黒バス(2012.10~2017.12)
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部活を始めて三ヶ月が経った。
変わったことと言えばあまりに多すぎて挙げ出したら止まらなそうだ。
強いて挙げるならば、バスケがそれなりに上手くなったことと、友人が増えたこと。
そして、母親に会わなくなったこと。
母親が家に帰ってくるのは、たいてい決まって火曜日の夜。
時々部活を終えて帰るとビール缶の残骸があることから、昼間に帰っていることもあるようだが、まぁ真司には関係の無いこと。
真司に死なれては面倒事になる、という常識的思考は持っているようで、月始めの火曜日には10万がぽんとテーブルに置いてある。
ということは、遊びながらも仕事はしっかりこなしているのだろうか。
「烏羽」
「何?」
「今日はうちに来てもいいぞ」
赤司は真司のバスケがそれなりになってきた頃から、帰りに誘ってくれるようになった。
赤司が、どこかおかしいことには気付いている。それでも、真司の赤司への思いは変わらなかった。
「ホント?今日は帰りたくないんだ」
「ああ、そうだろうと思っていたよ」
赤司の家に行ったからって、毎回のように体を重ねるワケでは無い。
ご飯を食べて、お風呂に入って、布団に入る。それだけのことの方がむしろ多かった。
赤司の家には家族がいるのだし、それが当然なのだが。
「え、真司っち家に帰らなくていいんスか?」
その時、丁度後ろを通りかかった黄瀬が上から二人をひょいと見下ろした。
「うん。俺、家一人だから帰りたくないんだ」
「そうなんスか!?ならうちおいでよ!」
むしろ、家に母がいる可能性があるから帰りたくないのだが。
そんなことを知る由もない黄瀬は、無邪気にぱっと笑った。
まさかそう来るとは。
真司が恐る恐る赤司の表情を確認すると、思いの外赤司はにこっと笑って見せた。
「そうだな、黄瀬に任せる」
「え…」
意外だった。
この時だけは、赤司がずっと相手をしてくれるものだと思っていたから。
「え、オレじゃ不服っスか?」
「う、ううん、まさか。じゃあ黄瀬君家行ってもいい?」
「もちろんっスよ!」
とはいえ、黄瀬では嫌だとかそんなことは無いし、こうして歓迎してもらえるのはむしろ嬉しいことだ。
黄瀬は嬉しそうに荷物をまとめ出した。
少し遅くまで練習した後の部室。赤司から優遇されている等の噂を理由に虐めを受ける真司に気を使ってか、今まで赤司は他の部員のいる前でこの話をすることはなかったのに。
黄瀬だから気を許したのかな。
真司は大して疑問を持つこともなく、黄瀬の後ろをついていった。
・・・
黄瀬の家は、真司と違って学校から遠く、電車通学だった。
普段乗らない電車の揺れによろけていると、黄瀬は自然と手を差し出してくれて。深く被られた帽子の隙間から覗く黄瀬の笑顔に思わず見惚れた。
「誰にでもこんな優しいの?」
「どっスかねぇ」
「かっこよくて優しいんじゃ、そりゃモテるわ」
「モテたって、オレは嬉しくないっスけど」
本当に贅沢な人だ。とは思いつつも、真司も別にモテたいとは思っていない。
ただ、黄瀬に対して嫌らしい悩みを持つ奴、と思うだけだ。
電車を降りると、ここからは近いのだと言って黄瀬は真司の手を取って歩き出した。
「黄瀬君、手大きい」
「真司っちが小さいんスよ」
「ちっさいって言うな」
男同士で、なんて最初は文句を言ったものだが、今では手を繋いでいることに違和感も感じなかった。
普通手を繋ぐという行為は恋人がするものだと思うのだが。
(そういえば、雑誌に載せられ世間で騒がれた黄瀬の彼女ってのは俺か)
ふと思い出して、真司はふふっと笑った。
「なんスか?」
「付き合うってこういう感じなのかなーって思って」
「…真司っち」
「俺、そういうの全然わかんないけど、なんか良いね」
好きな人がいて、その人も自分を好きでいる。
そんな奇跡のようなことが起こった時にだけ始まる人間関係。
「真司っち、オレと、試してみない?」
「え?」
「オレと、お付き合い、してみない?」
「…はあ?」
突拍子の無いことを言い出す黄瀬を見上げる。帽子の隙間から見えた黄瀬の顔は、赤く…
「黄瀬君、」
「あ、あの!今夜だけでも!オレが!」
「お、落ち着いて」
「真司っちは、オレじゃ嫌…?」
黄瀬が緊張しているのがわかる。そして、その緊張は真司に移った。
心臓が普段よりも過剰に反応する。
震えそうになる口を、真司はなんとか動かした。
「でもそれ…もし付き合ったら、黄瀬君と俺の関係ってどうなるの?」
「え?」
「今と、どう変わるの?」
黄瀬の恋愛事情など真司の知るところではないが、恐らく真司よりはましだろう。
真司はまともな恋愛など知らない。付き合ってからの事の順序とか、デートとか。
「ていうか、そもそも男同士でそれってありなの?」
「それは、アリなんじゃないスか…海外では同性婚とか普通だし」
「でもここは日本じゃん」
たぶん、あの記事の美少女が男だと知れたら、世間の黄瀬涼太への視線は変わる。それくらいはわかる。
「わかったっスよ、真司っちはオレじゃ嫌ってことでしょ」
「え、なにそれ全然わかってないよ」
「あのキスだって、ホントは嫌だったんでしょ」
「嫌とかじゃなくてっ」
握っていた手を、真司は自分の方へ引いた。
さすがに体格差のありすぎる黄瀬を引き寄せることは出来なかったが、体をこちらへ向けてくれる。
「俺には恋愛とか、難しいよってこと。黄瀬君が、とかじゃなくてさ」
「…そんなこと」
「あるの」
「…」
黄瀬の顔が下がってしまった。
どうしてこんなにも黄瀬がムキになるのか。恋人なんて、黄瀬ならすぐに作れる癖に。真司はそんな的外れなことを考えながら、黄瀬の手をまた引いた。
「早く黄瀬君ち行こうよー」
「…真司っち、好きな食べ物ある?」
「んー…梨」
「ぷっ、時期じゃないし、晩御飯にならないし」
手は繋いだまま。
二人の手と手の間には、汗がじわりと滲んでいた。
・・・
黄瀬の家にお邪魔して思ったのは、黄瀬が欲しいのは恋人でなく兄弟なのではないか、ということだ。
一緒に少し遅めの晩御飯。そこまでは普通だが、あろうことか黄瀬は一緒に風呂に入ろうだの一つの布団で寝ようだの、中学生男子とは思えないことばかり言い出した。
さすがに黄瀬のような大男と風呂はごめんだ。
それは丁重にお断りし、先に入らせてもらった真司はほかほかした体で黄瀬を待っていた。
ベッドは一つ。客用の布団など他にあるだろうに、黄瀬はそれを持って来ない。
「イメージとそぐわない部屋、だな」
ぼそりと呟いて真司は黄瀬の部屋を見渡した。
それなりに整った男の部屋。脱いでハンガーに掛けられた黄瀬の制服を何気なく手にとって、自分の体に合わせてみる。
「………………」
わかっていた。今更何も言うまい。
既に今真司が来ている服がそれを証明している。
中でも小さい服を選んだ、と言っていたが、上は肩になんとか引っ掛かり、下は立ち上がると引きずった。
「不公平だ」
黄瀬の制服を真司の制服が掛けられた横に並べて掛ける。
なんだかやるせない気分になり、真司は黄瀬のベッドにすとんと体を預けた。
黄瀬の匂い。自分には無い華やかな香りが鼻を掠めた。
なんとなく、初めて赤司の家に行った日の事を思い出す。
「…赤司君」
赤司は真司に愛しているという。そして真司の体に優しく触れる。
「ん…」
でも付き合ってない、恋人じゃない。
なら、恋人ってなんだ。
わからないことは考えたってわからない。
真司はもぞっと体を黄瀬の布団に擦り寄せた。
「真司っち、お待たせー」
「あ、…黄瀬君」
黄瀬の声に、真司は布団から顔を上げた。
そこに立っている黄瀬は、タオルを濡れた頭にかけて、がしがしと水気を拭っている。
まだ湿っている髪は黄瀬の色気を増幅させて、体からは布団と同じ匂いを放って。
「黄瀬君、ってやっぱ綺麗だね」
思わずぽつりと漏らしてしまった。
「え、な、なんスか急に」
「いや、なんとなく思って」
もそっと体を起こして、ベッドから足だけを降ろして座る。
そんな真司の行動を何気なく見ていた黄瀬は、はっと息を呑んだ。
「真司っち、勃ってる?」
「え…?」
黄瀬の視線の先。そこを自分で確認した真司は、ばっと両手で隠した。
「もしかして、オレの布団で、興奮した?」
「え、いや違、」
「それじゃ…オレの責任っスよね」
黄瀬が真司の背中に手を回す。そのままひょいっと抱き上げられ、ぽすんとシーツの上に寝かされてしまった。
上に黄瀬が跨がっているせいで逃げることが許されない。
「き、黄瀬君!」
「しっ、大丈夫っスから」
「や、」
どうしてこうなったって、恐らく赤司のことを思い出したからだ。
赤司と寝ている時のことを思い出したら体が熱くなって、それで。
しかし、そんなことを言えるはずもない。
ズボンに入り込んできた黄瀬の手が、真司の少し膨らんだそこを掴む。
抵抗しなかったわけではない。しても、黄瀬の手の力には全く敵わなかった。
「や、やだ黄瀬君っ」
「ああほら、親が気付いちゃうから、声抑えて」
「う、」
ゆるゆると撫でるように触れていた手が、急にぎゅっと力を入れてきて、真司は体を強張らせた。
いつもの黄瀬と違う。大きな体が怖い。
「黄瀬君…、やめて、やめようよ」
「そんな怖がらなくても平気っスよ、ちょっとしたお遊びと思って」
「こ、んな遊びないよっ」
「でも、自分でするより気持ちよくないっスか?」
知っている。この行為が気持ちいいことだということくらい。
体も暖まるし、すぐに寝れる。
赤司にしてもらったときはそうだった。でも、今の黄瀬は何か違う。
「っぁ、」
「真司っち…可愛い」
「ン、んっ、黄瀬く、ぁ」
必死に黄瀬の体を押し返すのに、びくともしない。
黄瀬の力が勝っているのは勿論、既に真司の腕にはほとんど力が残っていなかった。
「ふ、ぁ、あっ」
「真司っち、出していいよ」
「っ…んんッ!」
びくびくっと真司の体が大きく揺れた。同時に放たれた精液が真司の腹部を濡らす。
激しい疲労感。それはやはり変わらないらしい。
しかし、ゆっくり目を閉じようとした真司は、再びその目を見開くこととなった。
「ちょ、何してんだよ…!」
「真司っちの、甘いっスよ」
「、はぁ!?」
黄瀬が、手で救った白い液体を口に運んでいる。
疲労感なんかよりも羞恥心の方が大きすぎて、真司はぱくぱくと口を動かすことしか出来なかった。
「真司っち、すげえエロイ」
「何を」
「もうちょっと、触っていいっスか」
「や、」
やだ、という暇も与えず、黄瀬は真司の尻を揉み出していた。
自然と腰が浮いて、真司の目にもその自分の姿が映る。
そして、その真司を見つめる黄瀬は、男だった。
「っ、黄瀬君、やだ怖いよっ」
「真司っち?」
「黄瀬君怖い…ッ」
ぼろぼろと、涙が溢れだす。
知らなかった、男というものが、こんなに怖いだなんて。
赤司のせいで、男の体がどういうものなのかは知っている。紫原なんて、黄瀬よりも大きい。しかし、そうじゃない。
今の黄瀬は性欲に飢えている男そのものだった。
「あ、真司っち…」
「っやだぁ…」
「ご、ごめん、ごめんね!」
黄瀬が真司の体を抱き起こす。そのままぎゅっと震える体を抱き締めた。
「お、オレがどうかしてたっス!ほんと、ごめん…」
小さな体。女の子なんじゃないかと疑う程に小さな肩が小刻みに震えている。
怖がらせたかったんじゃない。でも、黄瀬は自分のことしか考えていなかった。もっと、真司のいろんな顔が見たくて。可愛く喘ぐ姿を見たくて。
「真司っち、もうしないからっ」
「ん、」
「オレのこと、嫌いにならないで」
抱き締めた真司の肩に顔を埋める。
黄瀬の匂いと黄瀬の体温に真司も冷静を取り戻して、その黄瀬の頭を軽く撫でた。
「嫌いになんてならないよ」
「真司っち、」
「ごめん、びっくりしただけだから、俺も」
至近距離で見つめあう。ふにゃ、と黄瀬が笑い、それにつられて真司も笑った。
そのままぽすんと倒れれば、真司の体は眠気を訴えて。
「寝て、いいっスよ」
「ん、でも」
「オレが悪かったんスから、後の事はオレに任せて」
その言葉に安心して、真司は目を閉じる。
やはり、この熱くなった体はすぐに眠らせてくれた。
・・・
眠ってしまった真司を見下ろして、黄瀬はくしゃっと顔を歪めた。
「…なんで、そんな初めてみたいな反応したんスか」
てっきり赤司と関係を持っていると思っていたのに。
赤司との異常な信頼関係は、そういうところから繋がっているからだと思っていたのに。
「真司っち…」
勘違いだったなら、それは勿論嬉しい。
しかし、自分のしてしまった行動が真司を恐れさせてしまったことが明白になってしまう。
細い息を吐いている真司の手をぎゅっと握りしめて、黄瀬は真司に顔を近付けた。
「わかんねぇよ、アンタ…」
初心そうな反応をしておいて、赤司の家には通っているようだし。
緑間や青峰にも好かれているし。
ちゅっと軽くキスを落として、黄瀬はベッドから立ち上がった。
真司が誰とどうあろうと、奪い取れば良いだけだ。
暗い廊下、黄瀬の黄色い瞳が光っていた。
変わったことと言えばあまりに多すぎて挙げ出したら止まらなそうだ。
強いて挙げるならば、バスケがそれなりに上手くなったことと、友人が増えたこと。
そして、母親に会わなくなったこと。
母親が家に帰ってくるのは、たいてい決まって火曜日の夜。
時々部活を終えて帰るとビール缶の残骸があることから、昼間に帰っていることもあるようだが、まぁ真司には関係の無いこと。
真司に死なれては面倒事になる、という常識的思考は持っているようで、月始めの火曜日には10万がぽんとテーブルに置いてある。
ということは、遊びながらも仕事はしっかりこなしているのだろうか。
「烏羽」
「何?」
「今日はうちに来てもいいぞ」
赤司は真司のバスケがそれなりになってきた頃から、帰りに誘ってくれるようになった。
赤司が、どこかおかしいことには気付いている。それでも、真司の赤司への思いは変わらなかった。
「ホント?今日は帰りたくないんだ」
「ああ、そうだろうと思っていたよ」
赤司の家に行ったからって、毎回のように体を重ねるワケでは無い。
ご飯を食べて、お風呂に入って、布団に入る。それだけのことの方がむしろ多かった。
赤司の家には家族がいるのだし、それが当然なのだが。
「え、真司っち家に帰らなくていいんスか?」
その時、丁度後ろを通りかかった黄瀬が上から二人をひょいと見下ろした。
「うん。俺、家一人だから帰りたくないんだ」
「そうなんスか!?ならうちおいでよ!」
むしろ、家に母がいる可能性があるから帰りたくないのだが。
そんなことを知る由もない黄瀬は、無邪気にぱっと笑った。
まさかそう来るとは。
真司が恐る恐る赤司の表情を確認すると、思いの外赤司はにこっと笑って見せた。
「そうだな、黄瀬に任せる」
「え…」
意外だった。
この時だけは、赤司がずっと相手をしてくれるものだと思っていたから。
「え、オレじゃ不服っスか?」
「う、ううん、まさか。じゃあ黄瀬君家行ってもいい?」
「もちろんっスよ!」
とはいえ、黄瀬では嫌だとかそんなことは無いし、こうして歓迎してもらえるのはむしろ嬉しいことだ。
黄瀬は嬉しそうに荷物をまとめ出した。
少し遅くまで練習した後の部室。赤司から優遇されている等の噂を理由に虐めを受ける真司に気を使ってか、今まで赤司は他の部員のいる前でこの話をすることはなかったのに。
黄瀬だから気を許したのかな。
真司は大して疑問を持つこともなく、黄瀬の後ろをついていった。
・・・
黄瀬の家は、真司と違って学校から遠く、電車通学だった。
普段乗らない電車の揺れによろけていると、黄瀬は自然と手を差し出してくれて。深く被られた帽子の隙間から覗く黄瀬の笑顔に思わず見惚れた。
「誰にでもこんな優しいの?」
「どっスかねぇ」
「かっこよくて優しいんじゃ、そりゃモテるわ」
「モテたって、オレは嬉しくないっスけど」
本当に贅沢な人だ。とは思いつつも、真司も別にモテたいとは思っていない。
ただ、黄瀬に対して嫌らしい悩みを持つ奴、と思うだけだ。
電車を降りると、ここからは近いのだと言って黄瀬は真司の手を取って歩き出した。
「黄瀬君、手大きい」
「真司っちが小さいんスよ」
「ちっさいって言うな」
男同士で、なんて最初は文句を言ったものだが、今では手を繋いでいることに違和感も感じなかった。
普通手を繋ぐという行為は恋人がするものだと思うのだが。
(そういえば、雑誌に載せられ世間で騒がれた黄瀬の彼女ってのは俺か)
ふと思い出して、真司はふふっと笑った。
「なんスか?」
「付き合うってこういう感じなのかなーって思って」
「…真司っち」
「俺、そういうの全然わかんないけど、なんか良いね」
好きな人がいて、その人も自分を好きでいる。
そんな奇跡のようなことが起こった時にだけ始まる人間関係。
「真司っち、オレと、試してみない?」
「え?」
「オレと、お付き合い、してみない?」
「…はあ?」
突拍子の無いことを言い出す黄瀬を見上げる。帽子の隙間から見えた黄瀬の顔は、赤く…
「黄瀬君、」
「あ、あの!今夜だけでも!オレが!」
「お、落ち着いて」
「真司っちは、オレじゃ嫌…?」
黄瀬が緊張しているのがわかる。そして、その緊張は真司に移った。
心臓が普段よりも過剰に反応する。
震えそうになる口を、真司はなんとか動かした。
「でもそれ…もし付き合ったら、黄瀬君と俺の関係ってどうなるの?」
「え?」
「今と、どう変わるの?」
黄瀬の恋愛事情など真司の知るところではないが、恐らく真司よりはましだろう。
真司はまともな恋愛など知らない。付き合ってからの事の順序とか、デートとか。
「ていうか、そもそも男同士でそれってありなの?」
「それは、アリなんじゃないスか…海外では同性婚とか普通だし」
「でもここは日本じゃん」
たぶん、あの記事の美少女が男だと知れたら、世間の黄瀬涼太への視線は変わる。それくらいはわかる。
「わかったっスよ、真司っちはオレじゃ嫌ってことでしょ」
「え、なにそれ全然わかってないよ」
「あのキスだって、ホントは嫌だったんでしょ」
「嫌とかじゃなくてっ」
握っていた手を、真司は自分の方へ引いた。
さすがに体格差のありすぎる黄瀬を引き寄せることは出来なかったが、体をこちらへ向けてくれる。
「俺には恋愛とか、難しいよってこと。黄瀬君が、とかじゃなくてさ」
「…そんなこと」
「あるの」
「…」
黄瀬の顔が下がってしまった。
どうしてこんなにも黄瀬がムキになるのか。恋人なんて、黄瀬ならすぐに作れる癖に。真司はそんな的外れなことを考えながら、黄瀬の手をまた引いた。
「早く黄瀬君ち行こうよー」
「…真司っち、好きな食べ物ある?」
「んー…梨」
「ぷっ、時期じゃないし、晩御飯にならないし」
手は繋いだまま。
二人の手と手の間には、汗がじわりと滲んでいた。
・・・
黄瀬の家にお邪魔して思ったのは、黄瀬が欲しいのは恋人でなく兄弟なのではないか、ということだ。
一緒に少し遅めの晩御飯。そこまでは普通だが、あろうことか黄瀬は一緒に風呂に入ろうだの一つの布団で寝ようだの、中学生男子とは思えないことばかり言い出した。
さすがに黄瀬のような大男と風呂はごめんだ。
それは丁重にお断りし、先に入らせてもらった真司はほかほかした体で黄瀬を待っていた。
ベッドは一つ。客用の布団など他にあるだろうに、黄瀬はそれを持って来ない。
「イメージとそぐわない部屋、だな」
ぼそりと呟いて真司は黄瀬の部屋を見渡した。
それなりに整った男の部屋。脱いでハンガーに掛けられた黄瀬の制服を何気なく手にとって、自分の体に合わせてみる。
「………………」
わかっていた。今更何も言うまい。
既に今真司が来ている服がそれを証明している。
中でも小さい服を選んだ、と言っていたが、上は肩になんとか引っ掛かり、下は立ち上がると引きずった。
「不公平だ」
黄瀬の制服を真司の制服が掛けられた横に並べて掛ける。
なんだかやるせない気分になり、真司は黄瀬のベッドにすとんと体を預けた。
黄瀬の匂い。自分には無い華やかな香りが鼻を掠めた。
なんとなく、初めて赤司の家に行った日の事を思い出す。
「…赤司君」
赤司は真司に愛しているという。そして真司の体に優しく触れる。
「ん…」
でも付き合ってない、恋人じゃない。
なら、恋人ってなんだ。
わからないことは考えたってわからない。
真司はもぞっと体を黄瀬の布団に擦り寄せた。
「真司っち、お待たせー」
「あ、…黄瀬君」
黄瀬の声に、真司は布団から顔を上げた。
そこに立っている黄瀬は、タオルを濡れた頭にかけて、がしがしと水気を拭っている。
まだ湿っている髪は黄瀬の色気を増幅させて、体からは布団と同じ匂いを放って。
「黄瀬君、ってやっぱ綺麗だね」
思わずぽつりと漏らしてしまった。
「え、な、なんスか急に」
「いや、なんとなく思って」
もそっと体を起こして、ベッドから足だけを降ろして座る。
そんな真司の行動を何気なく見ていた黄瀬は、はっと息を呑んだ。
「真司っち、勃ってる?」
「え…?」
黄瀬の視線の先。そこを自分で確認した真司は、ばっと両手で隠した。
「もしかして、オレの布団で、興奮した?」
「え、いや違、」
「それじゃ…オレの責任っスよね」
黄瀬が真司の背中に手を回す。そのままひょいっと抱き上げられ、ぽすんとシーツの上に寝かされてしまった。
上に黄瀬が跨がっているせいで逃げることが許されない。
「き、黄瀬君!」
「しっ、大丈夫っスから」
「や、」
どうしてこうなったって、恐らく赤司のことを思い出したからだ。
赤司と寝ている時のことを思い出したら体が熱くなって、それで。
しかし、そんなことを言えるはずもない。
ズボンに入り込んできた黄瀬の手が、真司の少し膨らんだそこを掴む。
抵抗しなかったわけではない。しても、黄瀬の手の力には全く敵わなかった。
「や、やだ黄瀬君っ」
「ああほら、親が気付いちゃうから、声抑えて」
「う、」
ゆるゆると撫でるように触れていた手が、急にぎゅっと力を入れてきて、真司は体を強張らせた。
いつもの黄瀬と違う。大きな体が怖い。
「黄瀬君…、やめて、やめようよ」
「そんな怖がらなくても平気っスよ、ちょっとしたお遊びと思って」
「こ、んな遊びないよっ」
「でも、自分でするより気持ちよくないっスか?」
知っている。この行為が気持ちいいことだということくらい。
体も暖まるし、すぐに寝れる。
赤司にしてもらったときはそうだった。でも、今の黄瀬は何か違う。
「っぁ、」
「真司っち…可愛い」
「ン、んっ、黄瀬く、ぁ」
必死に黄瀬の体を押し返すのに、びくともしない。
黄瀬の力が勝っているのは勿論、既に真司の腕にはほとんど力が残っていなかった。
「ふ、ぁ、あっ」
「真司っち、出していいよ」
「っ…んんッ!」
びくびくっと真司の体が大きく揺れた。同時に放たれた精液が真司の腹部を濡らす。
激しい疲労感。それはやはり変わらないらしい。
しかし、ゆっくり目を閉じようとした真司は、再びその目を見開くこととなった。
「ちょ、何してんだよ…!」
「真司っちの、甘いっスよ」
「、はぁ!?」
黄瀬が、手で救った白い液体を口に運んでいる。
疲労感なんかよりも羞恥心の方が大きすぎて、真司はぱくぱくと口を動かすことしか出来なかった。
「真司っち、すげえエロイ」
「何を」
「もうちょっと、触っていいっスか」
「や、」
やだ、という暇も与えず、黄瀬は真司の尻を揉み出していた。
自然と腰が浮いて、真司の目にもその自分の姿が映る。
そして、その真司を見つめる黄瀬は、男だった。
「っ、黄瀬君、やだ怖いよっ」
「真司っち?」
「黄瀬君怖い…ッ」
ぼろぼろと、涙が溢れだす。
知らなかった、男というものが、こんなに怖いだなんて。
赤司のせいで、男の体がどういうものなのかは知っている。紫原なんて、黄瀬よりも大きい。しかし、そうじゃない。
今の黄瀬は性欲に飢えている男そのものだった。
「あ、真司っち…」
「っやだぁ…」
「ご、ごめん、ごめんね!」
黄瀬が真司の体を抱き起こす。そのままぎゅっと震える体を抱き締めた。
「お、オレがどうかしてたっス!ほんと、ごめん…」
小さな体。女の子なんじゃないかと疑う程に小さな肩が小刻みに震えている。
怖がらせたかったんじゃない。でも、黄瀬は自分のことしか考えていなかった。もっと、真司のいろんな顔が見たくて。可愛く喘ぐ姿を見たくて。
「真司っち、もうしないからっ」
「ん、」
「オレのこと、嫌いにならないで」
抱き締めた真司の肩に顔を埋める。
黄瀬の匂いと黄瀬の体温に真司も冷静を取り戻して、その黄瀬の頭を軽く撫でた。
「嫌いになんてならないよ」
「真司っち、」
「ごめん、びっくりしただけだから、俺も」
至近距離で見つめあう。ふにゃ、と黄瀬が笑い、それにつられて真司も笑った。
そのままぽすんと倒れれば、真司の体は眠気を訴えて。
「寝て、いいっスよ」
「ん、でも」
「オレが悪かったんスから、後の事はオレに任せて」
その言葉に安心して、真司は目を閉じる。
やはり、この熱くなった体はすぐに眠らせてくれた。
・・・
眠ってしまった真司を見下ろして、黄瀬はくしゃっと顔を歪めた。
「…なんで、そんな初めてみたいな反応したんスか」
てっきり赤司と関係を持っていると思っていたのに。
赤司との異常な信頼関係は、そういうところから繋がっているからだと思っていたのに。
「真司っち…」
勘違いだったなら、それは勿論嬉しい。
しかし、自分のしてしまった行動が真司を恐れさせてしまったことが明白になってしまう。
細い息を吐いている真司の手をぎゅっと握りしめて、黄瀬は真司に顔を近付けた。
「わかんねぇよ、アンタ…」
初心そうな反応をしておいて、赤司の家には通っているようだし。
緑間や青峰にも好かれているし。
ちゅっと軽くキスを落として、黄瀬はベッドから立ち上がった。
真司が誰とどうあろうと、奪い取れば良いだけだ。
暗い廊下、黄瀬の黄色い瞳が光っていた。