ナツ夢(2012.02~2016.05)
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ロア達が合宿から戻った時、マカロフの口から今回の大魔闘演武に出場するメンバーが発表された。
大魔闘演武に参加出来るのは、ギルドから5人。代表を選出することがルールとなっているのだ。
ナツとグレイとエルザ、そしてルーシィとウェンディ。
『む、無理ですよ!ガジルさんやラクサスさんは?あ、それにロアさんだって…!』
『悪いけど、今回俺は参加しないことに決めてんだ』
『えっ、どうして?』
『まあいろいろあんだよ』
明らかにフェアリーテイルの中でも最強に含まれるガジルやラクサスの不在。
そして、ロアの不参加。
ロアは事前にマスターであるマカロフにだけは全てを話していたのだ。
自分の中のゼレフの力。コントロールする自信はあるものの、感情の爆発と共にどうなるかは分からないと。
「…マスター。俺は、少しでも不安要素は切り落としておくべきだと思ってるんです」
「ロア…そうは言ってものう…」
マカロフの目がちらりとルーシィを見る。
その視線に気付いたルーシィは少し不服そうにしながらもロアに顔を向けた。
「まあ実際…私よりはロアが出た方が良いのは確実なんだけど…」
「そんなことないって。ルーシィ、運だけは味方にしてるし」
「運って誉めてる!?分かってるけど!」
無駄に大きな声を上げたルーシィに、ロアはまあまあと手のひらを向けて振った。
実際のところルーシィは強くなった。ここまで生き残ってこれたのも、ルーシィの実力あってだ。
「でも…本当にロアいいの?」
ルーシィが上目づかいで問いかけてくる、この質問はもう何度目になるか。
ナツもグレイも、そしてエルザもマカロフもそう言いたそうな瞳を向けてくる。
ロアは肩をすくめて首を振った。
「いいよ」
「で…せっかく力戻ったのに…」
「ほら、ナツとグレイより目立っちゃっても仕方ねーだろ?」
おどけた調子で言えば、思い出したかのようにナツとグレイがばちばちと目を光らせ睨み合う。
ロアはルーシィとウェンディの背中を少々強めに叩いてニッと笑った。
「いっ…!」
「俺の分まで頼むよ、ルーシィ、ウェンディ」
「うう…尚更プレッシャーです…」
「ロア!それオレにもやってくれ!」
上手く話しを逸らせた。そう内心思うロアに気付いているマカロフだけは少し納得していない様子だったが、こうすべきなのだ。
「マスター、ご迷惑をおかけします」
「迷惑なんておもっとらん。ただ…ロアはアピールになるのに…」
「え、そんな理由ですか」
ふざけて言うマスターに内心感謝しつつ。
全員の意識を逸らしたところで、ロアはさてと会場であるドムス・フラウを見上げた。
今のところ競技の内容は一切分かっていない。聞いた話では、競技内容などは開始直前に発表されるという。
「あ、そうだ、ルール読んだんだけど注意書きがあったよ」
ふいに本を読んでいた顔を上げたレビィは、全員に聞こえるようにいつもより声を張った。
「参加者は指定された宿に12時までに帰る事」
「12時って?」
「開催は明日なんだから…今日の夜中ってことでしょ」
口々に話される内容を聞きながら、見上げた先にある時計台を見る。
大体今が昼の1時だから、自由出来る時間はかなりありそうだ。
「せっかくこんなにでけー街に来たんだから、探索しようぜ!」
ばっと真っ先に飛び出したのはナツ。そして釣られるようにルーシィが手を挙げて「わーい」とついて行く。
咄嗟にそれに続こうとしたロアは、エルザに腕を掴まれ動けなかった。
「…エルザ?」
「ナツとグレイは休戦中なんだろ?ならお前も平等にいるべきだ」
「えー!」
「というわけで、私と宿を見に行こう」
拒否する暇など与えられず。
ロアはずりずりとエルザに引きずられながら、遠ざかるナツとルーシィの背中、そしてジュビアに声をかけられるグレイの姿から目を逸らした。
指定された宿「ハニーボーン」にはそこそこ綺麗な部屋が用意されていた。
広いスペースにベッドが四つ。特に怪しい場所は見られない。
とはいえ一応警戒して部屋の隅々まで確認を怠らず。
エルザが満足して一息吐くまで、ずいぶんと時間がかかった。
「…特に怪しいところはないようだな」
「そんなに警戒しなくても、明日からなんだろ?」
「そうだが…念の為自分の目で確認しないと落ち着かないだろう」
そう言いながら自分の剣を磨き始めるエルザの纏う空気は、何だかんだで既にピリピリとしている。
ロアはエルザの正面のベッドに腰掛け、頬杖をついた。
「…なあ、エルザ。ジェラールとちゃんと話したか?」
気になるのは先日のこと。
ジェラールはあの後何事もない顔をして戻ってきて、さあ始めるぞと染料をロアの髪に馴染ませた。
結果、ギルドの皆に「元に戻った」と喜ばれたし、案外気にならないしで良かったと感じている。
ただエルザとジェラールは今まで以上に互いを気にするような態度を取らなくなったのだ。
「お前はジェラールのこと…」
「ああ。アイツはお前に一目ぼれしたらしい」
「え…?」
しかし、思わぬ回答にロアは頬杖から顔を滑らせ立ち上がった。
「あの馬鹿…!誤解だぞ、あれは…!」
「分かっている、アイツが嘘を吐いていることくらい」
「え、じゃあなんで…。俺の勘違いじゃなきゃお前は…」
ロアの言葉を聞くことなく、エルザが首を静かに横に振る。
そのエルザに、ロアは口を開いたまま何も言えず固まってしまった。
「…いいんだ。私は納得している」
何を、と問いたくて、けれどエルザの清々しい顔つきに唇を噛む。
それから再びベッドに腰掛け、足を組み、ロアは窓の外に視線を向けた。
「エルザ。前に俺が言ったの覚えてるか?お前が幸せじゃなきゃ…」
「幸せだ。お前達と一緒にいられて」
「…そういうんじゃなくてさ」
「ロアこそ。ちゃんと答えを出さなければならない時は近いぞ」
上手い事話しを変えられ、ロアの眉間にシワが寄り、唇がとがる。
むっとしたその表情のまま、ロアはただ小さく首を縦に動かした。
「ナツが好きか?」
「…うん」
「もう心は決まっているんだな」
この気持ちが揺れたことなど一度も無い。
気付いたらずっと好きで、ナツの傍にいたくて、どうしようもなく愛しくて。
はっきり出来ないのは、ナツ一人を選んだことで誰かが離れていくのが怖いからだ。
でもやっぱり、ナツといたい。
ロアは意味も無くぽんぽんとお尻を叩きながら立ち上がった。
「…やっぱアイツ等心配だ。俺、見に行くよ」
「ああ、任せた」
アイツ等、に当てはまる人間はたくさんいるけれど、ナツを探してしまうだろう。
ロアは足早に「ハニーボーン」を飛び出した。
・・・
一人街を歩いて暫く。
さすがに広い上に知らない土地なだけあって、見つけるのには苦労しそうだ。
と思った矢先、ロアの耳に、街の雰囲気にそぐわない喧噪が聞こえて来た。
「…まさか」
ナツじゃないだろうな。
今までの経験上、少なくとも騒ぎに便乗する可能性は大いにあり得る。
ロアは慌ててその音の方へ駆け出した。
「あいつら、セイバートゥースの双竜、スティングとローグだ!」
声は人だかりの中の一人が言ったものだった。
「剣咬の虎」、セイバートゥースはロア達がいなかった7年間に力をつけたギルドだ。この大魔闘演武でも優勝候補だとか騒がれている。
思わず人をかき分けて行くと、スティングとローグであろう二人の男と、その二人を見上げているナツの姿があった。
金髪で少し軽そうに見える男、スティング。一方、黒髪で寡黙そうに見えるローグ。
その二人の目はじっとナツの方に向けられていた。
「ナツ・ドラグニル…ははっ!大魔闘演武に出るって噂は本当だったのか」
「オレのこと知ってんのか?」
「アクノロギア…ドラゴンを倒せなかったドラゴンスレイヤーでしょ?」
そう言いながら、スティングがナツに近付き、にやりと勝ち誇った笑みを浮かべる。
ずいと距離を縮めたスティングの、その額に手をやって押し退けたのはロアだった。
「おい、何も知らねぇくせに勝手なこと言ってんじゃねぇよ」
「ロア!?」
「お。噂のロアさんもいんのか。黒くなって帰ってきたって聞いてたけど」
ナツに向けられていた挑発的な視線がロアに移る。
驚き目を丸くしているナツを下がらせるようにして、ロアは一歩前に出た。
「…こんな挑発してきて、どういうつもりだよ」
「ああ、アンタ等のこと気になってたんだよオレ達」
「ドラゴンスレイヤーとしてね」
スティング、そしてローグと続けた言葉に、ロアは咄嗟にナツを振り返っていた。
ドラゴンスレイヤー。確かにそう言った二人に、やはりナツは黙っていられず身を乗り出す。
「ドラゴンスレイヤー!?お前等二人とも!?」
「真のドラゴンスレイヤーって言ってくんねーかな?オレ達ならアクノロギア倒せるよ?」
「何…!?」
スティングの強気な発言に、ナツの顔色が変わる。
しかし、それ以上にロアの怒りの感情は膨らんでいた。
アクノロギアのことは記憶に新しい。人間の手には負えない恐ろしいドラゴンだ。
「…口先だけならなんとでも言える。何も知らねぇくせに、勝手なこと言ってんじゃ…」
「私が説明しましょう!」
明らかに苛立ち声を上げるロアに、空気を読まず高い声で話しだしたのは、二足歩行の猫だった。
スティングの傍にくっ付いている猫。もう1匹、大きな瞳の猫はローグの傍に寄り添っている。
「ナツ君などはドラゴンから滅竜魔法を授かったいわゆる第一世代。おたくのラクサス君は竜のラクリマを体に埋め込み滅竜魔法を使う第二世代。
そしてスティング君とローグ君は、本物のドラゴンを親に持ちつつ竜のラクリマを体に埋め込んだハイブリッドな第三世代!」
ぺらぺらと話し、それから「どうだ!」と言わんばかりに胸を張る。
わざとか無意識か知らないが、ナツやラクサスを馬鹿にした言い振りに、ロアの顔つきは更に険しくなった。
「おい、馬鹿にすんのも対外に…!」
「待て、ロア」
猫に向かってロアが一歩踏み出すと、それを止めるように今度はナツが手を横に伸ばした。
その表情は思いの外冷静だ。
「…おまえたちも777年にドラゴンがいなくなったのか!?」
「ま、ある意味ではな」
「オレ達に滅竜魔法を教えたドラゴンは、自らの手で始末した。真のドラゴンスレイヤーになる為に」
「親を…殺したのか…!」
しかし、そのナツも怒りに目を見開いた。
ナツは親であるイグニールを大事に思っている。ウェンディだってそうだ、会いたがっていたように見えたのに。
「…ナツ、コイツ等相手にすんのは大魔闘演武まで待てよ。時間と労力の無駄だ」
「っ分かってる」
ナツの腕を掴んで自分の方に引き寄せる。
そのロアの頬に、スティングの手のひらが軽く触れた。
「それと、ロアさん」
「…何だよ」
「ちゃんと光の力は使えんだろうな」
目的はロアの髪だったらしい。人房掴んで少し強めに引かれる。
鼻と鼻とがぶつかりそうな距離。それを気にすることなくロアは目を細めて睨み返した。
「光を生まれながらに持ったアンタと、今まで何度も比較されてきた」
「…」
「真の光の使い手はオレだってこと、思い知らせてやるよ」
はっきりと言われたわけではないが、察しが付く。
つまりスティングは光のドラゴンスレイヤーということだろう。
「ロアに触んな」
「…へぇ」
それに気付いたのかは定かでないが、ナツの腕がロアを引き寄せ抱き締める。
ロアも片手でスティングを押し退けた。
「ナツ、そろそろ宿に戻ろう。エルザが待ってる」
「…おう」
少し不服そうではあるが返事をしたナツの腕を掴み返して下がる。
すると、後ろで見ていた黒髪の男、ローグが背中を向けながら言った。
「行くぞ、旧世代には何の興味もない」
間違いなく売られた喧嘩に、ロアもぐっと拳を握る。
それに気付いてニッと笑いながら軽く手を振って立ち去ったスティングに、ロアもナツも言葉無く苛立ちも必死に抑えていた。
「くっそ…あんな奴等がセイバートゥース…。今の最強ギルドの連中かよ」
時代の変化を感じざるを得ないというか、舐められていることが単純に腹立たしい。
ロアは掴まれ乱れた髪を軽く梳いて直しながら、そういえばと辺りを見回した。
「っと、ルーシィは?」
元々目的はナツ達を迎えに来ることだった。
そしてナツと共にいたのはルーシィのはずだ。
そんなロアの気遣いなど余所に、ルーシィはすぐ後ろから手を挙げて現れた。
「ずーっとここにいますけど…?」
その顔は少し疲れているように見える。
「余りにも険悪だったからつい隠れちゃったわよもう…」
「それが正解だったかもな。じゃあ宿に戻ろうぜ」
人だかりをかき分けて歩き出すロアとナツにハッピーが続く。
ルーシィは「ちょっと!」と言いながら駆け足で追いつきロアの横に並んだ。
「二人とも距離近過ぎじゃない…?」
「え?」
ルーシィがちょい、と指をさす先はロアとナツの腕。
きゅっと絡ませたまま体が触れ合っている。
それに気付き、ロアはばっと横に飛び退いた。
「ち、違う、これは、押さえとかねーとナツが暴れかねねーから!」
「いいだろ別に?何か変か?」
「変っていうか…やっぱさっきの二人と比べたら男同士の距離じゃないわよねー…」
別にもう慣れたけど。と続けたルーシィの気遣いに、余計に恥ずかしくなり額を押さえる。
ナツと距離をとったまま歩き出したロアに、ナツはお構いなしに腕を絡めた。
「っ、おいナツ」
「いーだろ別に!グレイの目がねぇ今しかくっつけねーし」
「……」
「はぁ…もーあっついあっつい!」
パタパタとわざとらしく手で顔を仰ぐルーシィに、ロアは腕から頭まで熱くさせて俯いた。
その裏でふつふつと湧きあがる闘志は治まる事が無かった。
・・・
エルザを待たせた宿に戻って暫く。
そろそろ指定された12時、集まっているのはエルザとナツとルーシィとロア、グレイも時間に間に合わせ戻って来た。
「でもロア、あんな挑発されて参加したくなったんじゃないの?」
ベッドに腰掛けそう言うルーシィに、ロアは少し考えるように視線を上げてから首を振った。
「ま、ぶっちゃけぶん殴りてーって思ったけど。それ以上にジェラールの言ってた事が気になってんのもあんだ」
「…ゼレフの気配、か」
「ああ」
声を潜めて言ったエルザに、ロアは壁にもたれたまま腕を組んだ。
ゼレフがこんな人の多いところに来るとは思えない。
確実に誰か別の人物がいるはずなのだ。もしかしたら自分と同じような存在なのかもしれないし。
「だからさ、皆は大魔闘演武に集中していいよ。俺そっちの調査真剣に取り組むから」
「ロアがそれでいいなら、いいんじゃねーか?気になるんだろ、ゼレフのこと」
「うん。ありがと、グレイ」
やっとはっきり認めてもらえて、ロアはニッと笑った。
それから時計を見上げて不安に眉を寄せる。
参加者であるウェンディがまだ戻って来ていない。
「なあ、俺ウェンディ探しに…」
体を壁から離してドアの方へ向かう。
その矢先、ガチャと先にドアが開いた。それと同時に入って来たのはエルフマンとリサーナだった。
「よう、差し入れ持って来たぜ」
「おっ、エルフマン、お前山籠もりから帰ってたのか」
「かなり力つけたつもりだったのに選考から外れるとは…くそう、オレも出てぇよ!」
どっと音を立てて置かれた籠には相当の数の飲み物が入っている。
リサーナがテーブルに置いた紙袋にも、かなりの量の食べ物が入っているようだ。
「なあリサーナ、エルフマンも。来てもらってすぐに悪いんだけどさ、付き合ってくんねぇかな」
「どうしたの?」
「ウェンディが戻ってないんだ。丁度今探しに行こうと思ってたとこでさ…」
ちらともう一度時計を見る。
しかし待ってくれるはずもない時間は、タイミング良く時計の針を動かし、その瞬間町中に鐘の音が響き出した。
『これより参加チーム113を8にしぼる為の予選を開始しま~す』
「予選!?聞いてねーぞ!」
少しふざけたような声にグレイが言い返す。
アナウンスの聞こえる外へと目を向けると、宙に妙な映像が浮かび上がっていた。
窓の外、夜空に浮かび上がっているのはふざけた顔をしたかぼちゃのような物体。
それがしゃべっているという演出らしく、アナウンスと共に口がぱくぱくと動いている。
『予選のルールは簡単!これから皆さんには競争をしてもらいます!ゴールは本戦会場、ドムス・フラウ』
街のどこからでも見えそうな大きな立体映像。
それを自然と見上げていると、突然がたがたと地面が揺れ始めた。
「何だ…っ、て、うわ!」
「っと、あぶね」
「わ…悪い、グレイ」
よろけた体をグレイに支えられながら、再びロアは窓の外に目を向けた。
どうやら揺れているのは地面ではなく、宿が動いているのが原因のようだ。
木造の宿が変形し、空に向かって伸びる階段が出来上がる。
そして階段が続く先は、空中に出来上がった球体の迷宮。
『早くゴールした上位8チームが予選突破となります…が5人揃ってゴールしないと失格!』
「あそこを通ってゴールを目指せってことね」
見上げた先を見て呟くルーシィに、ルール自体は単純だなとロアも頷く。
けれどすぐにハッとしてグレイを見上げた。
『大魔闘演武予選!スカイラビリンス、開始!』
「5人揃ってじゃないと駄目って言ってたけど、どうする気だ?」
「そうだったな…。おい、どうする!?」
既に開始のアナウンスがかかってしまったが、ウェンディがいないのではどうしようもない。
すると、どんっと一歩踏み出したエルフマンが両腕を大きく広げた。
「ウェンディがいなくても、漢がここにいる!メンバー変更じゃい~~!!」
「えっ、ちょ、ええええ!?」
そのままがしっと両手にエルザとルーシィとグレイとナツを抱えて階段へと飛び出るエルフマンに、ルーシィの叫びは遠ざかって行く。
駆け出した彼等の背中に、ロアは声を張り上げた。
「ウェンディは俺達が探すから!心配せずに頑張れよ!!」
「ああ、頼む!」
それに対し、少しだけ振り返ったエルザの返事が返ってくる。
階段を駆け上がる彼等に目を細めて、ロアはふーっと大きく息を吐き出した。
ここにきて物足りなさとか一緒にいきたかったという思いが浮上する。
それを抑えて窓から離れると、意味深に微笑むリサーナとハッピーと目が合った。
「……何だよ」
「ナツと離れたくないなあ~心配だなあ~」
「…ハッピー?」
「恋する乙女の背中に見えたよ、ロア!」
「なーんなんだよお前等はあ…!」
かっと赤くなった勢いのない顔で、リサーナの頭をぱちんと叩く。
そのまま外へ出て行くロアに、二人は「怒らせちゃったかな?」と笑いながらついて行った。
・・・
ロアとリサーナ、そしてハッピーは街に用意された医務室にいた。
ベッドに横たわっているのはウェンディとシャルル。
無事に二人を見つけられたのは不幸中の幸い、けれど発見した時、二人は茂みの近くで倒れていたのだ。
「すみません…迷惑をかけてしまって」
「迷惑なんかじゃねーよ。んな顔するなって」
目を覚ましてからというもの、申し訳なさそうに眉を下げるウェンディの頭を撫でる。
少しくすぐったそうに目を細めるウェンディに、ロアは一息吐いてから振り返った。
「原因は何だったんですか?」
「魔力欠乏症だね。一度に大量の魔力を消費した為に全身の筋力が低下している」
「…それ、治りますよね?」
「当たり前だ。治すに決まっているだろう」
この医務室に駆けつけてくれたポーリュシカ。
頼りになる薬剤師の言葉に、ロアはようやく胸を撫で下ろした。とりあえず一安心だ。
「でも…狙われた理由がはっきりしないと安心は出来ないよな…」
単純にフェアリーテイルの戦力を落とすためだとか、嫌がらせ程度ならまだ良い。
けれど、ウェンディ個人を狙ってのことだったら。
顎に手を当てて押し黙っていると、突然そのロアの手をリサーナが掴んだ。
「うわ、何?」
「ロアだって襲われかけたの、忘れてない?」
「え、いや俺は別に今更驚くことでもないし…」
「駄目だよ!ロアは今光の力だけじゃなくて、ゼレフとの事だってあるんだから…!」
ぐいっと攻め寄って来たリサーナに、ロアは押されるように体を反らせた。
ウェンディを助けに駆け寄った矢先、茂みに隠れていた連中に襲われかけたのは記憶に新しい。
しかもウェンディを襲った奴とは別人で、それこそ確実にロアを狙っての強襲だったのは見るに明らかだった。
「その娘の言い分は確かだよ。ゼレフの力を利用したい者達は、今のアンタを狙って来る」
「でも、それは俺だけで何とかなる。俺が大魔闘演武に参加してないのは、力が使えないからだと勘違いしてるみたいだったし…」
「ロア…」
「ていうか女の子が襲われたことのが問題だろ?」
間違ったことは言っていない。
実際に茂みから飛び出して来た輩はロア一人で一掃できたのだ。
けれど、リサーナはむっと頬を膨らませてロアの腕をぎゅっと掴んだ。
「痛っ!!」
「ほら痛いんでしょ。やっぱりロアも気を付けなきゃ」
「…わ、分かったよ」
突然の攻撃に、避けられず打たれた腕を擦る。
確かに、ここまで堂々と狙われたのは久々だった。
主要メンバーが大魔闘演武に参加する中、そこにロアは参加していないこと。ゼレフのこと、光の力のこと。全てが原因となって重なっているのだろう。
「…アンタも、服を脱いで怪我の具合見せな」
「え…あ、どうもすみません…」
ポーリュシカに促されて服に手をかける。
今回は皆で衣装を合わせたいとかで、ロアも参加者でないのに凝った衣装で身を包んでいる。
面倒だなと上下一つながりのチャックを下ろして腕を抜くと、丁度そのタイミングで大きくドアが開いた。
「ウェンディ無事か!?」
煩すぎるその声に、ポーリュシカがまず「静かにしな!」と言い返す。
ロアも驚いてドアの方に顔を向けると、目が合ったナツが口を開けたまま一度かたまった。
「なんで、ロアまで…!?」
「ナツ…」
「な、何があった!?」
だだっと駆け寄ってきたナツがロアの傍で膝をつく。
ウェンディとシャルルがここにいると聞きつけてきたのだろう。
予想外の怪我人…ロアの腫れた腕を見て、ナツは困惑に顔を歪めている。
「ちょっとヘマしただけだよ。俺は平気」
「へ、平気じゃねぇ…っ、どこで、誰にやられた!?」
「や…俺のことはいいから、それよりウェンディとシャルルの方が問題なんだよ」
まあ落ち着け、とナツを諭しつつ口の前で人差し指を立てる。
ベッドでまだ辛そうな顔をしているウェンディとシャルルに、ナツはむぐ、と口を閉じた。
「ウェンディとシャルルは…」
「見つけた時には倒れてた。命に別状はないって、…ですよね?」
二人を見たポーリュシカに話を振ると、首が静かに縦に動く。
それで安心した様子を見せたナツの手を、ロアはしっかりと掴んだ。
「ナツ、こっちは俺に任せてくれていいから」
「ちょっと待てよ、ロア…お前の怪我は…!」
「俺は大丈夫」
力強くそう言って、ナツの頬をぺちぺちと叩く。
「予選通過ってことは、こっからが本番だろ?こっちのことは構わずやってくれよ、な」
「ロア…」
「何かあったら、絶対に誰かを頼る。心配すんな」
予選突破チームが確定したことと、チームメンバーが会場に集まり次第本選開始だというアナウンスは先程聞こえて来た。
休む間ない参加者の方がこれから大変なのだろう。
「…ロア、痛そうだ」
「ん?ポーリュシカさんがいるから平気だよ。ナツは、平気だった?」
「あったりまえだろ。オレは負けねぇ」
ナツの手がロアの腕をなぞる。
その優しい手つきに、ロアはふっと微笑んだ。
「ナツ、行って来い!」
「…おう」
少し不服そうにしたナツの腕をぺしっと叩いて背中を押す。
立ち上がったナツは背を向けてから一度振り返った。
「約束だぞ、一人で無茶すんな」
「分かってるって」
安心させる為にこれでもかってくらいの笑顔をむけて送り出す。
出て行く間際に見せたナツの拳には、決意と怒りが見えた気がした。
「あの…見てしまって良かったんでしょうか…」
「察してあげて。ロア、このこと言われると怒るから…」
微かにされたウェンディとリサーナのやり取りに、ロアは真っ赤になった頬を両手で覆った。
ナツ達フェアリーテイルは8位ギリギリで予選通過。
それに対し、セイバートゥースは1位通過と、早速実力を見せつけられてしまった。
更には想定外のギルドとしてマカロフの息子、イワン率いる元闇ギルドであるレイヴンテイル、そしてラクサス率いるフェアリーテイルBチームの通過も明らかになった。
Bチームにはラクサス、ガジル、ミラ、ジュビア、そしてミストガンに変装したジェラールと明らかに最強のメンバーが並んでいる。
フェアリーテイルBチームについて、知らされていなかった事は別に大した問題ではない。
しかし苛立った様子でロアは街を走っていた。
「…っ、くそ…!」
最初に行われた、グレイが参加した競技。
全ての参加チームの代表者が集っているにも関わらず、セイバートゥースとレイヴンテイルは確実にグレイを狙っていた。
二つのチームに狙われ思うように動けず、グレイは完敗。
フェアリーテイルは最下位のポイントを持ってバトルパートへと移行することとなった。
大魔闘演武では一日に競技とバトルとを行い、競技は名乗り出た代表者が、バトルは主催者側からランダムで発表される。
本日のバトル一回戦はルーシィ対レイヴンテイルの女、フレア・コロナ。
「何で、当たるんだよ…!裏で何かあんじゃねェだろうな!」
イライラしているロアをポーリュシカが医務室から追い出したのだが、それが無くともロアは飛び出していただろう。
レイヴンテイルは間違いなく警戒すべき相手だ。
勢いそのまま会場に駆け込み、ロアは観客席からフィールドを見下ろした。
「はぁ…、っルーシィ…」
中心で向かい合っているルーシィとフレア。
ロアの心配を余所に、ルーシィは何とか上手く戦えているらしい。
「テトラビブロスよ、我は星々の支配者、アスペクトは完全なり…」
その身に無数の傷を負ってはいるが、ルーシィは大魔法の詠唱に入っている。
ほっと胸を撫で下ろしながらも、ロアは観客席の一番前まで降りて身を乗り出した。
「…何も起こらなければいい、けど」
視線の先はレイヴンテイルの参加者達。
仮面をつけた男や表情の見えない者もいるが、余計な動きがあれば気付けるはずだ。
「荒ぶる門を開放せよ!」
ルーシィの詠唱が終わり、フィールドが天から降り注ぐ光に満ちる。
喰らえばひとたまりもないだろう大魔法だ。
しかし次の瞬間、それは掻き消えていた。
「な…!?」
驚いたのは、さすがにロアだけではなかった。
しかし、観客席のざわつきは「何も起こらないじゃないか」「魔法の不発かよ」と馬鹿にした笑いに変わって行く。
魔法が不発で終わることは有り得ないし、フレアが何かしたのとも違う。
ハッとして目を凝らせば、それまで動かなかったレイヴンテイルのメンバーが首を小刻みに動かしている。
「レイヴンテイル…!外野から手を出しただろ!!」
ロアは咄嗟にそう叫んでいた。
その声に顔をこちらに向けた連中は、余裕をも感じさせる様子で何も言い返しては来ない。
「ウェンディのことも…今の奴と同じはずだ!いるんだろ!」
ウェンディの魔力欠乏、そしてルーシィの魔法の不発。
どれもこれもレイヴンテイルの誰かがその手の能力を持っていると考えるのが妥当だ。
しかしやはり反応は見せないどころか、馬鹿にした様子でロアから目を逸らしている。
「馬鹿にしやがって…!一体何が目的でこんなことを!」
怒りに柵を壊さん勢いで握り締める。
そのロアの体を抱えるようにして止めたのは、ナツの腕だった。
「ロア!」
「っナツ…!?」
「あんな奴等、ロアが相手にすることねェ」
ナツの言葉と腕の力に、力んだ体から力を抜く。
冷静になったロアの目には、ロアを警戒する無数の視線が映った。
評議院、参加者、観客、それだけではない。フェアリーテイルの面々までロアを不安そうに見つめている。
「…な、んだよ…俺が悪者みたいに…」
「こいつらの相手は大魔闘演武できっちりやってやる。だから、ロアは心配すんな」
「……分かったよ、黙って見てればいいんだろ…っ」
ぐっと拳を握りしめて、ナツの腕を振り払う。
途端に湧き上がるのは、またやってしまったという後悔。
「おい、ロア…!?」
「悪い。頭冷やしてくる」
けれど、それでも納得できない苛立ちと虚しさ、やるせなさを俯き抑え込んだまま、ロアは会場を後にするしかなかった。
・・・
フェアリーテイルの為に用意された宿の裏にある路地。
夜、街灯のほとんどない薄暗い空間で、ロアは額を押さえてため息を吐いた。
結局、大魔闘演武一日目は酷い結果となった。フェアリーテイルAチームはグレイ、ルーシィ共に敗れて最下位スタート。
Bチームも納得のいく結果にはならなかった。
「…俺だって原因の一つかもしれないけど…今のフェアリーテイルは良く見られてないんだって実感したよ」
ブーイングだって酷いものだったし、ロアがここまで戻ってくる間も酷かった。
周りの視線と陰口。ロアがゼレフと接触したという噂はあっという間に広まってしまったようだ。
「…分かっただろう、君がゼレフと好意的に関わっているという事実は…君を苦しめると」
「はぁ…。お前はよく紛れ込んだもんだな、ジェラールさんよ」
顔を覆っていたマントを脱ぎ、顔を見せたジェラールに目を向ける。
これから情報の交換はここで毎晩行う、とのことだ。
「今日のところは…ゼレフの気配ってのは感じなかったな。それ以上にレイヴンテイルが何か怪しいってことばっか気になった」
「まあそうだな。こちらも毎年感じる気配をまだ感じていない」
「ん、だよな」
まあ何もないのならそれが一番良い。
ロアはふーっと息を吐いて、暗い空を見上げた。
「…今、ちょっとゼレフの気持ちが分かるよ」
「何?」
「ゼレフってだけでこんな風に見られて…。直接ゼレフに会ったとか何かされたとかじゃないくせに」
もしかしたらゼレフは理解者が欲しかったのかもしれない。
力を半分受け取れだなんて、きっと目的はそれだけではなかったのだろう。なんて、思い込みだろうか。
「やっぱり、可哀相だ。こんなじゃ、世の中が嫌にもなる」
「ロア、君は…」
「は、何て顔してんだよ。別に俺には何も出来ないよ。ゼレフだって…そんな気はないはずだし」
ジェラールもウルティア達と同じ、ゼレフを含む悪を恨んでいる人間だった。
ロアはへらっと笑ってみせて、それから再び空を仰いだ。
「ただ…スゲェ悔しい」
「…そうか」
「まあ明日からは、あんまり目立たないように行動するよ。会場と、それから外と意識しとく」
「ああ、頼む」
気に食わないけれど、迷惑をかけまいとするならば大人しくすべきだ。
ロアはやりにくさを改めて感じながら、「じゃあ」とジェラールに背を向けた。
路地裏から出れば、たくさんの街灯に照らされた街がロアをむかえる。
戦いの無い夜だけは、どこもお祭り気分で盛り上がっているらしい。
「ワシに諦めるという言葉はない!目指せフィオーレ一!!」
目の前を通り過ぎたバーからはマカロフの声が聞こえている。
きっとフェアリーテイルらしく宴だなんだと騒いでいるのだろう。
けれど、ロアはそのままハニーボーンを目指して歩き続けた。
今皆に会わせる顔はない。それに早く休んで明日に備えたい気分だ。
「…あれ、誰かいる…?」
そんなロアの思いとは裏腹に、カーテンの隙間から光が漏れている宿に、ロアは少し身構えた。
恐る恐るとドアを開いて中を覗き込む。
「あれ、ロア?」
「お、どーした?今皆バーで飲んでるって聞いたけど」
すぐさま聞こえて来たのはルーシィとグレイの声。今日大魔闘演武に参加した二人だ。
「あ…もしかして邪魔したかな、俺」
「はぁ?何言ってんのよ。そんなことあるわけないでしょ」
「お前もこっち来いよ」
二人からの手招きに、ロアはおずおずと部屋に足を踏み入れた。
きっと今日、二人には思う事がたくさんあっただろう。悔しさや怒り、それはロア以上のはずだ。
「ロア、ありがとね」
「え…?」
「すごくむかついたし悔しかったけど…ロアが怒ってくれたから、ちょっと救われた」
首を少し傾けて笑うルーシィの目元は赤くなっている。
泣いたんだ、きっと。ロアはベッドに腰掛けながら、首を横に大きく振った。
「…でも、俺のせいでフェアリーテイルにまた迷惑かけただろ。ほんと俺…感情抑えんの下手すぎて、ごめん」
「何で謝るんだよ。ロアは悪いことしてねぇだろ。悪いのはアイツ等だ」
「そりゃそうかもしれないけど…」
「ん?」
口ごもるロアに、グレイが不思議そうに目を細める。
グレイの言っていることは正しい。言われて困ることなど無いのに。
視線を落としたまま何も言えないロアに、グレイはふっと息を吐いてから立ち上がった。
「…何かまた抱えてんな、ロア。お前は何かと一人で考えようとしすぎだ」
「そ、んなことは…」
「お前はゼレフの事が気になるんだろ?なら、他のことはこっちに任せとけ」
そのまま横に座ったグレイがロアの肩に手を回す。
ぐいと寄せられ、ロアの肩はグレイにぶつかった。
「マスターもラクサスも、レイヴンテイルの事は気にしてんだろ」
「そ…、そう、かな」
「そうだよ。お前は自分のしたいことやってればいい」
ぽんぽんと優しく叩く冷えた手のひらに、ロアは静かに目を閉じた。
本当は、いい加減にしろと責めて欲しかったんだ。そうすることで自分を戒めたかったのに。
「ほんっと…優しいんだから…」
「惚れそうか?」
「おー惚れそう惚れそう。ほんとお前良い男だよ…」
じんと胸が暖かくなるのを感じながら、少し傷の残る肩に頬を預ける。
本人が甘えさせてくれるんだ、今は素直に甘えてしまおう。
「ありがとう…って、何回感謝しても足りないくらい感謝してる」
「そうかよ」
ぶっきらぼうな言い方だけれど、声色は余りにも優しい。
ルーシィのため息が聞こえたが、ロアは暫くそのまま目を閉じていた。