苗字は「五色」固定です。
カカシ夢(2011.04~2016.09)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
戦争が終わってから、一年ほど経った。
復興作業も落ち着き、気付けば日常を取り戻している。
ほとんど以前と変わらない生活、いやむしろ平和なくらいだ。
平和すぎて、吐き気がするくらい。
「…、」
ナナは建物の屋根の上でため息を吐いていた。
視界に映るのは、大きな顔の像。
「似てねぇな…」
カカシは火影になる。
「ナナ、オレは火影になるよ」そう告げられたのは何日前のことだろう。
その時はカカシが決めたことなら、とナナも受け入れたつもりだった。
その覚悟が崩れたのは、ついさっきのことだ。
カカシが任務に出て木ノ葉にいない時。ナナは顔もほとんど知らない評議会の老人に一人呼ばれた。
「はたけカカシのことを思うなら、早々に距離をおいてもらいたい」
渋い声がそう言う。
ナナは何も言い返すことなく、ただじっとシワの多い顔を睨んでいた。
「理由は二つある。火影が男色家とあっては、他国に示しがつかんだろう。それが一つ」
そんなこと、知ったこっちゃない。
今時そんなこと気にするかよ。そう思って、ナナは鋭い目つきを変えず沈黙を守った。
「もう一つは、子孫のことじゃ」
しかし、続いた言葉にナナは小さく口を開いていた。
息が漏れるだけの、唇が震える。
「分かっているだろう、五色ナナ、お前とでははたけカカシは火の意志を残せない」
「…そ、れは」
「木ノ葉は、火の意志を代々受け継いできた。ナルトとミナトを見たお主なら分かるじゃろう」
「…」
「何がこの国の為になるのか…よく考えるといい」
呼吸が止まったのは、決して考えたことがなかった話じゃないからだ。
カカシは火影になる。国の長になるのだ。
それを、寄り添うのが男の自分で良いはずがない。
「だから…嫌だったんだよ、俺は…」
見上げるのは、既に完成された火影岩。
後はその引継ぎを行うだけだ。残る時間は、あとわずか。
「…カカシ…アンタが、また遠くなる」
痛い、胸が痛い。
今すぐカカシに抱いて欲しい。何もかも考えられなくなるくらい、安心させて欲しいのに。
「…」
ぱたりと、屋根に背中を預ける。
泣いたって仕方がない。喚いたってどうにもならない。なら。
「帰るか…五色に…」
そろそろ先生にも会いたいと思っていたところだ。
それに、今なら五色はナナを歓迎するだろう。
でも、そんな風に逃げて良いのか。もう、離れない、そう決めたじゃないか。
「…くそ…」
ナナは体を起き上らせて、小さく舌を打った。
こんな時に任務に出ているカカシが悪い。ちゃんと、カカシと話してからじゃないと駄目だ。
ぱっと立ち上がって、ナナはそのまま屋根から飛び降りた。
聞いた話では、今回の任務は急なもので、しかも高ランクになるものらしい。
居合わせたカカシに留まらず、知った者が多く里の外に出ているのがその証拠だ。
とりあえず待つしかない。
そう思い帰路へと足を進めたナナに、近付いてくる足音があった。
「ナナさん!」
高い声に振り返ると、「やっと見つけた」と言いながら駆け寄ってくるのはサクラの姿があった。
その後ろにはおずおずとヒナタもくっ付いている。
「聞きましたよ、ナナさん!」
「何?」
「カカシ先生とのこと何か言われたんでしょ!?」
情報が早いな。
ナナはサクラを感心しつつ、ぽりと頬をかいた。
「ナナさんが呼ばれたって言うから心配で…綱手様に聞きました」
「あの、気にすることないと思います」
サクラとヒナタの視線は、ナナを見て不安そうに揺れている。
なるほど、ヒナタがいるのは多少自分とも重なるところがあるからだろう。
彼女がナルトをずっと思い慕っていることは、ナルトを除いて周知の事実だ。
「その、子孫の事なら綱手様にだっていませんし…」
「は、それは綱手様に失礼だな」
「でもほんとに!ナナさんだけが悩むことじゃないんですよ!」
少し声を張り上げるサクラに対し、ヒナタはとなりでこくこくと頷く。
少なくとも迷いがあったナナに対して、二人はずいぶんと真っ直ぐだ。
ナナはふっと笑いサクラの頭に手を乗せた。
「わかってるよ」
「ほんと、ですか?一人で五色に帰るとか」
「ま、それはちょっとは考えたけど」
五色に帰る、それは負けを認めたようなものだ。
せめて足掻いてからでないと。
その思いが本物であるとナナの表情から感じ取ったのだろう、二人は目を見合わせてようやく肩の力を抜いた。
「とりあえず…カカシが帰ってきたら話すよ」
「カカシ先生にも同じくらい、背負わせなきゃダメですよ?」
「ああ」
大丈夫。二人でなら、今までみたいに何とか出来るはずだから。
そう信じているから、ナナは評議会から言われた事を受け入れず、カカシを待った。
カカシが火影になったって、思いが変わるわけじゃない。
そう信じていたナナに突き付けられたのは、信じがたい裏切りだった。
「カカシの奴はな、オレが搭乗客の命を救わんと奮闘していたころ、なんと破廉恥にも敵のくノ一をひっかけていたんだぞ」
カカシ達が帰ってきた、それを聞いて正門へと駆けつけたナナは、カカシと一緒に任務に出ていたガイの声にぴたと足を止めた。
ガイがその言葉を向けた先は、弟子であるリーだ。
そして未だナナの存在に気付いていないのだろう、シカマルとチョウジが続ける。
「カカシ先生だってとっくに三十歳過ぎてんだぜ。女の一人や二人、いたっておかしくねェだろ」
「あの華氷って人、きれいだったもんね」
「年増だけどな」
「あ、あのねえ…君達…」
何の話だ。いや、今回の任務のことで間違いないだろう。
任務から戻ったばかりのメンバーが、任務で起こったことを話しているのだ。
カカシが、女と。何があったっていうんだ。
じゃり、と後ずさった足元で小石が転がる。それに気付いたシカマルが、細い目を大きく見開いた。
「どうせお前、彼女も火影の権限利用して鬼灯城から連れ出す気なんだろう?」
「あ、おい、ガイ先生」
「全く、職件乱用で女を捕まえるなんてお前ってやつぁ」
「馬鹿…っ」
シカマルがこちらを向いて焦った様子を見せるものだから、ガイ以外の皆がナナの存在に気付きハッと息を呑む。
カカシの目も大きく開かれ、困ったように頭をかいた。
「ナナ…」
なるほど、そういうことか。
既にカカシは、将来共に歩むべき女を見つけていたのだ。
六代目火影にふさわしい、誰もが認めるだろう“女性”を。
「…ナナ、違うからな?コイツ等が勝手に…」
「もういい。俺が馬鹿だった」
「ナナ?」
手をこちらに向けて歩み寄ろうとするカカシから、ナナは距離をとった。
首を左右に横に振って、カカシを睨み付ける。
「火影になるアンタと、どうやったら一緒にいられるか考えてたのに、まさか女の為だったとはな」
「いや、だから」
「そんなに女がいいなら勝手にしろ。アンタには似合いじゃねーか、年増のイイ女?」
「ちが」
「俺は五色に帰る」
カカシに言葉を言わせる間をつくらず、我慢出来なくなった感情をぶつける。
目を開いて体をぴたと固くしたカカシに、湧き上がる感情は悲しさ以上に怒りで。
ナナはそのまま彼等の脇を通り過ぎた。
「ま、待てナナ!」
「ついてくんな!死ね!」
「し、しね…って、」
咄嗟にナナの腕を掴もうとしたカカシの手を振り払って、木ノ葉に背を向けて歩き出す。
そんなナナを、追い掛ける足音はなかった。
ざわざわと木々が怪しげに揺れる。
平和なはずの木ノ葉の里の門の前で、一人の大人が項垂れていた。
「あーあ、カカシ先生やっちまったな」
「同情の余地なしね」
どんよりとした空気を漂わせるカカシに、上からグザグサと棘が刺さる。
ナルトと、カカシが帰ってきたと知って遅れて駆けつけたサクラとヒナタ。それからシカマルやチョウジは揃ってカカシを呆れ顔で見下ろした。
そんな冷ややかな目を向けないのは、全く事情を知らずにいたガイやリーくらいだ。
「す、すまんな、カカシよ…。まさかそうとは知らず」
「で、ではガイ先生、先程の話は嘘だったのですか…!?」
「いや、嘘…ではないんだが、なあカカシ」
「女性と共に戦って、ついでに助けただけで、それはないだろガイ…」
任務の内容上、氷華という女性を腕に抱えたり、二人きりでいた時間も確かにあった。
最後に罪人である彼女に生きる道を示すことで助けたのも事実だ。
それがどうしてこんなことに。
カカシは深く溜め息を吐いて、ナナが立ち去った木々の向こうを見つめた。
「いつもなら…あんな明らかな冗談、信じるような子じゃないんだけどな…」
カカシ自身が結婚していてもおかしくない年であるだけに、まだなのかと言われることは多かった。
その度にナナはため息を吐きながらも、それを真に受けるようなことはなかったのに。
と、そのカカシの考えを感じったのか、サクラが腕を組んでカカシの前に立った。
「カカシ先生。ナナさん、ずーっと悩んでたんだから」
「ああ…ま、そう、だろうなあ」
「火影と自分とじゃ上手くいかないって、ずーっと悩んで、でもカカシ先生と話して解決するんだって意気込んでたのに」
タイミング悪いったらないわよ。
サクラはそう吐き出し、今度はカカシから目を逸らして息を吐いた。
「その憂い顔に…何人の女性が見惚れていたか」
「え」
直後続けられた言葉に、カカシはぱっと顔を上げた。
何か、記憶に思いたる節があるのか、サクラだけでなくナルトも視線を空へと移動させている。
「そうだってばよ、カカシ先生。ナナってば、めちゃくちゃモテんだからな。放っておいたらあっという間に…」
「カカシ先生は危機感なさすぎよ。反省したならさっさと追い掛けたら?」
ナナがモテる、それは必然といえば必然だろう。
目付きの悪かった昔とは違う、大人になって穏やかになったナナは忍としても一人の男としても注目を集めている。
それでも危機感なくいられたのは、ナナの愛情が、ナナの思いが分かりやすかったからだ。
いつだってナナはカカシを見つめていたのだ。その内の不安を隠して。
「そうだな、オレはずっとナナに甘えっぱなしだった」
立ち上がり、きついことは言っても不安そうに眉を寄せるサクラとナルトの横を通り過ぎる。
ナナを迎えに行くのは自分だ。自分でなくては。
「悪い、シカマル。任務の報告は頼んだ」
「ああ…、っとその前に、カカシ先生、アンタ等のこと分かってんのにからかっちまった手前、一つ」
「ん?」
「ナナさん、刀持ってなかったぜ」
恐らく、それは偶然だ。
目ざとくもそれに気付いていたシカマルの言葉に、カカシは目を丸くした。
ナナの刀。ナナの体と繋がった、いわばナナの分身のようなもの。
「……そうか、それだ」
「え?」
「悪いな、ちょっと、行ってくる」
「ちょっと、カカシ先生!?」と後ろでサクラが高い声を出す。
その声には、だからって戻ってくるのを待っていたら駄目だと咎める思いが込められていただろう。
分かっている。カカシはその声に振り返ることなく、久々に二人の家へと足を運んだ。
・・・
とぼとぼと、静かな森の中を一人歩く。
ナナの頭は既に冷静さを取り戻していた。
今あるのは、カカシへの怒りではなく、自分の未熟さへの苛立ちだ。
本当は、カカシが女性にうつつを抜かしていただなんて、そんなのウソだと分かっているのだ。
いや、もしかしたら事実であるのかもしれないがそれでも、カカシに愛されている自信はある。
誰よりも、カカシはナナを思ってくれるだろう。
「タイミングが…悪ィよ、カカシ…」
今は少し、自分のことだけじゃなくて、カカシの未来についても考えていたから。
だから、これが良い機会だと思ってしまったのだ。
このまま、この痴情の縺れを利用して木ノ葉を去ってしまうのが一番いいのだ。カカシにとって。
「…」
こんな風に悩むなんて、自分らしくもない。
ぴたと止めた足が動き出そうとせず、そのまま太い木の幹に背中を預けた。
息を吐いて、目を閉じて、頭を押さえてくしゃと髪を掴む。
「…そろそろだと思っていたわ」
そのナナの耳に、自分でない声が入って来た。
背中を預ける幹の向こう側から聞こえたそれに、咄嗟に木から体を離して息を呑む。
足音もなくそこから出てきた男は、穏やかな顔で笑っていた。
「久しぶりね、五色ナナ君」
「お前…大蛇丸…」
最後に見た時よりも少し若くなったようにも見えるその容姿。
大戦が終わってからというもの、“木ノ葉潰し”なんてのももう興味ないと木ノ葉からまた姿を消していた。
それが、どうして。ナナはまだ今ならすぐに戻れるだろう木ノ葉を背に、大蛇丸を睨み付けた。
「そんなに警戒しないで頂戴。偶然…ではないけれど、アナタと少し話がしたいだけよ」
「そろそろ…とか言ってたな。なんだよ」
「どうせ木ノ葉から少し離れたいと思っていたのでしょう?ついてきなさい」
「は…?」
しかし大蛇丸は、それだけ言うとナナに無防備にも背中を向けて歩き出していた。
ついていくとでも思っているのか。
ナナは暫く唖然として、その本当に手を出す気のない男の背を見つめた。
躊躇うのは、過去の記憶が大蛇丸という忍に警鐘を鳴らすからだ。
「…大丈夫よ、私達のアジト…水月や重吾もいるわ」
「…!」
「彼等とは親しくしていたでしょう?」
だから大丈夫よと、そう言ってひらひらと手のひらを揺らす。
大蛇丸の口調と表情の穏やかさ、それからその言葉。
それで警戒が緩んだとはいえ、大蛇丸についていくメリットなんてないはずだ。
それなのに前へと動き出したナナの足。この場から離れる理由としては丁度良かった。
・・・
どこまでも続く木々の向こうに、明らかに異質な建物があった。
今大蛇丸が隠れ住んでいるアジト。
景色の変化がなかったこと、それから気持ちが穏やかでなかったこともあるだろうか、ここまでの道のりはほとんど記憶に残らなかった。
薄暗い洞窟のような空間でコツンと足音が響く。
そこにいた水月は、目を丸くしてナナをその目に映した。
「うっわぁ、まさか本当に来るとね」
「水月に会いに来た」
「え?ホント?」
「嘘」
大蛇丸のアジトだなんていう暗い場所でも、彼の持ち前の明るさは変わっていないらしい。
「ちょっとドキッとしたボクが馬鹿だったよ!」と言いながら道を開けた水月の横を大蛇丸が通り過ぎた。
無言だが、ついて来いとの大蛇丸の意志を感じる。
ナナは一度足を止めて、水月の頬を軽くぺちと叩いた。
「元気そうで安心した」
「そう言うナナはこんなとこに来ちゃって、結構傷心なの?ナナならいつでも来ていいからね」
「はは、ありがと。でも遠慮しとく」
こんなところを逃げ道にするほど弱ってなどいられない。
ナナは水月に軽く笑いかけ、大蛇丸の後ろを続いた。
「大蛇丸の奴相変わらずナナのこと狙ってるから!気を付けてね!」
「馬鹿言ってんなよ」
「いやホントに!」
水月が大蛇丸の前で堂々とこんな発言を出来るというのは大きな変化だ。
やはり大蛇丸自身も変わる部分があるのだろう。
「さ、ここよ」
そんな事を茫然と考えながら歩いていると、こつんと鳴った音が止まった。
書物がたくさんあり、怪しげな機械のある部屋で大蛇丸が手招きをする。
暫く辺りを見渡してから、ナナは足を進めてごくりと唾を呑んだ。
「ここ…一体何なんだ?」
「少し試したいことがあるのよ」
大蛇丸がごちゃごちゃと絡み合った機械に触れる。
妙な培養液、それから何かを流し込むようなチューブ。
「私がある忍のチャクラを継いだ忍をつくったことは、知っているわね」
「…ヤマト隊長のことか…?」
「そう。けれど今度は…1から作ろうと思っていてね」
培養液に満たされたガラスのケースに触れながら、大蛇丸がこちらに顔を向ける。
ナナは顔色を変えず、けれど体が震えるのを感じた。
「私の遺伝子を継ぐ忍をつくるのは容易い…けれど、二人を掛け合わせた忍をつくることは可能かしら、と」
「…それって」
「ええ。出来ればサスケ君か、アナタが良いと思っていたのよ」
可能かしら、なんて言っているが、恐らくもうその準備も出来ているのだろう。
頷けば、すぐにでも協力させられる。
ナナは腕を組み、大蛇丸を睨み付けた。
「俺に…アンタの人体実験に協力しろってのか」
「アナタも知っているでしょう?テンゾウは初代の木遁を使える良い忍になったわ」
「そういう問題じゃねーよ」
そもそもナナはまだ心から大蛇丸を許したりなどしていない。
しかもそんな恐ろしい実験に付き合うなんてもってのほかだ。
「…もし、これが成功したら…アナタとカカシの子をつくってあげるわ」
そう思っていたナナは、その大蛇丸の言葉を一瞬聞き逃した。
いや、しっかり聞いていたところで、ナナの反応は変わらなかっただろう。
「…何を驚いた顔をしているの」
「や…、さすがに、意味がわかんねぇ」
「二人の遺伝子を継いだ子…。出てくる場所、違いなんてそれくらいのものよ」
あまりにも、状況が繋がっている。
ナナの悩みに対して、大蛇丸が解決案を差し出している。
「大蛇丸…お前」
「木ノ葉は、そういう火の意志ってのに煩いでしょう?子供が出来るなら…男も女もないはず」
「それは…」
出会った時の「そろそろ」の意味がようやく分かった。
つまり、大蛇丸はナナが“そのこと”で悩み出すタイミングをも見計らっていたのだ。
「少しだけ、血と精子、それとチャクラをくれるだけでいいのよ」
「…、」
「後は私がやることだから、アナタは何も気にしなくていい」
忍として力を受け継ぐだけでなく、そこに遺伝子も植え付ける。
それは確かに、まるで自分の子供のような忍を作り出すことに繋がるのだろう。
「さあ、ワタシに協力して頂戴、ナナ君…」
ナナは先程のように拒絶することが出来なくなっていた。
ナナの迷いに気付いたのか、大蛇丸の口角が吊り上った。
罠か、何かの策略か。怪しいと分かっていながら、首を横に振ることが出来ない。
「…、俺は…」
大蛇丸に協力したなら、求めたものが手に入る。
カカシとの子供。それは、木ノ葉の里だとか火の意志だとか関係なく、喉から手が出るくらい欲しくてたまらないものだ。
叶うはずのないものだからこそ、大蛇丸の甘言に頭が正常に働かなくなる。
「愛する人と、遺伝子を分けた子…欲しいはずよ」
見透かされたような言葉に、ナナはぎゅっと唇を噛んだ。
目の前で大蛇丸が笑っている。ナナが、首を横に振れないことを知っていて、答えを待っている。
「…っ」
喉が震えた。今にも協力すると言葉にしそうだった。
絶対に駄目だ、きっと大蛇丸は何かたくらんでいる。また、騙されたら酷い目に。
…本当にそうだろうか。大蛇丸は変わったのだ。今なら、もしかしたら。
「…、アンタに、」
「ナナ!」
その声が、ナナを呼び止めなければ。
ナナは背後から聞こえてきた声に、言葉を止めて振り返った。
「え…」
「あら、いいところでナイトの登場ね」
カカシが、息を切らしてそこにいる。
手にはナナの刀を持って、その刀をこちらに付き付けるようにして。
「仕方ないわね。この話は、また今度、ゆっくりしましょう」
「今度なんて無い」
「あら、私はナナ君に言っているのよ。貴方じゃないわ、カカシ」
二人が牽制するかのように睨み合い、ピリと鋭い空気が流れた。
嘗ての中忍試験を思い出すかのようだ。あの頃カカシは大蛇丸のチャクラだけで呑まれそうになった。
「…ナナ君は自分の足でここまで来た。その状況をつくったのは誰かしら」
「それは」
「ナナ君を悲しませるなんて…いい身分になったものね」
ああ、本当に良い身分になるんだったわね。
そう言って目を細めカカシを冷ややかな目で見つめた大蛇丸に、カカシは一度開いた口を閉ざした。
数回首が縦に小さく動く。
「確かにその通りです。けど…貴方にナナを渡すわけにはいかない」
「身勝手なものね」
「貴方に言われたくはないですね」
少し重さを感じる足取りで近付いてきたカカシの手が、ナナの腕を掴んだ。
軽く、けれど力強く、大蛇丸との間に入ったカカシの背中が視界に映る。
この光景をきっと望んでいた。
どこかで、カカシは追い掛けてくれると信じていた。
「…大蛇丸、悪い」
カカシの横に立ちそう言うと、二人の視線がナナに移った。
カカシは不安そうに、大蛇丸は何か余裕のある顔でナナの言葉を待つ。
「アンタの怪しげな実験に協力は、きっと出来ない」
「ずいぶんと曖昧ね」
「でも…そういうの無しで、また話くらい、するときあるだろ」
カカシが驚き目を開いたのが分かった。
そのカカシの手を逆にナナが引いて、そのまま大蛇丸に背を向ける。
大蛇丸はふっと目を閉じて笑い、同じようにナナ達に背を向けていた。
・・・
部屋を出て、先程通ったばかりの通路を歩く。
さっきとは違い、前を歩くのはカカシだ。
大蛇丸の背中を見ていた時より空気が重くて、ナナは自分の足を見つめていた。
「…、」
ごめん。どうして。有難う。
言いたいことがあって、けれど上手く言葉に出来ない。
今はただ酷いことを言ってしまったことへの罪悪感が先行するからか、ナナは震えそうになる息を呑み込んだ。
「…ナナ、ごめんな」
しかし、先に発せられたカカシの声に、ナナはぱっと顔を上げた。
「は…?」
「お前の気持ちを、考えてやれてなかった」
足を止めて、こちらを振り返ったカカシを見上げる。
カカシの目はナナを見つめて細められ、悔しさに歪んでいた。
「な…なんで謝るんだ。謝るのは俺の方だろ」
「ん?」
「アンタの気持ち分かってるはずなのに、酷い事言っちまったろ」
だからごめん。
そう小さく告げてゆっくりと頭を上げると、カカシは少しだけ表情を緩めていた。
「いいよ」と頷き、ぽんと手をナナの頭の上に置く。
そこでふと、カカシの手にナナの刀が握られていることを思い出した。
「つか、なんで俺の刀持って来たんだよ、わざわざ」
木ノ葉の里が平和だからか、持ち歩くことを忘れがちだった刀だ。
カカシは「ああ」と思い出したかのように胸の前まで持ち上げると、ナナに差し出した。
「こいつがナナのいる方を示してくれるんだよ」
「は?刀が?」
「ナナだって分かってるだろ。この刀はお前の分身だ。来て欲しいと思ってたんじゃないのか?」
ナナはカカシの話に茫然としたまま、静かにそれを受け取った。
この刀が、ここまで導いたなんて。
「…俺が」
カカシに追い掛けて欲しかったのか。
気持ちが刀を通して見透かされたようで、じわと頬に熱が集まった。
「今まで、お前がこの刀で何度もオレの元へ来てくれたのに…。オレは、いつもナナに助けられてばかりだった」
「は?何言ってんだよ、助けられてたのはこっち…」
「いや」
カカシはナナの言葉を遮り、ナナの刀を握る手に手を重ねた。
ナナの手より大きなその手が両手で包み込む。
「ナナを傷つけた」
「傷?」
「ん。何かあったんだろ。気付けなくて…傍にいられなくてごめんな」
それだって、結局信じて待てない自分が悪いのに。
もうずいぶん前に思えるプロポーズのような言葉。
その日から、少しずつカカシが遠くなるような気がして、一人で焦っていた。
「ナナ、オレは誰が何と言おうと、ナナ以外を選ぶつもりはない」
「…、そんなこと」
「ナナと共にいることが許されないなら、あの岩なんて壊してやる」
「はっ…今のアンタに、壊せんの?」
「壊すよ」
嘘だ、とナナは軽く笑い、けれど真剣な顔つきのカカシに口を噤んだ。
カカシの未来を奪える程の価値は自分に無い。
それを分かっているからこそ逃げようとした、それが自分勝手のバカげた行動だったのだと自覚する。
「きっと、不安にさせる。自由には会えなくなる。でも…ナナだけを愛してる。ナナじゃないと、駄目だ」
「…カカシ、」
「オレを、選んでくれ。ナナ」
アンタこそ、今更何を言っているんだ。
ナナはふっと肩をすくめて笑い、カカシを横目でにらみ付けた。
「氷華って年増は?」
「あ、あのねえ、それは」
「はは、悪い、分かってるよ」
きっとナナの存在が無ければ、何かあったのかもしれない。
女性として、カカシに寄り添うべき人になったのかもしれない。
でも、そうはならない。ナナはカカシの頬に手を重ねた。
「アンタが覚悟決めたなら、俺も決めるだけだ」
とっくに決めたつもりだった覚悟。
しかし、ナナは改めてカカシに向き直った。
「アンタの、傍に…いれなくてもいい。アンタの一番でいさせてくれ」
「ああ」
もちろん。にっこりと微笑んだカカシが、ナナと同じように手のひらをナナの頬へと重ねる。
そのまま引かれ合うように唇を重ね、ナナはカカシの首へ腕を回した。
ぎゅっと、一ミリも離れてしまわないように、精一杯体を密着させる。
「俺、自分がこんなに女々しいなんて知りたくなかった」
「はは、オレはずっと知ってたけどね」
「うっせ」
カカシの腕がナナの思いに応えるように力強くナナの背中に回された。
今までの不安が嘘だったみたいになくなって、それなのに視界がぶれて鼻がつんと痛くなる。
「…くっそ、また、アンタに、泣かされる」
「ん?可愛いな、ナナは」
「可愛くねーよ」
強がってそう返しながらも、ナナは緩んだ頬を隠せなかった。
きっと幸せな時間はずっと続かないだろう。明日にもどうなるかは分からない。
「でもま、なんでもいいや」
「ん?」
「なんでも」
体を離してカカシを見上げる。
そのカカシの背後に、目を丸くしてじっとこちらを見ている紫色の瞳が見えた。
「うわっ…」
思わず後ろに下がって、自分の口元を隠すように覆う。
振り返ったカカシも「あ」と呟き、恥ずかしそうに頭をかいた。
「ナナ…何だよそれ…もったいないってホント…」
「水月…」
来た時に会ったのだから、当然帰りもいるわけで。
いつからいたのか、目撃してしまった水月は、顔を歪めてカカシを指さした。
「あんたさあ、ナナのこと幸せにしなかったら、ボクが真剣に奪いにいくからね」
「えっ」
「ナナも、その男が嫌になったらここにきなよ」
それは少し冗談のように、水月はべっと舌を出してカカシから顔を背けた。
それから小さく手を振って「じゃあね」という水月に、ナナはカカシと目を合わせてふっと笑う。
思いの外、友人にも愛されていたらしい。
「ありがとな、水月」
「何が?」
「いや。またな」
ぽんっと水月の肩を叩いて、その横を通り過ぎる。
水月はぺっぺとナナを追い払うように手で弾き、それからひらりと手を振った。
「じゃ、ま、帰りますか」
カカシがにこりと笑い、ナナの手を恥ずかしげもなく引く。
そのまま外に出て、暖かい光に照らされて。
二人は目を細めて笑い合った。
変わらない景色の先に、ようやく見慣れた門が見えた。
少し汗ばんだまま繋ぎ続けていた手が離れる。
何となく照れくさくてナナはカカシから一歩下がり、それからはっと口を開いた。
「…俺、あいつらにどんな顔して会えばいいんだろ…」
「ん?」
「いや…恥ずかしいことやっちまったなって思って」
ここを飛び出した時、女々しいことを吐き出したような気がする。
中にはカカシとの関係を知らない奴だっていたのに。
自分の行動にため息を漏らしたナナに、カカシは笑いながら振り返った。
「大丈夫だよ」
「他人事だからってアンタな…」
ニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべるカカシに、むっと眉間のシワを深くする。
どうせ「可愛い」とか「泣き虫」とか。そういうことを言っているのだ。
再度はため息を零して門をくぐる。そのナナに駆け寄ってくる人影が映った。
「あ!いたナナさん!」
「…サクラ?」
たたたと小走りで近付いてきて、ナナの前までやってくる。
ナナの心配を余所に、特にさっきのことは気にしていないらしい。
「そんな慌ててどうしたんだよ」
「良かったです戻って来てて!今ナナさんに会いたいって人が…」
そのサクラの言葉に、ナナは視界に映る背の高い男性に気が付いた。
この里では珍しく着物を着た男性。
カカシは見たことのないその人に首を傾げ、ナナはみるみるうちに目を見開いた。
「え…先生!?」
「久しぶりだね、ナナ」
驚き声を上げれば、サクラとカカシも驚いたようにしてその男性に目を向ける。
ナナはそんな視線など気にすることなく、長い髪を耳の下で結った男性に近付き、両手を広げて勢いよく腕を掴んだ。
「先生…!元気そうで良かった!」
「ナナも。会いたかったよ」
存在を確かめるように掴んだ腕をするりとなぞり、肩に手を乗せる。
五色##NAME2##、ナナがずっと五色で世話になっていた親のような存在だ。
「なんで急に…っ、言ってくれたら俺から会いに行ったのに…!」
「いや…今日はね、他にも大事な用事があるんだ」
「用事?」
「そう。ナナの様子を見るだけでなくて、ね」
風に揺れてなびいた髪を片手で押さえ、##NAME2##が目を伏せる。
それから前を見据えた瞳は、ナナの後ろにいるカカシをとらえていた。
「…貴方が、次期火影のはたけカカシさん、ですね」
「え!あ、はい、そうですが…」
「少し、お時間宜しいでしょうか」
カカシは暫く唖然とした様子で目をぱちくりとさせ、困惑からか一度ナナに目を向けた。
そのナナも、この状況をイマイチ理解出来ず、軽く首をかしげる。
##NAME2##だけが余裕をも感じさせる笑みをたたえていた。
・・・
##NAME2##とカカシとが『大事な話』をしに二人で姿を消した後。
ナナは火影邸の前で腕を組み、険しい顔をして立っていた。
わざわざこんな場所まで来るなんて、『大事な話』はよっぽど大事な話らしい。
妙にそわそわしてしまうのは、##NAME2##が木ノ葉の里にいること自体が違和感だからだろうか。
「ナナ、待たせたね」
柔らかい声に、ナナははっとそちらを振り返った。
##NAME2##とその後ろには少し下を向いているせいか表情の見えないカカシがいる。
「先生…!話って、一体何を…」
「ナナ」
思わず詰め寄ったナナに対し、##NAME2##は穏やかな顔を変えずにぽんとナナの肩に手を置いた。
その微笑みに自然と口を閉ざして##NAME2##を見上げる。
「ナナの話、こっちにも伝わってきたよ。私が思っていた以上に…立派になったね」
「え…あ、有難う」
「私の、自慢だよ」
久しぶりに会ったからか、思わず##NAME2##の言葉にじんと胸が熱くなる。
ナナは噛み締めるように声に耳を傾けた。
「これからナナがどんな道を進んでも、ずっとナナのその道を応援する」
「先生…」
「だからナナも、自分の選んだ道を後悔するようなことはしないで欲しい」
選んだ道。
ふっとナナはカカシの姿を思い浮かべていた。
選んだ道。険しくても、もう大丈夫だ。それを今日確信した。
「それがどんなに大変でも、辛くても、自分を信じることを辞めてはだめだよ」
「分かってる。俺はもう、大丈夫だから」
「そうだね」
ナナの力強い返答に、##NAME2##が安心したように目を閉じて頷く。
それから##NAME2##は、ナナの肩に手を回しカカシに向き直った。
「では、私はこれで」
ぺこと軽く頭を下げて、綺麗な顔をして笑う。
そんな##NAME2##に、カカシは何も言わずに頭を下げた。
「ナナ、またね」
「え、もう行くのか?」
「いろいろと忙しいからね。ナナも、頑張って」
「あ、ああ…?」
なんだか、今までみたいにまた暫く会えなくなるんだという悲しさがないというか。
あっさりと立ち去る##NAME2##に茫然として、ナナは未だぴたと固まったまま動かないカカシに目を向けた。
「カカシ?先生と何を話したんだ?」
様子がおかしい。
そう思いカカシに近付けば、今度はカカシの手がぽんとナナの肩に乗せられた。
「これからは五色の子供を受け入れる体制をつくる」
「え…!」
「木ノ葉に来たいと、そう言っている子供が五色にたくさんいるんだそうだ」
ナナは思わず頬を綻ばせていた。
なんだ、良い話だったんじゃないか。
そう思うのに、カカシはやはり妙な顔をしていて、ナナは怪訝にカカシの顔を覗き込んだ。
「カカシ?」
「ま、その…子供の“五色として”の教育はナナに代表として行ってもらうよ」
「は!?」
「もう、ね、決まったから」
お願いね、と。
そう言ってまたぽんぽんと肩を叩かれる。
そりゃ五色の能力は普通のアカデミーに通って伸びるものではないかもしれないが。
「ちょっと待て、何を勝手に…」
納得いかずにカカシの腕を掴む。
その手はやんわりとカカシの手によって解かれていた。
「あと、暫くは外でむやみに触らないように気を付けよう」
「…はあ?」
「五色の人は…綺麗で強くて恐ろしいな…」
ははと乾いた笑いを漏らしたカカシに、ナナは手を引っ込めて先程##NAME2##の立ち去った方向に目を向けた。
「ちょ、まさか先生に、」
##NAME2##の言葉がしっくりナナの中に入り込んできたのは。
つまりきっと、彼は全部知っている。
「おい、どんだけびびってんだよカカシ!おい逃げんな!」
おずおずとナナから距離をとって歩き出したカカシの背中にナナが呼びかける。
どうやらこれからも五色と関わって生きていくことになるらしい。
そしてやはり思い描くような穏やかな未来はないようだ。
ナナは情けないカカシの背中を蹴り飛ばすと、そのまま追い抜かして歩き出した。
(終)
2015/11/29
・・・
「実は、今日私は五色の代表として来ました」
「五色の…」
ナナの育て親。そんな認識しかなかった男の発言に、カカシは思わずごくりと唾を呑んだ。
これは思っている以上に重要な話なのではなかろうか。
咄嗟にそう判断し背筋を伸ばす。
そんなカカシの変化に、##NAME2##はふっと微笑んでから言葉を続けた。
「五色は、火の国…木ノ葉の里と協定を結びたいと思っています」
「協定…」
冷静を繕ったカカシだが、内心相当驚いていた。
五色はどの国とも協力しない。そう、ずっと決め込んで動かなかった忍の隠れ里だ。
どの国とも協力しない、そうすることで、どの国も手を出せない状況を作り自らを守っていた里。
「今、五色には木ノ葉の里で成長したいと願う子供が多いのです」
「それはもしかして」
「はい。ナナと、世界を救ったうずまきナルトさんのことがあって」
既に世界の英雄であるナルトと、その後押しをしたナナ。
カカシは教え子二人の名前が五色の人から聞かされた感動に、少し見えない口元を緩めた。
「ぜひ、五色の子供達を受け入れて欲しいと思っています」
「それは…こちらとしても喜ばしい話ですが…。宜しいのですか?」
木ノ葉と協力関係を築く、それは今までの五色を崩すということだ。
しかし、五色##NAME2##は揺るぎない顔で頷いた。
「嘗て忌み嫌われたナナが…今や五色の英雄です」
「それは…木ノ葉にとってもです」
「皆、木ノ葉に夢を抱いているのですよ。木ノ葉で育てば強くなれる、英雄になれると」
木ノ葉の血は、強い英雄の血だと。
「変わる好機がようやく訪れたのです。どうか…どうか宜しくお願いします」
##NAME2##は深々と頭を下げた。
その優雅な動きが少しナナに重なる。
ナナに刀を教えたのはこの人だ。基本的な動作も受け継がれているのだろう。
「頭を上げて下さい。こちらこそ、宜しくお願いします」
見惚れつつ、にこりと微笑み軽く頭を下げる。
そんなカカシに顔を上げた##NAME2##は、安心したように目を細めた。
「有難う。ではもう一つ、今度は次期火影ではなく、はたけカカシさん貴方に」
「なんでしょう?」
「…ナナのこと、宜しくお願いしますね」
だからか、そんな優しい空気の中放たれた言葉に、カカシの頭は思考を止めた。
「は…え?」
「なかなか寂しがり屋な子ですから、大事にしてあげて下さいよ」
##NAME2##の発言の意図がわからず困惑する。
いやさすがに先生としてとか、そういうことだろう、火影としてとか。
そう自身に言い聞かせるカカシの目の前では、##NAME2##がやはり変わらず微笑んでいる。
「もし悲しませでもしたら…許しませんからね」
しかし直後過った冷気に、カカシは目を見開いていた。
これは、ばれてる。そういう関係だと見破られている。
「ああ、そうだ。木ノ葉に受け入れてもらった子達の教育ですが…是非ともナナに」
「は、え、っと」
「五色は普通の忍と違って性質変化を扱うのは得意ですから、その性質の教育はナナに頼んでいただけると都合いいですね」
関係がばれている。
それに気付いてしまったカカシが、##NAME2##に対して首を横に振るなど、とうてい出来る話では無かった。
無意識に茫然と、口を開けたまま##NAME2##の言葉を受け止める。
「ナナは優秀ですから…はたけカカシさんから、そう伝えて下さい」
「え、えっと、あの」
「ああ、私は木ノ葉と五色の間に立つつもりですので、これからは会える機会が増えるでしょう」
その優しい微笑みが、威圧感に変わった瞬間だった。
「宜しくお願いしますね?はたけカカシさん」
「…あ、はは、光栄です…」
背筋が震えるのを感じながら、見えない口元を引きつらせる。
既に、次期火影は五色の男に先手を取られていた。