リクオ夢(2011.10~2015.03)
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学校で見かける愛の告白。このイベントに高確率で名を挙げるのは家長カナだ。
「いいもん見れたなー。告ってたぜ」
「女子は家長カナ! めちゃくちゃ可愛いよな!」
「男の方はやっぱり玉砕かぁ……誰か好きな人でもいんのかな」
一年生の中で五本指に入ると噂の美少女。
学年どころか全校生徒で見てもトップクラスであるのは間違いないだろう。
それ程の美少女が選ぶ男は一体どんな奴なのかと、カナを見ていた男子生徒のその視界の中。
後ろを通過した生徒に視線が移動した。
「……あれ? あそこにいるの誰だ?」
「え、めっちゃ可愛くねぇ!?」
見知らぬ黒髪に大きな瞳の美少女。
彼等は目を合わせ、一斉に首を傾げた。
・・・
その日の放課後、リクオはゴミ捨ての手伝いをしていた。
「ふう……。結構重いなぁ。こんなに溜まる前に捨てれば良いのに」
「あの、奴良リクオくん……?」
「え、はい?」
突然背後から聞こえた、聞き覚えのない女子生徒の声。
リクオがぱっと振り返ると、人間とは思えないほど綺麗な容姿をした女子生徒がそこに立っていた。
「え……と、誰?」
「リクオくん、それ、手伝います」
「え!? いや、えっと……大丈夫だよ、もうすぐ終わるし!」
そう言っても、女子生徒はにこりと笑うだけで一つの袋をリクオの手から奪い取ってしまった。
リクオよりも細い手足。スカートが揺れる度に覗く白い太腿は何とも魅惑的だ。
「どうかしましたか?」
「い、い、いいや、な、なんでもない!」
きょと、と首を傾げて笑う。
女友達もいるし、決して女子に慣れていないわけではないのに、リクオは妙な緊張で気分が浮ついていた。
「リクオくん、家長さんとは……どういう関係なんですか?」
「え!? カナちゃん!?」
「はい。可愛い子、ですよね」
急に顔を覗きこまれて、至近距離に整った顔が入り込んできた。近くで見ても、可愛いものはやはり可愛い。
思わずどきっとしつつも、その質問への答えは一つしかなく、リクオは間もなく少女へ返した。
「カナちゃんは、友達だよ」
「友達、ですか。安心しました。私、リクオくんのこと好きなんです」
「……え!?」
ゴミ箱がぼと、と手から落ちた。
「え……と、なんて……?」
「私、リクオくんのこと好きです」
リクオにとって、こんな経験は初めてだ。
嬉しいやら複雑な思いに頭がぐるぐると混乱する。
その女子生徒はというと、告白したというのに先ほどと変わらず、けろっとした顔でリクオを見ている。
告白ってのは、もっと緊張感ある中で行われるものではないのだろうか。
「あれ、ボク、君と会ったことある……?」
ふと、彼女を見つめていたリクオはある事に気が付いた。
「……いいえ、初めてです」
「なんか、見覚えが……あるような」
見覚えがある、いや誰かに似ている。
こんな美少女だったなら、一度会って忘れることはないだろうが。
「おかしいな、なんでこんなに見覚えがあるんだろう……君、名前は……、……!?」
そういえば名前を聞いていない。そう思って少女へ質問をしたリクオに、ぞわっと嫌なものが走った。
校舎の方から、悪質な妖怪の気配がしている。
「あの、ごめん、ボク、忘れもの……!」
急いで様子を見に行かなければ。
今にも走り出したい勢いで、少女へと目を向ける。
すると、どういうわけか、少女も校舎の方をじっと見つめていた。
「男子トイレ……男子トイレです。リクオくん」
「え、わかるの?」
「はい、行きましょう」
女子生徒はリクオの手を掴むと、そのまま走り出していた。
その背中は細く、頼りないのに、何故かとても愛しく思える。
ふわっと揺れる髪から香った匂いは、良く知ったものな気がした。
・・・
トイレに入ると、壁に設置された鏡の中に家長カナが取り込まれていた。
カナは、小さい頃に鏡の妖怪に気に入られ、13歳の誕生日に迎えに行くとそう言われ狙われ続けていたらしい。
リクオはすぐさま妖怪の姿に変わると、その妖怪を一撃で退治し、鏡の中からカナを救い出した。
然程強い妖怪ではなかったのが、不幸中の幸いだ。
「あ……ありがとう」
「気をつけな」
それだけカナと言葉を交わし、深く関わってしまう前に離れようとリクオが歩き出す。
そしてずっと入口で様子を見ているだけだった、自分をここまでつれて来た女子生徒に目を向けた。
真っ直ぐに目は合っているのに、口を開こうとしない。
互いにそうした為に、暫く二人は無言で見つめ合うこととなった。
「お前……」
その沈黙を止めたのはリクオの方だった。
しかし、その言葉が続くことはなく。
「待って! あの……あ!」
リクオを追いかけようとしたカナが前につんのめった。
ケガをしたのかもしれない。リクオはカナの前に膝をつき向かい合うと、その体を支えた。
「大丈夫か? どこか痛いところは」
「い、いえ、だ、大丈夫です……」
カナは赤くなった頬を誤魔化すように、首をぶんぶんと横に振った。
そんな様子をじっと、未だ一歩も動かない女子生徒が見つめている。その瞳には怒りのような悲しみのようないろんなものが渦巻いていた。
「カナちゃんを家に送るだけだが……あんたも来るかい」
「……はい」
差し出したリクオの手を女子生徒がぎゅっと掴む。そのまま引き寄せ抱きかかえると、リクオは二人を抱えた込んだ状態で窓から飛び降りた。
ぶわっと風が下から吹き上げる。
それにカナはきゃっと声を上げたが、やはりもう一人の美少女が動じる様子はない。
リクオは何も言わずにカナの家の方へと体を向けた。が。
「お願い、もうちょっとだけ一緒に……あなたのこと、もっと教えてください」
頬を赤らめて訴えるカナ。
それ聞いたリクオが、どう受け取ったか定かではないが、暫く目線を上に向け考えると向かう方向を変更した。
その姿をまた、女子生徒は明らかに嫌だという顔で見ている。
「あの……どこに、向かうのですか……?」
「化猫屋、妖怪の飲み屋だよ。あんたも来るだろう?」
「行きます」
妖怪のリクオと話すもう一人の女子生徒に気付いたカナもまた、複雑そうに顔を歪めた。
たっと降り立った目的地である化猫屋。
そこは妖怪しかいない場所とは思えない程活気にあふれている。
興味津々にきょろきょろと辺りを見渡していたカナは、あっという間に妖怪達に囲まれていた。
「この子、今日が13歳の誕生日だってよ!」
「へぇ、それはめでたい!!」
きゃっきゃと、自分たちが人間を囲んでいるとも知らずに、妖怪たちは楽しそうにしている。
13歳、妖怪にとっては成人の歳だ。それでカナの緊張が少しずつ解れているのだから、良かったと考えるべきか。
それに引き替え。
「楽しくなさそうだな」
カナの傍から離れ、リクオはやはりムッとしている美少女に声をかけた。
「楽しいわけないです。家長さんのこと……友達って言ってたのに。こんなところにまで連れて来るなんて」
「なるほど……」
伏せた目からは今にも涙が零れ落ちそうだ。
リクオはふっと笑い、少女の頭にとんと手を乗せた。
「リクオくんが好き……って言ったな。それ、本当かい? 狐ノ依」
「本当です……、え?」
リクオの言葉に大きな目を更に大きくして、女子生徒はリクオの顔を見上げた。
リクオはしてやったり、とでもいうような笑みを浮かべて、そんな可愛らしい表情を見下ろしている。
「いつから……」
「鏡の妖怪のところへ向かっている間、かな」
「だいぶ前ではないですか……! 自分のこの姿は、お見せしたことなかったのに」
ぽん、という音を立てて、女子生徒はいつもの狐ノ依の姿に変わった。
申し訳なさそうに耳が垂れ下がっている。目は今度こそ溢れた涙で濡れていた。
「どうして、こんなことをしたんだい」
「だ、だって……。誰かが、リクオ様の………」
「オレの?」
「……お嫁さんになるなんて、嫌で」
狐ノ依の予想外の解答に、リクオは言葉を失い、それから込み上げる嬉しさに顔を緩めた。
まさか、そんな事を考えて一人行動に出たというのか。この大人しい妖狐が。
「お前、だからってこんな事しても」
「総大将も鯉伴様も人間の女性と結ばれました。だから……ボクが人間の女性になるしか、無いと……思って……」
「……狐ノ依」
狐ノ依の言う通り、ぬらりひょんは総大将も、鯉伴も、人間の女性と結ばれた。
「そ、それに、カナちゃんはリクオ様のお嫁さんみたいだって……お似合いだって言っていたから……!」
「狐ノ依」
「リクオ様だって、こんな……こんな、ボクだって、連れてきてもらったことないのに、カナちゃんばかり……」
嫉妬故に、必死に考えた狐ノ依の作戦。それも失敗してしまったのだから、もうどうしようもない。
狐ノ依は更に落ち込んで、顔が見えない程に俯いてしまった。
残るのは惨めさと申し訳なさと後悔。こんなことするんじゃなかった、そればかりが頭を巡る。
「バカだな、狐ノ依は」
「っごめんなさい」
「本当に、可愛い……」
「え……?」
リクオの声があまりにも甘く、おずおずと顔を上げる。
その瞬間、リクオは狐ノ依をひょいと抱き上げていた。
「わ、わ……ッ」
「狐ノ依がオレの嫁さんになればいい」
「え!? 、っそんな……だって自分は女の子じゃないんです、ずっと、男の子で」
「そんなことは関係ねぇよ」
リクオの目はじっと狐ノ依のことを見つめていた。
本当に、有り得るのだろうか。自分がリクオの嫁だなんて。
そんな夢のような話に、狐ノ依は切なげに目を細めた。
「……もしそうなら、きっと幸せでしょうね」
ゆっくりと顔が近付いて、どちらともなく目を閉じて唇が重なるのを感じた。
初めて踏み出された彼等の一歩。思いを伝えることもなく、ただお互いの熱を感じ合うだけ。今はそれだけで胸が一杯だった。
・・・
夜が明ける前に、リクオは寝てしまったカナを送るために化猫屋を後にした。
「ここで待っていますね」
「あぁ」
カナへの嫉妬は、リクオと想いを通わせたことで吹っ切れていた。
しかしリクオとカナを見送ったのは、カナを抱き上げるリクオを見たくなかったからだ。
間違いなく油断していた。
その日、化猫屋が、謎の一派に襲われた。ケガ人は一人、被害はそれほど大きくはなかったが、そこにいたはずの狐ノ依が姿を消していた。
その日、そしてその次の日。日は流れても狐ノ依は帰ってこなかった。
2022/05/12
「いいもん見れたなー。告ってたぜ」
「女子は家長カナ! めちゃくちゃ可愛いよな!」
「男の方はやっぱり玉砕かぁ……誰か好きな人でもいんのかな」
一年生の中で五本指に入ると噂の美少女。
学年どころか全校生徒で見てもトップクラスであるのは間違いないだろう。
それ程の美少女が選ぶ男は一体どんな奴なのかと、カナを見ていた男子生徒のその視界の中。
後ろを通過した生徒に視線が移動した。
「……あれ? あそこにいるの誰だ?」
「え、めっちゃ可愛くねぇ!?」
見知らぬ黒髪に大きな瞳の美少女。
彼等は目を合わせ、一斉に首を傾げた。
・・・
その日の放課後、リクオはゴミ捨ての手伝いをしていた。
「ふう……。結構重いなぁ。こんなに溜まる前に捨てれば良いのに」
「あの、奴良リクオくん……?」
「え、はい?」
突然背後から聞こえた、聞き覚えのない女子生徒の声。
リクオがぱっと振り返ると、人間とは思えないほど綺麗な容姿をした女子生徒がそこに立っていた。
「え……と、誰?」
「リクオくん、それ、手伝います」
「え!? いや、えっと……大丈夫だよ、もうすぐ終わるし!」
そう言っても、女子生徒はにこりと笑うだけで一つの袋をリクオの手から奪い取ってしまった。
リクオよりも細い手足。スカートが揺れる度に覗く白い太腿は何とも魅惑的だ。
「どうかしましたか?」
「い、い、いいや、な、なんでもない!」
きょと、と首を傾げて笑う。
女友達もいるし、決して女子に慣れていないわけではないのに、リクオは妙な緊張で気分が浮ついていた。
「リクオくん、家長さんとは……どういう関係なんですか?」
「え!? カナちゃん!?」
「はい。可愛い子、ですよね」
急に顔を覗きこまれて、至近距離に整った顔が入り込んできた。近くで見ても、可愛いものはやはり可愛い。
思わずどきっとしつつも、その質問への答えは一つしかなく、リクオは間もなく少女へ返した。
「カナちゃんは、友達だよ」
「友達、ですか。安心しました。私、リクオくんのこと好きなんです」
「……え!?」
ゴミ箱がぼと、と手から落ちた。
「え……と、なんて……?」
「私、リクオくんのこと好きです」
リクオにとって、こんな経験は初めてだ。
嬉しいやら複雑な思いに頭がぐるぐると混乱する。
その女子生徒はというと、告白したというのに先ほどと変わらず、けろっとした顔でリクオを見ている。
告白ってのは、もっと緊張感ある中で行われるものではないのだろうか。
「あれ、ボク、君と会ったことある……?」
ふと、彼女を見つめていたリクオはある事に気が付いた。
「……いいえ、初めてです」
「なんか、見覚えが……あるような」
見覚えがある、いや誰かに似ている。
こんな美少女だったなら、一度会って忘れることはないだろうが。
「おかしいな、なんでこんなに見覚えがあるんだろう……君、名前は……、……!?」
そういえば名前を聞いていない。そう思って少女へ質問をしたリクオに、ぞわっと嫌なものが走った。
校舎の方から、悪質な妖怪の気配がしている。
「あの、ごめん、ボク、忘れもの……!」
急いで様子を見に行かなければ。
今にも走り出したい勢いで、少女へと目を向ける。
すると、どういうわけか、少女も校舎の方をじっと見つめていた。
「男子トイレ……男子トイレです。リクオくん」
「え、わかるの?」
「はい、行きましょう」
女子生徒はリクオの手を掴むと、そのまま走り出していた。
その背中は細く、頼りないのに、何故かとても愛しく思える。
ふわっと揺れる髪から香った匂いは、良く知ったものな気がした。
・・・
トイレに入ると、壁に設置された鏡の中に家長カナが取り込まれていた。
カナは、小さい頃に鏡の妖怪に気に入られ、13歳の誕生日に迎えに行くとそう言われ狙われ続けていたらしい。
リクオはすぐさま妖怪の姿に変わると、その妖怪を一撃で退治し、鏡の中からカナを救い出した。
然程強い妖怪ではなかったのが、不幸中の幸いだ。
「あ……ありがとう」
「気をつけな」
それだけカナと言葉を交わし、深く関わってしまう前に離れようとリクオが歩き出す。
そしてずっと入口で様子を見ているだけだった、自分をここまでつれて来た女子生徒に目を向けた。
真っ直ぐに目は合っているのに、口を開こうとしない。
互いにそうした為に、暫く二人は無言で見つめ合うこととなった。
「お前……」
その沈黙を止めたのはリクオの方だった。
しかし、その言葉が続くことはなく。
「待って! あの……あ!」
リクオを追いかけようとしたカナが前につんのめった。
ケガをしたのかもしれない。リクオはカナの前に膝をつき向かい合うと、その体を支えた。
「大丈夫か? どこか痛いところは」
「い、いえ、だ、大丈夫です……」
カナは赤くなった頬を誤魔化すように、首をぶんぶんと横に振った。
そんな様子をじっと、未だ一歩も動かない女子生徒が見つめている。その瞳には怒りのような悲しみのようないろんなものが渦巻いていた。
「カナちゃんを家に送るだけだが……あんたも来るかい」
「……はい」
差し出したリクオの手を女子生徒がぎゅっと掴む。そのまま引き寄せ抱きかかえると、リクオは二人を抱えた込んだ状態で窓から飛び降りた。
ぶわっと風が下から吹き上げる。
それにカナはきゃっと声を上げたが、やはりもう一人の美少女が動じる様子はない。
リクオは何も言わずにカナの家の方へと体を向けた。が。
「お願い、もうちょっとだけ一緒に……あなたのこと、もっと教えてください」
頬を赤らめて訴えるカナ。
それ聞いたリクオが、どう受け取ったか定かではないが、暫く目線を上に向け考えると向かう方向を変更した。
その姿をまた、女子生徒は明らかに嫌だという顔で見ている。
「あの……どこに、向かうのですか……?」
「化猫屋、妖怪の飲み屋だよ。あんたも来るだろう?」
「行きます」
妖怪のリクオと話すもう一人の女子生徒に気付いたカナもまた、複雑そうに顔を歪めた。
たっと降り立った目的地である化猫屋。
そこは妖怪しかいない場所とは思えない程活気にあふれている。
興味津々にきょろきょろと辺りを見渡していたカナは、あっという間に妖怪達に囲まれていた。
「この子、今日が13歳の誕生日だってよ!」
「へぇ、それはめでたい!!」
きゃっきゃと、自分たちが人間を囲んでいるとも知らずに、妖怪たちは楽しそうにしている。
13歳、妖怪にとっては成人の歳だ。それでカナの緊張が少しずつ解れているのだから、良かったと考えるべきか。
それに引き替え。
「楽しくなさそうだな」
カナの傍から離れ、リクオはやはりムッとしている美少女に声をかけた。
「楽しいわけないです。家長さんのこと……友達って言ってたのに。こんなところにまで連れて来るなんて」
「なるほど……」
伏せた目からは今にも涙が零れ落ちそうだ。
リクオはふっと笑い、少女の頭にとんと手を乗せた。
「リクオくんが好き……って言ったな。それ、本当かい? 狐ノ依」
「本当です……、え?」
リクオの言葉に大きな目を更に大きくして、女子生徒はリクオの顔を見上げた。
リクオはしてやったり、とでもいうような笑みを浮かべて、そんな可愛らしい表情を見下ろしている。
「いつから……」
「鏡の妖怪のところへ向かっている間、かな」
「だいぶ前ではないですか……! 自分のこの姿は、お見せしたことなかったのに」
ぽん、という音を立てて、女子生徒はいつもの狐ノ依の姿に変わった。
申し訳なさそうに耳が垂れ下がっている。目は今度こそ溢れた涙で濡れていた。
「どうして、こんなことをしたんだい」
「だ、だって……。誰かが、リクオ様の………」
「オレの?」
「……お嫁さんになるなんて、嫌で」
狐ノ依の予想外の解答に、リクオは言葉を失い、それから込み上げる嬉しさに顔を緩めた。
まさか、そんな事を考えて一人行動に出たというのか。この大人しい妖狐が。
「お前、だからってこんな事しても」
「総大将も鯉伴様も人間の女性と結ばれました。だから……ボクが人間の女性になるしか、無いと……思って……」
「……狐ノ依」
狐ノ依の言う通り、ぬらりひょんは総大将も、鯉伴も、人間の女性と結ばれた。
「そ、それに、カナちゃんはリクオ様のお嫁さんみたいだって……お似合いだって言っていたから……!」
「狐ノ依」
「リクオ様だって、こんな……こんな、ボクだって、連れてきてもらったことないのに、カナちゃんばかり……」
嫉妬故に、必死に考えた狐ノ依の作戦。それも失敗してしまったのだから、もうどうしようもない。
狐ノ依は更に落ち込んで、顔が見えない程に俯いてしまった。
残るのは惨めさと申し訳なさと後悔。こんなことするんじゃなかった、そればかりが頭を巡る。
「バカだな、狐ノ依は」
「っごめんなさい」
「本当に、可愛い……」
「え……?」
リクオの声があまりにも甘く、おずおずと顔を上げる。
その瞬間、リクオは狐ノ依をひょいと抱き上げていた。
「わ、わ……ッ」
「狐ノ依がオレの嫁さんになればいい」
「え!? 、っそんな……だって自分は女の子じゃないんです、ずっと、男の子で」
「そんなことは関係ねぇよ」
リクオの目はじっと狐ノ依のことを見つめていた。
本当に、有り得るのだろうか。自分がリクオの嫁だなんて。
そんな夢のような話に、狐ノ依は切なげに目を細めた。
「……もしそうなら、きっと幸せでしょうね」
ゆっくりと顔が近付いて、どちらともなく目を閉じて唇が重なるのを感じた。
初めて踏み出された彼等の一歩。思いを伝えることもなく、ただお互いの熱を感じ合うだけ。今はそれだけで胸が一杯だった。
・・・
夜が明ける前に、リクオは寝てしまったカナを送るために化猫屋を後にした。
「ここで待っていますね」
「あぁ」
カナへの嫉妬は、リクオと想いを通わせたことで吹っ切れていた。
しかしリクオとカナを見送ったのは、カナを抱き上げるリクオを見たくなかったからだ。
間違いなく油断していた。
その日、化猫屋が、謎の一派に襲われた。ケガ人は一人、被害はそれほど大きくはなかったが、そこにいたはずの狐ノ依が姿を消していた。
その日、そしてその次の日。日は流れても狐ノ依は帰ってこなかった。
2022/05/12