リクオ夢(2011.10~2015.03)
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夜が明ける前…リクオは一人静かに目を覚ました。寝るときと同じ重みが胸にのっかている。
「狐ノ依…」
さらさらの髪の毛が首に当たって少しくすぐったい。小さな寝息が耳を掠めるだけで愛おしさが募る。いつの間に、こんなに重症になったものか。
「悪いな、少し一人で寝ていてくれ…」
体をゆっくりと布団から抜くと、狐ノ依は静かに寝返りをうった。大丈夫、起きてはいない…
リクオは最近趣味になってきた夜の散歩に出て行った。
「リクオ様…?」
リクオの熱がなくなって目を開けた狐ノ依はまだ温かい布団に触れた。リクオがいなくなって時間はそう経っていない。
「…追いつけるかな?」
すんすん、と鼻でリクオの匂いを吸い込む。わからないわけがない。リクオの場所はどこにいたってわかる。
狐ノ依はリクオを追って、夜の浮世絵町に飛び出して行った。
・・・
暫く行くと、狐ノ依はある川を見つけた。ここにリクオが立ち寄ったことはわかる。しかし、何故かその中からもリクオの匂いが感じられた。
「まさかリクオ様、川に落ちたとかじゃあるまいし…」
ぼそりと呟くと、そこにいた一匹の妖怪が狐ノ依に気付いた。同時に、狐ノ依もその妖怪が手に持つ物に気付く。
「あ…!それ、その刀!」
不気味な容姿の妖怪は、リクオの刀を手にしていた。まさか、リクオがこの妖怪に負けて取られたとは思い難い。リクオが刀を落とすなんてことも信じられない。
「その刀!返して!」
「返して欲しけりゃ…もっとすごいもの渡せぇえ」
その妖怪は“置行掘(おいてけぼり)”というもので、一応奴良組の妖怪であった。
何か物を渡さなければ、何をするかわからない。物を渡さなければ、今持っているリクオの刀は返って来ない。
「でもボクは…何も持ってない…」
手ぶらも手ぶら。しかしこの妖怪から物を奪い取ることは不可能だろう。さて、どうしたものかと迷っていると、置行掘の方が先に口を開いた。
「お前…妖狐かぁ」
「え、そうだけど…」
「妖狐…。それ、それでいい…」
それ、は狐ノ依の体を指していた。
・・・
その頃。黒羽丸は夜のパトロールを行っていた。空から違反している妖怪に声をかけて回る。
この日もなかなか違反者が多く、黒羽丸は目を光らせていた。
「ん…?あそこにいるのは…」
夜でも青白く光る美しい妖怪、狐ノ依だ。この時間いつもは眠っているはずの狐ノ依が夜に徘徊しているだけでもびっくりであるのに、何故か狐ノ依は…上半身に何も纏っていなかった。
「な…!なんて格好をしているのです狐ノ依殿!」
「…え、黒羽丸…?」
可哀相に両手で素肌を擦っている狐ノ依に黒羽丸は自分の羽織をかけてやった。
「ありがとう」
「それは構わないが…何故着物を着ていないのです。ま、まさか、どこぞの妖怪に襲われ…!」
「向こうにある川にいる妖怪が…リクオ様の刀を持っていて」
よく見ると狐ノ依の手にはしっかりとリクオの刀“祢々切丸”が握られている。
「これを取り返すには、何かと交換しなくてはいけなくて」
「何…?それで若は無事なのか?」
「恐らくは…物さえ渡せば襲ってこない妖怪だったから」
黒羽丸はなんとなく状況を把握したらしく、はぁ…と大きくため息をついた。つまり、リクオはどういう訳かその妖怪と物を交換する必要があって、祢々切丸を取られた、と。
「仕方がない。狐ノ依殿の着物は私が取り返そう」
「そんな、大したものじゃないからいいよ」
大丈夫、と笑ってみせる狐ノ依はやはりいつ見ても可愛らしい。黒羽丸の目に、狐ノ依の白い素肌が魅惑的に映る。妖狐を一人占めに出来るリクオが羨ましいと、本当は皆そう思っているのだろう。
「狐ノ依殿は…美しいな」
「どうしたの、急に」
「急ではない。ずっと思っていた…」
触れてしまいたい、目の前にある白い肌…。自分のかけてやった羽織にもう一度手をかけた。
「…おい」
背後から突然聞こえてきた声に黒羽丸は肩を思い切り震わせてから狐ノ依に伸ばした手を引っ込めた。
「若…いらしたのですか」
「明らかに残念そうな声を出すな」
「リクオ様、ご無事でしたか!」
狐ノ依の無垢な声にリクオは頭をかくと黒羽丸から視線をそらした。
「刀は取り返しましたよ」
「その代わりにお前の着物を取られちゃ意味ねぇな…」
「若!祢々切丸がいかに大事なものかお分かりか!?」
「あぁ…さっき鴆にも怒鳴られた」
一度刀を取られ、特に考えもせず鴆の元へ行き、相談したところ説教を受け戻ってきた。そして黒羽丸が狐ノ依にセクハラするところを目撃し、今に至るわけだ。
「せ、セクハラなど…!」
「黒羽丸…今回、俺が刀を盗られたこと、誰にも言わねぇよなぁ…?」
「…っ、そういうわけにはいきません。私は…未遂でした、問題はない」
黒羽丸は狐ノ依の手から祢々切丸を奪い取ると、そのまま本家の方へ飛び去って行った。
「くそ、逃げられた」
「リクオ様…?」
きょとんと見上げてくる狐ノ依を見て、ようやく苛立ちが込み上げてきた。狐ノ依の着物が盗られた。つまり置行掘が狐ノ依の着物を無理やりはぎ取った…。
「…許せねぇ」
「あ、あの…?」
「狐ノ依、安心しな。俺が必ず取り返す」
「え!?いいですよ、着物の一着くらい」
狐ノ依は歩き出したリクオの袖を掴んだ。取り返すということは、再び何かやることになる。それではキリがない。
しかし、そう判断しリクオを制した狐ノ依のその手を掴み返すと、リクオは羽織を羽織っただけの上半身に指を這わせた。
「っ!」
「狐ノ依の体に触れていたものを、他のヤツに盗られるなんざ…耐えられないんだよ」
「わ…わかりました…」
リクオを言い負かすことは出来ない。狐ノ依は素直に諦めて、リクオに任せることにした。
一緒について行きたかったが、先に戻っていろと背中を押されてしまい、狐ノ依は先に本家に戻ることになった。
・・・
その後。
リクオは狐ノ依に取り返した着物を渡した。だいぶ汚れてしまっていたので、しっかり洗ってある。
しかし狐ノ依は不満げにリクオを見つめていた。
「あの…リクオ様は何を渡したのですか…?」
「あぁ、じじいからもらったキセルだよ」
実際はもらったのではなく少し拝借、と奪ったもので、リクオにとっては思い入れも何もないもの。大したもんじゃねぇから心配すんな、と言うリクオの言葉は全く聞こえていない様子で、狐ノ依は一気に青ざめた。
「キセル…って、ことは…リクオ様が口を付けたものでは…!?」
「おいおい、取り返しに行こうなんて絶対すんなよ」
「でも、そんな…もったいない…」
リクオが口を付けたキセルだなんて、どうせなら自分が欲しかった。それに比べたら、狐ノ依の着物なんて本当に大したものでなかったのに。
俯いて残念そうにしている狐ノ依を見て、リクオはふっと笑った。それに気付き、狐ノ依が顔を上げる。
「、ん…!」
その瞬間に、リクオが狐ノ依に口付けた。軽く触れて、離れる。
「狐ノ依には、いらねぇだろ?キセルなんてもんは…」
「っ…そ、それと…これとは別問題です…」
「そうかい」
もう一度、今度はゆっくりと深く口付けを交わした。
なんかもう、どうでもいいや。狐ノ依はリクオに身を任せることにしたのだった。