ナツ夢(2012.02~2016.05)
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「なんで、今になってあんなことしやがった…?」
ロアを囲むようにずらりとファントムに属する者たちが並んでいる。
ミラには我慢しろなどと言われたが、我慢なんて出来るはずもなく、ロアは一人でファントムに乗り込んでいた。
「まさか俺が狙いじゃねぇよな」
ファントムによるフェアリーテイルへの攻撃。ロアを狙うなら強くなった今になってからでなく、まだ力をつける前に連れ去ってしまえば良い。このタイミングでロアを狙う意味などないはずなのだ。
「そのような狙われる可能性のある「光のロア」が…どうして一人で来たのでしょうねぇ」
「てめぇらが…俺の部屋ぶっ壊してくれたからだよ」
と言いながらも、自分の存在がフェアリーテイルを壊したことに繋がったのなら…と思うと動かずにはいられなかったというのが本音だ。ロアのキレた時の行動力は、恐らくナツをも上回る。
「君の想像通り…狙いは君じゃないですよ」
「…だからって、なんの意味もなく攻撃したわけじゃねぇだろ…」
「どうでしょうねぇ」
終始にやにやと笑っている男はファントム、正式名称ファントムロードのギルドマスター、ジョゼだ。
マスターの地位につくとは思えないほど、マカロフと比べても決して強い魔導士には見えない風貌だが、その実力はマカロフと同等…聖十大魔道と呼ばれる魔導士の一人である。
「フェアリーテイルには最近変化があったのでは?」
「…変化?」
「我らが動いたのには、ちゃんと理由があるのですよ」
「…最近…新しいメンバーは入ったけど」
最近の変化と言ったらルーシィが入ってきた、ということくらしか思い浮かばない。ルーシィのせいでロアの生活も確かに変化はあったが、ファントムとは全く繋がらない。
しかし、何気なく口にしたロアの言葉に、ジョゼの口元は更に吊り上っていた。
「…!?まさか、ルーシィ…?」
急に周りの魔導士たちの空気が変わった。理由はわからないが、どうやらファントムの狙いはルーシィで間違いないようだ。
じりじりと少しすつ近づいてくる奴らにロアも体から光を放つ。
「やるってんならやるぜ…?俺はこれでも、フェアリーテイルの魔導士だ」
雑魚たちをなぎ倒すように、ロアは光の剣を振り回した。
一気に何人ものファントムの魔導士が倒れていく。
自由自在の見えない剣は長さも形も変えて敵を仕留めていった。
「おいおい、この程度かよファントム!」
「…仕方ないですねぇ。アリアさん」
多くのファントムの魔導士がやられて倒れている中、ジョゼが軽く手を上げた。
「…なんだ?」
何も起こらない。そう思って油断した背後に迫りくる影に気付くことはなかった。
気配のない魔導士、ファントムの最強と言われるエレメント4の内の一人、アリア。
「か…か…」
「っ!?いつの間に後ろに…!?」
「悲しい!」
何がだ、と突っ込みたいのにそれさえ敵わなかった。
一気にロアの魔力が無くなっていく。吸い取られる、というよりは散らばっていくように体から失われていく光の力。
「ぁ、ああ…っ!」
「アリアさん、ほとほどにして下さいよ…?せっかくの光の力、無にするのはもったいない」
ロアの体は全部ではなくとも魔力が失われたために膝からがくりと倒れ込んだ。自由に体を動かすことが叶わない。
昔は疎んでいた力だったが、体を離れると全てが空になってしまうような感覚。
「狙いは君ではなかったですけどねぇ。我らは常に君を欲しているのですよ」
「っ…卑怯だ…こんなの」
「卑怯?こんなところに一人で来る君の失態でしょうね。過信…とでも言いましょうか」
ぐい、と腕を持ち上げられ、無理やり立たされる。
そこでロアに意識は途切れた。
・・・
その頃、フェアリーテイルでも騒ぎは起こっていた。
フェアリーテイルの魔導士であるレヴィら3人がファントムに襲われ、傷だらけの状態でさらされていた。しかもロアの姿も見えなくなっている。
「戦争だ!」
寛容でいたマカロフも、フェアリーテイルの仲間に手を出されては黙っていなかった。
フェアリーテイルがファントムへ攻め込む。ファントムの領域で、二つのギルドが正面からぶつかり合った。
「おい、ロアをどこにやった!」
「知らねぇなぁ、んなもん」
ナツが相手をしているのは、ファントムのエレメント4の一人である、ガジル。ナツが炎のドラゴンスレイヤーであるに対して、ガジルは鉄のドラゴンスレイヤーだった。
「ロアが来たはずだ!」
「自分で探せばいいだろ」
その間にマカロフは一人でジョゼの元に向かう。ジョゼと戦えるのはマカロフだけ。フェアリーテイルの皆も、マカロフがいるだけで勝利の確信することが出来た。
「…あれは何のマネじゃ、ジョゼ」
マカロフの怒りがファントムのギルド中に伝わっていく。
「これはこれは…お久しぶりです、マカロフさん」
魔力を発しながらジョゼに近づくマカロフの目に、一人の見知った人間の姿が映った。
「…ロア…!?」
「だ、駄目です…マスター、逃げ…」
ジョゼの手がロアの口を抑える。息苦しそうに顏をしかめるロアの様子がおかしいことにはマカロフもすぐに気が付いた。しかし、背後にいるアリアの姿には気付くことがなかった。
ロアの時と同じ。背後に迫るアリアに気付くことが出来ずに魔力を空にされる。
魔力を失ったマカロフは、皆が戦っている一階へ落ちて行った。
誰も予想しなかったマカロフの敗北。ロアの耳にも、フェアリーテイルの困惑する声がたくさん聞こえていた。
「…っ、こんな…酷い」
ロアの横には、同じく捕えられ意識なく頭を下げているルーシィ。完全に、ファントムが欲した者が手に落ちてしまった。
「悔しそうだねぇ…ロアくん」
「…っ」
ナツの声も聞こえてくるのに、皆が戦っているのに、ロアは体さえほとんど動かすことが出来ない。悔しくて、涙が流れた。
背中が痛い。固くて冷たいところに寝かされている。意識はあるのに瞼が重くて…体を動かすのがだるく感じられた。
「ロア!起きてよ、ねぇ…!」
誰かが肩を揺らしている。少しその乱暴な手つきに、動かさないで欲しいと思う頭の隅でその声の主を判別し、はっきりと意識が戻ってきた。
「っ、ルーシィ…!?」
「あぁ、良かった…ロア…」
いつの間にか目を覚ましていたルーシィが、心配そうに覗き込んでいた。そのルーシィの腕が後ろで縛られていて、それは同じようにロアの腕にもされている。
どうやら場所が変わっているようで、今までいた木造のギルドと違い、石でできた床が手に当たっていた。
「ロア、なんだか辛そう…もしかして何かされてる?」
「ん…魔力が、なくて…」
「そ、そんな…」
横になっていたロアは、ルーシィが背中を支えてくれてなんとか起き上ると壁に背を預けた。
「ルーシィは…どうして、狙われてんだ…?」
「それが、私にもわからなくて」
そんなはずないだろ、と言いたいのに、しゃべるのもキツく感じて、ロアは黙ってしまった。
本来なら、ロアがルーシィを守るぐらいが当たり前なのに、むしろ気を遣われるなんて。
悔しさに顏を歪めるていると、かつんと足音が聞こえてきて扉が開いた。
「…ジョゼ」
「お二方とも、お目覚めのようですねぇ」
相変わらずいやらしい顔で笑っているジョゼを二人で睨みつける。
「なんでフェアリーテイルを襲ったの?」
仲が悪いのは聞いていたが、急な攻撃にはルーシィも納得していないようだった。ロアもルーシィが狙いということはわかっているが、その理由までは知らない。ルーシィのした質問の答えを知りたくてジョゼを見つめた。
「ある人物を手に入れる…そのついでですよ、ついで」
「…ある人物?」
「あのハートフィリア家のお嬢さんとは思えないニブさですねぇ」
ルーシィの肩がびくりと震えた。そういえばルーシィのファミリーネームを聞くのは初めてだった。ハートフィリア家。ロアはその名をあまり詳しくは知らなかったが、御曹司であることはなんとなく感じ取った。
「あなたを連れて来るよう依頼されたのは、あなたの父上ですよ」
「え…!?」
「可愛い娘が家出したのなら、探すでしょう、普通」
勝手に話が進められていく。そしてロアが口を挟まずともファントムがフェアリーテイルを襲った理由とルーシィが狙われた理由がわかってしまった。
「ルーシィ…おま、家出って…」
「…ご、ごめん。でもあたし…あんな家帰りたくないの!」
ルーシィの家出で、父親がファントムにルーシィを連れ帰るように依頼した、ということだろう。
ついでにロアがここにいるのはいつも通りの光の力目的、というわけだ。ほとんど体に力なんて残っていないけれど。
二人の会話を聞いていたロアの耳に微かに誰かの声が届いた。
辺りを見渡すと、扉の向こうには外に出れる大きな入口のようなものが見えるが、見える外の景色が空。ここが高い位置にあるのかもしれない。
もう一度呼びかけているように聞こえてきた声、今度は確信出来た、ナツだ。
「ルーシィ、向こう…今なら逃げられる」
「え?」
「逃がすわけがないでしょう」
ルーシィが動く前に、ジョゼがルーシィの腕を掴んだ。もう一度聞こえた声は、ルーシィにも届いたようで、ジョゼから逃れようともがいている。
「離せよ…っ!」
ロアもなんとか動く足で立ち上がると、ジョゼに向かって突っ込んだ。丁度ロアの肩がジョゼの手に当たり、ルーシィの体が離れる。
「ロア…」
「ルーシィ、早く、向こうに…!」
「だから、逃がさないと言っているでしょう」
ロアを振り払ってルーシィの方に向かおうとするジョゼ。ルーシィも掴まるまいと逃げて、開いている壁から飛び降りた。
「ロア!絶対に助けに来るから…!」
だんだんと遠くなる声。動けないロアはどうせ足手まといだ。ルーシィだけでも逃れたのなら、今はそれでいい。
再び冷たい地面に倒れ込んだロアは、ジョゼに髪の毛は引っ張られ壁に押し付けられた。
「っ…」
「いいでしょう…あなたを利用させてもらいますからねぇ」
ずいぶん怒っているようで、口元に常にあった笑みがなくなっている。
「フェアリーテイルも…消してやる」
ぞわ、と背筋に悪寒が走った。そう、こんなナリをしていても、ジョゼはマカロフと並ぶほどの魔導士なのだ。改めて実感し、ロアは恐怖を覚えていた。
・・・
ナツの腕にキャッチされて助かったルーシィは、フェアリーテイルに戻っていた。
そこで、皆がファントムと戦う戦略を練っている。
ルーシィには、それがまた申し訳なかった。自分のわがままでフェアリーテイルを巻き込んでしまったこと、ロアに助けられたこと。
「ごめん…ごめんね、全部あたしのせいなんだ…」
「オ、オイ!どした!?」
あふれ出す涙を抑えられず泣き出すと、周りにいたナツも心配してルーシィの顔を覗き込んだ。
「ロアも…捕まってて、あたしだけ…逃げるなんて」
「ロア!?あそこにいたのか!」
「うん、ロアが…逃がしてくれたの」
ロアの名前を聞いてナツは悔しそうに拳を強く握った。しかし、自分があそこで突っ込んでいてもロアを助けることは出来なかったこと、ジョゼと戦うほど強くないことをわかっているから、余計に悔しいのだ。
「ごめんね…でも、あたしフェアリーテイルにいたいんだ…」
ルーシィはようやく、自分が狙われた原因を話始めた。
自分がハートフィリア家であり、そこから家出してフェアリーテイルに来た。そして父親がファントムに依頼した内容が…自分を連れ帰して欲しいというものだということ。
「…ここにいたいんだろ?ならここにいればいい。お前はフェアリーテイルのルーシィだ」
ナツの言葉にルーシィは更に目に涙を浮かべる。今度のは嬉し涙だった。
急にどしん、という音と共に、ギルドが激しく揺れ始めた。
外だ、という声が聞こえ、ギルドの皆が外に出る。そこに見えたのは、足の生えた建物…六足歩行のファントムロード。
まだ準備中のフェアリーテイルに今度はファントムの方が攻めてきたのだ。
「ギルドが歩いてきた!」
「あれ、魔導集束砲だ!」
すぐにファントムの狙いに気付く。ファントムの入口付近から伸びた大きな銃口は、フェアリーテイルを狙っていた。
「全員伏せろ!私が止める…!」
皆より前に出たエルザが防御特化の鎧に換装する。いくら防御型の鎧とはいえ、魔導集束砲をまともに受ければ無傷ではすまないどころか、死ぬかもしれない。
でも、他にギルドを守る方法はなかった。
「ギルドはやらせん!」
命がけでエルザがギルドを守る。
しかし、ギルドは守られたがエルザも戦える状態ではなくなって、フェアリーテイルの戦力は削られていくばかり。
ロアも、相変わらず姿を見せなかった。
・・・
朦朧とする意識の中、抵抗するのも面倒になって、ロアはジョゼにされるがまま再び場所を移動していた。
部屋に投げ出されると、目の前にはエレメント4のガジル。ナツと同じドラゴンスレイヤーであることで有名だから、ロアも知っていた。
「死なない程度に痛めつけていい、だろ?」
「えぇ、どうぞ」
自分のことを言っているのだろうが、もうどうでも良かった。どうせ力がない以上戦うことも出来ない。
なんでもいい、勝手にしろ。
首にガジルの手が絡みつく。そのまま持ち上げられると壁に打ち付けられ、痛みを感じるが、もはやそれさえもどうでもいい。
傷だけが一つ一つ増えていく。
「おい、泣き叫べよ。面白くねーだろ」
「…うぜぇ」
ナツと同じドラゴンスレイヤーとは思えない。痛みよりも腹が立ってガジルを睨みつけると、ガジルは楽しそうに笑った。
「そうだよなぁ、お前みたいにプライド高そうな奴には、もっと面白い方法がある」
嫌な予感はした。しかし抵抗する力も残っていないロアはガジルによって床にたたきつけられていた。
「ぁ…?」
その手がロアのズボンを脱がそうとしていることに気付くのにはだいぶ時間が必要だった。何故、そんなことをする意味があるのかわからない。
「なぁ…こういうの、楽しいだろ?」
「…!?」
ズボンを下に引かれると、下着も一緒に纏うべき場所を離れた。そこにガジルの冷たい手が触ってきて体が震える。そして身構える余裕もなく無理やり指を突っ込まれた。
「っああ!」
引き裂かれるような痛みが体中に走る。殴られたりする痛みには耐えられたのに、感じたことのない痛みに思わず声が出てしまう。
「いいねぇ、その顔」
「っい、…」
足を無理やり持ち上げられ、露わになった下半身が晒されている。固い指が奥まで入ってきて、それが容赦なく動く度に痛みが増していった。
それなのに、だんだん痛みに慣れていき、変わりに妙な感覚が襲ってきて、急にロアの体が強張った。
「ぅあ…っ」
「お、なんだ、もう良くなってきたのかよ」
「い、…や…っぁ」
同じ場所ばかり突いて来るガジルの指は、間違いなくロアを快楽へ導いていた。頬を紅潮させて喘ぐロアを見ていたファントムの他の連中達も、楽しそうに笑っている。
「ガジルさん譲ってくださいよ」
「そいつ俺もやりたいなぁ」
その声はロアの耳にも届き、恥ずかしさから口を抑えようと動かした手をガジルに掴まれる。
「なぁ、聞いただろ?早くルーシィって奴出さないと、お前らの大好きなロアがまわされるぜ?」
「…!?」
まさか、とロアの目がガジルを見つめる。その困惑の目を見て、ガジルはギヒッと歯をみせて笑ってみせた。
「そ、んな…、いつから…」
「さぁて、いつからかなぁ」
たぶん、最初からずっとだったのだろう。それがわかってしまい、ロアは首を横に振って声を抑えた。というより、抑えたかった。
「もっと声聞かせてやれよ、あいつらに」
「ん…っく、ぁ…」
絶え間ないガジルの指の動きに神経が嫌でも集中してしまう。これがフェアリーテイルの皆に聞こえていると思うと恥ずかしくて、申し訳なくて、苦しかった。
『ルーシィ・ハートフィリアを渡せ。今すぐだ』
歩いてフェアリーテイルの近くまでやってきたファントムから、ジョゼの声が聞こえる。
マカロフもエルザも戦闘不能になった上に、ロアは相手の手に渡っている。更にラクサスは全く協力する様子を見せないどころか、マスターの座を譲れだの言ってばかり。
「仲間を売るぐらいなら、死んだ方がマシだ!」
それでも、フェアリーテイルの意思はゆるがなかった。ルーシィは渡さない。それを口ぐちに訴える。
その時、別の声が聞こえてきた。
『っああ!』
その声は、聞き覚えのある…ロアのものだった。それぞれ、開いていた口が閉じられる。
『ぅあ…っ』
もう一度聞こえたその知っている声の聞いたことのない声に、何が起こっているのかわかってしまった者もいた。口を抑えて、目を大きく見開く。まさか、ロアが。
「や…やめろ…」
ようやく発したナツの声は震えていた。
『なぁ、聞いただろ?早くルーシィって奴出さないと、お前らの大好きなロアがまわされるぜ?』
信じたくなかったことが、この一言で明らかになってしまった。
そして、それで一番思い詰めたのは、ルーシィだった。今回のことの原因であるのに、皆に守られて。ルーシィの心が揺れる。自分が行けば済む話なのではないか…
「ルーシィ、こっちに来て」
「え…!?」
ミラの手がルーシィを引いた。
「隠れ家があるの。戦いが終わるまで、そこにいましょう」
「そんな…あたしのせいでこんなことになってるのに!」
「それは違うわ…皆、この戦いには誇りを持っているのよ」
やられた仲間のため、ルーシィのため。その言葉に心動いたのはルーシィだけではなかった。フェアリーテイルの皆の目の色が変わる。
ルーシィよりもずっと長い付き合いで、また皆の憧れる位置にいたロアを思って、中にはルーシィを差し出すべきなのかと思ってしまった人も中にはいたのだろう。
しかし、再び戦う意思を見せ始める。
「次の発射までは…15分あるんだろ?」
こちらに突き出して発射準備を始めている魔導集束砲。そこを睨んだままナツが言った。
「オレがぶっ壊してくる!それでロアも連れ帰る!」
言ってすぐにナツはハッピーと共に飛んで行った。
外側からの破壊は丈夫に造られているため不可能。ナツは大きく開かれた銃口から内部に入り込んだ。
別の場所からはグレイとエルフマンも乗り込んでいる。フェアリーテイルの反撃開始だった。
・・・
エレメント4の一人、大火の兎兎丸とナツ、大地のソルとエルフマン、大海のジュビアとグレイ。それぞれ苦戦しながらもフェアリーテイルが優勢に戦っていく。
ナツはいち早く兎兎丸諸共、魔導集束砲を破壊することに成功し、奥に進んでいった。
「ロア…畜生、どこだ…」
「ナツ、焦っても仕方ないよ」
「んなことわかってる!」
ハッピーに諭されながらも、苛立ちを抑えることは出来ない。ロアのあんな声を聞かされて、本当は怒りに頭がおかしくなりそうなほどだったのだ。
抑えられない怒りと共に、ナツの体からは炎があふれ出す。
そんな状態のナツに近づいたのは、エレメント4最後の一人、大空のアリア。マカロフとロアがやられた男だった。
「ナツ!またエレメント4だよ」
「あぁ、やってやる…!」
しかし、そのアリアの力は圧倒的で、ナツが一方的にやられる形となっていた。アリアの見えない魔法に成すすべもなく、ナツも背後をとられる。
もう、終わりだ、とハッピーの目に涙が浮かんだとき、アリアの顔に蹴りが入った。
「エルザ!」
魔導砲を全身に受けて動ける体ではなかったはずのエルザがナツの前に立っている。そして、そのエルザの体からはナツでさえぞっとする殺気が放たれていた。
「こいつが…マスターとロアを…」
本気になったエルザの力は更に上をいっていた。マカロフもロアも相手の力を知る前に隙をつかれてやられてしまったが、エルザにとって、知っていれば全く恐るるにたるレベルではなかったのだ。
「つ…つえぇ」
エルザが強いなんて、とうの昔からわかっていたのに、いざ目の前にしてナツは言葉を失っていた。
ナツでもその場に立っていることさえキツイほどのアリアの力を、エルザは剣で断ち切る。そしてそのままアリアに突っ込むとアリアを切り伏せた。それは一瞬のことだった。
エルザの圧倒的な力でアリアを倒したのはいいが、そこでエルザも力尽きてその場に膝をついてしまった。
「エルザ!大丈夫か!?」
「私のことはいい。ナツ、早く行け…おまえは私を超えていく男だ!」
エルザの言葉を受けて、ナツは走り出した。目指すはロアと、そしてガジルだ。
その頃、隠れ家にいたルーシィは再度ガジルの手によって捕えられ、フェアリーテイルの反撃に怒ったジョゼが自ら戦うことを宣言していた。
力を増すファントムの戦力に追い詰められるフェアリーテイル。
しかしその時、マカロフの目も開いていた。
・・・
背中で縛られた腕と足が言うことを聞く気配はない。脱がされたままの下半身がどうしても視界に入ってくるために、ロア目を開けることも出来なかった。
思い出したくもないし、自分がそんな恰好になっているのも見たくない。
「…いてぇ」
お尻が未だに痛む。無理やり突っ込みやがってこの野郎、とでも言えば良かったのにとも思えてくるが、今となっては考えたところで意味もない。
「は…なんだよ、あの声…信じられねぇ」
自分から出た声とは思いたくない、しかもそれがフェアリーテイルの皆の耳にも入っていたと思うと、もう殺してくれと言いたいほどだ。
「まんまと捕まって…マスターも守れない…、最低だ」
何がフェアリーテイルの「光のロア」だ。何がSランクだ。いざという時に何も出来ないんじゃ、そんな称号あったって意味ない。
「俺のばか、ばーか…」
言ったってどうにもならない。でも、どうしても自分を罵倒してやりたかった。
「ロア!どこだ!?」
閉じた目がぱっと開いた。今の声はナツだ。
「…ナ、」
名前を呼ぼうとして、すぐに出しかけた声を止めた。こんな姿を見られてしまっていいのか。見られたいわけがない。誰にも、こんなみっともない姿絶対に見られたくない。
体を丸めて息を抑えた。気付かないでくれと、祈りながら。
「ロア、ここか!?」
ナツの声はどんどん近づいてきていた。どうしてわかってしまうのだろう。ナツは、いつでもこうして来てくれる。いつもはそれが嬉しいのに、今はこんなに嫌に感じられる。
気付くな気付くなと頭の中で何度も祈るのに、ナツは重たい扉を押してしまった。
「ロア…、いるのか?」
「み、…見るな、こっちに来るな…!」
「おい、ロア」
「やめろ…!」
ナツがロアの姿に気付いて息を呑んだ。
目の前にロアのすらっと長い足がさらされている。下半身に何も纏っていない姿は、さっき聞いたロアの声と重なって、一つのことを連想させた。
「ロア…お前」
「何も、言わないでくれ…」
それと同時にロアの呼吸が正常でないことにも気づいて、ナツはロアの体を抱き起こした。
「もしかして…ロアもじじいと同じ…」
「…ごめん、俺…」
「ロアが捕まるなんて、おかしいと思ってたんだ」
気を遣ってくれているのか、何をされたかなどということに関して、ナツは一切触れなかった。それよりも苦しそうに肩を上下に動かすロアの体調を気遣ってくれる。
ロアはナツの体に寄りかかって、顔を見られないようにナツの首元に埋めた。
「いいよ、俺のこと…もう放っておいて…」
「あ!?何言ってんだよ!」
「だって、さ…もう力もないし…あんな、…もう、会わせる顔ない」
男にやられて、喘ぎ声出して。見られて聞かれて、それは全て自分が招いたことだ。
ルーシィのせいで、なんて最初に少し思ってしまったことも自分の嫌な部分をひしひしと感じさせるだけ。
「ナツも、聞いただろ…俺、もう…皆に会えない」
「おい、フェアリーテイル舐めてんのかよ、ロア」
「…」
「ふざけんなよ、ロア。その程度のことでロアを突き放すような奴らだと思ってんのか!?」
「そんなわけ、ない」
「じゃあ、なんでそんなこと言うんだよ!」
「俺が…!恥ずかしいんだ…」
ぎゅっとナツにしがみついて、涼しい足を擦らせた。見ないで欲しいという思いが勝って足が動いてしまう。しかしその行動は逆にナツの視線をそこに置かせてしまった。
「あ、わ、わりぃ…」
「情けねぇ、だろ?」
顔を上げてナツを見ているロアの目は薄ら涙で潤んでいて、ナツは一気に顔を赤くした。その恰好と相まって嫌な想像をしてしまう。
ナツはロアの体を引きはがすと、すっくと立ち上がった。
「ロア…っ、すぐに奴ら倒して助けに来るから!」
「…ナツ」
「んな顏しやがって…帰ったらぶん殴るからな…!」
ばっとナツは飛び出して行った。急に態度を変えたナツに、ロアもついて行けずに眉間にシワを寄せる。
残されたハッピーはちら、とロアを見てけろっとした顔を見せた。
「オイラは猫だからよくわかんないけど…照れ隠しだね、たぶん」
「は、あ…」
ナツを追ってぱたぱたとハッピーも去って行く。
ナツが来そうになった時は来ないでと思ったのに、再び一人取り残されると不安が戻ってきて、ひと肌が恋しくなった。
「ナツ…」
こんな状況なのに、やっぱりナツの体は暖かくて、安心したのだ。
一人になり、冷たい空気が流れる部屋の中。足を丸めて小さくなっていると、再び誰かが近づいてくる音が聞こえてきた。
敵か、味方か。どちらにしてもいいことはない。ロアはごくりと唾を飲んでから、ゆっくり顔を上げた。
「え…?」
扉のところに立っているのはミストガンだった。
意外すぎる人物の登場にロアは茫然としてしまった。ミストガンは人前に出たがらないし、まさかファントムのギルドに乗り込んでくるというような積極的なことをするとは思えない。
「…ロア、お前の魔力を集めてきた」
「ど、いうこと?」
ミストガンの言っていることがよくわからない。ただ、ミストガンは理屈抜きに信用出来る気がして、ロアは身を任せることにした。
ミストガンが、ロアに向けて手をかざす。 何故だか緊張して、ロアは目を閉じて事が終わるのを待った。
目を閉じている間に、どんどん体に自分の力が戻ってくる。ミストガンの手の暖かさと、戻ってくる自分の光に、体は安堵に包まれていった。
「これで、全部だ」
「ありがとう、すごく…楽になってきた」
ミストガンはこのために、わざわざ来てくれたんだ。アリアの技によって散らばったロアの魔力は全てロアの体に戻った。
ようやく楽になってきた呼吸で、息を大きく吸う。そうすると、今度は拘束された手と足が気になって、ちらっとミストガンを見た。
「あの…これ、切ってもらえると更に…有難いんだけど…」
「あぁ…。その前に、ここの処理、したくないか?」
ここ、とミストガンが指さしたのは…服を被せて隠そうとしているが、隠しきれないくらい大きくなっている…ロアの股間。
「え、い…いやいや、そんな、何考えて…」
「大丈夫だ、私に任せろ」
「ばっ、そんな、必要な、あっ」
手袋をつけているミストガンの手が、ロアのペニスをためらいなく包み込んだ。柔らかく緩く、撫でられるような感覚に体がびりびり痺れていく。
普段のミストガンの姿からは想像出来ない、というかしたくない。一緒に修業をつんだ、いつも頭を撫でてくれたあの手が、自分の一物握っているなんて。
「う、あっ…や、め…!」
「すぐ楽になるからな」
「は、恥ずかし…からっ、これ、解けよ…!」
腕と足の拘束があるせいで、変な気分になってくる。ミストガンに襲われているような、犯されているような。でも、その手がいつもと同じように優しいから、頭がおかしくなる。
「ああ…も、出そ…っ」
「ロア」
「っん…ぁあ、離せっ、て…!」
「…可愛いな、お前は」
ぼそ、と囁かれたミストガンの言葉が耳の奥にまで響いてきた。低くて優しい声でそんなこと言うなんて、ずるい。
「やっ…ここ、ファントムだし、んあっ」
「大丈夫だ、この辺りにいた奴らは全員倒した」
「そ、いう問題、違ッ、ん、く…ぁあっ」
ロアの体が大きく反って、精液はミストガンの手袋の中に吐き出された。
魔力がなかった時よりも、顔が熱くて、息が荒い。いつの間にか拘束は解かれていて、ロアは自分の顔を手で覆った。恥ずかしい、さすがにこれは恥ずかしすぎる。
それに対してミストガンは、何もなかったかのように手袋をはずし、自分のマントをはぎ取るとロアの腰に縛り付けた。
「あぁ…も、どうなってんだよ…」
「ロア、私はもう戻るが…どうする?」
「こ、こんな恰好で…戦いに参加しろって言うのか?」
「…いや、それはさせられない」
ミストガンはひょい、とロアを抱き上げるとそのまま壁を壊して外に出た。
そういえば、どうやって入ってきたのだろうかなどと考えながらも、ロアはミストガンの手の感触を思い出して再び顔を覆うのだった。
・・・
外に出ると、ロアはミストガンによって静かに地面に降ろされた。
「…私のすることは終わった」
「え、あ…」
ロアに何か言う隙も与えず、ミストガンはふっと姿を消してしまった。すーすーと風が通り抜ける下半身を意識すると、またいろんなことを思い出してしまい顏が熱くなる。
今日だけで二人の男にケツを触られるってどういうことなんだ。
「あぁ…、情けなすぎる…」
「おい、ロアか!?」
頭を抱えた瞬間、名前を呼ばれて顏を上げると、グレイの姿があった。ミストガンがグレイの近くに降ろしてくれたのか真意はわからないが、ロアはほっと息を吐いた。
「良かった…グレイ、ズボン穿いてる」
「は?」
「ズボン貸してくれないか?」
グレイはロアの腰に巻かれたマントを凝視して、それから顔を真っ赤に染めた。
マントの下は何も身に着けられていないことを感じ取り、そして聞いてしまったロアの甘い声を思い出してしまったのだ。
「お、お前…その、体は平気なのかよ」
「もう大丈夫だよ。それより、早くズボン!脱いで!」
「お、おう」
急かされて脱いだグレイのズボンを穿いて、ロアはファントムとフェアリーテイルの両方を見据えた。
ファントムにはガジルやジョゼなど強い魔導士が残っている。しかし、フェアリーテイルは今にもギルドが崩れそうで…
どちらの援護に行くか考えていると、どん、という音と共に、ファントムの壁の一部が崩れて、そこからナツが飛ばされて出て来た。ぼろぼろになったナツは、そのまま動く様子がない。
「っ!…グレイ、ごめん俺…ちょっと行ってくる…!」
「あ、おい!」
パンツ一丁になってしまったグレイを置いて、ロアはナツの元に向かって光を伸ばした。
よたよたと立ち上がるも前に倒れそうになっているナツの体を早く受け止めてあげたくて、支えたくて、ロアは手を伸ばした。
「ナツ!」
体を滑り込ませて、倒れる前のナツを抱きとめる。
ナツは、息をするのもやっとの状態だった。傷だらけで、魔力もほとんど残っていない。
「あ?お前、いつの間に抜け出したんだ?」
「…ガジル、てめぇか」
ナツの背後に立っているのはガジルだった。そのガジルも傷を負っているが、息は全然上がっていない。ナツが、同じドラゴンスレイヤーであるのに、圧倒されたとでもいうのか。
「…許さねぇぞ、お前」
「なんだ?またケツの穴広げて欲しいのか?」
「糞野郎…」
ロアの体から抑えきれない怒りが光になってあふれ出す。ガジルはあまりにも、フェアリーテイルに手を出しすぎた。
ナツを支えたままで、ロアはガジルの方に手をやった。ロアの攻撃に距離は関係ない。そのままガジルを吹っ飛ばすつもりで魔力を集中させた。
しかし、そのガジルに向けた手を、ナツが掴んで制した。
「邪魔…すんな…」
「はぁ!?何言ってんだよ!」
「許せねぇ…ロアに、汚ねぇ手で…触りやがった…」
ロアの肩に掴まりながら、ナツはゆっくり立ち上がった。後ろでは、フェアリーテイルが、ギルドが崩れていく音が聞こえる。それでもナツはじっとガジルにだけ目を向けて振り返らなかった。
「ロア…頼む」
「…わかったよ」
ロアは一度深呼吸して落ち着きを取り戻すと、指先に光をため込んで、一気に吐き出した。それをギルドの破片である木に当てれば、ロアの全力で発した光は木を燃やして炎を生み出す。
昔から、ロアとナツが共に行動することが多い理由の一つだ。光は炎になり、炎は光になる。二人は共にいることで、お互いを強める役割も持っていたのだった。
炎を口にしたナツは力を取り戻した。それだけではない、ナツは今本気で怒っていた。
正面から突っ込んできたガジルをぶん殴る。鉄の体であるガジルを傷つけるだけで精一杯だった先ほどまでとは違う。一発でガジルをひるませた。
「てめぇは…どれだけのものをキズつければ気が済むんだ!」
「バカな…!火を食ったくれーで…このオレがこんな奴に…!」
「フェアリーテイルに手を出したのが間違いだったな!」
何発も、ガジルの体にナツの拳が入る。それは、ファントムのギルドを巻き込んで、全てを壊していった。
マカロフの復活、ロアの復活、そしてナツの復活。この時点でフェアリーテイルの勝利は決まっていたのだ。ナツによってファントムもろともガジルが倒される。その頃、ファントムのマスター、ジョゼもマカロフに圧倒されていた。
強大な魔力がファントムを中心に発せられる。その勢いに転げたナツをロアが抱き留めると、ナツは笑っていた。
「だ、大丈夫!?」
そこにナツによって助け出されていたルーシィが駆けつける。
「あぁ…これは、もう大丈夫だな」
「こんな魔力はじっちゃんしかいねぇ」
笑い合う二人を見て不思議そうな顔をするルーシィの髪も、魔力で吹き上がった。全ての敵を排除する、マカロフの技、フェアリーロウが発動している。もう、フェアリーテイルに怖いものはなかった。
・・・
ファントムを倒し、全て終わった後。
ロアはナツの後ろにぴったりとくっ付いて離れなかった。自分より背の低いナツの後ろで、体を小さくして。
「…ロア」
「な…何?」
「離れろよ」
「…や、やだ…」
皆に会わせる顔がない。そのことを忘れたわけではない。
さっきは穿くもの欲しさにグレイに普通に話しかけてしまったが、思い出して恥ずかしさから穴に入りたいような気持ちに陥ってしまった。
「誰も気にしねぇって」
「そりゃそうかもだけど…!俺が嫌なんだって!」
「ロア…」
確かに今でもロアの声を思い出せば、ナツだって暴れ足りないくらい腹立たしい。しかしそれはファントムへの怒りであって、ロアをどうとは思わない。なんとも思わないわけではないが、それはまた別の話で。
「抱きてぇ…とは思うかもしんねぇけど」
「何?なんか言った?」
「大丈夫だ!ロアはオレが絶対ぇ守る…、あ!」
急にナツが大きな声を出すので何かとロアが少しナツの表情を確認しようとすると、ナツの方がばっと振り返った。
「オレを待たないで勝手にファントムに行ったのは、許せねぇ」
一発殴る約束、とナツが拳を作った。しかし、それにはロアも反論したいことがある。
「そもそも、Sランクなんかに行きやがるナツが悪いんだろ?俺に黙ってさ」
「それは…ロアに言ったら意味ねぇから」
「なんでだよ」
「オレは、ロアに追いつきたくて…」
ナツはロアに追いつきたくて、ロアに黙ってSランクに行った。しかしその間にフェアリーテイルは襲われて、ロアは一人で突っ込んで捕まって。
結局のところ、どっちが悪いか、ということもなかった。
「お互い様…か」
「そ…だな。ロア、ごめん」
「いや、俺こそ…無茶してごめん…」
と、二人が謝り合ったからといってロアの悩みが解決するわけでもない。
皆に顏を見せるのは恥ずかしくて、逃げてしまいたい。皆がいる方に近づくにつれてその思いは募って、ロアは落ち着かずナツの後ろできょろきょろとしていた。
「ロア…ごめんね」
「…ルーシィ?」
後ろから、服を掴まれて振り返ると、ルーシィが俯いていた。
「私のせいで…ロアに、辛い思い…させることになって…」
「え、いや…ルーシィのせいじゃ…」
ロアがルーシィの言葉をはっきりと否定出来ないのは、一瞬でも、ルーシィのせいだと思ってしまったからだ。
でも、ルーシィは悪くない。悪いのはファントムと、父親くらいのこと。
「ほら、俺ぴんぴんしてるだろ?」
「でも…」
ロアはナツから離れて、ちゃんとルーシィと目を合わせた。
「フェアリーテイルは家族だもんな、助け合って当たり前。ルーシィだって、その一人なんだから、迷惑かけるのも当たり前。それを俺達が助けるのも…」
な、とナツに視線を送ると、ナツもにっと笑ってみせた。ロアとナツだけじゃない、マカロフも皆も、同じように思っていた。
楽しいこと、悲しいこと、共有し合って、一人のために皆が動く。それがギルドだ。
「ギルド、潰れちゃったけどさ、また皆で造る楽しみが出来たんだぜ?わくわくするよな」
ロアの部屋も完全に形を失っている。何年も過ごしてきたギルドは無くなってしまったけど、全てが失われたわけじゃない。
「って…まんまとやられた俺が堂々と言えることじゃないかもだけど…」
「ほんと!ロアのせいで変な性癖目覚めそうだったよ」
急に会話に混ざった声はレビィのものだった。ギルドの方から近づいてきたレビィは笑いながらルーシィの肩に手を乗せる。その台詞にロアは愕然としてしまったが、恥ずかしくはなかった。
「私も心配かけて、ごめんね。ルーちゃん」
いつの間にか周りに集まってきていたフェアリーテイルの皆が、笑ってルーシィを見ている。ルーシィを責める者など一人もいなかった。
ルーシィも自分を責めることをしなくなって、無事、この事件は完結した。
残った問題があるとすれば、暴れすぎたために、評議員からの処分は免れないこと。そして、ロアに対する見る目が変わった人間が明らかに存在していること。
「ロア、なるべくフェアリーテイルでも一人にはなるなよ!」
「え、いや…まぁ一人になることなんて部屋にいない限りないと思うけど…」
それは、ナツを妙に過保護な人間に変えていた。そして、ナツのロアに対する感情にも…それなりに変化は生じていたのだった。
ロアを囲むようにずらりとファントムに属する者たちが並んでいる。
ミラには我慢しろなどと言われたが、我慢なんて出来るはずもなく、ロアは一人でファントムに乗り込んでいた。
「まさか俺が狙いじゃねぇよな」
ファントムによるフェアリーテイルへの攻撃。ロアを狙うなら強くなった今になってからでなく、まだ力をつける前に連れ去ってしまえば良い。このタイミングでロアを狙う意味などないはずなのだ。
「そのような狙われる可能性のある「光のロア」が…どうして一人で来たのでしょうねぇ」
「てめぇらが…俺の部屋ぶっ壊してくれたからだよ」
と言いながらも、自分の存在がフェアリーテイルを壊したことに繋がったのなら…と思うと動かずにはいられなかったというのが本音だ。ロアのキレた時の行動力は、恐らくナツをも上回る。
「君の想像通り…狙いは君じゃないですよ」
「…だからって、なんの意味もなく攻撃したわけじゃねぇだろ…」
「どうでしょうねぇ」
終始にやにやと笑っている男はファントム、正式名称ファントムロードのギルドマスター、ジョゼだ。
マスターの地位につくとは思えないほど、マカロフと比べても決して強い魔導士には見えない風貌だが、その実力はマカロフと同等…聖十大魔道と呼ばれる魔導士の一人である。
「フェアリーテイルには最近変化があったのでは?」
「…変化?」
「我らが動いたのには、ちゃんと理由があるのですよ」
「…最近…新しいメンバーは入ったけど」
最近の変化と言ったらルーシィが入ってきた、ということくらしか思い浮かばない。ルーシィのせいでロアの生活も確かに変化はあったが、ファントムとは全く繋がらない。
しかし、何気なく口にしたロアの言葉に、ジョゼの口元は更に吊り上っていた。
「…!?まさか、ルーシィ…?」
急に周りの魔導士たちの空気が変わった。理由はわからないが、どうやらファントムの狙いはルーシィで間違いないようだ。
じりじりと少しすつ近づいてくる奴らにロアも体から光を放つ。
「やるってんならやるぜ…?俺はこれでも、フェアリーテイルの魔導士だ」
雑魚たちをなぎ倒すように、ロアは光の剣を振り回した。
一気に何人ものファントムの魔導士が倒れていく。
自由自在の見えない剣は長さも形も変えて敵を仕留めていった。
「おいおい、この程度かよファントム!」
「…仕方ないですねぇ。アリアさん」
多くのファントムの魔導士がやられて倒れている中、ジョゼが軽く手を上げた。
「…なんだ?」
何も起こらない。そう思って油断した背後に迫りくる影に気付くことはなかった。
気配のない魔導士、ファントムの最強と言われるエレメント4の内の一人、アリア。
「か…か…」
「っ!?いつの間に後ろに…!?」
「悲しい!」
何がだ、と突っ込みたいのにそれさえ敵わなかった。
一気にロアの魔力が無くなっていく。吸い取られる、というよりは散らばっていくように体から失われていく光の力。
「ぁ、ああ…っ!」
「アリアさん、ほとほどにして下さいよ…?せっかくの光の力、無にするのはもったいない」
ロアの体は全部ではなくとも魔力が失われたために膝からがくりと倒れ込んだ。自由に体を動かすことが叶わない。
昔は疎んでいた力だったが、体を離れると全てが空になってしまうような感覚。
「狙いは君ではなかったですけどねぇ。我らは常に君を欲しているのですよ」
「っ…卑怯だ…こんなの」
「卑怯?こんなところに一人で来る君の失態でしょうね。過信…とでも言いましょうか」
ぐい、と腕を持ち上げられ、無理やり立たされる。
そこでロアに意識は途切れた。
・・・
その頃、フェアリーテイルでも騒ぎは起こっていた。
フェアリーテイルの魔導士であるレヴィら3人がファントムに襲われ、傷だらけの状態でさらされていた。しかもロアの姿も見えなくなっている。
「戦争だ!」
寛容でいたマカロフも、フェアリーテイルの仲間に手を出されては黙っていなかった。
フェアリーテイルがファントムへ攻め込む。ファントムの領域で、二つのギルドが正面からぶつかり合った。
「おい、ロアをどこにやった!」
「知らねぇなぁ、んなもん」
ナツが相手をしているのは、ファントムのエレメント4の一人である、ガジル。ナツが炎のドラゴンスレイヤーであるに対して、ガジルは鉄のドラゴンスレイヤーだった。
「ロアが来たはずだ!」
「自分で探せばいいだろ」
その間にマカロフは一人でジョゼの元に向かう。ジョゼと戦えるのはマカロフだけ。フェアリーテイルの皆も、マカロフがいるだけで勝利の確信することが出来た。
「…あれは何のマネじゃ、ジョゼ」
マカロフの怒りがファントムのギルド中に伝わっていく。
「これはこれは…お久しぶりです、マカロフさん」
魔力を発しながらジョゼに近づくマカロフの目に、一人の見知った人間の姿が映った。
「…ロア…!?」
「だ、駄目です…マスター、逃げ…」
ジョゼの手がロアの口を抑える。息苦しそうに顏をしかめるロアの様子がおかしいことにはマカロフもすぐに気が付いた。しかし、背後にいるアリアの姿には気付くことがなかった。
ロアの時と同じ。背後に迫るアリアに気付くことが出来ずに魔力を空にされる。
魔力を失ったマカロフは、皆が戦っている一階へ落ちて行った。
誰も予想しなかったマカロフの敗北。ロアの耳にも、フェアリーテイルの困惑する声がたくさん聞こえていた。
「…っ、こんな…酷い」
ロアの横には、同じく捕えられ意識なく頭を下げているルーシィ。完全に、ファントムが欲した者が手に落ちてしまった。
「悔しそうだねぇ…ロアくん」
「…っ」
ナツの声も聞こえてくるのに、皆が戦っているのに、ロアは体さえほとんど動かすことが出来ない。悔しくて、涙が流れた。
背中が痛い。固くて冷たいところに寝かされている。意識はあるのに瞼が重くて…体を動かすのがだるく感じられた。
「ロア!起きてよ、ねぇ…!」
誰かが肩を揺らしている。少しその乱暴な手つきに、動かさないで欲しいと思う頭の隅でその声の主を判別し、はっきりと意識が戻ってきた。
「っ、ルーシィ…!?」
「あぁ、良かった…ロア…」
いつの間にか目を覚ましていたルーシィが、心配そうに覗き込んでいた。そのルーシィの腕が後ろで縛られていて、それは同じようにロアの腕にもされている。
どうやら場所が変わっているようで、今までいた木造のギルドと違い、石でできた床が手に当たっていた。
「ロア、なんだか辛そう…もしかして何かされてる?」
「ん…魔力が、なくて…」
「そ、そんな…」
横になっていたロアは、ルーシィが背中を支えてくれてなんとか起き上ると壁に背を預けた。
「ルーシィは…どうして、狙われてんだ…?」
「それが、私にもわからなくて」
そんなはずないだろ、と言いたいのに、しゃべるのもキツく感じて、ロアは黙ってしまった。
本来なら、ロアがルーシィを守るぐらいが当たり前なのに、むしろ気を遣われるなんて。
悔しさに顏を歪めるていると、かつんと足音が聞こえてきて扉が開いた。
「…ジョゼ」
「お二方とも、お目覚めのようですねぇ」
相変わらずいやらしい顔で笑っているジョゼを二人で睨みつける。
「なんでフェアリーテイルを襲ったの?」
仲が悪いのは聞いていたが、急な攻撃にはルーシィも納得していないようだった。ロアもルーシィが狙いということはわかっているが、その理由までは知らない。ルーシィのした質問の答えを知りたくてジョゼを見つめた。
「ある人物を手に入れる…そのついでですよ、ついで」
「…ある人物?」
「あのハートフィリア家のお嬢さんとは思えないニブさですねぇ」
ルーシィの肩がびくりと震えた。そういえばルーシィのファミリーネームを聞くのは初めてだった。ハートフィリア家。ロアはその名をあまり詳しくは知らなかったが、御曹司であることはなんとなく感じ取った。
「あなたを連れて来るよう依頼されたのは、あなたの父上ですよ」
「え…!?」
「可愛い娘が家出したのなら、探すでしょう、普通」
勝手に話が進められていく。そしてロアが口を挟まずともファントムがフェアリーテイルを襲った理由とルーシィが狙われた理由がわかってしまった。
「ルーシィ…おま、家出って…」
「…ご、ごめん。でもあたし…あんな家帰りたくないの!」
ルーシィの家出で、父親がファントムにルーシィを連れ帰るように依頼した、ということだろう。
ついでにロアがここにいるのはいつも通りの光の力目的、というわけだ。ほとんど体に力なんて残っていないけれど。
二人の会話を聞いていたロアの耳に微かに誰かの声が届いた。
辺りを見渡すと、扉の向こうには外に出れる大きな入口のようなものが見えるが、見える外の景色が空。ここが高い位置にあるのかもしれない。
もう一度呼びかけているように聞こえてきた声、今度は確信出来た、ナツだ。
「ルーシィ、向こう…今なら逃げられる」
「え?」
「逃がすわけがないでしょう」
ルーシィが動く前に、ジョゼがルーシィの腕を掴んだ。もう一度聞こえた声は、ルーシィにも届いたようで、ジョゼから逃れようともがいている。
「離せよ…っ!」
ロアもなんとか動く足で立ち上がると、ジョゼに向かって突っ込んだ。丁度ロアの肩がジョゼの手に当たり、ルーシィの体が離れる。
「ロア…」
「ルーシィ、早く、向こうに…!」
「だから、逃がさないと言っているでしょう」
ロアを振り払ってルーシィの方に向かおうとするジョゼ。ルーシィも掴まるまいと逃げて、開いている壁から飛び降りた。
「ロア!絶対に助けに来るから…!」
だんだんと遠くなる声。動けないロアはどうせ足手まといだ。ルーシィだけでも逃れたのなら、今はそれでいい。
再び冷たい地面に倒れ込んだロアは、ジョゼに髪の毛は引っ張られ壁に押し付けられた。
「っ…」
「いいでしょう…あなたを利用させてもらいますからねぇ」
ずいぶん怒っているようで、口元に常にあった笑みがなくなっている。
「フェアリーテイルも…消してやる」
ぞわ、と背筋に悪寒が走った。そう、こんなナリをしていても、ジョゼはマカロフと並ぶほどの魔導士なのだ。改めて実感し、ロアは恐怖を覚えていた。
・・・
ナツの腕にキャッチされて助かったルーシィは、フェアリーテイルに戻っていた。
そこで、皆がファントムと戦う戦略を練っている。
ルーシィには、それがまた申し訳なかった。自分のわがままでフェアリーテイルを巻き込んでしまったこと、ロアに助けられたこと。
「ごめん…ごめんね、全部あたしのせいなんだ…」
「オ、オイ!どした!?」
あふれ出す涙を抑えられず泣き出すと、周りにいたナツも心配してルーシィの顔を覗き込んだ。
「ロアも…捕まってて、あたしだけ…逃げるなんて」
「ロア!?あそこにいたのか!」
「うん、ロアが…逃がしてくれたの」
ロアの名前を聞いてナツは悔しそうに拳を強く握った。しかし、自分があそこで突っ込んでいてもロアを助けることは出来なかったこと、ジョゼと戦うほど強くないことをわかっているから、余計に悔しいのだ。
「ごめんね…でも、あたしフェアリーテイルにいたいんだ…」
ルーシィはようやく、自分が狙われた原因を話始めた。
自分がハートフィリア家であり、そこから家出してフェアリーテイルに来た。そして父親がファントムに依頼した内容が…自分を連れ帰して欲しいというものだということ。
「…ここにいたいんだろ?ならここにいればいい。お前はフェアリーテイルのルーシィだ」
ナツの言葉にルーシィは更に目に涙を浮かべる。今度のは嬉し涙だった。
急にどしん、という音と共に、ギルドが激しく揺れ始めた。
外だ、という声が聞こえ、ギルドの皆が外に出る。そこに見えたのは、足の生えた建物…六足歩行のファントムロード。
まだ準備中のフェアリーテイルに今度はファントムの方が攻めてきたのだ。
「ギルドが歩いてきた!」
「あれ、魔導集束砲だ!」
すぐにファントムの狙いに気付く。ファントムの入口付近から伸びた大きな銃口は、フェアリーテイルを狙っていた。
「全員伏せろ!私が止める…!」
皆より前に出たエルザが防御特化の鎧に換装する。いくら防御型の鎧とはいえ、魔導集束砲をまともに受ければ無傷ではすまないどころか、死ぬかもしれない。
でも、他にギルドを守る方法はなかった。
「ギルドはやらせん!」
命がけでエルザがギルドを守る。
しかし、ギルドは守られたがエルザも戦える状態ではなくなって、フェアリーテイルの戦力は削られていくばかり。
ロアも、相変わらず姿を見せなかった。
・・・
朦朧とする意識の中、抵抗するのも面倒になって、ロアはジョゼにされるがまま再び場所を移動していた。
部屋に投げ出されると、目の前にはエレメント4のガジル。ナツと同じドラゴンスレイヤーであることで有名だから、ロアも知っていた。
「死なない程度に痛めつけていい、だろ?」
「えぇ、どうぞ」
自分のことを言っているのだろうが、もうどうでも良かった。どうせ力がない以上戦うことも出来ない。
なんでもいい、勝手にしろ。
首にガジルの手が絡みつく。そのまま持ち上げられると壁に打ち付けられ、痛みを感じるが、もはやそれさえもどうでもいい。
傷だけが一つ一つ増えていく。
「おい、泣き叫べよ。面白くねーだろ」
「…うぜぇ」
ナツと同じドラゴンスレイヤーとは思えない。痛みよりも腹が立ってガジルを睨みつけると、ガジルは楽しそうに笑った。
「そうだよなぁ、お前みたいにプライド高そうな奴には、もっと面白い方法がある」
嫌な予感はした。しかし抵抗する力も残っていないロアはガジルによって床にたたきつけられていた。
「ぁ…?」
その手がロアのズボンを脱がそうとしていることに気付くのにはだいぶ時間が必要だった。何故、そんなことをする意味があるのかわからない。
「なぁ…こういうの、楽しいだろ?」
「…!?」
ズボンを下に引かれると、下着も一緒に纏うべき場所を離れた。そこにガジルの冷たい手が触ってきて体が震える。そして身構える余裕もなく無理やり指を突っ込まれた。
「っああ!」
引き裂かれるような痛みが体中に走る。殴られたりする痛みには耐えられたのに、感じたことのない痛みに思わず声が出てしまう。
「いいねぇ、その顔」
「っい、…」
足を無理やり持ち上げられ、露わになった下半身が晒されている。固い指が奥まで入ってきて、それが容赦なく動く度に痛みが増していった。
それなのに、だんだん痛みに慣れていき、変わりに妙な感覚が襲ってきて、急にロアの体が強張った。
「ぅあ…っ」
「お、なんだ、もう良くなってきたのかよ」
「い、…や…っぁ」
同じ場所ばかり突いて来るガジルの指は、間違いなくロアを快楽へ導いていた。頬を紅潮させて喘ぐロアを見ていたファントムの他の連中達も、楽しそうに笑っている。
「ガジルさん譲ってくださいよ」
「そいつ俺もやりたいなぁ」
その声はロアの耳にも届き、恥ずかしさから口を抑えようと動かした手をガジルに掴まれる。
「なぁ、聞いただろ?早くルーシィって奴出さないと、お前らの大好きなロアがまわされるぜ?」
「…!?」
まさか、とロアの目がガジルを見つめる。その困惑の目を見て、ガジルはギヒッと歯をみせて笑ってみせた。
「そ、んな…、いつから…」
「さぁて、いつからかなぁ」
たぶん、最初からずっとだったのだろう。それがわかってしまい、ロアは首を横に振って声を抑えた。というより、抑えたかった。
「もっと声聞かせてやれよ、あいつらに」
「ん…っく、ぁ…」
絶え間ないガジルの指の動きに神経が嫌でも集中してしまう。これがフェアリーテイルの皆に聞こえていると思うと恥ずかしくて、申し訳なくて、苦しかった。
『ルーシィ・ハートフィリアを渡せ。今すぐだ』
歩いてフェアリーテイルの近くまでやってきたファントムから、ジョゼの声が聞こえる。
マカロフもエルザも戦闘不能になった上に、ロアは相手の手に渡っている。更にラクサスは全く協力する様子を見せないどころか、マスターの座を譲れだの言ってばかり。
「仲間を売るぐらいなら、死んだ方がマシだ!」
それでも、フェアリーテイルの意思はゆるがなかった。ルーシィは渡さない。それを口ぐちに訴える。
その時、別の声が聞こえてきた。
『っああ!』
その声は、聞き覚えのある…ロアのものだった。それぞれ、開いていた口が閉じられる。
『ぅあ…っ』
もう一度聞こえたその知っている声の聞いたことのない声に、何が起こっているのかわかってしまった者もいた。口を抑えて、目を大きく見開く。まさか、ロアが。
「や…やめろ…」
ようやく発したナツの声は震えていた。
『なぁ、聞いただろ?早くルーシィって奴出さないと、お前らの大好きなロアがまわされるぜ?』
信じたくなかったことが、この一言で明らかになってしまった。
そして、それで一番思い詰めたのは、ルーシィだった。今回のことの原因であるのに、皆に守られて。ルーシィの心が揺れる。自分が行けば済む話なのではないか…
「ルーシィ、こっちに来て」
「え…!?」
ミラの手がルーシィを引いた。
「隠れ家があるの。戦いが終わるまで、そこにいましょう」
「そんな…あたしのせいでこんなことになってるのに!」
「それは違うわ…皆、この戦いには誇りを持っているのよ」
やられた仲間のため、ルーシィのため。その言葉に心動いたのはルーシィだけではなかった。フェアリーテイルの皆の目の色が変わる。
ルーシィよりもずっと長い付き合いで、また皆の憧れる位置にいたロアを思って、中にはルーシィを差し出すべきなのかと思ってしまった人も中にはいたのだろう。
しかし、再び戦う意思を見せ始める。
「次の発射までは…15分あるんだろ?」
こちらに突き出して発射準備を始めている魔導集束砲。そこを睨んだままナツが言った。
「オレがぶっ壊してくる!それでロアも連れ帰る!」
言ってすぐにナツはハッピーと共に飛んで行った。
外側からの破壊は丈夫に造られているため不可能。ナツは大きく開かれた銃口から内部に入り込んだ。
別の場所からはグレイとエルフマンも乗り込んでいる。フェアリーテイルの反撃開始だった。
・・・
エレメント4の一人、大火の兎兎丸とナツ、大地のソルとエルフマン、大海のジュビアとグレイ。それぞれ苦戦しながらもフェアリーテイルが優勢に戦っていく。
ナツはいち早く兎兎丸諸共、魔導集束砲を破壊することに成功し、奥に進んでいった。
「ロア…畜生、どこだ…」
「ナツ、焦っても仕方ないよ」
「んなことわかってる!」
ハッピーに諭されながらも、苛立ちを抑えることは出来ない。ロアのあんな声を聞かされて、本当は怒りに頭がおかしくなりそうなほどだったのだ。
抑えられない怒りと共に、ナツの体からは炎があふれ出す。
そんな状態のナツに近づいたのは、エレメント4最後の一人、大空のアリア。マカロフとロアがやられた男だった。
「ナツ!またエレメント4だよ」
「あぁ、やってやる…!」
しかし、そのアリアの力は圧倒的で、ナツが一方的にやられる形となっていた。アリアの見えない魔法に成すすべもなく、ナツも背後をとられる。
もう、終わりだ、とハッピーの目に涙が浮かんだとき、アリアの顔に蹴りが入った。
「エルザ!」
魔導砲を全身に受けて動ける体ではなかったはずのエルザがナツの前に立っている。そして、そのエルザの体からはナツでさえぞっとする殺気が放たれていた。
「こいつが…マスターとロアを…」
本気になったエルザの力は更に上をいっていた。マカロフもロアも相手の力を知る前に隙をつかれてやられてしまったが、エルザにとって、知っていれば全く恐るるにたるレベルではなかったのだ。
「つ…つえぇ」
エルザが強いなんて、とうの昔からわかっていたのに、いざ目の前にしてナツは言葉を失っていた。
ナツでもその場に立っていることさえキツイほどのアリアの力を、エルザは剣で断ち切る。そしてそのままアリアに突っ込むとアリアを切り伏せた。それは一瞬のことだった。
エルザの圧倒的な力でアリアを倒したのはいいが、そこでエルザも力尽きてその場に膝をついてしまった。
「エルザ!大丈夫か!?」
「私のことはいい。ナツ、早く行け…おまえは私を超えていく男だ!」
エルザの言葉を受けて、ナツは走り出した。目指すはロアと、そしてガジルだ。
その頃、隠れ家にいたルーシィは再度ガジルの手によって捕えられ、フェアリーテイルの反撃に怒ったジョゼが自ら戦うことを宣言していた。
力を増すファントムの戦力に追い詰められるフェアリーテイル。
しかしその時、マカロフの目も開いていた。
・・・
背中で縛られた腕と足が言うことを聞く気配はない。脱がされたままの下半身がどうしても視界に入ってくるために、ロア目を開けることも出来なかった。
思い出したくもないし、自分がそんな恰好になっているのも見たくない。
「…いてぇ」
お尻が未だに痛む。無理やり突っ込みやがってこの野郎、とでも言えば良かったのにとも思えてくるが、今となっては考えたところで意味もない。
「は…なんだよ、あの声…信じられねぇ」
自分から出た声とは思いたくない、しかもそれがフェアリーテイルの皆の耳にも入っていたと思うと、もう殺してくれと言いたいほどだ。
「まんまと捕まって…マスターも守れない…、最低だ」
何がフェアリーテイルの「光のロア」だ。何がSランクだ。いざという時に何も出来ないんじゃ、そんな称号あったって意味ない。
「俺のばか、ばーか…」
言ったってどうにもならない。でも、どうしても自分を罵倒してやりたかった。
「ロア!どこだ!?」
閉じた目がぱっと開いた。今の声はナツだ。
「…ナ、」
名前を呼ぼうとして、すぐに出しかけた声を止めた。こんな姿を見られてしまっていいのか。見られたいわけがない。誰にも、こんなみっともない姿絶対に見られたくない。
体を丸めて息を抑えた。気付かないでくれと、祈りながら。
「ロア、ここか!?」
ナツの声はどんどん近づいてきていた。どうしてわかってしまうのだろう。ナツは、いつでもこうして来てくれる。いつもはそれが嬉しいのに、今はこんなに嫌に感じられる。
気付くな気付くなと頭の中で何度も祈るのに、ナツは重たい扉を押してしまった。
「ロア…、いるのか?」
「み、…見るな、こっちに来るな…!」
「おい、ロア」
「やめろ…!」
ナツがロアの姿に気付いて息を呑んだ。
目の前にロアのすらっと長い足がさらされている。下半身に何も纏っていない姿は、さっき聞いたロアの声と重なって、一つのことを連想させた。
「ロア…お前」
「何も、言わないでくれ…」
それと同時にロアの呼吸が正常でないことにも気づいて、ナツはロアの体を抱き起こした。
「もしかして…ロアもじじいと同じ…」
「…ごめん、俺…」
「ロアが捕まるなんて、おかしいと思ってたんだ」
気を遣ってくれているのか、何をされたかなどということに関して、ナツは一切触れなかった。それよりも苦しそうに肩を上下に動かすロアの体調を気遣ってくれる。
ロアはナツの体に寄りかかって、顔を見られないようにナツの首元に埋めた。
「いいよ、俺のこと…もう放っておいて…」
「あ!?何言ってんだよ!」
「だって、さ…もう力もないし…あんな、…もう、会わせる顔ない」
男にやられて、喘ぎ声出して。見られて聞かれて、それは全て自分が招いたことだ。
ルーシィのせいで、なんて最初に少し思ってしまったことも自分の嫌な部分をひしひしと感じさせるだけ。
「ナツも、聞いただろ…俺、もう…皆に会えない」
「おい、フェアリーテイル舐めてんのかよ、ロア」
「…」
「ふざけんなよ、ロア。その程度のことでロアを突き放すような奴らだと思ってんのか!?」
「そんなわけ、ない」
「じゃあ、なんでそんなこと言うんだよ!」
「俺が…!恥ずかしいんだ…」
ぎゅっとナツにしがみついて、涼しい足を擦らせた。見ないで欲しいという思いが勝って足が動いてしまう。しかしその行動は逆にナツの視線をそこに置かせてしまった。
「あ、わ、わりぃ…」
「情けねぇ、だろ?」
顔を上げてナツを見ているロアの目は薄ら涙で潤んでいて、ナツは一気に顔を赤くした。その恰好と相まって嫌な想像をしてしまう。
ナツはロアの体を引きはがすと、すっくと立ち上がった。
「ロア…っ、すぐに奴ら倒して助けに来るから!」
「…ナツ」
「んな顏しやがって…帰ったらぶん殴るからな…!」
ばっとナツは飛び出して行った。急に態度を変えたナツに、ロアもついて行けずに眉間にシワを寄せる。
残されたハッピーはちら、とロアを見てけろっとした顔を見せた。
「オイラは猫だからよくわかんないけど…照れ隠しだね、たぶん」
「は、あ…」
ナツを追ってぱたぱたとハッピーも去って行く。
ナツが来そうになった時は来ないでと思ったのに、再び一人取り残されると不安が戻ってきて、ひと肌が恋しくなった。
「ナツ…」
こんな状況なのに、やっぱりナツの体は暖かくて、安心したのだ。
一人になり、冷たい空気が流れる部屋の中。足を丸めて小さくなっていると、再び誰かが近づいてくる音が聞こえてきた。
敵か、味方か。どちらにしてもいいことはない。ロアはごくりと唾を飲んでから、ゆっくり顔を上げた。
「え…?」
扉のところに立っているのはミストガンだった。
意外すぎる人物の登場にロアは茫然としてしまった。ミストガンは人前に出たがらないし、まさかファントムのギルドに乗り込んでくるというような積極的なことをするとは思えない。
「…ロア、お前の魔力を集めてきた」
「ど、いうこと?」
ミストガンの言っていることがよくわからない。ただ、ミストガンは理屈抜きに信用出来る気がして、ロアは身を任せることにした。
ミストガンが、ロアに向けて手をかざす。 何故だか緊張して、ロアは目を閉じて事が終わるのを待った。
目を閉じている間に、どんどん体に自分の力が戻ってくる。ミストガンの手の暖かさと、戻ってくる自分の光に、体は安堵に包まれていった。
「これで、全部だ」
「ありがとう、すごく…楽になってきた」
ミストガンはこのために、わざわざ来てくれたんだ。アリアの技によって散らばったロアの魔力は全てロアの体に戻った。
ようやく楽になってきた呼吸で、息を大きく吸う。そうすると、今度は拘束された手と足が気になって、ちらっとミストガンを見た。
「あの…これ、切ってもらえると更に…有難いんだけど…」
「あぁ…。その前に、ここの処理、したくないか?」
ここ、とミストガンが指さしたのは…服を被せて隠そうとしているが、隠しきれないくらい大きくなっている…ロアの股間。
「え、い…いやいや、そんな、何考えて…」
「大丈夫だ、私に任せろ」
「ばっ、そんな、必要な、あっ」
手袋をつけているミストガンの手が、ロアのペニスをためらいなく包み込んだ。柔らかく緩く、撫でられるような感覚に体がびりびり痺れていく。
普段のミストガンの姿からは想像出来ない、というかしたくない。一緒に修業をつんだ、いつも頭を撫でてくれたあの手が、自分の一物握っているなんて。
「う、あっ…や、め…!」
「すぐ楽になるからな」
「は、恥ずかし…からっ、これ、解けよ…!」
腕と足の拘束があるせいで、変な気分になってくる。ミストガンに襲われているような、犯されているような。でも、その手がいつもと同じように優しいから、頭がおかしくなる。
「ああ…も、出そ…っ」
「ロア」
「っん…ぁあ、離せっ、て…!」
「…可愛いな、お前は」
ぼそ、と囁かれたミストガンの言葉が耳の奥にまで響いてきた。低くて優しい声でそんなこと言うなんて、ずるい。
「やっ…ここ、ファントムだし、んあっ」
「大丈夫だ、この辺りにいた奴らは全員倒した」
「そ、いう問題、違ッ、ん、く…ぁあっ」
ロアの体が大きく反って、精液はミストガンの手袋の中に吐き出された。
魔力がなかった時よりも、顔が熱くて、息が荒い。いつの間にか拘束は解かれていて、ロアは自分の顔を手で覆った。恥ずかしい、さすがにこれは恥ずかしすぎる。
それに対してミストガンは、何もなかったかのように手袋をはずし、自分のマントをはぎ取るとロアの腰に縛り付けた。
「あぁ…も、どうなってんだよ…」
「ロア、私はもう戻るが…どうする?」
「こ、こんな恰好で…戦いに参加しろって言うのか?」
「…いや、それはさせられない」
ミストガンはひょい、とロアを抱き上げるとそのまま壁を壊して外に出た。
そういえば、どうやって入ってきたのだろうかなどと考えながらも、ロアはミストガンの手の感触を思い出して再び顔を覆うのだった。
・・・
外に出ると、ロアはミストガンによって静かに地面に降ろされた。
「…私のすることは終わった」
「え、あ…」
ロアに何か言う隙も与えず、ミストガンはふっと姿を消してしまった。すーすーと風が通り抜ける下半身を意識すると、またいろんなことを思い出してしまい顏が熱くなる。
今日だけで二人の男にケツを触られるってどういうことなんだ。
「あぁ…、情けなすぎる…」
「おい、ロアか!?」
頭を抱えた瞬間、名前を呼ばれて顏を上げると、グレイの姿があった。ミストガンがグレイの近くに降ろしてくれたのか真意はわからないが、ロアはほっと息を吐いた。
「良かった…グレイ、ズボン穿いてる」
「は?」
「ズボン貸してくれないか?」
グレイはロアの腰に巻かれたマントを凝視して、それから顔を真っ赤に染めた。
マントの下は何も身に着けられていないことを感じ取り、そして聞いてしまったロアの甘い声を思い出してしまったのだ。
「お、お前…その、体は平気なのかよ」
「もう大丈夫だよ。それより、早くズボン!脱いで!」
「お、おう」
急かされて脱いだグレイのズボンを穿いて、ロアはファントムとフェアリーテイルの両方を見据えた。
ファントムにはガジルやジョゼなど強い魔導士が残っている。しかし、フェアリーテイルは今にもギルドが崩れそうで…
どちらの援護に行くか考えていると、どん、という音と共に、ファントムの壁の一部が崩れて、そこからナツが飛ばされて出て来た。ぼろぼろになったナツは、そのまま動く様子がない。
「っ!…グレイ、ごめん俺…ちょっと行ってくる…!」
「あ、おい!」
パンツ一丁になってしまったグレイを置いて、ロアはナツの元に向かって光を伸ばした。
よたよたと立ち上がるも前に倒れそうになっているナツの体を早く受け止めてあげたくて、支えたくて、ロアは手を伸ばした。
「ナツ!」
体を滑り込ませて、倒れる前のナツを抱きとめる。
ナツは、息をするのもやっとの状態だった。傷だらけで、魔力もほとんど残っていない。
「あ?お前、いつの間に抜け出したんだ?」
「…ガジル、てめぇか」
ナツの背後に立っているのはガジルだった。そのガジルも傷を負っているが、息は全然上がっていない。ナツが、同じドラゴンスレイヤーであるのに、圧倒されたとでもいうのか。
「…許さねぇぞ、お前」
「なんだ?またケツの穴広げて欲しいのか?」
「糞野郎…」
ロアの体から抑えきれない怒りが光になってあふれ出す。ガジルはあまりにも、フェアリーテイルに手を出しすぎた。
ナツを支えたままで、ロアはガジルの方に手をやった。ロアの攻撃に距離は関係ない。そのままガジルを吹っ飛ばすつもりで魔力を集中させた。
しかし、そのガジルに向けた手を、ナツが掴んで制した。
「邪魔…すんな…」
「はぁ!?何言ってんだよ!」
「許せねぇ…ロアに、汚ねぇ手で…触りやがった…」
ロアの肩に掴まりながら、ナツはゆっくり立ち上がった。後ろでは、フェアリーテイルが、ギルドが崩れていく音が聞こえる。それでもナツはじっとガジルにだけ目を向けて振り返らなかった。
「ロア…頼む」
「…わかったよ」
ロアは一度深呼吸して落ち着きを取り戻すと、指先に光をため込んで、一気に吐き出した。それをギルドの破片である木に当てれば、ロアの全力で発した光は木を燃やして炎を生み出す。
昔から、ロアとナツが共に行動することが多い理由の一つだ。光は炎になり、炎は光になる。二人は共にいることで、お互いを強める役割も持っていたのだった。
炎を口にしたナツは力を取り戻した。それだけではない、ナツは今本気で怒っていた。
正面から突っ込んできたガジルをぶん殴る。鉄の体であるガジルを傷つけるだけで精一杯だった先ほどまでとは違う。一発でガジルをひるませた。
「てめぇは…どれだけのものをキズつければ気が済むんだ!」
「バカな…!火を食ったくれーで…このオレがこんな奴に…!」
「フェアリーテイルに手を出したのが間違いだったな!」
何発も、ガジルの体にナツの拳が入る。それは、ファントムのギルドを巻き込んで、全てを壊していった。
マカロフの復活、ロアの復活、そしてナツの復活。この時点でフェアリーテイルの勝利は決まっていたのだ。ナツによってファントムもろともガジルが倒される。その頃、ファントムのマスター、ジョゼもマカロフに圧倒されていた。
強大な魔力がファントムを中心に発せられる。その勢いに転げたナツをロアが抱き留めると、ナツは笑っていた。
「だ、大丈夫!?」
そこにナツによって助け出されていたルーシィが駆けつける。
「あぁ…これは、もう大丈夫だな」
「こんな魔力はじっちゃんしかいねぇ」
笑い合う二人を見て不思議そうな顔をするルーシィの髪も、魔力で吹き上がった。全ての敵を排除する、マカロフの技、フェアリーロウが発動している。もう、フェアリーテイルに怖いものはなかった。
・・・
ファントムを倒し、全て終わった後。
ロアはナツの後ろにぴったりとくっ付いて離れなかった。自分より背の低いナツの後ろで、体を小さくして。
「…ロア」
「な…何?」
「離れろよ」
「…や、やだ…」
皆に会わせる顔がない。そのことを忘れたわけではない。
さっきは穿くもの欲しさにグレイに普通に話しかけてしまったが、思い出して恥ずかしさから穴に入りたいような気持ちに陥ってしまった。
「誰も気にしねぇって」
「そりゃそうかもだけど…!俺が嫌なんだって!」
「ロア…」
確かに今でもロアの声を思い出せば、ナツだって暴れ足りないくらい腹立たしい。しかしそれはファントムへの怒りであって、ロアをどうとは思わない。なんとも思わないわけではないが、それはまた別の話で。
「抱きてぇ…とは思うかもしんねぇけど」
「何?なんか言った?」
「大丈夫だ!ロアはオレが絶対ぇ守る…、あ!」
急にナツが大きな声を出すので何かとロアが少しナツの表情を確認しようとすると、ナツの方がばっと振り返った。
「オレを待たないで勝手にファントムに行ったのは、許せねぇ」
一発殴る約束、とナツが拳を作った。しかし、それにはロアも反論したいことがある。
「そもそも、Sランクなんかに行きやがるナツが悪いんだろ?俺に黙ってさ」
「それは…ロアに言ったら意味ねぇから」
「なんでだよ」
「オレは、ロアに追いつきたくて…」
ナツはロアに追いつきたくて、ロアに黙ってSランクに行った。しかしその間にフェアリーテイルは襲われて、ロアは一人で突っ込んで捕まって。
結局のところ、どっちが悪いか、ということもなかった。
「お互い様…か」
「そ…だな。ロア、ごめん」
「いや、俺こそ…無茶してごめん…」
と、二人が謝り合ったからといってロアの悩みが解決するわけでもない。
皆に顏を見せるのは恥ずかしくて、逃げてしまいたい。皆がいる方に近づくにつれてその思いは募って、ロアは落ち着かずナツの後ろできょろきょろとしていた。
「ロア…ごめんね」
「…ルーシィ?」
後ろから、服を掴まれて振り返ると、ルーシィが俯いていた。
「私のせいで…ロアに、辛い思い…させることになって…」
「え、いや…ルーシィのせいじゃ…」
ロアがルーシィの言葉をはっきりと否定出来ないのは、一瞬でも、ルーシィのせいだと思ってしまったからだ。
でも、ルーシィは悪くない。悪いのはファントムと、父親くらいのこと。
「ほら、俺ぴんぴんしてるだろ?」
「でも…」
ロアはナツから離れて、ちゃんとルーシィと目を合わせた。
「フェアリーテイルは家族だもんな、助け合って当たり前。ルーシィだって、その一人なんだから、迷惑かけるのも当たり前。それを俺達が助けるのも…」
な、とナツに視線を送ると、ナツもにっと笑ってみせた。ロアとナツだけじゃない、マカロフも皆も、同じように思っていた。
楽しいこと、悲しいこと、共有し合って、一人のために皆が動く。それがギルドだ。
「ギルド、潰れちゃったけどさ、また皆で造る楽しみが出来たんだぜ?わくわくするよな」
ロアの部屋も完全に形を失っている。何年も過ごしてきたギルドは無くなってしまったけど、全てが失われたわけじゃない。
「って…まんまとやられた俺が堂々と言えることじゃないかもだけど…」
「ほんと!ロアのせいで変な性癖目覚めそうだったよ」
急に会話に混ざった声はレビィのものだった。ギルドの方から近づいてきたレビィは笑いながらルーシィの肩に手を乗せる。その台詞にロアは愕然としてしまったが、恥ずかしくはなかった。
「私も心配かけて、ごめんね。ルーちゃん」
いつの間にか周りに集まってきていたフェアリーテイルの皆が、笑ってルーシィを見ている。ルーシィを責める者など一人もいなかった。
ルーシィも自分を責めることをしなくなって、無事、この事件は完結した。
残った問題があるとすれば、暴れすぎたために、評議員からの処分は免れないこと。そして、ロアに対する見る目が変わった人間が明らかに存在していること。
「ロア、なるべくフェアリーテイルでも一人にはなるなよ!」
「え、いや…まぁ一人になることなんて部屋にいない限りないと思うけど…」
それは、ナツを妙に過保護な人間に変えていた。そして、ナツのロアに対する感情にも…それなりに変化は生じていたのだった。