安心させるように、高尾は咲哉の手を掴み返した。
「ホント?無理してねーよな?」
「残念だけど…僕も、男なので…」
「は…っ、すっげ嬉しい」
今度は高尾の手が咲哉を引いた。
そのまま廊下を進み、向かう先には寝室がある。
「…っ」
早まった。先を行く高尾の背中を見つめてそう思う。
相手は高校生で、バスケ部で、女の子からも人気があって、明るくて。
こんな一回りも年上の男相手にしなくたって良かっただろうに。
「っ、あの、高尾君…っ」
「オレの事気にしてんなら、それ意味ねーから」
「、でも」
「絶対、後悔とかしねーし。オレ先生の事ホントに好きだから」
高尾の気持ちを疑っているわけではない。
高尾の未来を奪おうとしていることが申し訳なくて、苦しいのだ。
しかし、そんな身勝手な感情すらも、高尾にとっては煩わしいものなのだろう。
咲哉は高尾に導かれ寝室に入り、自らその扉を閉じた。
それとほぼ同時に、肩をぐいと掴まれ唇が重なる。
「んっ…ぅ、」
「はは、先生、声エロい」
「エロ、くはないだろ…ていうか慌て、すぎ…」
「先生の気、変わったらヤダし…」
唇を交えたまま、ベッドへ移動して探り探り腰をかける。
高尾は焦るように咲哉の服を掴み、少し乱暴に上へ引いた。
「いいよ、自分で脱ぐから…」
「そ?じゃ、オレも」
高尾の手が離れたシャツを自分で掴み、ベッドの下に投げ捨てる。
薄っぺらく、格好悪い体だ。
それが恥ずかしくて恐る恐る顔を上げれば、高尾の筋肉のついた上半身がそこにあった。
「…」
「あれ?もしかしてオレに見惚れてる?」
「そ…そりゃ、まぁ」
「へへ、でも先生の体も綺麗じゃん。ちゃんと見んの初めてだけど…」
高尾の手に押された咲哉の体が、ぽすんとベッドの柔い感触にぶつかる。
途端にこれからの行為が現実味を帯びてきて、咲哉は枕をぎゅっと掴んだ。
「うん。先生は楽な体勢で寝てて」
「…リード、してくれるんだ?」
咲哉の言葉にニッと高尾が笑う。
その表情をすぐに沈めた高尾は、咲哉の胸に唇を重ねた。
しっとりと、舌が肌をなぞる。同時に高尾の前髪が触れて、咲哉はくすぐったさに身を捩った。
「っ、高尾君…、そんなとこ、いいから…」
「や?でも、こっち熱くなってきてっけど?」
「あっ…!」
高尾の膝が、咲哉の股間に押し付けられる。
驚きから思わず漏れた声に宿った甘さ。
咄嗟に手で口を覆うと、高尾が不服そうに顔を上げた。
「声抑えんなって。聞かせて」
「や…だ…」
「じゃあ出させる」
体を起き上らせた高尾が、躊躇いなく咲哉のズボンを引っ張る。
下を脱ぐ事にはかなりの抵抗があったはずが、何ともあっさりと脱がされていた。
「ま、待って、見ちゃ…」
「ほら、うまそーに、赤くなってんじゃん…」
見たら萎えるかも。
そんな咲哉の心配を他所に、高尾は男性器を前に軽く舌なめずりをして見せた。
「先生、可愛い…、腰、上がってる」
「ぁ、…ッ、そ、んな…だって…」
指先で茎をなぞり、先端を撫でながら握りしめる。
高尾の動きに連動して、勝手に足が揺れ、上ずった声が口をついた。
「っ…、っ、は…ぁ…」
「先生…悪ィ、オレも擦っていい?」
「え…?」
薄らと目を開くと、高尾がもぞもぞと自分のズボンを掴んでいる。
見開いた咲哉の目には、高尾の…たぶん自分のより大きなものが映った。
「そんな見んなって、恥ずかしいじゃん」
「っ、人の…見といてよく言う…」
「それはそれ、これはこれ」
「何だその理屈…、あっ!」
高尾の手が二人のものを片手に握り締める。
互いの湿ったそれが、擦れてぐちゃと音を立てた。
「あっ…気持ちい、先生…」
「高尾君っ、これ…まずい…」
「先生、イって、見せて、先生の顔…」
「馬鹿…ッあ、っ!」
赤らんだ頬、上がった口角と細めた目。吐息混じりの声の艶っぽさ。
目からも耳からも耐えがたい感覚が流れ込み、咲哉はぎゅうと爪先でシーツを掴んだ。
それでも刺激を逃しきれない。
情けなく喘いだ咲哉は、訪れた頂点に逆らうことなく熱を吐き出していた。
「はぁ…っ、ぁ…」
頭がぼうっとする。全身から力が抜けている。
高尾の口も手も、咲哉が知らない姿を見せた。
思っていたよりもずっとオトナだったのだと実感する。
「…高尾君、どこで、こんなこと…」
閉じていた目をゆっくりと開く。
上に覆いかぶさったままの高尾は、息を荒くしながら熱っぽい視線を咲哉へ向けていた。
「せんせ、ほんと…悪い、とまんねぇわ」
「え、」
腹部を濡らした咲哉の精液を高尾の指がすくう。
その指は、咲哉の足の間に差し込まれた。
「た、高尾君…!?」
「先生、後ろ指入れっから…痛かったらすぐ言って、ね」
「そ、ん…、っ!」
高尾の優しい言葉を聞いてから、痛みが走るまではすぐだった。
狭い入口を割って、高尾の指が内側に入ってくる。
「きっつ…先生、マジでやばかったら言って」
「っは、ぁ…っだ、…大丈夫…」
「前も触ってた方がいい?」
「あっ、…っぅ、ん…」
出したばかりだというのに、咲哉はまた熱を持ち始めていた。
1本の指が壁を擦り、続いてもう1本の指とで開かれる。
痛い。気持ち悪い。
しかし、それ以上に期待していた。
期待しているから、咲哉も風呂場で中を洗い広げたのだ。意識し出してから、ずっと。
「30歳にしておっさんとか言うけど…先生全然、若いじゃん?」
「君に、若いとか…言われたくないな、っ」
「へっ、そりゃそーかも、だけど…。悪ィ、まじ…先生エロ過ぎっしょ」
急にぐいと奥まで押し込まれ、咲哉は思わず出そうになった声を喉の奥で堪えた。
高尾にされて嫌なことなんてない。むしろ、少しくらい攻めて欲しい。
「気にしないで、入れていいよ。痛い、くらいでいいから…」
「え!?何、先生そういう」
「高尾君、全然怒らないし…こんな、僕…もうし、わけなくて、」
高尾をこんな風にした事。
きっと高尾は何とも思っていないのだろうが、それでも罪悪感は消えない。
お前が一人の少年を駄目にしたんだと、そう責めずにはいられないのだ。
「まだ、そんな風に考えてんの、先生…」
高尾が低い声で呟いた瞬間、今までにない圧力が咲哉の体を襲った。
めりめりと突き破って入ってくるような感覚。狭いそこが高尾によって押し広げられる。
「いっ…!」
「っ、先生…力、抜いて…」
はっ、と苦しそうな息を吐きながらも、高尾は行為を止めるつもりはないらしい。
足を左右に大きく広げられ、のしかかる高尾が上から熱を押し込んでいく。
それは随分と長い時間のように感じた。
直に高尾を感じて嬉しいはずなのに、痛みが咲哉の思考を散乱させる。
「なぁ、痛ぇって、先生」
「…は…ごめ、」
「先生は、オレとこうなるの、嫌?違うだろ、オレとおんなじように思っててくれたんだろ…?」
頬を伝って咲哉の肌に落ちたのは汗か、涙か。
高尾の顔が切なげに歪み、咲哉の胸がまた罪悪感で埋め尽くされる。
しかしそれは、高尾の手に導かれ触れたものを認識した瞬間吹き飛んでいた。
「…先生、ここ、ほら。ちゃんと繋がってる」
「っ、」
「年齢も性別も関係ねぇって、愛し合えんだから。なぁ、こんな嬉しいのオレだけ?」
付き合うと決めた日を思い出すようなシチュエーション。
こうしてまた大人なのに高尾に諭されて…いや、大人だからこそ、なのかもしれない。
「そうだな…ごめん。ここまで来ておいて、往生際悪かったよな」
「先生、」
「嬉しい。恥ずかしいけど…高尾君と、もっと、繋がりたいと思ってるよ」
「ったく、だから先生、エロいんだって」
「え、あ、あ…っ!」
のしかかる高尾の体に魅入られながら、咲哉はその痛みに身を任せた。
痛いのも、目の前の高尾を見ていれば気にならない。
乱れた髪、揺れる体、息遣い、全て愛しくて。
「はっ、…、た、かおく…」
「ん?」
「キス、して…」
「っちょ、あっぶね…っ、イきそうんなった…!」
ぐいと高尾が顔を近付けて、咲哉にキスを落とす。
それを皮切りに、どくんと体の奥が熱くなって、止まらなくなっていく。
「あっ、待…、」
「咲哉、愛してる」
「っ!」
少し掠れた愛の囁きに、咲哉はどくんと全身が脈打つのを感じた。
追い詰めるように奥へ熱が押し込まれ、同時にきつく膨張したそれを擦られる。
叫ぶ寸前だった口は高尾の唇に塞がれ、全身が密着したまま咲哉は再び訪れた限界に身を委ねた。
ちかちかと目の前が白く明滅する。
途端に体を襲う疲労感に、高尾も咲哉も暫くじっと抱き合ったまま固まっていた。
「はぁ…。先生、体大丈夫だった…?」
「大丈夫じゃない…」
「っすよねー…」
苦笑いを浮かべながら、ゆっくりと高尾が咲哉から出ていく。
そのままごろんと咲哉の横に転がった高尾は、咲哉の首に腕を回した。
さっきまでとは打って変わって、優しい口づけが目元に落とされる。
「悪ィ、結局優しく出来なかった」
「いいよ、いつも優しいし…。痛いのも案外悪くないかな」
「まじかよ!先生タフだなー」
「…冗談だよ」
気持ち良かったのも確かだが、全身は激しい運動後のように疲労している。
だからこそ、咲哉は薄く開いた目で高尾を見つめ返した。
「次は痛くないように、して欲しいな…」
「せ…っ、まじ心臓に悪いって!」
「うわ…っ」
がばと抱き着いた高尾を受け止め、高尾の背に腕を回す。
汗ばんだ体をこうして抱き締めるのは初めてだ。
いつも。本当は、全身で感じたかった。
「先生、ずっと一緒にいよう」
「ん…」
「そんで、オレが先生の隣にいてもおかしくないくらい成長したら、大声で皆に言うんだ」
高尾の顔が咲哉から離れる。
言葉を待って見つめてみれば、高尾は気恥ずかしそうにへらっと笑った。
「先生はオレのだって」
子供らしい発想だ。
それが、今咲哉の心を救い上げる。
「期待してるよ」
「おー、期待して待ってて、センセ」
腕も足も絡みあわせて目を閉じる。
疲れた、でも嫌じゃない疲労感と満足感に満ちている。
咲哉はようやく高尾の腕の中、安心して眠りについた。
(後日談①・終)
追加日:2018/01/08
移動前:2013/12/01
保健室にいる男性養護教諭の午後は大体いつも同じだ。
体育があれば休む間はなく、休み時間も生徒の話し相手で休めず。
疲れやすい体は5限になると決まって睡魔に襲われる。
その日の仕事が済むと、咲哉は生徒用のベッドへと横たわった。
うっかりすると週直の先生に起こされるから15分だけ。運転の為の体力補給だ。
そう心に誓っても咲哉は眠りに誘われ夢を見る。
不安を、憂いを、愛しい子を。
罪悪感に苛まれ手を離す夢。
「せーんせっ」
明るい声が眠る咲哉の耳にすとんと落ちる。
薄ら開いた視界には、何度も夢に見た青年が映った。
「…高尾君」
「ほら起きて。もう帰んねーと」
「ん…今、何…?」
「何って、部活終わったとこ。帰ろうと思ったら保健室の電気消えてねーから迎えにきた」
よいしょと体を起こした咲哉に、高尾の手が添えられた。
暖かい手だ。それに、まだ部活の名残かしっとりと汗ばんでいる。
「高尾君、汗臭い」
「そ、そりゃしゃーないっしょ!?」
「あはは、嫌いじゃないよ。バスケやってる時の格好良い高尾君思い出すし」
咲哉の発言に高尾がぴたっと停止した。
それを横目に咲哉は白衣を脱ぎつつ、書類を棚へと戻す。
元々物を散らかしたりしないので、帰り支度はそれだけで済んだ。
「い、今の何!?誉めてんの!?誉めてんだよな!?」
「誉めてるよ」
「めっずらしー。先生、寝起きは素直になっちゃうタイプだ」
「さ、君も帰るよ。起こしてくれたお礼に送ってあげるから」
わーいと両手を広げて後ろをついてくる高尾は、普段から大体こんな感じだった。
つまり、感情が分かりやすく表に出るタイプ。
それでもこうして関係を続けられるのは、それ以上に高尾が賢い子だったからだ。
「いつもみたく近くにいちゃダメって言わなくていーんだ?」
「開き直った方が、男同士なんだし怪しい事もないかなと思って。君がそうしてるみたいにね」
「へへっ、だろ?」
「他の教諭にも、高尾和成を上手く扱ってますねって感心されたよ。君はそんなに問題児でもないだろうに」
高尾はクラスでも部活でも咲哉との仲を自慢しているらしい。
わざとらしく隠したりしない。
それが二人の怪しい関係を隠すのに良い方法だったのだ。
「ほら、乗って」
「サンキューせんせ!」
開けられた車に、高尾が無邪気に飛び乗る。
ぱたんと閉めてエンジンをかければ、ようやく二人きりだ。
「なぁ、今日先生のうち行っちゃ駄目?」
「駄目だよ。ご家族が心配するだろ」
「だーいじょうぶだって!友達んち泊まるって言うし…せっかくの休日じゃん?」
まだ返事をしていない咲哉の隣で、高尾は携帯を取り出し画面を叩いている。
便利な時代だ。今はスマホって言うんだと、女子生徒にバカにされた記憶は新しい。
「一週間、先生の傍にいらんなくて寂しいって思ってたんだぜ?」
「そんなこと言って、なんだかんだ保健室に来るくせに。…ちゃんと親御さんに連絡すること」
「っしゃ!先生やっさしぃー」
こんな風にほだされていて良いのだろうか。
今はまだ先生と生徒、もしも世間にバレたなら自分はテレビに名前が出ることになる。
でも彼の卒業はまだ2年も先、だなんて。
咲哉は自分の浅はかさに嘆きながら、それを悟られないように車を出した。
・・・
静かな住宅街に一軒家。
数年前までは母と父と姉との4人暮らしだったが、子を産んだ姉は家を出ていった。
そこまでは当然の話だが、赤子の面倒を見るという名目で両親も一時的だろうが姉を追いかけていったのだ。
その結果、仕事場の近い咲哉だけが家に残った。
それが良かったのか、はたまた宜しくないのか。
「いらっしゃい」
「おじゃましまーす」
咲哉は恋人…16歳の少年を自宅に連れ込む事に成功してしまった。
「高尾君、先にシャワー浴びていいよ」
「んー。そーだな。あ、一緒に入る?」
「馬鹿言ってないで。着替えは適当に用意しとくから」
高尾は慣れた調子で靴を脱ぎ捨て上がり込む。
咲哉はぱたぱたと高尾の足音が遠ざかるのを確認してから、手で額を押さえた。
「…振り回されてるな」
相手は自分と一回り離れた男の子だというのに。
咲哉は高尾のための着替えを用意し、続けて晩御飯の用意を始めた。
何かをしていないと、落ち着かない。
「高尾君は、きっと平気なんだろうな」
同じ屋根の下にいることも。無防備にシャワーを浴びることも。
咲哉は聞こえてくるシャワーの音にさえ頭を抱えていた。
・・・
高尾が入った後の浴室に、咲哉がぽこぽこと沈む。
二人で夕飯を済ませると、高尾が食器の片付けを買って出てくれたのだ。
その間に風呂へ行け、と。
「はぁ…」
高尾は良い子だ。
生徒としても良い子供だから、咲哉は余計に距離感に迷う。
こんな事ばかり考える自分が嫌で。
それでも男だから、考えずにはいられない不純な事。
はーっと深く溜め息を吐くと、咲哉はキュッとシャワーを止めた。
風呂に入ってさっぱり…は叶わなかったが、それでも後は寝るだけだ、何とかなる。
そう言い聞かせてリビングへ戻った咲哉は、足を止めて部屋を見渡した。
「あれ…」
高尾の姿がない。
咲哉は廊下に戻り、高尾の気配を探して自宅をさ迷った。
お手洗いのドアは空いている。寝室にもいない。
「…高尾君?」
角の部屋のドアが薄く開いている。
咲哉はそのほとんど利用しない自室を覗き込んだ。
「あ、先生、ごめん勝手にうろうろして」
「いや構わないけど。別に面白いものなんてないだろ?」
何か見つけたのか高尾の視線は棚の上に注がれている。
高尾の隣に立ち視線の先を追うと、そこには学生時代の写真が飾られていた。
「先生が好きになった人って…ここに写ってんの?」
「え…あー…そうだね、大学の頃の写真だから」
「どれ?」
写真に映る数人の大学の仲間。
ゼミ仲間の後ろに映る咲哉と、端に映る先輩。
彼とは本当に何もなかったが、この写真を撮った時の気持ちは。
「…知っても良い事なんてないだろ、高尾君」
「でもさ、せっかくだから知りたいじゃん」
ぱっと振り返った高尾の目が、真っ直ぐに咲哉を見つめる。
どうして隠すんだ。やましいことなんてないのに?
そう疑るような目に、咲哉はゆっくりと人差し指を持ち上げた。
「…この人だよ、左端の」
「へぇ。結構格好良いじゃん。この人が優しくて勉強出来た人、ね」
「はは、よく覚えてたね、そんな話」
適当に笑って、なんでもないような顔をして。
話を逸らしたかった咲哉に対して、高尾は写真から目を逸らさなかった。
「この人とセックスしたいとか、思ってた?」
「…え?」
予期せぬ高尾の発言に耳を疑う。
高尾の横顔にいつものようなヘラヘラとした笑顔はなかった。
「な、な…なんで、そんな事、急に」
「先生ってそういうの疎そうじゃん。でも年上っつーこの人には…抱かれたいとか思ってたのかなって」
「そ、その人とはそういう関係じゃないから…」
「でも好きなら思うだろ?オレは思う。先生の事抱きたいって」
下心が見透かされていたかのようで、咲哉は羞恥心と罪悪感から一歩下がった。
まさか、高尾の口からそんな。
「オレみたいな高校生のガキじゃ、先生欲情出来ないっしょ?だからタイミング分かんなくなっちまってさ」
「っ、そんな事…、」
「悪ィ、変な事言って。こればっかは我慢するから、気にしないで」
高尾は「さ、寝ようぜー」なんていつものノリに戻って歩き出した。
部屋から出て、向かうのは寝室。いつものようにこのまま眠るだけだ。
咲哉の期待通りに。健全に。何事もなく。
「高尾君…!」
咲哉の体は反射的に高尾に駆け寄っていた。
「僕は…君が、そういう事を考えていないのかと思って…」
「は、え?」
「君がその気なら僕は…だ…、っ、」
高尾と目が合って、自分が先走ったことに気付く。
咲哉が掴んだ腕は、純粋な男子高校生のものなのに。
焦る咲哉を安心させるように、高尾は咲哉の手を掴み返した。
「ホント?無理してねーよな?」
「残念だけど…僕も、男なので…」
「は…っ、すっげ嬉しい」
今度は高尾の手が咲哉を引いた。
そのまま廊下を進み、向かう先には寝室がある。
「…っ」
早まった。先を行く高尾の背中を見つめてそう思う。
相手は高校生で、バスケ部で、女の子からも人気があって、明るくて。
こんな一回りも年上の男相手にしなくたって良かっただろうに。
「っ、あの、高尾君…っ」
「オレの事気にしてんなら、それ意味ねーから」
「、でも」
「絶対、後悔とかしねーし。オレ先生の事ホントに好きだから」
高尾の気持ちを疑っているわけではない。
高尾の未来を奪おうとしていることが申し訳なくて、苦しいのだ。
しかし、そんな身勝手な感情すらも、高尾にとっては煩わしいものなのだろう。
咲哉は高尾に導かれ寝室に入り、自らその扉を閉じた。
それとほぼ同時に、肩をぐいと掴まれ唇が重なる。
「んっ…ぅ、」
「はは、先生、声エロい」
「エロ、くはないだろ…ていうか慌て、すぎ…」
「先生の気、変わったらヤダし…」
唇を交えたまま、ベッドへ移動して探り探り腰をかける。
高尾は焦るように咲哉の服を掴み、少し乱暴に上へ引いた。
「いいよ、自分で脱ぐから…」
「そ?じゃ、オレも」
高尾の手が離れたシャツを自分で掴み、ベッドの下に投げ捨てる。
薄っぺらく、格好悪い体だ。
それが恥ずかしくて恐る恐る顔を上げれば、高尾の筋肉のついた上半身がそこにあった。
「…」
「あれ?もしかしてオレに見惚れてる?」
「そ…そりゃ、まぁ」
「へへ、でも先生の体も綺麗じゃん。ちゃんと見んの初めてだけど…」
高尾の手に押された咲哉の体が、ぽすんとベッドの柔い感触にぶつかる。
途端にこれからの行為が現実味を帯びてきて、咲哉は枕をぎゅっと掴んだ。
「うん。先生は楽な体勢で寝てて」
「…リード、してくれるんだ?」
咲哉の言葉にニッと高尾が笑う。
その表情をすぐに沈めた高尾は、咲哉の胸に唇を重ねた。
しっとりと、舌が肌をなぞる。同時に高尾の前髪が触れて、咲哉はくすぐったさに身を捩った。
「っ、高尾君…、そんなとこ、いいから…」
「や?でも、こっち熱くなってきてっけど?」
「あっ…!」
高尾の膝が、咲哉の股間に押し付けられる。
驚きから思わず漏れた声に宿った甘さ。
咄嗟に手で口を覆うと、高尾が不服そうに顔を上げた。
「声抑えんなって。聞かせて」
「や…だ…」
「じゃあ出させる」
体を起き上らせた高尾が、躊躇いなく咲哉のズボンを引っ張る。
下を脱ぐ事にはかなりの抵抗があったはずが、何ともあっさりと脱がされていた。
「ま、待って、見ちゃ…」
「ほら、うまそーに、赤くなってんじゃん…」
見たら萎えるかも。
そんな咲哉の心配を他所に、高尾は男性器を前に軽く舌なめずりをして見せた。
「先生、可愛い…、腰、上がってる」
「ぁ、…ッ、そ、んな…だって…」
指先で茎をなぞり、先端を撫でながら握りしめる。
高尾の動きに連動して、勝手に足が揺れ、上ずった声が口をついた。
「っ…、っ、は…ぁ…」
「先生…悪ィ、オレも擦っていい?」
「え…?」
薄らと目を開くと、高尾がもぞもぞと自分のズボンを掴んでいる。
見開いた咲哉の目には、高尾の…たぶん自分のより大きなものが映った。
「そんな見んなって、恥ずかしいじゃん」
「っ、人の…見といてよく言う…」
「それはそれ、これはこれ」
「何だその理屈…、あっ!」
高尾の手が二人のものを片手に握り締める。
互いの湿ったそれが、擦れてぐちゃと音を立てた。
「あっ…気持ちい、先生…」
「高尾君っ、これ…まずい…」
「先生、イって、見せて、先生の顔…」
「馬鹿…ッあ、っ!」
赤らんだ頬、上がった口角と細めた目。吐息混じりの声の艶っぽさ。
目からも耳からも耐えがたい感覚が流れ込み、咲哉はぎゅうと爪先でシーツを掴んだ。
それでも刺激を逃しきれない。
情けなく喘いだ咲哉は、訪れた頂点に逆らうことなく熱を吐き出していた。
「はぁ…っ、ぁ…」
頭がぼうっとする。全身から力が抜けている。
高尾の口も手も、咲哉が知らない姿を見せた。
思っていたよりもずっとオトナだったのだと実感する。
「…高尾君、どこで、こんなこと…」
閉じていた目をゆっくりと開く。
上に覆いかぶさったままの高尾は、息を荒くしながら熱っぽい視線を咲哉へ向けていた。
「せんせ、ほんと…悪い、とまんねぇわ」
「え、」
腹部を濡らした咲哉の精液を高尾の指がすくう。
その指は、咲哉の足の間に差し込まれた。
「た、高尾君…!?」
「先生、後ろ指入れっから…痛かったらすぐ言って、ね」
「そ、ん…、っ!」
高尾の優しい言葉を聞いてから、痛みが走るまではすぐだった。
狭い入口を割って、高尾の指が内側に入ってくる。
「きっつ…先生、マジでやばかったら言って」
「っは、ぁ…っだ、…大丈夫…」
「前も触ってた方がいい?」
「あっ、…っぅ、ん…」
出したばかりだというのに、咲哉はまた熱を持ち始めていた。
1本の指が壁を擦り、続いてもう1本の指とで開かれる。
痛い。気持ち悪い。
しかし、それ以上に期待していた。
期待しているから、咲哉も風呂場で中を洗い広げたのだ。意識し出してから、ずっと。
「30歳にしておっさんとか言うけど…先生全然、若いじゃん?」
「君に、若いとか…言われたくないな、っ」
「へっ、そりゃそーかも、だけど…。悪ィ、まじ…先生エロ過ぎっしょ」
急にぐいと奥まで押し込まれ、咲哉は思わず出そうになった声を喉の奥で堪えた。
高尾にされて嫌なことなんてない。むしろ、少しくらい攻めて欲しい。
「気にしないで、入れていいよ。痛い、くらいでいいから…」
「え!?何、先生そういう」
「高尾君、全然怒らないし…こんな、僕…もうし、わけなくて、」
高尾をこんな風にした事。
きっと高尾は何とも思っていないのだろうが、それでも罪悪感は消えない。
お前が一人の少年を駄目にしたんだと、そう責めずにはいられないのだ。
「まだ、そんな風に考えてんの、先生…」
高尾が低い声で呟いた瞬間、今までにない圧力が咲哉の体を襲った。
めりめりと突き破って入ってくるような感覚。狭いそこが高尾によって押し広げられる。
「いっ…!」
「っ、先生…力、抜いて…」
はっ、と苦しそうな息を吐きながらも、高尾は行為を止めるつもりはないらしい。
足を左右に大きく広げられ、のしかかる高尾が上から熱を押し込んでいく。
それは随分と長い時間のように感じた。
直に高尾を感じて嬉しいはずなのに、痛みが咲哉の思考を散乱させる。
「なぁ、痛ぇって、先生」
「…は…ごめ、」
「先生は、オレとこうなるの、嫌?違うだろ、オレとおんなじように思っててくれたんだろ…?」
頬を伝って咲哉の肌に落ちたのは汗か、涙か。
高尾の顔が切なげに歪み、咲哉の胸がまた罪悪感で埋め尽くされる。
しかしそれは、高尾の手に導かれ触れたものを認識した瞬間吹き飛んでいた。
「…先生、ここ、ほら。ちゃんと繋がってる」
「っ、」
「年齢も性別も関係ねぇって、愛し合えんだから。なぁ、こんな嬉しいのオレだけ?」
付き合うと決めた日を思い出すようなシチュエーション。
こうしてまた大人なのに高尾に諭されて…いや、大人だからこそ、なのかもしれない。
「そうだな…ごめん。ここまで来ておいて、往生際悪かったよな」
「先生、」
「嬉しい。恥ずかしいけど…高尾君と、もっと、繋がりたいと思ってるよ」
「ったく、だから先生、エロいんだって」
「え、あ、あ…っ!」
のしかかる高尾の体に魅入られながら、咲哉はその痛みに身を任せた。
痛いのも、目の前の高尾を見ていれば気にならない。
乱れた髪、揺れる体、息遣い、全て愛しくて。
「はっ、…、た、かおく…」
「ん?」
「キス、して…」
「っちょ、あっぶね…っ、イきそうんなった…!」
ぐいと高尾が顔を近付けて、咲哉にキスを落とす。
それを皮切りに、どくんと体の奥が熱くなって、止まらなくなっていく。
「あっ、待…、」
「咲哉、愛してる」
「っ!」
少し掠れた愛の囁きに、咲哉はどくんと全身が脈打つのを感じた。
追い詰めるように奥へ熱が押し込まれ、同時にきつく膨張したそれを擦られる。
叫ぶ寸前だった口は高尾の唇に塞がれ、全身が密着したまま咲哉は再び訪れた限界に身を委ねた。
ちかちかと目の前が白く明滅する。
途端に体を襲う疲労感に、高尾も咲哉も暫くじっと抱き合ったまま固まっていた。
「はぁ…。先生、体大丈夫だった…?」
「大丈夫じゃない…」
「っすよねー…」
苦笑いを浮かべながら、ゆっくりと高尾が咲哉から出ていく。
そのままごろんと咲哉の横に転がった高尾は、咲哉の首に腕を回した。
さっきまでとは打って変わって、優しい口づけが目元に落とされる。
「悪ィ、結局優しく出来なかった」
「いいよ、いつも優しいし…。痛いのも案外悪くないかな」
「まじかよ!先生タフだなー」
「…冗談だよ」
気持ち良かったのも確かだが、全身は激しい運動後のように疲労している。
だからこそ、咲哉は薄く開いた目で高尾を見つめ返した。
「次は痛くないように、して欲しいな…」
「せ…っ、まじ心臓に悪いって!」
「うわ…っ」
がばと抱き着いた高尾を受け止め、高尾の背に腕を回す。
汗ばんだ体をこうして抱き締めるのは初めてだ。
いつも。本当は、全身で感じたかった。
「先生、ずっと一緒にいよう」
「ん…」
「そんで、オレが先生の隣にいてもおかしくないくらい成長したら、大声で皆に言うんだ」
高尾の顔が咲哉から離れる。
言葉を待って見つめてみれば、高尾は気恥ずかしそうにへらっと笑った。
「先生はオレのだって」
子供らしい発想だ。
それが、今咲哉の心を救い上げる。
「期待してるよ」
「おー、期待して待ってて、センセ」
腕も足も絡みあわせて目を閉じる。
疲れた、でも嫌じゃない疲労感と満足感に満ちている。
咲哉はようやく高尾の腕の中、安心して眠りについた。
(後日談①・終)
追加日:2018/01/08
移動前:2013/12/01