高尾と保健室の先生(黒バス)
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・後日談④ 花火(2015年夏企画)
クーラーのついた快適な部屋で、二人は各々に時間を費やしていた。
高尾和成は夏休み用に出された課題のプリント、咲哉は保健室に掲示するプリントの作成。
カタカタと暫くキーボードを叩き、程良いところでふぅと一息。
もう日が暮れて来たのだなと窓の外へ目を移した咲哉は、窓に映った青年の視線に気が付いた。
「…宿題終わったんだ?」
「終わってた。終わってからずーっとセンセの事見てました」
「あらら、声かけてくれて良かったのに。放っててごめんね」
かたんと椅子を引いて立ち上がり、高尾の横で腰を折り曲げる。
椅子に膝を立てて座っていた高尾は、不貞腐れた顔を少しだけ綻ばせた。
「許したげっから、一個お願い聞いてくんね?」
「…何だろう」
「夏っぽいことしたいなァー」
いかがわしいことじゃないだろうな、そう疑っていた咲哉は、予期せぬ健全な提案に毒気を抜かれた。
青年達は夏休みに入っても毎日部活で休む間もない。
ようやくの休日だというのに「先生の家行っていい?」なんて連絡を寄こした恋人は、午前中ベッドで眠り、午後に宿題とやっぱり健全だった。
「夏らしい事?今から?」
「今から!何でもいいよ、ナイトプールとかー、スイカ割とかー、かき氷とか?」
残念ながら近場にプールはない(というか人に見られたら問題だから論外だ)し、スイカは買いに行かないとないし、かき氷も同じだ。
咲哉はうーんと顎に手を当て唸った後、高尾の頭にぽんと手を乗せた。
「ごめんな。残念だけど、それは」
「わーかってるって。外でのデートは無理だもんなぁ…。早く大人になりてぇ」
「…デ、…ま、まあ、そう、」
「おーい、今更照れんなって」
学校や家でしか顔を合わせないせいか、未だにデートという単語にドキリとする。
じわと顔を赤らめた咲哉に、高尾はケラケラと笑いながら頭の上にある咲哉の手を握りしめた。
「こうして一緒にいられるだけでもいいんだけどさ、せっかくの夏じゃん」
「…そうだけど、夏っぽいことってなあ…」
「なー、なんかねぇかなあ…」
夏っぽいこと。しかも遠出せずに出来ることなんて。
暫く二人で頭を捻り、先に咲哉が「あ!」と声を上げた。
「そういえば、あれがあったよ!」
ぽかんとする高尾を置き去りに、咲哉はぽんと手を打ち、クローゼットを開いた。
手に掴んだのは、パーティ用の花火だ。
「これ、この前姉の家族が来た時にやるかと思って用意してたんだ」
「おお!花火じゃん!」
「結局遅くまでいなかったから、使わなくてさ。うちの庭なら外から見えないし、これくらいなら…」
「さっすが先生!」
高尾が嬉しそうに声を上げ、咲哉の背中をバシッと叩く。
痛かったわけではないものの咄嗟に擦ろうと背中に回した手は、鮮やかに高尾の手に絡め取られていた。
「んじゃ、早速やろうぜ!」
高尾は嬉しそうに跳ねながら、必要なものを指折りリストアップし始めた。
ライターと、水を入れたバケツ。あと蚊取り線香も欲しい。
高尾に言われるがまま諸々を用意して庭に出ると、丁度良く日が落ちて、光のない庭が二人を迎き入れた。
「オレ、昔雑草焼くの好きだったんだよなー。あと石に当てて色変えてやったりさ」
「えっ…やめてくれよ?」
「はは!人ン家ではしねーってか、昔の話だって」
火花を散らしながら、昔ばなしに花を咲かせる。
昔からやんちゃだった高尾と、昔から人より目立ちたがらなかった咲哉。
いつかアルバムを見せ合う約束を交わした後、ついに手は最後の花火を掴んだ。
「まーやっぱこれだよな」
手に取るのは今までのものと比べて細く軽い線香花火。
高尾から受け取れば、それまで立ってはしゃいでいた高尾が咲哉の横へと腰掛けた。
「んじゃ、勝負しようぜ!先に落とした方が今度会う時アイスおごるって事で」
「はは、いいよ」
丸く小さな花火が、先に落ちた方が負け。
このルールが今の男子高校生にも浸透している事に、微かな歓びを覚えてから火を灯した。
無意識に手先に訪れる緊張感と、小さな花火へ感じる儚さと愛しさ。
「咲哉、愛してるよ」
沈黙の中、隣で高尾が呟いた。
「え…」
「これからもさ、ずっと、こうやって一緒に夏を過ごそうな」
咲哉の方へ顔を向けた高尾が、ニッと眩しい笑顔を見せる。
大人びた顔つきだけれど、見せる笑顔は可愛らしい。
しかし薄く開いた目はどこか怪しくて、色っぽくて。引き寄せられる、僕も好きだと、普段言わない言葉が引きずり出されそうで。
「はいオレの勝ちー!」
突然声色を変えてケラケラと笑い出した高尾に、咲哉は唖然とした。
「え…え!?」
「勝負に隙見せちゃ駄目だぜ、センセ」
人差し指をちょいちょいと指され、その先を視線で追えば、光を失った紙切れが握られているだけ。
まさかと思って高尾をもう一度見れば、ニヤニヤとしたり顔を浮かべていた。
高尾の手にある線香花火は未だパチパチを音を立て、最初よりも大きな光を放っている。
「センセ?」
何も言わない咲哉を、高尾が覗き込む。
それでもまだ手はしっかりと固定していて、線香花火は丸く大きくなっていく。
「…高尾君」
咲哉は高尾の頬に手を当て、無防備な唇に自身の唇を押し当てた。
「…!」
「仕返し」
さすがに体を震わせた高尾の、その手にある線恋花火がぽとりと落ちる。
暫くパチパチと小さな火花を放った丸い花火は、静かに消えてなくなった。
「し、仕返しって…ふは、もうオレの勝ちは確定してんのに?」
「でも落ちた」
「落ちたけど!はは、マジ先生、可愛いー」
負けず嫌いだ!と大きな口を開けて笑い出す高尾に、ムッと唇を尖らせてそっぽを向く。
そんな子供じみた態度に、高尾は嬉しそうに咲哉の肩に手を回した。
「一応言っとくけど、さっきのちゃんと本心だからな」
「分かってるよ」
「だよな、スゲェうれしそー」
高尾の手は嬉しさ余って、力強く咲哉の肩を抱き寄せる。
再び重なる唇。深く強くなる熱。
二人は照れ臭そうに微笑み合いながら、更にシルエットを重ねた。
(後日談④ 花火・終)
追加日:2018/07/16
移動前:2015/08/30
クーラーのついた快適な部屋で、二人は各々に時間を費やしていた。
高尾和成は夏休み用に出された課題のプリント、咲哉は保健室に掲示するプリントの作成。
カタカタと暫くキーボードを叩き、程良いところでふぅと一息。
もう日が暮れて来たのだなと窓の外へ目を移した咲哉は、窓に映った青年の視線に気が付いた。
「…宿題終わったんだ?」
「終わってた。終わってからずーっとセンセの事見てました」
「あらら、声かけてくれて良かったのに。放っててごめんね」
かたんと椅子を引いて立ち上がり、高尾の横で腰を折り曲げる。
椅子に膝を立てて座っていた高尾は、不貞腐れた顔を少しだけ綻ばせた。
「許したげっから、一個お願い聞いてくんね?」
「…何だろう」
「夏っぽいことしたいなァー」
いかがわしいことじゃないだろうな、そう疑っていた咲哉は、予期せぬ健全な提案に毒気を抜かれた。
青年達は夏休みに入っても毎日部活で休む間もない。
ようやくの休日だというのに「先生の家行っていい?」なんて連絡を寄こした恋人は、午前中ベッドで眠り、午後に宿題とやっぱり健全だった。
「夏らしい事?今から?」
「今から!何でもいいよ、ナイトプールとかー、スイカ割とかー、かき氷とか?」
残念ながら近場にプールはない(というか人に見られたら問題だから論外だ)し、スイカは買いに行かないとないし、かき氷も同じだ。
咲哉はうーんと顎に手を当て唸った後、高尾の頭にぽんと手を乗せた。
「ごめんな。残念だけど、それは」
「わーかってるって。外でのデートは無理だもんなぁ…。早く大人になりてぇ」
「…デ、…ま、まあ、そう、」
「おーい、今更照れんなって」
学校や家でしか顔を合わせないせいか、未だにデートという単語にドキリとする。
じわと顔を赤らめた咲哉に、高尾はケラケラと笑いながら頭の上にある咲哉の手を握りしめた。
「こうして一緒にいられるだけでもいいんだけどさ、せっかくの夏じゃん」
「…そうだけど、夏っぽいことってなあ…」
「なー、なんかねぇかなあ…」
夏っぽいこと。しかも遠出せずに出来ることなんて。
暫く二人で頭を捻り、先に咲哉が「あ!」と声を上げた。
「そういえば、あれがあったよ!」
ぽかんとする高尾を置き去りに、咲哉はぽんと手を打ち、クローゼットを開いた。
手に掴んだのは、パーティ用の花火だ。
「これ、この前姉の家族が来た時にやるかと思って用意してたんだ」
「おお!花火じゃん!」
「結局遅くまでいなかったから、使わなくてさ。うちの庭なら外から見えないし、これくらいなら…」
「さっすが先生!」
高尾が嬉しそうに声を上げ、咲哉の背中をバシッと叩く。
痛かったわけではないものの咄嗟に擦ろうと背中に回した手は、鮮やかに高尾の手に絡め取られていた。
「んじゃ、早速やろうぜ!」
高尾は嬉しそうに跳ねながら、必要なものを指折りリストアップし始めた。
ライターと、水を入れたバケツ。あと蚊取り線香も欲しい。
高尾に言われるがまま諸々を用意して庭に出ると、丁度良く日が落ちて、光のない庭が二人を迎き入れた。
「オレ、昔雑草焼くの好きだったんだよなー。あと石に当てて色変えてやったりさ」
「えっ…やめてくれよ?」
「はは!人ン家ではしねーってか、昔の話だって」
火花を散らしながら、昔ばなしに花を咲かせる。
昔からやんちゃだった高尾と、昔から人より目立ちたがらなかった咲哉。
いつかアルバムを見せ合う約束を交わした後、ついに手は最後の花火を掴んだ。
「まーやっぱこれだよな」
手に取るのは今までのものと比べて細く軽い線香花火。
高尾から受け取れば、それまで立ってはしゃいでいた高尾が咲哉の横へと腰掛けた。
「んじゃ、勝負しようぜ!先に落とした方が今度会う時アイスおごるって事で」
「はは、いいよ」
丸く小さな花火が、先に落ちた方が負け。
このルールが今の男子高校生にも浸透している事に、微かな歓びを覚えてから火を灯した。
無意識に手先に訪れる緊張感と、小さな花火へ感じる儚さと愛しさ。
「咲哉、愛してるよ」
沈黙の中、隣で高尾が呟いた。
「え…」
「これからもさ、ずっと、こうやって一緒に夏を過ごそうな」
咲哉の方へ顔を向けた高尾が、ニッと眩しい笑顔を見せる。
大人びた顔つきだけれど、見せる笑顔は可愛らしい。
しかし薄く開いた目はどこか怪しくて、色っぽくて。引き寄せられる、僕も好きだと、普段言わない言葉が引きずり出されそうで。
「はいオレの勝ちー!」
突然声色を変えてケラケラと笑い出した高尾に、咲哉は唖然とした。
「え…え!?」
「勝負に隙見せちゃ駄目だぜ、センセ」
人差し指をちょいちょいと指され、その先を視線で追えば、光を失った紙切れが握られているだけ。
まさかと思って高尾をもう一度見れば、ニヤニヤとしたり顔を浮かべていた。
高尾の手にある線香花火は未だパチパチを音を立て、最初よりも大きな光を放っている。
「センセ?」
何も言わない咲哉を、高尾が覗き込む。
それでもまだ手はしっかりと固定していて、線香花火は丸く大きくなっていく。
「…高尾君」
咲哉は高尾の頬に手を当て、無防備な唇に自身の唇を押し当てた。
「…!」
「仕返し」
さすがに体を震わせた高尾の、その手にある線恋花火がぽとりと落ちる。
暫くパチパチと小さな火花を放った丸い花火は、静かに消えてなくなった。
「し、仕返しって…ふは、もうオレの勝ちは確定してんのに?」
「でも落ちた」
「落ちたけど!はは、マジ先生、可愛いー」
負けず嫌いだ!と大きな口を開けて笑い出す高尾に、ムッと唇を尖らせてそっぽを向く。
そんな子供じみた態度に、高尾は嬉しそうに咲哉の肩に手を回した。
「一応言っとくけど、さっきのちゃんと本心だからな」
「分かってるよ」
「だよな、スゲェうれしそー」
高尾の手は嬉しさ余って、力強く咲哉の肩を抱き寄せる。
再び重なる唇。深く強くなる熱。
二人は照れ臭そうに微笑み合いながら、更にシルエットを重ねた。
(後日談④ 花火・終)
追加日:2018/07/16
移動前:2015/08/30