ナツ夢(2012.02~2016.05)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大きなギルドの奥にあるバーさながらのカウンター。
そこに腰掛けた金の髪を持つ青年ロアは、片手にお洒落なカクテルを持って頬杖をついていた。
とろんとした目は明らかに彼が酔っているということを表している。
お酒を出したミラジェーンもさすがに困った様子で彼を見下ろしていた。もう30分ほど。
「ロア、隣いい?」
そんなロアの状況になど気付かずに近付いてきたのは、ここ最近になって帰ってきたリサーナだ。
あまりにも大きくなったギルドに未だ慣れない彼女は、ただ見知った背中を見つけて寄って来ただけだったのだろう。
「やめておいた方がいいわよ?」
「え、なんで?」
「ロアったら酔っぱらっちゃってるから…」
そのリサーナに忠告をした姉であるミラジェーンだったが、残念ながら既に遅かった。
赤い顔をばっと上げたロアはしっかりとリサーナの手を握り締めている。
「わ、びっくりした!ロアお酒弱いんだ?」
「そうなのよ…。ほら、ロア。うちの可愛い妹に手を出すのはやめてくれるかしら?」
勿論、本当にロアがリサーナに手を出すなんてことは一切思ってもいない。
それはリサーナも同じで、やれやれと困ったように眉を下げると、ロアの隣の椅子に腰掛けた。
「もしかして、何か悩みでもあるんじゃない?話聞くよ?」
「リサーナ、あなたじゃ…」
未だ黙ってリサーナの手を掴むだけのロアを覗き込んで柔らかく微笑む。
そんな優しい妹を見てミラジェーンが不安そうに眉を寄せたのは、彼の心の内を大体理解していたからだ。
その悩みの原因が誰にあるのか。
「リサーナは…」
「ん?」
「リサーナは可愛いよなぁ…」
ようやく出てきた言葉にリサーナは目を丸くし、そしてミラジェーンは額を押さえた。
「な、何?ロアって酔うとそういう…」
「リサーナは、ナツをどう思ってる?」
「え?」
「俺はなぁ、ナツが大好きなんだー…」
しかし予想と異なる展開に、リサーナは更に驚き今度は口を開けたまま固まってしまった。
ロアの表情は幸せそうなのに、どこか悲しそうに歪んでいる。
「ナツのことはすごく好きだよ?勿論、ロアのことも…」
「俺、女に生まれたかったな…」
「え、…え!?なに、どうしたの!?」
質問に答えたのに、もはやそれはロアの耳には届いていなかったようだ。
話はぽんぽんと切り替わって行く。
「俺ってナツと仲良いよな…?」
「う、うん、すっごく仲良いと思うよ」
「でもって、リサーナも仲良いよな、ナツと」
「それがどうしたの…?」
顔は赤いが、特別舌足らずということはない。
しかし話す内容はいつも口からこぼさない心の内ばかり。
先程までは止めようとしていたミラジェーンも、思わずロアの話に耳を傾けていた。
「皆言うんだ、ナツとリサーナはいい感じだーって」
「えっ」
「ナツはリサーナが好きなんだなぁって皆言うんだよ、なんで?」
ミラジェーンからすれば、どっちもどっちというか。
ロアとナツは男同士だというのに稀に注目される程仲が良い。
しかし確かにリサーナが帰って来てからは注目の対象が変わったようにも思える。
それを、ロアはずっと気にしていたのだろう。
「うわぁ…私、そんな風に思われてたんだ…」
「俺じゃなくって、いっつもリサーナの名前が出てくんだよ。俺だっていいじゃん、俺だってナツと仲良いんだからさぁ…」
そして、ここまで来てようやくリサーナもロアの言いたいことが分かり始めていた。
まさかと思ってカウンターに両肘ついている姉に目を向ければ、無言と表情が予感を確信に変える。
「でもそうならないのはぁ、俺が男でリサーナが女だからじゃん、だろ?」
「…まあ、皆そういう話するの好きだからね」
「でも…女だったら、俺とナツってどうなってたのかなぁ…」
ぽつりぽつりといつから思っていたのかロアの心が露わになる。
知らなかった、あのロアが、こんな一面を持っていたなんて。
「俺、ナツの一番になりたいなぁ…」
「ロア…」
まさか、とは思ったが、リサーナの中には不思議と違和感がなかった。
エドラスの二人が恐らく今ロアが望む関係だったからだろう。
それにロアが元々女の子のように可愛らしかったことも知っているし、それを見たナツが見惚れていたことも知っているから。
「ねぇロア、少なくとも私とナツはそんなじゃないよ」
「…でも、二人が並ぶと映えるよ。お似合いっていうんだ、ああいうの…」
「そうかなぁ。私はロアとナツもすごくお似合いだと思うよ。ね、お姉ちゃん」
「そうね。まぁナツにはもったいないと思うけど」
野生児のナツと、強がっているが本当は弱く脆く美しいロア。
ロアがこんな風になっていることも気付かず、ナツは向こうで他の仲間とワイワイやっている。
いつもそうだ、ナツは肝心なところで鈍感で。
「ロア、私応援するよ!ロアなら女の子にならなくたって全然!問題なし!」
「リサーナ…」
「辛かったんだね。エドラスで…あの二人を見て」
柔らかく微笑んだリサーナの手がロアの頭を撫でる。
思わずじんと込み上げるものがあって、そして純粋に喜びとか愛しさがあって、ロアは金の髪を辿って離れたリサーナの手を両手で包んでいた。
「…リサーナ、ありがとう。大好き」
ふにゃ、と緩んだ顔で目を細めたロアは、やはり酒のせいで正常ではなかったのだろう。
しかし本音であろうその言葉には、思わぬ人が反応した。
「い、今…ロア…なんて…」
「あれ、ナツ?」
いつの間にそこにいたのか、カウンターに座るロアとリサーナを丸く見開いた目で見つめるナツ。
タイミングで言えば最悪だ。
「り、リサーナ、ロアと、何話してたんだ?」
「あ、これは…」
いかがわしい内容なんてどこにもない。
正直に話そうと口を開いたリサーナだったが、それを阻止したのはまさかのロアだった。
「だーめ、ナツには内緒!」
ぎゅっとリサーナを抱き寄せて言うロアは一体何を考えていたのか。
さっと青ざめてふらっと後ずさったナツは、明らかに落ち込んだ様子でそこに膝をついた。
「…お姉ちゃん、この二人って…」
「そう、ずっとこんな調子なのよ…」
「なーんだ…」
ロアの腕の中で苦笑いを浮かべたリサーナには見えているものが、肝心の二人には見えていない。
まあそれも面白いのかな。
とうとう他人事に考えたリサーナは、見せつけるかのようにロアの背中に手を回した。