高尾と保健室の先生(黒バス)
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1.一目惚れ
秀徳高校バスケ部。
全国的にも強豪と言われる学校だ。日々の練習はかなりハード、休日だって練習に費やされる。
それでも耐えられるのは、悔しい記憶があるから。
そして何より楽しいからだ。
きつい練習に体が耐えられるかどうかは、別問題だが。
「いっつー…やべぇ、やっちまったかも…」
割と堅物の多い部内では目立つ調子者の高尾和成が、よろよろと体育館の端へとはけていく。
片手で押さえるその場所は、足だ。
「高尾、どうした」
「あー真ちゃん…やっべー、足ひねっちった」
「馬鹿みたいに飛び跳ねているからなのだよ。さっさと保健室に行って来い」
「はーっ、さすが真ちゃん今日もツンが冴えてんな」
いつも通りにへらへらと笑っているものの、痛みのせいで眉が引きつっている。
緑間は相棒の様子に、さすがに不安を滲ませた。
「…ついて行った方が良いか?」
「そこまで酷くねーよ。悪ィけど大坪サンに言っといてくんね?」
「あぁ」
「サンキュー」
主将である大坪に、心配かけるような事はしたくない。
とりあえず報告は保健室でケガの具合を確認してからで良いだろう。
高尾は痛みを訴える足を押さえながら、ひょこひょこと逃げるように一人体育館を出て行った。
「…はぁ、結構無茶しちまったかなー…」
汗を腕で拭い、壁寄りをゆっくりと歩いて行く。
高校生になって、保健室に行くような事態になるのはこれが初めてだった。
その証拠に、保健室の場所すらもうろ覚えだ。
「お、あったあった」
やんちゃだった小、中学生の時は何かと世話になった気がする保健室。
それがご無沙汰なせいか、あまり良い記憶がないからか、高尾は妙な緊張を感じながら横に開く扉を動かした。
「失礼しまーっす…」
がららと音を立てて視界が広がる。
足を踏み入れた高尾は、何故か感嘆の溜め息を零していた。
思いの外広い。それから机の上、棚の中、全て綺麗に整頓されている。
「って…あれ、先生はー?すませーん」
しかし、残念ながら人影はない。
高尾はがっくりと肩を落としつつ、ゆっくりと中に足を進めた。
独特な薬品のニオイが強くなる。
その中に何か暖かい香りが混ざっている気がして、高尾は無意識に白い仕切りのカーテンに近付いていた。
「誰かいる…?」
ベッドを隠すためのカーテンだ、そんなの具合の悪い生徒がいるに決まっている。
それなのに、高尾はカーテンを捲り、中を覗き込んでいた。
何か、感じたのだ。
甘くて暖かくて優しい、不確かな何かを。
「……まじ…」
ベッドに横たわっていたのは、黒いカットソーと長ズボンを着込んだ男性。
脇に白衣が脱ぎ捨てられているあたり、この人が保健室の先生なのだろうと高尾に予感させる。
でも、なんだろう。言い表せない感覚に、高尾は暫くその人をじいと見下ろしていた。
眠る横顔が綺麗だ。下がったまつ毛が長いからか、鼻がすっと高いからか。
「あ…あのー、先生…っすよね?」
「ん…」
「寝てるとこ悪いんですけど…起きてくださーい…」
恐る恐る、その男性の肩に手を乗せて揺らす。
浅い眠りだったのか、すぐさま目を開いた男性は、そのままばっと上半身を起き上がらせた。
「あぁ…ごめん、起こしてくれて有難う」
「い、いえ…。あの、部活で足痛めちゃって、見て欲しいんすけど…」
「ちょっと待ってな。あ、そこ、椅子座って」
寝ていたところを生徒に見られたというのに焦る様子は無い。
良くあることなのだろうか。高尾は何気なく思いながら、慣れた手つきで白衣を着た先生の指さす椅子へ腰かけた。
「どういう状況で痛めたの?」
「あ…えっと、バスケ部なんすけど、ジャンプシュートから着地した時に」
「今日、突然?予兆とかは無かった?」
「そっすねー…情けないことに着地失敗したっぽくて」
すらりとした後姿。恐らく高尾よりは背が高いか、同じくらいか。
くるっと振り返ったその人は、やはり穏やかで優しそうな、それでいて綺麗な容姿をしていた。
「じゃちょっと失礼…」
高尾の目の前で先生がしゃがむ。
その手は高尾の足に優しく触れた。
「…、」
「痛かったら言って。少しずつ移動してくからね」
優しい話し方だ。高校の先生というよりは、小学生を相手にしているかのような。
それで嫌な気がしないのは、やはりその雰囲気と合っているからだろう。
「…ね、先生、名前は?」
「え、僕?鈴木咲哉」
「年齢は?格好いいし、女子生徒から人気あるっしょ?」
「歳は今年31。こんな三十路男、女子高生は興味ないだろ」
「いやいやいや…あ、そこちょっと痛い」
高尾の反応に、咲哉の手つきはますます優しくなった。
指先が肌を撫でるように、羽が伝って落ちるみたいに。
「着地した時に捻っただけだね。暫く安静にしていればすぐに良くなるよ」
「そっか、良かったー…」
「とはいえ安心しちゃ駄目だからな。良く冷やして」
そう言いながら、立ち上がった咲哉が冷凍庫を開けて氷を取り出す。
袋に氷が詰められ、がらがらと心地の良い音が聞こえてきた。
「先生、恋人とか…あ、奥さんいる?」
「いないよ。当て付けのように皆それ聞いてくるけど、おっさんのそんな事聞いてどうするんだ?」
「っつか先生おっさんじゃないっしょ」
「高校生がよく言うよ」
柔らかな笑顔を浮かべながら、氷のう片手に高尾の目の前に戻ってくる。
「冷たいからね」と一声の後、高尾の足首に押し当てられた氷。
一緒に触れる細い指。綺麗な爪の形。
丁寧に手入れがされているのは、たぶん、生徒を間違ってでも傷つけないようにという配慮だろう。
「そういう君はどう?モテるだろ」
「いやー、オレは無いっすよ。あ、オレ、一年の高尾和成です」
「高尾君、一応言っておくけど無理は禁物だし、今日はもう部活しちゃ駄目だよ」
「分かってまーす…」
細い手首、運動はもっぱらって感じだ。
白衣のせいで出にくい体のラインは、さっき眠っている時に確認した。
細い腰だった。
臀部に向かう凹凸は、よく知らないけど女性みたいな曲線で。
「…咲哉先生」
「ん?」
「はは、呼んでみただけ!」
きょとんと目を丸くした咲哉が「何それ」と肩をすくめて笑った。
その瞬間、ぶわっと風が吹きこむ。
バタバタと音を立てたカーテン。それから、揺らされた高尾と咲哉の黒い髪。
「今日は風が強いな…帰る時、転ばないようにね」
「なんすかそれ!そんなヤワじゃねーっすよ」
「はは、そうだね」
目を細めて、高尾を見下ろす。
その咲哉の指が、風で乱れた高尾の前髪を梳いた。
額の真ん中に指を挿し込み、耳の方へと流す。拍子に触れた掌の感触に、高尾の頬が熱くなっていく。
「あー…あざっした!!」
高尾は慌てて立ち上がり、自分の顔を手で仰いだ。
一歩踏み出せば、来た時よりも痛みの引いた足に巻かれたテーピングが目に入る。
熱くて、体がふわふわする。なんだこれ。
「また痛くなったらおいで。勿論、元気な姿を見せてくれた方が嬉しいけど」
「へへ、じゃあまた来ます」
「あ…寝てたらごめんね」
あっけらかんと言う咲哉に、思わずぷっと噴出す。
そのまま保健室を後にした高尾は、にやけた顔を掌で覆ったまま歩き出した。
さっきまで怪我して落ち込んでいたはずなのに、気分はむしろ良い。
きっと、またここに来るだろう。
「咲哉センセ…」
高尾は一度振り返り、覚えたての名前を胸に焼き付けた。
(第一話・終)
追加日:2017/09/23
移動前:2013/09/13
秀徳高校バスケ部。
全国的にも強豪と言われる学校だ。日々の練習はかなりハード、休日だって練習に費やされる。
それでも耐えられるのは、悔しい記憶があるから。
そして何より楽しいからだ。
きつい練習に体が耐えられるかどうかは、別問題だが。
「いっつー…やべぇ、やっちまったかも…」
割と堅物の多い部内では目立つ調子者の高尾和成が、よろよろと体育館の端へとはけていく。
片手で押さえるその場所は、足だ。
「高尾、どうした」
「あー真ちゃん…やっべー、足ひねっちった」
「馬鹿みたいに飛び跳ねているからなのだよ。さっさと保健室に行って来い」
「はーっ、さすが真ちゃん今日もツンが冴えてんな」
いつも通りにへらへらと笑っているものの、痛みのせいで眉が引きつっている。
緑間は相棒の様子に、さすがに不安を滲ませた。
「…ついて行った方が良いか?」
「そこまで酷くねーよ。悪ィけど大坪サンに言っといてくんね?」
「あぁ」
「サンキュー」
主将である大坪に、心配かけるような事はしたくない。
とりあえず報告は保健室でケガの具合を確認してからで良いだろう。
高尾は痛みを訴える足を押さえながら、ひょこひょこと逃げるように一人体育館を出て行った。
「…はぁ、結構無茶しちまったかなー…」
汗を腕で拭い、壁寄りをゆっくりと歩いて行く。
高校生になって、保健室に行くような事態になるのはこれが初めてだった。
その証拠に、保健室の場所すらもうろ覚えだ。
「お、あったあった」
やんちゃだった小、中学生の時は何かと世話になった気がする保健室。
それがご無沙汰なせいか、あまり良い記憶がないからか、高尾は妙な緊張を感じながら横に開く扉を動かした。
「失礼しまーっす…」
がららと音を立てて視界が広がる。
足を踏み入れた高尾は、何故か感嘆の溜め息を零していた。
思いの外広い。それから机の上、棚の中、全て綺麗に整頓されている。
「って…あれ、先生はー?すませーん」
しかし、残念ながら人影はない。
高尾はがっくりと肩を落としつつ、ゆっくりと中に足を進めた。
独特な薬品のニオイが強くなる。
その中に何か暖かい香りが混ざっている気がして、高尾は無意識に白い仕切りのカーテンに近付いていた。
「誰かいる…?」
ベッドを隠すためのカーテンだ、そんなの具合の悪い生徒がいるに決まっている。
それなのに、高尾はカーテンを捲り、中を覗き込んでいた。
何か、感じたのだ。
甘くて暖かくて優しい、不確かな何かを。
「……まじ…」
ベッドに横たわっていたのは、黒いカットソーと長ズボンを着込んだ男性。
脇に白衣が脱ぎ捨てられているあたり、この人が保健室の先生なのだろうと高尾に予感させる。
でも、なんだろう。言い表せない感覚に、高尾は暫くその人をじいと見下ろしていた。
眠る横顔が綺麗だ。下がったまつ毛が長いからか、鼻がすっと高いからか。
「あ…あのー、先生…っすよね?」
「ん…」
「寝てるとこ悪いんですけど…起きてくださーい…」
恐る恐る、その男性の肩に手を乗せて揺らす。
浅い眠りだったのか、すぐさま目を開いた男性は、そのままばっと上半身を起き上がらせた。
「あぁ…ごめん、起こしてくれて有難う」
「い、いえ…。あの、部活で足痛めちゃって、見て欲しいんすけど…」
「ちょっと待ってな。あ、そこ、椅子座って」
寝ていたところを生徒に見られたというのに焦る様子は無い。
良くあることなのだろうか。高尾は何気なく思いながら、慣れた手つきで白衣を着た先生の指さす椅子へ腰かけた。
「どういう状況で痛めたの?」
「あ…えっと、バスケ部なんすけど、ジャンプシュートから着地した時に」
「今日、突然?予兆とかは無かった?」
「そっすねー…情けないことに着地失敗したっぽくて」
すらりとした後姿。恐らく高尾よりは背が高いか、同じくらいか。
くるっと振り返ったその人は、やはり穏やかで優しそうな、それでいて綺麗な容姿をしていた。
「じゃちょっと失礼…」
高尾の目の前で先生がしゃがむ。
その手は高尾の足に優しく触れた。
「…、」
「痛かったら言って。少しずつ移動してくからね」
優しい話し方だ。高校の先生というよりは、小学生を相手にしているかのような。
それで嫌な気がしないのは、やはりその雰囲気と合っているからだろう。
「…ね、先生、名前は?」
「え、僕?鈴木咲哉」
「年齢は?格好いいし、女子生徒から人気あるっしょ?」
「歳は今年31。こんな三十路男、女子高生は興味ないだろ」
「いやいやいや…あ、そこちょっと痛い」
高尾の反応に、咲哉の手つきはますます優しくなった。
指先が肌を撫でるように、羽が伝って落ちるみたいに。
「着地した時に捻っただけだね。暫く安静にしていればすぐに良くなるよ」
「そっか、良かったー…」
「とはいえ安心しちゃ駄目だからな。良く冷やして」
そう言いながら、立ち上がった咲哉が冷凍庫を開けて氷を取り出す。
袋に氷が詰められ、がらがらと心地の良い音が聞こえてきた。
「先生、恋人とか…あ、奥さんいる?」
「いないよ。当て付けのように皆それ聞いてくるけど、おっさんのそんな事聞いてどうするんだ?」
「っつか先生おっさんじゃないっしょ」
「高校生がよく言うよ」
柔らかな笑顔を浮かべながら、氷のう片手に高尾の目の前に戻ってくる。
「冷たいからね」と一声の後、高尾の足首に押し当てられた氷。
一緒に触れる細い指。綺麗な爪の形。
丁寧に手入れがされているのは、たぶん、生徒を間違ってでも傷つけないようにという配慮だろう。
「そういう君はどう?モテるだろ」
「いやー、オレは無いっすよ。あ、オレ、一年の高尾和成です」
「高尾君、一応言っておくけど無理は禁物だし、今日はもう部活しちゃ駄目だよ」
「分かってまーす…」
細い手首、運動はもっぱらって感じだ。
白衣のせいで出にくい体のラインは、さっき眠っている時に確認した。
細い腰だった。
臀部に向かう凹凸は、よく知らないけど女性みたいな曲線で。
「…咲哉先生」
「ん?」
「はは、呼んでみただけ!」
きょとんと目を丸くした咲哉が「何それ」と肩をすくめて笑った。
その瞬間、ぶわっと風が吹きこむ。
バタバタと音を立てたカーテン。それから、揺らされた高尾と咲哉の黒い髪。
「今日は風が強いな…帰る時、転ばないようにね」
「なんすかそれ!そんなヤワじゃねーっすよ」
「はは、そうだね」
目を細めて、高尾を見下ろす。
その咲哉の指が、風で乱れた高尾の前髪を梳いた。
額の真ん中に指を挿し込み、耳の方へと流す。拍子に触れた掌の感触に、高尾の頬が熱くなっていく。
「あー…あざっした!!」
高尾は慌てて立ち上がり、自分の顔を手で仰いだ。
一歩踏み出せば、来た時よりも痛みの引いた足に巻かれたテーピングが目に入る。
熱くて、体がふわふわする。なんだこれ。
「また痛くなったらおいで。勿論、元気な姿を見せてくれた方が嬉しいけど」
「へへ、じゃあまた来ます」
「あ…寝てたらごめんね」
あっけらかんと言う咲哉に、思わずぷっと噴出す。
そのまま保健室を後にした高尾は、にやけた顔を掌で覆ったまま歩き出した。
さっきまで怪我して落ち込んでいたはずなのに、気分はむしろ良い。
きっと、またここに来るだろう。
「咲哉センセ…」
高尾は一度振り返り、覚えたての名前を胸に焼き付けた。
(第一話・終)
追加日:2017/09/23
移動前:2013/09/13
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