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カカシ夢(2011.04~2016.09)
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サスケとイタチと、そしてカブト。
つい先程まで、彼等の激しい戦いが行われていた。
それは事実であるというのに、あまりの静けさにナナは一度辺りを見渡した。
うちはの力は主に幻術…だからか、もしかしたら思っていたよりも静かに決着がついていたのかもしれない。
「…サスケ、大丈夫か?」
そう問いかけていたのは、サスケが茫然と立ち尽くしていたからだ。
復讐を果たした相手との共闘。サスケにとってうちはイタチとはどのような存在となったのだろう。
「カブトは…死んだのか?」
答えがない、けれど再び別の質問を投げる。
腹から大きな蛇を出した状態のまま動かないカブトは、生きているように見えるが全く動かない。
「うげぇ…これがカブト?何かキモいね」
「あぁ…今更自己嫌悪でどうにかなりそうだ」
「え、何?自己嫌悪?」
水月が隣に来てナナと同じようにカブトを覗き込む。
これに虐げられていたと思うと苛立ってどうにかなりそうだが、もうそれも無いのだ。
ようやく解放された。
「サスケ、ありがとな」
「別に、お前の為にやったわけじゃない。これで穢土転生は止まった…」
これで戦況も大きく変わることだろう。
しかしそれまで静かにしていた重吾が、それを聞いて口を開いた。
「穢土転生が止まった…と言ったが、マダラとかいう奴の穢土転生は止まっていないようだぞ」
「…!」
驚いて目を開いたのはナナだけだった。
重吾は傍を飛んでいる鳥を見上げたまま、他には何も言わない。
うちはマダラがこの戦争の根源だ。彼が消えていないということは、まだまだ戦いは終わらないということになる。
「うちはマダラは既に死んだ、過去の人間なんだろ?なのに、どうして…」
「そこまでは分からない」
ナナの問いに重吾は顔色変えずに答えた。
そしてサスケもまた、冷静を保ったままだ。
何を考えているのか、どこか遠くを見て。
「サスケ…?」
「そんなことよりもサスケ!すっごいもの見つけたんだよ!」
そんな空気を読む気もないのか、それともただ鈍感なのか。
ずいっと前に出た水月は黒い装束の内側から一つの巻物を取り出した。
「なんだ、わざわざそれを見せる為にオレのところに来たのか」
「そうだよ!いいから、早く見てみてみ!」
そういえば“鷹”の全員は今この瞬間までバラバラになっていたのだ。
感動の再会の一つも思わせない彼等の冷め具合は忍として良いのかどうなのか。
水月はぐいと巻物をサスケに押し付け、サスケはそれを素直に開いた。
「水月、なんなんだ、その巻物は」
「ナナも知りたい?」
「…興味はある」
「ふふん、ナナが鷹の一員になるなら教えてあげてもいいよ!」
水月の軽い態度に少し呆れつつ。
巻物に目を通したのだろうサスケが立ち上がり、ナナは再びサスケに視線を戻した。
どうするつもりなのか。この戦争に関わる気はあるのか。
木ノ葉に戻る気はあるのか。
「全てを知る人間…」
「サスケ?」
「…とりあえず、会わなければならない奴が出来た」
サスケはやはり冷静に、巻物を自分の懐に仕舞うと重吾に近付いた。
重吾はさっきの場所に寝かされていた木ノ葉の忍、みたらしアンコを拾ってきていたらしい。
足元でぐったりと眠ったままのアンコは相変わらず目覚める気配がない。
「そいつを使って大蛇丸を復活させる」
「…は!?」
サスケの目は、そのアンコに向けられていた。
しかし、その発言には理解出来る点があまりに少なすぎた。
「何、言ってんだ、サスケ」
「あの胸クソ悪い大蛇丸に会ってでも、やってもらわなければならないことがある」
そう言うが早いか、サスケはアンコの腕を引いて上半身を起き上らせた。
そのアンコの首元を開ければ、妙な形の刺青のようなものが浮き上がっている。
「ちょっと待ってよサスケ!その巻物の力くらい、君なら時間をかければ使えるようになる!」
「大蛇丸でなければ出来ないこともある」
「君は大蛇丸をナメてる!復活したらまた…君の体が狙われるし!戦争にだって乗っかるに決まってる!」
既に着々とその“復活”の準備を始めているサスケだが、どうやら水月も大蛇丸復活には反対らしい。
ナナも咄嗟にサスケの腕を掴んで引き止めていた。
「サスケ、俺も大蛇丸を復活させるってのには反対だ」
「ナナ、何をそんなに恐れる?」
「…サスケこそ、どうしてそんなに平気なんだよ」
サスケは強くなった。
けれど、大蛇丸がいかに危険かは別の話だ。
「ほら、ナナだってそう言ってる。サスケ、大蛇丸は駄目だよ!」
「少し黙ってろ水月。それより、そこのカブトの体の一部を抉って持ってきてくれ」
「え…人の言う事聞かないのに、人が言う事聞くと思う?」
珍しくまともな事を言っている水月の後ろで、重吾がサスケへの協力を始める。
重吾はサスケの意志に従うようだ。
「…サスケ、本当に大丈夫なんだろうな…」
「そんなに大蛇丸が怖いなら、オレの傍にいろ」
「それはそれで怖いっつの…」
カブトの一部をアンコの首元にくっ付ける。
既にナナにはサスケが何をしているのか分からず、見守ることしか出来なかった。
悔しいが、やはり会いたくないという思いから、距離をとっている水月の隣に移動する。
「そういえばナナも大蛇丸に好かれてんだっけ?」
「好かれて…ってそんな単純なことならいいけどな…」
「え?何?複雑なの?」
「知らねーよ…」
動かないカブトの後ろでこそこそと二人小声で交わす。
そんなことをしている間に、サスケの手がその異様に膨らんだアンコの首に当てられた。
「…っ」
大きな蛇がサスケの手に引きずられるように飛び出してくる。
大きく開いた蛇の口から覗く黒い髪の毛。
それは、紛れもなく大蛇丸のものだった。
「まさか君達の方から私を復活させてくれるとはね」
ずるりと蛇から出てきた大蛇丸は、まさに“復活”したと言わざるを得ない、生きていた時のまま。
目の前に現れた大蛇丸にびくりと震えたナナと水月を気にすることなく、サスケは大蛇丸に近付いた。
「大蛇丸、アンタにやってもらいたいことがある」
「アンコの中でずっと見てたから、分かってるわ」
全てお見通し、大蛇丸は自ら手をサスケに伸ばした。
サスケもその手の意図が分かっているのか、巻物を大蛇丸へと渡す。
「…彼等に会ってどうするつもり?」
「オレは…あまりに何も知らない。奴等に全てを聞く」
「復讐を迷っているの?」
「違う。ただ…イタチとは、一族とは、里とは…?全てを知り、自分で考え答えを出し、己の意志と眼で成すべきことを見据えたい」
サスケの心が分からない。ついでに大蛇丸の考えも。
口を出せる状況ではなく、ナナはただ二人を見ていた。
「…ナナ君、そんな目で見なくても大丈夫よ。他人の始めた戦争になど興味はないから」
「え…」
「興味があるとすれば、サスケ君の若い体くらいのものよ」
元々木ノ葉を潰すつもりでいた大蛇丸の言葉とは思えなかった。
一番の不安要素といえば、大蛇丸が戦争に加担してしまうこと。
信じて良いのかは、大蛇丸の目を見れば分かる気がした。
「せっかく美しかったのに…貴方はカブトに散々汚されてしまったわね」
「な…!」
「一応言っておくけれど、人の体を扱うことに関してはカブトの方が優秀だった。カブトに目を付けられたのが運の尽きね」
そう言いながら大蛇丸が近付いてくる。
こちらに伸ばされる手から、ナナは逃れることはしなかった。
立ち尽くしたまま、頬に触れた大蛇丸の手を受け入れる。
「でも…そもそもはアンタが、俺に変なものを植え付けなければ…っ」
「それは貴方が美しかったのだから、仕方ないでしょう」
「な、んだよそれ…!」
今の大蛇丸は何故か恐ろしくはない。
けれど、やはり理不尽だ。そんなことを理由に、ナナは散々な目に合ったのだから。
ナナはぱしんと大蛇丸の手を弾き顔を背けた。
「やっぱり、アンタは信じられない」
「ふ…そういうところも可愛いわね」
にぃっと笑う顔は不気味で、それを含めても大蛇丸と共に行動というものは拒否したい。
けれど、ナナの意志など関係なく。
大蛇丸はサスケの正面に立つと、片手をすっと挙げた。
「サスケ君、協力するわ。行きましょう」
「言っておくが、ナナに手は出すなよ」
「出さない…というより出せないわね。サスケ君の前では」
目の前でそういう会話は止めてもらいたいものだ。
ナナはサスケと大蛇丸の会話を聞いて、胸を撫で下ろしながらも盛大にため息を吐いた。
「え?何?ナナモテモテ?香燐がいたら超シュラバってやつ?」
「水月…お前もう黙れ」
「なんで!?」
そして再び空気の読めない男の頭にはグーをぶつけてやった。
サスケと、その後ろに水月と重吾。
少し懐かしい気持ちにもなる面子を前に、ナナは落ち着きのない様子で視線を落とした。
「…おい、俺のこと見んなよ」
ただひたすら歩き続けて暫く経つ。
そんな中沈黙を貫いていたナナは、耐えきれずぽつりと呟いた。
それを聞いた大蛇丸が、ナナを見下ろしてふふふと笑う。
「仕方ないでしょう。ナナくんが綺麗なんだから」
「…つか、お前が好きなのはサスケだろ、あっち見てろよ」
「サスケくんからはそういう反応返ってこないから、面白くないのよ」
「あのなぁ…」
大蛇丸から妙に気に入られているという事は理解していたつもりだが、思っていたものと違う。
ナナはがしがしと頭をかき、さりげなく水月の横に並んだ。
「ちょっと、ボクの方に来ないでくれる?」
「何でだよ」
「視線がボクの方にも来るでしょ」
サスケと大蛇丸と、そして水月に重吾。
どいつもこいつも普通でないことは知っているが、中では水月が一番まともな気がしている。
いや、人としてまともなのは重吾だろうが、重吾はサスケの意志が入ると妙に従順になるから恐ろしいのだ。
「おい、大蛇丸、ナナで遊ぶのは止めろ」
「あら。それくらい許してくれてもいいじゃない」
「駄目だ」
サスケはサスケで勝手に人を自分のものかのように言うし。
ナナはもう何度目になるか、盛大にため息を吐き出して、前方を歩くサスケを睨み付けた。
「おい、サスケ。いい加減何をするつもりなのかくらい教えてくれよ」
同行しているというのに自分だけ何も知らずにいるという状況は、やはりどうにももどかしい。
自分はここにいて良いのか。他に出来る事は。
相変わらず余計なことを考えてしまうから。
「すぐに分かる」
「すぐって…」
「ナナ、ここがどこだか分かるか」
少し長い前髪を揺らしながらサスケが振り返る。
突然の問いかけに、ナナは頭に「?」を浮かべながら辺りを見渡した。
いつの間にか、どこか“何かがある場所”に入っていたのだろうか。
「ここ…って、言われても、木ノ葉の里…だろ」
「…来い」
「は?ってうわ!」
サスケが手を伸ばしてナナの腕を掴む。
そのまま引き寄せられると、力強く腰を抱かれた。
「捕まってろ」
低くて甘さをも含む声が耳元で囁く。
そんなサスケの至近距離での命令に、咄嗟に反応出来るはずも無く。
ナナは足が地面を離れたのが分かってから、慌ててサスケの首に手を回した。
「な、なんだよ急に!」
「煩い」
「いちいち勝手だなお前は…っ」
こいつ自分が年下であることを分かっているのだろうか。
またため息を吐きそうになって、けれどサスケの抱く手の力が強まったことでナナは自然と顔を上げた。
「…サスケ?」
目の前には、ここが木ノ葉の里であることを確認させるかのように、火影岩が並んでいる。
「仕方ないわね…私は先に必要となるお面を取ってくるわ」
「え、ちょっと、ここでバラバラになるのは良くないんじゃない!?」
「水月、重吾、貴方たちもついてきなさい。サスケくん、南賀ノ神社で落ち合いましょう」
下で大蛇丸が言った言葉を聞いてはいるのだろうが、サスケは遠くを見たまま何も言わなかった。
ただ何か、彼なりに思う事があるのだろう。
一度は捨て、一度は滅ぼそうとしたこの里に。
「初めてアンタを見たとき…大蛇丸の言う事を真似ているわけじゃないが、綺麗だと思った」
「…、だから、なんだよ…」
「でも、アンタに惹かれたのは、アンタの弱さだとか内面の脆さを知ってからだ」
こちらを見ずに、けれど真っ直ぐに語られるサスケの本心がナナの耳をくすぐる。
「オレはアンタに酷いことをした」
「自覚はあったのかよ」
「…それでも、オレはアンタに…」
珍しく素直なサスケに、ナナはただ静かに言葉を待った。
言葉に迷っているのか、二人の間に落ちる沈黙は別に嫌じゃない。
「ナナ、オレがどんな選択をしても…」
何処までも黒い瞳が、ナナを映した。
この瞳が戦いの最中赤く染まると思うと、それが恐ろしく強い力と知っていても綺麗だと思う。
サスケの言葉を待って、その瞳を見つめ返す。今は吸い込まれそうな程の黒。
「…いや、なんでもない」
「おまえなぁ…!」
しかし今度はふいに顔ごと逸らされ、ナナはサスケに回した手で背中を一発小突いた。
いつからだったか、可愛かったサスケはどこにもいなくなっていた。知らないのだ、サスケに何があったのか、木ノ葉に何が起きたのか。
重要な時にナナはここにいなかったのだから。
「まあなんだ…サスケ、俺はお前を信じてるよ」
「…」
「お前が何を選んでも、それがお前の意志だって、お前の目指す道なんだって、それを否定しないから」
サスケの奥底に光る思いはナナにも分からない。
けれど、昔とは違う。今はこうして、他の誰よりも近くにいる。それを許された数少ない人間だから。
「とは言っても、ずっとお前の傍にいてやれるかは別としてな」
「…それにはもう期待してない」
こうして抱き締める腕は悪人のものとは違う。
ナナが痛くないように、けれど力強く支える腕はナナを離さない。
「そろそろ行くぞ」
ぎゅっと腰を更に強く支えられ、軽い身のこなしで地面に飛び降りる。
そのまま逃がさないとでも言わんばかりに手を握られ、ナナは何も言わずにサスケの横に並んだ。
この先何が待っているのか想像も出来ない。けれど暫くはこうしてサスケの隣で事を見守る外ないのだろう。
ナナは背を向けた火影岩をもう一度振り返り、胸に手を重ねた。
どうか皆が無事でありますように。結局何も出来ない自分への苛立ちに蓋をして、何も見えない暗闇に目を向けた。
・・・
サスケに連れて行かれた先はうちは一族の集落があった場所だった。
建物はほとんどが破壊されていて、当然のことながら戦争の最中人一人見当たらない。
そんな場所をうちはだとナナが気付けたのは、向かった先“南賀ノ神社”のその下に眠る隠された入口に写輪眼の紋章に酷似した模様が描かれていたからだ。
「遅いよ二人とも…って、何、手なんか繋いで…」
「いいから、さっさと行くぞ」
「ちょっと、後から来て何その言いぐさ」
目を丸くして繋がれた手を見る水月を気にする事なく、サスケが一歩前へ出る。
そのまま開いた石碑の下から現れた階段を降りはじめるサスケに、ナナも、先に到着していた大蛇丸たちも続いた。
階段を降りた先はひらけた個室のようになっていた。
そこにあるのは文字の書かれた石碑、そして「うちは」の文字。
何に使われた部屋なのだろう、悠長にそんなことを考えていたナナの手を放したサスケは、黒いマントを脱ぐと何か集中した様子で身構えた。
「え、」
「そうね、早速始めるわよ。少し離れていなさい」
そう言うなり大蛇丸は不気味な仮面を自らの顔に被せた。
何を、と問う間もなく。その“儀式”に見える術の発動までの一連の流れを、ナナは茫然と眺めていた。
それが本来ならば許されない“禁術”であることは分かって、その不気味さに目を逸らしたくなって、けれど一度も目を逸らすことはしなかった。
「さあ、来るわよ!」
大蛇丸が声を上げる。そこにある感情は喜びだったのか達成感だったのか、妙に高まった声色にナナは無意識に数歩距離を置いた。
四ヶ所に浮かんだ術式と、そこに湧き上がる人の影。
「全てを知る者たち…先代の火影達が」
一気に人間の形となった四つの影の一つは、確かに見覚えのある者だった。
大蛇丸の言った言葉を理解するよりも先に、自分の目に映ったものが真実を告げる。
「今の術は…穢土転生、だったのか」
「ふふ、そうよ。貴方は知らないでしょうけど…左から初代火影…二代目、三代目、そして四代目」
大蛇丸の目が一人一人を映しながら示す。
黒く長い髪の男が初代、そして隣に並ぶ銀髪の男が二代目。そして初めて木ノ葉の里に来た時にナナをカカシと会わせてくれた三代目のじいさん。
その横に立つのは金髪の、会ったことはないはずなのに、何故か良く知っているような気がする男。
「まさか…あの封印術を解くなんて…大蛇丸さん、どうやって?」
「私をみくびりすぎよ、ミナト」
ミナト、そうだ。彼はカカシの先生だった人だ。
嘗てカカシから聞いた話を思い出し、ナナの胸は一瞬大きく高鳴った。
カカシをよく知る人間が、今目の前にいる。
「また穢土転生の術か…ワシの作った術をこう易々と…」
「そう難しくありませんよ。けれど…二代目、アナタのしたきた政策や作った術が厄介なことになってましてね」
「貴様、また木ノ葉を襲う気か」
「勘違いしないで下さい…私はもうそんなことする気はありませんよ」
淡々と二代目と言葉を交わす大蛇丸にほんの少し感心しつつ、ナナは恐る恐る唯一の知った顔を見つめた。
大蛇丸が最初の木ノ葉潰しを行った時、火影だったのはこの人だった。そして、殺めたのも大蛇丸だと聞いている。
この中で、一番大蛇丸を敵視しているのは三代目火影だと確信していたからだ。
「…待て、そこにいるのは、五色ナナか」
目が合って、予想通りに三代目の顔が驚愕に歪む。
しかし、それを聞いて目を開いたのは隣にいる二代目と四代目も同じだった。
「まさか、五色の子が」
「五色?五色がこんなところにいるわけなかろう」
「いいえ、この子は五色ナナ。正真正銘、五色の子供ですよ」
大蛇丸が振り返ってナナに小さく手招きをする。
それに従って、ナナはゆっくりと彼等に近付いた。
「ほお、美男子よのう」
顎に手を当てて、どこか感心した様子で初代火影が呟く。
誰もが一度は見上げる火影岩。それでしか見た事の無い顔の面影。
あの木ノ葉の里の歴史は彼等によって重ねられてきた。そう思うだけで、胸を抉るような緊張感に頭がクラクラする。
「兄者も聞いたことがあるだろう。離れに出来た小さな集落、生まれた時から五つの性質変化を扱える才能を持つ一族」
「ううむ…聞いたことがあるような、ないような」
「はあ…まあ、大きくなったのは兄者が死んだ後ではあるが…」
初代と二代目、二人からの視線に耐えきれずナナの目線は地面に落ちる。
思っていたよりも特別威厳があるようには見えない。けれど、やはり偉大な人物であることに変わりは無い。
「その五色が、何故この場にいる?」
二代目の低い声に、本人にその気はなかろうと鋭い棘を感じる。
ナナは緊張を紛らわせる為に一度目を閉じて、今度はその瞳にしっかりと二代目の姿を映した。
「俺は、五色と木ノ葉の間に産まれ、ました」
「…なるほど、やはり五色は内側から壊れたか」
「ん?どういうことだ扉間」
「兄者に話しても分からん。黙っていろ」
二代目、扉間のやはりきつい物言いに、しゅんと素直に初代が口を閉ざす。
そしてそれを確認すると、二代目はすっと息を吸い込んでから静かに口を開いた。
「五色はワシの頃から国に協力的な者と非協力的な者、二つに対立していた」
「だからって…別に、五色が壊れたわけでは」
「五色の子だという貴様がここにいるのは、木ノ葉との子だという事実で忌み嫌われたせいではないのか」
「…」
さすがに歴史を知る者は詳しいということか。
ナナは返す言葉もなく、二代目から目を逸らしてしまった。
忌み嫌われたわけではない、自分から捨てたのだ。と心の中だけで言い返す。
「…お言葉ですが二代目様…結局協力的な者を追い込んだのは我々なのです」
「何?」
そんなナナの不服そうな顔に気付いたが故か、ずいと体を乗り出して割り込んだのは四代目火影だった。
穏やかな声色と彼の温厚な性格がにじみ出る優しそうな顔。
それだけで緊張感が和らいだのは、四代目火影がきっとナナの知る人物だったからだろう。
「ん?貴様は誰ぞ?」
「あ、オレは四代目火影です」
「ほお!四代目とな!里も長く安定しているようだな!」
「あー…いえ、オレにもそれは分からないのですが…何せ三代目より先に死んでしまったもので…」
きっと二代目の目がまた一段と鋭くなったのは気のせいではない。
初代火影は今の話の流れを汲み取っていなかったのか、四代目を見てカッカと笑っている。
「…何だか、忍の神…思ってたのと違うね」
こっそりとナナに耳打ちしてきた水月も同じことを思っていたらしい。
「初代火影」という名から感じる程の威厳を本人からはほとんど感じられていない。
「…ナナ君、その話も含めて…貴方は四代目に聞きたいことがあるんじゃない?」
「え?」
「私としてはサスケ君のことを優先したいし…ねぇ、ミナト、少し外で彼とゆっくり話したらどうかしら」
初代火影によって逸らされた話を無理矢理に戻した大蛇丸は、とんとナナの肩に手を乗せた。
そう、本題はこんなことではない。目的はサスケが何か“全てを知る者達”にその“忍の全て”を聞くことにある。
とはいえナナも目の前にいる四代目火影には聞きたいことがあって。
「…何か、そっちの子にも事情がありそうだね」
状況を察したようで、四代目がサスケを見て言う。
同時にサスケの存在にも気付いた三代目火影は、何か言いたそうに眉を寄せた。
恐らくサスケやナナが大蛇丸に手を貸して、木ノ葉を潰そうなどと考えている…という最悪の事態を想像しているのだろう。
サスケに関してはそうなる可能性がゼロではないが。
「五色の子、じゃあオレ達は外に出ようか」
「…いいんですか」
「オレもちゃんと…五色の過去を君に伝える必要があると思っているしね」
四代目火影が一歩前に出て微笑む。
やはり感じた安心感に、ナナも頬を緩ませてこくりと頷いた。
「五色ナナよ…君は…」
ようやく絞り出すかのように三代目が呟く。
大丈夫、その思いを込めてもう一度頷くと、三代目も少しほっとした様子で目を細めた。
今更木ノ葉と五色の歴史を語られたところでナナの気持ちが変わる事などない。
自分でそれを強く認識しているから、再び今度は四代目と二人で上がる階段も、期待に胸が膨らんでいた。
・・・
今まさに全ての大国を巻き込んだ戦いが行われている。まさか自分の代に起こるなどと考えもしなかった戦争が目の前にある。
それを感じさせない程静かな地に来て、隣には四代目火影が居るなんて。
「…ふふ」
「ん?どうかした?」
「ああいえ…夢でも見ているようだと、思って」
ちらと隣に立った四代目火影を見上げる。
そこに当然のように立っているけれど当然ながら顔色は悪いし生気はない。
穢土転生によって現世に呼び戻された存在、だからこそ今しか聞けない事が有り過ぎる。
「そうだね。オレもまさか、この世にまた戻ってこれるなんて思わなかった」
「…でも、また戦争が」
「え?…言われて見れば、なんだか…チャクラが…」
四代目がぴくりと肩を揺らして顔を上げた。
その先は、恐らく戦争が起こっているその前線。
「本当は、今すぐ戦いに行かなきゃいけないんだろうけど…でも、サスケの判断を待たなきゃいけないから…それまで」
「うん。分かってる、話そうか」
にこりと微笑む四代目はどんなチャクラを感じたのか。
ふうっと息を吐いてから、四代目は少しだけ真面目な顔に変わった。
「…君は、確かに五色の子、なんだね」
空気が張り詰めたような、ぴりっと肌に刺さる。
これが“火影”の持つオーラなのだろうか。そんな現実味のない事を考えながら、ナナは小さく首を振った。
「五色の子って呼び方は止めて欲しい…ナナ、でいい」
「あれ?…ナナ、君はもしかして五色が嫌い?」
なんだろう、やはり火影というのは人の感情を読み取るのが優れているのか。
ナナは見透かされたことに驚きながら、きゅっと唇を一度結んだ。
あまり人に言いたくはない過去だ。
「奴らは規則を破った俺の両親を殺した。それに汚れた血の俺を、人と見てなかった」
「…規則、か。それは…外の忍と関わるなっていうことかな」
「五色はまだ外に出る事を恐れてる。今の、どの国も近付かない、その均衡が崩れるのが」
どの国も五色の力を欲しがっている。だからこそ、余計にどの国も今の五色に手を出せずにいる。それくらいは知っている。
当然四代目火影も理解しているらしく、うんと頷いてからナナに目を向けた。
「二代目様、それに三代目様の頃は、そんな規則なかったんだよ」
「…え」
「むしろ協力的に我々と共に戦ってくれた。どの国にも分け隔てなく、優れた能力を使ってくれた」
そういう時期があったことも何となく知っている。
恐らくその先。五色の誰も語らなかった、その閉鎖するに至る理由。それが、マダラの言っていた“木ノ葉のせいで”に繋がるのだろう。
何を聞いても変わらない。その強い意志があるにも関わらず、ナナは無意識にごくりと唾を飲んで四代目を見上げた。
「けれど、戦争が始まると、それぞれの国が自らのことしか考えられなくなって…チャクラの少ない五色を、救うことはできなかった…いや、戦闘の中で倒れる五色を見殺しにしたんだ」
やっぱり。ナナは耳に馴染む程よい低音の声を聞きながら、妙に納得していた。
そんなことだろうと、どこかで思っていたから。
「そんなことが続いて、五色は里の外に出なくなった。大国に利用されることを拒んだのだろうね、当然の決断だと思うよ」
「俺は、情けないと思う。そんなことしたって、世界に置いて行かれるだけなのに」
「そっか、君はそう感じるのか」
ふっと四代目の口元が緩んだ。
それから何か思い出しながら語るかのように、遠くに視線を向ける。その視線を追って、ナナも四代目から目を逸らす。
「実は、オレも何とか五色との関係を改善しようと思って…会談を持ちかけたことがあるんだ」
「わざわざ火影が?」
「勿論。大事な事だからね。中にはいたんだ、オレの意見に賛成してくれる、前向きな五色の人も」
知らなかった、全く切り離されているのではなく、こうして手を差し出してくれる人がいたことを。
そして、自分の先生のようにそれに応えようとする人がいたことを。
妙なくすぐったさと感動を覚えて俯き目を閉じる。そんなナナの行動に気付いてか知らずか、四代目は言葉を続けた。
「五色##NAME2##。賢明で…綺麗な人だった」
「え…!?」
耳に馴染む名前は聞き間違いではないだろう。
ナナは咄嗟に顔を上げて、何の衝動か四代目の腕を掴んでいた。
つい先程まで、彼等の激しい戦いが行われていた。
それは事実であるというのに、あまりの静けさにナナは一度辺りを見渡した。
うちはの力は主に幻術…だからか、もしかしたら思っていたよりも静かに決着がついていたのかもしれない。
「…サスケ、大丈夫か?」
そう問いかけていたのは、サスケが茫然と立ち尽くしていたからだ。
復讐を果たした相手との共闘。サスケにとってうちはイタチとはどのような存在となったのだろう。
「カブトは…死んだのか?」
答えがない、けれど再び別の質問を投げる。
腹から大きな蛇を出した状態のまま動かないカブトは、生きているように見えるが全く動かない。
「うげぇ…これがカブト?何かキモいね」
「あぁ…今更自己嫌悪でどうにかなりそうだ」
「え、何?自己嫌悪?」
水月が隣に来てナナと同じようにカブトを覗き込む。
これに虐げられていたと思うと苛立ってどうにかなりそうだが、もうそれも無いのだ。
ようやく解放された。
「サスケ、ありがとな」
「別に、お前の為にやったわけじゃない。これで穢土転生は止まった…」
これで戦況も大きく変わることだろう。
しかしそれまで静かにしていた重吾が、それを聞いて口を開いた。
「穢土転生が止まった…と言ったが、マダラとかいう奴の穢土転生は止まっていないようだぞ」
「…!」
驚いて目を開いたのはナナだけだった。
重吾は傍を飛んでいる鳥を見上げたまま、他には何も言わない。
うちはマダラがこの戦争の根源だ。彼が消えていないということは、まだまだ戦いは終わらないということになる。
「うちはマダラは既に死んだ、過去の人間なんだろ?なのに、どうして…」
「そこまでは分からない」
ナナの問いに重吾は顔色変えずに答えた。
そしてサスケもまた、冷静を保ったままだ。
何を考えているのか、どこか遠くを見て。
「サスケ…?」
「そんなことよりもサスケ!すっごいもの見つけたんだよ!」
そんな空気を読む気もないのか、それともただ鈍感なのか。
ずいっと前に出た水月は黒い装束の内側から一つの巻物を取り出した。
「なんだ、わざわざそれを見せる為にオレのところに来たのか」
「そうだよ!いいから、早く見てみてみ!」
そういえば“鷹”の全員は今この瞬間までバラバラになっていたのだ。
感動の再会の一つも思わせない彼等の冷め具合は忍として良いのかどうなのか。
水月はぐいと巻物をサスケに押し付け、サスケはそれを素直に開いた。
「水月、なんなんだ、その巻物は」
「ナナも知りたい?」
「…興味はある」
「ふふん、ナナが鷹の一員になるなら教えてあげてもいいよ!」
水月の軽い態度に少し呆れつつ。
巻物に目を通したのだろうサスケが立ち上がり、ナナは再びサスケに視線を戻した。
どうするつもりなのか。この戦争に関わる気はあるのか。
木ノ葉に戻る気はあるのか。
「全てを知る人間…」
「サスケ?」
「…とりあえず、会わなければならない奴が出来た」
サスケはやはり冷静に、巻物を自分の懐に仕舞うと重吾に近付いた。
重吾はさっきの場所に寝かされていた木ノ葉の忍、みたらしアンコを拾ってきていたらしい。
足元でぐったりと眠ったままのアンコは相変わらず目覚める気配がない。
「そいつを使って大蛇丸を復活させる」
「…は!?」
サスケの目は、そのアンコに向けられていた。
しかし、その発言には理解出来る点があまりに少なすぎた。
「何、言ってんだ、サスケ」
「あの胸クソ悪い大蛇丸に会ってでも、やってもらわなければならないことがある」
そう言うが早いか、サスケはアンコの腕を引いて上半身を起き上らせた。
そのアンコの首元を開ければ、妙な形の刺青のようなものが浮き上がっている。
「ちょっと待ってよサスケ!その巻物の力くらい、君なら時間をかければ使えるようになる!」
「大蛇丸でなければ出来ないこともある」
「君は大蛇丸をナメてる!復活したらまた…君の体が狙われるし!戦争にだって乗っかるに決まってる!」
既に着々とその“復活”の準備を始めているサスケだが、どうやら水月も大蛇丸復活には反対らしい。
ナナも咄嗟にサスケの腕を掴んで引き止めていた。
「サスケ、俺も大蛇丸を復活させるってのには反対だ」
「ナナ、何をそんなに恐れる?」
「…サスケこそ、どうしてそんなに平気なんだよ」
サスケは強くなった。
けれど、大蛇丸がいかに危険かは別の話だ。
「ほら、ナナだってそう言ってる。サスケ、大蛇丸は駄目だよ!」
「少し黙ってろ水月。それより、そこのカブトの体の一部を抉って持ってきてくれ」
「え…人の言う事聞かないのに、人が言う事聞くと思う?」
珍しくまともな事を言っている水月の後ろで、重吾がサスケへの協力を始める。
重吾はサスケの意志に従うようだ。
「…サスケ、本当に大丈夫なんだろうな…」
「そんなに大蛇丸が怖いなら、オレの傍にいろ」
「それはそれで怖いっつの…」
カブトの一部をアンコの首元にくっ付ける。
既にナナにはサスケが何をしているのか分からず、見守ることしか出来なかった。
悔しいが、やはり会いたくないという思いから、距離をとっている水月の隣に移動する。
「そういえばナナも大蛇丸に好かれてんだっけ?」
「好かれて…ってそんな単純なことならいいけどな…」
「え?何?複雑なの?」
「知らねーよ…」
動かないカブトの後ろでこそこそと二人小声で交わす。
そんなことをしている間に、サスケの手がその異様に膨らんだアンコの首に当てられた。
「…っ」
大きな蛇がサスケの手に引きずられるように飛び出してくる。
大きく開いた蛇の口から覗く黒い髪の毛。
それは、紛れもなく大蛇丸のものだった。
「まさか君達の方から私を復活させてくれるとはね」
ずるりと蛇から出てきた大蛇丸は、まさに“復活”したと言わざるを得ない、生きていた時のまま。
目の前に現れた大蛇丸にびくりと震えたナナと水月を気にすることなく、サスケは大蛇丸に近付いた。
「大蛇丸、アンタにやってもらいたいことがある」
「アンコの中でずっと見てたから、分かってるわ」
全てお見通し、大蛇丸は自ら手をサスケに伸ばした。
サスケもその手の意図が分かっているのか、巻物を大蛇丸へと渡す。
「…彼等に会ってどうするつもり?」
「オレは…あまりに何も知らない。奴等に全てを聞く」
「復讐を迷っているの?」
「違う。ただ…イタチとは、一族とは、里とは…?全てを知り、自分で考え答えを出し、己の意志と眼で成すべきことを見据えたい」
サスケの心が分からない。ついでに大蛇丸の考えも。
口を出せる状況ではなく、ナナはただ二人を見ていた。
「…ナナ君、そんな目で見なくても大丈夫よ。他人の始めた戦争になど興味はないから」
「え…」
「興味があるとすれば、サスケ君の若い体くらいのものよ」
元々木ノ葉を潰すつもりでいた大蛇丸の言葉とは思えなかった。
一番の不安要素といえば、大蛇丸が戦争に加担してしまうこと。
信じて良いのかは、大蛇丸の目を見れば分かる気がした。
「せっかく美しかったのに…貴方はカブトに散々汚されてしまったわね」
「な…!」
「一応言っておくけれど、人の体を扱うことに関してはカブトの方が優秀だった。カブトに目を付けられたのが運の尽きね」
そう言いながら大蛇丸が近付いてくる。
こちらに伸ばされる手から、ナナは逃れることはしなかった。
立ち尽くしたまま、頬に触れた大蛇丸の手を受け入れる。
「でも…そもそもはアンタが、俺に変なものを植え付けなければ…っ」
「それは貴方が美しかったのだから、仕方ないでしょう」
「な、んだよそれ…!」
今の大蛇丸は何故か恐ろしくはない。
けれど、やはり理不尽だ。そんなことを理由に、ナナは散々な目に合ったのだから。
ナナはぱしんと大蛇丸の手を弾き顔を背けた。
「やっぱり、アンタは信じられない」
「ふ…そういうところも可愛いわね」
にぃっと笑う顔は不気味で、それを含めても大蛇丸と共に行動というものは拒否したい。
けれど、ナナの意志など関係なく。
大蛇丸はサスケの正面に立つと、片手をすっと挙げた。
「サスケ君、協力するわ。行きましょう」
「言っておくが、ナナに手は出すなよ」
「出さない…というより出せないわね。サスケ君の前では」
目の前でそういう会話は止めてもらいたいものだ。
ナナはサスケと大蛇丸の会話を聞いて、胸を撫で下ろしながらも盛大にため息を吐いた。
「え?何?ナナモテモテ?香燐がいたら超シュラバってやつ?」
「水月…お前もう黙れ」
「なんで!?」
そして再び空気の読めない男の頭にはグーをぶつけてやった。
サスケと、その後ろに水月と重吾。
少し懐かしい気持ちにもなる面子を前に、ナナは落ち着きのない様子で視線を落とした。
「…おい、俺のこと見んなよ」
ただひたすら歩き続けて暫く経つ。
そんな中沈黙を貫いていたナナは、耐えきれずぽつりと呟いた。
それを聞いた大蛇丸が、ナナを見下ろしてふふふと笑う。
「仕方ないでしょう。ナナくんが綺麗なんだから」
「…つか、お前が好きなのはサスケだろ、あっち見てろよ」
「サスケくんからはそういう反応返ってこないから、面白くないのよ」
「あのなぁ…」
大蛇丸から妙に気に入られているという事は理解していたつもりだが、思っていたものと違う。
ナナはがしがしと頭をかき、さりげなく水月の横に並んだ。
「ちょっと、ボクの方に来ないでくれる?」
「何でだよ」
「視線がボクの方にも来るでしょ」
サスケと大蛇丸と、そして水月に重吾。
どいつもこいつも普通でないことは知っているが、中では水月が一番まともな気がしている。
いや、人としてまともなのは重吾だろうが、重吾はサスケの意志が入ると妙に従順になるから恐ろしいのだ。
「おい、大蛇丸、ナナで遊ぶのは止めろ」
「あら。それくらい許してくれてもいいじゃない」
「駄目だ」
サスケはサスケで勝手に人を自分のものかのように言うし。
ナナはもう何度目になるか、盛大にため息を吐き出して、前方を歩くサスケを睨み付けた。
「おい、サスケ。いい加減何をするつもりなのかくらい教えてくれよ」
同行しているというのに自分だけ何も知らずにいるという状況は、やはりどうにももどかしい。
自分はここにいて良いのか。他に出来る事は。
相変わらず余計なことを考えてしまうから。
「すぐに分かる」
「すぐって…」
「ナナ、ここがどこだか分かるか」
少し長い前髪を揺らしながらサスケが振り返る。
突然の問いかけに、ナナは頭に「?」を浮かべながら辺りを見渡した。
いつの間にか、どこか“何かがある場所”に入っていたのだろうか。
「ここ…って、言われても、木ノ葉の里…だろ」
「…来い」
「は?ってうわ!」
サスケが手を伸ばしてナナの腕を掴む。
そのまま引き寄せられると、力強く腰を抱かれた。
「捕まってろ」
低くて甘さをも含む声が耳元で囁く。
そんなサスケの至近距離での命令に、咄嗟に反応出来るはずも無く。
ナナは足が地面を離れたのが分かってから、慌ててサスケの首に手を回した。
「な、なんだよ急に!」
「煩い」
「いちいち勝手だなお前は…っ」
こいつ自分が年下であることを分かっているのだろうか。
またため息を吐きそうになって、けれどサスケの抱く手の力が強まったことでナナは自然と顔を上げた。
「…サスケ?」
目の前には、ここが木ノ葉の里であることを確認させるかのように、火影岩が並んでいる。
「仕方ないわね…私は先に必要となるお面を取ってくるわ」
「え、ちょっと、ここでバラバラになるのは良くないんじゃない!?」
「水月、重吾、貴方たちもついてきなさい。サスケくん、南賀ノ神社で落ち合いましょう」
下で大蛇丸が言った言葉を聞いてはいるのだろうが、サスケは遠くを見たまま何も言わなかった。
ただ何か、彼なりに思う事があるのだろう。
一度は捨て、一度は滅ぼそうとしたこの里に。
「初めてアンタを見たとき…大蛇丸の言う事を真似ているわけじゃないが、綺麗だと思った」
「…、だから、なんだよ…」
「でも、アンタに惹かれたのは、アンタの弱さだとか内面の脆さを知ってからだ」
こちらを見ずに、けれど真っ直ぐに語られるサスケの本心がナナの耳をくすぐる。
「オレはアンタに酷いことをした」
「自覚はあったのかよ」
「…それでも、オレはアンタに…」
珍しく素直なサスケに、ナナはただ静かに言葉を待った。
言葉に迷っているのか、二人の間に落ちる沈黙は別に嫌じゃない。
「ナナ、オレがどんな選択をしても…」
何処までも黒い瞳が、ナナを映した。
この瞳が戦いの最中赤く染まると思うと、それが恐ろしく強い力と知っていても綺麗だと思う。
サスケの言葉を待って、その瞳を見つめ返す。今は吸い込まれそうな程の黒。
「…いや、なんでもない」
「おまえなぁ…!」
しかし今度はふいに顔ごと逸らされ、ナナはサスケに回した手で背中を一発小突いた。
いつからだったか、可愛かったサスケはどこにもいなくなっていた。知らないのだ、サスケに何があったのか、木ノ葉に何が起きたのか。
重要な時にナナはここにいなかったのだから。
「まあなんだ…サスケ、俺はお前を信じてるよ」
「…」
「お前が何を選んでも、それがお前の意志だって、お前の目指す道なんだって、それを否定しないから」
サスケの奥底に光る思いはナナにも分からない。
けれど、昔とは違う。今はこうして、他の誰よりも近くにいる。それを許された数少ない人間だから。
「とは言っても、ずっとお前の傍にいてやれるかは別としてな」
「…それにはもう期待してない」
こうして抱き締める腕は悪人のものとは違う。
ナナが痛くないように、けれど力強く支える腕はナナを離さない。
「そろそろ行くぞ」
ぎゅっと腰を更に強く支えられ、軽い身のこなしで地面に飛び降りる。
そのまま逃がさないとでも言わんばかりに手を握られ、ナナは何も言わずにサスケの横に並んだ。
この先何が待っているのか想像も出来ない。けれど暫くはこうしてサスケの隣で事を見守る外ないのだろう。
ナナは背を向けた火影岩をもう一度振り返り、胸に手を重ねた。
どうか皆が無事でありますように。結局何も出来ない自分への苛立ちに蓋をして、何も見えない暗闇に目を向けた。
・・・
サスケに連れて行かれた先はうちは一族の集落があった場所だった。
建物はほとんどが破壊されていて、当然のことながら戦争の最中人一人見当たらない。
そんな場所をうちはだとナナが気付けたのは、向かった先“南賀ノ神社”のその下に眠る隠された入口に写輪眼の紋章に酷似した模様が描かれていたからだ。
「遅いよ二人とも…って、何、手なんか繋いで…」
「いいから、さっさと行くぞ」
「ちょっと、後から来て何その言いぐさ」
目を丸くして繋がれた手を見る水月を気にする事なく、サスケが一歩前へ出る。
そのまま開いた石碑の下から現れた階段を降りはじめるサスケに、ナナも、先に到着していた大蛇丸たちも続いた。
階段を降りた先はひらけた個室のようになっていた。
そこにあるのは文字の書かれた石碑、そして「うちは」の文字。
何に使われた部屋なのだろう、悠長にそんなことを考えていたナナの手を放したサスケは、黒いマントを脱ぐと何か集中した様子で身構えた。
「え、」
「そうね、早速始めるわよ。少し離れていなさい」
そう言うなり大蛇丸は不気味な仮面を自らの顔に被せた。
何を、と問う間もなく。その“儀式”に見える術の発動までの一連の流れを、ナナは茫然と眺めていた。
それが本来ならば許されない“禁術”であることは分かって、その不気味さに目を逸らしたくなって、けれど一度も目を逸らすことはしなかった。
「さあ、来るわよ!」
大蛇丸が声を上げる。そこにある感情は喜びだったのか達成感だったのか、妙に高まった声色にナナは無意識に数歩距離を置いた。
四ヶ所に浮かんだ術式と、そこに湧き上がる人の影。
「全てを知る者たち…先代の火影達が」
一気に人間の形となった四つの影の一つは、確かに見覚えのある者だった。
大蛇丸の言った言葉を理解するよりも先に、自分の目に映ったものが真実を告げる。
「今の術は…穢土転生、だったのか」
「ふふ、そうよ。貴方は知らないでしょうけど…左から初代火影…二代目、三代目、そして四代目」
大蛇丸の目が一人一人を映しながら示す。
黒く長い髪の男が初代、そして隣に並ぶ銀髪の男が二代目。そして初めて木ノ葉の里に来た時にナナをカカシと会わせてくれた三代目のじいさん。
その横に立つのは金髪の、会ったことはないはずなのに、何故か良く知っているような気がする男。
「まさか…あの封印術を解くなんて…大蛇丸さん、どうやって?」
「私をみくびりすぎよ、ミナト」
ミナト、そうだ。彼はカカシの先生だった人だ。
嘗てカカシから聞いた話を思い出し、ナナの胸は一瞬大きく高鳴った。
カカシをよく知る人間が、今目の前にいる。
「また穢土転生の術か…ワシの作った術をこう易々と…」
「そう難しくありませんよ。けれど…二代目、アナタのしたきた政策や作った術が厄介なことになってましてね」
「貴様、また木ノ葉を襲う気か」
「勘違いしないで下さい…私はもうそんなことする気はありませんよ」
淡々と二代目と言葉を交わす大蛇丸にほんの少し感心しつつ、ナナは恐る恐る唯一の知った顔を見つめた。
大蛇丸が最初の木ノ葉潰しを行った時、火影だったのはこの人だった。そして、殺めたのも大蛇丸だと聞いている。
この中で、一番大蛇丸を敵視しているのは三代目火影だと確信していたからだ。
「…待て、そこにいるのは、五色ナナか」
目が合って、予想通りに三代目の顔が驚愕に歪む。
しかし、それを聞いて目を開いたのは隣にいる二代目と四代目も同じだった。
「まさか、五色の子が」
「五色?五色がこんなところにいるわけなかろう」
「いいえ、この子は五色ナナ。正真正銘、五色の子供ですよ」
大蛇丸が振り返ってナナに小さく手招きをする。
それに従って、ナナはゆっくりと彼等に近付いた。
「ほお、美男子よのう」
顎に手を当てて、どこか感心した様子で初代火影が呟く。
誰もが一度は見上げる火影岩。それでしか見た事の無い顔の面影。
あの木ノ葉の里の歴史は彼等によって重ねられてきた。そう思うだけで、胸を抉るような緊張感に頭がクラクラする。
「兄者も聞いたことがあるだろう。離れに出来た小さな集落、生まれた時から五つの性質変化を扱える才能を持つ一族」
「ううむ…聞いたことがあるような、ないような」
「はあ…まあ、大きくなったのは兄者が死んだ後ではあるが…」
初代と二代目、二人からの視線に耐えきれずナナの目線は地面に落ちる。
思っていたよりも特別威厳があるようには見えない。けれど、やはり偉大な人物であることに変わりは無い。
「その五色が、何故この場にいる?」
二代目の低い声に、本人にその気はなかろうと鋭い棘を感じる。
ナナは緊張を紛らわせる為に一度目を閉じて、今度はその瞳にしっかりと二代目の姿を映した。
「俺は、五色と木ノ葉の間に産まれ、ました」
「…なるほど、やはり五色は内側から壊れたか」
「ん?どういうことだ扉間」
「兄者に話しても分からん。黙っていろ」
二代目、扉間のやはりきつい物言いに、しゅんと素直に初代が口を閉ざす。
そしてそれを確認すると、二代目はすっと息を吸い込んでから静かに口を開いた。
「五色はワシの頃から国に協力的な者と非協力的な者、二つに対立していた」
「だからって…別に、五色が壊れたわけでは」
「五色の子だという貴様がここにいるのは、木ノ葉との子だという事実で忌み嫌われたせいではないのか」
「…」
さすがに歴史を知る者は詳しいということか。
ナナは返す言葉もなく、二代目から目を逸らしてしまった。
忌み嫌われたわけではない、自分から捨てたのだ。と心の中だけで言い返す。
「…お言葉ですが二代目様…結局協力的な者を追い込んだのは我々なのです」
「何?」
そんなナナの不服そうな顔に気付いたが故か、ずいと体を乗り出して割り込んだのは四代目火影だった。
穏やかな声色と彼の温厚な性格がにじみ出る優しそうな顔。
それだけで緊張感が和らいだのは、四代目火影がきっとナナの知る人物だったからだろう。
「ん?貴様は誰ぞ?」
「あ、オレは四代目火影です」
「ほお!四代目とな!里も長く安定しているようだな!」
「あー…いえ、オレにもそれは分からないのですが…何せ三代目より先に死んでしまったもので…」
きっと二代目の目がまた一段と鋭くなったのは気のせいではない。
初代火影は今の話の流れを汲み取っていなかったのか、四代目を見てカッカと笑っている。
「…何だか、忍の神…思ってたのと違うね」
こっそりとナナに耳打ちしてきた水月も同じことを思っていたらしい。
「初代火影」という名から感じる程の威厳を本人からはほとんど感じられていない。
「…ナナ君、その話も含めて…貴方は四代目に聞きたいことがあるんじゃない?」
「え?」
「私としてはサスケ君のことを優先したいし…ねぇ、ミナト、少し外で彼とゆっくり話したらどうかしら」
初代火影によって逸らされた話を無理矢理に戻した大蛇丸は、とんとナナの肩に手を乗せた。
そう、本題はこんなことではない。目的はサスケが何か“全てを知る者達”にその“忍の全て”を聞くことにある。
とはいえナナも目の前にいる四代目火影には聞きたいことがあって。
「…何か、そっちの子にも事情がありそうだね」
状況を察したようで、四代目がサスケを見て言う。
同時にサスケの存在にも気付いた三代目火影は、何か言いたそうに眉を寄せた。
恐らくサスケやナナが大蛇丸に手を貸して、木ノ葉を潰そうなどと考えている…という最悪の事態を想像しているのだろう。
サスケに関してはそうなる可能性がゼロではないが。
「五色の子、じゃあオレ達は外に出ようか」
「…いいんですか」
「オレもちゃんと…五色の過去を君に伝える必要があると思っているしね」
四代目火影が一歩前に出て微笑む。
やはり感じた安心感に、ナナも頬を緩ませてこくりと頷いた。
「五色ナナよ…君は…」
ようやく絞り出すかのように三代目が呟く。
大丈夫、その思いを込めてもう一度頷くと、三代目も少しほっとした様子で目を細めた。
今更木ノ葉と五色の歴史を語られたところでナナの気持ちが変わる事などない。
自分でそれを強く認識しているから、再び今度は四代目と二人で上がる階段も、期待に胸が膨らんでいた。
・・・
今まさに全ての大国を巻き込んだ戦いが行われている。まさか自分の代に起こるなどと考えもしなかった戦争が目の前にある。
それを感じさせない程静かな地に来て、隣には四代目火影が居るなんて。
「…ふふ」
「ん?どうかした?」
「ああいえ…夢でも見ているようだと、思って」
ちらと隣に立った四代目火影を見上げる。
そこに当然のように立っているけれど当然ながら顔色は悪いし生気はない。
穢土転生によって現世に呼び戻された存在、だからこそ今しか聞けない事が有り過ぎる。
「そうだね。オレもまさか、この世にまた戻ってこれるなんて思わなかった」
「…でも、また戦争が」
「え?…言われて見れば、なんだか…チャクラが…」
四代目がぴくりと肩を揺らして顔を上げた。
その先は、恐らく戦争が起こっているその前線。
「本当は、今すぐ戦いに行かなきゃいけないんだろうけど…でも、サスケの判断を待たなきゃいけないから…それまで」
「うん。分かってる、話そうか」
にこりと微笑む四代目はどんなチャクラを感じたのか。
ふうっと息を吐いてから、四代目は少しだけ真面目な顔に変わった。
「…君は、確かに五色の子、なんだね」
空気が張り詰めたような、ぴりっと肌に刺さる。
これが“火影”の持つオーラなのだろうか。そんな現実味のない事を考えながら、ナナは小さく首を振った。
「五色の子って呼び方は止めて欲しい…ナナ、でいい」
「あれ?…ナナ、君はもしかして五色が嫌い?」
なんだろう、やはり火影というのは人の感情を読み取るのが優れているのか。
ナナは見透かされたことに驚きながら、きゅっと唇を一度結んだ。
あまり人に言いたくはない過去だ。
「奴らは規則を破った俺の両親を殺した。それに汚れた血の俺を、人と見てなかった」
「…規則、か。それは…外の忍と関わるなっていうことかな」
「五色はまだ外に出る事を恐れてる。今の、どの国も近付かない、その均衡が崩れるのが」
どの国も五色の力を欲しがっている。だからこそ、余計にどの国も今の五色に手を出せずにいる。それくらいは知っている。
当然四代目火影も理解しているらしく、うんと頷いてからナナに目を向けた。
「二代目様、それに三代目様の頃は、そんな規則なかったんだよ」
「…え」
「むしろ協力的に我々と共に戦ってくれた。どの国にも分け隔てなく、優れた能力を使ってくれた」
そういう時期があったことも何となく知っている。
恐らくその先。五色の誰も語らなかった、その閉鎖するに至る理由。それが、マダラの言っていた“木ノ葉のせいで”に繋がるのだろう。
何を聞いても変わらない。その強い意志があるにも関わらず、ナナは無意識にごくりと唾を飲んで四代目を見上げた。
「けれど、戦争が始まると、それぞれの国が自らのことしか考えられなくなって…チャクラの少ない五色を、救うことはできなかった…いや、戦闘の中で倒れる五色を見殺しにしたんだ」
やっぱり。ナナは耳に馴染む程よい低音の声を聞きながら、妙に納得していた。
そんなことだろうと、どこかで思っていたから。
「そんなことが続いて、五色は里の外に出なくなった。大国に利用されることを拒んだのだろうね、当然の決断だと思うよ」
「俺は、情けないと思う。そんなことしたって、世界に置いて行かれるだけなのに」
「そっか、君はそう感じるのか」
ふっと四代目の口元が緩んだ。
それから何か思い出しながら語るかのように、遠くに視線を向ける。その視線を追って、ナナも四代目から目を逸らす。
「実は、オレも何とか五色との関係を改善しようと思って…会談を持ちかけたことがあるんだ」
「わざわざ火影が?」
「勿論。大事な事だからね。中にはいたんだ、オレの意見に賛成してくれる、前向きな五色の人も」
知らなかった、全く切り離されているのではなく、こうして手を差し出してくれる人がいたことを。
そして、自分の先生のようにそれに応えようとする人がいたことを。
妙なくすぐったさと感動を覚えて俯き目を閉じる。そんなナナの行動に気付いてか知らずか、四代目は言葉を続けた。
「五色##NAME2##。賢明で…綺麗な人だった」
「え…!?」
耳に馴染む名前は聞き間違いではないだろう。
ナナは咄嗟に顔を上げて、何の衝動か四代目の腕を掴んでいた。