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カカシ夢(2011.04~2016.09)
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綱手が復活し、カカシが火影になるという話も無くなった。
そして訪れる束の間の平静。
ナナはナルトに誘われ、一楽のラーメンを食べに行くことになっていた。
「ナナ、大丈夫?」
「あぁ。今は酷くない」
一度思い出してしまうと忘れることが出来なくなる大蛇丸の呪縛。
しかし、それには波があった。カブトがいる場所や活動しているかどうかにも影響しているのだろう。
「…無理するなよ。まずいと思ったらここに戻って来ること、いい?」
「分かってる」
欲に襲われたとき、自分がどうなるか。今までの事を思い出せば、容易に想像出来た。
カカシに心配かけない為にも、気を付けなければ。
「あんたは心配し過ぎなんだよ」
「ナナが大事なんだから、仕方ないでしょ」
「…それも、分かってるけど」
ナナは仮設として建てられた小さな家の扉を開けた。
再び造られた二人の家だ。
戦争を間近にひかえたこの時期、カカシはほとんど動き回ってここに帰って来ない。それでも、家があるというだけで安心できる。
「…いってくる」
「ん、いってらっしゃい」
懐かしい感じだ。
ナナは目を細めて微笑み、小さく手を振って出て行った。
待ち合わせの、一楽へと向かう。
その間、ナナはナルトのことを考えていた。
あんなことがあったのに、ナルトは変わらない。
もう頑張らなくていいよ、と言いたくなる程に抱えているモノは大きいのに。
「まだ子供なのに」
思わず声に出してしまい、ナナはきゅっと唇を噛んだ。
しかし、それは通りかかった人にも聞こえてしまったらしい。
「誰が子供なんですか?」
急に声をかけられ、ナナは肩を震わせた。
しかし羞恥心に変わらなかったのは、その人物がよく知る人だったからだ。
「…サクラか」
「こんにちは、ナナさん」
通りすがりに声をかけてきたのは、桃色の髪をなびかせたサクラだった。
独り言に対して声をかけてくれたことに感謝しつつも、答えるべきか迷う。
サクラは、ナルトに無茶させたくないという思いが誰よりも強い人なのだ。
「…サクラ、ここで何してるんだ?」
あえて何も答えず、別の話題を切り出す。
サクラは大した疑問は感じていなかったようで、ぱっと表情を輝かせた。
「ナナさんは聞きました?綱手様、目を覚ましたんですよ!」
「あぁ知ってる。良かったな、サクラ」
「はい!今それを伝えて回ってるところなんです」
そういえばサクラは綱手の弟子だったか。
今更ながらそんなことを思い出して。それからナナはあっ、と声を漏らした。
「サクラ、もうナルトの所には行ったのか?」
「これからですけど…」
「なら一緒に行こうぜ。一楽で約束してんだ」
「え、あ…ぜひ!」
ナナの提案に、サクラは少し長めの間を置いてから首を縦に数回動かした。
明らか過ぎる間に、誘ったナナの方が妙な気分になる。
「…嫌なら無理しなくていいんだぞ」
別に行先が同じになるなら、というだけのものだ。断ってくれても構わない。
そう思ったのに、サクラは先程と打って変わって素早く首を左右に振った。
「ち、違います!その、びっくりして」
「驚かせるようなことを言ったつもりはねーんだけど…」
「いえその…改めてかっこいいなって」
「…は?」
ナナを見上げながらそう言うサクラは少し頬を紅潮させている。
それがナナにも移るのは、こういうことに慣れていないからだ。
「何言ってんだよ…」
照れ隠しにサクラの頭にぽん、と手を乗せる。そしてそのままサクラの顔を前に向かせた。
「そーいうの…俺に言わなくていいんだよ」
「え、お世辞とかじゃないですよ!?ナナさん、本当にかっこいいんですから…!」
「分かったから…!」
微妙に頬を赤くしたままの二人が隣に並んで進む。
この場面だけなら恋人のようにも見える、そんな空気だ。
「(この人がカカシ先生の…もったいない…)」
「…なんだよ」
「いえ別に!」
サクラの小さな体を見下ろして、ナナは再び胸がざわつくのを感じていた。
サクラもよくここまで耐えたものだ。
自分が思い人だったなら、抱きしめて元気付けてあげたのかもしれない。
しかし、そんな軽い事が出来るはずもない。彼等の心は、ナナの踏み込めるものではないのだから。
「ナナさん?行きますよ?」
「あぁ」
振り返ったサクラは可愛らしく笑っている。
それが何よりの救いだ。
こくりと頷いたナナも、柔らかく笑い返していた。
・・・
一楽と書かれたのれんが揺れている。
一度だけ来たことがあったが、やはり店自体は先の戦いでなくなってしまったようだ。
何も装飾のない木造の建物がそこにある。
「ナルト」
質素な外観。しかしその中からは元気なナルトの声が漏れていて、ナナはその姿を確認する前に声をかけていた。
「あ!ナナってば遅い!」
「ナナさんは悪くないの、私が」
「ってサクラちゃん!?なんで!?」
ばっと振り返ったナルトの目には予定外の出来事が映っている。一瞬の戸惑いは、すぐに喜びに変わったようだ。
嬉しそうに目をきらきらとさせている。
「綱手様の意識が戻ったの!体も回復に向かってるわ」
「え!?じゃあ、綱手のばあちゃん大丈夫なんだな!」
「うん!」
サクラの話を聞くと、ナルトは口を大きく開いて満面の笑みを見せた。
ナナはそれほど関わりないが、ナルトもサクラも綱手には相当世話になっている。
その二人にしか分からない喜びを、ナナは一歩後ろから眺めていた。
「じゃあ、私は他の人にも伝えて回るから。またねナルト!」
「おう!安心したら腹減って来たってばよ!」
「ナナさんも」
「ん」
サクラが走って行くのを見送って、ナナものれんをくぐった。
椅子が横に数個並べられてあり、しかし今はナルトしか座っていない。
実際それどころではない現状なのだから、客足は減っているのだろう。
ぱっと顔を上げると、店のおじさんと目が合ってしまった。
「ナナくん、だっけか。めでてーから今日はおごりだ!」
「え、そんな」
「いいから座れって!」
「…どうも」
頭を小さく下げてから、ナナはナルトの横に腰掛けた。
ナルトは待ちきれんとった様子で体を揺らしている。
「ナルト」
「ん?」
「ナルトはこれから…どうするつもりなんだ?」
そんなナルトに、こんなことを聞くのは酷だ。分かっている。
しかし、こうして話す機会はもう無いかもしれない。そう思ったら、口が動いていた。
「んー…オレってば頭悪ぃから、これからどうすっかなんて考えてねぇんだ」
「もうすぐ戦いが始まる。そしたら…ナルト、お前は頼られる」
ナルトは木ノ葉の英雄だ。また、理不尽にも頼られ続けることになるだろう。ナルトの意思とは関係なく。
じっとナルトを見つめる。ナルトは、目を逸らさなかった。
「そん時はそん時!オレに出来ることをするってばよ!」
「ナルト…」
「そーいうナナは?」
余りにも強くて眩しい存在。
ナナはその眩しさに目を細めた。汚れなく、純真で、真っ直ぐで。
「俺は…」
「へいお待ち!」
元気な声と共に、どんっと目の前に大きなどんぶりが置かれた。
「おぉ!待ってました!」
美味しそうな匂いに、ナルトの目が輝く。
ナルトの意識は完全にラーメンに奪われたようだ。それにナナは酷く安心していた。
これからどうするか。ナナの中にも考えはある。ただ、それをナルトに言うことは出来ない。
「…ナルト、お前はすげぇよ」
ナナは目を閉じて、吐息混じりに呟いた。
どれだけ尊敬してもしきれない程、ナルトはナナの持っていないものをたくさん持っている。
情けない。年下に感化されてばかりだ。
ナナは自嘲的に笑って、一息置いてから目を開いた。
「…ナルト?」
椅子がかたんと左右に軽く揺れている。
大好物であるラーメンを残して、ナルトは姿を消していた。
ナルトは国に守られることになった。
それを聞いたのは、ナルトが消えて一日経ってからだった。
「じゃあ、突然消えたのはなんだったんだよ」
「それは…恐らくナルトを良く知る人が口寄せしたんだろ」
「意味わかんねー…」
ナルトの居場所は敵に知られないようにする為に内密にされていて、ナナにも聞かされなかった。
分かったのは、どこか遠く隠された場所へ連れて行かれたこと。
そして、そこで九尾のコントロールの修業を行うのだということだけ。
「ナルトがただ守られてるだけ…とは思えないけどな」
「何、どうしてそんなにナルトを気にする?」
カカシの左目がいやらしく細められる。
それだけでどんな表情をしているのか予想出来た。
「…あんたの想像通りだろ」
「ん?」
「大事な仲間だから、だろ…」
それを聞いてカカシが嬉しそうに頬を緩める。
こうなると分かっていたとはいえ、案の定過ぎるカカシの反応にナナの顔はむっと膨れた。
そんな表情もカカシにとっては可愛いもので。
「ナナ、おいで」
カカシの腕が左右に広げられる。
今のこの状況で、その間に飛び込むと思っているのか。
ナナは視線だけを逸らして、カカシのその無言の誘いを断る。
「ナナ」
「…」
「ナナ?」
甘ったるい声。
そんなもので惑わされたくなんかないのに、ナナはおずおずと視線をカカシに戻した。
「あんた…なんなんだよ。ガキかよ」
「ガキでもいいよ。今はナナを抱き締めたいの」
「ったく、しょうがねーな…」
一歩、二歩、近付いてカカシの腕と腕の間に入り込む。
少し顔を上げると、カカシの細められた目だけが見えて。ナナはカカシのマスクを指に引っ掻けた。
「どうせあんた、またすぐ出るんだろ」
「…そうだな」
「少しくらい、顔見せろよ」
くいっと下に引くと、いつも隠されている鼻と口が露わになる。
悔しいが、やはり格好いい。少し見惚れた隙に顔が近付いて来て、軽く唇が触れた。
「あ、おい」
「何?嫌だったか?」
「…足んなくなる、から」
カカシの手がナナの頬を撫でる。
それを自然と受け入れ、ナナは自ら顔を近付けていた。
啄むように触れてから、カカシの首に手を回す。
腰にカカシの腕が回されて、二人の体は完全に密着した。
「ん…っ」
「ナナ…」
「ぁ、カカシ、まずい…っ、」
「…触ってもいい?」
「ば、か…っ」
ぞくぞくと震える体は、恐らく呪縛のせいで敏感になっている。
そのせいで乱れるのは嫌なのに、カカシが触れた部分が熱くて、頭の中がぼうっとして。
気付けば自分からすり寄っていた。
「いいよ、オレを利用して」
「だからっ、嫌だったってのに…!」
こんな時期に、しかも真昼間から。愚かなものだと自分でも思う。
しかし、逆に言えばこんなことが出来る日も限られているわけで。
今くらい、甘えてもいいのかななんて。
カカシに流されることを受け入れていた。
・・・
背中が痛い。
ベッドなど無い場所でするものじゃ無いと改めて感じながら、ナナはぼんやりと外を眺めていた。
カカシがいないうちに出て行くか、カカシに話してから出て行くか迷う。
ナナがしようとしていることは、カカシに猛反対されることだろう。
「でも…俺に出来ることはそれしか」
いつ行動するべきか。
戦争が始まる前には行かなければ。
「くそっ、こんな体じゃなければ…!」
木ノ葉の忍としてカカシと共に戦ったのに。
ナナは自分の手のひらを見つめて、それから爪が食い込む程にきつく握り締めた。
チャクラを練ろうとすれば、ぞくっと体に走る刺激。
「んッ…!」
戦うどころか、自滅して終わりだ。
だからといって皆が戦っていると分かっていながら一人待つなんてことは出来ない。
ナナはゆっくりと立ち上がった。顔の熱を冷ます為にぱんぱんと頬を叩く。
そして迷いのない目で家を出て行った。
・・・
「あれ、ナナさん。どうしたんですか?」
かけられた声に、ナナはばっと振り返った。 そこには不思議そうにしているサクラが立っている。
というのも、ナナの目的地が綱手だったのだから当然有り得る話だ。
「綱手様に用ですか?」
「あぁ、まあ」
「珍しいですね…何かあったんですか?」
「そんなとこだ」
詳しくは言えない。
ナナの様子からそれを察したサクラは、入口の方を指さした。
「綱手様は今いらっしゃいますから、用があるなら聞いてもらえると思いますよ」
「ありがとな、サクラ」
ふっと笑いかけるのと同時にサクラの頭に手を乗せ軽く撫でる。
サクラは不思議そうに、そして恥ずかしそうに眉をひそめた。
「なんか、やけに優しいですね…」
「嫌だったか?」
「いえ、いいんですけど…なんか違和感」
「悪かったな、普段優しくなくて」
実際自分は優しい人間などではい。
つまり、サクラの違和感は正しかったわけだ。
「そ、そんなんじゃ…!」
「じゃな、サクラ」
ナナはサクラに対して軽く手を挙げると、そのまま扉の方へ向かって行った。
とん、と軽くノックして対応を待つ。
出てきたのは、付き人のシズネだった。
「あ、ナナさん。どうかしたのですか?」
「はい。綱手様にお話ししたいことが」
「大丈夫ですよ、どうぞ入って下さい」
快く招き入れられ、足を踏み入れる。
そこはほとんど何も置かれていない、ナナとカカシの家とほとんど変わらない建物だった。違うのは広さくらいだろうか。
その部屋の真ん中に布団が敷かれていて、綱手はそこから上半身だけ起こした状態でいた。
「五色ナナか。どうした」
「はい。ご存じの通り、俺の体には大蛇丸の呪縛が残っています」
「…そうだったな」
以前綱手には相当世話になった。結局解決策はなく、記憶を消すということになってしまったのだが。
「俺は戦えません」
「そうだろうな」
「しかし、ただ待っているつもりもありません」
「…というと?」
綱手の眉がぴくりと動いた。
控えているシズネも、心配そうにこちらをじっと見ている。
ナナは一度目を閉じて息を吐き出してから、綱手を真っ直ぐに見据えた。
「俺は、カブトの元へ行こうと思います」
「…どういうことだ?」
怪訝そうな顔を浮かべた綱手が押し殺したような声で問いかけた。
ざわっと空気が変わったのが肌に直接感じられる。
しかし、ナナは表情を変えずにじっと綱手を見下ろし続けた。
「俺のこの呪縛を解けるのはカブト…奴だけ。そう、ですよね」
「あぁ」
「俺はそれに賭けようと思ってる」
「あぁ?馬鹿か貴様は」
「残念ですが、俺は真剣です」
無謀だということくらい分かっている。
それでも、ナナに出来ることなどその程度なのだ。
それに、カブトはナナを殺しはしない。その自信はある。
「どうやって奴の元まで行くというんだ?」
「奴は…俺を欲してる。俺が一人で出て行けば食いつく」
「何故そう言いきれる?根拠は」
「ありません」
やはり上手くは通らないか。
ナナは綱手から視線を逸らして口を噤んだ。
綱手は考えるような仕草をとっているが、決して頷かないだろう。
「お前は五色だ。お前に何かあれば木ノ葉の問題では済まなくなる」
「そんなこと、どうだっていい。俺は既に五色を捨てた」
「しかし事実は変わらんだろうが」
「…」
さすがの正論だ。綱手を納得させるのはもう無理と判断した方がいいかもしれない。
それでも、勝手に出て行くだけだ。
小さく息を吐き出して、小さく一歩下がった時。
ばんっと扉が力強く開け放たれた。
「伝令です!」
「なんだ、騒がしい」
「ヤマト隊長がカブトに囚われたとのことです!」
その時、綱手の表情が変わった。
ヤマトは九尾の暴走を抑える為にナルトについて行ったはずだ。
ということは、敵にナルトの居場所がバレたということで。しかもこちらの情報を聞き出される可能性もあるということだ。
戦争を前にして、この被害は余りにも大きい。
「ナルトはどうしている!?」
「無事なようですが…攻撃は受けたとのこと」
「…ちっ」
綱手は布団を退かし、ばっと立ち上がった。素早く羽織を纏い、扉の方へ向かって行く。
「ナナ、本当にお前一人ならカブトに接触できるのか」
「出来る、可能性は高いと思います」
「…仕方ないな」
綱手が手を伸ばし、ナナの手に小さな盗聴器を乗せた。
「綱手様…」
「一応これを付けて行け。軽く押せば声がこちらに届く。無理だと思ったら引き返せ、いいな」
「はい」
綱手は五影の一人として、新たに組まれた忍連合の本部に行かなければならないようだ。
本当はもっと早く行かなければならないところを、他の上忍がなんとか時間を稼いで綱手を休ませていたらしい。
「行動するなら早くした方がいい。戦争はもうすぐ始まるぞ」
「そうさせて頂きます」
ナナは軽く頭を下げるとすぐに飛び出して行った。
結局カカシに告げることは出来なかったが、その方がいいだろう。
最後に抱き合った思い出があって、それで終わっていた方が綺麗だ。
なんてらしくもないことを考えて、ナナは木ノ葉の端へと向かって行った。
暫く行くと、出入り口に建てられた大きな扉が見え始めた。
もうすぐだ、そう思い更にスピードを上げようとする。
しかし、そのナナの足は、ぴたりと止まる事となった。
「…ナナ?」
後少しで木ノ葉を出れたのに、ここまで知り合いに会わずに来れたのに。
恐る恐る振り返ると、そこには驚きに目を丸くしたカカシが立っていた。
「カカシ…」
「ナナ、どうしてこんな所に?」
「…」
「ナナ?」
言ったら止められる。しかし、言わずに心配をかけるのも辛い。
ナナはカカシに近寄り、力強く抱き着いた。
「何、どうしたの」
「カカシ、悪い。でも…俺は決めたんだ」
「何かするつもりなのか…!?」
顔を上げて、カカシの頬に手を乗せる。そのまま引き寄せて、布越しにキスを落とした。
もし無事にカブトの元へ辿り着いたとて、再びカカシに会うのは厳しくなるだろう。
「カカシ…俺は、あんただけを愛してるから」
「おい、どういうことだ」
「頼むから…また無茶して死ぬなんて、しないでくれよ…」
「ナナ!?待て…!」
カカシの言葉を待たずに、ナナは全速力で駆けだした。
自分がどれ程カカシに弱いか、分かっているからこそ。カカシの言葉は聞きたくなかった。
・・・
土を蹴ってスピードを上げる。
カカシの声はすぐに聞こえなくなった。忙しい中、ナナ一人を気に掛ける余裕などなかったのだろう。
耳を澄ませば自分の足音以外に聞こえて来る音。間違いなく戦闘音だった。
今何が起こっているのかは全く知らないが、状況から察するに、戦争の前触れだろう。
既に戦いは始まっている、ということだ。
「頼む…俺を見つけてくれ」
そんな中、ナナは自ら敵に捕まりに行こうとしている。
木ノ葉を離れたナナにとって、むしろカブトに見つかる方が安全なはずなのだ。
ヤマトがすぐに殺されるということは無いだろうが、それも不安で。
「カブト…」
一番嫌いで憎い男を、自分から求める日が来ようとは。
ナナはふっと口元に笑みを浮かべ、しかし目元は悲しげに潤ませていた。
「あ…ッ」
突然それは訪れた。
胸が酷く高鳴り、下半身への疼きで頬が紅潮していく。
「っん、カブト…?」
そこに立ち止まり、座り込んで辺りを見渡す。
自分の息以外は聞こえない、静かな森の中。
突然、上空に大きな影が出来上がった。
「お前、見た顔だな。うん」
がさがさと木々を揺らしながら、大きな鳥に乗った忍が降り立つ。黒い衣を纏った男、その男の言葉通りに見たことのある顔だった。
「あんた、は…?」
「いいから早く乗れよ。お前もそのつもりなんだろ、うん?」
「…カブトの、仲間か…?」
「認めたくはねーがな、うん」
生気の見えない黒い瞳。
それがカブトに操られている証拠なのかもしれない。
ナナは既に自由が効かなくなった体をなんとか立たせて、その男に近付いた。
「お前、五色ナナって奴だろ?」
「あ、んたは…?」
「デイダラ、聞いたことねーのか?うん?」
「…」
「そーかいそーかい」
残念そうに首を横に振りながら、デイダラはナナの手を取った。
この様子から既に分かるが、やはりカブトはナナを喜んで迎え入れるつもりなのだろう。
「一気に抜けるから、ちゃんと掴まってろよ」
「ん…」
「無理そーだな、うん」
大きな白い鳥の形をしたものに乗ったデイダラがナナの体を抱き寄せる。
そのまましゃがむと、ぶわっと上空に舞い上がった。
「お前にとっちゃ味方だろうが、敵がこの辺うろついてんだ」
「そ、なのか」
「だから一気に抜けるぞ、うん」
さすがにナナを抱えた状態で勝つのは無理だ、ということだろう。
デイダラに触れる部分が熱くなる。カブトの術がかかっているということか。
ナナは目を閉じてデイダラの背に腕を回した。
そして訪れる束の間の平静。
ナナはナルトに誘われ、一楽のラーメンを食べに行くことになっていた。
「ナナ、大丈夫?」
「あぁ。今は酷くない」
一度思い出してしまうと忘れることが出来なくなる大蛇丸の呪縛。
しかし、それには波があった。カブトがいる場所や活動しているかどうかにも影響しているのだろう。
「…無理するなよ。まずいと思ったらここに戻って来ること、いい?」
「分かってる」
欲に襲われたとき、自分がどうなるか。今までの事を思い出せば、容易に想像出来た。
カカシに心配かけない為にも、気を付けなければ。
「あんたは心配し過ぎなんだよ」
「ナナが大事なんだから、仕方ないでしょ」
「…それも、分かってるけど」
ナナは仮設として建てられた小さな家の扉を開けた。
再び造られた二人の家だ。
戦争を間近にひかえたこの時期、カカシはほとんど動き回ってここに帰って来ない。それでも、家があるというだけで安心できる。
「…いってくる」
「ん、いってらっしゃい」
懐かしい感じだ。
ナナは目を細めて微笑み、小さく手を振って出て行った。
待ち合わせの、一楽へと向かう。
その間、ナナはナルトのことを考えていた。
あんなことがあったのに、ナルトは変わらない。
もう頑張らなくていいよ、と言いたくなる程に抱えているモノは大きいのに。
「まだ子供なのに」
思わず声に出してしまい、ナナはきゅっと唇を噛んだ。
しかし、それは通りかかった人にも聞こえてしまったらしい。
「誰が子供なんですか?」
急に声をかけられ、ナナは肩を震わせた。
しかし羞恥心に変わらなかったのは、その人物がよく知る人だったからだ。
「…サクラか」
「こんにちは、ナナさん」
通りすがりに声をかけてきたのは、桃色の髪をなびかせたサクラだった。
独り言に対して声をかけてくれたことに感謝しつつも、答えるべきか迷う。
サクラは、ナルトに無茶させたくないという思いが誰よりも強い人なのだ。
「…サクラ、ここで何してるんだ?」
あえて何も答えず、別の話題を切り出す。
サクラは大した疑問は感じていなかったようで、ぱっと表情を輝かせた。
「ナナさんは聞きました?綱手様、目を覚ましたんですよ!」
「あぁ知ってる。良かったな、サクラ」
「はい!今それを伝えて回ってるところなんです」
そういえばサクラは綱手の弟子だったか。
今更ながらそんなことを思い出して。それからナナはあっ、と声を漏らした。
「サクラ、もうナルトの所には行ったのか?」
「これからですけど…」
「なら一緒に行こうぜ。一楽で約束してんだ」
「え、あ…ぜひ!」
ナナの提案に、サクラは少し長めの間を置いてから首を縦に数回動かした。
明らか過ぎる間に、誘ったナナの方が妙な気分になる。
「…嫌なら無理しなくていいんだぞ」
別に行先が同じになるなら、というだけのものだ。断ってくれても構わない。
そう思ったのに、サクラは先程と打って変わって素早く首を左右に振った。
「ち、違います!その、びっくりして」
「驚かせるようなことを言ったつもりはねーんだけど…」
「いえその…改めてかっこいいなって」
「…は?」
ナナを見上げながらそう言うサクラは少し頬を紅潮させている。
それがナナにも移るのは、こういうことに慣れていないからだ。
「何言ってんだよ…」
照れ隠しにサクラの頭にぽん、と手を乗せる。そしてそのままサクラの顔を前に向かせた。
「そーいうの…俺に言わなくていいんだよ」
「え、お世辞とかじゃないですよ!?ナナさん、本当にかっこいいんですから…!」
「分かったから…!」
微妙に頬を赤くしたままの二人が隣に並んで進む。
この場面だけなら恋人のようにも見える、そんな空気だ。
「(この人がカカシ先生の…もったいない…)」
「…なんだよ」
「いえ別に!」
サクラの小さな体を見下ろして、ナナは再び胸がざわつくのを感じていた。
サクラもよくここまで耐えたものだ。
自分が思い人だったなら、抱きしめて元気付けてあげたのかもしれない。
しかし、そんな軽い事が出来るはずもない。彼等の心は、ナナの踏み込めるものではないのだから。
「ナナさん?行きますよ?」
「あぁ」
振り返ったサクラは可愛らしく笑っている。
それが何よりの救いだ。
こくりと頷いたナナも、柔らかく笑い返していた。
・・・
一楽と書かれたのれんが揺れている。
一度だけ来たことがあったが、やはり店自体は先の戦いでなくなってしまったようだ。
何も装飾のない木造の建物がそこにある。
「ナルト」
質素な外観。しかしその中からは元気なナルトの声が漏れていて、ナナはその姿を確認する前に声をかけていた。
「あ!ナナってば遅い!」
「ナナさんは悪くないの、私が」
「ってサクラちゃん!?なんで!?」
ばっと振り返ったナルトの目には予定外の出来事が映っている。一瞬の戸惑いは、すぐに喜びに変わったようだ。
嬉しそうに目をきらきらとさせている。
「綱手様の意識が戻ったの!体も回復に向かってるわ」
「え!?じゃあ、綱手のばあちゃん大丈夫なんだな!」
「うん!」
サクラの話を聞くと、ナルトは口を大きく開いて満面の笑みを見せた。
ナナはそれほど関わりないが、ナルトもサクラも綱手には相当世話になっている。
その二人にしか分からない喜びを、ナナは一歩後ろから眺めていた。
「じゃあ、私は他の人にも伝えて回るから。またねナルト!」
「おう!安心したら腹減って来たってばよ!」
「ナナさんも」
「ん」
サクラが走って行くのを見送って、ナナものれんをくぐった。
椅子が横に数個並べられてあり、しかし今はナルトしか座っていない。
実際それどころではない現状なのだから、客足は減っているのだろう。
ぱっと顔を上げると、店のおじさんと目が合ってしまった。
「ナナくん、だっけか。めでてーから今日はおごりだ!」
「え、そんな」
「いいから座れって!」
「…どうも」
頭を小さく下げてから、ナナはナルトの横に腰掛けた。
ナルトは待ちきれんとった様子で体を揺らしている。
「ナルト」
「ん?」
「ナルトはこれから…どうするつもりなんだ?」
そんなナルトに、こんなことを聞くのは酷だ。分かっている。
しかし、こうして話す機会はもう無いかもしれない。そう思ったら、口が動いていた。
「んー…オレってば頭悪ぃから、これからどうすっかなんて考えてねぇんだ」
「もうすぐ戦いが始まる。そしたら…ナルト、お前は頼られる」
ナルトは木ノ葉の英雄だ。また、理不尽にも頼られ続けることになるだろう。ナルトの意思とは関係なく。
じっとナルトを見つめる。ナルトは、目を逸らさなかった。
「そん時はそん時!オレに出来ることをするってばよ!」
「ナルト…」
「そーいうナナは?」
余りにも強くて眩しい存在。
ナナはその眩しさに目を細めた。汚れなく、純真で、真っ直ぐで。
「俺は…」
「へいお待ち!」
元気な声と共に、どんっと目の前に大きなどんぶりが置かれた。
「おぉ!待ってました!」
美味しそうな匂いに、ナルトの目が輝く。
ナルトの意識は完全にラーメンに奪われたようだ。それにナナは酷く安心していた。
これからどうするか。ナナの中にも考えはある。ただ、それをナルトに言うことは出来ない。
「…ナルト、お前はすげぇよ」
ナナは目を閉じて、吐息混じりに呟いた。
どれだけ尊敬してもしきれない程、ナルトはナナの持っていないものをたくさん持っている。
情けない。年下に感化されてばかりだ。
ナナは自嘲的に笑って、一息置いてから目を開いた。
「…ナルト?」
椅子がかたんと左右に軽く揺れている。
大好物であるラーメンを残して、ナルトは姿を消していた。
ナルトは国に守られることになった。
それを聞いたのは、ナルトが消えて一日経ってからだった。
「じゃあ、突然消えたのはなんだったんだよ」
「それは…恐らくナルトを良く知る人が口寄せしたんだろ」
「意味わかんねー…」
ナルトの居場所は敵に知られないようにする為に内密にされていて、ナナにも聞かされなかった。
分かったのは、どこか遠く隠された場所へ連れて行かれたこと。
そして、そこで九尾のコントロールの修業を行うのだということだけ。
「ナルトがただ守られてるだけ…とは思えないけどな」
「何、どうしてそんなにナルトを気にする?」
カカシの左目がいやらしく細められる。
それだけでどんな表情をしているのか予想出来た。
「…あんたの想像通りだろ」
「ん?」
「大事な仲間だから、だろ…」
それを聞いてカカシが嬉しそうに頬を緩める。
こうなると分かっていたとはいえ、案の定過ぎるカカシの反応にナナの顔はむっと膨れた。
そんな表情もカカシにとっては可愛いもので。
「ナナ、おいで」
カカシの腕が左右に広げられる。
今のこの状況で、その間に飛び込むと思っているのか。
ナナは視線だけを逸らして、カカシのその無言の誘いを断る。
「ナナ」
「…」
「ナナ?」
甘ったるい声。
そんなもので惑わされたくなんかないのに、ナナはおずおずと視線をカカシに戻した。
「あんた…なんなんだよ。ガキかよ」
「ガキでもいいよ。今はナナを抱き締めたいの」
「ったく、しょうがねーな…」
一歩、二歩、近付いてカカシの腕と腕の間に入り込む。
少し顔を上げると、カカシの細められた目だけが見えて。ナナはカカシのマスクを指に引っ掻けた。
「どうせあんた、またすぐ出るんだろ」
「…そうだな」
「少しくらい、顔見せろよ」
くいっと下に引くと、いつも隠されている鼻と口が露わになる。
悔しいが、やはり格好いい。少し見惚れた隙に顔が近付いて来て、軽く唇が触れた。
「あ、おい」
「何?嫌だったか?」
「…足んなくなる、から」
カカシの手がナナの頬を撫でる。
それを自然と受け入れ、ナナは自ら顔を近付けていた。
啄むように触れてから、カカシの首に手を回す。
腰にカカシの腕が回されて、二人の体は完全に密着した。
「ん…っ」
「ナナ…」
「ぁ、カカシ、まずい…っ、」
「…触ってもいい?」
「ば、か…っ」
ぞくぞくと震える体は、恐らく呪縛のせいで敏感になっている。
そのせいで乱れるのは嫌なのに、カカシが触れた部分が熱くて、頭の中がぼうっとして。
気付けば自分からすり寄っていた。
「いいよ、オレを利用して」
「だからっ、嫌だったってのに…!」
こんな時期に、しかも真昼間から。愚かなものだと自分でも思う。
しかし、逆に言えばこんなことが出来る日も限られているわけで。
今くらい、甘えてもいいのかななんて。
カカシに流されることを受け入れていた。
・・・
背中が痛い。
ベッドなど無い場所でするものじゃ無いと改めて感じながら、ナナはぼんやりと外を眺めていた。
カカシがいないうちに出て行くか、カカシに話してから出て行くか迷う。
ナナがしようとしていることは、カカシに猛反対されることだろう。
「でも…俺に出来ることはそれしか」
いつ行動するべきか。
戦争が始まる前には行かなければ。
「くそっ、こんな体じゃなければ…!」
木ノ葉の忍としてカカシと共に戦ったのに。
ナナは自分の手のひらを見つめて、それから爪が食い込む程にきつく握り締めた。
チャクラを練ろうとすれば、ぞくっと体に走る刺激。
「んッ…!」
戦うどころか、自滅して終わりだ。
だからといって皆が戦っていると分かっていながら一人待つなんてことは出来ない。
ナナはゆっくりと立ち上がった。顔の熱を冷ます為にぱんぱんと頬を叩く。
そして迷いのない目で家を出て行った。
・・・
「あれ、ナナさん。どうしたんですか?」
かけられた声に、ナナはばっと振り返った。 そこには不思議そうにしているサクラが立っている。
というのも、ナナの目的地が綱手だったのだから当然有り得る話だ。
「綱手様に用ですか?」
「あぁ、まあ」
「珍しいですね…何かあったんですか?」
「そんなとこだ」
詳しくは言えない。
ナナの様子からそれを察したサクラは、入口の方を指さした。
「綱手様は今いらっしゃいますから、用があるなら聞いてもらえると思いますよ」
「ありがとな、サクラ」
ふっと笑いかけるのと同時にサクラの頭に手を乗せ軽く撫でる。
サクラは不思議そうに、そして恥ずかしそうに眉をひそめた。
「なんか、やけに優しいですね…」
「嫌だったか?」
「いえ、いいんですけど…なんか違和感」
「悪かったな、普段優しくなくて」
実際自分は優しい人間などではい。
つまり、サクラの違和感は正しかったわけだ。
「そ、そんなんじゃ…!」
「じゃな、サクラ」
ナナはサクラに対して軽く手を挙げると、そのまま扉の方へ向かって行った。
とん、と軽くノックして対応を待つ。
出てきたのは、付き人のシズネだった。
「あ、ナナさん。どうかしたのですか?」
「はい。綱手様にお話ししたいことが」
「大丈夫ですよ、どうぞ入って下さい」
快く招き入れられ、足を踏み入れる。
そこはほとんど何も置かれていない、ナナとカカシの家とほとんど変わらない建物だった。違うのは広さくらいだろうか。
その部屋の真ん中に布団が敷かれていて、綱手はそこから上半身だけ起こした状態でいた。
「五色ナナか。どうした」
「はい。ご存じの通り、俺の体には大蛇丸の呪縛が残っています」
「…そうだったな」
以前綱手には相当世話になった。結局解決策はなく、記憶を消すということになってしまったのだが。
「俺は戦えません」
「そうだろうな」
「しかし、ただ待っているつもりもありません」
「…というと?」
綱手の眉がぴくりと動いた。
控えているシズネも、心配そうにこちらをじっと見ている。
ナナは一度目を閉じて息を吐き出してから、綱手を真っ直ぐに見据えた。
「俺は、カブトの元へ行こうと思います」
「…どういうことだ?」
怪訝そうな顔を浮かべた綱手が押し殺したような声で問いかけた。
ざわっと空気が変わったのが肌に直接感じられる。
しかし、ナナは表情を変えずにじっと綱手を見下ろし続けた。
「俺のこの呪縛を解けるのはカブト…奴だけ。そう、ですよね」
「あぁ」
「俺はそれに賭けようと思ってる」
「あぁ?馬鹿か貴様は」
「残念ですが、俺は真剣です」
無謀だということくらい分かっている。
それでも、ナナに出来ることなどその程度なのだ。
それに、カブトはナナを殺しはしない。その自信はある。
「どうやって奴の元まで行くというんだ?」
「奴は…俺を欲してる。俺が一人で出て行けば食いつく」
「何故そう言いきれる?根拠は」
「ありません」
やはり上手くは通らないか。
ナナは綱手から視線を逸らして口を噤んだ。
綱手は考えるような仕草をとっているが、決して頷かないだろう。
「お前は五色だ。お前に何かあれば木ノ葉の問題では済まなくなる」
「そんなこと、どうだっていい。俺は既に五色を捨てた」
「しかし事実は変わらんだろうが」
「…」
さすがの正論だ。綱手を納得させるのはもう無理と判断した方がいいかもしれない。
それでも、勝手に出て行くだけだ。
小さく息を吐き出して、小さく一歩下がった時。
ばんっと扉が力強く開け放たれた。
「伝令です!」
「なんだ、騒がしい」
「ヤマト隊長がカブトに囚われたとのことです!」
その時、綱手の表情が変わった。
ヤマトは九尾の暴走を抑える為にナルトについて行ったはずだ。
ということは、敵にナルトの居場所がバレたということで。しかもこちらの情報を聞き出される可能性もあるということだ。
戦争を前にして、この被害は余りにも大きい。
「ナルトはどうしている!?」
「無事なようですが…攻撃は受けたとのこと」
「…ちっ」
綱手は布団を退かし、ばっと立ち上がった。素早く羽織を纏い、扉の方へ向かって行く。
「ナナ、本当にお前一人ならカブトに接触できるのか」
「出来る、可能性は高いと思います」
「…仕方ないな」
綱手が手を伸ばし、ナナの手に小さな盗聴器を乗せた。
「綱手様…」
「一応これを付けて行け。軽く押せば声がこちらに届く。無理だと思ったら引き返せ、いいな」
「はい」
綱手は五影の一人として、新たに組まれた忍連合の本部に行かなければならないようだ。
本当はもっと早く行かなければならないところを、他の上忍がなんとか時間を稼いで綱手を休ませていたらしい。
「行動するなら早くした方がいい。戦争はもうすぐ始まるぞ」
「そうさせて頂きます」
ナナは軽く頭を下げるとすぐに飛び出して行った。
結局カカシに告げることは出来なかったが、その方がいいだろう。
最後に抱き合った思い出があって、それで終わっていた方が綺麗だ。
なんてらしくもないことを考えて、ナナは木ノ葉の端へと向かって行った。
暫く行くと、出入り口に建てられた大きな扉が見え始めた。
もうすぐだ、そう思い更にスピードを上げようとする。
しかし、そのナナの足は、ぴたりと止まる事となった。
「…ナナ?」
後少しで木ノ葉を出れたのに、ここまで知り合いに会わずに来れたのに。
恐る恐る振り返ると、そこには驚きに目を丸くしたカカシが立っていた。
「カカシ…」
「ナナ、どうしてこんな所に?」
「…」
「ナナ?」
言ったら止められる。しかし、言わずに心配をかけるのも辛い。
ナナはカカシに近寄り、力強く抱き着いた。
「何、どうしたの」
「カカシ、悪い。でも…俺は決めたんだ」
「何かするつもりなのか…!?」
顔を上げて、カカシの頬に手を乗せる。そのまま引き寄せて、布越しにキスを落とした。
もし無事にカブトの元へ辿り着いたとて、再びカカシに会うのは厳しくなるだろう。
「カカシ…俺は、あんただけを愛してるから」
「おい、どういうことだ」
「頼むから…また無茶して死ぬなんて、しないでくれよ…」
「ナナ!?待て…!」
カカシの言葉を待たずに、ナナは全速力で駆けだした。
自分がどれ程カカシに弱いか、分かっているからこそ。カカシの言葉は聞きたくなかった。
・・・
土を蹴ってスピードを上げる。
カカシの声はすぐに聞こえなくなった。忙しい中、ナナ一人を気に掛ける余裕などなかったのだろう。
耳を澄ませば自分の足音以外に聞こえて来る音。間違いなく戦闘音だった。
今何が起こっているのかは全く知らないが、状況から察するに、戦争の前触れだろう。
既に戦いは始まっている、ということだ。
「頼む…俺を見つけてくれ」
そんな中、ナナは自ら敵に捕まりに行こうとしている。
木ノ葉を離れたナナにとって、むしろカブトに見つかる方が安全なはずなのだ。
ヤマトがすぐに殺されるということは無いだろうが、それも不安で。
「カブト…」
一番嫌いで憎い男を、自分から求める日が来ようとは。
ナナはふっと口元に笑みを浮かべ、しかし目元は悲しげに潤ませていた。
「あ…ッ」
突然それは訪れた。
胸が酷く高鳴り、下半身への疼きで頬が紅潮していく。
「っん、カブト…?」
そこに立ち止まり、座り込んで辺りを見渡す。
自分の息以外は聞こえない、静かな森の中。
突然、上空に大きな影が出来上がった。
「お前、見た顔だな。うん」
がさがさと木々を揺らしながら、大きな鳥に乗った忍が降り立つ。黒い衣を纏った男、その男の言葉通りに見たことのある顔だった。
「あんた、は…?」
「いいから早く乗れよ。お前もそのつもりなんだろ、うん?」
「…カブトの、仲間か…?」
「認めたくはねーがな、うん」
生気の見えない黒い瞳。
それがカブトに操られている証拠なのかもしれない。
ナナは既に自由が効かなくなった体をなんとか立たせて、その男に近付いた。
「お前、五色ナナって奴だろ?」
「あ、んたは…?」
「デイダラ、聞いたことねーのか?うん?」
「…」
「そーかいそーかい」
残念そうに首を横に振りながら、デイダラはナナの手を取った。
この様子から既に分かるが、やはりカブトはナナを喜んで迎え入れるつもりなのだろう。
「一気に抜けるから、ちゃんと掴まってろよ」
「ん…」
「無理そーだな、うん」
大きな白い鳥の形をしたものに乗ったデイダラがナナの体を抱き寄せる。
そのまましゃがむと、ぶわっと上空に舞い上がった。
「お前にとっちゃ味方だろうが、敵がこの辺うろついてんだ」
「そ、なのか」
「だから一気に抜けるぞ、うん」
さすがにナナを抱えた状態で勝つのは無理だ、ということだろう。
デイダラに触れる部分が熱くなる。カブトの術がかかっているということか。
ナナは目を閉じてデイダラの背に腕を回した。