黒バス(2012.10~2017.12)
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こうなる日が来ることはわかっていた。
「お前さ、どうやって赤司に取り入ったんだよ」
がんっと体の大きな男の手が顔の横を通り過ぎる。背中にはコンクリートの壁。
痛くないのかな、などと悠長に男の手を心配している場合ではなく。別の男の体で逃げ道を塞がれた。
「黄瀬みたいに上手いならまだしも、お前下手じゃん」
「レギュラーの奴等とばっか親しくして、あからさまっつか。よくバスケ部に出て来れるよな」
「足速いとか、陸上部にでも行けよ」
放課後、体育館裏に来い。だなんてよくあるシチュエーションが真司に降りかかったのは、入部してからもう随分経った頃だ。
むしろ遅かったと思うほど、真司にも予想出来た事態で。
それ故に驚くことも怖じ気付くこともなかったのだが、それは相手を一層苛立たせていた。
「なんとか言ったらどうなんだよ!」
今度は別の男の足が壁を蹴る。
なんとか言えと言われても、今この状況の中で言うべき台詞が全く浮かばない。
それこそ、もっと彼等を煽るような挑発的言葉しか出てこなくて、真司はうーんと唸った。
「あ?なんだよ」
「…強いて言うならば、こんなことをしている暇があるなら練習に出た方が良いんじゃないですか、と」
「てめぇ…!」
思い浮かんだ台詞の中でもなるべく普通なものを選択したつもりだったが、やはり怒らせたようだ。
振り上げられた拳は、今度こそ真司の頬へ飛んできた。
「あぶなっ!何すんですか!」
「おい、こいつ押さえろ」
「おい、さすがに暴力は」
「いーから」
リーダーらしき奴の指示で腕を押さえ込まれる。
あ、やばい。ここに来てようやく真司は自分の分の悪さに気付いたが、それも今更遅すぎる。
目の前に翳された拳に対応する術をなくした真司はきつく目を閉じて、それを受け入れる覚悟を決めた。
「あ、こんなとこにいた~」
間の抜けた声は、真っ暗な視界とその状況にあまりにそぐわなくて。
恐る恐る目を開けた真司も、男たちも、暫く呆然とその声の主を見据えていた。
「赤ちんが探してるよ、烏羽ちん」
「あ、え…俺?」
「そ。だから遊んでないで早く行こー」
のそのその巨体が近付いてくる。
真司はこの救世主なのかはたまた大魔王なのか素性の知れない男をじっと見つめた。
赤ちん、とは恐らく赤司のこと。この巨体で紫色の髪をした者にも当然見覚えがある。
「おい紫原、邪魔すんなよ」
「は?なんでオレのこと知ってんの?」
「っ、強い奴以外興味ねーってか」
そう、紫原。青峰や黒子と同じ、バスケ部のレギュラーだ。
「バスケ部なの?じゃあ烏羽ちんのこと虐めてたってことだよね」
「は?」
「赤ちんに烏羽ちんと一緒にいるのがバスケ部の下級の奴だったら捻り潰せって言われてんだよね、オレ」
たんたんと、当然のように。
そこにはこの紫原の大きさだけでは説明出来ない恐怖があった。
「ちっ…これで済むと思うなよっ!」
ばたばたとさっきまでの威勢はなんだったのか、男たちは紫原を前に一目散に逃げ出した。
結局、自分より体のでがい奴は怖いということなのだろう。
紫原は興味など端から無かったかのように、男たちの背中を見ることなく真司に近付いた。
近付けば近付くほどその大きさは際立って、真司の首はどんどん上を向かされていく。
「だいじょぶ?」
「いやぁ…本気で危なかった。ありがと紫原君」
「いえいえー」
ふにゃっと笑った紫原は思いの外可愛らしくて。首の疲れを感じながらも、真司はそれを嫌だとは思わなかった。
「赤司君に頼まれてきたの?」
「そーだよ。烏羽ちんが来ないからさぁ」
「あ…ご迷惑をおかけしました」
「まいう棒一週間分で許したげるー」
気が抜けた。
見た目だけで人は判断できないとはまさに紫原の為にあるような言葉だ。と思う真司も人のことを言える立場の人間ではないが。
くるっと体の向きを変えて部活を行う体育館へと歩き出す紫原の後ろを小走りでついていく。
二人の歩幅はもはや親子に例えられる程に開いていた。
「烏羽ちん遅いー」
「紫原君、でかい」
「烏羽ちんはちっちゃいね~。抱っこしたげる」
「……え?」
ひょいっと、同学年の男子だという事実が疑われる程に軽く片手で持ち上げられた真司の足は、経験したことがない高さに。
「烏羽ちん軽すぎい…。わたあめみたい」
「わ、わたあめ…」
「美味そうだし」
「…え?」
何やら不吉なことを言われたような気がするが、紫原は変わらず前を見たまま歩いている。
気にした方が負け、だということなのか。
紫原に担がれた状態でその首に手を回すとピタッと体が密着した。
「暖かい…」
「烏羽ちん寒いの?」
「ちょっと、今になって恐怖が」
「あららー。よしよし」
大きい手ががしがしと真司の頭を撫で回す。
初対面というか、初めて交わすやり取りとは思えないのは、紫原が赤司から真司のことを聞いているからだろう。
赤司の側に紫原がくっついている光景は今まで何度も見てきた。
真司のことをどのように扱うか指示されているのかもしれない。
「で、その烏羽ちんって呼び方は一体」
「赤ちんが烏羽って呼んでたから~。可愛くね?」
可愛いかはわからないが別に嫌なわけではなく、真司は紫原の頭の上でこくりと頷いた。
高い視点。違って見える景色。
体が大きかったら何か違ったかもしれないと思っていたこともあった。
しかし、今、真司の心は変わらないどころか怯えている。大きすぎるのも考え物だ。
「赤司君は、俺のこと何か言ってた?」
「そーそー。珍しく赤ちんが独り占めしないの。オレにもくれるんだって~」
「……え、それって、俺の話?」
「それ以外に何があんの?」
なんだろう、急に自分を片手で抱え込むこの男が怖くなった。
いやそれよりも、赤司は本当にそんなことを言ったのか?
あげる、くれるなどのやり取りに自分を巻き込んでいるのか?
「あ、赤ちん。連れてきたよ~」
びくっと体が震えた。
思わずぱっと顔を上げると、目の前に壁。
「えー…」
気付いても避けることが出来なかったのは、足が宙に浮いていたから。
元々並外れた身長を持つ紫原に担がれた真司の頭の位置は、完全に人が通る為に造られた扉の高さを越えていた。
ごすっという鈍い音がして、真司の意識がフェードアウトしていく。
遠く、紫原のあ、という抜けた声が聞こえた。
・・・
「痛い」
目を覚まして第一声はもちろんこれだ。
触ればぷっくりとこさえたタンコブ。
きしっと聞き慣れない音に、指を滑る生地の感触はベッドで寝かされていたことを真司に気付かせた。
「烏羽」
「あれ、赤司君」
「うぅ…ごめんね、烏羽ちん」
「紫原君」
二つの顔が真司を覗き込む。
ずっとついていてくれたのかとも思ったが、そうでないと気付いたのは時計を視界に映したときだ。
部活終了時刻を過ぎている。
「ずいぶんと長いこと寝ていたな。疲れも溜まっていたのだろう」
「申し訳ない…」
「烏羽ちんは悪くないよ」
「あぁ、烏羽は何も悪くない」
眉を下げた紫原と、柔らかく微笑んでいる赤司。
アンバランスにも見える二人だが、考えていることが一致しているのか、いつも不思議なくらい息が合っている。
しかし、今この時は少し違っていた。
「紫原、烏羽のこと、気に入ったようだな」
「うん。烏羽ちん、可愛いし」
「烏羽、何か不安に思うことがあるようだが、心配することはない」
赤司の手が真司の胸に触れた。
カーディガンのボタンが一つずつはずされていく。
「あ、赤司君…!?」
「これからも守ってやるし、愛してやる。お前から離れていかない限り」
「そ、れは…それとこれとは」
「紫原、よく見ていろ」
赤司はちらりと紫原を見てから、真司の体に触れた。
カーディガンが脱がされ、ワイシャツ一枚となった真司の上半身をじれったくなぞる。
ワイシャツ越しでもわかる乳首の膨らみをかすったり摘まんだり。
「や…赤司君」
「違う、もっと、だろ」
「っ」
「欲しいならお願いしないと、真司」
赤い、吸い込まれそうな程に美しい瞳に真司が映っている。
それが嬉しくて、真司は震える手を赤司の肩に乗せた。
「ぁ、赤司君…」
自分でも驚く程の甘ったるい声が赤司を呼ぶ。
それを聞いた赤司はふっと笑って、紫原はじっと真司を見つめる視線を逸らさなかった。
「服を脱ぐんだ」
赤司の言う通りに、真司はワイシャツのボタンをはずし、ズボンのベルトを緩めた。
カーテンで覆われた光さえも入り込まない空間に、真司の細い体が晒される。
「いい子だな」
真司が乗っている一人用のベットに赤司も上がり、真司の開いた胸元にキスを落とした。
それだけで真司の羞恥心はどうしようもなく膨れ上がるのに、赤司は真司の後ろに回って足を掴んだ。
目の前の紫原が目を丸くしてこちらを見ている。
驚いたのは真司も同じ。足を左右に思いきり開かされて、真司の股間は丸見えになっていた。
赤司にも、紫原にも、そして自分にも。
「これ、や、やだ、赤司君っ」
「大丈夫、可愛いよ」
耳元で赤司が囁く。真司は赤司の声が好きで好きで大嫌いだった。
逆らえない、従わなくちゃ。自分の願望の為に頭が勝手に働きかける。
「もう濡れてるな。まだ二度目なのに」
「赤司君がっ、変なことするから…!」
「見られて感じてるんだろ?」
「感じてなんか、っぁ」
赤司の手が包み込む。たったの二度目、されど真司にとってこの行為は、人生を変えたと言っても大げさではないもの。
以前の感覚を思い出して、真司の白い肌は何もせずとも桃色に色付いていった。
「赤ちん、まだお預け~?」
「なんだ紫原。我慢出来なくなったか?」
「オレも烏羽ちん触りたいしー」
「好きにしていいぞ」
のそっと大きな体が動いた。
同時に赤司の手が離れて、その濡れた手は真司の乳首を再びいじくり回す。
股を開くことを強要する手はなくなった。しかし、閉じようとした足を今度は紫原によって止められていた。
「紫原く、…なにを…」
赤司が耳元で笑う。紫原は、真司の足と足の間に顔を近付けていた。
それを目で捕らえた次の瞬間には、紫原の大きな口の中に飲み込まれて。びりっと全身に感じたことのない刺激が走っていた。
「っうあ、あぁ…!」
「紫原、美味しいか?」
「んー」
「だめ、しゃべっちゃ、ッ」
もごもごと紫原が口を動かすだけで、強烈な刺激が真司を襲った。
いつの間にか絶えず流れる涙で顔はぐしゃぐしゃになってしまっている。
そんな真司を、赤司は愛しそうに見つめた。
「少し、後ろも解そうか」
赤司の指は、今度は胸から腰、そしてまだ筋肉のあまり付かない柔らかい尻まで辿った。そこに割り込むように力を加え、少しずつ中へと進んでくる。
「あっ!」
「大丈夫、すぐ良くなる」
「ひ、ぁ」
わからない、どうしてこんなことをしているのか。
正直、わかりたくはなかった。このまま踏み外して不純な汚い感情ばかり持ってしまったら。
もう戻れない。戻る場所なんてない。戻りたくない。
「あああっ」
どくんと全身に巡った刺激に真司の体がのけ反った。
「後ろもちゃんと感じられたみたいだな」
「うえー、飲んじゃった」
「紫原、どうだ?真司の味は」
「まいう棒のがいい…」
「はは、そうか」
赤司の体に寄っ掛かって息を荒くする。
今までのことが嘘だったかのように、普通に会話する二人を辛うじて意識の隅に映して、その内容に耳を塞ぎたくなった。
こんなの普通じゃない。
「ねー赤ちん、オレも気持ちよくなりたいんだけど」
「そうだな…真司、四つん這いになれるか?」
「っん、…」
おかしいのだと思っていても真司は赤司の言葉に従った。
疲れた体をなんとか四つん這いにする。
顔は紫原の方へ、そして後ろは赤司の方へ。
「紫原、同じことを真司にしてもらうといい」
「まじ?烏羽ちんフェラしてくれんの?」
じじじ、とチャックの下ろされる音。
そこから覗き出たのは、真司のものとは比べ物にならないほど大きなもの。
「烏羽ちん口あーけて」
紫原の指が口を開くよう促してくる。
残念ながら、真司の口のサイズではさっきの紫原がしてくれたようには出来ない。
真司は無理矢理突っ込まれるくらいなら、と薄く開けた口から舌を出してそれを舐め上げた。
当然ながらの男臭さと苦い味が口に広がる。
それに顔をしかめた時、赤司の手が真司の腰を引いた。
「真司、少し痛むぞ」
「っ!?」
ぐちゃっと卑猥な音を立てながら、体の中に入り込む大きな圧力。
赤司の息が少し荒くなるのが聞こえて、見えない場所で何が起こっているのかすぐにわかった。
「っあ、入っ、て」
「ああ、真司の中、気持ちいいよ」
「赤ちんズリー。烏羽ちんもっと舐めて」
「は、あ、…んん、っ」
もう自棄だった、というかもうどうにでもなれ、という投げやりな感覚だった。
今を耐えれば、また変わらない明日が始まるから。
今だけ、赤司の言うままに。
「烏羽ちん、もっと手で擦って」
「ん…ぅ、」
「そーそー。上手上手」
本当に、何も変わらないなんてことが有り得るのか。
紫原に愛撫を繰り返しながら、揺さぶられながら、真司の心はどこか別の意識へ飛んでいた。
赤司との関係とは、もはや依存に近くて。そこに本当の愛情というものがあったのかどうか、それさえ微妙なのに。
繋がった体。囁かれる愛の言葉。
その関係を受け入れて、そんな関係に満足して。
「あ、赤司、く…」
「ん?」
「お、れ…っぁ、俺のことっ」
「あぁ、愛してるよ」
本当に?
とは聞けなかった。
赤司が何を考えているのかわからない。愛してるってなんだ。愛ってなんだ。
「真司、何を考えてる?」
「っ、ん…んん…」
「余計なことは考えなくていいんだ、真司…」
優しく名前を呼ばれて、それだけで満たされる自分の弱い心が妬ましい。
それでも、この瞬間に真司は気持ち良くて何も考えられなくなって。
真司はまた、体をベッドに預けて意識を飛ばした。
・・・
赤司が優しく真司を撫でる。
それを見ていた紫原は、むっと頬を膨らませて真司の体に抱き着いた。
「赤ちん、ずっとこんなことしてたの~?」
「まさか。そう何度もする行為ではないだろう」
「そお?気持ちいんだから、やれるだけやった方が良くね?」
「そういうものではないんだよ」
ふーん、と興味なさげに紫原が息を漏らす。
甘い匂いと美味しそうな体。紫原は無意識に意識を失っている真司の体に舌を這わせた。
「こら」
ぱしっと赤司の手が紫原の頭を叩く。
珍しく赤司が執着する男。それは確かに他とは違う魅力で溢れている。
容姿、才能、そしてその生い立ち。
「…緑間、そろそろ出てきたらどうだ」
「え、ミドチン?」
急に赤司が扉の向こうに呼びかけて、それに応えるように扉が開いた。
複雑そうに眼鏡を指で持ち上げている緑間。
赤司はその緑間の様子を見て、ふっと笑った。
「何か、言いたそうだな」
「…赤司、お前は…そいつをどうしたいんだ」
行為の途中にここにやってきてしまった緑間は、終わるまで扉の前で待機していたらしい。
そこで乱れたまま眠りについている真司に視線が合わせられないのは、そのせいだろう。
「オレはただ、真司を可愛がってやりたいだけだよ」
「本当にそれだけか?」
「そうだな、言葉が足りなかった。皆で、可愛がってやりたい」
緑間が呆れたようにため息を吐く。
紫原はもう興味が薄れたのか、鞄の中からまいう棒を取り出してもそもそと食べ始めた。
静かな空間に、ぼりぼりと食べる音だけが耳につく。
「烏羽を、愛しているのではないのか」
「愛しているよ」
「さっきから…お前は言うこととやっていることが矛盾しているのだよ」
「そうだろうな」
赤司の手が真司の髪を梳く。
愛している。出会ったその瞬間に、自分はこの小さな男に惚れるだろうと確信した。
そして、自分が彼にとっての一番になれないことも。
「真司のような…愛に飢えている存在にとって必要なのは、恋人じゃない、友だ」
「何を言っているのだよ」
「オレは、真司にとって一番必要である友となり得る存在を奪おうとしている」
「…」
緑間はようやく赤司の思惑に気付いて、息を呑んだ。
そして、自分がまんまとその赤司の思い通りに動いていたことにも気付いてしまった。
「…酷い、と言われても仕方ないが…緑間、お前には言えないだろう」
「それは…」
「仕方ないさ。こいつには、それだけの魅力がある」
真司を見つめる赤司の目は、確かに愛で満ちている。
愛している、という言葉に偽りは無いようだが、それでも赤司は歪んでいる。
それでも、緑間には何も言えない。
ただ、友として真司を支えている黒子と青峰を信じるしかなかった。
「お前さ、どうやって赤司に取り入ったんだよ」
がんっと体の大きな男の手が顔の横を通り過ぎる。背中にはコンクリートの壁。
痛くないのかな、などと悠長に男の手を心配している場合ではなく。別の男の体で逃げ道を塞がれた。
「黄瀬みたいに上手いならまだしも、お前下手じゃん」
「レギュラーの奴等とばっか親しくして、あからさまっつか。よくバスケ部に出て来れるよな」
「足速いとか、陸上部にでも行けよ」
放課後、体育館裏に来い。だなんてよくあるシチュエーションが真司に降りかかったのは、入部してからもう随分経った頃だ。
むしろ遅かったと思うほど、真司にも予想出来た事態で。
それ故に驚くことも怖じ気付くこともなかったのだが、それは相手を一層苛立たせていた。
「なんとか言ったらどうなんだよ!」
今度は別の男の足が壁を蹴る。
なんとか言えと言われても、今この状況の中で言うべき台詞が全く浮かばない。
それこそ、もっと彼等を煽るような挑発的言葉しか出てこなくて、真司はうーんと唸った。
「あ?なんだよ」
「…強いて言うならば、こんなことをしている暇があるなら練習に出た方が良いんじゃないですか、と」
「てめぇ…!」
思い浮かんだ台詞の中でもなるべく普通なものを選択したつもりだったが、やはり怒らせたようだ。
振り上げられた拳は、今度こそ真司の頬へ飛んできた。
「あぶなっ!何すんですか!」
「おい、こいつ押さえろ」
「おい、さすがに暴力は」
「いーから」
リーダーらしき奴の指示で腕を押さえ込まれる。
あ、やばい。ここに来てようやく真司は自分の分の悪さに気付いたが、それも今更遅すぎる。
目の前に翳された拳に対応する術をなくした真司はきつく目を閉じて、それを受け入れる覚悟を決めた。
「あ、こんなとこにいた~」
間の抜けた声は、真っ暗な視界とその状況にあまりにそぐわなくて。
恐る恐る目を開けた真司も、男たちも、暫く呆然とその声の主を見据えていた。
「赤ちんが探してるよ、烏羽ちん」
「あ、え…俺?」
「そ。だから遊んでないで早く行こー」
のそのその巨体が近付いてくる。
真司はこの救世主なのかはたまた大魔王なのか素性の知れない男をじっと見つめた。
赤ちん、とは恐らく赤司のこと。この巨体で紫色の髪をした者にも当然見覚えがある。
「おい紫原、邪魔すんなよ」
「は?なんでオレのこと知ってんの?」
「っ、強い奴以外興味ねーってか」
そう、紫原。青峰や黒子と同じ、バスケ部のレギュラーだ。
「バスケ部なの?じゃあ烏羽ちんのこと虐めてたってことだよね」
「は?」
「赤ちんに烏羽ちんと一緒にいるのがバスケ部の下級の奴だったら捻り潰せって言われてんだよね、オレ」
たんたんと、当然のように。
そこにはこの紫原の大きさだけでは説明出来ない恐怖があった。
「ちっ…これで済むと思うなよっ!」
ばたばたとさっきまでの威勢はなんだったのか、男たちは紫原を前に一目散に逃げ出した。
結局、自分より体のでがい奴は怖いということなのだろう。
紫原は興味など端から無かったかのように、男たちの背中を見ることなく真司に近付いた。
近付けば近付くほどその大きさは際立って、真司の首はどんどん上を向かされていく。
「だいじょぶ?」
「いやぁ…本気で危なかった。ありがと紫原君」
「いえいえー」
ふにゃっと笑った紫原は思いの外可愛らしくて。首の疲れを感じながらも、真司はそれを嫌だとは思わなかった。
「赤司君に頼まれてきたの?」
「そーだよ。烏羽ちんが来ないからさぁ」
「あ…ご迷惑をおかけしました」
「まいう棒一週間分で許したげるー」
気が抜けた。
見た目だけで人は判断できないとはまさに紫原の為にあるような言葉だ。と思う真司も人のことを言える立場の人間ではないが。
くるっと体の向きを変えて部活を行う体育館へと歩き出す紫原の後ろを小走りでついていく。
二人の歩幅はもはや親子に例えられる程に開いていた。
「烏羽ちん遅いー」
「紫原君、でかい」
「烏羽ちんはちっちゃいね~。抱っこしたげる」
「……え?」
ひょいっと、同学年の男子だという事実が疑われる程に軽く片手で持ち上げられた真司の足は、経験したことがない高さに。
「烏羽ちん軽すぎい…。わたあめみたい」
「わ、わたあめ…」
「美味そうだし」
「…え?」
何やら不吉なことを言われたような気がするが、紫原は変わらず前を見たまま歩いている。
気にした方が負け、だということなのか。
紫原に担がれた状態でその首に手を回すとピタッと体が密着した。
「暖かい…」
「烏羽ちん寒いの?」
「ちょっと、今になって恐怖が」
「あららー。よしよし」
大きい手ががしがしと真司の頭を撫で回す。
初対面というか、初めて交わすやり取りとは思えないのは、紫原が赤司から真司のことを聞いているからだろう。
赤司の側に紫原がくっついている光景は今まで何度も見てきた。
真司のことをどのように扱うか指示されているのかもしれない。
「で、その烏羽ちんって呼び方は一体」
「赤ちんが烏羽って呼んでたから~。可愛くね?」
可愛いかはわからないが別に嫌なわけではなく、真司は紫原の頭の上でこくりと頷いた。
高い視点。違って見える景色。
体が大きかったら何か違ったかもしれないと思っていたこともあった。
しかし、今、真司の心は変わらないどころか怯えている。大きすぎるのも考え物だ。
「赤司君は、俺のこと何か言ってた?」
「そーそー。珍しく赤ちんが独り占めしないの。オレにもくれるんだって~」
「……え、それって、俺の話?」
「それ以外に何があんの?」
なんだろう、急に自分を片手で抱え込むこの男が怖くなった。
いやそれよりも、赤司は本当にそんなことを言ったのか?
あげる、くれるなどのやり取りに自分を巻き込んでいるのか?
「あ、赤ちん。連れてきたよ~」
びくっと体が震えた。
思わずぱっと顔を上げると、目の前に壁。
「えー…」
気付いても避けることが出来なかったのは、足が宙に浮いていたから。
元々並外れた身長を持つ紫原に担がれた真司の頭の位置は、完全に人が通る為に造られた扉の高さを越えていた。
ごすっという鈍い音がして、真司の意識がフェードアウトしていく。
遠く、紫原のあ、という抜けた声が聞こえた。
・・・
「痛い」
目を覚まして第一声はもちろんこれだ。
触ればぷっくりとこさえたタンコブ。
きしっと聞き慣れない音に、指を滑る生地の感触はベッドで寝かされていたことを真司に気付かせた。
「烏羽」
「あれ、赤司君」
「うぅ…ごめんね、烏羽ちん」
「紫原君」
二つの顔が真司を覗き込む。
ずっとついていてくれたのかとも思ったが、そうでないと気付いたのは時計を視界に映したときだ。
部活終了時刻を過ぎている。
「ずいぶんと長いこと寝ていたな。疲れも溜まっていたのだろう」
「申し訳ない…」
「烏羽ちんは悪くないよ」
「あぁ、烏羽は何も悪くない」
眉を下げた紫原と、柔らかく微笑んでいる赤司。
アンバランスにも見える二人だが、考えていることが一致しているのか、いつも不思議なくらい息が合っている。
しかし、今この時は少し違っていた。
「紫原、烏羽のこと、気に入ったようだな」
「うん。烏羽ちん、可愛いし」
「烏羽、何か不安に思うことがあるようだが、心配することはない」
赤司の手が真司の胸に触れた。
カーディガンのボタンが一つずつはずされていく。
「あ、赤司君…!?」
「これからも守ってやるし、愛してやる。お前から離れていかない限り」
「そ、れは…それとこれとは」
「紫原、よく見ていろ」
赤司はちらりと紫原を見てから、真司の体に触れた。
カーディガンが脱がされ、ワイシャツ一枚となった真司の上半身をじれったくなぞる。
ワイシャツ越しでもわかる乳首の膨らみをかすったり摘まんだり。
「や…赤司君」
「違う、もっと、だろ」
「っ」
「欲しいならお願いしないと、真司」
赤い、吸い込まれそうな程に美しい瞳に真司が映っている。
それが嬉しくて、真司は震える手を赤司の肩に乗せた。
「ぁ、赤司君…」
自分でも驚く程の甘ったるい声が赤司を呼ぶ。
それを聞いた赤司はふっと笑って、紫原はじっと真司を見つめる視線を逸らさなかった。
「服を脱ぐんだ」
赤司の言う通りに、真司はワイシャツのボタンをはずし、ズボンのベルトを緩めた。
カーテンで覆われた光さえも入り込まない空間に、真司の細い体が晒される。
「いい子だな」
真司が乗っている一人用のベットに赤司も上がり、真司の開いた胸元にキスを落とした。
それだけで真司の羞恥心はどうしようもなく膨れ上がるのに、赤司は真司の後ろに回って足を掴んだ。
目の前の紫原が目を丸くしてこちらを見ている。
驚いたのは真司も同じ。足を左右に思いきり開かされて、真司の股間は丸見えになっていた。
赤司にも、紫原にも、そして自分にも。
「これ、や、やだ、赤司君っ」
「大丈夫、可愛いよ」
耳元で赤司が囁く。真司は赤司の声が好きで好きで大嫌いだった。
逆らえない、従わなくちゃ。自分の願望の為に頭が勝手に働きかける。
「もう濡れてるな。まだ二度目なのに」
「赤司君がっ、変なことするから…!」
「見られて感じてるんだろ?」
「感じてなんか、っぁ」
赤司の手が包み込む。たったの二度目、されど真司にとってこの行為は、人生を変えたと言っても大げさではないもの。
以前の感覚を思い出して、真司の白い肌は何もせずとも桃色に色付いていった。
「赤ちん、まだお預け~?」
「なんだ紫原。我慢出来なくなったか?」
「オレも烏羽ちん触りたいしー」
「好きにしていいぞ」
のそっと大きな体が動いた。
同時に赤司の手が離れて、その濡れた手は真司の乳首を再びいじくり回す。
股を開くことを強要する手はなくなった。しかし、閉じようとした足を今度は紫原によって止められていた。
「紫原く、…なにを…」
赤司が耳元で笑う。紫原は、真司の足と足の間に顔を近付けていた。
それを目で捕らえた次の瞬間には、紫原の大きな口の中に飲み込まれて。びりっと全身に感じたことのない刺激が走っていた。
「っうあ、あぁ…!」
「紫原、美味しいか?」
「んー」
「だめ、しゃべっちゃ、ッ」
もごもごと紫原が口を動かすだけで、強烈な刺激が真司を襲った。
いつの間にか絶えず流れる涙で顔はぐしゃぐしゃになってしまっている。
そんな真司を、赤司は愛しそうに見つめた。
「少し、後ろも解そうか」
赤司の指は、今度は胸から腰、そしてまだ筋肉のあまり付かない柔らかい尻まで辿った。そこに割り込むように力を加え、少しずつ中へと進んでくる。
「あっ!」
「大丈夫、すぐ良くなる」
「ひ、ぁ」
わからない、どうしてこんなことをしているのか。
正直、わかりたくはなかった。このまま踏み外して不純な汚い感情ばかり持ってしまったら。
もう戻れない。戻る場所なんてない。戻りたくない。
「あああっ」
どくんと全身に巡った刺激に真司の体がのけ反った。
「後ろもちゃんと感じられたみたいだな」
「うえー、飲んじゃった」
「紫原、どうだ?真司の味は」
「まいう棒のがいい…」
「はは、そうか」
赤司の体に寄っ掛かって息を荒くする。
今までのことが嘘だったかのように、普通に会話する二人を辛うじて意識の隅に映して、その内容に耳を塞ぎたくなった。
こんなの普通じゃない。
「ねー赤ちん、オレも気持ちよくなりたいんだけど」
「そうだな…真司、四つん這いになれるか?」
「っん、…」
おかしいのだと思っていても真司は赤司の言葉に従った。
疲れた体をなんとか四つん這いにする。
顔は紫原の方へ、そして後ろは赤司の方へ。
「紫原、同じことを真司にしてもらうといい」
「まじ?烏羽ちんフェラしてくれんの?」
じじじ、とチャックの下ろされる音。
そこから覗き出たのは、真司のものとは比べ物にならないほど大きなもの。
「烏羽ちん口あーけて」
紫原の指が口を開くよう促してくる。
残念ながら、真司の口のサイズではさっきの紫原がしてくれたようには出来ない。
真司は無理矢理突っ込まれるくらいなら、と薄く開けた口から舌を出してそれを舐め上げた。
当然ながらの男臭さと苦い味が口に広がる。
それに顔をしかめた時、赤司の手が真司の腰を引いた。
「真司、少し痛むぞ」
「っ!?」
ぐちゃっと卑猥な音を立てながら、体の中に入り込む大きな圧力。
赤司の息が少し荒くなるのが聞こえて、見えない場所で何が起こっているのかすぐにわかった。
「っあ、入っ、て」
「ああ、真司の中、気持ちいいよ」
「赤ちんズリー。烏羽ちんもっと舐めて」
「は、あ、…んん、っ」
もう自棄だった、というかもうどうにでもなれ、という投げやりな感覚だった。
今を耐えれば、また変わらない明日が始まるから。
今だけ、赤司の言うままに。
「烏羽ちん、もっと手で擦って」
「ん…ぅ、」
「そーそー。上手上手」
本当に、何も変わらないなんてことが有り得るのか。
紫原に愛撫を繰り返しながら、揺さぶられながら、真司の心はどこか別の意識へ飛んでいた。
赤司との関係とは、もはや依存に近くて。そこに本当の愛情というものがあったのかどうか、それさえ微妙なのに。
繋がった体。囁かれる愛の言葉。
その関係を受け入れて、そんな関係に満足して。
「あ、赤司、く…」
「ん?」
「お、れ…っぁ、俺のことっ」
「あぁ、愛してるよ」
本当に?
とは聞けなかった。
赤司が何を考えているのかわからない。愛してるってなんだ。愛ってなんだ。
「真司、何を考えてる?」
「っ、ん…んん…」
「余計なことは考えなくていいんだ、真司…」
優しく名前を呼ばれて、それだけで満たされる自分の弱い心が妬ましい。
それでも、この瞬間に真司は気持ち良くて何も考えられなくなって。
真司はまた、体をベッドに預けて意識を飛ばした。
・・・
赤司が優しく真司を撫でる。
それを見ていた紫原は、むっと頬を膨らませて真司の体に抱き着いた。
「赤ちん、ずっとこんなことしてたの~?」
「まさか。そう何度もする行為ではないだろう」
「そお?気持ちいんだから、やれるだけやった方が良くね?」
「そういうものではないんだよ」
ふーん、と興味なさげに紫原が息を漏らす。
甘い匂いと美味しそうな体。紫原は無意識に意識を失っている真司の体に舌を這わせた。
「こら」
ぱしっと赤司の手が紫原の頭を叩く。
珍しく赤司が執着する男。それは確かに他とは違う魅力で溢れている。
容姿、才能、そしてその生い立ち。
「…緑間、そろそろ出てきたらどうだ」
「え、ミドチン?」
急に赤司が扉の向こうに呼びかけて、それに応えるように扉が開いた。
複雑そうに眼鏡を指で持ち上げている緑間。
赤司はその緑間の様子を見て、ふっと笑った。
「何か、言いたそうだな」
「…赤司、お前は…そいつをどうしたいんだ」
行為の途中にここにやってきてしまった緑間は、終わるまで扉の前で待機していたらしい。
そこで乱れたまま眠りについている真司に視線が合わせられないのは、そのせいだろう。
「オレはただ、真司を可愛がってやりたいだけだよ」
「本当にそれだけか?」
「そうだな、言葉が足りなかった。皆で、可愛がってやりたい」
緑間が呆れたようにため息を吐く。
紫原はもう興味が薄れたのか、鞄の中からまいう棒を取り出してもそもそと食べ始めた。
静かな空間に、ぼりぼりと食べる音だけが耳につく。
「烏羽を、愛しているのではないのか」
「愛しているよ」
「さっきから…お前は言うこととやっていることが矛盾しているのだよ」
「そうだろうな」
赤司の手が真司の髪を梳く。
愛している。出会ったその瞬間に、自分はこの小さな男に惚れるだろうと確信した。
そして、自分が彼にとっての一番になれないことも。
「真司のような…愛に飢えている存在にとって必要なのは、恋人じゃない、友だ」
「何を言っているのだよ」
「オレは、真司にとって一番必要である友となり得る存在を奪おうとしている」
「…」
緑間はようやく赤司の思惑に気付いて、息を呑んだ。
そして、自分がまんまとその赤司の思い通りに動いていたことにも気付いてしまった。
「…酷い、と言われても仕方ないが…緑間、お前には言えないだろう」
「それは…」
「仕方ないさ。こいつには、それだけの魅力がある」
真司を見つめる赤司の目は、確かに愛で満ちている。
愛している、という言葉に偽りは無いようだが、それでも赤司は歪んでいる。
それでも、緑間には何も言えない。
ただ、友として真司を支えている黒子と青峰を信じるしかなかった。