ナツ夢(2012.02~2016.05)
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〇悩み
カラカラ、グラスに入った氷が揺らされ音を鳴らす。
少し大人っぽく指と指で挟んでいたグラスがカウンターに置かれ、最後にもう一度高い音を立てた。
「はあ…」
漏れた息と、俯き気味の目元。
そんな色香に触れた女性達は同様にため息をつき、熱っぽくなる頬を押さえた。
たかだかギルドに設置されたバー擬きのカウンター。
ロアがいるだけでそこはあっという間に本格的な大人のバーだ。
「なあ、ルーシィ…」
吐息混じりに呼びかけられたルーシィは、頬杖をついたままロアを見つめ返した。
引き込まれそうな金の瞳。下ろされた髪は肌をつたって流れ、光に触れてキラキラ光る。
ルーシィは強調した胸をカウンターに乗せ、「何よ?」と返した。
「キスしたい」
「ロア…」
ロアの形の良い唇が求めている。
既に周りでは数人女性が倒れているが、当人は知ったことではない。
ルーシィはふう…と息を吐き、目を細めた。
「すればいいじゃない」
誰がこの二人だけの世界に入っていけるだろう。
一体誰がこの雰囲気を打ち壊せるというのだろうか。
「だって…タイミングわかんないんだもん…!!」
「あーもう!本人にいいなさいよ!!」
前言撤回。
二人の様子を見つめていたミラジェーンは額を押さえて苦く笑った。
「何?さっきからどうしたのよ、ロアは」
「ミラさん!この絡み酒どうにかして…!」
ルーシィはカウンターに突っ伏し、ミラに向かって腕を伸ばした。
そりゃ平和な日常に、日が落ちてから酒を嗜むなんてどうぞご勝手にだ。
けれどロアは厄介なタイプだった。
「ロア?今日はどうしたの?」
「ん…キスがしたい」
「ナツと?」
「ん」
顎に手を当て、「まあそうよねぇ」と当然のように笑うミラは勿論、隣で呆れ顔を浮かべるルーシィも周知の事実。
少し前にめでたく二人は結ばれたらしい。
とはいえ昔っから特別仲が良かった二人だ、特に傍から見ていて変化は大してない。
「今どれだけの人を泣かせているか…ロアは気付いた方がいいわね」
「泣きたいのは俺だ」
「はいはい。分かったから、堂々とそういうアピールは止めなさい?」
子供をあやすように、ミラはロアの頭に手を重ねた。
疾うに倒れた女性達は知ってか知らずか。ともかくロアはナツにご執心だ。
「それで、どうしてこんなことになっちゃったのよ、ロアは」
「ルーシィ、聞いてくれるか?」
「あー…」
しまった、と気付いたがもう遅い。
ルーシィが密かに頭を抱える横で、ロアはカウンターに乗せた両手をぎゅっと合わせた。
「実は…今までもキスしたことあるんだけどさ、」
この時点でルーシィは耳を塞ぎたい一心だった。
何せこの話に出てくるキスした二人というのは仲間である二人だ。
しかもどちらも男。ロアとナツ、ロアはともかくナツでそういう想像は何ともし辛い。
「何かきっかけがあったわけじゃないんだよ。ないんだけど、自然に…しちゃった、みたいなさ」
「はいはい、それで?」
「いざしたい時…どうしたらいいか分かんないんだよ…」
ああ、心底どうでもいい。と思うルーシィの目の前で、ミラは何とも楽しそうに微笑んだ。
「いいじゃない、キスしたいって、今みたいに言えば」
「い、言えないって!だって、ナツだぞ、ナツ、あんな、俺みたいに考えてなさそうってか、興味なさそうってか…っ」
「そうかしら?ナツだって男の子なんだし、そういう欲求はあるんじゃない?」
「…そう?そうかなぁ…」
ルーシィは耳を塞ぎたい手でグラスをとった。
そのままぐいと喉を潤し、まさかの女子トークを繰り広げる二人を横目で見る。
ミラジェーンはロアやナツと同じく古株だ。二人のもどかしい関係についても、ルーシィと違って思うところはあるのだろう。
「…だからって」
「なあ、ルーシィもそう思う!?」
「し、知らないわよ…!本人に聞いたらいいんじゃない?」
若干投げやりに返すルーシィに、ロアは「んー…でも」と渋る。
結局答えなんて求めてはいないのだ。抱え込んだ悩みを打ち明けて、聞いてもらいたいだけ。
それでもやはりそれが悩みである事実には変わりなく、ロアははぁ…っと溜め息を吐いた。
「俺って、やっぱ女の子だったんじゃないかなあ…」
「今度は何よ」
厄介な酔っ払いは、一つ解決する前にもう一つの悩みを吐き出した。
「ルーシィもミラも、勿論すっごく素敵だよ、グラマラスだし…」
「あら、有難う」
「でもさあ…俺、女の子を抱きたいって欲求ないんだよな…」
「ブッ!!」
思わず吹き出したルーシィに対し、ミラは少し目を丸くして「あら」と口元を押さえた。
相変わらず頬は赤く、グラスを弄ぶ手は特に何も考えていない。
「ちょ、ちょっと、これ以上はまずいんじゃないの!?ミラさん止めて!」
「面白そうじゃない」
「い、いや、私聞きたくない!今後の関係に差し支える!!」
さすがに耐えられず、ルーシィがロアの口を塞ごうと手を伸ばす。
その瞬間、カウンターがバンッと音を立てた。
「え…」
驚き顔を上げたルーシィの目には、俯いてカウンターに手を乗せたナツの姿が映る。
今の音は、ナツがカウンターを叩いた音だったのだ。
「な、ナツ…?」
ロアの顔が一気に赤くなる。
俯いたナツの表情はうかがえない。
今の話を聞かれていた、としてもナツが怒る要素はないはずだし、怒ってはいないはずだ。
って、なんで私が二人を心配しなきゃいけないのよ、と思うルーシィの気持ちなどお構いなしだ。
ナツはばっと顔を上げた。
「ロア、キスしてぇ」
その瞬間、そこの空間だけ確実に時間が止まっていた。
全員口を開いて、ナツをじいと見つめる。
「…な、なんで…?」
「わかんねぇ!けどなんかしてぇって思った!」
ナツの腕は小刻みに震えている。
ついでに顔も赤くなって、少し強張っているようにも見えた。
「思っていることは同じだったのね」
「な…なんでミラさんそんな余裕な」
「だって、なかなか見れないじゃない。こんな顔した二人」
ナツとロア、二人とも顔を赤くして、体を震わせて、それからどこか切羽詰まった様子で息を荒くさせる。
お互いを求めて堪らない、それが見ているだけでも分かってしまう。
ナツは震える手でロアの頬を撫で、その指で唇に触れた。
「ひ、人、いるのに…」
「なんだよ、人がいたらダメなのか?」
「い、…いいよ、したい、俺もナツとキスしたい」
嬉しそうに笑みを浮かべ、ロアが静かに目を閉じる。
ナツはロアの肩を掴むと、喰らいつくかのように口を開いてロアに顔を近付けた。
ルーシィが見たのはそこまでだ。
酒が抜けた後、思いっきり後悔すればいい。
顔を真っ赤にして、「ごめん、悪かった、申し訳ない」と頭を下げればいい。
「私なんて、まだ経験もないんだから…」
ぽつりと零した愚痴に、ミラだけが気を遣うように微笑んだ。
カラカラ、グラスに入った氷が揺らされ音を鳴らす。
少し大人っぽく指と指で挟んでいたグラスがカウンターに置かれ、最後にもう一度高い音を立てた。
「はあ…」
漏れた息と、俯き気味の目元。
そんな色香に触れた女性達は同様にため息をつき、熱っぽくなる頬を押さえた。
たかだかギルドに設置されたバー擬きのカウンター。
ロアがいるだけでそこはあっという間に本格的な大人のバーだ。
「なあ、ルーシィ…」
吐息混じりに呼びかけられたルーシィは、頬杖をついたままロアを見つめ返した。
引き込まれそうな金の瞳。下ろされた髪は肌をつたって流れ、光に触れてキラキラ光る。
ルーシィは強調した胸をカウンターに乗せ、「何よ?」と返した。
「キスしたい」
「ロア…」
ロアの形の良い唇が求めている。
既に周りでは数人女性が倒れているが、当人は知ったことではない。
ルーシィはふう…と息を吐き、目を細めた。
「すればいいじゃない」
誰がこの二人だけの世界に入っていけるだろう。
一体誰がこの雰囲気を打ち壊せるというのだろうか。
「だって…タイミングわかんないんだもん…!!」
「あーもう!本人にいいなさいよ!!」
前言撤回。
二人の様子を見つめていたミラジェーンは額を押さえて苦く笑った。
「何?さっきからどうしたのよ、ロアは」
「ミラさん!この絡み酒どうにかして…!」
ルーシィはカウンターに突っ伏し、ミラに向かって腕を伸ばした。
そりゃ平和な日常に、日が落ちてから酒を嗜むなんてどうぞご勝手にだ。
けれどロアは厄介なタイプだった。
「ロア?今日はどうしたの?」
「ん…キスがしたい」
「ナツと?」
「ん」
顎に手を当て、「まあそうよねぇ」と当然のように笑うミラは勿論、隣で呆れ顔を浮かべるルーシィも周知の事実。
少し前にめでたく二人は結ばれたらしい。
とはいえ昔っから特別仲が良かった二人だ、特に傍から見ていて変化は大してない。
「今どれだけの人を泣かせているか…ロアは気付いた方がいいわね」
「泣きたいのは俺だ」
「はいはい。分かったから、堂々とそういうアピールは止めなさい?」
子供をあやすように、ミラはロアの頭に手を重ねた。
疾うに倒れた女性達は知ってか知らずか。ともかくロアはナツにご執心だ。
「それで、どうしてこんなことになっちゃったのよ、ロアは」
「ルーシィ、聞いてくれるか?」
「あー…」
しまった、と気付いたがもう遅い。
ルーシィが密かに頭を抱える横で、ロアはカウンターに乗せた両手をぎゅっと合わせた。
「実は…今までもキスしたことあるんだけどさ、」
この時点でルーシィは耳を塞ぎたい一心だった。
何せこの話に出てくるキスした二人というのは仲間である二人だ。
しかもどちらも男。ロアとナツ、ロアはともかくナツでそういう想像は何ともし辛い。
「何かきっかけがあったわけじゃないんだよ。ないんだけど、自然に…しちゃった、みたいなさ」
「はいはい、それで?」
「いざしたい時…どうしたらいいか分かんないんだよ…」
ああ、心底どうでもいい。と思うルーシィの目の前で、ミラは何とも楽しそうに微笑んだ。
「いいじゃない、キスしたいって、今みたいに言えば」
「い、言えないって!だって、ナツだぞ、ナツ、あんな、俺みたいに考えてなさそうってか、興味なさそうってか…っ」
「そうかしら?ナツだって男の子なんだし、そういう欲求はあるんじゃない?」
「…そう?そうかなぁ…」
ルーシィは耳を塞ぎたい手でグラスをとった。
そのままぐいと喉を潤し、まさかの女子トークを繰り広げる二人を横目で見る。
ミラジェーンはロアやナツと同じく古株だ。二人のもどかしい関係についても、ルーシィと違って思うところはあるのだろう。
「…だからって」
「なあ、ルーシィもそう思う!?」
「し、知らないわよ…!本人に聞いたらいいんじゃない?」
若干投げやりに返すルーシィに、ロアは「んー…でも」と渋る。
結局答えなんて求めてはいないのだ。抱え込んだ悩みを打ち明けて、聞いてもらいたいだけ。
それでもやはりそれが悩みである事実には変わりなく、ロアははぁ…っと溜め息を吐いた。
「俺って、やっぱ女の子だったんじゃないかなあ…」
「今度は何よ」
厄介な酔っ払いは、一つ解決する前にもう一つの悩みを吐き出した。
「ルーシィもミラも、勿論すっごく素敵だよ、グラマラスだし…」
「あら、有難う」
「でもさあ…俺、女の子を抱きたいって欲求ないんだよな…」
「ブッ!!」
思わず吹き出したルーシィに対し、ミラは少し目を丸くして「あら」と口元を押さえた。
相変わらず頬は赤く、グラスを弄ぶ手は特に何も考えていない。
「ちょ、ちょっと、これ以上はまずいんじゃないの!?ミラさん止めて!」
「面白そうじゃない」
「い、いや、私聞きたくない!今後の関係に差し支える!!」
さすがに耐えられず、ルーシィがロアの口を塞ごうと手を伸ばす。
その瞬間、カウンターがバンッと音を立てた。
「え…」
驚き顔を上げたルーシィの目には、俯いてカウンターに手を乗せたナツの姿が映る。
今の音は、ナツがカウンターを叩いた音だったのだ。
「な、ナツ…?」
ロアの顔が一気に赤くなる。
俯いたナツの表情はうかがえない。
今の話を聞かれていた、としてもナツが怒る要素はないはずだし、怒ってはいないはずだ。
って、なんで私が二人を心配しなきゃいけないのよ、と思うルーシィの気持ちなどお構いなしだ。
ナツはばっと顔を上げた。
「ロア、キスしてぇ」
その瞬間、そこの空間だけ確実に時間が止まっていた。
全員口を開いて、ナツをじいと見つめる。
「…な、なんで…?」
「わかんねぇ!けどなんかしてぇって思った!」
ナツの腕は小刻みに震えている。
ついでに顔も赤くなって、少し強張っているようにも見えた。
「思っていることは同じだったのね」
「な…なんでミラさんそんな余裕な」
「だって、なかなか見れないじゃない。こんな顔した二人」
ナツとロア、二人とも顔を赤くして、体を震わせて、それからどこか切羽詰まった様子で息を荒くさせる。
お互いを求めて堪らない、それが見ているだけでも分かってしまう。
ナツは震える手でロアの頬を撫で、その指で唇に触れた。
「ひ、人、いるのに…」
「なんだよ、人がいたらダメなのか?」
「い、…いいよ、したい、俺もナツとキスしたい」
嬉しそうに笑みを浮かべ、ロアが静かに目を閉じる。
ナツはロアの肩を掴むと、喰らいつくかのように口を開いてロアに顔を近付けた。
ルーシィが見たのはそこまでだ。
酒が抜けた後、思いっきり後悔すればいい。
顔を真っ赤にして、「ごめん、悪かった、申し訳ない」と頭を下げればいい。
「私なんて、まだ経験もないんだから…」
ぽつりと零した愚痴に、ミラだけが気を遣うように微笑んだ。