リクオ夢(2011.10~2015.03)
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ある日、狐ノ依が家の入口付近の掃除をしていると、青田坊と黒田坊が不機嫌そうな面持ちで帰ってきた。
昨夜は飲みに行くなどと上機嫌で出て行ったはずなのに。
「おかえり。二人とも、どうかしたの?」
「おぉ、狐ノ依は偉いな」
「聞け、狐ノ依。こいつ、陰陽師にやられてな」
はは、と笑い話にする黒田坊だったが、狐ノ依はすぐさま青田坊に駆け寄った。その体にぺたぺたと触れてどこか悪いところやケガはないか確認する。
「…良かった。大したことはなさそうで」
「狐ノ依、こんな阿呆に気を回すことはない。そんなことより…狐ノ依も外を歩く時は気を付けるんだぞ」
言いながら黒田坊は照れたように口ごもっている青田坊の頭を錫杖で叩くと狐ノ依の横を通り過ぎて行った。
「陰陽師…リクオ様にも、気を付けるように言わなきゃ」
花開院ゆらの存在のせいで、リクオは陰陽師への警戒を怠っている傾向がある。リクオが陰陽師になんてやられるとは思わないが、青田坊がやられたと言われてはさすがに黙っていられない。
狐ノ依は休日のため友人たちと遊びに行ったリクオを探しに出かけるのだった。
・・・
運が良いのか悪いのか、陰陽師に気を付けるよう伝えたくてリクオを探していた狐ノ依の目の前に立ちはだかる人間が二人。
「おい、お前妖怪だろ」
「…いきなり、失礼な人ですね」
確信はなかったが、人間の姿の狐ノ依を一目で妖怪と見分けたこと、そして異様な雰囲気から陰陽師だということは明らかだった。
「確認するまでもねぇか」
「…っ」
どうしたらいい、一人で対応できるか…?
顔に出さないように悩む狐ノ依の腕を男が掴んだ。
この時の狐ノ依が知るはずもないが、この男は花開院竜二、そして後ろに花開院魔魅流、ゆらと同じく花開院の陰陽師だった。
「っ離して下さい!人を呼びますよ!?」
少しでも時間を稼いだ方がいいと判断し、狐ノ依は妖怪であることを隠し続けようとしたが、竜二は容赦なく狐ノ依に向かって陰陽の術を放った。
さすがに耐えられず、狐ノ依も対抗するために妖怪の姿に戻り、距離をとる。
今の一瞬でわかった。ゆらとは比べものにならないほどの実力を持った陰陽師だ。
「こうして…無差別に妖怪退治ですか。いいご身分ですね」
挑発する気はなかったが、自然に口をついた言葉には毒があった。
しかし、言い返してきそうな竜二の返答はない。
何事かと不思議に思いながらも狐ノ依が相手の次の動きに対応できるように構えていると、竜二は両手を上げた。
「え…?」
「妖狐だとは思わなかった。危なかったな、魔魅流」
「な、なんなんですか。ボクを知っているんですか」
「あ?お前妖狐なんだろ」
「…そうですけど」
妖怪は皆「悪」であるとしている竜二たちにも一つ例外があった。
昔から言い伝えられている妖狐。妖狐自体は人間に対して無害であること、そして強い妖怪が近くにいるという目印になるということから、妖狐には手を出してはいけないとされていたのだ。
「たく、紛らわしいことすんな」
「ボクは何もしていません!」
「じゃあな」
それを知るはずもない狐ノ依は見逃されたことに安堵しつつも、素早くリクオ探しに戻るのだった。
・・・
それから大してまだ時間が経っていない。少し離れた場所から大きな音と土煙が見えた。そして、同じ方向から感じるのは、リクオの気配。
「まさか…リクオ様!?」
狐ノ依はその方向へ走り出した。
そこで見た光景は、自らの目を疑うものだった。人間の姿のままのリクオを庇うようにして立つのは花開院ゆら、そして対峙しているのは先ほど会った陰陽師、花開院竜二。
「陰陽師同士が、どうして…」
狐ノ依は陰陽師同士がつぶし合うならそれは好都合だと様子を見ていたが、リクオの心境はそんなものではないようで。
圧倒的な力の差を前に倒れるゆらを、今度はリクオが救い出した。自分は人間だとゆらに言ってきたことが全部無駄になるのに、リクオはゆらの目の前でぬらりひょんの孫である姿に変わってしまった。
「陰陽師だか花開院だか知らねぇが、仲間に手を出す奴ぁ…許しちゃおけねぇ!」
完全にキレているリクオからはどす黒い妖気がにじみ出ている。びりびりと体を刺激してくる妖気に、狐ノ依は体を震わせた。
気持ちが良い、酔い痴れそうにもなる妖気。
じっとリクオを見つめていた狐ノ依の目とリクオの目が合った。
「狐ノ依、そいつを頼む」
リクオが指しているのはゆらだった。不本意ながらもゆらに近づいて体を丁寧に寝かせる。
傷だらけの体はリクオを守ってくれた証。
「…今、狐ノ依って…あんたも、妖怪やったんか」
「悪かったね、ボクも妖怪だよ」
そう言いながら、狐ノ依はゆらの体を触る。全体的に損傷が酷い。陰陽師同士で一体何をやっているのだか。呆れてため息をついた狐ノ依はゆらの視線に気付く。
「…何?」
「へ…変態っ!えっち!」
「ぇ、うわ!ちょっと、安静にして!」
ゆらを抑え込むと狐ノ依はリクオの方に再び目を向けた。
竜二は強い。リクオが押されているように見える。
「…助けなくていいん?」
狐ノ依がうずうずしているのに気付いたのか、ゆらは少し重たい声で言った。妖怪は敵、悪であるという考えがまだ残る中、葛藤があるのだろう。
「リクオ様が望んでいない。ボクは君を頼まれたから…今のボクの仕事は君の治療だよ」
「そんなもんなん?」
「そんなもんだよ…」
「顔はそう言ってへんけど」
「不本意だからね」
ゆらの治療も、リクオの隣で戦えないことも。一歩譲ってリクオの恩人であるゆらの治療は許しても、戦っているリクオの横でくすぶっているのは苦痛だった。
「あ、ほんまに体楽になってきた…」
「それは良かった」
ゆらの体から手を離し、リクオを見た狐ノ依はばっと立ち上がった。
いつの間にか竜二が倒れ、戦いに参加していなかった魔魅流の手によってリクオが滅されそうになっている。
刀でリクオが竜二を攻撃した途端に、魔魅流がリクオの隙をついて攻撃したのだった。
「リクオ様!」
狐ノ依はリクオの前に飛び出してその体を抱き起こした。隙をつかれ防御出来なかった魔魅流の術はリクオの体にずいぶん効いたらしい。
すぐに治そうとするも、力を使ったばかりで思うようにいかない。
「おい、魔魅流!妖狐はやるなよ」
今にもリクオを消しにかかろうとしている魔魅流を見て竜二は声を上げた。それを聞いてゆらは狐ノ依を改めて確認する。
唯一無害だとされている妖怪、妖狐は初めて見たのだから気が付かなくて当然だが、確かに、聞いていた通り美しい妖怪だ。
「な、なぁ、妖狐が付いているってことは、奴良くんも悪と違うんじゃ」
「何言ってんだ…妖狐が無害なのと、その主の善悪は関係ねぇ。むしろこいつが危険って証拠だ」
魔魅流の手がリクオ目がけて伸ばされる。狐ノ依はさせない、とばかりに両手を広げて立ちふさがった。
「おい、魔魅流!」
妖狐である狐ノ依など気にしないように魔魅流の動きは止まらなかった。もう駄目だと目をつぶり、せめてもの抵抗に狐火を出した狐ノ依。
しかし魔魅流のその手が触れることがなかった。
「はい…そこまでだ」
声の主は首無だった。
いつの間にか騒動を聞きつけ、奴良組の妖怪達が集まって来ていたようで、狐ノ依とリクオの周りを青田坊や黒田坊、カラス天狗も含め、皆が囲んでいた。
さすがに無理だと判断した竜二は魔魅流に攻撃を止めるように言うと、リクオに背を向けた。
「あぁ…そうだ、奴良リクオ」
「…何だ」
「いくら妖狐が可愛いからって手ぇ出すなよ」
余計なお世話だ、という目でリクオは竜二を見たが、竜二は真剣だった。
「今、妖狐が子を成したら厄介なんだよ」
「どういうことだ…?」
「どの妖怪よりも強く、どの妖怪よりも悪である奴がいるからだ」
妖狐は強い妖怪に子を託す、ということを知っているが故の忠告だろうが、リクオにとっては言われるまでもない話だった。自ら狐ノ依の寿命を短くするようなことするはずがない。
それでも狐ノ依は寂しそうな顔をしていた。
「ボクは、リクオ様のお傍を…離れたくありません」
「あぁ、離してなんかやらねぇよ」
「で、でも…リクオ様との子供は欲しいと思っていますよ」
「当たり前だ。まだまだ…先の話だろうがな」
二人の世界に、奴良組の妖怪たちも、ゆらも、微妙な顔をして二人を見ていた。
その後、ゆらはリクオに話があると言ってついて来た。話とはリクオが妖怪であるか人間であるか、という単純なものだ。
何故か木の上で話している二人に狐ノ依は終始そわそわしながら見上げていたが、話は終わったらしく、ゆらが木の上から下りてきた。否、落ちてきた。
「優しい言うたばっかりやのに!今のは悪行や!」
リクオに付き落とされたゆらは、リクオに対して最低だの喚いている。それでもリクオが穏やかな顔でゆらを見ているので、狐ノ依は何か言いたい気持ちを抑えた。
「なぁ、狐ノ依くん」
急に振り返ったゆらに狐ノ依は背筋を伸ばした。もしかしたら、嫌な顔をしていたかもしれないと思ったがそんなことはなかったようで、ゆらはそのまま続けた。
「狐ノ依くんは妖狐で奴良くんは主なんやろ?」
「うん、そうだよ」
「それでもって、愛しあっとるん?」
「え、ぇえ!?なんで?」
「いや…」
以前ゆらがカナにリクオについて聞こうとした時、どういうわけか、カナが
「リクオくんは私のこと好きだと思う」
とかいう発言をしたのをふと思い出したのだ。
妖狐に性別がないとはいえ、男の姿をしている狐ノ依とリクオが…と思うと少し複雑である。
しかし目の前の狐ノ依はゆらの質問に赤くなってもごもごしているあたり、触れたくはないが事実なのだろう、とゆらは自己完結しため息をついた。
ついでにカナの言うことがカナの思い込みであることも判明する。
「なんていうか、皆アホやな」
「まさか、花開院さんは…リクオ様のこと」
「ちゃうわ!」
なんだかんだで仲良く話している二人を見て、リクオは一人笑っていた。
狐ノ依はまだ主であるリクオのことばかり考えて、人間、特に陰陽師に対しては固いように見えていたが、大丈夫そうだ。
「子づくり…ねぇ」
そう呟いたリクオの視線の先には狐ノ依がいる。
妖狐は子供に力を譲って死ぬことが多い。そしてその子供を強い妖怪に託す。
どんなに主を愛していたとしても、本能が勝手に体を動かすのだそうだ。
「狐ノ依の親も…さぞ辛かったんだろうな」
リクオの隣で生まれたばかりの狐ノ依が寝ていたということは、亡くなる直前に親の妖狐が託したということだろう。
以前の妖狐の主も、辛かったのだろうか。
「失いたくねぇな…」
狐ノ依の死期が自分より先に来たとしても。自分がその時誰よりも強ければいい。
「そういえば、ケツ触られたとか言ってたな…」
ふと、玉章のことを思い出す。自分だって我慢して触っていないというのに、まさか生じゃないだろうな。
「はぁ…そろそろ自制効かなくなりそうだ」
リクオはゆらと楽しそうに話している狐ノ依からゆっくり目をそらした。
その後すぐ、ゆらは花開院として京都に帰っていった。その時既に、京都では最悪の妖怪が活動を始めていた。
昨夜は飲みに行くなどと上機嫌で出て行ったはずなのに。
「おかえり。二人とも、どうかしたの?」
「おぉ、狐ノ依は偉いな」
「聞け、狐ノ依。こいつ、陰陽師にやられてな」
はは、と笑い話にする黒田坊だったが、狐ノ依はすぐさま青田坊に駆け寄った。その体にぺたぺたと触れてどこか悪いところやケガはないか確認する。
「…良かった。大したことはなさそうで」
「狐ノ依、こんな阿呆に気を回すことはない。そんなことより…狐ノ依も外を歩く時は気を付けるんだぞ」
言いながら黒田坊は照れたように口ごもっている青田坊の頭を錫杖で叩くと狐ノ依の横を通り過ぎて行った。
「陰陽師…リクオ様にも、気を付けるように言わなきゃ」
花開院ゆらの存在のせいで、リクオは陰陽師への警戒を怠っている傾向がある。リクオが陰陽師になんてやられるとは思わないが、青田坊がやられたと言われてはさすがに黙っていられない。
狐ノ依は休日のため友人たちと遊びに行ったリクオを探しに出かけるのだった。
・・・
運が良いのか悪いのか、陰陽師に気を付けるよう伝えたくてリクオを探していた狐ノ依の目の前に立ちはだかる人間が二人。
「おい、お前妖怪だろ」
「…いきなり、失礼な人ですね」
確信はなかったが、人間の姿の狐ノ依を一目で妖怪と見分けたこと、そして異様な雰囲気から陰陽師だということは明らかだった。
「確認するまでもねぇか」
「…っ」
どうしたらいい、一人で対応できるか…?
顔に出さないように悩む狐ノ依の腕を男が掴んだ。
この時の狐ノ依が知るはずもないが、この男は花開院竜二、そして後ろに花開院魔魅流、ゆらと同じく花開院の陰陽師だった。
「っ離して下さい!人を呼びますよ!?」
少しでも時間を稼いだ方がいいと判断し、狐ノ依は妖怪であることを隠し続けようとしたが、竜二は容赦なく狐ノ依に向かって陰陽の術を放った。
さすがに耐えられず、狐ノ依も対抗するために妖怪の姿に戻り、距離をとる。
今の一瞬でわかった。ゆらとは比べものにならないほどの実力を持った陰陽師だ。
「こうして…無差別に妖怪退治ですか。いいご身分ですね」
挑発する気はなかったが、自然に口をついた言葉には毒があった。
しかし、言い返してきそうな竜二の返答はない。
何事かと不思議に思いながらも狐ノ依が相手の次の動きに対応できるように構えていると、竜二は両手を上げた。
「え…?」
「妖狐だとは思わなかった。危なかったな、魔魅流」
「な、なんなんですか。ボクを知っているんですか」
「あ?お前妖狐なんだろ」
「…そうですけど」
妖怪は皆「悪」であるとしている竜二たちにも一つ例外があった。
昔から言い伝えられている妖狐。妖狐自体は人間に対して無害であること、そして強い妖怪が近くにいるという目印になるということから、妖狐には手を出してはいけないとされていたのだ。
「たく、紛らわしいことすんな」
「ボクは何もしていません!」
「じゃあな」
それを知るはずもない狐ノ依は見逃されたことに安堵しつつも、素早くリクオ探しに戻るのだった。
・・・
それから大してまだ時間が経っていない。少し離れた場所から大きな音と土煙が見えた。そして、同じ方向から感じるのは、リクオの気配。
「まさか…リクオ様!?」
狐ノ依はその方向へ走り出した。
そこで見た光景は、自らの目を疑うものだった。人間の姿のままのリクオを庇うようにして立つのは花開院ゆら、そして対峙しているのは先ほど会った陰陽師、花開院竜二。
「陰陽師同士が、どうして…」
狐ノ依は陰陽師同士がつぶし合うならそれは好都合だと様子を見ていたが、リクオの心境はそんなものではないようで。
圧倒的な力の差を前に倒れるゆらを、今度はリクオが救い出した。自分は人間だとゆらに言ってきたことが全部無駄になるのに、リクオはゆらの目の前でぬらりひょんの孫である姿に変わってしまった。
「陰陽師だか花開院だか知らねぇが、仲間に手を出す奴ぁ…許しちゃおけねぇ!」
完全にキレているリクオからはどす黒い妖気がにじみ出ている。びりびりと体を刺激してくる妖気に、狐ノ依は体を震わせた。
気持ちが良い、酔い痴れそうにもなる妖気。
じっとリクオを見つめていた狐ノ依の目とリクオの目が合った。
「狐ノ依、そいつを頼む」
リクオが指しているのはゆらだった。不本意ながらもゆらに近づいて体を丁寧に寝かせる。
傷だらけの体はリクオを守ってくれた証。
「…今、狐ノ依って…あんたも、妖怪やったんか」
「悪かったね、ボクも妖怪だよ」
そう言いながら、狐ノ依はゆらの体を触る。全体的に損傷が酷い。陰陽師同士で一体何をやっているのだか。呆れてため息をついた狐ノ依はゆらの視線に気付く。
「…何?」
「へ…変態っ!えっち!」
「ぇ、うわ!ちょっと、安静にして!」
ゆらを抑え込むと狐ノ依はリクオの方に再び目を向けた。
竜二は強い。リクオが押されているように見える。
「…助けなくていいん?」
狐ノ依がうずうずしているのに気付いたのか、ゆらは少し重たい声で言った。妖怪は敵、悪であるという考えがまだ残る中、葛藤があるのだろう。
「リクオ様が望んでいない。ボクは君を頼まれたから…今のボクの仕事は君の治療だよ」
「そんなもんなん?」
「そんなもんだよ…」
「顔はそう言ってへんけど」
「不本意だからね」
ゆらの治療も、リクオの隣で戦えないことも。一歩譲ってリクオの恩人であるゆらの治療は許しても、戦っているリクオの横でくすぶっているのは苦痛だった。
「あ、ほんまに体楽になってきた…」
「それは良かった」
ゆらの体から手を離し、リクオを見た狐ノ依はばっと立ち上がった。
いつの間にか竜二が倒れ、戦いに参加していなかった魔魅流の手によってリクオが滅されそうになっている。
刀でリクオが竜二を攻撃した途端に、魔魅流がリクオの隙をついて攻撃したのだった。
「リクオ様!」
狐ノ依はリクオの前に飛び出してその体を抱き起こした。隙をつかれ防御出来なかった魔魅流の術はリクオの体にずいぶん効いたらしい。
すぐに治そうとするも、力を使ったばかりで思うようにいかない。
「おい、魔魅流!妖狐はやるなよ」
今にもリクオを消しにかかろうとしている魔魅流を見て竜二は声を上げた。それを聞いてゆらは狐ノ依を改めて確認する。
唯一無害だとされている妖怪、妖狐は初めて見たのだから気が付かなくて当然だが、確かに、聞いていた通り美しい妖怪だ。
「な、なぁ、妖狐が付いているってことは、奴良くんも悪と違うんじゃ」
「何言ってんだ…妖狐が無害なのと、その主の善悪は関係ねぇ。むしろこいつが危険って証拠だ」
魔魅流の手がリクオ目がけて伸ばされる。狐ノ依はさせない、とばかりに両手を広げて立ちふさがった。
「おい、魔魅流!」
妖狐である狐ノ依など気にしないように魔魅流の動きは止まらなかった。もう駄目だと目をつぶり、せめてもの抵抗に狐火を出した狐ノ依。
しかし魔魅流のその手が触れることがなかった。
「はい…そこまでだ」
声の主は首無だった。
いつの間にか騒動を聞きつけ、奴良組の妖怪達が集まって来ていたようで、狐ノ依とリクオの周りを青田坊や黒田坊、カラス天狗も含め、皆が囲んでいた。
さすがに無理だと判断した竜二は魔魅流に攻撃を止めるように言うと、リクオに背を向けた。
「あぁ…そうだ、奴良リクオ」
「…何だ」
「いくら妖狐が可愛いからって手ぇ出すなよ」
余計なお世話だ、という目でリクオは竜二を見たが、竜二は真剣だった。
「今、妖狐が子を成したら厄介なんだよ」
「どういうことだ…?」
「どの妖怪よりも強く、どの妖怪よりも悪である奴がいるからだ」
妖狐は強い妖怪に子を託す、ということを知っているが故の忠告だろうが、リクオにとっては言われるまでもない話だった。自ら狐ノ依の寿命を短くするようなことするはずがない。
それでも狐ノ依は寂しそうな顔をしていた。
「ボクは、リクオ様のお傍を…離れたくありません」
「あぁ、離してなんかやらねぇよ」
「で、でも…リクオ様との子供は欲しいと思っていますよ」
「当たり前だ。まだまだ…先の話だろうがな」
二人の世界に、奴良組の妖怪たちも、ゆらも、微妙な顔をして二人を見ていた。
その後、ゆらはリクオに話があると言ってついて来た。話とはリクオが妖怪であるか人間であるか、という単純なものだ。
何故か木の上で話している二人に狐ノ依は終始そわそわしながら見上げていたが、話は終わったらしく、ゆらが木の上から下りてきた。否、落ちてきた。
「優しい言うたばっかりやのに!今のは悪行や!」
リクオに付き落とされたゆらは、リクオに対して最低だの喚いている。それでもリクオが穏やかな顔でゆらを見ているので、狐ノ依は何か言いたい気持ちを抑えた。
「なぁ、狐ノ依くん」
急に振り返ったゆらに狐ノ依は背筋を伸ばした。もしかしたら、嫌な顔をしていたかもしれないと思ったがそんなことはなかったようで、ゆらはそのまま続けた。
「狐ノ依くんは妖狐で奴良くんは主なんやろ?」
「うん、そうだよ」
「それでもって、愛しあっとるん?」
「え、ぇえ!?なんで?」
「いや…」
以前ゆらがカナにリクオについて聞こうとした時、どういうわけか、カナが
「リクオくんは私のこと好きだと思う」
とかいう発言をしたのをふと思い出したのだ。
妖狐に性別がないとはいえ、男の姿をしている狐ノ依とリクオが…と思うと少し複雑である。
しかし目の前の狐ノ依はゆらの質問に赤くなってもごもごしているあたり、触れたくはないが事実なのだろう、とゆらは自己完結しため息をついた。
ついでにカナの言うことがカナの思い込みであることも判明する。
「なんていうか、皆アホやな」
「まさか、花開院さんは…リクオ様のこと」
「ちゃうわ!」
なんだかんだで仲良く話している二人を見て、リクオは一人笑っていた。
狐ノ依はまだ主であるリクオのことばかり考えて、人間、特に陰陽師に対しては固いように見えていたが、大丈夫そうだ。
「子づくり…ねぇ」
そう呟いたリクオの視線の先には狐ノ依がいる。
妖狐は子供に力を譲って死ぬことが多い。そしてその子供を強い妖怪に託す。
どんなに主を愛していたとしても、本能が勝手に体を動かすのだそうだ。
「狐ノ依の親も…さぞ辛かったんだろうな」
リクオの隣で生まれたばかりの狐ノ依が寝ていたということは、亡くなる直前に親の妖狐が託したということだろう。
以前の妖狐の主も、辛かったのだろうか。
「失いたくねぇな…」
狐ノ依の死期が自分より先に来たとしても。自分がその時誰よりも強ければいい。
「そういえば、ケツ触られたとか言ってたな…」
ふと、玉章のことを思い出す。自分だって我慢して触っていないというのに、まさか生じゃないだろうな。
「はぁ…そろそろ自制効かなくなりそうだ」
リクオはゆらと楽しそうに話している狐ノ依からゆっくり目をそらした。
その後すぐ、ゆらは花開院として京都に帰っていった。その時既に、京都では最悪の妖怪が活動を始めていた。