八乙女楽(IDOLiSH7)
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一人減った部屋に落ちるのは、少々重くも感じる空気。
元々あまり饒舌ではない天と楽。
龍之介は柔らかい髪の感触残る手のひらを見つめ、ふっと目を細めた。
本当に可愛い弟みたいな存在だ。
自分を好きでいてくれる、それが纏う空気や表情、全てで伝わってくる。
あんな風にきつく言う天も、サツキが可愛いが故だろう。
「……なあ、龍。お前この雑誌見たか?」
何気なく考えていた龍之介は、突然ふられた声にびくり肩を揺らした。
ぱっと振り返ると、楽は手に持った雑誌を龍之介に突き付けている。
「え?い、いや、見てないけど、何か書いてあった?」
「ここ、見てみろよ」
「…男性限定アンケート…一度でいいから、抱きたい女…!?」
視線を落として文字を目で追い、そのまま読み上げてしまった龍之介はカッと顔を赤くしていた。
龍之介はこういうことについては疎い、というか苦手だ。
しかし、真剣な顔をしたまま雑誌を見下ろす楽につられて、龍之介は再び雑誌の文面を眺めた。
「……って、サツキがランクインしてる!?」
有名女優が名を連ねる中、一人だけどう考えても浮いている。
20位以内に名前を挙げたサツキには、コメントまで付けられていた。
「女性という期待を込めて…って…」
「結構ファンの間でも度々論争されてるらしいな。男か、女か」
「そ、そうなのか…本当に上手くいくとはな…」
活動開始前、「男にも女にもなれる歌手になれ」とそう社長に言われたサツキは酷く困惑していた。
顔を出さないわけにいかない仕事でそれは無理だろうと、その時は思っていたのだ。
サツキも、TRIGGERの3人も。
「インディーズ時代からのファンは、相変わらずかなり熱狂的ってわけだ」
「あ、やっぱりこの票って」
「熱狂的な男性ファンが票入れまくったんだろ」
その外見と声とキャラクター性を生かすべく、彼は彼女のように振る舞う。
勿論女性を偽っているとかではなく、女性のようで、男性のようで。
「やっぱり危険だ。アイツもTRIGGERに」
「コンセプトが違うから却下」
「でも、知らないところでアイツが変な男に付き纏われっかもしれねえ」
「サツキ…楽が大切にしすぎて、素直な子に育ったもんな…」
「いくらなんでも、サツキだって男なんだから平気でしょ」
サツキのこととなると、揃いも揃って口達者になるのはどうなのだろう。
龍之介はその楽に不安を与えた雑誌をぱたりと閉じて、ぽりぽりと頭をかいた。
「サツキ…」
楽がもう既に姿のないサツキの名を呼んで憂い顔を見せる。
龍之介もそんな楽を見てため息を吐き、視線を落とした。
そんな二人を見て、顔をしかめるのは天だ。
「こんな事言うと追い打ちになるんだろうけど…サツキは間違いなく敵をつくるよ」
「…あの容姿だからな」
「そう。本当に歌だけで勝負している人からしたら、サツキには天性のものが備わり過ぎてる」
サツキの歌が下手だとか言うわけではない。
容姿と声と、それから歌声と。全てが揃いすぎているのだ。
そしてそれは間違いなく嫉妬、そして恨みへと変わる。
そういう目や言葉を向けられてもおかしくない場所にいるのだ。
「まあ…君達がいるし、そんなに心配することもないかな」
「当たり前だ。アイツのことは俺が守る」
「俺達が、だろ」
純粋で、世間知らずで。
自分達の前でだけ本来の己を見せる人。
それが可愛いのは当然、仕方のないことだ。
そう自分の中で一度完結させてから、天は細めた目を二人へと向けた。
「一応言っとくけど、求められていないところでサツキの話なんて絶対にしないでね」
呟かれた天の言葉は、やはりTRIGGERの未来を思ったものであった。
・・・
とんとん。軽く鳴った音に、楽はゆっくりと顔を上げた。
もうそろそろ寝る時間だ、そんな時間に八乙女楽の部屋をノックする人間は一人しかいない。
楽は目を向けていた本を机に置き、すっと立ち上がった。
「サツキか」
「…うん、今、大丈夫?」
大丈夫かとの問いに答える声はなく。
警戒心なくすぐさま開け放たれたドアに、サツキはほっとしたのか顔をほころばせた。
「ゴメン、ちょっとだけ、時間もらってもいいかな」
「どうした?中、入れよ」
むしろ、頼って訪れるのがここで嬉しい限りだ。
…などと楽が思っていることなど知る由もないサツキは、おずおずと部屋に足を踏み入れた。
「疲れてるんじゃないのか?」
「まあ、でも、TRIGGER程じゃないよ」
「そりゃあそうだろ」
馬鹿にしたように吐き出した言葉に、サツキがにこりと微笑む。
ああ、やっぱり疲れてんだな。
楽はサツキをベッドへと導くと、自分は正面の床に膝をついた。
「で?どうした」
「…全然、楽からしたら大したことじゃないんだろうけど…」
「いいよ」
「ん…俺今、自分がどうしたいのか、何も見えてないんだ」
胸を押さえて、切なげに眉を寄せる。
滅多に見せない弱った表情に、楽は一度伸ばしかけた手をくっと自身の胸に引き戻した。
「歌もダンスも好きで、輝く皆の背中を追って、でも、社長が示す道をただただ進んでた。インタビューで綺麗ごと言うのも、すごく嫌なんだ。俺、なんなんだろうって」
テレビで見るサツキよりも、少し低い声。それが微かに擦れて、普段見せない弱さと色っぽさが漂った。
こんな弱さを持っている人を、荒波の中へ押し込む手助けをしてしまった。
楽はサツキと同じように一度視線を落としてから、改めてその顔を視界に映した。
「デビューして、少しずつ皆との時間が減って…自分で仕事もらって、気付いたら、道標が探せなくなってて」
「俺との時間が減って寂しいって?」
「…俺今真面目な話してるんだけど」
サツキの頬がぷくと膨れる。
綺麗な顔して、まだまだ中身は子供だ。それが余計に心配で、手放すわけにはいかなくて。楽はその膨れた頬を手の甲で撫でた。
「サツキ。本音なんて皆隠し持ってるもんだ」
「…え?」
「納得いかないことも、むかつくことも当然ある。天みたいに表は全部偽物かもしれないしな」
楽の言葉に「俺もだ」とサツキが小さく零す。
天使と小悪魔レベルの空を被った天と違って、サツキが作っているのは口調程度のものだというのに。
「何がしたいか?そんなの、これからお前が見つけりゃいい」
「…出来ないよ」
「出来るよ。テレビで勝手にIDOLiSH7の話出せるくらいだ」
「それ、怒ってる?」
「怒ってねーよ」
言葉通り、楽はニッと笑ってサツキの頭を撫でた。
そのままサツキの頭を引き寄せ抱き締める。ぽすんと肩に顔を埋めたサツキは、素直にその背に手を回していた。
「ただ…勝手に会いに行くなよ」
「、……うん」
「俺達がいるだろ」
IDOLiSH7をサツキが気にする理由、それを知るのは楽だけ。
サツキは一度躊躇って、けれど小さく「ん」と頷いた。
「俺今、抱かれたい男ナンバーワンに抱かれてるね」
ファンの子達に知られたら、後ろから刺されちゃうかも。
そんな笑い事にもならないことを笑って言ったサツキに、楽は笑えなかった。
「…お前、まさかそれ本気で言ってないだろうな」
「え?何?」
「……やっぱお前にTRIGGERは無理だな」
もちろん本気でサツキをTRIGGERになど思ってはいないが。
楽のため息に、サツキがその胸板を押して体を離した。
「知ってるよ、俺にはエロさが足りないんでしょ」
「全然だな」
「馬鹿にしてる」
「してねぇよ。可愛いから今はそれでいい」
さらりと口から零れた“可愛い”に、サツキがぷいと楽から目を逸らす。
けれど、薄らと赤くなった頬は隠せていない。
楽が思わず口元に手をやって笑うと、サツキは恥ずかしそうに顔を両手で覆った。
(第一話・終)
追加日:2017/09/18
移動前:2015/10/10
元々あまり饒舌ではない天と楽。
龍之介は柔らかい髪の感触残る手のひらを見つめ、ふっと目を細めた。
本当に可愛い弟みたいな存在だ。
自分を好きでいてくれる、それが纏う空気や表情、全てで伝わってくる。
あんな風にきつく言う天も、サツキが可愛いが故だろう。
「……なあ、龍。お前この雑誌見たか?」
何気なく考えていた龍之介は、突然ふられた声にびくり肩を揺らした。
ぱっと振り返ると、楽は手に持った雑誌を龍之介に突き付けている。
「え?い、いや、見てないけど、何か書いてあった?」
「ここ、見てみろよ」
「…男性限定アンケート…一度でいいから、抱きたい女…!?」
視線を落として文字を目で追い、そのまま読み上げてしまった龍之介はカッと顔を赤くしていた。
龍之介はこういうことについては疎い、というか苦手だ。
しかし、真剣な顔をしたまま雑誌を見下ろす楽につられて、龍之介は再び雑誌の文面を眺めた。
「……って、サツキがランクインしてる!?」
有名女優が名を連ねる中、一人だけどう考えても浮いている。
20位以内に名前を挙げたサツキには、コメントまで付けられていた。
「女性という期待を込めて…って…」
「結構ファンの間でも度々論争されてるらしいな。男か、女か」
「そ、そうなのか…本当に上手くいくとはな…」
活動開始前、「男にも女にもなれる歌手になれ」とそう社長に言われたサツキは酷く困惑していた。
顔を出さないわけにいかない仕事でそれは無理だろうと、その時は思っていたのだ。
サツキも、TRIGGERの3人も。
「インディーズ時代からのファンは、相変わらずかなり熱狂的ってわけだ」
「あ、やっぱりこの票って」
「熱狂的な男性ファンが票入れまくったんだろ」
その外見と声とキャラクター性を生かすべく、彼は彼女のように振る舞う。
勿論女性を偽っているとかではなく、女性のようで、男性のようで。
「やっぱり危険だ。アイツもTRIGGERに」
「コンセプトが違うから却下」
「でも、知らないところでアイツが変な男に付き纏われっかもしれねえ」
「サツキ…楽が大切にしすぎて、素直な子に育ったもんな…」
「いくらなんでも、サツキだって男なんだから平気でしょ」
サツキのこととなると、揃いも揃って口達者になるのはどうなのだろう。
龍之介はその楽に不安を与えた雑誌をぱたりと閉じて、ぽりぽりと頭をかいた。
「サツキ…」
楽がもう既に姿のないサツキの名を呼んで憂い顔を見せる。
龍之介もそんな楽を見てため息を吐き、視線を落とした。
そんな二人を見て、顔をしかめるのは天だ。
「こんな事言うと追い打ちになるんだろうけど…サツキは間違いなく敵をつくるよ」
「…あの容姿だからな」
「そう。本当に歌だけで勝負している人からしたら、サツキには天性のものが備わり過ぎてる」
サツキの歌が下手だとか言うわけではない。
容姿と声と、それから歌声と。全てが揃いすぎているのだ。
そしてそれは間違いなく嫉妬、そして恨みへと変わる。
そういう目や言葉を向けられてもおかしくない場所にいるのだ。
「まあ…君達がいるし、そんなに心配することもないかな」
「当たり前だ。アイツのことは俺が守る」
「俺達が、だろ」
純粋で、世間知らずで。
自分達の前でだけ本来の己を見せる人。
それが可愛いのは当然、仕方のないことだ。
そう自分の中で一度完結させてから、天は細めた目を二人へと向けた。
「一応言っとくけど、求められていないところでサツキの話なんて絶対にしないでね」
呟かれた天の言葉は、やはりTRIGGERの未来を思ったものであった。
・・・
とんとん。軽く鳴った音に、楽はゆっくりと顔を上げた。
もうそろそろ寝る時間だ、そんな時間に八乙女楽の部屋をノックする人間は一人しかいない。
楽は目を向けていた本を机に置き、すっと立ち上がった。
「サツキか」
「…うん、今、大丈夫?」
大丈夫かとの問いに答える声はなく。
警戒心なくすぐさま開け放たれたドアに、サツキはほっとしたのか顔をほころばせた。
「ゴメン、ちょっとだけ、時間もらってもいいかな」
「どうした?中、入れよ」
むしろ、頼って訪れるのがここで嬉しい限りだ。
…などと楽が思っていることなど知る由もないサツキは、おずおずと部屋に足を踏み入れた。
「疲れてるんじゃないのか?」
「まあ、でも、TRIGGER程じゃないよ」
「そりゃあそうだろ」
馬鹿にしたように吐き出した言葉に、サツキがにこりと微笑む。
ああ、やっぱり疲れてんだな。
楽はサツキをベッドへと導くと、自分は正面の床に膝をついた。
「で?どうした」
「…全然、楽からしたら大したことじゃないんだろうけど…」
「いいよ」
「ん…俺今、自分がどうしたいのか、何も見えてないんだ」
胸を押さえて、切なげに眉を寄せる。
滅多に見せない弱った表情に、楽は一度伸ばしかけた手をくっと自身の胸に引き戻した。
「歌もダンスも好きで、輝く皆の背中を追って、でも、社長が示す道をただただ進んでた。インタビューで綺麗ごと言うのも、すごく嫌なんだ。俺、なんなんだろうって」
テレビで見るサツキよりも、少し低い声。それが微かに擦れて、普段見せない弱さと色っぽさが漂った。
こんな弱さを持っている人を、荒波の中へ押し込む手助けをしてしまった。
楽はサツキと同じように一度視線を落としてから、改めてその顔を視界に映した。
「デビューして、少しずつ皆との時間が減って…自分で仕事もらって、気付いたら、道標が探せなくなってて」
「俺との時間が減って寂しいって?」
「…俺今真面目な話してるんだけど」
サツキの頬がぷくと膨れる。
綺麗な顔して、まだまだ中身は子供だ。それが余計に心配で、手放すわけにはいかなくて。楽はその膨れた頬を手の甲で撫でた。
「サツキ。本音なんて皆隠し持ってるもんだ」
「…え?」
「納得いかないことも、むかつくことも当然ある。天みたいに表は全部偽物かもしれないしな」
楽の言葉に「俺もだ」とサツキが小さく零す。
天使と小悪魔レベルの空を被った天と違って、サツキが作っているのは口調程度のものだというのに。
「何がしたいか?そんなの、これからお前が見つけりゃいい」
「…出来ないよ」
「出来るよ。テレビで勝手にIDOLiSH7の話出せるくらいだ」
「それ、怒ってる?」
「怒ってねーよ」
言葉通り、楽はニッと笑ってサツキの頭を撫でた。
そのままサツキの頭を引き寄せ抱き締める。ぽすんと肩に顔を埋めたサツキは、素直にその背に手を回していた。
「ただ…勝手に会いに行くなよ」
「、……うん」
「俺達がいるだろ」
IDOLiSH7をサツキが気にする理由、それを知るのは楽だけ。
サツキは一度躊躇って、けれど小さく「ん」と頷いた。
「俺今、抱かれたい男ナンバーワンに抱かれてるね」
ファンの子達に知られたら、後ろから刺されちゃうかも。
そんな笑い事にもならないことを笑って言ったサツキに、楽は笑えなかった。
「…お前、まさかそれ本気で言ってないだろうな」
「え?何?」
「……やっぱお前にTRIGGERは無理だな」
もちろん本気でサツキをTRIGGERになど思ってはいないが。
楽のため息に、サツキがその胸板を押して体を離した。
「知ってるよ、俺にはエロさが足りないんでしょ」
「全然だな」
「馬鹿にしてる」
「してねぇよ。可愛いから今はそれでいい」
さらりと口から零れた“可愛い”に、サツキがぷいと楽から目を逸らす。
けれど、薄らと赤くなった頬は隠せていない。
楽が思わず口元に手をやって笑うと、サツキは恥ずかしそうに顔を両手で覆った。
(第一話・終)
追加日:2017/09/18
移動前:2015/10/10