ナツ夢(2012.02~2016.05)
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久々に戻った我が家、フェアリーテイルは完成していた。以前の物とは比べモノにならないほど大きくなり、ショップやプール、遊技場まで用意されている。
そんなことよりも、ロアにとって一番大きなことは、二階へ誰でもいけるようになったということだ。これで、Sランク以外の人間もロアに会いに行くことが出来る。
「ナツ、ナツも嬉しいよな!?」
「ん…そりゃまぁ…嬉しいけどよぉ」
「何?どうかしたか?」
どうも先ほどから表情を曇らせたままのナツはロアの言葉にもあまり良い返事をしなかった。
「なんか…前と違う」
「それは、そうだろうな。実際違うんだし…」
ナツと同じくらいの時期からロアはフェアリーテイルに入った。若干ナツの方が早いものの、前のギルドへの思いは同じくらい持っている。
「まぁ、確かに寂しいような気はするけどさ」
皆が楽しそうならそれでいいんじゃないかと思う。しかしロアと違ってナツにはその柔軟な考え方は出来ないようだった。
「帰ってきたかバカタレども」
マカロフの声に目を向けると、隣にはジュビアの姿があった。楽園の塔から一足先に戻っていたジュビアは、無事フェアリーテイルに所属することが許されたようだ。しかもマカロフは元ファントムの魔導士だと知っていてジュビアを招き入れていた。
「皆さんのおかげです!ジュビアは頑張ります!」
「あぁ、先日は世話になったな」
「よろしくね!」
エルザとルーシィ、それにグレイもジュビアが無事入れたことに喜んでいるようが、反対にロアは少し目を逸らして受け入れたくないと言いたげだ。
「知り合いなら良い。ではもう一人も紹介しとこうかの」
「ジュビアが紹介したんです」
椅子に座っていたそのもう一人の姿を見て、今度は皆が怒りを見せた。
「ガジル!?」
「マスター!何考えてんだよ!」
ギルドを破壊した張本人であるガジル。紹介、ということは既にマカロフによって許されているのだろうが、ジュビアはともかくガジルの所属にはさすがのエルザも反対した。
「冗談じゃねぇ!こんな奴と仕事出来るか!」
「安心しろ、慣れ合うつもりはねぇ」
ナツも今にも喧嘩をし出しそうな勢いで突っかかる。しかし、ガジルは興味なさげに顔を逸らした。逸らした先にいたのは、ロア。ガジルがその手で辱めた男だ。
「…ガジル」
「む、…ロアか」
「お前だけは、絶対ぇ…認めねぇからな…!」
歯を噛み締めているロアの脳裏に焼き付いて離れない恥辱。絶対に許さない。ロアの金の目はそう語っていた。
しかしガジルの方は照れ臭そうに頬を染めて、ロアから視線を外す。
「あん時は…悪かったな…」
「はぁ!?謝ったって許さねーよ」
「あんたが余りにも可愛いから…」
「っ…!し…死ね!」
ガジルの頬に一発入れると、ロアはギルドから出て行ってしまった。
・・・
ギルド内は、ギルド完成を祝ったイベントで盛り上がっている。それをロアはギルドの外で音だけを聞いていた。今は、ミラが歌を披露しているようだ。
「ロア!」
「…ナツ?」
中から出てきたナツが手を振りながらやってくるのが暗がりに見えた。片手には肉がのった皿がある。
「何?俺に持ってきてくれたのか?」
「ん、一緒に食おうぜ!」
結局ギルドは綺麗になったというのに、喧嘩や乱闘が始まっているらしく、ミラの声が途切れると物が壊れる音がたくさん聞こえ始めた。
「やっぱ、フェアリーテイルはこうでなくちゃな!」
ギルドの方を見ながら、ナツは楽しそうに笑っている。ギルドの雰囲気が変わってしまったと落ち込んでいたが、皆が全く変わってないことに安心したのだろう。
それはもちろん良いのだが、ロアにはガジルのことがどうしても気掛かりだった。
「ガジル…本当にフェアリーテイルに入んのかな」
「じじいが認めたんだから、そうなんだろうなー…」
「はぁ…」
ぼんやりと空を見つめる。ロアは結構根に持ちやすいタイプであるということに最近自分で気付いた。ガジルは恐らく反省しているし、そもそもの行動もジョゼによる命令で彼自身で行ったことではない。それでも、許す気にはなれなかった。
「なぁ、ガジルのこと…腹立ってんのはロアだけじゃねぇからな」
「そりゃそうだろ、フェアリーテイルを…」
「そうじゃなくて、ロアに無理やり触ったこと」
ナツの手がロアの頬に触れた。
「もう、絶対ぇ嫌な思いさせねーからな」
「な、…っ」
「つーか…オレが嫌だ!」
ナツがロアの体を抱きしめる。ギルドの室内が盛り上がっているおかげで、外は静か。それを良いことに、ロアはそのナツの背中に腕を回した。
「ナツがこうしてくれるなら…俺、大丈夫だよ」
「そっか、なら…いつでも抱きしめてやるよ」
「はは、暖けぇな…」
現金な奴だ。結局ナツに近づくきっかけになるなら、ガジルがいたって関係ない。ガジルにされたことで、ナツが意識してくれるならそれでもいい。
「ナツ…」
好きだ、うっかり漏れそうになる言葉を飲み込んで、ロアはナツから体を離した。
「よし、戻るか」
「おう」
ナツと顔を見合わせて、ロアはギルドの中に入った。ナツの笑顔が見れるだけで胸がいっぱいになる。楽園の塔でナツの死を考えてしまったせいで、愛しさは膨れ上がっていた。
翌日。ロアが二階から降りていくと、なんとなく皆ソワソワしていた。
何かあったのだろうか。そもそも昨日は皆ずいぶん飲んでいたのに、朝から起きていることが普通ではない。
不思議に思い佇んでいると、ミラがロアに気付いて手招きをした。
「ロア!早くこっちに来て!」
「一体どうしたんだ?」
首を傾げたままロアが近づくと、ミラはそこにあった椅子を引き、座るように目配せした。よくわからないままそれに従うと、ミラの手がロアの髪に伸ばされる。
「ロアは今のままでも十分だけど、すこしくらい綺麗にしなきゃね」
「え、何?今日なんかあんだっけ?」
「あら覚えてないの?今日は週刊ソーサラ―の記者が取材に来る日よ」
週刊ソーサラ―とは魔法商品やギルド紹介、美人魔導士のグラビアなどで有名な魔法専門誌。フェアリーテイルもよく取材を受けるのだが、今回はフェアリーテイルの大特集らしい。
しかも、その記者であるジェイソンという人物は特にナツのファンであるため、よく写真も載せられるのだ。
「今回はポーズも考えてあるのよー」
「ちょっと…モデルじゃあるまいし」
「あなたの人気がギルドの人気にも繋がるんだから我慢なさい」
言い返す言葉も見つからず、ロアは息を吐いた。
ミラはモデルをやっていたこともあり、ロア以上の相当な人気を誇っている。そのモデルという仕事にロアも引きずり込む気満々なのだ。
ロアは容姿を評価されたって嬉しくないという理由で、今までも散々断ってきたのだが、ミラがここまで張り切っているのに水を差すのも申し訳ない。
「その服はないわね」
「…え?」
「もっとかっこいい服に着替えましょ!」
しかたない、少しは許してやるか、と思った瞬間に、ミラはロアの服に手をかけた。
「え、や…ちょっとミラ」
「はい、ばんざーい」
「ばんざーい…ってうわあ!」
されるがままに、ロアはミラに脱がされていった。
・・・
暫くして、ナツとルーシィがギルドに入って来た。二人のおはようの声は聞こえていないらしく、ギルド内がざわついたまま。
「なんだ?」
ナツとルーシィが顔を見合わせていると、それに気付いたレビィが二人を呼んだ。
「今日取材くるでしょ?それでねロアがすごくかっこいいの!」
ほらほら、と腕を引かれ輪の中に入っていくと、髪を少し上げて、スーツに近い服を着たロアがミラに何やら指南されている。
「あら、ナツ遅かったじゃない」
「ロア…それ…」
「うわ、ナツ…これは、その…ミラがどうしてもって」
ミラもいいでしょ、と嬉しそうにしている。確かにいつも変な格好をしているロアだからこそ、しゃんとさせると改めてかっこいいと誰もが感じていた。顔良し、スタイル良し。本来なら何を着ても似合うのだろう。
「えっと、どうかな」
「い、いいんじゃねぇ?」
ナツがすっと目をそらすと、グレイが後ろから来てロアの髪に触れた。
「へぇ、髪いじるだけでこんな変わるんだな」
「そんな違うか?」
「ん…まぁオレは普段のでも十分いいと思うけどな。ロアは元がいいから」
「そりゃ、どうも…」
薄らと頬を赤くし、少し俯いたロアを見てグレイは満足そうに笑い、それからナツに目をやった。どうだ、と言わんばかりににやっとしたグレイにナツも負けじとロアの頬に手をやる。
「そうだ!ロアはこんなことしなくてもめちゃくちゃイケてんだからな!」
「え、あ…?」
「んなの、オレが一番わかってんだ…!」
「、ナツ…?」
ナツの様子がおかしい、と思ったのも束の間、今度はミラがぐい、とロアを引っ張った。
「あんまりぐちゃぐちゃにしないでね!せっかくのセットがくずれちゃう」
「ミラ、もういいって…」
「いいの!今日だけだから、ね!」
仕方ない、と諦めつつもロアは横目でナツを見ていた。心ここに有らず…というか、どこか遠くを見ているナツ。ロアにはそのナツを放って置くという選択肢はなかった。
「おいナツ。なんか調子悪い?」
ミラも着替えに行ったため、ロアはナツの後を追った。ナツはやはりなんとなくムッとしているように見える。
「そんなに取材嫌か?」
「まぁ、あの記事は嫌いだけど…そんなじゃねぇ」
「と、じゃあ…なんだ、俺が原因だったりして」
ぴく、とナツの筋肉が動いた。つまり図星だということだろう。
「ナツ、言ってくれなきゃわかんねーぞ…」
ロアがしゅんとしたのに気付き、慌ててナツが口を開くと、同時に大きな声が聞こえてきた。
「光のロアー!!!」
飛び込んできた声の主はそのままロアに突っ込んできた。
驚いて咄嗟にロアが避けたためにその人は盛大に転んだが、すぐに起き上るとロアの手を握る。これ、わずか三秒。
「本物!生ロア!!クール!COOL!!」
「あー…来やがった…」
「やっぱりナツが本命!?」
「はぁ?」
「ナツとグレイならどっちを選ぶ!?」
「…なんだよそりゃ」
急に現れて聞く質問がそれかよ、とロアが呆れていると、取材に来たジェイソンは更に距離をつめてロアの肩を掴んだ。
「脱いだ写真撮らせて!!」
ごすっと鈍い音がして、ジェイソンが思い切り吹っ飛んだ。かなりイラついた顔でナツが拳を握りしめている。
「気安くロアに触んな!」
行くぞ、とナツがロアの腕を掴んでギルドの外に向かって歩き出した。吹っ飛んだジェイソンはというと、ナツに殴られたことを気にするどころかCOOL!COOL!と嬉しそうにするだけだった。
「ナツ、手…痛い」
「あ、悪ィ」
ぐいぐいと引かれて外に出たのはいいが、手を離したナツは、一瞬合わせた目をすぐ申し訳なさそうに逸らしてしまった。
「なぁ、ナツ…どうしてそんなにイライラしてんだよ」
「…言いたくねぇ」
「ナツ」
真っ直ぐ見つめてくるロアに、ナツも目を合わせた。言わなきゃ逃がさない、それくらいの意気を感じる。折れたのはナツの方だった。
「オレ、ロアのこと…もっといっぱい知りてぇんだ」
「ん?」
「オレの知らない姿を他のヤツが先に見てて…なんか嫌だ」
…つまり。ナツのイライラの正体がわかり、ロアはぷ、と吹き出した。
「なッ!笑うなよ!」
「ごめ、ナツでも、嫉妬みたいことするんだなって…ふ、ふふ」
「、言っとくけど、取材のヤツが嫌なのもあるからな!」
あいつ嫌なことばっか書きやがる…ぶつぶつと言いながら、ナツはロアの肩に埃を払うように手をやった。
「肩汚れてた?」
「いや…アイツが触ったから…」
「ッ、」
「あ、アイツには気をつけろよ!脱げとか言ってただろ」
「それは…ちょっと意味違うと思うけどな」
頬が熱い。先日せっかく我慢したのに、喉の奥がからからになって言いたくて仕方なくなる。どうしてそうやって心を簡単にかき乱していくのだろう。
どうしたら、ナツの心をつかみ取ることが出来るのだろう。
「ナツ…」
「あ?なんだよ」
「いや、なんでもない」
その日のことは週刊ソーサラ―にばっちりと特集された。
新メンバーのルーシィは勿論、ロアも数枚モデルとして写真を撮られ、暴れるナツ、歌いだすガジル。それはフェアリーテイルを更に悪名高くする結果となった。
また、ロアとナツの交際疑惑も再び取り上げられることとなった。
「いつからオレのギルドはこんなに…なめられるようになった…シジィ…!」
そしてその記事を見たフェアリーテイル最強候補の男。ラクサスを怒らせることになっていたことを、まだ誰も気づくことはなかった。
二階、唯一の一人部屋。ざわざわと煩いギルドの声で目が覚めた。以前までは二階へはSランクの者しか行けなかったものが、今ではそれが無くなった。
「…騒がしいギルドだな」
もはや昼近いためにギルドへ多くの者が来ているのだろうが、こうも騒がしいと二度寝も出来そうにない。
「どーすっかなぁ」
ここで布団から出なければ少し前の自分。しかし、最近では面白いことが起こりすぎて引きこもり生活にも飽きてしまったのだ。
仕事に行くにも、今ナツは本調子でないため誘うことは出来ない。
その日、ロアは特に理由もなく、何気なく外に出たのだった。
「…あそこにいるの、レビィか?」
ポケットに手を入れてぶらぶらと歩いていると、何故か身を何かから隠すように縮めているレビィが前方にいた。
「レビィ、何してんだ?」
「っ!ロア…えと、その…」
そわそわとするレビィの見ていた方に顔を向ければ、レビィとチームを組んでいるジェットとドロイの二人がガジルと対峙しているのが見えた。戦っているのだろうが、一方的にガジルの方がやられているのはロアの目にも異様に映る。
「おいおい…これはちょっと違うんじゃねーのか」
決闘として正々堂々と戦うならまだしも、二対一。ガジルほどの魔導士ならジェットとドロイ程度一人でも一ひねりな所だろうが、何故かやり返す気配はない。
「あいつら、レビィの仕返ししてんじゃねぇのか?」
「う…私はもう気にしてないのに」
「はぁ?じゃあなんで止めないんだよ」
ロアはガジルのしたことを忘れてはいないが、こういう方法は気に食わなかった。
「おい、止めろよ」
一歩前に出て三人を見据える。ジェットとドロイは驚いてばっと振り返り、ロアの顔を見た。
しかし、そこにいるのがロアだとわかると安心したように肩の力を抜く。
「なんだ…ロアか」
「ロアだって許せねぇだろ、こいつ」
「だからって、こういうのは好かねーよ」
二人の横を通りすぎて、ガジルの前に行く。本気の攻撃を受けていたようだが、ガジルは膝に手をついて息を荒くしている程度で済んでいた。さすがの実力といったところだ。
ロアはそのガジルの胸倉を掴んで顔を近づけた。
「どういうつもりだよ」
「…何が」
「そういう中途半端なことされるとさ、こっちも…困るんだよ」
許さない、と思っていた矢先、こうして真摯な態度を見せる。ガジルがやり返さないのは、相手をなめているからじゃない。仲間として認めて欲しいからやり返せないのだ。
殴ってやりたいのに、ロアの拳は小さく震えるだけで、振り下ろされることはなかった。
「おい、なんのイジメだ?」
ジェットでもドロイでもない。ざっという足音と共に聞こえた声にロアの体はびくっと震えてガジルを離した。
「なんで、ラクサス…」
「そいつ、オレのギルドに上等かましてくれたガキだろ。またやられねぇ為に仲間にしやがったか?」
だいぶキレている。それは見るに明らかだった。
「そんなんだから、なめられんだよ。クソが」
「ぐあああっ」
ガジルの体にラクサスの雷魔法が直撃する。抵抗する気などないガジルの体はただボロボロにされていく。
ガジルは許せない、しかしロアにとってはラクサスの方が許せない存在になった。
「てめぇ、ラクサス!俺が相手になってやる!」
「へぇ…いいのかよ、ロア…」
「てめぇの行動にゃつくづく苛立ってんだ。今日はもう黙って見てられねぇ…!」
ガジルの体を庇うようにラクサスとの間に立つ。そして体から光を放出させた。
二人ともSランクで、力は並行している。光と雷、二人とも弱点ではないし、むしろロアからすれば戦いやすい相手のはずだった。
「レビィ、危ない…!」
勝敗を分けたのは、戦い方の差、そして仲間が周りにいたという状況。
ラクサスはわざと攻撃を外してレビィを狙った。反射的にそれを庇ったロアの体に魔法が直撃し、その瞬間にラクサスはロアの上に跨って、思い切りその鳩尾を蹴り飛ばした。
咳き込むロアの首を掴んで持ち上げる。容赦ないラクサスの仕打ちにレビィは泣いて止めてくれと訴えたが、そんなことをラクサスが受け入れるはずもない。
「か、は…っ」
「ロア…いい眺めだなぁおい」
その体を放り投げて更にロアの体に雷を落とす。そこまでされてロアが意識を保っていることは不可能だった。
ぼろぼろになって口から血を吐いたロアを担いで、ラクサスはギルドと反対の方向に歩き出す。
「ラクサス…!ロアをどうするつもりなの!?」
「手当してやるんだよ。こいつは「光のロア」なんだろ?」
丁重に扱ってやるんだというラクサスの言葉を今さら信用出来る者など一人もいない。
しかしロアがやられた状態でラクサスに突っ込む勇気のある者も一人もいなかった。
「余計なこと言って、収穫祭に参加しないなんてことのないようにしろよ」
「…どうして…?」
「余計なことを言えば、まずてめぇらから殺す」
本気の目がレビィを捕らえていて、恐怖からレビィはその場に崩れる。横ではガジルも辛そうに息荒く、膝に手をついたまま。ジェットとドロイも殺意ある目を見て文句を言うことさえも出来なかった。
・・・
見たことのない知らない場所、知らない質感のソファーに寝かされている。ロアは目を開けてから、体の痛みの他に拘束するものは何もないことに驚いていた。
恐らくラクサスの住処か、ラクサスが関係する場所なのだろうが、思っていたほど手荒な扱いはされていないようだ。
「おい、目ぇ覚めたようだな」
「っ、ラクサス」
しゃべると切れた口の端が痛む。そこを親指で抑えると、もう血は止まっているようだが、ズキッと痛みが走って小さく声が漏れた。
「ここ、どこだよ。なんで俺を」
「もうすぐ雷神衆が帰ってくる…わかるだろ」
「…まさか、ラクサスお前!」
飛びかかろうと立ち上がるが、すぐに頭を掴まれてソファーに押し戻された。至る所に作られた痣が押されて痛い。
「っく…」
「てめぇはオレに負けてんだよ。今更抵抗しようなんて思うな」
「卑怯な真似…しやがったくせに」
「っは、本当にそう思うのか?どうあっても、オレには勝てねぇよ」
わかってんだろ、と耳元で囁かれる。実際のところラクサスと本気でやり合ったことは過去に一度しかない。その時もラクサスには勝てなかった。ラクサスの強さはよくわかっている。マスターを除けば、ギルド一の強さかもしれないということも。
「ロア…これから楽しい共食いが始まるぜ」
「…は、ふざけたことを」
「てめぇがオレに協力すれば…もっと楽しくなる」
「馬鹿言うな、誰が」
「頷かねぇなら、今ここで犯す」
薄い服の中にラクサスの手が入り込んできて、細い腰をなぞった。うつ伏せに押さえ付けられた状態でラクサスの体が乗っているため、ロアの体はほとんど自由が利かない。
するするとラクサスの手は体を這って、ロアの乳首を強く弾いた。
「っあ、馬鹿…!やめろ!」
「じゃあオレに従え」
「っくそ…信じらんねぇ…」
ラクサスに協力すると言えば、恐らく雷神衆と共にフェアリーテイルの皆と戦わされる。
ここに捕らえられ犯されることと、皆と戦うこと、どちらかを選べと言われるならば…
「わかったよ…ラクサスに力を貸してやる…」
「言ったな」
「あぁ、離せ…話を聞かせろ」
ラクサスはロアの上から退くと、見下ろしてにやっと笑った。
「おい、本当に俺に変なことしようと思うなよ」
ラクサスは信用出来ない。疑いの目を向けて身構えるロアに対して、ラクサスは馬鹿にしたように笑った。
「自惚れんなよ」
「っ、お前が信用できないだけだ!」
ソファーに腰掛けたまま、ロアはラクサスに蹴りを入れようとしたが、その足は簡単にラクサスに掴まれてしまった。その足をぐいっと持ち上げられて、嫌でもラクサスに股を開く体勢になる。
「あ、っおい!離せ!」
「おいおい、てめぇから仕掛けたんだろうが」
「そう見えたんなら、相当イカれてるぜお前」
睨み合った後、ラクサスは興味なさげにその足を払いのけた。ラクサスが男遊びするような変態だとは思っていないが、ロアを痛めつける為ならなんだってしそうだ。それさえもロアの思い込みなのかもしれないが、ロアにはそのようなイメージが染みついていた。
「一応言っておくが…その手のことは、もっと気を付けるべき相手がいると思うぜ」
「…は?」
「忠告したからな」
それだけ言い残して、ラクサスは部屋から出て行った。意味深な言葉だとは思いながらも、ロアはラクサスの言うことなど聞き流していた。聞く必要などない、ラクサスなんてハナから信用しちゃいない。
それから、雷神衆が帰ってくるまではすぐだった。
街に戻ってきたらここに来るように言っていたのか、雷神衆三人、ビックスローとエバーグリーンとフリードが当然のように部屋の中に入ってくる。
その三人はロアを見て随分と驚いた表情を見せた。
「お!ロアじゃねーか!なんで居るんだよ」
「あら、相変わらず可愛いわね」
ロアにずい、と顔を近づけさせてまじまじと見てくるビックスローとエバーグリーンから逃れるようにロアは体を反らす。
雷神衆は孤立主義の寄せ集めというか、とにかくほとんどギルドにいないため、会うのは久々だった。
「とうとうロアも雷神衆の仲間入りか?」
「まさか、興味ねーよ」
「なーんだ。ロアなら歓迎してあげるのに」
何故か好かれているようだが、ロアも彼らのことは嫌いではなかった。彼らの場合、ラクサスと違って明らかな敵意を持っていない。ただラクサスが気に入っているのか、付き従っているに過ぎないのだ。
「いいから、さっさとラクサスの所に行けよ」
三人を促して、ロアもラクサスが暫く使えと言ってくれた部屋に向かう。
長い間会っていなかったが、全く変わっていない三人を思い出して少し口元がにやける。
しかし、闇ギルドを倒したりと勝手なことばかりしてフェアリーテイルが目を付けられる原因になることは避けて欲しい。完全な悪でないからこそ、ロアの心境は複雑だった。
・・・
夜、そろそろフェアリーテイルで自分の消失が話題に上るのかと心配で寝つけずにいるロアの耳に、ノックの音が入った。
「…誰?」
ラクサスならノックはしないだろう。ベッドから体だけ起こして、ロアは小さくドアに向けて声を発した。部屋に入ってきたのは、端正な顔立ちに緑の長く綺麗な髪を持つフリード。
「こんな時間に…俺に用?」
「…少し気になることがあってな」
静かにドアを閉めて、フリードはロアに近づく。雷神衆の中でも一番温厚で、それでいて一番謎の多いフリードのことはロアもあまりよく知らなかった。
そのフリードの手がロアの頬伸びてきて、ゆっくり肌を撫でる。
「この傷は…最近のものだな」
「え?…あぁ」
「こっちも…」
首の方に滑る指が少し強く傷を押すと、ズキッと痛みが走って、ロアはきつく目を閉じた。
最近の傷、ラクサスにやられたものだろう。手当の一つもしてくれていなかったのだと今更ながらに気付く。
「もしかして…ロアがここにるのは、ラクサスに強要されたからではないのか」
部屋にある鏡台の引き出しを開けて、消毒や包帯を出す。その流れがあまりにも自然で、そのままロアはフリードに手当を受けた。
「ロアはオレたちとは違う。ラクサスに言われたって…断るはずだ」
「…まぁね。でも、今回は特別。本気で皆と戦ってみたいってのがあったからな」
服を脱ぎ、腹部や背中、腕に出来た傷にも丁寧に薬を塗り込まれる。ロアにはむしろ、フリードこそラクサスとは違う意思を持っているように感じられた。
「フリードこそ、どうしてラクサスなんかに従ってる?ラクサスの何がそんなに…」
「皆、ラクサスのことを知らないんだ。オレはラクサスを信じている」
「へぇ…わかんねぇな。同士討ちの計画企てる奴を…俺は信じられない」
仲間とも思えない。しかし、フリードのことは信じられる気がして…何を信じたらいいのかわからなくなる。
「それなのに、ロアは協力なんてしていいのか」
「ラクサスは強いけど…俺はナツの方が強いんじゃないかって思ってんだ」
以前、エーテリオンを食ったときのナツは、本物のドラゴンスレイヤーだった。ラクサスもドラゴンスレイヤーとしての能力を持っているが、それは人工的なもの。やはり、本物のナツには敵わないだろうとロアは思っていた。
だからこそ、ナツと戦ってみたいし、また、ラクサスと本気で戦うナツを見てみたかった。
「…相変わらず、ナツのことが好きなようだな」
「…は?え、うわっ…!」
急に視界が木造の天井に変わった。フリードががっちりと肩を抑えている。
「な、なんだよ…」
「手当の…続きだ」
フリードの手が傷から胸に移動して、ロアの乳首をつねる。もう片方の手はロアの腰を撫でていて、ロアの体はびくっと跳ねた。
「っ!?な、何してんだよ!」
「気持ちいいことは…好きだろう?」
「そりゃ…いいだろうけど…」
急な展開に頭がついて行っていないというのに、予想以上に乳首を触られることは快感に変わっていく。首元をフリードの舌がなぞり、長い髪の毛が触れるだけで体が震えた。
「っぁ…んん…」
「気持ちよさそうだな」
「ち、違う!」
「勃ってるぞ」
「わっ、駄目、やめ…!」
本気で抵抗しようと思えばできた。フリードより強い自信はあったし、フリードの魔法は発動まで時間のかかるものだ。
なのに、言葉ばかりで拒否しきれなかったのは、本当に気持ち良かったから。無意識に、もっと気持ち良くなりたいと、快感を求めてしまったからだ。
「はぁ、…っ、嘘だ、こんなの…」
「大丈夫…挿れたりしない。気持ちよくするだけ…」
「あ、う…ッ」
乳首をつねられ舐められ、股間を擦られ。何故だかどうしようもないくらい気持ち良くなって、ロアはフリードの手の中でいってしまった。
一人気持ち良くなって喘いでしまったことよりも、フリードの純粋な好意を肌で感じてしまったことが辛かった。
フリードは謎が多くて、でもかっこよくて強くて。それでもロアにはその思いに応えることは出来ないから。素直に体を触らせてしまったことが罪悪感に変わっていた。
「…すまなかった」
「いや…俺こそ、なんか…」
「おやすみ、ロア」
今になってラクサスの忠告の意味を理解する。そしてラクサスの言葉が真実だったことに、再びロアはわからなくなるのだった。
・・・
マグノリアの収穫祭。フェアリーテイルはファンタジアという大パレードを伝統的なイベントとしている。そのほかに、ミス・フェアリーテイルコンテストも今回の一大イベントである。
ただ気になるのが、ラクサスが帰って来ているということと、そのラクサスがロアと衝突したということ。そしてそれから、ロアが一度もギルドに帰ってきていないということ。
それでもイベントは始まって、マグノリアは大盛り上がりだ。
「ミス・フェアリーテイルコンテスト開催です!」
カナ、ジュビア、エルザ、ミラ、レビィ、ルーシィと外でも活躍する魔導士たちが舞台に立つ。
去年はここにロアも参加していた。ギャグ要員だったというのに、なかなかの点数を稼いでしまったという面白い展開もあったものだが、今年ロアの姿はない。
「ロア…どこに行っちまったんだ」
「オイラも、ロアの可愛い格好、もう一回見たかったなぁ」
ナツとハッピーがはぁ、とため息を吐く。最後のルーシィが舞台に立ってアピールをしている。容姿、スタイルともに抜群である新人ルーシィの評価はなかなか良い。
しかしその背後に、もう一人、スタイルの良い女性が立っていた。
「くだらないコンテストは終了ー」
ルーシィを遮って舞台の真ん中を奪う。その人物、エバーグリーンの登場にはフェアリーテイルの誰もが青ざめた。
エバーグリーンの能力は、裸眼で見た人間を石に変える。
「ルーシィ、そいつの目を見るな!」
グレイの一言も虚しく、ルーシィは一瞬で石に変わってしまった。それどころではなく、控え室にいたエルザを含むその他の参加者も石に変えられていた。
「エバーグリーン!祭りを台無しにするつもりか!?」
「お祭りには余興が付きものでしょう?」
「バカタレが!今すぐ元に戻さんか!」
さすがのマカロフも怒りを露わにする。
エバーグリーンがいるということは、当然雷神衆は揃い、そしてその中心にはラクサスがいる。
「祭りはこれからだぜ…夜のファンタジアまで、何人生き残れるかな」
「ラクサス…」
「女共は人質だ。ルールを破るごとに破壊する」
エバーグリーンの能力で石にされたものは、その状態の時に破壊されればもう元に戻ることはない。つまり、死んでしまうということだ。
ルールは、最後に生き残った者が優勝という、単純なもの。
「もう一つ…ゲストを用意したぜ」
ラクサスはロアを肩に抱いた。ざわっとフェアリーテイルの空気が変わる。
「どうしてじゃ…ロア」
「深く考える必要なんてないですよ、マスター。俺は皆が本気でやり合うのも楽しいかなって思っただけだ。な、ナツ」
ラクサスの手を払いのけながら、ロアはナツに視線を送った。皆と、ラクサスと戦う機会であるこのイベントを、ナツが嫌がるはずがない。ナツはわかってくれるはず。そう願いながら、ロアは手を強く握り締めた。
「いいんじゃねぇの?わかりやすくて!」
ナツが立ち上がる。にっと笑っているナツはいつも通りで、ロアはほっと肩を撫でおろした
「制限時間は三時間。それまでに私達を全員倒さないと、この子たち砂になっちゃうから」
エバーグリーンが石になったエルザを叩く。
「バトルフィールドはマグナリア全体よ。私たちを見つけたらすぐバトル開始」
楽しそうにするナツに対し、マカロフは相当怒っているようだ。
しかし、ロアは知っている。このバトルにはルールがたくさんあること。
街に仕掛けられたフリードの術式。そして、80歳以上のものはギルドの外に出れないというルールも仕掛けられているのだ。マカロフがどんなにこの戦いを望んでいなくても、マカロフは何もすることが出来ない。
そして、唯一ラクサスに勝てそうなエルザも石になっている。
「…ナツ、期待してるからな」
一言、舞台の上でロアはナツに向ける。
そして、ラクサスと雷神衆とロアはそこから姿を消した。ラクサス曰く、共食い。しかしロアはフェアリーテイルを信じていた。
→
そんなことよりも、ロアにとって一番大きなことは、二階へ誰でもいけるようになったということだ。これで、Sランク以外の人間もロアに会いに行くことが出来る。
「ナツ、ナツも嬉しいよな!?」
「ん…そりゃまぁ…嬉しいけどよぉ」
「何?どうかしたか?」
どうも先ほどから表情を曇らせたままのナツはロアの言葉にもあまり良い返事をしなかった。
「なんか…前と違う」
「それは、そうだろうな。実際違うんだし…」
ナツと同じくらいの時期からロアはフェアリーテイルに入った。若干ナツの方が早いものの、前のギルドへの思いは同じくらい持っている。
「まぁ、確かに寂しいような気はするけどさ」
皆が楽しそうならそれでいいんじゃないかと思う。しかしロアと違ってナツにはその柔軟な考え方は出来ないようだった。
「帰ってきたかバカタレども」
マカロフの声に目を向けると、隣にはジュビアの姿があった。楽園の塔から一足先に戻っていたジュビアは、無事フェアリーテイルに所属することが許されたようだ。しかもマカロフは元ファントムの魔導士だと知っていてジュビアを招き入れていた。
「皆さんのおかげです!ジュビアは頑張ります!」
「あぁ、先日は世話になったな」
「よろしくね!」
エルザとルーシィ、それにグレイもジュビアが無事入れたことに喜んでいるようが、反対にロアは少し目を逸らして受け入れたくないと言いたげだ。
「知り合いなら良い。ではもう一人も紹介しとこうかの」
「ジュビアが紹介したんです」
椅子に座っていたそのもう一人の姿を見て、今度は皆が怒りを見せた。
「ガジル!?」
「マスター!何考えてんだよ!」
ギルドを破壊した張本人であるガジル。紹介、ということは既にマカロフによって許されているのだろうが、ジュビアはともかくガジルの所属にはさすがのエルザも反対した。
「冗談じゃねぇ!こんな奴と仕事出来るか!」
「安心しろ、慣れ合うつもりはねぇ」
ナツも今にも喧嘩をし出しそうな勢いで突っかかる。しかし、ガジルは興味なさげに顔を逸らした。逸らした先にいたのは、ロア。ガジルがその手で辱めた男だ。
「…ガジル」
「む、…ロアか」
「お前だけは、絶対ぇ…認めねぇからな…!」
歯を噛み締めているロアの脳裏に焼き付いて離れない恥辱。絶対に許さない。ロアの金の目はそう語っていた。
しかしガジルの方は照れ臭そうに頬を染めて、ロアから視線を外す。
「あん時は…悪かったな…」
「はぁ!?謝ったって許さねーよ」
「あんたが余りにも可愛いから…」
「っ…!し…死ね!」
ガジルの頬に一発入れると、ロアはギルドから出て行ってしまった。
・・・
ギルド内は、ギルド完成を祝ったイベントで盛り上がっている。それをロアはギルドの外で音だけを聞いていた。今は、ミラが歌を披露しているようだ。
「ロア!」
「…ナツ?」
中から出てきたナツが手を振りながらやってくるのが暗がりに見えた。片手には肉がのった皿がある。
「何?俺に持ってきてくれたのか?」
「ん、一緒に食おうぜ!」
結局ギルドは綺麗になったというのに、喧嘩や乱闘が始まっているらしく、ミラの声が途切れると物が壊れる音がたくさん聞こえ始めた。
「やっぱ、フェアリーテイルはこうでなくちゃな!」
ギルドの方を見ながら、ナツは楽しそうに笑っている。ギルドの雰囲気が変わってしまったと落ち込んでいたが、皆が全く変わってないことに安心したのだろう。
それはもちろん良いのだが、ロアにはガジルのことがどうしても気掛かりだった。
「ガジル…本当にフェアリーテイルに入んのかな」
「じじいが認めたんだから、そうなんだろうなー…」
「はぁ…」
ぼんやりと空を見つめる。ロアは結構根に持ちやすいタイプであるということに最近自分で気付いた。ガジルは恐らく反省しているし、そもそもの行動もジョゼによる命令で彼自身で行ったことではない。それでも、許す気にはなれなかった。
「なぁ、ガジルのこと…腹立ってんのはロアだけじゃねぇからな」
「そりゃそうだろ、フェアリーテイルを…」
「そうじゃなくて、ロアに無理やり触ったこと」
ナツの手がロアの頬に触れた。
「もう、絶対ぇ嫌な思いさせねーからな」
「な、…っ」
「つーか…オレが嫌だ!」
ナツがロアの体を抱きしめる。ギルドの室内が盛り上がっているおかげで、外は静か。それを良いことに、ロアはそのナツの背中に腕を回した。
「ナツがこうしてくれるなら…俺、大丈夫だよ」
「そっか、なら…いつでも抱きしめてやるよ」
「はは、暖けぇな…」
現金な奴だ。結局ナツに近づくきっかけになるなら、ガジルがいたって関係ない。ガジルにされたことで、ナツが意識してくれるならそれでもいい。
「ナツ…」
好きだ、うっかり漏れそうになる言葉を飲み込んで、ロアはナツから体を離した。
「よし、戻るか」
「おう」
ナツと顔を見合わせて、ロアはギルドの中に入った。ナツの笑顔が見れるだけで胸がいっぱいになる。楽園の塔でナツの死を考えてしまったせいで、愛しさは膨れ上がっていた。
翌日。ロアが二階から降りていくと、なんとなく皆ソワソワしていた。
何かあったのだろうか。そもそも昨日は皆ずいぶん飲んでいたのに、朝から起きていることが普通ではない。
不思議に思い佇んでいると、ミラがロアに気付いて手招きをした。
「ロア!早くこっちに来て!」
「一体どうしたんだ?」
首を傾げたままロアが近づくと、ミラはそこにあった椅子を引き、座るように目配せした。よくわからないままそれに従うと、ミラの手がロアの髪に伸ばされる。
「ロアは今のままでも十分だけど、すこしくらい綺麗にしなきゃね」
「え、何?今日なんかあんだっけ?」
「あら覚えてないの?今日は週刊ソーサラ―の記者が取材に来る日よ」
週刊ソーサラ―とは魔法商品やギルド紹介、美人魔導士のグラビアなどで有名な魔法専門誌。フェアリーテイルもよく取材を受けるのだが、今回はフェアリーテイルの大特集らしい。
しかも、その記者であるジェイソンという人物は特にナツのファンであるため、よく写真も載せられるのだ。
「今回はポーズも考えてあるのよー」
「ちょっと…モデルじゃあるまいし」
「あなたの人気がギルドの人気にも繋がるんだから我慢なさい」
言い返す言葉も見つからず、ロアは息を吐いた。
ミラはモデルをやっていたこともあり、ロア以上の相当な人気を誇っている。そのモデルという仕事にロアも引きずり込む気満々なのだ。
ロアは容姿を評価されたって嬉しくないという理由で、今までも散々断ってきたのだが、ミラがここまで張り切っているのに水を差すのも申し訳ない。
「その服はないわね」
「…え?」
「もっとかっこいい服に着替えましょ!」
しかたない、少しは許してやるか、と思った瞬間に、ミラはロアの服に手をかけた。
「え、や…ちょっとミラ」
「はい、ばんざーい」
「ばんざーい…ってうわあ!」
されるがままに、ロアはミラに脱がされていった。
・・・
暫くして、ナツとルーシィがギルドに入って来た。二人のおはようの声は聞こえていないらしく、ギルド内がざわついたまま。
「なんだ?」
ナツとルーシィが顔を見合わせていると、それに気付いたレビィが二人を呼んだ。
「今日取材くるでしょ?それでねロアがすごくかっこいいの!」
ほらほら、と腕を引かれ輪の中に入っていくと、髪を少し上げて、スーツに近い服を着たロアがミラに何やら指南されている。
「あら、ナツ遅かったじゃない」
「ロア…それ…」
「うわ、ナツ…これは、その…ミラがどうしてもって」
ミラもいいでしょ、と嬉しそうにしている。確かにいつも変な格好をしているロアだからこそ、しゃんとさせると改めてかっこいいと誰もが感じていた。顔良し、スタイル良し。本来なら何を着ても似合うのだろう。
「えっと、どうかな」
「い、いいんじゃねぇ?」
ナツがすっと目をそらすと、グレイが後ろから来てロアの髪に触れた。
「へぇ、髪いじるだけでこんな変わるんだな」
「そんな違うか?」
「ん…まぁオレは普段のでも十分いいと思うけどな。ロアは元がいいから」
「そりゃ、どうも…」
薄らと頬を赤くし、少し俯いたロアを見てグレイは満足そうに笑い、それからナツに目をやった。どうだ、と言わんばかりににやっとしたグレイにナツも負けじとロアの頬に手をやる。
「そうだ!ロアはこんなことしなくてもめちゃくちゃイケてんだからな!」
「え、あ…?」
「んなの、オレが一番わかってんだ…!」
「、ナツ…?」
ナツの様子がおかしい、と思ったのも束の間、今度はミラがぐい、とロアを引っ張った。
「あんまりぐちゃぐちゃにしないでね!せっかくのセットがくずれちゃう」
「ミラ、もういいって…」
「いいの!今日だけだから、ね!」
仕方ない、と諦めつつもロアは横目でナツを見ていた。心ここに有らず…というか、どこか遠くを見ているナツ。ロアにはそのナツを放って置くという選択肢はなかった。
「おいナツ。なんか調子悪い?」
ミラも着替えに行ったため、ロアはナツの後を追った。ナツはやはりなんとなくムッとしているように見える。
「そんなに取材嫌か?」
「まぁ、あの記事は嫌いだけど…そんなじゃねぇ」
「と、じゃあ…なんだ、俺が原因だったりして」
ぴく、とナツの筋肉が動いた。つまり図星だということだろう。
「ナツ、言ってくれなきゃわかんねーぞ…」
ロアがしゅんとしたのに気付き、慌ててナツが口を開くと、同時に大きな声が聞こえてきた。
「光のロアー!!!」
飛び込んできた声の主はそのままロアに突っ込んできた。
驚いて咄嗟にロアが避けたためにその人は盛大に転んだが、すぐに起き上るとロアの手を握る。これ、わずか三秒。
「本物!生ロア!!クール!COOL!!」
「あー…来やがった…」
「やっぱりナツが本命!?」
「はぁ?」
「ナツとグレイならどっちを選ぶ!?」
「…なんだよそりゃ」
急に現れて聞く質問がそれかよ、とロアが呆れていると、取材に来たジェイソンは更に距離をつめてロアの肩を掴んだ。
「脱いだ写真撮らせて!!」
ごすっと鈍い音がして、ジェイソンが思い切り吹っ飛んだ。かなりイラついた顔でナツが拳を握りしめている。
「気安くロアに触んな!」
行くぞ、とナツがロアの腕を掴んでギルドの外に向かって歩き出した。吹っ飛んだジェイソンはというと、ナツに殴られたことを気にするどころかCOOL!COOL!と嬉しそうにするだけだった。
「ナツ、手…痛い」
「あ、悪ィ」
ぐいぐいと引かれて外に出たのはいいが、手を離したナツは、一瞬合わせた目をすぐ申し訳なさそうに逸らしてしまった。
「なぁ、ナツ…どうしてそんなにイライラしてんだよ」
「…言いたくねぇ」
「ナツ」
真っ直ぐ見つめてくるロアに、ナツも目を合わせた。言わなきゃ逃がさない、それくらいの意気を感じる。折れたのはナツの方だった。
「オレ、ロアのこと…もっといっぱい知りてぇんだ」
「ん?」
「オレの知らない姿を他のヤツが先に見てて…なんか嫌だ」
…つまり。ナツのイライラの正体がわかり、ロアはぷ、と吹き出した。
「なッ!笑うなよ!」
「ごめ、ナツでも、嫉妬みたいことするんだなって…ふ、ふふ」
「、言っとくけど、取材のヤツが嫌なのもあるからな!」
あいつ嫌なことばっか書きやがる…ぶつぶつと言いながら、ナツはロアの肩に埃を払うように手をやった。
「肩汚れてた?」
「いや…アイツが触ったから…」
「ッ、」
「あ、アイツには気をつけろよ!脱げとか言ってただろ」
「それは…ちょっと意味違うと思うけどな」
頬が熱い。先日せっかく我慢したのに、喉の奥がからからになって言いたくて仕方なくなる。どうしてそうやって心を簡単にかき乱していくのだろう。
どうしたら、ナツの心をつかみ取ることが出来るのだろう。
「ナツ…」
「あ?なんだよ」
「いや、なんでもない」
その日のことは週刊ソーサラ―にばっちりと特集された。
新メンバーのルーシィは勿論、ロアも数枚モデルとして写真を撮られ、暴れるナツ、歌いだすガジル。それはフェアリーテイルを更に悪名高くする結果となった。
また、ロアとナツの交際疑惑も再び取り上げられることとなった。
「いつからオレのギルドはこんなに…なめられるようになった…シジィ…!」
そしてその記事を見たフェアリーテイル最強候補の男。ラクサスを怒らせることになっていたことを、まだ誰も気づくことはなかった。
二階、唯一の一人部屋。ざわざわと煩いギルドの声で目が覚めた。以前までは二階へはSランクの者しか行けなかったものが、今ではそれが無くなった。
「…騒がしいギルドだな」
もはや昼近いためにギルドへ多くの者が来ているのだろうが、こうも騒がしいと二度寝も出来そうにない。
「どーすっかなぁ」
ここで布団から出なければ少し前の自分。しかし、最近では面白いことが起こりすぎて引きこもり生活にも飽きてしまったのだ。
仕事に行くにも、今ナツは本調子でないため誘うことは出来ない。
その日、ロアは特に理由もなく、何気なく外に出たのだった。
「…あそこにいるの、レビィか?」
ポケットに手を入れてぶらぶらと歩いていると、何故か身を何かから隠すように縮めているレビィが前方にいた。
「レビィ、何してんだ?」
「っ!ロア…えと、その…」
そわそわとするレビィの見ていた方に顔を向ければ、レビィとチームを組んでいるジェットとドロイの二人がガジルと対峙しているのが見えた。戦っているのだろうが、一方的にガジルの方がやられているのはロアの目にも異様に映る。
「おいおい…これはちょっと違うんじゃねーのか」
決闘として正々堂々と戦うならまだしも、二対一。ガジルほどの魔導士ならジェットとドロイ程度一人でも一ひねりな所だろうが、何故かやり返す気配はない。
「あいつら、レビィの仕返ししてんじゃねぇのか?」
「う…私はもう気にしてないのに」
「はぁ?じゃあなんで止めないんだよ」
ロアはガジルのしたことを忘れてはいないが、こういう方法は気に食わなかった。
「おい、止めろよ」
一歩前に出て三人を見据える。ジェットとドロイは驚いてばっと振り返り、ロアの顔を見た。
しかし、そこにいるのがロアだとわかると安心したように肩の力を抜く。
「なんだ…ロアか」
「ロアだって許せねぇだろ、こいつ」
「だからって、こういうのは好かねーよ」
二人の横を通りすぎて、ガジルの前に行く。本気の攻撃を受けていたようだが、ガジルは膝に手をついて息を荒くしている程度で済んでいた。さすがの実力といったところだ。
ロアはそのガジルの胸倉を掴んで顔を近づけた。
「どういうつもりだよ」
「…何が」
「そういう中途半端なことされるとさ、こっちも…困るんだよ」
許さない、と思っていた矢先、こうして真摯な態度を見せる。ガジルがやり返さないのは、相手をなめているからじゃない。仲間として認めて欲しいからやり返せないのだ。
殴ってやりたいのに、ロアの拳は小さく震えるだけで、振り下ろされることはなかった。
「おい、なんのイジメだ?」
ジェットでもドロイでもない。ざっという足音と共に聞こえた声にロアの体はびくっと震えてガジルを離した。
「なんで、ラクサス…」
「そいつ、オレのギルドに上等かましてくれたガキだろ。またやられねぇ為に仲間にしやがったか?」
だいぶキレている。それは見るに明らかだった。
「そんなんだから、なめられんだよ。クソが」
「ぐあああっ」
ガジルの体にラクサスの雷魔法が直撃する。抵抗する気などないガジルの体はただボロボロにされていく。
ガジルは許せない、しかしロアにとってはラクサスの方が許せない存在になった。
「てめぇ、ラクサス!俺が相手になってやる!」
「へぇ…いいのかよ、ロア…」
「てめぇの行動にゃつくづく苛立ってんだ。今日はもう黙って見てられねぇ…!」
ガジルの体を庇うようにラクサスとの間に立つ。そして体から光を放出させた。
二人ともSランクで、力は並行している。光と雷、二人とも弱点ではないし、むしろロアからすれば戦いやすい相手のはずだった。
「レビィ、危ない…!」
勝敗を分けたのは、戦い方の差、そして仲間が周りにいたという状況。
ラクサスはわざと攻撃を外してレビィを狙った。反射的にそれを庇ったロアの体に魔法が直撃し、その瞬間にラクサスはロアの上に跨って、思い切りその鳩尾を蹴り飛ばした。
咳き込むロアの首を掴んで持ち上げる。容赦ないラクサスの仕打ちにレビィは泣いて止めてくれと訴えたが、そんなことをラクサスが受け入れるはずもない。
「か、は…っ」
「ロア…いい眺めだなぁおい」
その体を放り投げて更にロアの体に雷を落とす。そこまでされてロアが意識を保っていることは不可能だった。
ぼろぼろになって口から血を吐いたロアを担いで、ラクサスはギルドと反対の方向に歩き出す。
「ラクサス…!ロアをどうするつもりなの!?」
「手当してやるんだよ。こいつは「光のロア」なんだろ?」
丁重に扱ってやるんだというラクサスの言葉を今さら信用出来る者など一人もいない。
しかしロアがやられた状態でラクサスに突っ込む勇気のある者も一人もいなかった。
「余計なこと言って、収穫祭に参加しないなんてことのないようにしろよ」
「…どうして…?」
「余計なことを言えば、まずてめぇらから殺す」
本気の目がレビィを捕らえていて、恐怖からレビィはその場に崩れる。横ではガジルも辛そうに息荒く、膝に手をついたまま。ジェットとドロイも殺意ある目を見て文句を言うことさえも出来なかった。
・・・
見たことのない知らない場所、知らない質感のソファーに寝かされている。ロアは目を開けてから、体の痛みの他に拘束するものは何もないことに驚いていた。
恐らくラクサスの住処か、ラクサスが関係する場所なのだろうが、思っていたほど手荒な扱いはされていないようだ。
「おい、目ぇ覚めたようだな」
「っ、ラクサス」
しゃべると切れた口の端が痛む。そこを親指で抑えると、もう血は止まっているようだが、ズキッと痛みが走って小さく声が漏れた。
「ここ、どこだよ。なんで俺を」
「もうすぐ雷神衆が帰ってくる…わかるだろ」
「…まさか、ラクサスお前!」
飛びかかろうと立ち上がるが、すぐに頭を掴まれてソファーに押し戻された。至る所に作られた痣が押されて痛い。
「っく…」
「てめぇはオレに負けてんだよ。今更抵抗しようなんて思うな」
「卑怯な真似…しやがったくせに」
「っは、本当にそう思うのか?どうあっても、オレには勝てねぇよ」
わかってんだろ、と耳元で囁かれる。実際のところラクサスと本気でやり合ったことは過去に一度しかない。その時もラクサスには勝てなかった。ラクサスの強さはよくわかっている。マスターを除けば、ギルド一の強さかもしれないということも。
「ロア…これから楽しい共食いが始まるぜ」
「…は、ふざけたことを」
「てめぇがオレに協力すれば…もっと楽しくなる」
「馬鹿言うな、誰が」
「頷かねぇなら、今ここで犯す」
薄い服の中にラクサスの手が入り込んできて、細い腰をなぞった。うつ伏せに押さえ付けられた状態でラクサスの体が乗っているため、ロアの体はほとんど自由が利かない。
するするとラクサスの手は体を這って、ロアの乳首を強く弾いた。
「っあ、馬鹿…!やめろ!」
「じゃあオレに従え」
「っくそ…信じらんねぇ…」
ラクサスに協力すると言えば、恐らく雷神衆と共にフェアリーテイルの皆と戦わされる。
ここに捕らえられ犯されることと、皆と戦うこと、どちらかを選べと言われるならば…
「わかったよ…ラクサスに力を貸してやる…」
「言ったな」
「あぁ、離せ…話を聞かせろ」
ラクサスはロアの上から退くと、見下ろしてにやっと笑った。
「おい、本当に俺に変なことしようと思うなよ」
ラクサスは信用出来ない。疑いの目を向けて身構えるロアに対して、ラクサスは馬鹿にしたように笑った。
「自惚れんなよ」
「っ、お前が信用できないだけだ!」
ソファーに腰掛けたまま、ロアはラクサスに蹴りを入れようとしたが、その足は簡単にラクサスに掴まれてしまった。その足をぐいっと持ち上げられて、嫌でもラクサスに股を開く体勢になる。
「あ、っおい!離せ!」
「おいおい、てめぇから仕掛けたんだろうが」
「そう見えたんなら、相当イカれてるぜお前」
睨み合った後、ラクサスは興味なさげにその足を払いのけた。ラクサスが男遊びするような変態だとは思っていないが、ロアを痛めつける為ならなんだってしそうだ。それさえもロアの思い込みなのかもしれないが、ロアにはそのようなイメージが染みついていた。
「一応言っておくが…その手のことは、もっと気を付けるべき相手がいると思うぜ」
「…は?」
「忠告したからな」
それだけ言い残して、ラクサスは部屋から出て行った。意味深な言葉だとは思いながらも、ロアはラクサスの言うことなど聞き流していた。聞く必要などない、ラクサスなんてハナから信用しちゃいない。
それから、雷神衆が帰ってくるまではすぐだった。
街に戻ってきたらここに来るように言っていたのか、雷神衆三人、ビックスローとエバーグリーンとフリードが当然のように部屋の中に入ってくる。
その三人はロアを見て随分と驚いた表情を見せた。
「お!ロアじゃねーか!なんで居るんだよ」
「あら、相変わらず可愛いわね」
ロアにずい、と顔を近づけさせてまじまじと見てくるビックスローとエバーグリーンから逃れるようにロアは体を反らす。
雷神衆は孤立主義の寄せ集めというか、とにかくほとんどギルドにいないため、会うのは久々だった。
「とうとうロアも雷神衆の仲間入りか?」
「まさか、興味ねーよ」
「なーんだ。ロアなら歓迎してあげるのに」
何故か好かれているようだが、ロアも彼らのことは嫌いではなかった。彼らの場合、ラクサスと違って明らかな敵意を持っていない。ただラクサスが気に入っているのか、付き従っているに過ぎないのだ。
「いいから、さっさとラクサスの所に行けよ」
三人を促して、ロアもラクサスが暫く使えと言ってくれた部屋に向かう。
長い間会っていなかったが、全く変わっていない三人を思い出して少し口元がにやける。
しかし、闇ギルドを倒したりと勝手なことばかりしてフェアリーテイルが目を付けられる原因になることは避けて欲しい。完全な悪でないからこそ、ロアの心境は複雑だった。
・・・
夜、そろそろフェアリーテイルで自分の消失が話題に上るのかと心配で寝つけずにいるロアの耳に、ノックの音が入った。
「…誰?」
ラクサスならノックはしないだろう。ベッドから体だけ起こして、ロアは小さくドアに向けて声を発した。部屋に入ってきたのは、端正な顔立ちに緑の長く綺麗な髪を持つフリード。
「こんな時間に…俺に用?」
「…少し気になることがあってな」
静かにドアを閉めて、フリードはロアに近づく。雷神衆の中でも一番温厚で、それでいて一番謎の多いフリードのことはロアもあまりよく知らなかった。
そのフリードの手がロアの頬伸びてきて、ゆっくり肌を撫でる。
「この傷は…最近のものだな」
「え?…あぁ」
「こっちも…」
首の方に滑る指が少し強く傷を押すと、ズキッと痛みが走って、ロアはきつく目を閉じた。
最近の傷、ラクサスにやられたものだろう。手当の一つもしてくれていなかったのだと今更ながらに気付く。
「もしかして…ロアがここにるのは、ラクサスに強要されたからではないのか」
部屋にある鏡台の引き出しを開けて、消毒や包帯を出す。その流れがあまりにも自然で、そのままロアはフリードに手当を受けた。
「ロアはオレたちとは違う。ラクサスに言われたって…断るはずだ」
「…まぁね。でも、今回は特別。本気で皆と戦ってみたいってのがあったからな」
服を脱ぎ、腹部や背中、腕に出来た傷にも丁寧に薬を塗り込まれる。ロアにはむしろ、フリードこそラクサスとは違う意思を持っているように感じられた。
「フリードこそ、どうしてラクサスなんかに従ってる?ラクサスの何がそんなに…」
「皆、ラクサスのことを知らないんだ。オレはラクサスを信じている」
「へぇ…わかんねぇな。同士討ちの計画企てる奴を…俺は信じられない」
仲間とも思えない。しかし、フリードのことは信じられる気がして…何を信じたらいいのかわからなくなる。
「それなのに、ロアは協力なんてしていいのか」
「ラクサスは強いけど…俺はナツの方が強いんじゃないかって思ってんだ」
以前、エーテリオンを食ったときのナツは、本物のドラゴンスレイヤーだった。ラクサスもドラゴンスレイヤーとしての能力を持っているが、それは人工的なもの。やはり、本物のナツには敵わないだろうとロアは思っていた。
だからこそ、ナツと戦ってみたいし、また、ラクサスと本気で戦うナツを見てみたかった。
「…相変わらず、ナツのことが好きなようだな」
「…は?え、うわっ…!」
急に視界が木造の天井に変わった。フリードががっちりと肩を抑えている。
「な、なんだよ…」
「手当の…続きだ」
フリードの手が傷から胸に移動して、ロアの乳首をつねる。もう片方の手はロアの腰を撫でていて、ロアの体はびくっと跳ねた。
「っ!?な、何してんだよ!」
「気持ちいいことは…好きだろう?」
「そりゃ…いいだろうけど…」
急な展開に頭がついて行っていないというのに、予想以上に乳首を触られることは快感に変わっていく。首元をフリードの舌がなぞり、長い髪の毛が触れるだけで体が震えた。
「っぁ…んん…」
「気持ちよさそうだな」
「ち、違う!」
「勃ってるぞ」
「わっ、駄目、やめ…!」
本気で抵抗しようと思えばできた。フリードより強い自信はあったし、フリードの魔法は発動まで時間のかかるものだ。
なのに、言葉ばかりで拒否しきれなかったのは、本当に気持ち良かったから。無意識に、もっと気持ち良くなりたいと、快感を求めてしまったからだ。
「はぁ、…っ、嘘だ、こんなの…」
「大丈夫…挿れたりしない。気持ちよくするだけ…」
「あ、う…ッ」
乳首をつねられ舐められ、股間を擦られ。何故だかどうしようもないくらい気持ち良くなって、ロアはフリードの手の中でいってしまった。
一人気持ち良くなって喘いでしまったことよりも、フリードの純粋な好意を肌で感じてしまったことが辛かった。
フリードは謎が多くて、でもかっこよくて強くて。それでもロアにはその思いに応えることは出来ないから。素直に体を触らせてしまったことが罪悪感に変わっていた。
「…すまなかった」
「いや…俺こそ、なんか…」
「おやすみ、ロア」
今になってラクサスの忠告の意味を理解する。そしてラクサスの言葉が真実だったことに、再びロアはわからなくなるのだった。
・・・
マグノリアの収穫祭。フェアリーテイルはファンタジアという大パレードを伝統的なイベントとしている。そのほかに、ミス・フェアリーテイルコンテストも今回の一大イベントである。
ただ気になるのが、ラクサスが帰って来ているということと、そのラクサスがロアと衝突したということ。そしてそれから、ロアが一度もギルドに帰ってきていないということ。
それでもイベントは始まって、マグノリアは大盛り上がりだ。
「ミス・フェアリーテイルコンテスト開催です!」
カナ、ジュビア、エルザ、ミラ、レビィ、ルーシィと外でも活躍する魔導士たちが舞台に立つ。
去年はここにロアも参加していた。ギャグ要員だったというのに、なかなかの点数を稼いでしまったという面白い展開もあったものだが、今年ロアの姿はない。
「ロア…どこに行っちまったんだ」
「オイラも、ロアの可愛い格好、もう一回見たかったなぁ」
ナツとハッピーがはぁ、とため息を吐く。最後のルーシィが舞台に立ってアピールをしている。容姿、スタイルともに抜群である新人ルーシィの評価はなかなか良い。
しかしその背後に、もう一人、スタイルの良い女性が立っていた。
「くだらないコンテストは終了ー」
ルーシィを遮って舞台の真ん中を奪う。その人物、エバーグリーンの登場にはフェアリーテイルの誰もが青ざめた。
エバーグリーンの能力は、裸眼で見た人間を石に変える。
「ルーシィ、そいつの目を見るな!」
グレイの一言も虚しく、ルーシィは一瞬で石に変わってしまった。それどころではなく、控え室にいたエルザを含むその他の参加者も石に変えられていた。
「エバーグリーン!祭りを台無しにするつもりか!?」
「お祭りには余興が付きものでしょう?」
「バカタレが!今すぐ元に戻さんか!」
さすがのマカロフも怒りを露わにする。
エバーグリーンがいるということは、当然雷神衆は揃い、そしてその中心にはラクサスがいる。
「祭りはこれからだぜ…夜のファンタジアまで、何人生き残れるかな」
「ラクサス…」
「女共は人質だ。ルールを破るごとに破壊する」
エバーグリーンの能力で石にされたものは、その状態の時に破壊されればもう元に戻ることはない。つまり、死んでしまうということだ。
ルールは、最後に生き残った者が優勝という、単純なもの。
「もう一つ…ゲストを用意したぜ」
ラクサスはロアを肩に抱いた。ざわっとフェアリーテイルの空気が変わる。
「どうしてじゃ…ロア」
「深く考える必要なんてないですよ、マスター。俺は皆が本気でやり合うのも楽しいかなって思っただけだ。な、ナツ」
ラクサスの手を払いのけながら、ロアはナツに視線を送った。皆と、ラクサスと戦う機会であるこのイベントを、ナツが嫌がるはずがない。ナツはわかってくれるはず。そう願いながら、ロアは手を強く握り締めた。
「いいんじゃねぇの?わかりやすくて!」
ナツが立ち上がる。にっと笑っているナツはいつも通りで、ロアはほっと肩を撫でおろした
「制限時間は三時間。それまでに私達を全員倒さないと、この子たち砂になっちゃうから」
エバーグリーンが石になったエルザを叩く。
「バトルフィールドはマグナリア全体よ。私たちを見つけたらすぐバトル開始」
楽しそうにするナツに対し、マカロフは相当怒っているようだ。
しかし、ロアは知っている。このバトルにはルールがたくさんあること。
街に仕掛けられたフリードの術式。そして、80歳以上のものはギルドの外に出れないというルールも仕掛けられているのだ。マカロフがどんなにこの戦いを望んでいなくても、マカロフは何もすることが出来ない。
そして、唯一ラクサスに勝てそうなエルザも石になっている。
「…ナツ、期待してるからな」
一言、舞台の上でロアはナツに向ける。
そして、ラクサスと雷神衆とロアはそこから姿を消した。ラクサス曰く、共食い。しかしロアはフェアリーテイルを信じていた。
→