リクオ夢(2011.10~2015.03)
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伝説と謳われた妖狐。
一匹の母狐は、自分の欲のためだけに子供を産み落としてしまった。
それが自分の首を絞める行為だと分かっていて、小さな力のない妖狐を育てた。
その子が一人でも生きていけるようになった頃、親狐は子を置いて旅立つ。
今度こそ、伝説の妖狐として。親から受け継がれてきた力を重ねていくために力を持つ妖怪を探さなければならなかった。
遂に見つけた理想の相手は奴良組の二代目総大将。
その時既に妻を持っていた、奴良鯉伴という男だった。
・・・
ある日の夜。
何気なく縁側から外を眺めていた鯉伴の目の前に、その妖怪は姿を現した。
月光を浴びて青白く輝く毛並み。長い尾と、大きな耳。
一目見た瞬間に、鯉伴はこの狐が伝説の妖狐であると気が付いた。
「…どうした、主を失ったのかい…?」
妖狐は自分の子を託せる主を見つけ、甲斐甲斐しく仕えるのだと聞く。
鯉伴の目の前に現れた妖狐は明らかに成熟している。大人の妖狐だ。
「おいで」
鯉伴はその美しい妖狐に手を伸ばした。
途端に尾を左右に揺らし、ひょいと縁側に飛び乗る。
くんっと鼻をひくつかせてから、妖狐は縋るように鯉伴の手に顔を寄せた。
…ああ、これは。
この子が求めているのは力をくれる妖怪だ。
「悪ぃが…お前の力にはなれないかもしれないな」
鯉伴には妻がいる、愛している人間の女性だ。
それを聞いた妖狐は耳を垂れ下げ、それでも鯉伴から離れなかった。
どうしたもんか、と鯉伴は狐の顎の下を撫でながら頭を傾けた。
この狐の目的を考えると傍に置くべきではないのだろう。
しかし、見た目にはただの狐だ。
警戒するのも馬鹿馬鹿しいか。
鯉伴はしょぼくれた妖狐の鼻先を指でつんと弾くと、立ち上がったその足で自身の寝床へ移動した。
「せっかく来たんだ、無下にはしねぇよ。ほら」
ぽんっと妖狐を誘うように布団を掌で叩くと、妖狐はぴんっと耳を立て、嬉しそうに駆け寄ってきた。
そういえば犬猫を飼うことはないから、獣と寝床を共にするのは初めてだ。
鯉伴はもふと腕に顔を乗せた妖狐の頭を撫で、うつらうつらと目を閉じた。
それが初めて共に過ごした夜。
それからというもの、妖狐は毎夜鯉伴の元を訪れるようになった。
狐の姿で、縁側の下で尾を振っている。
鯉伴が良いよと言うまで上がってこず、日が昇る頃には知らぬ間にいなくなる。
そんな健気で分別のある妖狐に、鯉伴はすっかり気を許していた。
・・・
妖狐と出会いから数か月。
相変わらず夜だけやってくる妖狐が普段何をしているのか知らない。
考える必要もない、と思っていたのは既に過去のことだ。
「…なあ首無。伝説の妖狐ってのぁ知ってるかい」
「は、妖狐…ですか。あの強い妖の元に現れるという?」
首無の反応に、鯉伴はこくりと小さく頷いて見せた。
やはり妖怪であれば誰でも耳にしたことがある話らしい。
「…綺麗、なんだろうな」
「そうでしょうね。誰もが羨むと、そう聞いたことがありますし」
誰もが妖狐の主になりたがる。
それほど綺麗な妖が、子を残したいと縋ってきたら、耐えられる者などいるのだろうか。
「お前なら…どうする?」
「は、どうする?」
「子供を作る手伝いをしてやろうと思うか?」
真っ直ぐにそう問いかけた鯉伴に対し、首無は一度眉を深く寄せた。
何を言い出すかと思えば。
馬鹿にする気持ち半分、真面目に返答しようという気持ち半分。
首無は見たことのない妖狐を想像して、浮かせた首を傾けた。
「まあ、名誉なことなんでしょうし、妖狐の手伝いをしてやるのだと割り切れば別に構わないのでは」
「割り切る、か」
鯉伴の口からこぼれるのは、憂いを帯びた息。
柄にもなく何か悩んだ様子の鯉伴に、首無はぽかんと口を開けたままその主の様子を凝視した。
「可哀想な種族だよなぁ…あんなに美しいのに仕えることしかできねぇなんて」
「…二代目?妖狐に見初められでもしたのですか?」
長年鯉伴についてきた首無だが、今まで妖狐など一度たりとも見たことがない。
だからこそ”伝説”というもの。
鯉伴は遠くを見ていた視線を首無に戻し、へらと笑った。
「ああいや、夢でな」
「夢?…なんです、それ。いかがわしい」
若菜様に言いつけますよ、と首無が笑いながら言う。
その首無の背中を「やめろ」と叩きながら、鯉伴は口を閉ざした。
夜中に時折見かける美しい青年。
寝ぼけてなのか、気が抜けてなのか。共に眠りについた狐は、寝ている間に人型になってしまうらしい。
「…許されるのか、いや…」
許されるはずがない。
それでも彼に触れたくなって、眠っているその頬に触れてしまったのは最近のことだ。
自分の腕に頭を乗せて眠る美しい青年。もう一つの妖狐の姿も見慣れてしまった頃。
青年は閉じた目から涙を溢れさせながら、その形の良い唇を開き呟いた。
『…ごめん、なさ…。ご、め…』
すんっと鼻で息を吸い込み、鯉伴の胸にすりと頬を寄せる。
しっとりと濡らす涙を止める術が分からず、親指で軽く拭ってやる。
その瞬間に気付いてしまった。
この謝罪は鯉伴と、そして奴良組と、若菜に向けられているのだと。
鯉伴は徐に立ち上がり、長い前髪をくしゃとかき上げた。
また夜が来る。
あの狐がやってくるのを、縁側に立って待っている自分がいる。
『僕は…鯉伴様の…』
その先の言葉を彼の口から聞いたことはない。
けれど、もしその時が来たら。
胸の妙な高鳴りを感じながら、鯉伴は目を伏せた。
しかし、それから鯉伴の気を病ませていたことが起こることはなく。
何も変わらないまま、更に5年ほどの時が経った。
・・・
庭先から涼しい風が入り込む。
鯉伴は縁側に立ち、月見の酒を一人味わっていた。
若菜の腹に宿った子。
忙しくする鯉伴の代わりに若菜の面倒を見てくれているのは女の妖達だ。
本当は、ほんの少しの時間も傍にいてやるべきだと分かっている。
それでも、鯉伴はあの子を待たずにはいられなかった。
眠りながら伝う涙と、小鳥のようなか細い声で紡がれる謝罪を聞いてからもうずっと。
申し訳なさそうに頭を下げる狐が、縁側から鯉伴が手を振った瞬間嬉しそうに尾を振るから。
「…無礼を、お許しください…鯉伴様」
しかしこの日、その声は鯉伴の背中から聞こえてきた。
いや、こんな風に声を聞くのも初めてだ。
「…妖狐かい」
「申し訳ございません…、どうか、僕を…お許しください…」
振り返りながら、後ろ手で襖を閉める。
部屋の中にいた全身青みがかった色彩の青年は、正座をして頭を下げていた。
「鯉伴様は、ご存じかと思います…妖狐の、習性を…」
「…待て。そんなに怯えることはねぇよ。ほら、顔を上げな」
鯉伴は耳と尾の生えた青年に近付き、手を差し伸べた。
妖狐はそれでも怯えた様子でゆっくりと顔を上げる。
その妖狐の視界に映ったのは、夜桜の舞う薄暗い空間。
座っていたはずの畳も目の前にあった襖もない。
「…これ、は…」
「俺とお前だけの世界だ。何も気にしなくていい。まずは、お前の名前を聞かせちゃくれねぇか」
妖狐の青年は大きく目を開き、一度唇をきゅっと結んだ。
恐る恐る、躊躇いがちに薄く口を開く。緊張しているせいか、ヒュッと大げさに息を吸い込んだ。
「…狐ノ依、と」
「狐ノ依、良い名だな」
数年共に夜を過ごし、初めて知る彼の名前。
それがしっとりと鯉伴の中に落ち着き、思わず頬を緩めて狐ノ依の頭を撫でた。
「知っているから安心しな、狐ノ依。俺の子が欲しいんだろう」
「っ…、は、はい…そういうことに…なってしまいます…」
狐ノ依は耳をぴくと立て、恥ずかしそうに顔を逸らした。
頬が真っ赤だ。それに、尾は落ち着きなく左右に大きく揺れている。
「僕は、鯉伴様がこの奴良組の二代目様で…奥方をお持ちであることも知っていました。それでも…手の、暖かさが…嬉しくて…」
「そうかい」
「駄目だって…分かっていたのに…離れられ、ません、でし…っ」
狐ノ依の瞳からぽろと涙がこぼれ落ちた。
両手で顔を覆い、肩を小刻みに揺らす。
鯉伴は分かっていた。彼が、酷く追い詰められていたことを。
そして鯉伴のことを少なからず思っているということも。
眠りながら涙を流し、そして縋るように鯉伴の着物を掴んでくる。そんな彼を受け入れたのは、他でもない鯉伴だ。
「…僕は、もう長くありません…」
「何?」
「元々、僕達妖狐はあまり長く生きられないんです。だから…鯉伴様…」
どうかご慈悲を。そう言って、狐ノ依は深々と頭を下げた。
その狐ノ依を鯉伴はじっと見下ろす。
そうか、もう共に寝ることもなくなるのか。
隣に眠る若菜に気付かれないように小さな妖狐を布団に隠すことも、涙を流す彼の頬を拭うことも、もう。
抱いても抱かなくても、その未来は変わらない。
「惚れたつもりは…なかったんだがな…」
けれど胸に刺さるような痛みがなくならない。
鯉伴は一度自分自身に問いかけるために目を閉じた。
いいのか、悪いのか…。そんなことどうでもいい、自分がどうしたいかだ。
鯉伴は覚悟を決めて、狐ノ依の目の前で膝をついた。
「狐ノ依、俺の子を、産んでくれんのかい」
「えっ、は、はい!い、いえ…その、それは僕が…」
「代わりに一つ、頼みがある」
大きく開かれた目にしっかりと鯉伴が映る。
ごくりと狐ノ依の喉が鳴ったのが聴こえた。
「お前の子は…これから生まれる俺の子の側近にさせてくれ」
「…若菜様とのお子、ですね…。有難うございます…鯉伴様…」
大きな瞳から、更に止めどなく涙があふれ出す。
嬉しいのか、それとも悲しいのか。それを理解してしまったら、きっと苦しくなる。
鯉伴は大きく息を吸い込んでから、狐ノ依の着物の帯をシュルと緩めた。
「あ、待ってください…、まだ性別が」
「いやいい、暫くこのままのお前を触らせてくれ…」
緩んだ着物が狐ノ依の細く白い肩を滑る。
その開いた胸元に手を差し込むと、鯉伴ははぁっと熱い息を吐き出した。
初心な青少年でもないのに、柄にもなく胸が高鳴るのは、狐ノ依があまりのも綺麗だからだろうか。
隣で眠りながら、触りたいと、ずっと思っていたからだろうか。
「あっ、鯉伴様…」
胸を撫で、ツンと突き出た薄ピンクを指先で捏ねる。
狐ノ依はあまりの恥ずかしさに顔を背け、きゅっと握った手を自分の膝の上に置いた。
白い体は全身火照って桃色に染まっていく。それが、愛らしくて、いじらしい。
「狐ノ依、こっち向きな」
「は、はい…?」
「何も気にするこたァねえよ。俺を見ろ、俺に、見せてくれ」
鯉伴の声に狐ノ依は素直に顔を鯉伴の方へ向けた。
柔らかそうな唇が、きゅっと結ばれている。
それを親指で解すと、鯉伴は思わずその唇に噛みついていた。
「ふぁ…!?」
開いた狐ノ依の口に、すかさず鯉伴の舌が挿しこまれる。
舌と舌が絡み、狐ノ依はぎゅうと鯉伴の腕を掴んだ。
息の仕方が分からない。
あまりの熱さと苦しさに、狐ノ依の手が鯉伴の着物に絡みつく。
口が離れたのと同時に大きく息を吸い込んだ狐ノ依に、鯉伴はくくっと肩を震わせて笑った。
「どうした、こういう接吻は初めてか?」
「っ…、は、はい…」
「そうか…こうして愛されるのは初めてかい」
知れば知る程愛おしい。
鯉伴は狐ノ依の頭をくしゃと撫でながら、ゆっくりと狐ノ依の体をそこに押し倒した。
水面のような波紋が狐ノ依の体の下に浮き上がる。
綺麗だ、と。鯉伴は無意識にぶると体を震わせた。
「あ、あの…女の体に…」
「ん?まだいい。こっちの姿のお前に愛着があんだ」
不思議そうにする狐ノ依を安心させるように、ぽんと狐ノ依の胸を叩く。
そのまま平らな胸を数回円を描くように撫でた後、鯉伴はゆっくりとその手を下へ滑らせた。
少し骨が浮いた腹部をたどり、着物に隠されていた男性器をすりと指でなぞる。
戸惑い揺れる狐ノ依の瞳。
鯉伴の手の行く先を見つめていた狐ノ依は、耐え切れずに息をハァッと吐き出した。
「鯉伴様、僕は、ぁ、ん…ッ、どうしたら…」
「気持ち悪くはねぇか?嫌なんだったらはっきり言えよ」
「嫌なわけありません…!ただ、その、僕ばかりが良い思いを…っあ、ッぅあ…」
握りこんだ男性器を鯉伴の手が擦る度に、ぴくと狐ノ依の腰が震える。
同時に上がる嬌声は男性ながら色気のあるアルトで、鯉伴はごくりと唾を呑んだ。
「狐ノ依…こっちを、触ってみてもいいかい…?」
「は、っ…え?どっち…」
鯉伴の言葉に、狐ノ依の青い瞳がぱちくりと瞬く。
鯉伴はぐいと狐ノ依の足を掴んで左右に開くと、きゅっと締まった入り口に指を重ねた。
「ここに、入れてもいいか?」
「え!?あ、あの女の体に」
「なる必要ねぇ。お前、子種もらったらさっさと去る気だろ。まだ逃がさねぇよ」
足と足の間に鯉伴の体が挿しこまれ、狐ノ依は慌てて股間を手で隠した。
そんな初心な仕草も、今は鯉伴を煽る要素の一つでしかない。
真っ赤な体、濡れた瞳。
優しく愛でたいのに、虐めて焦らして泣かせたい。
鯉伴は自分の指を唾液で濡らすと、ゆっくりと中へ押し込んだ。
「お、なんだ、思ったより柔らけぇな。こっちの経験はあるのか?」
「えッ…、や、ない、です…?」
「じゃあ元々コッチでも男を誘えるように出来てるってわけか」
中の柔らかい壁を撫で、腹の方へ指を折り曲げる。
男の体を愛でるのは、鯉伴にとって初めての経験だ。
これでいいのか、と狐ノ依の反応を探りながら指を推し進めていく。
「ッん、ん…うう…うー…っ」
「こら。そんな風にしたら見えねぇだろ」
「ん、んん…っ」
狐ノ依は真っ赤な顔を鯉伴から逸らし、必死に自分の口を掌で塞いでいた。
指と指の隙間から荒くなった息が漏れている。
足先はピンと伸ばされ、先ほどまで緊張のせいか左右に振れていた尾も毛を逆立て真っ直ぐに伸びた。
撓った体、反れた腰。更に色づいた肌。
入れたらどうなる。
入れられたらどうなってしまう。
「もう、平気そうだな。狐ノ依…そのまま、足開いてろよ」
「り、鯉伴様、駄目です、僕おかしく…」
「なりゃあいい。俺の前でなら、どうなったって構いやしねえよ」
鯉伴は急くように自身の着物を崩し、前を開いて狐ノ依の体を抱き直した。
触らずとも準備のできた鯉伴のモノが、狐ノ依のヒクと疼く入口へ宛がわれる。
先端が中へ入った瞬間、二人は目を見開いて見つめ合った。
このまま中に入ってしまったら、溺れてしまう気がする。そう確かに悟ったのだ。
「…いいよな、狐ノ依。最初で最後、なんだろ」
「……はい、鯉伴様に会うのも、これが最後…。あとは子に託して、僕は死ぬだけ…」
「狐ノ依…」
手放したくない。そう一瞬チラついた思考を、鯉伴は目を閉じて追い払った。
これは伝説の妖狐に力を貸してやるだけ。でなきゃ、鯉伴と狐ノ依が体を重ねるなど、あってはならない。
鯉伴は大きく息を吸い込み、狐ノ依の腰をぐいと引き寄せた。
「っああ…!」
「く…っ、なんだ、これ…」
大して力を入れることなく、肌と肌がぶつかった。
行き場のなかった狐ノ依の手が、しがみつくように鯉伴の腕に絡む。
人より鋭く長い爪が肌に突き刺さったが、痛みはほとんど感じなかった。
それほどまでに、狐ノ依の体から与えられる感覚に体が麻痺していた。
「狐ノ依…、すげぇ、締まる…っ」
「はっ…、は、あ……」
狐ノ依は大きく口を開いたまま、きつく目を閉じている。
汗ばんだ肌が色っぽい。微かに香る甘いニオイは、狐ノ依の体臭だろう。
子種を得やすいように、男を誘惑する要素をたくさん持っている。
だから、仕方ない。
そう頭の中で言い訳して、鯉伴は腰を狐ノ依の体に叩きつけた。
「ンあ!や、ぅ、ッ…鯉伴様ぁ…!」
「悪ィな、後で子作りにも協力する、から…、まだ、お前を感じさせてくれ、な」
狐ノ依の頬を撫で、軽く目尻にキスを落とす。
その瞬間、狐ノ依の瞳からボロボロと涙が零れ落ちた。
「狐ノ依…今まで見てきた、誰よりも綺麗だ…」
狐ノ依の涙を指で拭い、その涙の筋に唇を寄せる。
前のめりになった拍子に当たる場所が変わったのだろう。
狐ノ依は腰を跳ねさせ、恥ずかしそうに顔を手で隠した。
「ッあ…!や、あ、そこ変…っ」
「ここ、気持ちいいのか?」
「っ!気持ちい、だ、め…!」
執拗に同じ場所を攻めると、増々狐ノ依の体が桃色に染まっていく。
直接触れていない狐ノ依の中心からはだらだらと汁が溢れ出し、鯉伴の腹部を濡らした。
肌がぶつかる音に、ぐちゃぐちゃと内側から泡立つ音が重なる。
耳から、目から、全てが侵されていく。
「狐ノ依…っ」
「り、は…ッ鯉伴さま…!りはんさま…」
縋りつく狐ノ依の体をぎゅうと抱き締め、鯉伴は目の前に広がった白い肌に歯を立てた。
途端に内側の締め付けが強くなる。
鯉伴は初めての感覚に、奥に押し込んだまま腰を震わせた。
熱い。気持ちいい。
もっと抱き締めたい。もっと強く抱いて、乱れるこの子を目に焼き付けたい。
「ぁ…ああ…、狐ノ依…すげぇいい…」
「は…ぁ…鯉伴様…、僕…」
「まだいけんだろ、まだこの体のまま…」
余計な話をする必要はない。
鯉伴は間を空けることなく、もう一度と腰をゆすり始めた。
狐ノ依が何を言いかけたのか、問いかけることはしない。耳を傾けることもしない。
「あッ…!!僕、まだ、イ…ッ」
鯉伴は、必死に男の体を受け止める狐ノ依に抱いた愛しさに蓋をして、がむしゃらに腰を打ち付けた。
これが最後だ。
最初で最後の夜。
だから、心のままに。
狐ノ依の意識が飛んでしまうまで、二人の体は重なり合っていた。
・・・
リクオが生まれて数日経った頃。
鯉伴の庭を眺める生活は尚も続いていた。
狐ノ依の子供は、鯉伴の子供に仕えさせると約束した。
もうそろそろのはずだ。そろそろ狐ノ依がここにきて、ここで子を産んでくれるはず。
それを信じて庭先を見つめていた鯉伴は、ふと、部屋から見える庭の茂みの向こうに何かがあることに気が付いた。
「…ん?なんだ、あれは」
何か、はっきりしない。
無意識にふらと庭におり、目を凝らしてゆっくりそれに近付く。
緑が赤く染まって、その真ん中に、青い毛玉が。
「…な…、どうして…」
近付いて確認した青い毛玉は、嘗ての美しい毛並みを失った妖狐の塊だった。
何か鋭いもので切り裂かれた体が、既に生を失っていることは見るに明らかだ。
「…、」
鯉伴は言葉なく、その場に膝を落とした。
狐ノ依が殺された。誰に、一体誰が、こんな惨いことを。
頭の中が真っ白になる。
それが怒り故なのか、哀しみ故なのか分からないまま、鯉伴は狐ノ依に手を伸ばした。
眠る時みたいに丸くなった体。それは、自分の体を守るというよりも、お腹の中の子を守るかのような。
「…そう、だ、子は…」
狐ノ依の、狐ノ依に宿してやったはずの子供は。
鯉伴は恐る恐る、狐ノ依の裂かれた腹部に手を入れた。
ぐちゃと生々しい感触の先に、まだ失っていない熱が触れる。
「…、まだ、生きてる」
とくん、と脈打ったのを指先で感じた鯉伴は、慌ててその塊を引きずり出した。
真っ赤に染まった小さな体。背中が一定のリズムで膨らみ、そして縮む。
鯉伴はほっと一息つき、掌に乗る狐の子供を大事に大事に抱き締めた。
自らの手で湯にさらし、汚れを落として布団に寝かせる。
綺麗になった妖狐の子供は、狐ノ依と瓜二つ。
青白い体に大きな耳と尾。しゅっとした鼻先に、まだ童顔の愛らしい子狐だった。
「…狐ノ依」
彼の身に何があったのか、突き止めたい思いを胸の奥に閉じ込める。
狐ノ依という妖狐の存在を知る者はここに存在しない。
妖狐がリクオを主として選び、この子を産み落とした、そうすれば全てが上手くいく。
「狐ノ依…よく、来てくれたな…、愛してる…」
鯉伴は微かな寝息を漏らす小さな頭を掌で撫でた。
あとはリクオの隣にこの子を眠らせ…親の体は燃やしてしまわなければ。
冷静に思考を働かせ、鯉伴はすくと立ち上がった。
その瞬間、妖狐の頭にぽたと熱い滴が落ちた。
…どうして自分は、愛する者との別れを何度も味わわなければならないのだ。
そう考えて胸が軋むように痛んだ。
でも、この気持ちは誰にも告げることはない。
永遠に、鯉伴の胸の中だけに。
狐ノ依が死んだ日、狐ノ依が生まれた。
鯉伴の記憶は鯉伴と共に葬られ、誰にも知られることはなかった。
一匹の母狐は、自分の欲のためだけに子供を産み落としてしまった。
それが自分の首を絞める行為だと分かっていて、小さな力のない妖狐を育てた。
その子が一人でも生きていけるようになった頃、親狐は子を置いて旅立つ。
今度こそ、伝説の妖狐として。親から受け継がれてきた力を重ねていくために力を持つ妖怪を探さなければならなかった。
遂に見つけた理想の相手は奴良組の二代目総大将。
その時既に妻を持っていた、奴良鯉伴という男だった。
・・・
ある日の夜。
何気なく縁側から外を眺めていた鯉伴の目の前に、その妖怪は姿を現した。
月光を浴びて青白く輝く毛並み。長い尾と、大きな耳。
一目見た瞬間に、鯉伴はこの狐が伝説の妖狐であると気が付いた。
「…どうした、主を失ったのかい…?」
妖狐は自分の子を託せる主を見つけ、甲斐甲斐しく仕えるのだと聞く。
鯉伴の目の前に現れた妖狐は明らかに成熟している。大人の妖狐だ。
「おいで」
鯉伴はその美しい妖狐に手を伸ばした。
途端に尾を左右に揺らし、ひょいと縁側に飛び乗る。
くんっと鼻をひくつかせてから、妖狐は縋るように鯉伴の手に顔を寄せた。
…ああ、これは。
この子が求めているのは力をくれる妖怪だ。
「悪ぃが…お前の力にはなれないかもしれないな」
鯉伴には妻がいる、愛している人間の女性だ。
それを聞いた妖狐は耳を垂れ下げ、それでも鯉伴から離れなかった。
どうしたもんか、と鯉伴は狐の顎の下を撫でながら頭を傾けた。
この狐の目的を考えると傍に置くべきではないのだろう。
しかし、見た目にはただの狐だ。
警戒するのも馬鹿馬鹿しいか。
鯉伴はしょぼくれた妖狐の鼻先を指でつんと弾くと、立ち上がったその足で自身の寝床へ移動した。
「せっかく来たんだ、無下にはしねぇよ。ほら」
ぽんっと妖狐を誘うように布団を掌で叩くと、妖狐はぴんっと耳を立て、嬉しそうに駆け寄ってきた。
そういえば犬猫を飼うことはないから、獣と寝床を共にするのは初めてだ。
鯉伴はもふと腕に顔を乗せた妖狐の頭を撫で、うつらうつらと目を閉じた。
それが初めて共に過ごした夜。
それからというもの、妖狐は毎夜鯉伴の元を訪れるようになった。
狐の姿で、縁側の下で尾を振っている。
鯉伴が良いよと言うまで上がってこず、日が昇る頃には知らぬ間にいなくなる。
そんな健気で分別のある妖狐に、鯉伴はすっかり気を許していた。
・・・
妖狐と出会いから数か月。
相変わらず夜だけやってくる妖狐が普段何をしているのか知らない。
考える必要もない、と思っていたのは既に過去のことだ。
「…なあ首無。伝説の妖狐ってのぁ知ってるかい」
「は、妖狐…ですか。あの強い妖の元に現れるという?」
首無の反応に、鯉伴はこくりと小さく頷いて見せた。
やはり妖怪であれば誰でも耳にしたことがある話らしい。
「…綺麗、なんだろうな」
「そうでしょうね。誰もが羨むと、そう聞いたことがありますし」
誰もが妖狐の主になりたがる。
それほど綺麗な妖が、子を残したいと縋ってきたら、耐えられる者などいるのだろうか。
「お前なら…どうする?」
「は、どうする?」
「子供を作る手伝いをしてやろうと思うか?」
真っ直ぐにそう問いかけた鯉伴に対し、首無は一度眉を深く寄せた。
何を言い出すかと思えば。
馬鹿にする気持ち半分、真面目に返答しようという気持ち半分。
首無は見たことのない妖狐を想像して、浮かせた首を傾けた。
「まあ、名誉なことなんでしょうし、妖狐の手伝いをしてやるのだと割り切れば別に構わないのでは」
「割り切る、か」
鯉伴の口からこぼれるのは、憂いを帯びた息。
柄にもなく何か悩んだ様子の鯉伴に、首無はぽかんと口を開けたままその主の様子を凝視した。
「可哀想な種族だよなぁ…あんなに美しいのに仕えることしかできねぇなんて」
「…二代目?妖狐に見初められでもしたのですか?」
長年鯉伴についてきた首無だが、今まで妖狐など一度たりとも見たことがない。
だからこそ”伝説”というもの。
鯉伴は遠くを見ていた視線を首無に戻し、へらと笑った。
「ああいや、夢でな」
「夢?…なんです、それ。いかがわしい」
若菜様に言いつけますよ、と首無が笑いながら言う。
その首無の背中を「やめろ」と叩きながら、鯉伴は口を閉ざした。
夜中に時折見かける美しい青年。
寝ぼけてなのか、気が抜けてなのか。共に眠りについた狐は、寝ている間に人型になってしまうらしい。
「…許されるのか、いや…」
許されるはずがない。
それでも彼に触れたくなって、眠っているその頬に触れてしまったのは最近のことだ。
自分の腕に頭を乗せて眠る美しい青年。もう一つの妖狐の姿も見慣れてしまった頃。
青年は閉じた目から涙を溢れさせながら、その形の良い唇を開き呟いた。
『…ごめん、なさ…。ご、め…』
すんっと鼻で息を吸い込み、鯉伴の胸にすりと頬を寄せる。
しっとりと濡らす涙を止める術が分からず、親指で軽く拭ってやる。
その瞬間に気付いてしまった。
この謝罪は鯉伴と、そして奴良組と、若菜に向けられているのだと。
鯉伴は徐に立ち上がり、長い前髪をくしゃとかき上げた。
また夜が来る。
あの狐がやってくるのを、縁側に立って待っている自分がいる。
『僕は…鯉伴様の…』
その先の言葉を彼の口から聞いたことはない。
けれど、もしその時が来たら。
胸の妙な高鳴りを感じながら、鯉伴は目を伏せた。
しかし、それから鯉伴の気を病ませていたことが起こることはなく。
何も変わらないまま、更に5年ほどの時が経った。
・・・
庭先から涼しい風が入り込む。
鯉伴は縁側に立ち、月見の酒を一人味わっていた。
若菜の腹に宿った子。
忙しくする鯉伴の代わりに若菜の面倒を見てくれているのは女の妖達だ。
本当は、ほんの少しの時間も傍にいてやるべきだと分かっている。
それでも、鯉伴はあの子を待たずにはいられなかった。
眠りながら伝う涙と、小鳥のようなか細い声で紡がれる謝罪を聞いてからもうずっと。
申し訳なさそうに頭を下げる狐が、縁側から鯉伴が手を振った瞬間嬉しそうに尾を振るから。
「…無礼を、お許しください…鯉伴様」
しかしこの日、その声は鯉伴の背中から聞こえてきた。
いや、こんな風に声を聞くのも初めてだ。
「…妖狐かい」
「申し訳ございません…、どうか、僕を…お許しください…」
振り返りながら、後ろ手で襖を閉める。
部屋の中にいた全身青みがかった色彩の青年は、正座をして頭を下げていた。
「鯉伴様は、ご存じかと思います…妖狐の、習性を…」
「…待て。そんなに怯えることはねぇよ。ほら、顔を上げな」
鯉伴は耳と尾の生えた青年に近付き、手を差し伸べた。
妖狐はそれでも怯えた様子でゆっくりと顔を上げる。
その妖狐の視界に映ったのは、夜桜の舞う薄暗い空間。
座っていたはずの畳も目の前にあった襖もない。
「…これ、は…」
「俺とお前だけの世界だ。何も気にしなくていい。まずは、お前の名前を聞かせちゃくれねぇか」
妖狐の青年は大きく目を開き、一度唇をきゅっと結んだ。
恐る恐る、躊躇いがちに薄く口を開く。緊張しているせいか、ヒュッと大げさに息を吸い込んだ。
「…狐ノ依、と」
「狐ノ依、良い名だな」
数年共に夜を過ごし、初めて知る彼の名前。
それがしっとりと鯉伴の中に落ち着き、思わず頬を緩めて狐ノ依の頭を撫でた。
「知っているから安心しな、狐ノ依。俺の子が欲しいんだろう」
「っ…、は、はい…そういうことに…なってしまいます…」
狐ノ依は耳をぴくと立て、恥ずかしそうに顔を逸らした。
頬が真っ赤だ。それに、尾は落ち着きなく左右に大きく揺れている。
「僕は、鯉伴様がこの奴良組の二代目様で…奥方をお持ちであることも知っていました。それでも…手の、暖かさが…嬉しくて…」
「そうかい」
「駄目だって…分かっていたのに…離れられ、ません、でし…っ」
狐ノ依の瞳からぽろと涙がこぼれ落ちた。
両手で顔を覆い、肩を小刻みに揺らす。
鯉伴は分かっていた。彼が、酷く追い詰められていたことを。
そして鯉伴のことを少なからず思っているということも。
眠りながら涙を流し、そして縋るように鯉伴の着物を掴んでくる。そんな彼を受け入れたのは、他でもない鯉伴だ。
「…僕は、もう長くありません…」
「何?」
「元々、僕達妖狐はあまり長く生きられないんです。だから…鯉伴様…」
どうかご慈悲を。そう言って、狐ノ依は深々と頭を下げた。
その狐ノ依を鯉伴はじっと見下ろす。
そうか、もう共に寝ることもなくなるのか。
隣に眠る若菜に気付かれないように小さな妖狐を布団に隠すことも、涙を流す彼の頬を拭うことも、もう。
抱いても抱かなくても、その未来は変わらない。
「惚れたつもりは…なかったんだがな…」
けれど胸に刺さるような痛みがなくならない。
鯉伴は一度自分自身に問いかけるために目を閉じた。
いいのか、悪いのか…。そんなことどうでもいい、自分がどうしたいかだ。
鯉伴は覚悟を決めて、狐ノ依の目の前で膝をついた。
「狐ノ依、俺の子を、産んでくれんのかい」
「えっ、は、はい!い、いえ…その、それは僕が…」
「代わりに一つ、頼みがある」
大きく開かれた目にしっかりと鯉伴が映る。
ごくりと狐ノ依の喉が鳴ったのが聴こえた。
「お前の子は…これから生まれる俺の子の側近にさせてくれ」
「…若菜様とのお子、ですね…。有難うございます…鯉伴様…」
大きな瞳から、更に止めどなく涙があふれ出す。
嬉しいのか、それとも悲しいのか。それを理解してしまったら、きっと苦しくなる。
鯉伴は大きく息を吸い込んでから、狐ノ依の着物の帯をシュルと緩めた。
「あ、待ってください…、まだ性別が」
「いやいい、暫くこのままのお前を触らせてくれ…」
緩んだ着物が狐ノ依の細く白い肩を滑る。
その開いた胸元に手を差し込むと、鯉伴ははぁっと熱い息を吐き出した。
初心な青少年でもないのに、柄にもなく胸が高鳴るのは、狐ノ依があまりのも綺麗だからだろうか。
隣で眠りながら、触りたいと、ずっと思っていたからだろうか。
「あっ、鯉伴様…」
胸を撫で、ツンと突き出た薄ピンクを指先で捏ねる。
狐ノ依はあまりの恥ずかしさに顔を背け、きゅっと握った手を自分の膝の上に置いた。
白い体は全身火照って桃色に染まっていく。それが、愛らしくて、いじらしい。
「狐ノ依、こっち向きな」
「は、はい…?」
「何も気にするこたァねえよ。俺を見ろ、俺に、見せてくれ」
鯉伴の声に狐ノ依は素直に顔を鯉伴の方へ向けた。
柔らかそうな唇が、きゅっと結ばれている。
それを親指で解すと、鯉伴は思わずその唇に噛みついていた。
「ふぁ…!?」
開いた狐ノ依の口に、すかさず鯉伴の舌が挿しこまれる。
舌と舌が絡み、狐ノ依はぎゅうと鯉伴の腕を掴んだ。
息の仕方が分からない。
あまりの熱さと苦しさに、狐ノ依の手が鯉伴の着物に絡みつく。
口が離れたのと同時に大きく息を吸い込んだ狐ノ依に、鯉伴はくくっと肩を震わせて笑った。
「どうした、こういう接吻は初めてか?」
「っ…、は、はい…」
「そうか…こうして愛されるのは初めてかい」
知れば知る程愛おしい。
鯉伴は狐ノ依の頭をくしゃと撫でながら、ゆっくりと狐ノ依の体をそこに押し倒した。
水面のような波紋が狐ノ依の体の下に浮き上がる。
綺麗だ、と。鯉伴は無意識にぶると体を震わせた。
「あ、あの…女の体に…」
「ん?まだいい。こっちの姿のお前に愛着があんだ」
不思議そうにする狐ノ依を安心させるように、ぽんと狐ノ依の胸を叩く。
そのまま平らな胸を数回円を描くように撫でた後、鯉伴はゆっくりとその手を下へ滑らせた。
少し骨が浮いた腹部をたどり、着物に隠されていた男性器をすりと指でなぞる。
戸惑い揺れる狐ノ依の瞳。
鯉伴の手の行く先を見つめていた狐ノ依は、耐え切れずに息をハァッと吐き出した。
「鯉伴様、僕は、ぁ、ん…ッ、どうしたら…」
「気持ち悪くはねぇか?嫌なんだったらはっきり言えよ」
「嫌なわけありません…!ただ、その、僕ばかりが良い思いを…っあ、ッぅあ…」
握りこんだ男性器を鯉伴の手が擦る度に、ぴくと狐ノ依の腰が震える。
同時に上がる嬌声は男性ながら色気のあるアルトで、鯉伴はごくりと唾を呑んだ。
「狐ノ依…こっちを、触ってみてもいいかい…?」
「は、っ…え?どっち…」
鯉伴の言葉に、狐ノ依の青い瞳がぱちくりと瞬く。
鯉伴はぐいと狐ノ依の足を掴んで左右に開くと、きゅっと締まった入り口に指を重ねた。
「ここに、入れてもいいか?」
「え!?あ、あの女の体に」
「なる必要ねぇ。お前、子種もらったらさっさと去る気だろ。まだ逃がさねぇよ」
足と足の間に鯉伴の体が挿しこまれ、狐ノ依は慌てて股間を手で隠した。
そんな初心な仕草も、今は鯉伴を煽る要素の一つでしかない。
真っ赤な体、濡れた瞳。
優しく愛でたいのに、虐めて焦らして泣かせたい。
鯉伴は自分の指を唾液で濡らすと、ゆっくりと中へ押し込んだ。
「お、なんだ、思ったより柔らけぇな。こっちの経験はあるのか?」
「えッ…、や、ない、です…?」
「じゃあ元々コッチでも男を誘えるように出来てるってわけか」
中の柔らかい壁を撫で、腹の方へ指を折り曲げる。
男の体を愛でるのは、鯉伴にとって初めての経験だ。
これでいいのか、と狐ノ依の反応を探りながら指を推し進めていく。
「ッん、ん…うう…うー…っ」
「こら。そんな風にしたら見えねぇだろ」
「ん、んん…っ」
狐ノ依は真っ赤な顔を鯉伴から逸らし、必死に自分の口を掌で塞いでいた。
指と指の隙間から荒くなった息が漏れている。
足先はピンと伸ばされ、先ほどまで緊張のせいか左右に振れていた尾も毛を逆立て真っ直ぐに伸びた。
撓った体、反れた腰。更に色づいた肌。
入れたらどうなる。
入れられたらどうなってしまう。
「もう、平気そうだな。狐ノ依…そのまま、足開いてろよ」
「り、鯉伴様、駄目です、僕おかしく…」
「なりゃあいい。俺の前でなら、どうなったって構いやしねえよ」
鯉伴は急くように自身の着物を崩し、前を開いて狐ノ依の体を抱き直した。
触らずとも準備のできた鯉伴のモノが、狐ノ依のヒクと疼く入口へ宛がわれる。
先端が中へ入った瞬間、二人は目を見開いて見つめ合った。
このまま中に入ってしまったら、溺れてしまう気がする。そう確かに悟ったのだ。
「…いいよな、狐ノ依。最初で最後、なんだろ」
「……はい、鯉伴様に会うのも、これが最後…。あとは子に託して、僕は死ぬだけ…」
「狐ノ依…」
手放したくない。そう一瞬チラついた思考を、鯉伴は目を閉じて追い払った。
これは伝説の妖狐に力を貸してやるだけ。でなきゃ、鯉伴と狐ノ依が体を重ねるなど、あってはならない。
鯉伴は大きく息を吸い込み、狐ノ依の腰をぐいと引き寄せた。
「っああ…!」
「く…っ、なんだ、これ…」
大して力を入れることなく、肌と肌がぶつかった。
行き場のなかった狐ノ依の手が、しがみつくように鯉伴の腕に絡む。
人より鋭く長い爪が肌に突き刺さったが、痛みはほとんど感じなかった。
それほどまでに、狐ノ依の体から与えられる感覚に体が麻痺していた。
「狐ノ依…、すげぇ、締まる…っ」
「はっ…、は、あ……」
狐ノ依は大きく口を開いたまま、きつく目を閉じている。
汗ばんだ肌が色っぽい。微かに香る甘いニオイは、狐ノ依の体臭だろう。
子種を得やすいように、男を誘惑する要素をたくさん持っている。
だから、仕方ない。
そう頭の中で言い訳して、鯉伴は腰を狐ノ依の体に叩きつけた。
「ンあ!や、ぅ、ッ…鯉伴様ぁ…!」
「悪ィな、後で子作りにも協力する、から…、まだ、お前を感じさせてくれ、な」
狐ノ依の頬を撫で、軽く目尻にキスを落とす。
その瞬間、狐ノ依の瞳からボロボロと涙が零れ落ちた。
「狐ノ依…今まで見てきた、誰よりも綺麗だ…」
狐ノ依の涙を指で拭い、その涙の筋に唇を寄せる。
前のめりになった拍子に当たる場所が変わったのだろう。
狐ノ依は腰を跳ねさせ、恥ずかしそうに顔を手で隠した。
「ッあ…!や、あ、そこ変…っ」
「ここ、気持ちいいのか?」
「っ!気持ちい、だ、め…!」
執拗に同じ場所を攻めると、増々狐ノ依の体が桃色に染まっていく。
直接触れていない狐ノ依の中心からはだらだらと汁が溢れ出し、鯉伴の腹部を濡らした。
肌がぶつかる音に、ぐちゃぐちゃと内側から泡立つ音が重なる。
耳から、目から、全てが侵されていく。
「狐ノ依…っ」
「り、は…ッ鯉伴さま…!りはんさま…」
縋りつく狐ノ依の体をぎゅうと抱き締め、鯉伴は目の前に広がった白い肌に歯を立てた。
途端に内側の締め付けが強くなる。
鯉伴は初めての感覚に、奥に押し込んだまま腰を震わせた。
熱い。気持ちいい。
もっと抱き締めたい。もっと強く抱いて、乱れるこの子を目に焼き付けたい。
「ぁ…ああ…、狐ノ依…すげぇいい…」
「は…ぁ…鯉伴様…、僕…」
「まだいけんだろ、まだこの体のまま…」
余計な話をする必要はない。
鯉伴は間を空けることなく、もう一度と腰をゆすり始めた。
狐ノ依が何を言いかけたのか、問いかけることはしない。耳を傾けることもしない。
「あッ…!!僕、まだ、イ…ッ」
鯉伴は、必死に男の体を受け止める狐ノ依に抱いた愛しさに蓋をして、がむしゃらに腰を打ち付けた。
これが最後だ。
最初で最後の夜。
だから、心のままに。
狐ノ依の意識が飛んでしまうまで、二人の体は重なり合っていた。
・・・
リクオが生まれて数日経った頃。
鯉伴の庭を眺める生活は尚も続いていた。
狐ノ依の子供は、鯉伴の子供に仕えさせると約束した。
もうそろそろのはずだ。そろそろ狐ノ依がここにきて、ここで子を産んでくれるはず。
それを信じて庭先を見つめていた鯉伴は、ふと、部屋から見える庭の茂みの向こうに何かがあることに気が付いた。
「…ん?なんだ、あれは」
何か、はっきりしない。
無意識にふらと庭におり、目を凝らしてゆっくりそれに近付く。
緑が赤く染まって、その真ん中に、青い毛玉が。
「…な…、どうして…」
近付いて確認した青い毛玉は、嘗ての美しい毛並みを失った妖狐の塊だった。
何か鋭いもので切り裂かれた体が、既に生を失っていることは見るに明らかだ。
「…、」
鯉伴は言葉なく、その場に膝を落とした。
狐ノ依が殺された。誰に、一体誰が、こんな惨いことを。
頭の中が真っ白になる。
それが怒り故なのか、哀しみ故なのか分からないまま、鯉伴は狐ノ依に手を伸ばした。
眠る時みたいに丸くなった体。それは、自分の体を守るというよりも、お腹の中の子を守るかのような。
「…そう、だ、子は…」
狐ノ依の、狐ノ依に宿してやったはずの子供は。
鯉伴は恐る恐る、狐ノ依の裂かれた腹部に手を入れた。
ぐちゃと生々しい感触の先に、まだ失っていない熱が触れる。
「…、まだ、生きてる」
とくん、と脈打ったのを指先で感じた鯉伴は、慌ててその塊を引きずり出した。
真っ赤に染まった小さな体。背中が一定のリズムで膨らみ、そして縮む。
鯉伴はほっと一息つき、掌に乗る狐の子供を大事に大事に抱き締めた。
自らの手で湯にさらし、汚れを落として布団に寝かせる。
綺麗になった妖狐の子供は、狐ノ依と瓜二つ。
青白い体に大きな耳と尾。しゅっとした鼻先に、まだ童顔の愛らしい子狐だった。
「…狐ノ依」
彼の身に何があったのか、突き止めたい思いを胸の奥に閉じ込める。
狐ノ依という妖狐の存在を知る者はここに存在しない。
妖狐がリクオを主として選び、この子を産み落とした、そうすれば全てが上手くいく。
「狐ノ依…よく、来てくれたな…、愛してる…」
鯉伴は微かな寝息を漏らす小さな頭を掌で撫でた。
あとはリクオの隣にこの子を眠らせ…親の体は燃やしてしまわなければ。
冷静に思考を働かせ、鯉伴はすくと立ち上がった。
その瞬間、妖狐の頭にぽたと熱い滴が落ちた。
…どうして自分は、愛する者との別れを何度も味わわなければならないのだ。
そう考えて胸が軋むように痛んだ。
でも、この気持ちは誰にも告げることはない。
永遠に、鯉伴の胸の中だけに。
狐ノ依が死んだ日、狐ノ依が生まれた。
鯉伴の記憶は鯉伴と共に葬られ、誰にも知られることはなかった。