ナツ夢(2012.02~2016.05)
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エルザが評議員に呼ばれて裁判にかけられた。原因は先日怒ったララバイ撃退の時の器物損壊にある。
今まで散々やらかしてきたのに、何故今になって。フェアリーテイルの皆は不満を漏らしていた。
特にナツは暴れる勢いで。
「オレをここから出せー!」
「出したら助けに行く!ってうるさいでしょ?」
駄目よ、とミラが言っている相手は、コップを蓋にして閉じ込められているトカゲの姿をしたナツ。
「ナツ、そっちの方が可愛くていいんじゃねぇ?」
ロアはコップを突きながら言った。
「なぁ、俺、ちゃんと捕まえとくから、出していい?」
ロアの言葉は単純な興味からだった。しかし、そう言いながらコップを揺らしたロアに対し、焦ったような顔をしたのは、コップの中にいるトカゲの方。
出せ出せと喚いていたのに、どういう心境の変化か。…まさか。
なんとなく感づいてマカロフの方を見ると、目があったマカロフは口元に笑みを浮かべて小さく頷いた。
「ふっ…お前可愛いなぁ」
ロアはコップをどかして、尻尾を掴み持ち上げたトカゲの脇あたりに指を当てる。それを上下に動かして擦ると、トカゲはくすぐったさにもがいて変身を解いた。
「やめろ、ロア…!」
それはナツではなく、マカオだった。
「え!?マカオ!?」
「じゃあ…本物のナツは…」
それを見て驚いたギルドメンバーはそれぞれ皆が疑問を口にする。
ナツに借りがあったマカオは、自分からトカゲに化けて、ナツを見逃していたのだ。
「ってことは…ナツは暴れてるんだろうな…」
その頃、本当にナツはエルザの裁判中に暴れまくっていた。
・・・
エルザが裁判にかけられるというのは、所謂儀式というもので、形だけの逮捕だった。評議員は、魔法界の秩序を守らねばならない。つまり、エルザは罪になるものの、罰はない、ということだった。
想像通り、ナツはエルザのために暴れまくって、ナツもエルザも本当に捕えられることになってしまった。
数日後。
「シャバの空気はうめぇ!」
帰ってきたナツは一人で楽しそうに暴れ回っていた。
「おい、心配かけといてそれはないだろ」
「ロア、心配してくれたのか!」
「…前言撤回。ずっと捕まってれば良かったんじゃないか?」
ナツの額を小突くと、それさえも嬉しそうに笑った。
急に、眠気がフェアリーテイルを襲った。この感覚には覚えがある。
皆がばたばたと倒れる中、ロアは光を目に集めると、眠気を遮り、必死で耐えていた。
「…ミストガン」
フェアリーテイル最強の魔導士の一人であるミストガンだ。ミストガンは顏を見られたくないとかで、いつもギルドに入ってくるときは眠りの魔法をかけて入ってくる。
「ミストガン…久しぶり」
「ロアか…相変わらず寝ないな、お前は」
「だって…会いたいじゃん」
眠い。眠いけどそれに耐えてでもミストガンには会いたかった。
精神面に傷を持っていた頃のロアを強くしようと修業をつけてくれたのはミストガンだった。今でもその恩は忘れていない。
「行ってくる」
「…行ってらっしゃい」
ミストガンは仕事の紙を壁から剥がすと、すぐに踵を返してギルドを出て行った。
同時に眠りの魔法が解ける。眠っていた全員がぱち、ぱちと目を開けて目をこすった。
「この感じ…ミストガンか」
「あいつ相変わらずスゲェ眠りの魔法だな!」
なんとなく優越感に浸るロアの耳に、ミストガンって?というルーシィの疑問の声が聞こえてきた。
新入りであるルーシィはミストガンを知らない。ルーシィが来てからミストガンがギルドに来るのは初めてだった。
「ミストガンは、フェアリーテイル最強の男候補の一人だよ」
「あ、ロア!最強の…候補って?」
「ん、と…つまり最強は他にもいるんだけど」
「なんだ?オレの噂か、ロア」
ロアがルーシィと話していた背後、二階から声が聞こえて振り返る。
そこには、最強の候補もう一人の男。
「…ラクサス」
ラクサスの登場に、ギルド内がざわついた。ラクサスが普段ほとんどギルドにいないからだ。
珍しい、いたのか、などと皆が声をかけている。
ミストガンの魔法で眠り続けていたナツもぱち、とようやく目を開けた。
「ラクサス!オレと勝負しろ!」
「お前ごときじゃオレには勝てねぇよ」
「なんだと?降りて来い!」
「お前が上ってこいよ」
勝手に二人の間で火花が散っている。正しく言えば勝手に散らしているのはナツだけだが。
ラクサスはSランクでないナツが二階に上がれないことをわかっていて挑発していた。
「おい、ラクサス。あまり調子にのるなよ」
ロアはラクサスが好きではなかった。マカロフの孫でありながら、フェアリーテイルには似つかわしくないその性格。
「あまり調子にのっていると…痛い目見るぞ」
「痛い目?なんだそれは。ロアが見させてくれんのか?」
「さぁね」
上から見下ろされているだけでも腹が立つ。
ラクサスは自分が最強だと言って笑いながら奥に消えて行った。
「ねぇ、二階って何かあるんですか?」
ルーシィがミラに問いかけている。それを見ていたロアとミラの目があってちょいちょいと
手招きされた。
「ロアが二階にいるのは知っているでしょ?ロアも含めて、二階に行けるのはSランク魔導士だけなの」
「Sランク!?」
驚いたルーシィの顔はロアに向けられている。
「…何?俺がSランクじゃ不満?」
「いや…なんていうか雰囲気的に」
そのSランクのメンバーは、マカロフと、エルザ、ラクサス、ミストガン、ロア、そしてもう一人今はここにいないギルダーツ。確かに雰囲気を言ってしまえばロアだけ違うのは否めない。
「でも、ミラだって昔はそうだったんだぜ?」
「え!?」
「昔の話よ」
ルーシィの中でSランクのイメージがよくわからなくなってきた頃、ロアにナツが後ろから抱き着いた。突然の出来事にロアが後ろによろける。
「な、なんだ?」
「ロア、オレ絶対ぇ追いつくからな!」
「悔しくなったんだ?」
「ラクサスはロアの部屋に行けるのに、オレは行けねぇなんて、許せねぇ!」
え、そこなんだ。と誰もが心の中で突っ込みを入れた。
しかしロアはそのナツの思いが嬉しくて頬が緩んでいた。
そのすぐ翌日のこと。事件は起こった。
二階の依頼書の一枚がなくなった。それをナツが持ち出していたことをラクサスが見ていたのだ。
Sランクでないものが二階に上がること、更にその依頼書を持っていくなんて言語道断。許されるものではない。
「なんで見ていて止めなかったの!?」
「オレにはドロボウ猫が紙くわえて行くようにしか見えなかったからなぁ」
まさかアレがハッピーとナツでS級行くとは、というラクサスの口元は完全に笑っている。
さすがのミラも怒っているようで、普段の穏やかな表情はなくなっていた。それはロアも同じだった。
「…ほんっと、てめェは…糞野郎だな」
「あ?」
ミラの肩を掴んで押しのけると、ロアはラクサスが足の乗せるテーブルを殴って破壊した。がらがらという音と共に、テーブルは一撃で崩れる。それには、怒っていたミラも目を丸くして茫然としてしまった。
「調子のんなって、昨日言ったよなぁ?」
「おいおい、怒る相手間違ってるぜ。調子のってんのはナツの方だろ」
「ラクサス…覚悟しとけよ」
握りこぶしをもう一度破壊されたテーブルに叩き込むと、ロアは階段を降りて入口の方へ向かって行った。
「ど…どこに行くの!?」
「ナツぶん殴りに行くに決まってんだろ」
その目はあまりにも本気なもので、そこにいたほとんどの者が唾を呑んでロアを恐れた。しかし、一人、グレイがばっと立ち上がった。
「それなら、オレも付き合うぜ」
ロアとグレイの二人はナツの向かった場所…悪魔の島に行くために使うだろう港町、ハルジオンを目指して歩き出した。
・・・
ロアの隣を歩きながら、グレイは久々に本気で怒っているロアを横目で見ていた。普段は笑顔の可愛い美人といった雰囲気が、今はちょっとした闇ギルドのボスみたいになっている。
金の瞳が獲物を狙う獣のようだ。
「そんなとこも…ぞくぞくする」
少し立ち止まって、グレイは後ろから前を歩くロアを見る。隣を歩きたいと思うのも本当。でも、ロアの姿は後ろから見たときも別の美しさがある。
金の髪が光に当たってキラキラと光を放っているように見える。
「グレイ」
急にロアが立ち止まった。
「グレイ…俺本気だからな」
「な、何が?」
「ナツをぶん殴る。その先はお前に任せるから」
グレイはロアの言いたいことがよくわからずに、曖昧に頷くだけだった。
・・・
海沿いの船乗り場に、ナツの姿があった。
いた、というグレイの声にロアも小さくうなずく。
ぶん殴りに行こうと拳を強く握ったロアの目に、もう一人、ナツの隣にいる人間が映った。
「ルーシィ…?」
「なるほどな、ルーシィ連れて行くつもりだったのか、あいつ。ルーシィは規則知らねぇもんな」
グレイの言葉がじわじわと頭に上ってくる。
また、ルーシィ。ここ最近、ナツはルーシィばかり誘う。
ルーシィが来てから、何か自分の中で嫌なものが渦巻くことが多くなった。
そして今は、どうしてもそれをナツにぶつけたかった。
「…おい、ナツ…」
「ん?…あぁ!なんでロアが」
「歯、食い縛れ…!」
驚いていたナツの頬にロアのパンチが入った。遠くまで吹っ飛んでいくナツに、ルーシィもグレイも言葉をなくしている。
「ナツのばーか!てめぇらなんか破門になっちまえ!」
それだけ言い残してロアは来た道を戻って行った。
「え、ちょ…ロア!?」
「あいつ、本当に殴るだけかよ…」
ロアの背中を見送った二人は顔を見合わせてきょとんとしていた。
・・・
なんだよ、ナツの奴。信じられない。
大股でがつがつと歩くロアの目には苛立ちと悲しさの両方が入り交ざっていた。
「仕事に行くときゃ誘えっつったろ…」
自分を誘わずにいつもルーシィを誘う。そこにどんな理由があったって納得いかない。
「ばか。ナツなんてS級クエストでくたばっちまえ」
思ってもいないことを口にして、ロアは首を横に振った。それは駄目だ。そんな本当に有り得るかもしれないことを願ってしまって現実にでもなったらシャレにならない。
「おい、ナツを止めに行ったんじゃねーのか?」
目の前に影が出来た。すっと顏を上げれば、声の主…ラクサス。
「ナツを止める、なんて一言も言ってない。俺はナツをぶん殴るって言ったんだよ」
「いいのか?あいつ、死ぬんじゃねぇ?」
「…黙れよ、殺すぞ」
ロアの体から光があふれ出す。ロアが「光のロア」と呼ばれ、有名であるのには、その戦い方にあった。
体を輝かせながら光に乗って戦うその姿は誰もが一度は目を奪われる。
「ま、戻ってきたところで破門は免れないだろうがな」
「…それは、お前が決めることじゃないだろ…?」
「決まったようなもんってことだよ」
ロアは殴りかかりそうになるのを必死で耐えていた。フェアリーテイルでは決闘という場を設けない限り、私闘は禁止されている。
ここでロアまで問題を起こすわけにはいかなかった。
「ほんと…挑発するのが上手いよなぁ。死に急ぐもんじゃないぜ?」
「死に急いでるのは誰だろうなぁ」
ロアの手がラクサスの首を捕らえた。
「そこまでだ!」
その手はもう一人の手に押さえられていた。
「…エルザ」
「おいおい、邪魔すんじゃねぇよ」
いいところだったのに、と笑うラクサスを睨むだけで、エルザはロアの方を抑え込んだ。
ラクサスの性格はエルザもよくわかっている。そして、ロアの性格も。
「ロア。これ以上何かするなら、私が相手になるぞ」
「…何もしねぇよ。離せ」
ロアの声が落ちついたのがわかり、エルザは体を離した。目はラクサスの方を睨んだまま。
「ラクサス、あまりロアを挑発するな」
「オレは何もしてないぜ」
「もういい、俺が悪かったよ」
エルザがここにいるのは、ナツ達を追ってきたということだろう。結局グレイも二人を止められなかったんだ。
「俺はギルドに戻る。エルザは早く追って」
「あぁ」
それからのこと、あまりロアは覚えていない。
キレたらその場の勢いで動いてしまう気質があるのは自分でもわかっていた。
自分の部屋のベッドの上で目を開けて、あぁ、またキレたんだなとぼんやり思うだけだった。
暫くロアは引きこもりに戻っていた。
S級クエストに行ったナツやらグレイやらが心配でないわけではないが。今更何をしたって仕方がない。
むしろ今頃再びあのメンバーで仕事を行っていることが気掛かりと言うか。
「…腹立ってきた」
思い出さないように、寝返りをうってうつ伏せになった。
今となってはエルザも向かったようだし、S級クエストに対抗できる程度の力は集まっている。
「後悔するくらいなら…俺も行けばよかったのに」
目をつぶっていれば、起きた時にナツが帰ってきていると信じて、ロアは目を閉じた。
・・・
「ロア!ロア起きて!」
多分寝ていたんだと思う。ロアはミラの声で意識を取り戻して目を開けた。
「…ん、どうしたの?」
「ギルドが襲われてるわ!」
一瞬で目が覚めた。
目の前に広がっていたのは、ギルドに突き刺さっている鉄の棒のようなもの。
「…なんだ、これ」
「ファントムが急に攻めてきたの!」
ファントムは前からフェアリーテイルといがみ合っているギルドだ。こうして刺激してくることで、フェアリーテイルの方から攻撃してくるように仕向けたいのだろう。
「つまり、ファントムに喧嘩売られてるってことだろ?なんでじっとしてんだよ!」
やられるがまま、ギルドはどんどん壊されていく。また一本、鉄の棒が突き刺さった。
「俺の部屋…!くそっ、その喧嘩…買ってやる」
「駄目よロア!」
「なんでだよ!」
「そんなことをしたら、向こうの思うつぼでしょ!」
そう言うミラの手もカタカタと震えている。
「…ミラ」
「駄目…ここは耐えなきゃ…」
「ちっ…」
そこにある鉄の塊に本気の拳を向けたのに、その鉄は大きな音を上げるだけで壊れることはなかった。
「そうだ、ナツは!?」
「まだ…帰っていないわ」
「…こんなときに、エルザも、ナツもグレイもいないのか」
怒りに手の震えが治まらない。
でも、皆も同じ気持ちだったから、ロアは自分の手を自分で押さえつけることしか出来なかった。
抵抗しなかったフェアリーテイルのギルドは完全にファントムによって破壊されてしまった。
外見ほど中はさほど壊されていなかったが、ロアの部屋はほとんど使えない状態になっていた。
今まで散々やらかしてきたのに、何故今になって。フェアリーテイルの皆は不満を漏らしていた。
特にナツは暴れる勢いで。
「オレをここから出せー!」
「出したら助けに行く!ってうるさいでしょ?」
駄目よ、とミラが言っている相手は、コップを蓋にして閉じ込められているトカゲの姿をしたナツ。
「ナツ、そっちの方が可愛くていいんじゃねぇ?」
ロアはコップを突きながら言った。
「なぁ、俺、ちゃんと捕まえとくから、出していい?」
ロアの言葉は単純な興味からだった。しかし、そう言いながらコップを揺らしたロアに対し、焦ったような顔をしたのは、コップの中にいるトカゲの方。
出せ出せと喚いていたのに、どういう心境の変化か。…まさか。
なんとなく感づいてマカロフの方を見ると、目があったマカロフは口元に笑みを浮かべて小さく頷いた。
「ふっ…お前可愛いなぁ」
ロアはコップをどかして、尻尾を掴み持ち上げたトカゲの脇あたりに指を当てる。それを上下に動かして擦ると、トカゲはくすぐったさにもがいて変身を解いた。
「やめろ、ロア…!」
それはナツではなく、マカオだった。
「え!?マカオ!?」
「じゃあ…本物のナツは…」
それを見て驚いたギルドメンバーはそれぞれ皆が疑問を口にする。
ナツに借りがあったマカオは、自分からトカゲに化けて、ナツを見逃していたのだ。
「ってことは…ナツは暴れてるんだろうな…」
その頃、本当にナツはエルザの裁判中に暴れまくっていた。
・・・
エルザが裁判にかけられるというのは、所謂儀式というもので、形だけの逮捕だった。評議員は、魔法界の秩序を守らねばならない。つまり、エルザは罪になるものの、罰はない、ということだった。
想像通り、ナツはエルザのために暴れまくって、ナツもエルザも本当に捕えられることになってしまった。
数日後。
「シャバの空気はうめぇ!」
帰ってきたナツは一人で楽しそうに暴れ回っていた。
「おい、心配かけといてそれはないだろ」
「ロア、心配してくれたのか!」
「…前言撤回。ずっと捕まってれば良かったんじゃないか?」
ナツの額を小突くと、それさえも嬉しそうに笑った。
急に、眠気がフェアリーテイルを襲った。この感覚には覚えがある。
皆がばたばたと倒れる中、ロアは光を目に集めると、眠気を遮り、必死で耐えていた。
「…ミストガン」
フェアリーテイル最強の魔導士の一人であるミストガンだ。ミストガンは顏を見られたくないとかで、いつもギルドに入ってくるときは眠りの魔法をかけて入ってくる。
「ミストガン…久しぶり」
「ロアか…相変わらず寝ないな、お前は」
「だって…会いたいじゃん」
眠い。眠いけどそれに耐えてでもミストガンには会いたかった。
精神面に傷を持っていた頃のロアを強くしようと修業をつけてくれたのはミストガンだった。今でもその恩は忘れていない。
「行ってくる」
「…行ってらっしゃい」
ミストガンは仕事の紙を壁から剥がすと、すぐに踵を返してギルドを出て行った。
同時に眠りの魔法が解ける。眠っていた全員がぱち、ぱちと目を開けて目をこすった。
「この感じ…ミストガンか」
「あいつ相変わらずスゲェ眠りの魔法だな!」
なんとなく優越感に浸るロアの耳に、ミストガンって?というルーシィの疑問の声が聞こえてきた。
新入りであるルーシィはミストガンを知らない。ルーシィが来てからミストガンがギルドに来るのは初めてだった。
「ミストガンは、フェアリーテイル最強の男候補の一人だよ」
「あ、ロア!最強の…候補って?」
「ん、と…つまり最強は他にもいるんだけど」
「なんだ?オレの噂か、ロア」
ロアがルーシィと話していた背後、二階から声が聞こえて振り返る。
そこには、最強の候補もう一人の男。
「…ラクサス」
ラクサスの登場に、ギルド内がざわついた。ラクサスが普段ほとんどギルドにいないからだ。
珍しい、いたのか、などと皆が声をかけている。
ミストガンの魔法で眠り続けていたナツもぱち、とようやく目を開けた。
「ラクサス!オレと勝負しろ!」
「お前ごときじゃオレには勝てねぇよ」
「なんだと?降りて来い!」
「お前が上ってこいよ」
勝手に二人の間で火花が散っている。正しく言えば勝手に散らしているのはナツだけだが。
ラクサスはSランクでないナツが二階に上がれないことをわかっていて挑発していた。
「おい、ラクサス。あまり調子にのるなよ」
ロアはラクサスが好きではなかった。マカロフの孫でありながら、フェアリーテイルには似つかわしくないその性格。
「あまり調子にのっていると…痛い目見るぞ」
「痛い目?なんだそれは。ロアが見させてくれんのか?」
「さぁね」
上から見下ろされているだけでも腹が立つ。
ラクサスは自分が最強だと言って笑いながら奥に消えて行った。
「ねぇ、二階って何かあるんですか?」
ルーシィがミラに問いかけている。それを見ていたロアとミラの目があってちょいちょいと
手招きされた。
「ロアが二階にいるのは知っているでしょ?ロアも含めて、二階に行けるのはSランク魔導士だけなの」
「Sランク!?」
驚いたルーシィの顔はロアに向けられている。
「…何?俺がSランクじゃ不満?」
「いや…なんていうか雰囲気的に」
そのSランクのメンバーは、マカロフと、エルザ、ラクサス、ミストガン、ロア、そしてもう一人今はここにいないギルダーツ。確かに雰囲気を言ってしまえばロアだけ違うのは否めない。
「でも、ミラだって昔はそうだったんだぜ?」
「え!?」
「昔の話よ」
ルーシィの中でSランクのイメージがよくわからなくなってきた頃、ロアにナツが後ろから抱き着いた。突然の出来事にロアが後ろによろける。
「な、なんだ?」
「ロア、オレ絶対ぇ追いつくからな!」
「悔しくなったんだ?」
「ラクサスはロアの部屋に行けるのに、オレは行けねぇなんて、許せねぇ!」
え、そこなんだ。と誰もが心の中で突っ込みを入れた。
しかしロアはそのナツの思いが嬉しくて頬が緩んでいた。
そのすぐ翌日のこと。事件は起こった。
二階の依頼書の一枚がなくなった。それをナツが持ち出していたことをラクサスが見ていたのだ。
Sランクでないものが二階に上がること、更にその依頼書を持っていくなんて言語道断。許されるものではない。
「なんで見ていて止めなかったの!?」
「オレにはドロボウ猫が紙くわえて行くようにしか見えなかったからなぁ」
まさかアレがハッピーとナツでS級行くとは、というラクサスの口元は完全に笑っている。
さすがのミラも怒っているようで、普段の穏やかな表情はなくなっていた。それはロアも同じだった。
「…ほんっと、てめェは…糞野郎だな」
「あ?」
ミラの肩を掴んで押しのけると、ロアはラクサスが足の乗せるテーブルを殴って破壊した。がらがらという音と共に、テーブルは一撃で崩れる。それには、怒っていたミラも目を丸くして茫然としてしまった。
「調子のんなって、昨日言ったよなぁ?」
「おいおい、怒る相手間違ってるぜ。調子のってんのはナツの方だろ」
「ラクサス…覚悟しとけよ」
握りこぶしをもう一度破壊されたテーブルに叩き込むと、ロアは階段を降りて入口の方へ向かって行った。
「ど…どこに行くの!?」
「ナツぶん殴りに行くに決まってんだろ」
その目はあまりにも本気なもので、そこにいたほとんどの者が唾を呑んでロアを恐れた。しかし、一人、グレイがばっと立ち上がった。
「それなら、オレも付き合うぜ」
ロアとグレイの二人はナツの向かった場所…悪魔の島に行くために使うだろう港町、ハルジオンを目指して歩き出した。
・・・
ロアの隣を歩きながら、グレイは久々に本気で怒っているロアを横目で見ていた。普段は笑顔の可愛い美人といった雰囲気が、今はちょっとした闇ギルドのボスみたいになっている。
金の瞳が獲物を狙う獣のようだ。
「そんなとこも…ぞくぞくする」
少し立ち止まって、グレイは後ろから前を歩くロアを見る。隣を歩きたいと思うのも本当。でも、ロアの姿は後ろから見たときも別の美しさがある。
金の髪が光に当たってキラキラと光を放っているように見える。
「グレイ」
急にロアが立ち止まった。
「グレイ…俺本気だからな」
「な、何が?」
「ナツをぶん殴る。その先はお前に任せるから」
グレイはロアの言いたいことがよくわからずに、曖昧に頷くだけだった。
・・・
海沿いの船乗り場に、ナツの姿があった。
いた、というグレイの声にロアも小さくうなずく。
ぶん殴りに行こうと拳を強く握ったロアの目に、もう一人、ナツの隣にいる人間が映った。
「ルーシィ…?」
「なるほどな、ルーシィ連れて行くつもりだったのか、あいつ。ルーシィは規則知らねぇもんな」
グレイの言葉がじわじわと頭に上ってくる。
また、ルーシィ。ここ最近、ナツはルーシィばかり誘う。
ルーシィが来てから、何か自分の中で嫌なものが渦巻くことが多くなった。
そして今は、どうしてもそれをナツにぶつけたかった。
「…おい、ナツ…」
「ん?…あぁ!なんでロアが」
「歯、食い縛れ…!」
驚いていたナツの頬にロアのパンチが入った。遠くまで吹っ飛んでいくナツに、ルーシィもグレイも言葉をなくしている。
「ナツのばーか!てめぇらなんか破門になっちまえ!」
それだけ言い残してロアは来た道を戻って行った。
「え、ちょ…ロア!?」
「あいつ、本当に殴るだけかよ…」
ロアの背中を見送った二人は顔を見合わせてきょとんとしていた。
・・・
なんだよ、ナツの奴。信じられない。
大股でがつがつと歩くロアの目には苛立ちと悲しさの両方が入り交ざっていた。
「仕事に行くときゃ誘えっつったろ…」
自分を誘わずにいつもルーシィを誘う。そこにどんな理由があったって納得いかない。
「ばか。ナツなんてS級クエストでくたばっちまえ」
思ってもいないことを口にして、ロアは首を横に振った。それは駄目だ。そんな本当に有り得るかもしれないことを願ってしまって現実にでもなったらシャレにならない。
「おい、ナツを止めに行ったんじゃねーのか?」
目の前に影が出来た。すっと顏を上げれば、声の主…ラクサス。
「ナツを止める、なんて一言も言ってない。俺はナツをぶん殴るって言ったんだよ」
「いいのか?あいつ、死ぬんじゃねぇ?」
「…黙れよ、殺すぞ」
ロアの体から光があふれ出す。ロアが「光のロア」と呼ばれ、有名であるのには、その戦い方にあった。
体を輝かせながら光に乗って戦うその姿は誰もが一度は目を奪われる。
「ま、戻ってきたところで破門は免れないだろうがな」
「…それは、お前が決めることじゃないだろ…?」
「決まったようなもんってことだよ」
ロアは殴りかかりそうになるのを必死で耐えていた。フェアリーテイルでは決闘という場を設けない限り、私闘は禁止されている。
ここでロアまで問題を起こすわけにはいかなかった。
「ほんと…挑発するのが上手いよなぁ。死に急ぐもんじゃないぜ?」
「死に急いでるのは誰だろうなぁ」
ロアの手がラクサスの首を捕らえた。
「そこまでだ!」
その手はもう一人の手に押さえられていた。
「…エルザ」
「おいおい、邪魔すんじゃねぇよ」
いいところだったのに、と笑うラクサスを睨むだけで、エルザはロアの方を抑え込んだ。
ラクサスの性格はエルザもよくわかっている。そして、ロアの性格も。
「ロア。これ以上何かするなら、私が相手になるぞ」
「…何もしねぇよ。離せ」
ロアの声が落ちついたのがわかり、エルザは体を離した。目はラクサスの方を睨んだまま。
「ラクサス、あまりロアを挑発するな」
「オレは何もしてないぜ」
「もういい、俺が悪かったよ」
エルザがここにいるのは、ナツ達を追ってきたということだろう。結局グレイも二人を止められなかったんだ。
「俺はギルドに戻る。エルザは早く追って」
「あぁ」
それからのこと、あまりロアは覚えていない。
キレたらその場の勢いで動いてしまう気質があるのは自分でもわかっていた。
自分の部屋のベッドの上で目を開けて、あぁ、またキレたんだなとぼんやり思うだけだった。
暫くロアは引きこもりに戻っていた。
S級クエストに行ったナツやらグレイやらが心配でないわけではないが。今更何をしたって仕方がない。
むしろ今頃再びあのメンバーで仕事を行っていることが気掛かりと言うか。
「…腹立ってきた」
思い出さないように、寝返りをうってうつ伏せになった。
今となってはエルザも向かったようだし、S級クエストに対抗できる程度の力は集まっている。
「後悔するくらいなら…俺も行けばよかったのに」
目をつぶっていれば、起きた時にナツが帰ってきていると信じて、ロアは目を閉じた。
・・・
「ロア!ロア起きて!」
多分寝ていたんだと思う。ロアはミラの声で意識を取り戻して目を開けた。
「…ん、どうしたの?」
「ギルドが襲われてるわ!」
一瞬で目が覚めた。
目の前に広がっていたのは、ギルドに突き刺さっている鉄の棒のようなもの。
「…なんだ、これ」
「ファントムが急に攻めてきたの!」
ファントムは前からフェアリーテイルといがみ合っているギルドだ。こうして刺激してくることで、フェアリーテイルの方から攻撃してくるように仕向けたいのだろう。
「つまり、ファントムに喧嘩売られてるってことだろ?なんでじっとしてんだよ!」
やられるがまま、ギルドはどんどん壊されていく。また一本、鉄の棒が突き刺さった。
「俺の部屋…!くそっ、その喧嘩…買ってやる」
「駄目よロア!」
「なんでだよ!」
「そんなことをしたら、向こうの思うつぼでしょ!」
そう言うミラの手もカタカタと震えている。
「…ミラ」
「駄目…ここは耐えなきゃ…」
「ちっ…」
そこにある鉄の塊に本気の拳を向けたのに、その鉄は大きな音を上げるだけで壊れることはなかった。
「そうだ、ナツは!?」
「まだ…帰っていないわ」
「…こんなときに、エルザも、ナツもグレイもいないのか」
怒りに手の震えが治まらない。
でも、皆も同じ気持ちだったから、ロアは自分の手を自分で押さえつけることしか出来なかった。
抵抗しなかったフェアリーテイルのギルドは完全にファントムによって破壊されてしまった。
外見ほど中はさほど壊されていなかったが、ロアの部屋はほとんど使えない状態になっていた。