八乙女楽(IDOLiSH7)
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1.新人アーティスト
小さな事務所の一室。
ここは、メジャーデビューして間もない男性アイドルグループ、IDOLiSH7が集まる場所だ。
努力と才能と実力とが確実に評価され始め、若者の間では知れた名前になりつつある。
そんな彼等の何気ない一日。彼等はレッスン後の休憩時間を過ごしていた。
「…あ!」
軽い談笑を交わしていたメンバーは、突然の少女の声にぴたと会話を止めた。
マネージャーである小鳥遊紡の高い声は、この男ばかりの部屋では大きくなくとも響く。
「マネージャー?どうかした?」
素早く彼女の声に反応した七瀬陸は、ぱっと目を紡に向けて体を乗り出した。
「す、すみません、大きな声を出してしまって…」
「そんな、謝らなくていいよ。何かあった?」
「何かってほどじゃないんですけど…この人、七瀬さん知ってますか?」
この人、そう言いながらマネージャーの細い指がテレビに向けられる。
そこに映された人。どうやらトーク番組のゲストで登場した人らしい。
「えっと、オレは知らないけど…マネージャー知ってる人?」
「知っている、と言いますか…。この人、人気急上昇中のアーティストさんで」
「へえ、綺麗な人だな」
陸と紡の会話に割込み、その容姿の感想を告げたのは和泉三月だった。
思わずそんな感想を零してくれた三月に対し、マネージャーが嬉しそうに微笑む。
やっぱりそう思いますよね、と言う紡に、陸は「え!」と大きな声を上げた。
「ま、マネージャーはこういう人がタイプなの!?」
「え?いえ、そういうわけではないですが…でも素敵ですよね」
「あ、ああ、そう、そうだね!」
そしてすぐに安心したように微笑む陸に、中学生かよと思うのは、最年長二階堂大和だ。
大和は頬をかいて、一息ついてからマネージャーに目を向けた。
「それで?この人がどうしたって?」
「あ、はい!この人、TRIGGERと同じ事務所の方なんです」
TRIGGER。
その言葉に、それまであまり興味がなさそうにしていたメンバーも目を見開いて紡に視線を移した。
それから、その奥に見えるテレビをじっと見つめてその輪郭を捉える。
「へぇ…またタイプの違う…ん?男、か?」
「公式では性別の発表はしてないですが…強みは性別問わず人気があるということらしいです」
「はー、確かに中性的な顔だなー」
まじまじと見れば見るほど、単純に綺麗な人だという思いを抱く。
端正な容姿を目の前に、心なしか頬がゆるんだインタビュアーの女性は『どうしてこの業界に?』なんてありがちな質問を投げかけた。
『そうですね…歌が好きだとか、応援してくれる皆さんに応えたいだとか、いろんな思いはありますが…』
初めて耳にするその人の声は、あまりに透き通っていて、無意識にも皆が口を閉ざした。
男にも女にも聞こえる声だ。
『…最近IDOLiSH7、人気じゃないですか。あ、男性アイドルグループなんですけどご存知ですか?』
その声に聞き入るように耳を傾けていたその場の全員が、一瞬聞き間違いかと疑った。
今、まさか、“アイドリッシュセブン”と言っただろうか。
「えっ!」
思わず叫び、今度は全員が身を乗り出して凝視する。
自分達の名前が言われた…驚きの理由はそれだけではない。
ある意味ライバルのような事務所の人が、その名を出して良いのかという動揺もあった。
『その中の一人が言ってたんです。妹を探していると。だからテレビに出たいのだと』
「…これ、環のことだ」
ぽつりと三月が呟く。
メンバーの一人、現在はこの場にいない四葉環は確かにこの話をテレビでしていた。
『なるほどって、思ったんです』
『…なるほど、ですか?』
『はい。私もきっと、見つけて欲しくてやってるんだなって』
その柔らかい声が紡ぐ、少し気取った言葉。
それがじんと胸に入ってくるのは何故だろうか。
『応援してくれている方々は、どこかで私を見つけてくれたわけですし』
『今日もきっと見つけてもらえていますよ』
『そうだと嬉しいですね』
にこりと微笑んだその姿がアップで映される。
最初にTRIGGERと聞いてしまったから余計に不思議な感覚だった。
大人っぽい雰囲気と色っぽさを纏う絶対的存在TRIGGER。
「…なんだか、こう、好感をもてる方ですね」
沈黙を破ったのは、和泉一織。
基本的に人に対して毒ばかり吐く一織の発言に驚く間もなく、陸はうんと強く頷いた。
「今の、ちょっとだけだけどさ、全然嫌なとこ見つけられないっていうか…」
「オレ等のこと、話題に出してくれたしな!」
「すげぇな、あの事務所、そういうの嫌がりそうなイメージあっけど」
「ワタシ、この人すごく好きです!」
今のほんの数秒でこの場の全員がこの人物の空気に呑まれている。
紡は盛り上がるメンバーから目を逸らし、テレビに目を戻した。
「…牧野サツキ」
この人が、アイドルじゃなくて良かった。ライバルになる存在じゃなくて。
そうどこかでホッとしていることに気付き、紡はぱちと小さく自分の頬をうった。
・・・
プツ、とテレビの画面が真っ暗になる。
訪れた静寂の中に落とされたのは、色っぽさをも纏う盛大な溜め息だった。
「お前さあ…」
振り返ったその細い目は、呆れているのかいつもより更に細められている。
そのある意味想像通りのような反応に、サツキは肩をすくめてみせた。
「…怒った?」
「怒ってはない。けど、どうかとは思う」
棘のある声にしゅんと頭を下げると、その大きな手がぽんと頭に乗せられる。
くしゃと撫でる優しい兄の手だ。
「言い訳するならしてみな」
「大事なことだったんだ。だから、今回だけ…でも、気付いてくれるかもしれないから」
継ぎ接ぎのような言葉に、また頭の上で息が零れる。
八乙女楽、今人気ナンバーワンアイドルグループの一人。
その中でも特に人気のある楽の端正な容姿を目の前に、サツキはチラと見上げてきゅっと口を噤んだ。
呆れられている。弁明の余地もない。
「いいんじゃないかな」
二人の間の空気を壊したのは、腰を折り曲げサツキを覗き込んだ十龍之介だった。
俯いたその目に入り込んだ優しい顔に、少しだけ安堵し胸を撫で下ろす。
「社長がどう思うかはともかく…サツキのキャラクターを思えば悪くないと思うよ」
ね、天。そう龍之介が振り返りながら問いかける。
天と呼ばれた青年は、ふうっと息をついて腰に手を当てた。
「敵味方なく…無条件に癒しを与える存在。サツキはそうあるべきだとボクは思ってる」
「ほら、天もこう言ってる」
「だからって、あそこのアイドルの名前はそう出さない方がいいよ。社長を怒らせたら面倒だから」
さらりと言う九条天はTRIGGERのセンターを務めている男だ。
仕事に関してかなりストイックで、サツキはその指摘に自然と頷いていた。
「お前等な…サツキに甘いぞ」
「「楽には言われたくない」」
重なった二人の声に、楽ははあっと息を吐き、サツキはふっと笑った。
彼等といる時間が好きだ。まだまだ新人のサツキに厳しく、それでいて本当の兄弟のようで、居心地が良い。
「…サツキ、何笑ってるの」
「あ…ごめんなさい」
そんなサツキの心を見破ったのか、天がまた鋭い目でサツキをとらえる。
それから体をサツキの方へ向けると、首を小さく傾けた。
「ていうか、どうしてそんなにあのアイドル気にするの?ボク等はともかく」
「九条さんの弟もいるんですよね?」
「…誰に聞いたの」
今度は冷たい声がサツキではなく楽と龍之介に向けられる。
それに対して、更に棘のある声を出したのは楽だった。
「聞いた、じゃねーよ。こいつが気付いたんだ。兄弟?って聞かれたからそうだって答えた」
「え、知られたくないことだった?」
「はあ…別にいいけど」
天がソファに背中を預けて足を組む。
そんな天から楽は目を逸らし、龍之介はサツキの頭を繰り返し撫でまわした。
もう子供じゃないんだけど。そう思うサツキにとって龍之介は4つ年上の兄のような存在だ。
「ねえ、サツキ」
「は、はい!」
「君がどうしようと構わないけど、ボク等のこと、余計に話すのだけは許さないから」
「それは勿論、分かってます!大丈夫だよ」
サツキは力強く頷いて、目の前にいる龍之介に笑いかけた。
龍之介の優しい笑顔が返される。そんなサツキと龍之介の間を割るように入り込んだ白い腕は、とんと龍之介の胸を押した。
「もう離してやれ。サツキも、そろそろ時間だろ」
「え、あ、そうだ。準備しないと」
「え?サツキ、今日も仕事入ってるのか?」
「今が売り込み時だって」
社長がそう言っていた、今までもこれからも、社長の言う通りに動く。
そうやってずっと生きてきた。
「気を付けろよ」
「うん。いってきます」
それでも折れることなくここまで来れたのは、彼等のおかげだ。ずっと支えてくれる三人のおかげ。
サツキは軽く手を振ってパタンと扉を閉めた。
→
小さな事務所の一室。
ここは、メジャーデビューして間もない男性アイドルグループ、IDOLiSH7が集まる場所だ。
努力と才能と実力とが確実に評価され始め、若者の間では知れた名前になりつつある。
そんな彼等の何気ない一日。彼等はレッスン後の休憩時間を過ごしていた。
「…あ!」
軽い談笑を交わしていたメンバーは、突然の少女の声にぴたと会話を止めた。
マネージャーである小鳥遊紡の高い声は、この男ばかりの部屋では大きくなくとも響く。
「マネージャー?どうかした?」
素早く彼女の声に反応した七瀬陸は、ぱっと目を紡に向けて体を乗り出した。
「す、すみません、大きな声を出してしまって…」
「そんな、謝らなくていいよ。何かあった?」
「何かってほどじゃないんですけど…この人、七瀬さん知ってますか?」
この人、そう言いながらマネージャーの細い指がテレビに向けられる。
そこに映された人。どうやらトーク番組のゲストで登場した人らしい。
「えっと、オレは知らないけど…マネージャー知ってる人?」
「知っている、と言いますか…。この人、人気急上昇中のアーティストさんで」
「へえ、綺麗な人だな」
陸と紡の会話に割込み、その容姿の感想を告げたのは和泉三月だった。
思わずそんな感想を零してくれた三月に対し、マネージャーが嬉しそうに微笑む。
やっぱりそう思いますよね、と言う紡に、陸は「え!」と大きな声を上げた。
「ま、マネージャーはこういう人がタイプなの!?」
「え?いえ、そういうわけではないですが…でも素敵ですよね」
「あ、ああ、そう、そうだね!」
そしてすぐに安心したように微笑む陸に、中学生かよと思うのは、最年長二階堂大和だ。
大和は頬をかいて、一息ついてからマネージャーに目を向けた。
「それで?この人がどうしたって?」
「あ、はい!この人、TRIGGERと同じ事務所の方なんです」
TRIGGER。
その言葉に、それまであまり興味がなさそうにしていたメンバーも目を見開いて紡に視線を移した。
それから、その奥に見えるテレビをじっと見つめてその輪郭を捉える。
「へぇ…またタイプの違う…ん?男、か?」
「公式では性別の発表はしてないですが…強みは性別問わず人気があるということらしいです」
「はー、確かに中性的な顔だなー」
まじまじと見れば見るほど、単純に綺麗な人だという思いを抱く。
端正な容姿を目の前に、心なしか頬がゆるんだインタビュアーの女性は『どうしてこの業界に?』なんてありがちな質問を投げかけた。
『そうですね…歌が好きだとか、応援してくれる皆さんに応えたいだとか、いろんな思いはありますが…』
初めて耳にするその人の声は、あまりに透き通っていて、無意識にも皆が口を閉ざした。
男にも女にも聞こえる声だ。
『…最近IDOLiSH7、人気じゃないですか。あ、男性アイドルグループなんですけどご存知ですか?』
その声に聞き入るように耳を傾けていたその場の全員が、一瞬聞き間違いかと疑った。
今、まさか、“アイドリッシュセブン”と言っただろうか。
「えっ!」
思わず叫び、今度は全員が身を乗り出して凝視する。
自分達の名前が言われた…驚きの理由はそれだけではない。
ある意味ライバルのような事務所の人が、その名を出して良いのかという動揺もあった。
『その中の一人が言ってたんです。妹を探していると。だからテレビに出たいのだと』
「…これ、環のことだ」
ぽつりと三月が呟く。
メンバーの一人、現在はこの場にいない四葉環は確かにこの話をテレビでしていた。
『なるほどって、思ったんです』
『…なるほど、ですか?』
『はい。私もきっと、見つけて欲しくてやってるんだなって』
その柔らかい声が紡ぐ、少し気取った言葉。
それがじんと胸に入ってくるのは何故だろうか。
『応援してくれている方々は、どこかで私を見つけてくれたわけですし』
『今日もきっと見つけてもらえていますよ』
『そうだと嬉しいですね』
にこりと微笑んだその姿がアップで映される。
最初にTRIGGERと聞いてしまったから余計に不思議な感覚だった。
大人っぽい雰囲気と色っぽさを纏う絶対的存在TRIGGER。
「…なんだか、こう、好感をもてる方ですね」
沈黙を破ったのは、和泉一織。
基本的に人に対して毒ばかり吐く一織の発言に驚く間もなく、陸はうんと強く頷いた。
「今の、ちょっとだけだけどさ、全然嫌なとこ見つけられないっていうか…」
「オレ等のこと、話題に出してくれたしな!」
「すげぇな、あの事務所、そういうの嫌がりそうなイメージあっけど」
「ワタシ、この人すごく好きです!」
今のほんの数秒でこの場の全員がこの人物の空気に呑まれている。
紡は盛り上がるメンバーから目を逸らし、テレビに目を戻した。
「…牧野サツキ」
この人が、アイドルじゃなくて良かった。ライバルになる存在じゃなくて。
そうどこかでホッとしていることに気付き、紡はぱちと小さく自分の頬をうった。
・・・
プツ、とテレビの画面が真っ暗になる。
訪れた静寂の中に落とされたのは、色っぽさをも纏う盛大な溜め息だった。
「お前さあ…」
振り返ったその細い目は、呆れているのかいつもより更に細められている。
そのある意味想像通りのような反応に、サツキは肩をすくめてみせた。
「…怒った?」
「怒ってはない。けど、どうかとは思う」
棘のある声にしゅんと頭を下げると、その大きな手がぽんと頭に乗せられる。
くしゃと撫でる優しい兄の手だ。
「言い訳するならしてみな」
「大事なことだったんだ。だから、今回だけ…でも、気付いてくれるかもしれないから」
継ぎ接ぎのような言葉に、また頭の上で息が零れる。
八乙女楽、今人気ナンバーワンアイドルグループの一人。
その中でも特に人気のある楽の端正な容姿を目の前に、サツキはチラと見上げてきゅっと口を噤んだ。
呆れられている。弁明の余地もない。
「いいんじゃないかな」
二人の間の空気を壊したのは、腰を折り曲げサツキを覗き込んだ十龍之介だった。
俯いたその目に入り込んだ優しい顔に、少しだけ安堵し胸を撫で下ろす。
「社長がどう思うかはともかく…サツキのキャラクターを思えば悪くないと思うよ」
ね、天。そう龍之介が振り返りながら問いかける。
天と呼ばれた青年は、ふうっと息をついて腰に手を当てた。
「敵味方なく…無条件に癒しを与える存在。サツキはそうあるべきだとボクは思ってる」
「ほら、天もこう言ってる」
「だからって、あそこのアイドルの名前はそう出さない方がいいよ。社長を怒らせたら面倒だから」
さらりと言う九条天はTRIGGERのセンターを務めている男だ。
仕事に関してかなりストイックで、サツキはその指摘に自然と頷いていた。
「お前等な…サツキに甘いぞ」
「「楽には言われたくない」」
重なった二人の声に、楽ははあっと息を吐き、サツキはふっと笑った。
彼等といる時間が好きだ。まだまだ新人のサツキに厳しく、それでいて本当の兄弟のようで、居心地が良い。
「…サツキ、何笑ってるの」
「あ…ごめんなさい」
そんなサツキの心を見破ったのか、天がまた鋭い目でサツキをとらえる。
それから体をサツキの方へ向けると、首を小さく傾けた。
「ていうか、どうしてそんなにあのアイドル気にするの?ボク等はともかく」
「九条さんの弟もいるんですよね?」
「…誰に聞いたの」
今度は冷たい声がサツキではなく楽と龍之介に向けられる。
それに対して、更に棘のある声を出したのは楽だった。
「聞いた、じゃねーよ。こいつが気付いたんだ。兄弟?って聞かれたからそうだって答えた」
「え、知られたくないことだった?」
「はあ…別にいいけど」
天がソファに背中を預けて足を組む。
そんな天から楽は目を逸らし、龍之介はサツキの頭を繰り返し撫でまわした。
もう子供じゃないんだけど。そう思うサツキにとって龍之介は4つ年上の兄のような存在だ。
「ねえ、サツキ」
「は、はい!」
「君がどうしようと構わないけど、ボク等のこと、余計に話すのだけは許さないから」
「それは勿論、分かってます!大丈夫だよ」
サツキは力強く頷いて、目の前にいる龍之介に笑いかけた。
龍之介の優しい笑顔が返される。そんなサツキと龍之介の間を割るように入り込んだ白い腕は、とんと龍之介の胸を押した。
「もう離してやれ。サツキも、そろそろ時間だろ」
「え、あ、そうだ。準備しないと」
「え?サツキ、今日も仕事入ってるのか?」
「今が売り込み時だって」
社長がそう言っていた、今までもこれからも、社長の言う通りに動く。
そうやってずっと生きてきた。
「気を付けろよ」
「うん。いってきます」
それでも折れることなくここまで来れたのは、彼等のおかげだ。ずっと支えてくれる三人のおかげ。
サツキは軽く手を振ってパタンと扉を閉めた。
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