リクオ夢(2011.10~2015.03)
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最後に見た光景は、風で吹き飛んだ店と、倒れた店員…そして犬のように長い舌をもった妖怪と、真面目そうな青年の姿だった。
「ようやく起きてくれたね」
目を開けた狐ノ依は自分の状況を理解することが出来なかった。
腕と足が縛られていている状態で、見知らぬ青年に見下ろされている。
その表情は笑っているのに冷たくて、ぞっと背筋に嫌なものが走った。
「まさか君のような妖怪が奴良組にいるなんてね…笑いが出たよ」
「貴方は…誰ですか」
「四国八十八鬼夜行の組長、玉章(たまずき)…君のいた奴良組を潰す妖怪だよ」
「え…」
狐ノ依はあっさりと正体を明かされて玉章の言葉を流しそうになってしまった。
今、この男はなんと言ったか。
「…奴良組に、何かするつもりですか…!?」
「そう。奴良リクオを倒し、ボクが妖怪の主となるんだよ」
「では…何故、ボクを」
「妖狐は強い妖怪の元にいる、強い者の象徴。君がボクの元にいないのは筋違いだ」
玉章の手が狐ノ依の顎を持ち上げて、顔を近づけた。
近くで見つめられると嫌でもその者の感情や妖気が伝わってくる。視線をそらしたいほどの恐怖。
「わかるだろう?ボクの強さが」
「…はい」
「いい子だね」
狐ノ依が自分に畏れたということを確認したからだろう、玉章は側近である夜雀に合図し狐ノ依の縄を解かせた。
長く黒い髪、怪しげな雰囲気を纏う夜雀の手は細く綺麗だ。
恐らく女性であろう夜雀にも、狐ノ依の心は落ち着かなかった。
何より、逆らってはならない、リクオに匹敵するだろう力を持つ玉章がじっとこちらを見ている。
「玉章様、ボクを守ってくれますか」
「君がボクを主として認めるならね」
「認めざるを得ません。貴方が奴良組を倒すなら…ボクの居場所はそこにないのですから」
自分でも、よくこんなセリフが出てきたと思う。自分の言葉に吐き気がする。
それでも、玉章は満足気に笑っていた。
「こちらにおいで、可愛い狐の子」
「…はい」
すっと夜雀が後ろに下がり、狐ノ依はおずおずと玉章に近付いた。
玉章の前で膝をつけば、玉章の細く白い指が狐ノ依の顎を掴んで。
「っ!?」
唇をなぞる玉章の指が狐ノ依の口にねじ込まれた。
つんと鋭い犬歯に刺さった指から鮮やかな血が流れる。
「君はボクのものだ」
「っん、…」
妖気の強い玉章の血は、考えるまでもなく美味だった。
その気はなくとも玉章の妖気に頭がぼうっとしていく。
「玉章、それが妖狐か?」
「あぁ、そうだよ」
「ふーん…思ってたより普通ぜよ」
見たことのない妖怪ばかり、自分の頼れる存在がいない状況に、狐ノ依は目を閉じて時が流れるのを待った。
必死に深すぎる妖気に逆らいながら。
・・・
いなくなった狐ノ依。そして奴良組幹部の狒々が率いる組の壊滅。立て続けに起こる事件に奴良組は穏やかでなくなっていた。
「くそ…ボクが狐ノ依を一人になんかしなければ…」
「リクオ様、きっと事を起こしているのは同じ妖怪です」
「落ち込んでいる場合ではありませんよ」
こんな時こそ冷静に。奴良組が動揺していることを悟られてはならない。
最初は落ち込んでいたリクオだったが、狙われているのが奴良組全体である以上、動かないわけにもいかなくなった。
「しゃきっとせんか!狐ノ依のことを考えるのもいいが、周りを見る余裕を持たんでどうする」
「…でも、もし狐ノ依に何かあったら」
「狐ノ依は言わば人質じゃろ。そう簡単に殺されたりはせん」
ぬらりひょんの言う通り、いなくなったということは、人質として取られていると考えるのが妥当だ。人質を殺す意味などない。
そもそも、妖狐は命に敏感な妖怪であり、自分が死ぬとわかったときには主との間に子供を作ろうとするものだ。貴重な妖怪である妖狐が殺されたという話も聞いたことがない。
「狐ノ依は…大丈夫だよね」
そう信じる他ないことが、もどかしく、情けなかった。
それからも、奴良組以外の妖怪が浮世絵町で暴れ回っているという噂は絶えず、用心のためにつらら、青田坊の他にも首無、毛倡妓、黒田坊、河童と親しい妖怪たちを連れてリクオが学校に行った日、再び事件が起こった。
学校に一匹の妖怪が忍び込んでいたのだ。
味方を多くつけたリクオに敵わない相手ではなく、その妖怪、犬神はリクオたちによって弱らせることに成功した。
しかし、その妖怪を消したのは、リクオたちではなかった。
突然現れたもう一人の妖怪、隠神刑部狸(いぬがみぎょうぶだぬき)…玉章、それは犬神の主である男だった。
「奴良リクオ、君の“畏”を奪い、ボクの八十八鬼夜行に並ばせてやる」
自分の仲間である犬神を消したことに何も感じていない様子で、玉章はリクオに宣戦布告する。そして、リクオをあおるのに一番適した言葉を続けた。
「妖狐はボクを選んだ…この意味わかるだろう?」
「なんだと?」
「返して欲しいなら、ボクを倒すんだね。奴良リクオ…」
リクオに妖怪の姿を見せて、玉章はそこから消えた。
玉章の妖怪の姿はリクオよりも大きく、妖気も普通の妖怪のそれとは比べものにならないものだったが、リクオは笑っていた。
「狐ノ依の無事はわかった…十分だ」
「リクオ様…?」
「奴を倒す、必ずな」
リクオの目は、本気だった。
仲間を自分の駒としか思わない男、玉章。
リクオと境遇が似ている故にリクオと敵対し、更には天下を取ろうとしている玉章は、根本的な部分がリクオと大きく異なった。
自分のために戦う玉章に対し、リクオは愛しい狐ノ依と守るべき仲間たちを思って戦う。
リクオにとってこの戦いは、負けるわけにいかないものだった。
「玉章様…リクオ様に会ったそうですね」
「あぁ、思っていたよりも立派な姿だったな…」
穏やかに話ながら、玉章は狐ノ依の着物を掴むと荒々しく自分の方に引き寄せた。
「前の主が心配か?妖狐」
「いえ…リクオ様はお強い方でした。玉章様に勝算があるのかどうか気になって…」
「教えて欲しいなら…もっとボクに忠誠を示してみろよ」
玉章の怪しい笑み。こういう顏をするとき、玉章が求めるのは一つだと、もうわかっていた。
狐ノ依は自ら着物を脱ぎ捨てると椅子に腰かける玉章にまたがった。
「必死だな…妖狐」
「当然です。主の信用を得られないでは…ボクの存在は意味を成しません」
玉章の首元に口づけ、自分で自分を慰め熱い息を吐く。
「ふん…仕方のない子だ」
「ふ…ぁ…あ、玉章様…」
与えられる刺激に身を任せる。玉章の細い指は狐ノ依の奥まで入り込んできた。刺激に耐えられず、玉章にしがみ付くと、後ろに立っている夜雀の姿が目に入る。
こんな姿を女の子に見られているという事実に恥ずかしくなる狐ノ依だったが、ある違和感を感じた。
夜雀は、嫌なものを見る目で玉章を見ていた。主を見る目ではないような、夜雀は何か違う意思を持っているような気がした。
「何をよそ見してる」
「っんぁ…!あ、玉章様っ、ダメです…」
「ボクに集中しろ」
「あ…玉章様ッ、早く…」
早くボクに心を許してしまえ。
・・・
リクオの指示で動き出したのは牛鬼組の牛頭丸と馬頭丸だった。
リクオの出した指示は敵の「次の手」と「戦力」を調べること。玉章の居場所は浮世絵町に立つ巨大なビルの中と目立っていて、玉章に付き従う四国の妖怪たちに混ざって侵入することは容易だった。
「諸君!よくぞ集まってくれた!」
暫くすると玉章の演説が始まる。玉章の手には一本の不吉な刀“覇者の証”。その刀を見せた瞬間に躍起立つ妖怪たちを見て牛頭丸が刀の存在を気にしたとき、その背後の見慣れた姿に気付いた。
「馬頭丸…玉章の後ろ見ろ」
「え…?あ!」
狐ノ依!と声を上げそうになる馬頭丸の口を塞いで牛頭丸はしーっと人差し指を立てた。狐ノ依の名を呼ぶのは奴良組のものだけだ。名を呼んだら気付かれてしまう。
しかし、狐ノ依の様子はどこかおかしかった。玉章にぴったりとくっつく姿はリクオの隣にいた姿と重なる。
「我々は力を得た!この覇者の証が我らに栄光をもたらすだろう!」
仕事のノルマは既に達成している。しかし牛頭丸と馬頭丸はその刀の正体も暴こうと玉章に近づいて行った。
まんまと刀の置き場所にまでたどり着いた牛頭丸と馬頭丸を待っていたのは玉章の奇行。
玉章は味方も巻き込んで、その刀で妖怪を切ったのだった。
「あいつ…味方も関係なく…」
「狐ノ依…どうしちゃったの!?」
玉章の隣で刀を見つめる狐ノ依に馬頭丸が声をかけるが、狐ノ依は全く気にしない様子でこちらを見もしなかった。
「オヤ…まだ生きているのか…ならば何度でも痛めつけてやろう…」
玉章が歩みを進めたとき、カラス天狗たちが牛頭丸と馬頭丸を助け出すために窓ガラスを割って乗り込んできた。カラス天狗の目にも当然狐ノ依の姿が映る。
「丁度良い!狐ノ依殿も掴まれ!」
黒羽丸が狐ノ依に手を差し伸べる。しかしその手を振り払うと、狐ノ依は冷たく言い放った。
「ボクは帰らない。ボクの主は玉章様ただ一人だ」
驚きを隠せないカラス天狗たちは、敵の拠点ということもあり、すぐに後ろを向いて飛び立って行った。どうしてしまったのだ、狐ノ依はあんな顔をする子だっただろうか。
このことを、リクオに報告しなければ…いけないのだろうか。
暫くして、辺りは静寂に包まれた。割れた窓ガラスの隙間から風の吹きつける音がするだけ。
刀をその手に取った狐ノ依は、じっとそれを見つめて言葉一つ発することなかった。
「ずいぶん、それが気に入ったようだね」
狐ノ依の様子を見ていた玉章が口を開く。そして刀を狐ノ依の手から奪い取ると、それを狐ノ依の股間に押し当てた。
「ぅあッ…」
「この刀のこと、教えてあげるよ。お前は特別に…体に沁み込ませてあげる…」
「こ…光栄です…玉章様…」
決戦の日は刻一刻と迫っていく。
今夜…奴良組本家に総攻撃をしかける。
玉章の言葉に、狐ノ依はとうとう動き出した。
玉章に取り入って傍に置いてもらえたおかげで刀の置き場所はわかった。あれが玉章にとって強みとなる物なのだろう。暗闇の中忍び込む。
しかしそこには先客がいた。
「…!夜雀…!?」
玉章の刀に続く戦力である夜雀の刀が狐ノ依の喉元を捕らえた。
・・・
リクオの元に傷だらけになった牛頭丸と馬頭丸が戻った。それだけでもリクオを追い詰めたのに、カラス天狗たちの報告「狐ノ依は我らを裏切ったかもしれない」というものは更にリクオの精神を乱す。
たまりにたまったリクオの疲れは振り切り、とうとう倒れてしまった。
目を覚ましたリクオを待ち構えていたのは鴆だった。
「お前、いつから寝てない?なに無理してんだ…」
「無理なんかじゃないよ…」
最初はただ狐ノ依を取り返したくて、でも自分の役目はもっと他にあるとわかって、狐ノ依のことを忘れるくらい一生懸命働いたつもりだった。
「狐ノ依も…こんなボクだから嫌になっちゃったのかな」
「違うだろ、カラス天狗たちは様子が変だったと言った!もっと考えられる要素があるはずだ」
「でも…帰って来なかった…」
リクオは鴆の前で弱った自分を見せた。
ボクがやらなきゃ、でもボクは下僕に信頼されていない、狐ノ依もいなくなったままだ。
声を上げて弱音を吐くリクオの頭を鴆は容赦なく殴りつけた。
「オレはお前についていく。盃を交わしたんだ。狐ノ依のこともそうだ、お前があいつを信じてやらねぇでどうする!」
「鴆くん…」
「お前は、お前の百鬼夜行を作るんだ!」
昼も夜も関係なく、リクオにおのずとついてくる仲間。鴆が襖を開け放つと、つららや首無、青田坊、黒田坊、河童、皆がそこにいた。
皆、この時を待っていたのだ。リクオと盃を交わし、そして百鬼夜行として続くことを。
盃を交わした彼らはリクオの背中についた。
そして夜、百鬼夜行は動き出す。
・・・
幕は上がった。リクオの百鬼夜行と玉章の八十八鬼夜行が浮世絵町でぶつかる。
それぞれが敵と戦う中、リクオは真っ直ぐ玉章に近づいた。
ぬらりひょんの力、悟られずそこにいる妖怪。
「よう」
「なるほど…これがぬらりひょんの力か…」
誰も気づかぬうちに大将同士の戦いが始まっていた。
先に敵を捕らえたのはリクオ。リクオの技、明鏡止水が玉章を捕らえる。
完全にリクオが押している戦況に、玉章は夜雀を呼び寄せた。
「見せてやれ…夜雀」
夜雀は相手に完全な闇を作り出す妖怪。夜雀に触れられたものは目の前が真っ暗になってしまう。
咄嗟に逃れようとしたリクオの頬に夜雀の手が触れた。
「…?」
しかし、リクオは全く畏れていなかった。夜雀が触れたとき、何かあたたかさを感じたからだ。これは。この感覚は知っている。
「狐ノ依…?」
リクオの視界は全く遮られていなかった。
夜雀の姿をしたその妖怪に目を向けると、瞳は青く、その目はじっとリクオを見つめている。
あぁ、間違いない。
リクオは狐ノ依の意図を汲み、見えなくなったフリをしてその場に留まった。
当然リクオの視界が真っ暗になったと思い込んでいる玉章はリクオに近付く。
その時、リクオの刀が刺さった。
「何故…!?夜雀…貴様裏切ったか…!」
「玉章よ…てめぇの下僕の方がオレの側近より下じゃねぇか…」
「…夜雀も、役立たずだったか…どいつもこいつも…」
途端に禍々しい妖気が放たれた。
思わずリクオも足に力を入れる。
「お前達、ボクのために身を捧げろ…」
言葉と共に、玉章の持つ刀に妖怪たちが吸い寄せられていく。否、玉章が切った妖怪たちが刀に取り込まれていった。
夜雀の肩を抱き庇うようにしていたリクオは、その耳元で語りかけた。
「もう、無茶は許さねぇ。後はオレがやる…」
玉章は自分の下僕たちを取り込んで、強大な力を手にしてしまった。一人で百鬼をまとっているような威圧感。
「素敵だろう?ボクの百鬼夜行は」
「魑魅魍魎の主ってのは、骸を背負う輩のことじゃねーんだよ!」
誰も手出しができない、互いの大将同士の戦い。
しかし、この二人には決定的な違いがあった。百鬼夜行の背負い方、ついていく妖怪がいるかどうか。
仲間を殺した玉章に、もはやついていく妖怪はいなくなっていた。
それでも圧倒的な玉章の力。リクオを追い詰める玉章の前に美しく光る青があった。
「なんだ…あれは…」
夜雀の体から放たれた狐火。玉章が殺しただけの数の青白い光が玉章の目を奪った。
その隙を逃すことはなく、リクオの新技、鏡花水月が玉章の腕を切り落とし、刀が落ちた。
玉章の力の源だった刀が手を離れたため、玉章の体から吸い取った妖怪たちが抜けていく。
「刀…もう一度、ボクに力を…!」
刀に手を伸ばす玉章。しかし、刀に手が届く前にその刀はある妖怪の手に奪われていた。
夜雀、玉章に付き従うフリをしていた、本物の夜雀だった。
数時間前にさかのぼる。
刀の保管された部屋された場所で対峙した狐ノ依と夜雀。先手を打ったのは夜雀だったが狐ノ依の一言で夜雀は動きを止めた。
「ボクも…スパイだ」
夜雀は刀を奪うため、長い間忍び込んでいた妖怪だった。
戦いのとき、夜雀の姿に化けて狐ノ依が戦線に出向く。刀を欲している夜雀は常に玉章の隙を狙って隙あらば奪う。
二人は玉章に知られることなく結託していたのだ。
刀を失った玉章は小さな姿に戻り、一切の力も失っていた。
奴良組の勝利で、幕は下ろされた。
・・・
戦いを終えて奴良組に戻った狐ノ依はリクオの前で正座をしたまま俯いていた。リクオの痛いほどの視線を感じながら、目を見るのが怖くて顔を上げられない。
「リクオ様…ケガの治療を…」
「今、そんなことはどうでもいいよ」
「……」
泣きそうになるのを堪えて、狐ノ依はぎゅっと手を握り締めた。怒られたって仕方がない。嫌われたって文句は言えない。勝手なことをしたのは自分だ。
「狐ノ依」
「は、はい…」
「ボクの目を見て」
「…はい」
おずおずと顔を上げた狐ノ依の目に飛び込んできたのは、悲しげに目を細めて微笑むリクオ。想像と違うリクオの表情にきょとんとした狐ノ依の手にリクオの手が重なった。
「ごめん。ボクのせいで狐ノ依に…辛い思いをさせて」
「ち、違います!それは…自分が」
「狐ノ依が無事で…本当に良かった」
リクオは怒っていない。それ以上に、リクオに心配をかけていたのだということに申し訳なくなった。狐ノ依は全く考えていなかったのだ。自分が心配をかけてしまっている、ということを。
「でも、無茶したことは許さないからね!」
「え、えっ!?」
「自分でなんとかしようと思わないで!助けが来たなら…ちゃんと、帰って来て…」
「…はい、すみませんでした」
しゅんと耳を垂らして、頭を下げていた狐ノ依はもう一つ謝らなければいけないことを思い出して顔を上げた。
「あの、リクオ様…約束破ってしまいました」
「え?」
「体、触らせちゃいました」
「……!?」
首無が狐ノ依の体に触れているのを見たときに、体を触られるという行為になんとも思っていない狐ノ依を叱った。触った首無でさえ嫌がらなきゃダメだと念押ししたほどだ。
「…ど、どこを…」
「おしりとか…」
「っ…狐ノ依のばかあああ!!」
どたどたとケガした体で飛び出して行ったリクオを狐ノ依はすぐに追いかけることが出来なかった。どうしよう、嫌われてしまった。約束を守らなかったから。
「リクオ様…待ってください、リクオ様ぁ!」
どたどたと走りまわるリクオと狐ノ依を見て、妖怪たちは穏やかな日常が戻ってきたことを実感していた。