黒バス(2012.10~2017.12)
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灰崎とかいう男に水をぶっかけられて帰宅した翌日。
緑間の心配も虚しく真司は風邪をひいた。
なんてことないだろうと学校に行ったものの具合は悪化するばかりで。
「赤司にはオレから言っておくから、もう帰れよ」
という青峰の優しいお言葉に折れて、真司はまだ午前のうちに帰宅することとなった。
言うまでもないが、帰宅したところでそこには誰もいない。いたとしても心配の一つもしてはくれないのだろうが。
「う~…」
ずびずびと鼻をすすりながら、なんの意味をも成さない声を発する。
どこにあったか体温計を探しながら、いそいそと制服を脱ぎ捨てた。
確実に、じわじわとダルさが増して行く。中途半端に学校なぞに行って悪化させたのだろう。
朝脱ぎ捨てたばかりのスウェットに着替え、真司はようやく机の中から体温計を見つけ出し、自分の脇にセットした。
「(頼むから熱は止めてくれよ…)」
心配になるのは授業の方だ。
真司は勉強をしない。しなくても出来るのは元から知識があるからではなく、授業さえ聞いていればどうにでもなったからだ。
ただの風邪ならすぐに完治を望めるが、熱が出てしまうと長引く可能性が高い。
ピピ、と高い機械音。
恐る恐る服の下から取り出せば、38という文字の並び。
「あーあぁ…」
がくんと項垂れて、それでも今日中に治せばいいんだとポジティブに構える。
真司は乱れた布団を直すと、そのままベッドに上がった。
人肌離れていた布団はまだひんやりとしている。
それがまた気持ちいいかも。ぼんやりとそう感じて、真司は目を閉じた。
・・・
ピンポーンと耳を掠めた音は、我が家のチャイムだ。
薄く目を開けると、もう一度、今度ははっきりと聞こえたその音に、真司はのそっと起き上がった。
どれ程寝たのだろう。辺りは暗くなっている。
「…はいはーい」
重い頭のまま、真司はとんとんと階段を降りて玄関に向かった。
かちゃ、とドアを開ける。少しだけ開けてその向こう側にいる人を確認すればそこには。
「嘘、え、なんで」
ぱたぱたと軽く履いたサンダルで飛び出す。
「あ、おい出てくんなって」
「烏羽君。具合大丈夫ですか?」
「青峰君、テツ君…!」
駆け寄って門を開けると、そこにいた青峰と黒子は心配そうに真司の顔を覗き込んだ。
「上がってもいいですか?」
「え、それは勿論…」
「んじゃ上がらせてもらうぜ」
青峰の手が真司の背中を押す。黒子の手が優しく真司の手を握った。
なんだこれ、顔が熱い。
「熱は…ありそうですね」
「え、あ、ちょっと、だけ」
「体温計ったか?」
「さっきは、38℃」
「ちょっとじゃねーじゃん。寝てろよ」
いや君等に起こされたんですけど。
という本音は口に出さなかった。じゃあ帰る、という言葉が聞きたくなかったからだ。
ちら、と黒子の手元を見るとコンビニの袋。二人はお見舞いに来てくれたんだ、と今更ながらその事実に気付く。
「台所を借りてもいいですか?」
「う、うん、えっと」
「はいはい真司、お前はさっさと布団に戻れ」
「あ、」
ぽん、と頭を叩かれ、真司は青峰と共に自室へ向かった。
青峰は真司の少し後ろをついてくる。きょろきょろと視線をさ迷わせているのは、初めて見る真司の家をその目に焼き付ける為か。ただ単に興味があるだけか。
「あ、んま見ないでよ」
「あ?」
「恥ずかしーじゃん。汚いし」
「オレの部屋と比べたら相当綺麗だぜ」
開けられた真司の部屋を見た青峰は、特にどうという反応は見せなかった。真司の部屋が感想の述べようもない一般的な空間である、ということだろう。
確かに、青峰の部屋は汚なそうだ、という勝手なイメージを持ちながら、真司は布団に体を入れた。
「窓、少し開けっぞ」
「うん」
電気が灯された部屋の時計を見ると、既に20時近くを指している。
今日も遅くまで部活に精を出していたのだろう。青峰の汗臭さがそれを明らかにする。
「真司、灰崎にやられたって?」
窓を開けながら、青峰が小さな声で言った。
「緑間に全部聞いた。」
「あー…うん。すごい人だよね。久々に相当頭に来るやつだと思ったなあれは」
「バスケの実力は確かにあんだけど…手も足もすぐ出す奴でさ」
背の高い青峰の顔が近付いた。
ベッドの横に膝をついて、真司の顔を見つめる青峰の表情は優しく緩められている。
「真司、ありがとな」
「何?」
「緑間に聞いたっつったろ」
感謝されるような事をした覚えはないが、青峰があまりにも優しい顔で微笑むから、真司は何も言わずにその感謝の言葉を受け入れることにした。
普段がさつな男のせいか、このような笑みを向けられると心拍数がおかしくなる。
鼻まで布団に埋めてにやけそうになるのを隠す。すると、たんたんと階段を上がってくる足音が近付いてきた。
「青峰君、大変です」
「テツ?」
青峰の声を頼りに真司の部屋にたどり着いた黒子の手には、真司がよくサラダを食べるために使う皿。
「ボク、りんごの皮剥き下手くそでした」
「うわ、テツ、なんだそれ!」
げらげらと笑う青峰の見ているものは、その皿に乗せられたりんごであるらしい。
しょぼんとした黒子がベッドの脇に近付く。
そこには、丸みを失ってがたがたに切り分けられたりんご。原因は皮を剥くときに一緒に削られた身のせいのようだ。
「すみません、烏羽君…。勝手にいろいろ借りてしまった上…」
「ううん、すごく嬉しいよ…!」
黒子が切ってくれた歪なりんごの欠片を掴んで口に運ぶ。見た目など関係なく、口に含めば甘いりんごの汁が口の中に流れる。
「食べやすい大きさだし」
「ハッ、真司、それ嫌味か?」
「違う違う。本当に嬉しいんだ。こんなの初めてだから」
見舞いに来てくれる友人。
今まで友達がいなかったわけじゃない。ちゃんとふざけあえる友達はいたけれど、それとは違って。
そこにいるから仲良くするのではなく、離れていても思ってくれる。
「ありがとう。本当に」
「礼なんていらねーって。こっちはしたくてしてんだから」
「そうですよ。具合悪いところ煩くてごめんなさい。主に青峰君が」
「おいテツ」
「ふふ」
二人のやりとりに思わす笑みが漏れる。
「…少し元気出ました?」
「あ、うん」
「早く治して復帰しろよな」
青峰の手が、真司の頭を撫でまわした。暖かい手。暖かい笑顔。
横にいる黒子も目を細めて笑っていて、それは真っ直ぐに真司に向けられたものだ。
最近知り合ったばかりなのに、ここまで大事に思ってもらえるなんて。むしろ今まで出会わなかったことが不思議に思えてくる程に、当たり前のように幸せを分けてくれる。
「…二人とも、大好き」
素直に思いを伝えれば、二人は互いの顔を見やって、照れたようにこちらに笑いかけた。
「暖かくして寝て下さいね」
「無理はすんなよ!」
ぶんぶんと手を振って出て行く二人に手を振り返して、その日は終わりを迎えようとしていた。
この幸せのまま寝てしまたい。
真司はぱたんのベッドに体を預けて目を閉じた。
結局、翌日にも熱が下がることはなく。
真司が学校に行ける程に回復したのは、それから二日後のことだった。
・・・
「お?真司!」
朝から騒がしい男が教室に入ってくる。
ぱっと咲いたような笑顔を張り付けている彼は、教室に並べられた机を避けながら嬉しそうに駆け寄ってきた。
「はよ、青峰君」
「もう平気なのか!?」
「おう、おかげさまで」
大丈夫だというに青峰は真司の頬に手を当てて、どのくらいの体温が平熱かなど知らないくせにウンウンと頷いた。
「お前いねーとセンコーから丸見えなんだよ」
「あーそうだろうね」
そんな理由かよ、と真司が突っ込まなかったのは、本当に心配してくれていたことを知っているから。
そして、それだけが理由だとは思えない程に青峰が嬉しそうに笑っているから。
「青峰君」
「んー?」
「青峰君は熱なんかで休まないでね」
「んなヤワじゃねーけど、なんでだよ」
「寂しくなっちゃうから」
青峰くんは大丈夫だったみたいだけど。
そう続けると、青峰はぽりぽりと頬をかいて、それから照れたように笑った。
「真司も、もう風邪なんかひくなよ」
「なんで?」
「つまんないだろーが」
あぁ、やっぱり好きだなあ。
しみじみと感じながら、二人はチャイムの音でそれぞれの席に分かれた。
振り返ると目があって、また笑い合う。
たまには風邪ひくのもいいかな、なんてことを考えながら、真司は窓の外に目を向けて小さく微笑んでいた。
緑間の心配も虚しく真司は風邪をひいた。
なんてことないだろうと学校に行ったものの具合は悪化するばかりで。
「赤司にはオレから言っておくから、もう帰れよ」
という青峰の優しいお言葉に折れて、真司はまだ午前のうちに帰宅することとなった。
言うまでもないが、帰宅したところでそこには誰もいない。いたとしても心配の一つもしてはくれないのだろうが。
「う~…」
ずびずびと鼻をすすりながら、なんの意味をも成さない声を発する。
どこにあったか体温計を探しながら、いそいそと制服を脱ぎ捨てた。
確実に、じわじわとダルさが増して行く。中途半端に学校なぞに行って悪化させたのだろう。
朝脱ぎ捨てたばかりのスウェットに着替え、真司はようやく机の中から体温計を見つけ出し、自分の脇にセットした。
「(頼むから熱は止めてくれよ…)」
心配になるのは授業の方だ。
真司は勉強をしない。しなくても出来るのは元から知識があるからではなく、授業さえ聞いていればどうにでもなったからだ。
ただの風邪ならすぐに完治を望めるが、熱が出てしまうと長引く可能性が高い。
ピピ、と高い機械音。
恐る恐る服の下から取り出せば、38という文字の並び。
「あーあぁ…」
がくんと項垂れて、それでも今日中に治せばいいんだとポジティブに構える。
真司は乱れた布団を直すと、そのままベッドに上がった。
人肌離れていた布団はまだひんやりとしている。
それがまた気持ちいいかも。ぼんやりとそう感じて、真司は目を閉じた。
・・・
ピンポーンと耳を掠めた音は、我が家のチャイムだ。
薄く目を開けると、もう一度、今度ははっきりと聞こえたその音に、真司はのそっと起き上がった。
どれ程寝たのだろう。辺りは暗くなっている。
「…はいはーい」
重い頭のまま、真司はとんとんと階段を降りて玄関に向かった。
かちゃ、とドアを開ける。少しだけ開けてその向こう側にいる人を確認すればそこには。
「嘘、え、なんで」
ぱたぱたと軽く履いたサンダルで飛び出す。
「あ、おい出てくんなって」
「烏羽君。具合大丈夫ですか?」
「青峰君、テツ君…!」
駆け寄って門を開けると、そこにいた青峰と黒子は心配そうに真司の顔を覗き込んだ。
「上がってもいいですか?」
「え、それは勿論…」
「んじゃ上がらせてもらうぜ」
青峰の手が真司の背中を押す。黒子の手が優しく真司の手を握った。
なんだこれ、顔が熱い。
「熱は…ありそうですね」
「え、あ、ちょっと、だけ」
「体温計ったか?」
「さっきは、38℃」
「ちょっとじゃねーじゃん。寝てろよ」
いや君等に起こされたんですけど。
という本音は口に出さなかった。じゃあ帰る、という言葉が聞きたくなかったからだ。
ちら、と黒子の手元を見るとコンビニの袋。二人はお見舞いに来てくれたんだ、と今更ながらその事実に気付く。
「台所を借りてもいいですか?」
「う、うん、えっと」
「はいはい真司、お前はさっさと布団に戻れ」
「あ、」
ぽん、と頭を叩かれ、真司は青峰と共に自室へ向かった。
青峰は真司の少し後ろをついてくる。きょろきょろと視線をさ迷わせているのは、初めて見る真司の家をその目に焼き付ける為か。ただ単に興味があるだけか。
「あ、んま見ないでよ」
「あ?」
「恥ずかしーじゃん。汚いし」
「オレの部屋と比べたら相当綺麗だぜ」
開けられた真司の部屋を見た青峰は、特にどうという反応は見せなかった。真司の部屋が感想の述べようもない一般的な空間である、ということだろう。
確かに、青峰の部屋は汚なそうだ、という勝手なイメージを持ちながら、真司は布団に体を入れた。
「窓、少し開けっぞ」
「うん」
電気が灯された部屋の時計を見ると、既に20時近くを指している。
今日も遅くまで部活に精を出していたのだろう。青峰の汗臭さがそれを明らかにする。
「真司、灰崎にやられたって?」
窓を開けながら、青峰が小さな声で言った。
「緑間に全部聞いた。」
「あー…うん。すごい人だよね。久々に相当頭に来るやつだと思ったなあれは」
「バスケの実力は確かにあんだけど…手も足もすぐ出す奴でさ」
背の高い青峰の顔が近付いた。
ベッドの横に膝をついて、真司の顔を見つめる青峰の表情は優しく緩められている。
「真司、ありがとな」
「何?」
「緑間に聞いたっつったろ」
感謝されるような事をした覚えはないが、青峰があまりにも優しい顔で微笑むから、真司は何も言わずにその感謝の言葉を受け入れることにした。
普段がさつな男のせいか、このような笑みを向けられると心拍数がおかしくなる。
鼻まで布団に埋めてにやけそうになるのを隠す。すると、たんたんと階段を上がってくる足音が近付いてきた。
「青峰君、大変です」
「テツ?」
青峰の声を頼りに真司の部屋にたどり着いた黒子の手には、真司がよくサラダを食べるために使う皿。
「ボク、りんごの皮剥き下手くそでした」
「うわ、テツ、なんだそれ!」
げらげらと笑う青峰の見ているものは、その皿に乗せられたりんごであるらしい。
しょぼんとした黒子がベッドの脇に近付く。
そこには、丸みを失ってがたがたに切り分けられたりんご。原因は皮を剥くときに一緒に削られた身のせいのようだ。
「すみません、烏羽君…。勝手にいろいろ借りてしまった上…」
「ううん、すごく嬉しいよ…!」
黒子が切ってくれた歪なりんごの欠片を掴んで口に運ぶ。見た目など関係なく、口に含めば甘いりんごの汁が口の中に流れる。
「食べやすい大きさだし」
「ハッ、真司、それ嫌味か?」
「違う違う。本当に嬉しいんだ。こんなの初めてだから」
見舞いに来てくれる友人。
今まで友達がいなかったわけじゃない。ちゃんとふざけあえる友達はいたけれど、それとは違って。
そこにいるから仲良くするのではなく、離れていても思ってくれる。
「ありがとう。本当に」
「礼なんていらねーって。こっちはしたくてしてんだから」
「そうですよ。具合悪いところ煩くてごめんなさい。主に青峰君が」
「おいテツ」
「ふふ」
二人のやりとりに思わす笑みが漏れる。
「…少し元気出ました?」
「あ、うん」
「早く治して復帰しろよな」
青峰の手が、真司の頭を撫でまわした。暖かい手。暖かい笑顔。
横にいる黒子も目を細めて笑っていて、それは真っ直ぐに真司に向けられたものだ。
最近知り合ったばかりなのに、ここまで大事に思ってもらえるなんて。むしろ今まで出会わなかったことが不思議に思えてくる程に、当たり前のように幸せを分けてくれる。
「…二人とも、大好き」
素直に思いを伝えれば、二人は互いの顔を見やって、照れたようにこちらに笑いかけた。
「暖かくして寝て下さいね」
「無理はすんなよ!」
ぶんぶんと手を振って出て行く二人に手を振り返して、その日は終わりを迎えようとしていた。
この幸せのまま寝てしまたい。
真司はぱたんのベッドに体を預けて目を閉じた。
結局、翌日にも熱が下がることはなく。
真司が学校に行ける程に回復したのは、それから二日後のことだった。
・・・
「お?真司!」
朝から騒がしい男が教室に入ってくる。
ぱっと咲いたような笑顔を張り付けている彼は、教室に並べられた机を避けながら嬉しそうに駆け寄ってきた。
「はよ、青峰君」
「もう平気なのか!?」
「おう、おかげさまで」
大丈夫だというに青峰は真司の頬に手を当てて、どのくらいの体温が平熱かなど知らないくせにウンウンと頷いた。
「お前いねーとセンコーから丸見えなんだよ」
「あーそうだろうね」
そんな理由かよ、と真司が突っ込まなかったのは、本当に心配してくれていたことを知っているから。
そして、それだけが理由だとは思えない程に青峰が嬉しそうに笑っているから。
「青峰君」
「んー?」
「青峰君は熱なんかで休まないでね」
「んなヤワじゃねーけど、なんでだよ」
「寂しくなっちゃうから」
青峰くんは大丈夫だったみたいだけど。
そう続けると、青峰はぽりぽりと頬をかいて、それから照れたように笑った。
「真司も、もう風邪なんかひくなよ」
「なんで?」
「つまんないだろーが」
あぁ、やっぱり好きだなあ。
しみじみと感じながら、二人はチャイムの音でそれぞれの席に分かれた。
振り返ると目があって、また笑い合う。
たまには風邪ひくのもいいかな、なんてことを考えながら、真司は窓の外に目を向けて小さく微笑んでいた。