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カカシ夢(2011.04~2016.09)
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カカシ班は任務を受けるために綱手の元に集まっていた。
「そんな任務ノーサンキューだってばよ!」
「あん!?何か文句あんのか?」
体は成長したものの、中身は昔のままのようで、ナルトは先ほどから文句ばかり言っている。火影である綱手の額に血管が浮き出る様子に、サクラははらはらしているようだ。
「ナナからも何か言ってやってちょうだいよ」
「は?なんで俺が…」
ナルトに困り果てたカカシがナナに振ると、ナナに視線が集まった。このメンバーの中では確かに少し大人ではあるが、こういう面倒事ばかり押し付けないで欲しい。
はぁ、と息を吐いてから、ナナはナルトに視線を送った。
「…な、なんだってばよ」
「いや、ナルトはどう思ってんのか知んねぇけど…。俺はこのメンバーで任務出来んなら、なんだっていいんだけどな」
きゅん。という効果音がその場にいた人間全員から発せられた。
「ず…ずるいってばよ…」
「ナルト、負けを認めなさい」
うぅ、と言って頭を下げたナルトを見て綱手も安心したように目を閉じて笑った。
それからカカシもナナを見て目を細める。以前のナナならきっとこんなことは言わなかった。
今の、たぶん本心なんだろうな…と思うと急にナナが可愛く見えて来て。
「カカシ先生?なんか手の動き気持ち悪いんですけど」
「ん?あぁ、気にしないで」
「…」
サクラとナナの冷たい目を浴びながらカカシはへらっと笑った。
「た…大変です、五代目!」
火影の元に来るとは思えないような、乱暴な勢いで扉がばたんと開いた。そこに立っているのは暗号班の女性で、急いで来たのか肩で息をしている。
「何だ?騒々しい」
「砂隠れの風影が暁という組織の者に連れ去られたと…たった今連絡がありました!」
この報告に一番反応したのはナルトだった。
ナナにとっては、ナルトを狙っている連中が動き出した、という解釈しか出来なかったが、ナルトやサクラは違う。
風影は中忍試験時に会った我愛羅。二人には面識があるし、ナルトは我愛羅と戦い、認め合った間柄だった。
「…これよりカカシ班に任務を言い渡す」
直ちに砂隠れの里へ行き、状況を把握し木ノ葉に伝達。その後砂隠れの命に従い彼らを支援しろ。
サスケの抜けたこのメンバーでの久々に行う任務は、とても重要な任務になってしまった。
・・・
「じゃ!いってくるってばよ!」
すぐに準備して、カカシ班は出発した。
出発時にナルトは自来也に何か言われていたが、微かに暁、という単語が聞こえた当たり、狙われているのだから気をつけろ、とかそういうことだろう。
砂に向かっている間、ナナはカカシの横についた。
「なぁ…」
「ん、なぁに?」
早く我愛羅を助けたいという思いがあるナルトは既に少し離れた先の方にいる。無意識にそれを確認してから口を開いた。
「暁ってやつ、ナルトを狙ってんだろ?なんで風影が連れ去られなければならなかったんだ?」
「んー…」
「それって皆どこまで知ってるもんなんだ?知らないの、俺だけ…?」
ナルトの秘密。これはナナに限らず、ほとんどの人間が知らないものだった。言ってはいけないということではない。しかし、カカシから言うべきことでもないのだ。
「それってさ、何。信用されてないわけ?頑なに口閉ざす意味…わかんねぇ」
何か事情があるのはわかっても、仲間外れにされているような感覚がナナにとっては不服だった。それでなくても、共にいる時間は一人少ないというのに。
「ナルト!急いでるからって、隊を乱さないで!」
前から聞こえてきたサクラの声。はっとしてカカシとナナがそちらに目を向けると、ナルトが一人先に行っている姿が見えた。
話をしていた二人は少し遅れてしまっていたためにスピードを上げて追いつく。
ナルトが何か訴えているのが聞こえてきた。
「サクラちゃんも…もう知ってんだろ?オレの中に、九尾の妖狐が封印されてんの…」
「…?」
どういうことだ。疑問が口から出そうになる。
しかし、ナナはサクラとカカシの表情が固くなったのに気付いて、何か言いそうになったのを堪えた。
「我愛羅もオレも…バケモノを飼ってるからな…あいつらはそれを狙ってんだ」
バケモノ。つまり、九尾の妖狐って奴のことだ。そして、あいつらとは…恐らく暁のこと。
「気に食わねぇ!その、オレたちをバケモノとしか見てねぇ、あいつらの好き勝手な見方が…!」
いつの間に、ナルトはそんなことに巻き込まれて、そんな風に思うようになっていたのだろう。
ナナは顔を伏せて、ナルトの思いを受け止めようとしていた。
「ねぇ、ナルトは逢ったことあるんでしょ?うちはイタチに。それで、彼に狙われてる」
今度話出したのはサクラだった。
「サスケくんが殺したい相手って、実の兄、暁の一員のうちはイタチのことでしょ?それで力をつけようと…大蛇丸の元に行った」
ここからはナナにもわかる話だった。サスケは大蛇丸の元へ行ったが、本当の大蛇丸の狙いはサスケの体。あと半年で、サスケは大蛇丸の体の器にされてしまう。
「つまり…暁に近付けば大蛇丸の情報も入る。それでサスケくんにも近づける。そういうことよね」
ナルトもサクラもずいぶんいろいろなことを考えていて、それはナナよりも、もっと大人に見えた。この、砂隠れに行くという任務に対しても、そういう思いを持って向かっている。
ナナは何もわかっていなかった自分に申し訳なくなっていた。
「…かっこいいな、ナルトも、サクラも」
「ナナさん…?」
「志あって動いてるんだもんな…」
自分には何もない。そう、思わされてしまった。
五色のことも中途半端に戻ってきて、だからといって木ノ葉で何かしなければならないこともあるわけじゃない。
「ナナには、ナナにしか出来ないことがある」
「カカシ…?」
「自分にしか出来ないことがある人間はそういない。それだけでも、ナナはかっこいいよ」
気を遣ってくれた。
こんな風に、すぐにフォローの言葉を出せる人間もそういない。とは思いつつも、そんなこと言ったらカカシは調子にのるだろうと、ナナは何も言わなかった。
・・・
砂につくと、暁のサソリという男にやられて毒に侵されているという、カンクロウの治療に向かった。カンクロウは我愛羅の兄、そしてそこまで案内してくれたテマリは我愛羅の姉だった。
「私が見ます!」
一歩前に出たのはサクラ。サクラは医療忍者である綱手を師匠に持っていたため、いつの間にか医療忍術も使えるようになっていた。
医療室に入ると、カンクロウを囲んでいる者が何人か。
その中の一人、年老いたおばあさんがカカシの姿を見た途端に目を光らせた。
「…木ノ葉の白い牙!息子の仇…!」
急にカカシに突っ込んでくるおばあさんの攻撃をナルトが相殺する。ナナもカカシを庇うように、カカシの前に出ていた。
「姉ちゃんよ、よく似ているが、こいつは白い牙でねーよ」
その横にいたおじいさんがそう言うと、おばあさんはボケたフリだと笑ったが、明らかにカカシを殺すつもりで突っ込んできていた。
「なぁ、カカシ?木ノ葉の白い牙って…?」
「あぁ、オレの父親だよ」
「悪い奴だったのか?」
「いやぁ…そんなことはないと思うけどね」
砂と木ノ葉が正式に同盟を結んだのは、二年前の中忍試験後。大蛇丸によって騙された砂が、木ノ葉に借りを返すと協力するようになった頃だ。
昔は争っていたのかもしれない。
そんなどうでもいいやり取りをしている間にも、サクラは毒抜きを終わらせて、これからの戦闘にも備えて出来る限りの解毒剤を作りにかかっている。
「サクラ、すごいな」
ぼそりと呟いた言葉はサクラにも届いてしまったようで、振り返ると照れたように笑ってみせた。
向こうでは、カカシが情報を集め始めている。赤砂のサソリ。元々砂隠れの忍で、今さっきカカシに攻撃してきた、おばあさん、チヨバアの孫だという。
「うずまきナルト…弟を頼む…」
「負かしとけってばよ!オレもいずれ火影になる男だからな、風影に貸しつくっといてやる」
そしてナルトは、カンクロウに直接頭を下げられて、信用を得ている。それも、我愛羅と同じ、尾獣持ちだからなのか。
「俺にしか…出来ないこと、か」
五色という名前に頼らずに出来ることはないのだろうか。
ナナは自分の手を見つめて、それから強く握り締めた。役に立ちたい、純粋な思いだった。
・・・
出発準備が出来て、暁を目指そうとするカカシ班の横には、何故かチヨバアも一緒にいた。
なんでも、孫を久しぶりに可愛がってやるのだそうだ。
目的地に向かう間、再び尾獣の説明を受けることになった。あまり詳しくは知らないサクラとナナと違って、カカシと、特にチヨバアは相当詳しく知っているようで。
ナナには違う世界の話にも聞こえたほどだった。
尾獣は一から九まで、尾の数が違う獣がいて、人間の体に封印される。そうでもしないと強大な力が抑えられないから。
九尾は昔、木ノ葉で暴れ多くの死者を出したこともあり、完全に極秘扱いされているほどだった。
暁の狙いは、その全ての尾獣を集めることにある。集めてどうするかということまでは、まだわかっていないが。それが集まってしまったときの力の大きさは計り知れない。
「なんだかな…俺にはよくわからない」
「まぁ、ね。これを理解しろとは言わないよ。今は暁を止めること、それが出来ればいいんだ」
「…ん」
そう言われてしまうと悔しくて、ナナは少し唇を尖らせた。
「ナナ、あまり深く考える必要はないんだからな」
「な、そんな念押ししなくていいだろ…」
「ナナが、気にしてそうだったからね」
カカシはよく見てる。それは嬉しいのだが、見透かされていると思うとそれもまた悔しい要素に変わって、ナナは素直に頷けなかった。
まだ目的地は先なのに、急にカカシが足を止めた。手を横に伸ばして、止まれと合図している。
目の前に、一人誰かが立っているのには全員すぐに気付いたが、それが誰かはわからなかった。
「うちはイタチ…」
ナルトが言った名前で、全員の空気がぴしっと変わった。うちはイタチ、暁の一員でサスケの実の兄。
兄というには、あまりサスケとは似ていない風貌で、落ちついた雰囲気もクールな雰囲気だったサスケとは違って見える。
「久しぶりですね…カカシさん…ナルトくん」
それでも、うちはという一族であることに違いはなく、イタチの目はサスケと同じ、そしてカカシの片目とも同じ写輪眼。
カカシはその写輪眼を持っているために「コピー忍者のカカシ」と他の里でも有名だが、写輪眼の力はコピーだけではない。
イタチは目で敵を自分の幻術に落とすことが出来る。瞳術使いだった。
「イタチの瞳術は少し厄介で…“万華鏡写輪眼”これを食らえば、ほんの一瞬で奴の瞳術にはまることになるぞ」
カカシは一度、イタチの瞳術を食らって相当痛い目に合っている。だからこそ、次はまともに戦えるように分析したのだ。
「イタチはオレがやる」
「カカシ先生!」
「でも、オレだけでもきついから、ナルト、援護を頼むよ」
カカシが突っ込んでいき、ナルトがイタチの影分身を追う。
ナナとサクラとチヨバアは動けなかった。瞳術使いと戦うには、相手の目を見ずに、体の動きだけを見て戦わなければならない。
それが難しいというのもあるし、いざという時、幻術を解く役回りも必要だった。
急にナナの周りが暗くなった。はっとして刀を抜こうとすると、すか、と手が空を切る。腰にあるはずの刀が消えている。
「な、なんで…」
目は見ていない、はず。そこまで鈍臭くはない。
なのに、ナナはイタチの瞳術にはまってしまっていた。
体中、いろんな男の手が這いずり、乱暴に股間を擦られる。服を裂かれそうになって、振り解こうと動かす手は他の手に掴まれた。
「ぁっ…いや、いやだ…っ」
この感じ、知ってる。無力な自分を助けてくれる人は誰もいなかった。だから先生に救われ、カカシと出会って、強くなったと思い込んでいた。
「あ…ぁ…!」
犯される。まだ、こうして犯される。ナナの目から涙が一筋流れた。
「ナナさん!」
急に視界が開けて、体が軽くなった。体にサクラとチヨバアの二人が触れている。
幻術は、他の誰かがチャクラを流し込めば解けるもので、ナナが幻術にかかっていることに気付いて二人が解いてくれたようだった。
「ナナさん、大丈夫ですか!?」
「はぁ、ッ…あ、ありがと…」
「お前さん、幻術は苦手なようじゃな」
ぽんぽんのチヨバアに背中を叩かれて、現実に引き戻される。
幻術は中忍試験の時にもあったが、それもカカシによって解かれていた。自分で対処したことは一度もなかったのだ。
五色に幻術使いは一人もいない。五色にいる以上は必要のない能力だった。
どん、とすごい音が響いて、皆カカシとナルトを見る。カカシのサポートが上手く、イタチを捕まえる事に成功して、ナルトが必殺技である大玉螺旋丸をイタチにぶつける。
その威力はすさまじく、イタチに限らず、その辺りが一気に吹き飛んでいた。
「ナナ!大丈夫だったか!?」
すぐにカカシがナナに向かって飛んできた。ナナが幻術にかかったのに気付いていたらしい。
しかし、カカシがナナに伸ばした手をナナはぱちん、と叩き落としてしまった。
初めて会ったときのような、明らかな拒絶がその目にある。
「ナナ…オレは酷いこと、したりしないよ」
「あ、あぁ…わかってる…」
「オレの手握れる?」
「…ん」
もう一度差し出された手を、今度はぎゅっと握り締めた。そのナナの手は少し震えていて、抱きしめたくなる思いをカカシは目を逸らすことで耐えていた。
「あ…あの、ナナさん、顔色悪いけど…」
「少し、幻術が効いちゃったみたいね」
心配そうに近づいてきたサクラに対し、カカシはナナの代わりに答えた。
幻術には、いろいろあるが、イタチほどの瞳術使いなら、相手のトラウマのような精神的苦痛を見せることも可能だろう。ナナのトラウマなら知っている。
だから、カカシはそっとナナから離れてサクラに任せることにした。
「ナナさん…ごめんなさい、私がもっと早く」
「いや、俺…決定的なくらい幻術に弱かったんだ…。それをわかっていなかった、俺が悪い」
ごめん、ありがとう。元気なく微笑するナナに、サクラは戸惑いながらも、いいえと小さく返事をした。
イタチだと思って戦っていた男は、イタチの姿ではなくなっていた。砂の里の上忍、由良。
もはやナルトの大玉螺旋丸をくらって生きてはいなかったため、確認のしようはなくなってしまったが、変化というにはイタチにしか使えない術を使っていたし、暁に使われていたのかも、裏切っていたのかもわからなかった。
「まいったな。本体は恐らく暁のアジトだ。目的はオレたちの足止めと、情報収集ってとこか」
カカシが言うと、チヨバアも大きく頷いた。
「…明らかに暁の時間稼ぎ…。奴らは既に尾獣を引き剥がしにかかっとる!」
「まずいな。早く我愛羅くんを助けなければ」
我愛羅やナルトのような尾獣を封印された人間を人柱力と呼ぶ。そして、その人柱力は尾獣を体から抜かれると、死んでしまう。
それを聞いたサクラは目に涙をためてナルトを見た。しかし当人であるナルトはいつものように笑う。
「我愛羅は、オレが助けっから」
「ナルト、私はナルトのことを…!」
「さ、早く行くってばよ!」
ナルトは心配されたくないのか、向きを変えて歩き出した。その背中を見つめるサクラの目は、ナルトを思って辛そうに歪んでいる。
ナナは、サクラのように声をかけてやることも出来なかった。
ナルトを追ってサクラが行く。カカシはチヨバアに目で小さく合図を出すと、チヨバアも先を追い掛けた。
その場に残って動かなかったカカシとナナが二人きりになる。カカシは未だ青ざめた表情でいるナナの背に手をやった。
「ナナ」
「わかってる、こんなとこで…足止めてる場合じゃねぇ、よな」
「無理する必要はないよ。誰でも、どうしても耐えられないものってのはある」
ナナは確かに強くなって帰ってきた。しかし、過去を忘れてきたわけではない。
「俺がどんな幻術見てたか、あんたにはお見通し…ってことか」
「…ナナ」
「抱きしめて、くんないわけ?」
「へ?」
「俺のこと、慰めて…くれるんだろ…?」
カカシがナナに何かする前に、ナナの方からカカシに体を預けた。人の体温ほど、安心出来るものはない。
「ナナ、あまりそう…可愛いことばっかりしないでくれる?」
「…うっせぇ」
カカシがナナの体をきつく抱きしめ、それからすぐに体を離した。前を行く三人を早く追わなければならない。本当はこうして離れてしまうのだって許されない。隊で動くというのはそういうことだ。
「ありがと、もう大丈夫…」
「ん。じゃあ行こうか」
先にカカシが飛び出して、ナナはその背中に暖かさを感じながら、すぐ後ろを追った。
・・・
暫く走って行くと、森を抜けて水辺に出た。
そこには特に目立って何かあるわけでなく、どん、と大きな岩が道を塞いでいるだけ。
しかし、その岩に結界の札が貼られているあたり、そこに暁がいるというのは間違いないようだった。
「遅かったな、カカシ」
「いやぁ、途中面倒なのに捕まってね」
その岩の前に立つ丸い頭のシルエット。ガイ班だった。カカシ班の援護に呼ばれ、別の方向から暁のアジトに向かっていたらしい。
「あ…あ…あなたは…!」
「…ん?」
「ナナさん!」
顔を会わせるのは中忍試験以来のガイ班、ロック・リーと日向ネジとテンテン。
ナナの顔を見てぱっと笑顔になったリーがナナの手を両手で握り込む。
「お久しぶりです!ボクのこと、覚えていますか!?」
「え…あぁ…」
「五色に帰ってしまったと聞いていましたが…木ノ葉に戻っていたんですね!」
「ちょっと、リー。ナナさん困ってるでしょ」
脇からひょい、と顔を出したのはガイ班紅一点のテンテン。ナナはこの班で個人的に話をしたことがあるのはリーだけだった。
「中忍試験じゃ、ナナさんと話す機会も戦う機会もなかったから…実はちょっと気になってたんですよねー」
「テンテン、今はボクが…」
「背、高いですよねぇ。年はいくつなんですか?」
「え…19、だけど」
「へぇ、2つ上なんだぁ。大人っぽいわけだ」
きゃっきゃとナナを囲むテンテンと、リーを見てネジは聞こえるように大きなため息を吐いた。五色ナナは確かに興味を引く存在であるが、今はそれをする時ではない。
「はいはい、お話はそこまでね」
「さ、やるぞ!」
カカシとガイの言葉で、ぱっと雑談するのを止める。そういうところはさすがだ。
結界を解く方法は、当たりに貼られている五枚の札を剥がすこと。そうすれば、岩を破壊することが可能になる。
ガイ班が散って、札を剥しに向かった。カカシ班は岩を破壊して、中に突入する。岩を壊す役は、最もパワーのあるサクラが担当することになった。
一発叩き込んだだけで崩れていく岩を見て、ナナは茫然とした。
サクラがこんなパワーを持っていたことも知らない。女って怖いと思った瞬間だった。
大きな洞窟のような場所、岩のその奥に、暁の者が二人と我愛羅がいた。倒れた我愛羅の上に座っている金髪の男デイダラと、固い傀儡のような体の男サソリ。
「…おい、我愛羅!立てよ!」
ナルトは殺気立ってチャクラを体から溢れさせている。
そのチャクラの異様さと言ったらナナは無意識にこれがバケモノの力か、と思ってしまった。
「我愛羅!何そんなとこで寝てんだ!」
「おいおい、わかってんだろ?とっくに死んでるってな、うん?」
ナルトの性格を知った上で、デイダラが口を開く。その思惑通り、ナルトは敵に向かって一人で突っ走って行った。
初めからその作戦であったかのように、デイダラが鳥のような物体に乗ってその場から飛び去って行く。
当然、挑発に乗ってしまったナルトはデイダラを追って行ってしまった。
「しまった!ナナ!任せていいか!?」
「あぁ、ナルトを追ってくれ」
ナルトを追ってカカシも岩の向こうへ姿を消す。
必然的に、そこにはナナとチヨバアとサクラが残った。相手は一人、チヨバアの孫、サソリだ。
「あやつとまともにやり合えるのは…奴の傀儡のカラクリを理解しておるワシくらいじゃ」
「…では、俺やサクラはどうすれば」
「打撃力のあるサクラはワシと共に奴へ突っ込む。ナナは援護を頼む」
こちらの作戦は、チヨバアが傀儡を操るチャクラ糸でサクラを操作しながら近付き、サクラの拳でサソリが纏っている傀儡を破壊することが前提。
それから、中にいる本体を攻撃しなければならない。ナナは無駄に近づいても足手まといにしかならないため、なるべく遠くから援護。
「お前さんの面倒までは見てやれんぞ」
「大丈夫です。自分の身は自分で守れる」
ナナは我愛羅の砂の絶対防御の応用、風の壁を体の周りにつくることが出来た。砂と違って薄いため、忍具を弾き返すくらいしか出来ないものの、今回の戦いでは大いに役に立ちそうだった。
傀儡使いは基本的にカラクリとして仕込むのは忍具だ。
「行くぞ、サクラ」
「はい!」
チヨバアとサクラが突っ込む。ナナは頭上の岩壁に張り付き、上から二人の援護とサソリの隙を狙った。
チヨバアの実力はさすがなものだった。ほとんどナナが手を出す必要はない。サソリの方も初めはナナにも攻撃をしてきたが、効かないことと何もしてこないことがわかると、何もしてこなくなった。
チヨバアがサソリの尾にもチャクラ糸を付けていたため、一瞬サソリの動きが止まる。その隙に、サクラが全力の拳を叩き込んだ。
それによって、ようやく本体が出る。ごつい傀儡の中に入っていたとは思えない、若い青年が中から現れ、サクラも、チヨバアまでも驚きに言葉を失った。
「…こいつが、サソリ?」
「昔から、姿が変わっておらぬ…」
二人の言葉がナナの耳にも届いた。ということは、サソリも傀儡なのではないか。だからといって作戦が浮かぶわけでもないが、本当に倒せるのかという不安がナナを襲っていた。
「なぁ、上にいる奴…五色ナナだろう」
「…!?」
三代目風影だという傀儡を片手にサソリがナナの方を見ている。
「どうして、俺を知ってる…?」
「ふん、大蛇丸の奴が欲しがっていたからな」
「ッ…!」
「お前だけは殺さずに、交渉道具として使ってやるよ」
サクラの顔色が変わった。大蛇丸が狙っているのはサスケだということしか知らなかった。ナナもだなんて聞いていない。
「ナナさん、それって…!」
その話の方に気が向いている間に、傀儡から出た大量の手がナナに襲いかかった。
「しまっ…!」
チヨバアも集中の切れていた瞬間で、ナナの体にたくさんの傀儡の手が絡みつく。風の壁など、この手の攻撃に対応しきれずに、ナナの体はサソリの方に引き寄せられていった。
「…っん、」
ナナの体がしめつけられて軋む。痛みに漏れたナナの声を聞いたサソリはなるほど、と頷いた。
「男受けしそうな顔…声…体、か」
「くっ」
何か体に刺さった感覚。そして一気に体から力が抜ける。殺すような強い毒ではなく、体をしびれさせるようなタイプの毒だった。
ナナが拘束され、体が思うように動かないのをいいことに、サソリの傀儡はナナのズボンを膝までずり下げた。
「な…!?」
「年頃の女の動きくらいはその体で止めてみせろ」
「あ、阿呆か…っ」
上に来ている服が太腿を覆う長さだから丸見え状態になってはいないが、絡みつく傀儡の手が足を広げさせてくる。
必死に抵抗しながら、サクラとチヨバアに目を向けた。見ないで欲しいが助けて欲しい。嫌な記憶が蘇る前に。
「サクラ、こんな手に引っかかるでないぞ」
「大丈夫です、ごちそうさま!」
「…サクラ…よだれ」
チヨバアとサクラのやり取りにナナはがくりと項垂れた。サクラはどうやらこういうのに慣れているのかなんなのか。ある意味な恐怖に冷や汗が流れた。
「…なんだ、お前役に立たないな」
「悪かったな…って、変なとこ、触んな…」
ここまでされてもトラウマが蘇らないのは、サソリに全くその気がないからだった。そもそも体に触れているのは傀儡であるし、今までのいやらしい男たちとは違う。
「ナナさん!すぐ助けますから!」
「悪い…」
再びサクラとチヨバアの目が真剣なものに変わった。サソリの傀儡に対抗して、チヨバアも二体の傀儡を出す。サソリの両親の傀儡だった。
チヨバアの傀儡は二体でワイヤーを操るもので、ナナに絡みついていた傀儡の手も切られて、そこにナナの体は落ちる。
サクラもまた、大蛇丸の名を聞いて本気になっていた。
大蛇丸のことを聞き出してやる、という意気込みがナナにも感じられて、またナナは申し訳なくなる。
「ナナさん!」
先の戦いでもサクラに助けられて、またサクラに救われる。ナナの方が、本来なら力があって、前に立って戦うべきなのに。
「サクラ、危ない…!」
サクラが差し出してきた手を握り締めて、ナナはサクラの体を抱き込んだ。背後から迫っていたサソリの攻撃から庇う。
一瞬でもと風の壁を作ったが、サソリの傀儡の術は砂鉄で。隙間から入り込んだ砂鉄はナナの体に突き刺さっていた。
「っう…」
「ナナさん!?」
「いい、俺のことは…気にしないで…奴に集中してくれ」
もはやナナの体は毒に侵され自由に動かなかった。それに、サソリがナナを殺す気がないのなら、放っておかれても問題はない。
「ナナさん…せめて解毒剤を…!」
「いい。後にとっとけ…」
いろんな性質のチャクラを体に流し込み続ければ、多少の解毒は体の中で出来る。だから大丈夫だ。
それを伝えるとサクラは視線の先をサソリに切り替えた。
そこで、ナナの意識は途切れた。
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「そんな任務ノーサンキューだってばよ!」
「あん!?何か文句あんのか?」
体は成長したものの、中身は昔のままのようで、ナルトは先ほどから文句ばかり言っている。火影である綱手の額に血管が浮き出る様子に、サクラははらはらしているようだ。
「ナナからも何か言ってやってちょうだいよ」
「は?なんで俺が…」
ナルトに困り果てたカカシがナナに振ると、ナナに視線が集まった。このメンバーの中では確かに少し大人ではあるが、こういう面倒事ばかり押し付けないで欲しい。
はぁ、と息を吐いてから、ナナはナルトに視線を送った。
「…な、なんだってばよ」
「いや、ナルトはどう思ってんのか知んねぇけど…。俺はこのメンバーで任務出来んなら、なんだっていいんだけどな」
きゅん。という効果音がその場にいた人間全員から発せられた。
「ず…ずるいってばよ…」
「ナルト、負けを認めなさい」
うぅ、と言って頭を下げたナルトを見て綱手も安心したように目を閉じて笑った。
それからカカシもナナを見て目を細める。以前のナナならきっとこんなことは言わなかった。
今の、たぶん本心なんだろうな…と思うと急にナナが可愛く見えて来て。
「カカシ先生?なんか手の動き気持ち悪いんですけど」
「ん?あぁ、気にしないで」
「…」
サクラとナナの冷たい目を浴びながらカカシはへらっと笑った。
「た…大変です、五代目!」
火影の元に来るとは思えないような、乱暴な勢いで扉がばたんと開いた。そこに立っているのは暗号班の女性で、急いで来たのか肩で息をしている。
「何だ?騒々しい」
「砂隠れの風影が暁という組織の者に連れ去られたと…たった今連絡がありました!」
この報告に一番反応したのはナルトだった。
ナナにとっては、ナルトを狙っている連中が動き出した、という解釈しか出来なかったが、ナルトやサクラは違う。
風影は中忍試験時に会った我愛羅。二人には面識があるし、ナルトは我愛羅と戦い、認め合った間柄だった。
「…これよりカカシ班に任務を言い渡す」
直ちに砂隠れの里へ行き、状況を把握し木ノ葉に伝達。その後砂隠れの命に従い彼らを支援しろ。
サスケの抜けたこのメンバーでの久々に行う任務は、とても重要な任務になってしまった。
・・・
「じゃ!いってくるってばよ!」
すぐに準備して、カカシ班は出発した。
出発時にナルトは自来也に何か言われていたが、微かに暁、という単語が聞こえた当たり、狙われているのだから気をつけろ、とかそういうことだろう。
砂に向かっている間、ナナはカカシの横についた。
「なぁ…」
「ん、なぁに?」
早く我愛羅を助けたいという思いがあるナルトは既に少し離れた先の方にいる。無意識にそれを確認してから口を開いた。
「暁ってやつ、ナルトを狙ってんだろ?なんで風影が連れ去られなければならなかったんだ?」
「んー…」
「それって皆どこまで知ってるもんなんだ?知らないの、俺だけ…?」
ナルトの秘密。これはナナに限らず、ほとんどの人間が知らないものだった。言ってはいけないということではない。しかし、カカシから言うべきことでもないのだ。
「それってさ、何。信用されてないわけ?頑なに口閉ざす意味…わかんねぇ」
何か事情があるのはわかっても、仲間外れにされているような感覚がナナにとっては不服だった。それでなくても、共にいる時間は一人少ないというのに。
「ナルト!急いでるからって、隊を乱さないで!」
前から聞こえてきたサクラの声。はっとしてカカシとナナがそちらに目を向けると、ナルトが一人先に行っている姿が見えた。
話をしていた二人は少し遅れてしまっていたためにスピードを上げて追いつく。
ナルトが何か訴えているのが聞こえてきた。
「サクラちゃんも…もう知ってんだろ?オレの中に、九尾の妖狐が封印されてんの…」
「…?」
どういうことだ。疑問が口から出そうになる。
しかし、ナナはサクラとカカシの表情が固くなったのに気付いて、何か言いそうになったのを堪えた。
「我愛羅もオレも…バケモノを飼ってるからな…あいつらはそれを狙ってんだ」
バケモノ。つまり、九尾の妖狐って奴のことだ。そして、あいつらとは…恐らく暁のこと。
「気に食わねぇ!その、オレたちをバケモノとしか見てねぇ、あいつらの好き勝手な見方が…!」
いつの間に、ナルトはそんなことに巻き込まれて、そんな風に思うようになっていたのだろう。
ナナは顔を伏せて、ナルトの思いを受け止めようとしていた。
「ねぇ、ナルトは逢ったことあるんでしょ?うちはイタチに。それで、彼に狙われてる」
今度話出したのはサクラだった。
「サスケくんが殺したい相手って、実の兄、暁の一員のうちはイタチのことでしょ?それで力をつけようと…大蛇丸の元に行った」
ここからはナナにもわかる話だった。サスケは大蛇丸の元へ行ったが、本当の大蛇丸の狙いはサスケの体。あと半年で、サスケは大蛇丸の体の器にされてしまう。
「つまり…暁に近付けば大蛇丸の情報も入る。それでサスケくんにも近づける。そういうことよね」
ナルトもサクラもずいぶんいろいろなことを考えていて、それはナナよりも、もっと大人に見えた。この、砂隠れに行くという任務に対しても、そういう思いを持って向かっている。
ナナは何もわかっていなかった自分に申し訳なくなっていた。
「…かっこいいな、ナルトも、サクラも」
「ナナさん…?」
「志あって動いてるんだもんな…」
自分には何もない。そう、思わされてしまった。
五色のことも中途半端に戻ってきて、だからといって木ノ葉で何かしなければならないこともあるわけじゃない。
「ナナには、ナナにしか出来ないことがある」
「カカシ…?」
「自分にしか出来ないことがある人間はそういない。それだけでも、ナナはかっこいいよ」
気を遣ってくれた。
こんな風に、すぐにフォローの言葉を出せる人間もそういない。とは思いつつも、そんなこと言ったらカカシは調子にのるだろうと、ナナは何も言わなかった。
・・・
砂につくと、暁のサソリという男にやられて毒に侵されているという、カンクロウの治療に向かった。カンクロウは我愛羅の兄、そしてそこまで案内してくれたテマリは我愛羅の姉だった。
「私が見ます!」
一歩前に出たのはサクラ。サクラは医療忍者である綱手を師匠に持っていたため、いつの間にか医療忍術も使えるようになっていた。
医療室に入ると、カンクロウを囲んでいる者が何人か。
その中の一人、年老いたおばあさんがカカシの姿を見た途端に目を光らせた。
「…木ノ葉の白い牙!息子の仇…!」
急にカカシに突っ込んでくるおばあさんの攻撃をナルトが相殺する。ナナもカカシを庇うように、カカシの前に出ていた。
「姉ちゃんよ、よく似ているが、こいつは白い牙でねーよ」
その横にいたおじいさんがそう言うと、おばあさんはボケたフリだと笑ったが、明らかにカカシを殺すつもりで突っ込んできていた。
「なぁ、カカシ?木ノ葉の白い牙って…?」
「あぁ、オレの父親だよ」
「悪い奴だったのか?」
「いやぁ…そんなことはないと思うけどね」
砂と木ノ葉が正式に同盟を結んだのは、二年前の中忍試験後。大蛇丸によって騙された砂が、木ノ葉に借りを返すと協力するようになった頃だ。
昔は争っていたのかもしれない。
そんなどうでもいいやり取りをしている間にも、サクラは毒抜きを終わらせて、これからの戦闘にも備えて出来る限りの解毒剤を作りにかかっている。
「サクラ、すごいな」
ぼそりと呟いた言葉はサクラにも届いてしまったようで、振り返ると照れたように笑ってみせた。
向こうでは、カカシが情報を集め始めている。赤砂のサソリ。元々砂隠れの忍で、今さっきカカシに攻撃してきた、おばあさん、チヨバアの孫だという。
「うずまきナルト…弟を頼む…」
「負かしとけってばよ!オレもいずれ火影になる男だからな、風影に貸しつくっといてやる」
そしてナルトは、カンクロウに直接頭を下げられて、信用を得ている。それも、我愛羅と同じ、尾獣持ちだからなのか。
「俺にしか…出来ないこと、か」
五色という名前に頼らずに出来ることはないのだろうか。
ナナは自分の手を見つめて、それから強く握り締めた。役に立ちたい、純粋な思いだった。
・・・
出発準備が出来て、暁を目指そうとするカカシ班の横には、何故かチヨバアも一緒にいた。
なんでも、孫を久しぶりに可愛がってやるのだそうだ。
目的地に向かう間、再び尾獣の説明を受けることになった。あまり詳しくは知らないサクラとナナと違って、カカシと、特にチヨバアは相当詳しく知っているようで。
ナナには違う世界の話にも聞こえたほどだった。
尾獣は一から九まで、尾の数が違う獣がいて、人間の体に封印される。そうでもしないと強大な力が抑えられないから。
九尾は昔、木ノ葉で暴れ多くの死者を出したこともあり、完全に極秘扱いされているほどだった。
暁の狙いは、その全ての尾獣を集めることにある。集めてどうするかということまでは、まだわかっていないが。それが集まってしまったときの力の大きさは計り知れない。
「なんだかな…俺にはよくわからない」
「まぁ、ね。これを理解しろとは言わないよ。今は暁を止めること、それが出来ればいいんだ」
「…ん」
そう言われてしまうと悔しくて、ナナは少し唇を尖らせた。
「ナナ、あまり深く考える必要はないんだからな」
「な、そんな念押ししなくていいだろ…」
「ナナが、気にしてそうだったからね」
カカシはよく見てる。それは嬉しいのだが、見透かされていると思うとそれもまた悔しい要素に変わって、ナナは素直に頷けなかった。
まだ目的地は先なのに、急にカカシが足を止めた。手を横に伸ばして、止まれと合図している。
目の前に、一人誰かが立っているのには全員すぐに気付いたが、それが誰かはわからなかった。
「うちはイタチ…」
ナルトが言った名前で、全員の空気がぴしっと変わった。うちはイタチ、暁の一員でサスケの実の兄。
兄というには、あまりサスケとは似ていない風貌で、落ちついた雰囲気もクールな雰囲気だったサスケとは違って見える。
「久しぶりですね…カカシさん…ナルトくん」
それでも、うちはという一族であることに違いはなく、イタチの目はサスケと同じ、そしてカカシの片目とも同じ写輪眼。
カカシはその写輪眼を持っているために「コピー忍者のカカシ」と他の里でも有名だが、写輪眼の力はコピーだけではない。
イタチは目で敵を自分の幻術に落とすことが出来る。瞳術使いだった。
「イタチの瞳術は少し厄介で…“万華鏡写輪眼”これを食らえば、ほんの一瞬で奴の瞳術にはまることになるぞ」
カカシは一度、イタチの瞳術を食らって相当痛い目に合っている。だからこそ、次はまともに戦えるように分析したのだ。
「イタチはオレがやる」
「カカシ先生!」
「でも、オレだけでもきついから、ナルト、援護を頼むよ」
カカシが突っ込んでいき、ナルトがイタチの影分身を追う。
ナナとサクラとチヨバアは動けなかった。瞳術使いと戦うには、相手の目を見ずに、体の動きだけを見て戦わなければならない。
それが難しいというのもあるし、いざという時、幻術を解く役回りも必要だった。
急にナナの周りが暗くなった。はっとして刀を抜こうとすると、すか、と手が空を切る。腰にあるはずの刀が消えている。
「な、なんで…」
目は見ていない、はず。そこまで鈍臭くはない。
なのに、ナナはイタチの瞳術にはまってしまっていた。
体中、いろんな男の手が這いずり、乱暴に股間を擦られる。服を裂かれそうになって、振り解こうと動かす手は他の手に掴まれた。
「ぁっ…いや、いやだ…っ」
この感じ、知ってる。無力な自分を助けてくれる人は誰もいなかった。だから先生に救われ、カカシと出会って、強くなったと思い込んでいた。
「あ…ぁ…!」
犯される。まだ、こうして犯される。ナナの目から涙が一筋流れた。
「ナナさん!」
急に視界が開けて、体が軽くなった。体にサクラとチヨバアの二人が触れている。
幻術は、他の誰かがチャクラを流し込めば解けるもので、ナナが幻術にかかっていることに気付いて二人が解いてくれたようだった。
「ナナさん、大丈夫ですか!?」
「はぁ、ッ…あ、ありがと…」
「お前さん、幻術は苦手なようじゃな」
ぽんぽんのチヨバアに背中を叩かれて、現実に引き戻される。
幻術は中忍試験の時にもあったが、それもカカシによって解かれていた。自分で対処したことは一度もなかったのだ。
五色に幻術使いは一人もいない。五色にいる以上は必要のない能力だった。
どん、とすごい音が響いて、皆カカシとナルトを見る。カカシのサポートが上手く、イタチを捕まえる事に成功して、ナルトが必殺技である大玉螺旋丸をイタチにぶつける。
その威力はすさまじく、イタチに限らず、その辺りが一気に吹き飛んでいた。
「ナナ!大丈夫だったか!?」
すぐにカカシがナナに向かって飛んできた。ナナが幻術にかかったのに気付いていたらしい。
しかし、カカシがナナに伸ばした手をナナはぱちん、と叩き落としてしまった。
初めて会ったときのような、明らかな拒絶がその目にある。
「ナナ…オレは酷いこと、したりしないよ」
「あ、あぁ…わかってる…」
「オレの手握れる?」
「…ん」
もう一度差し出された手を、今度はぎゅっと握り締めた。そのナナの手は少し震えていて、抱きしめたくなる思いをカカシは目を逸らすことで耐えていた。
「あ…あの、ナナさん、顔色悪いけど…」
「少し、幻術が効いちゃったみたいね」
心配そうに近づいてきたサクラに対し、カカシはナナの代わりに答えた。
幻術には、いろいろあるが、イタチほどの瞳術使いなら、相手のトラウマのような精神的苦痛を見せることも可能だろう。ナナのトラウマなら知っている。
だから、カカシはそっとナナから離れてサクラに任せることにした。
「ナナさん…ごめんなさい、私がもっと早く」
「いや、俺…決定的なくらい幻術に弱かったんだ…。それをわかっていなかった、俺が悪い」
ごめん、ありがとう。元気なく微笑するナナに、サクラは戸惑いながらも、いいえと小さく返事をした。
イタチだと思って戦っていた男は、イタチの姿ではなくなっていた。砂の里の上忍、由良。
もはやナルトの大玉螺旋丸をくらって生きてはいなかったため、確認のしようはなくなってしまったが、変化というにはイタチにしか使えない術を使っていたし、暁に使われていたのかも、裏切っていたのかもわからなかった。
「まいったな。本体は恐らく暁のアジトだ。目的はオレたちの足止めと、情報収集ってとこか」
カカシが言うと、チヨバアも大きく頷いた。
「…明らかに暁の時間稼ぎ…。奴らは既に尾獣を引き剥がしにかかっとる!」
「まずいな。早く我愛羅くんを助けなければ」
我愛羅やナルトのような尾獣を封印された人間を人柱力と呼ぶ。そして、その人柱力は尾獣を体から抜かれると、死んでしまう。
それを聞いたサクラは目に涙をためてナルトを見た。しかし当人であるナルトはいつものように笑う。
「我愛羅は、オレが助けっから」
「ナルト、私はナルトのことを…!」
「さ、早く行くってばよ!」
ナルトは心配されたくないのか、向きを変えて歩き出した。その背中を見つめるサクラの目は、ナルトを思って辛そうに歪んでいる。
ナナは、サクラのように声をかけてやることも出来なかった。
ナルトを追ってサクラが行く。カカシはチヨバアに目で小さく合図を出すと、チヨバアも先を追い掛けた。
その場に残って動かなかったカカシとナナが二人きりになる。カカシは未だ青ざめた表情でいるナナの背に手をやった。
「ナナ」
「わかってる、こんなとこで…足止めてる場合じゃねぇ、よな」
「無理する必要はないよ。誰でも、どうしても耐えられないものってのはある」
ナナは確かに強くなって帰ってきた。しかし、過去を忘れてきたわけではない。
「俺がどんな幻術見てたか、あんたにはお見通し…ってことか」
「…ナナ」
「抱きしめて、くんないわけ?」
「へ?」
「俺のこと、慰めて…くれるんだろ…?」
カカシがナナに何かする前に、ナナの方からカカシに体を預けた。人の体温ほど、安心出来るものはない。
「ナナ、あまりそう…可愛いことばっかりしないでくれる?」
「…うっせぇ」
カカシがナナの体をきつく抱きしめ、それからすぐに体を離した。前を行く三人を早く追わなければならない。本当はこうして離れてしまうのだって許されない。隊で動くというのはそういうことだ。
「ありがと、もう大丈夫…」
「ん。じゃあ行こうか」
先にカカシが飛び出して、ナナはその背中に暖かさを感じながら、すぐ後ろを追った。
・・・
暫く走って行くと、森を抜けて水辺に出た。
そこには特に目立って何かあるわけでなく、どん、と大きな岩が道を塞いでいるだけ。
しかし、その岩に結界の札が貼られているあたり、そこに暁がいるというのは間違いないようだった。
「遅かったな、カカシ」
「いやぁ、途中面倒なのに捕まってね」
その岩の前に立つ丸い頭のシルエット。ガイ班だった。カカシ班の援護に呼ばれ、別の方向から暁のアジトに向かっていたらしい。
「あ…あ…あなたは…!」
「…ん?」
「ナナさん!」
顔を会わせるのは中忍試験以来のガイ班、ロック・リーと日向ネジとテンテン。
ナナの顔を見てぱっと笑顔になったリーがナナの手を両手で握り込む。
「お久しぶりです!ボクのこと、覚えていますか!?」
「え…あぁ…」
「五色に帰ってしまったと聞いていましたが…木ノ葉に戻っていたんですね!」
「ちょっと、リー。ナナさん困ってるでしょ」
脇からひょい、と顔を出したのはガイ班紅一点のテンテン。ナナはこの班で個人的に話をしたことがあるのはリーだけだった。
「中忍試験じゃ、ナナさんと話す機会も戦う機会もなかったから…実はちょっと気になってたんですよねー」
「テンテン、今はボクが…」
「背、高いですよねぇ。年はいくつなんですか?」
「え…19、だけど」
「へぇ、2つ上なんだぁ。大人っぽいわけだ」
きゃっきゃとナナを囲むテンテンと、リーを見てネジは聞こえるように大きなため息を吐いた。五色ナナは確かに興味を引く存在であるが、今はそれをする時ではない。
「はいはい、お話はそこまでね」
「さ、やるぞ!」
カカシとガイの言葉で、ぱっと雑談するのを止める。そういうところはさすがだ。
結界を解く方法は、当たりに貼られている五枚の札を剥がすこと。そうすれば、岩を破壊することが可能になる。
ガイ班が散って、札を剥しに向かった。カカシ班は岩を破壊して、中に突入する。岩を壊す役は、最もパワーのあるサクラが担当することになった。
一発叩き込んだだけで崩れていく岩を見て、ナナは茫然とした。
サクラがこんなパワーを持っていたことも知らない。女って怖いと思った瞬間だった。
大きな洞窟のような場所、岩のその奥に、暁の者が二人と我愛羅がいた。倒れた我愛羅の上に座っている金髪の男デイダラと、固い傀儡のような体の男サソリ。
「…おい、我愛羅!立てよ!」
ナルトは殺気立ってチャクラを体から溢れさせている。
そのチャクラの異様さと言ったらナナは無意識にこれがバケモノの力か、と思ってしまった。
「我愛羅!何そんなとこで寝てんだ!」
「おいおい、わかってんだろ?とっくに死んでるってな、うん?」
ナルトの性格を知った上で、デイダラが口を開く。その思惑通り、ナルトは敵に向かって一人で突っ走って行った。
初めからその作戦であったかのように、デイダラが鳥のような物体に乗ってその場から飛び去って行く。
当然、挑発に乗ってしまったナルトはデイダラを追って行ってしまった。
「しまった!ナナ!任せていいか!?」
「あぁ、ナルトを追ってくれ」
ナルトを追ってカカシも岩の向こうへ姿を消す。
必然的に、そこにはナナとチヨバアとサクラが残った。相手は一人、チヨバアの孫、サソリだ。
「あやつとまともにやり合えるのは…奴の傀儡のカラクリを理解しておるワシくらいじゃ」
「…では、俺やサクラはどうすれば」
「打撃力のあるサクラはワシと共に奴へ突っ込む。ナナは援護を頼む」
こちらの作戦は、チヨバアが傀儡を操るチャクラ糸でサクラを操作しながら近付き、サクラの拳でサソリが纏っている傀儡を破壊することが前提。
それから、中にいる本体を攻撃しなければならない。ナナは無駄に近づいても足手まといにしかならないため、なるべく遠くから援護。
「お前さんの面倒までは見てやれんぞ」
「大丈夫です。自分の身は自分で守れる」
ナナは我愛羅の砂の絶対防御の応用、風の壁を体の周りにつくることが出来た。砂と違って薄いため、忍具を弾き返すくらいしか出来ないものの、今回の戦いでは大いに役に立ちそうだった。
傀儡使いは基本的にカラクリとして仕込むのは忍具だ。
「行くぞ、サクラ」
「はい!」
チヨバアとサクラが突っ込む。ナナは頭上の岩壁に張り付き、上から二人の援護とサソリの隙を狙った。
チヨバアの実力はさすがなものだった。ほとんどナナが手を出す必要はない。サソリの方も初めはナナにも攻撃をしてきたが、効かないことと何もしてこないことがわかると、何もしてこなくなった。
チヨバアがサソリの尾にもチャクラ糸を付けていたため、一瞬サソリの動きが止まる。その隙に、サクラが全力の拳を叩き込んだ。
それによって、ようやく本体が出る。ごつい傀儡の中に入っていたとは思えない、若い青年が中から現れ、サクラも、チヨバアまでも驚きに言葉を失った。
「…こいつが、サソリ?」
「昔から、姿が変わっておらぬ…」
二人の言葉がナナの耳にも届いた。ということは、サソリも傀儡なのではないか。だからといって作戦が浮かぶわけでもないが、本当に倒せるのかという不安がナナを襲っていた。
「なぁ、上にいる奴…五色ナナだろう」
「…!?」
三代目風影だという傀儡を片手にサソリがナナの方を見ている。
「どうして、俺を知ってる…?」
「ふん、大蛇丸の奴が欲しがっていたからな」
「ッ…!」
「お前だけは殺さずに、交渉道具として使ってやるよ」
サクラの顔色が変わった。大蛇丸が狙っているのはサスケだということしか知らなかった。ナナもだなんて聞いていない。
「ナナさん、それって…!」
その話の方に気が向いている間に、傀儡から出た大量の手がナナに襲いかかった。
「しまっ…!」
チヨバアも集中の切れていた瞬間で、ナナの体にたくさんの傀儡の手が絡みつく。風の壁など、この手の攻撃に対応しきれずに、ナナの体はサソリの方に引き寄せられていった。
「…っん、」
ナナの体がしめつけられて軋む。痛みに漏れたナナの声を聞いたサソリはなるほど、と頷いた。
「男受けしそうな顔…声…体、か」
「くっ」
何か体に刺さった感覚。そして一気に体から力が抜ける。殺すような強い毒ではなく、体をしびれさせるようなタイプの毒だった。
ナナが拘束され、体が思うように動かないのをいいことに、サソリの傀儡はナナのズボンを膝までずり下げた。
「な…!?」
「年頃の女の動きくらいはその体で止めてみせろ」
「あ、阿呆か…っ」
上に来ている服が太腿を覆う長さだから丸見え状態になってはいないが、絡みつく傀儡の手が足を広げさせてくる。
必死に抵抗しながら、サクラとチヨバアに目を向けた。見ないで欲しいが助けて欲しい。嫌な記憶が蘇る前に。
「サクラ、こんな手に引っかかるでないぞ」
「大丈夫です、ごちそうさま!」
「…サクラ…よだれ」
チヨバアとサクラのやり取りにナナはがくりと項垂れた。サクラはどうやらこういうのに慣れているのかなんなのか。ある意味な恐怖に冷や汗が流れた。
「…なんだ、お前役に立たないな」
「悪かったな…って、変なとこ、触んな…」
ここまでされてもトラウマが蘇らないのは、サソリに全くその気がないからだった。そもそも体に触れているのは傀儡であるし、今までのいやらしい男たちとは違う。
「ナナさん!すぐ助けますから!」
「悪い…」
再びサクラとチヨバアの目が真剣なものに変わった。サソリの傀儡に対抗して、チヨバアも二体の傀儡を出す。サソリの両親の傀儡だった。
チヨバアの傀儡は二体でワイヤーを操るもので、ナナに絡みついていた傀儡の手も切られて、そこにナナの体は落ちる。
サクラもまた、大蛇丸の名を聞いて本気になっていた。
大蛇丸のことを聞き出してやる、という意気込みがナナにも感じられて、またナナは申し訳なくなる。
「ナナさん!」
先の戦いでもサクラに助けられて、またサクラに救われる。ナナの方が、本来なら力があって、前に立って戦うべきなのに。
「サクラ、危ない…!」
サクラが差し出してきた手を握り締めて、ナナはサクラの体を抱き込んだ。背後から迫っていたサソリの攻撃から庇う。
一瞬でもと風の壁を作ったが、サソリの傀儡の術は砂鉄で。隙間から入り込んだ砂鉄はナナの体に突き刺さっていた。
「っう…」
「ナナさん!?」
「いい、俺のことは…気にしないで…奴に集中してくれ」
もはやナナの体は毒に侵され自由に動かなかった。それに、サソリがナナを殺す気がないのなら、放っておかれても問題はない。
「ナナさん…せめて解毒剤を…!」
「いい。後にとっとけ…」
いろんな性質のチャクラを体に流し込み続ければ、多少の解毒は体の中で出来る。だから大丈夫だ。
それを伝えるとサクラは視線の先をサソリに切り替えた。
そこで、ナナの意識は途切れた。
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