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カカシ夢(2011.04~2016.09)
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カカシとサスケの闘いに巻き込まれないように、少し距離を取って見守る。
横には流した涙によって目を真っ赤に腫らしたサクラ。そして、命の危機を脱した香燐。
「香燐、大丈夫か?」
「ナナ、お前は変わんねーな…」
「…変わったのは、サスケだけだろ」
「…」
ナナの言葉に、香燐の目が切なげに細められた。
木ノ葉の皆に止められなかったのだ、香燐や鷹の皆にもサスケを止められることは出来なかったのだろう。
彼等がどこまでサスケを信頼していたかは知らないが、それでもこれは望んだものとは違うはずだ。
「…っ」
「ナナ…なんでお前がそんな面すんだよ」
「あ…悪い」
「、ったく」
体を起き上らせようとした香燐の背中を支える。
サクラは思っていた異常に香燐の治療を行ってくれたらしい。外傷はもう一つもないし、何より体を動かせるようになっている。
「この怪我どうしたんだよ」
「ハッ、お前に言うわけねーだろ」
「水月と重吾は」
「さーな」
ふいっと目を逸らした香燐は、その視線の先をサスケに固定していた。
香燐は、恐らくサスケのことが好きだ。こんな捻くれた性格でありながらもサスケに従って来れたのはそのせいだろう。
その証拠に、香燐の目はきつい言葉と裏腹に微かに歪められている。
「…おい、ナナ」
その香燐の視線が上の方にずれた。
「あいつ、何するつもりだ…?」
「え…」
香燐の視線の先。そこにいたのは、いつの間にかナナの傍を離れていたサクラだった。
神経を鋭くさせてカカシとサスケの闘いを見ているサクラは、まるで好機を狙うハンターのようで。まさにそれだった。
「しまった…!」
ナナはばっと立ち上がった。
サクラはまだ諦めていなかったのだ。サスケを殺すこと、その命を背負うということを。
しかし、サクラを止めようにも、下手に動くとサスケにサクラを狙わせることになってしまうかもしれない。
「くそ…っ」
もどかしい。
どうか、まだ行動に出ないでくれとサクラを見て祈る。
しかしその時、サスケの動きが止まった。
写輪眼は何度も使い続けることが出来る程、軽い術ではない。酷使しすぎたことで、サスケの目からは血が流れ、視界も霞んでいたのだ。
それは、サクラにとってようやく訪れたチャンスだった。
ナナの祈りも虚しく、サスケの背後に音も無く降り立ったサクラは、構えたクナイをサスケに向ける。
当然、そのクナイがサスケの背中に突き刺さることはなかった。
楽しかった思い出が、その行動の枷となってしまったのだ。
「やめろサスケ!」
ナナは叫ぶと同時に刀をサスケに向けて投げた。
それとほぼ同時に、サクラの手のクナイがサスケに奪い取られる。サスケの手に構えられたクナイは、一直線にサクラの首筋を狙っていった。
「サクラ!」
カカシも走り出していたが、サスケがサクラを殺す、それを止めるには間に合いそうにない。
先に二人の間に届いた刀、ナナがサスケに飛びかかっていた。
「サスケやめろっ!」
「…ナナ、お前でも邪魔するなら敵だ」
「っ、」
頬にかすったクナイがナナの肌に赤い筋を作る。
「どうして…そんな風になっちまったんだよ、サスケっ!」
「そんな風?」
「どうして、香燐まで!」
「使えないものを捨てて何が悪い?」
「っ!」
地面に突き刺さっていた自分の刀を抜き、ナナはそれでサスケに切りかかった。
復讐に染まってしまっただけなら、まだ仕方ないと思えた。
しかし、自分で集めた仲間さえも切り捨ててしまうなんて。それは、どうしても許せなかった。
「サスケ…!なら、水月と重吾は!?」
「さぁな。あいつらが強ければ、まだ生きてるんじゃないか?」
「てめぇ…」
チャクラを刀に宿して振りかざす。
それでも、サスケは切っ先に触れることなくさっと逃れてしまった。
「ナナ、お前はオレより弱い。わかってんだろ」
「…」
それは、写輪眼のことを言っているのかそれとも。もはや体術だけでも敵わないというのか。
頷かざるを得ない。
ナナは悔しさから、眉間にしわを寄せてサスケから目を逸らしてしまった。
「ナルト…」
ぽつりと呟かれたサクラの声に振り返ると、そこにはサクラを抱きかかえたナルトが立っていた。
サクラをゆっくりと下ろしてサスケを見据えるのは、置いて来たはずのナルト。
ナイスすぎるタイミングに、気を張っていたカカシもほっと息を吐いた。
「サスケ、サクラちゃんもナナも、同じ第七班のメンバーだぞ」
「元…第七班だ」
睨み合う二人の間、カカシがナナの肩を抱き寄せた。
何も言わないが、平気かと問いたかったのだろう。ナナは小さく縦に首を動かした。
「サスケ、オレはイタチの真実ってのを聞いた。嘘か本当かは分かんねェけど…お前のやってることは分かるってばよ」
「…てめーにオレの何が分かる」
ナルトは、サクラよりもずっと冷静だった。
一時はどうなることかと思ったが、暫く休んで整理がついたのかもしれない。
じっと、サスケを見る目には迷いが無い。
しかし、サスケはそれを受け流すように小さく笑った。
「さっき…オレはやっと一人イタチの敵を討てた。木ノ葉の上役…ダンゾウって奴だ」
ダンゾウ、この男の強さを知っていたカカシは驚きで両目を見開いた。
香燐の深い傷は、そのダンゾウとの戦いで負ったものだろう。
ナナは視線を一度香燐に向けて、それから再びサスケに戻した。
「汚れたうちはが浄化されていく感覚…オレは木ノ葉の全てを殺す!それこそが本当のうちは復興だ!」
目を見開いて笑うサスケは、あまりにも不気味だった。
ここまで、人間は落ちれるものなのか。
少し前までは、その手でナナを抱くことが出来たのに。
その手は、ただ人を、木ノ葉を殺める為だけのものになってしまった。
「…サスケ」
「ナナ、お前も木ノ葉に復讐したいとは思わないか?」
「何?」
サスケは不気味な笑みを浮かべたまま、ナナに手を差し出した。
「五色が今のようになったのは…木ノ葉の五色に対する扱いが酷かったからなんだろ」
「…そ、」
そういえば、マダラが言っていた。木ノ葉のせいで五色は忍の里との関係を切った、と。
「五色の忍を戦いに駆り出しては、見殺しにした。まさか、知らなかったのか?」
「そうだったとしても、俺には関係ない…!」
そんな事実は知らないが、それが本当だろうと嘘だろうと関係ない。ナナは心からそう思えた。
そもそも五色なんて嫌いだったのだ。既に、ナナの心は木ノ葉にある。
「俺はサスケ…お前のようにはならない」
「…そーかよ。なら、お前も木ノ葉の者として殺す」
「そんなことはさせないよ、サスケ」
肩を抱いていたカカシの手がナナを後ろにやった。
「ナナ、ナルト、サクラ。お前等はここから消えろ。見たくないものを見ることになる」
「…カカシ、本気で…?」
「あぁ、これはオレの責任だ」
カカシの顔は見えないが、その目は敵としてサスケを捕らえているのだろう。
ナナが素直に一歩下がると、背後にいたナルトとぶつかった。
同時に、ナルトの手がナナの体を支えるように回される。
「それは、サスケを殺すってことか?」
「おい、ナルト?」
「…そうなんだな」
カカシに投げかけられた問いに答えはなかったが、ナルトは一人頷いた。
そしてナナの体を抑えたまま、分身するとサスケに向かって駆け出した。
「ナルト!」
ナルトを止めようとしたカカシも、ナルトの分身によって押さえ込まれる。
ナルトとサスケの攻撃が、交わった。螺旋丸と千鳥がぶつかる。
その眩しすぎる光に、そこにいた皆が目を細めた。
激しい衝撃音。
ナルトとサスケを中心にして小さな爆発が起こり、ナナもその場にしゃがみこんで風圧に耐えた。
吹っ飛んだナルトをカカシが受け止め、反対に吹き飛んだサスケを受け止めたのは妙な姿をした男。
どこから現れたかも知れないその肌が異様に白く体が変形している男は、ゼツという暁の男だ。
「ナルト!お前は帰れって言ったでしょ!」
とはいえ突然現れたゼツを気に掛ける者などこの場にはいなかった。
ヤマトと帰したはずのナルトが何故ここに来たのか。というか問題はヤマトだ。何まんまとナルトに逃げられているんだ。
「全くヤマトもまだまだだな」
やれやれと後輩の失態にため息を吐くカカシの横で、ナルトは小さく口を開いた。
「これで…はっきりした…」
「ナルト?」
ナルトは未だにじっとサスケだけをその目に捕らえている。
サスケもサスケで、息を荒くしながらもナルトを鋭い目で睨み付けるのを止めない。
そのサスケの横に、別の空間のようなものが現れた。そこから出てきたのは、うちはマダラ。
「帰って休めと言っただろう」
肩で呼吸をしているサスケは、そのマダラの言葉さえも耳に入れてはいなかった。
完全にナルトとサスケの二人はお互いを意識している。
「九尾か…こいつ等とはちゃんとした場を設けてやる。今は退くぞ」
マダラがサスケの背中に手を置く。
その顔の向きが、少しだけナナの方に向いた。
「…っ、?」
仮面を付けたマダラの顔は全く見えないが、ナナは一瞬見られた気がして身を震わせた。
マダラはナナにも興味を示している。何故だかは知らないが、それは事実だ。
「…うちは、マダラ」
自分と話した時は、ただの悪人には見えなかった。仲間と話している様子を見てもそれは感じられる。
ナナの興味がマダラにいっていることに気付いたのか、カカシはナナに顔を向けた。
「ナナ、オレから離れるなよ」
「あ?…それはナルトに言ってやれ」
「ナルト?」
カカシが再び視線をナルトに戻せば、ナルトは、立ち上がり一歩前へ出ている。
その目には、相変わらずサスケしか見えていない。
「サスケ、お前にも分かっただろ。直接ぶつかって…オレの、心の内が」
「…」
「それに、見えたはずだ。オレとお前がぶつかれば、二人とも死ぬ」
「…」
サスケの眉がぴくりと吊り上る。それは、恐らく肯定を表していた。
二人とも死ぬ。
ナルトの口から出たフレーズとしてはあまりにも重い。
「お前が木ノ葉に攻めてくれば、オレはお前と戦わなきゃなんねぇ…。憎しみは、それまでとっとけ。全部受け止めてやる」
全部受け止めて、一緒に死んでやる。
ナルトの覚悟はたったの16歳の少年のモノには思えなかった。
重い空気を割るかのように、ナルトとサスケの間に風が吹き抜ける。
「なんでてめーはそこまでオレにこだわる!」
「…友達だからだ」
「…!」
サスケが初めて目を見開いた。今度は無言とは違う、言葉が出てこなかったのだろう。
それほど、ナルトの覚悟は大きく強かった。
「もういい、ナルト。サスケはオレがやる」
ぱしゃ、と足元の水を弾いてカカシがナルトに近付く。それでもナルトは、首を左右に振った。
「仲間一人救えねぇ奴が、火影になんてなれっかよ。サスケとは、オレがやる」
その強い声色に、カカシも息を呑みこんだ。
カカシにとっては相当辛いことのはずだ。教え子二人が、真正面から敵対しているのだから。
しかし、そんな感情で抑え込めるような事では無くなっていた。
「…カカシ、ナルトに任せてやろうぜ」
「ナナ…」
「ナルトは本気だ。俺達に、口挟めることじゃねーよ」
「…はぁ」
カカシが額を押さえて首を振った。実力的にも、既にナルトはカカシを超えている。
ナルトに任せる他ない。
「分かった。サスケはナルト、お前に任せる」
しかし、今はまだその時ではない。
「サスケ、行くぞ」
「…」
マダラに連れられてサスケとゼツも皆姿を消す。それでも、ナルトの目にはサスケの鋭い視線が離れずにいた。
いなくなったサスケをじっと見つめたまま動かない。
そのせいか、サスケがいなくなった今も、何やら解けない緊張感が漂っていた。
「…あれ…」
「ナナ?」
そんな空気を壊したのは、ナナだった。
ふらっと足元おぼつか無くなったナナがカカシの体へ倒れ込む。
「なんか、体、痺れて…」
「え?」
「立ってられな…」
ぎゅっとカカシの腕に掴まるその手にすら、ほとんど力が入っていない。
驚いてナナの体に伸ばしたカカシの手は、頬に作られた傷に触れた。
「この傷…」
「あ!それ私が…っ!」
サクラが気付いて駆け寄る。
その頬の傷は、サクラがサスケを殺す為に持っていたクナイによってついたもの。
「もしかしてサクラ」
「ご、ごめんなさい!毒付きなの忘れてて…!」
ただのクナイで致死能力などあるはずがなく。
掠っただけでも体に浸透する程度の毒が塗り込まれていたのだった。
ふらっとナナの体から力が失われていく。
「サクラ、すぐに解毒してくれ」
「は、はい!」
騒がしくカカシとサクラがナナの体を診る。
それを少し離れたところから見ていた香燐は、飽きれたような顔で笑っていた。
ここでもナナは愛されている。ナナは良い仲間に恵まれているのだ。
「…そりゃ、ウチ等のとこには残んねーよな」
ナナならサスケの支えになれるんじゃないかと、思ったこともあった。
けれど、こんな良い仲間に恵まれながらもサスケは堕ちた。
「サスケの笑った顔…見たかったな」
ぽつりと呟く香燐の脳裏には、まだ復讐に囚われていなかった頃のサスケの笑顔。
香燐は、サスケに惚れていた。それもずっと前から。
しかしサスケは帰ってこない。
見上げた空が気持ち良いくらいの青空で、酷く吐き気がした。
「…気持ち悪ぃ」
帰り道、カカシの体に寄りかかりながら歩くナナが小さくぼやいた。
それを聞いてカカシとサクラが苦笑いを浮かべる。
サクラの力あって解毒はすぐに終わったが、ナナの足はまだふらふらしていた。
「大丈夫か?」
「ん…。大丈夫だけど、気持ち悪い」
「ごめんなさい、ナナさん…」
頬に伝う汗をぬぐいながら、ナナははぁっとため息を吐いた。
サクラは先ほどからぺこぺこと頭を下げっぱなしだ。しかし、サクラが謝るべきはそこではない。
「サクラ、もう一人で無茶すんじゃねーぞ」
「っ…」
「サクラ」
「はい…」
こくりと頷いたサクラは、きっともう一人でどうこうしようとは思わないだろう。
何せ、あのナルトの覚悟を目にしてしまったのだ。
ナナだって、サスケのことはナルトに任せると決めた。
カカシの背に負ぶさる香燐も、サスケのことは諦めたらしい。
いつもの覇気はなく、大人しくカカシの背に身を任せている。
「おい、ナナ」
「ん?」
「もしかしなくても、このおっさんに惚れてんのか?」
「え、」
このおっさん。そう言いながら、香燐はカカシの体を蹴った。
「なん、で」
「はぁ?お前分かりやすすぎなんだよ」
「…そう、なのか…」
うんうんと隣でサクラも頷いている。
ナルトはぽかんとして、カカシはおっさんと呼ばれたことにショックを受けているようだが。
ナナはカカシの前では気が緩んでいる。香燐の目にもそれは明らかだった。
「趣味悪いな…よりにもよってこれかよ」
「い、いいだろ、別に」
「…っち、デレデレしやがって」
余りにも分かりやすい反応に、見ているこっちが恥ずかしくなる。
香燐はぱっとナナから視線を逸らし、一方サクラはさり気なく顔を赤らめる二人を観察していた。
サクラのせいで道端に眠っていたキバとリーとサイを起こし、彼等は木ノ葉へと戻った。
ナルト達は同期の皆を集めて話をすると言い、カカシは上層部へ火影になるという話をしに行く言う。
当然ナナはカカシについて行った。
といっても、話に行ったカカシを見送り、待っていることしか出来ないのだが。
「…はぁ」
溜め息を吐いて、ナナは額に滲む汗を拭った。
嫌な汗だ。その原因は、さっき尋問班に香燐を引き渡す前に告げられた言葉にある。
『ナナ、お前のチャクラなんか妙だぞ。五色じゃないチャクラが胸んとこにくっ付いてる』
それによって、すっかり忘れていた事実を思い出してしまった。
無くなったワケではない宿されたチャクラ。
思い出したせいで疼いているのか、それとも奴が動き始めているのか。
「薬師カブト…っ」
今、大蛇丸として存在しているのは、カブトの方だ。
目を付けられたのが運の尽き。いつまでもナナの中に入り込もうとしてくる。
それでも、今与えられる刺激が弱いのは、カブトが近くにいないからだろう。しかし、一度思い出してしまうとなかなか脳裏から離れていかない。
「くそ、こんなもの…っ」
そこの壁をガツンと殴って、その痛みで紛らわせる。
今大事なのはカカシのことなのだ。他のことを考えてなんかいたくない。
歯を食いしばって呼吸を荒々しく繰り返す。
その横を、一人の忍が慌ただしく入って行った。
「…なんだ?」
今この建物の中では、木ノ葉のお偉いさん方が集まって大事な会議を行っているというのに。
そんなに慌てて乗り込む程に大事なことがあるのか。
「どうかしたんですか?」
ナナは後ろに控えていたもう一人の男に顔を向けた。その男もずっと落ち着かない様子でそわそわとしている。
しかしその男はどういうわけか、ナナの質問に笑って返した。
「綱手様が目を覚ましたんです!」
「五代目火影が…?」
「はい!」
それは、ナナにとっても相当喜ばしいことであった。
ということは、カカシが火影になるという話も無くなるはずだ。
ほっとしたナナの膝はがくりと折れていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…気にしないで下さい」
冷めない顔の熱を隠しながら、ナナは曖昧に笑う。
その忍は大してナナを気にすること無く、中に入って行ってくれた。
「はぁっ…」
とにかく今は一人になれる空間に行きたい。
ナナはゆっくり壁を使って立ち上がると、辺りを見渡した。
考えるまでもなく、今の木ノ葉にナナとカカシの家など残っていない。
「…や、ば」
壁に寄りかかって、ナナは股間に手を置いた。
こんな場所でこの状態はまずい。明らかにただの変態だ。
ナナはせめてこの場から離れようと一歩踏み出した。
「ナナ、待たせたね」
「っ、」
真っ赤な顔が、さっと青ざめていくような感覚。
タイミング悪く、カカシが戻ってきてしまった。
「綱手様の意識が戻ったらしい。いやぁ、危うく本当に火影になるところだったよ」
「そ…それは、良かった」
「ナナ?」
顔をカカシから逸らして、ぐっと息を呑む。
なんてことをしたところで、カカシがナナの様子の変化に気付かないはずがなかった。
じゃりっという足音が近付く。
「オレは綱手様に会いに行くけど…ナナは」
「いい、俺は…その」
「…ナナ、もしかして」
「俺は、便所!行ってくるから…!」
ぱっと顔を上げてカカシを避けようとした。のが間違いだったのか。
カカシの顔を見た途端、じわじわと湧き上がる熱。
ナナの体がかくんと落ちた。
「ナナ…!」
「触んなっ…ぁあっ!」
抱きかかえるように支えられ、ナナは逃げることが出来なかった。
触られたせいで、もっと欲しくなってしまう。もっと、触って、いかせて欲しい。
そんな淫らなことを考える自分に、ナナの顔が更に赤くなる。それを、カカシが見逃さなかった。
「ナナ…歩けるか?」
「あ…るける、けど」
「オレも便所に行きたくなった」
「っ…」
急かされるように、ナナはカカシの腕に引かれて行った。
カカシはその言葉の通りに、近くに建てられている仮設の便所に向かっている。
「カカシ…」
「大丈夫だから、何も考えるな」
「…ん」
腕を掴むカカシの大きな手を見つめて、ただただその後をついていく。
その便所が視界に入った時には、ナナの我慢はもはや限界となっていた。
建てられたばかりのその場所は、まだあまり使われていないらしい。ほとんど綺麗なままだ。
カカシと共に同じ個室に入ると、そのまま静かにドアを閉めた。かちゃんと鍵のかかる音が耳を掠める。
その直後、二人の体は密着していた
「ん…」
軽く口付け、そのまま深く舌を絡め合う。
カカシの手はすぐにナナの下半身へと伸ばされた。
「ぁっ、あ…ッ」
「なるべく、声抑えてな」
「ん…分かってる…」
さすがに公共の場。誰が来るとも知れない場所で堂々とは出来ない。
ナナは壁に体を預け、両手で口を覆った。
カカシの手が、ナナの感じる場所をしつこく攻める。それでなくとも敏感になっている体は、がくがくと震えた。
「んっ…!」
「ナナ…いれても、いいか?」
「ん、早く…」
ナナはカカシの言葉に首を何度も縦に振った。もう待てなかった。久しぶりの行為に互いを求めて、止まらない。
今にも崩れ落ちそうなナナの腰を掴むと、カカシはそのまま引き寄せ便器に座った。
「っア…!」
中を貫く感覚に、ナナの声が高くなった。
背中にぶつかる体温と、駆け抜ける快感。おかしくなってしまいそうな程に全身が痺れている。
「か、カカシ…っ」
「ん?」
「反対、がいい…っこれじゃ、あんたが見えない、から…」
「…そう、だったね」
初めての時にもそんなことを言われた気がする。
カカシはナナの体を一度放すと、ナナが体を反転させるのを待った。
大きく息を吐き出しながら、ナナはカカシの方を向いてその首に手を回す。
そのまま、自ら上に乗って腰を下ろした。
「―っん、ぁ…!」
「もっと、オレにしがみ付いて。揺らすよ」
「あぁ、っ!く…ッ」
ぎゅっと首に回した腕に力を込める。
カカシの体温が心地よくて、ナナはすっかり大蛇丸のことなど考えなくなっていた。
・・・
暗い、怪しげな通路を進む木ノ葉の忍達。
そこには鋭い噛み跡を付けた忍が命を失い倒れている。
「カブトの奴…どんどん大蛇丸に近付いてるな」
わざわざ目立つように殺すのは、あえて気付かせようとしている為としか思えない。
大蛇丸の意志を継いでいるのだとしたら、カブトの狙いは暁か木ノ葉か。
木ノ葉の特別上忍であるみたらしアンコは静かに立ち上がった。
白眼を持つ者がその力を使って見たのは、謎の洞窟に入っていくカブトと暁の装束に身に纏った男。
「二人は手を組んだのか!?だとしたら何故」
「わざわざここへ導いたのか…?暁のアジトを知らせる為に…」
予想外の事態に焦った様子を見せる者達の中で、唯一アンコだけが冷静でいた。
大蛇丸の教え子だったアンコ。彼女の後悔は、常に大蛇丸を仕留め損ねたことにある。
「とにかく、すぐにこの事を里に知らせる」
カブトの狙いは、まだ誰にも知られていない。
ただ彼等に分かるのは、戦争の開始が目前に迫っているということだけだった。
横には流した涙によって目を真っ赤に腫らしたサクラ。そして、命の危機を脱した香燐。
「香燐、大丈夫か?」
「ナナ、お前は変わんねーな…」
「…変わったのは、サスケだけだろ」
「…」
ナナの言葉に、香燐の目が切なげに細められた。
木ノ葉の皆に止められなかったのだ、香燐や鷹の皆にもサスケを止められることは出来なかったのだろう。
彼等がどこまでサスケを信頼していたかは知らないが、それでもこれは望んだものとは違うはずだ。
「…っ」
「ナナ…なんでお前がそんな面すんだよ」
「あ…悪い」
「、ったく」
体を起き上らせようとした香燐の背中を支える。
サクラは思っていた異常に香燐の治療を行ってくれたらしい。外傷はもう一つもないし、何より体を動かせるようになっている。
「この怪我どうしたんだよ」
「ハッ、お前に言うわけねーだろ」
「水月と重吾は」
「さーな」
ふいっと目を逸らした香燐は、その視線の先をサスケに固定していた。
香燐は、恐らくサスケのことが好きだ。こんな捻くれた性格でありながらもサスケに従って来れたのはそのせいだろう。
その証拠に、香燐の目はきつい言葉と裏腹に微かに歪められている。
「…おい、ナナ」
その香燐の視線が上の方にずれた。
「あいつ、何するつもりだ…?」
「え…」
香燐の視線の先。そこにいたのは、いつの間にかナナの傍を離れていたサクラだった。
神経を鋭くさせてカカシとサスケの闘いを見ているサクラは、まるで好機を狙うハンターのようで。まさにそれだった。
「しまった…!」
ナナはばっと立ち上がった。
サクラはまだ諦めていなかったのだ。サスケを殺すこと、その命を背負うということを。
しかし、サクラを止めようにも、下手に動くとサスケにサクラを狙わせることになってしまうかもしれない。
「くそ…っ」
もどかしい。
どうか、まだ行動に出ないでくれとサクラを見て祈る。
しかしその時、サスケの動きが止まった。
写輪眼は何度も使い続けることが出来る程、軽い術ではない。酷使しすぎたことで、サスケの目からは血が流れ、視界も霞んでいたのだ。
それは、サクラにとってようやく訪れたチャンスだった。
ナナの祈りも虚しく、サスケの背後に音も無く降り立ったサクラは、構えたクナイをサスケに向ける。
当然、そのクナイがサスケの背中に突き刺さることはなかった。
楽しかった思い出が、その行動の枷となってしまったのだ。
「やめろサスケ!」
ナナは叫ぶと同時に刀をサスケに向けて投げた。
それとほぼ同時に、サクラの手のクナイがサスケに奪い取られる。サスケの手に構えられたクナイは、一直線にサクラの首筋を狙っていった。
「サクラ!」
カカシも走り出していたが、サスケがサクラを殺す、それを止めるには間に合いそうにない。
先に二人の間に届いた刀、ナナがサスケに飛びかかっていた。
「サスケやめろっ!」
「…ナナ、お前でも邪魔するなら敵だ」
「っ、」
頬にかすったクナイがナナの肌に赤い筋を作る。
「どうして…そんな風になっちまったんだよ、サスケっ!」
「そんな風?」
「どうして、香燐まで!」
「使えないものを捨てて何が悪い?」
「っ!」
地面に突き刺さっていた自分の刀を抜き、ナナはそれでサスケに切りかかった。
復讐に染まってしまっただけなら、まだ仕方ないと思えた。
しかし、自分で集めた仲間さえも切り捨ててしまうなんて。それは、どうしても許せなかった。
「サスケ…!なら、水月と重吾は!?」
「さぁな。あいつらが強ければ、まだ生きてるんじゃないか?」
「てめぇ…」
チャクラを刀に宿して振りかざす。
それでも、サスケは切っ先に触れることなくさっと逃れてしまった。
「ナナ、お前はオレより弱い。わかってんだろ」
「…」
それは、写輪眼のことを言っているのかそれとも。もはや体術だけでも敵わないというのか。
頷かざるを得ない。
ナナは悔しさから、眉間にしわを寄せてサスケから目を逸らしてしまった。
「ナルト…」
ぽつりと呟かれたサクラの声に振り返ると、そこにはサクラを抱きかかえたナルトが立っていた。
サクラをゆっくりと下ろしてサスケを見据えるのは、置いて来たはずのナルト。
ナイスすぎるタイミングに、気を張っていたカカシもほっと息を吐いた。
「サスケ、サクラちゃんもナナも、同じ第七班のメンバーだぞ」
「元…第七班だ」
睨み合う二人の間、カカシがナナの肩を抱き寄せた。
何も言わないが、平気かと問いたかったのだろう。ナナは小さく縦に首を動かした。
「サスケ、オレはイタチの真実ってのを聞いた。嘘か本当かは分かんねェけど…お前のやってることは分かるってばよ」
「…てめーにオレの何が分かる」
ナルトは、サクラよりもずっと冷静だった。
一時はどうなることかと思ったが、暫く休んで整理がついたのかもしれない。
じっと、サスケを見る目には迷いが無い。
しかし、サスケはそれを受け流すように小さく笑った。
「さっき…オレはやっと一人イタチの敵を討てた。木ノ葉の上役…ダンゾウって奴だ」
ダンゾウ、この男の強さを知っていたカカシは驚きで両目を見開いた。
香燐の深い傷は、そのダンゾウとの戦いで負ったものだろう。
ナナは視線を一度香燐に向けて、それから再びサスケに戻した。
「汚れたうちはが浄化されていく感覚…オレは木ノ葉の全てを殺す!それこそが本当のうちは復興だ!」
目を見開いて笑うサスケは、あまりにも不気味だった。
ここまで、人間は落ちれるものなのか。
少し前までは、その手でナナを抱くことが出来たのに。
その手は、ただ人を、木ノ葉を殺める為だけのものになってしまった。
「…サスケ」
「ナナ、お前も木ノ葉に復讐したいとは思わないか?」
「何?」
サスケは不気味な笑みを浮かべたまま、ナナに手を差し出した。
「五色が今のようになったのは…木ノ葉の五色に対する扱いが酷かったからなんだろ」
「…そ、」
そういえば、マダラが言っていた。木ノ葉のせいで五色は忍の里との関係を切った、と。
「五色の忍を戦いに駆り出しては、見殺しにした。まさか、知らなかったのか?」
「そうだったとしても、俺には関係ない…!」
そんな事実は知らないが、それが本当だろうと嘘だろうと関係ない。ナナは心からそう思えた。
そもそも五色なんて嫌いだったのだ。既に、ナナの心は木ノ葉にある。
「俺はサスケ…お前のようにはならない」
「…そーかよ。なら、お前も木ノ葉の者として殺す」
「そんなことはさせないよ、サスケ」
肩を抱いていたカカシの手がナナを後ろにやった。
「ナナ、ナルト、サクラ。お前等はここから消えろ。見たくないものを見ることになる」
「…カカシ、本気で…?」
「あぁ、これはオレの責任だ」
カカシの顔は見えないが、その目は敵としてサスケを捕らえているのだろう。
ナナが素直に一歩下がると、背後にいたナルトとぶつかった。
同時に、ナルトの手がナナの体を支えるように回される。
「それは、サスケを殺すってことか?」
「おい、ナルト?」
「…そうなんだな」
カカシに投げかけられた問いに答えはなかったが、ナルトは一人頷いた。
そしてナナの体を抑えたまま、分身するとサスケに向かって駆け出した。
「ナルト!」
ナルトを止めようとしたカカシも、ナルトの分身によって押さえ込まれる。
ナルトとサスケの攻撃が、交わった。螺旋丸と千鳥がぶつかる。
その眩しすぎる光に、そこにいた皆が目を細めた。
激しい衝撃音。
ナルトとサスケを中心にして小さな爆発が起こり、ナナもその場にしゃがみこんで風圧に耐えた。
吹っ飛んだナルトをカカシが受け止め、反対に吹き飛んだサスケを受け止めたのは妙な姿をした男。
どこから現れたかも知れないその肌が異様に白く体が変形している男は、ゼツという暁の男だ。
「ナルト!お前は帰れって言ったでしょ!」
とはいえ突然現れたゼツを気に掛ける者などこの場にはいなかった。
ヤマトと帰したはずのナルトが何故ここに来たのか。というか問題はヤマトだ。何まんまとナルトに逃げられているんだ。
「全くヤマトもまだまだだな」
やれやれと後輩の失態にため息を吐くカカシの横で、ナルトは小さく口を開いた。
「これで…はっきりした…」
「ナルト?」
ナルトは未だにじっとサスケだけをその目に捕らえている。
サスケもサスケで、息を荒くしながらもナルトを鋭い目で睨み付けるのを止めない。
そのサスケの横に、別の空間のようなものが現れた。そこから出てきたのは、うちはマダラ。
「帰って休めと言っただろう」
肩で呼吸をしているサスケは、そのマダラの言葉さえも耳に入れてはいなかった。
完全にナルトとサスケの二人はお互いを意識している。
「九尾か…こいつ等とはちゃんとした場を設けてやる。今は退くぞ」
マダラがサスケの背中に手を置く。
その顔の向きが、少しだけナナの方に向いた。
「…っ、?」
仮面を付けたマダラの顔は全く見えないが、ナナは一瞬見られた気がして身を震わせた。
マダラはナナにも興味を示している。何故だかは知らないが、それは事実だ。
「…うちは、マダラ」
自分と話した時は、ただの悪人には見えなかった。仲間と話している様子を見てもそれは感じられる。
ナナの興味がマダラにいっていることに気付いたのか、カカシはナナに顔を向けた。
「ナナ、オレから離れるなよ」
「あ?…それはナルトに言ってやれ」
「ナルト?」
カカシが再び視線をナルトに戻せば、ナルトは、立ち上がり一歩前へ出ている。
その目には、相変わらずサスケしか見えていない。
「サスケ、お前にも分かっただろ。直接ぶつかって…オレの、心の内が」
「…」
「それに、見えたはずだ。オレとお前がぶつかれば、二人とも死ぬ」
「…」
サスケの眉がぴくりと吊り上る。それは、恐らく肯定を表していた。
二人とも死ぬ。
ナルトの口から出たフレーズとしてはあまりにも重い。
「お前が木ノ葉に攻めてくれば、オレはお前と戦わなきゃなんねぇ…。憎しみは、それまでとっとけ。全部受け止めてやる」
全部受け止めて、一緒に死んでやる。
ナルトの覚悟はたったの16歳の少年のモノには思えなかった。
重い空気を割るかのように、ナルトとサスケの間に風が吹き抜ける。
「なんでてめーはそこまでオレにこだわる!」
「…友達だからだ」
「…!」
サスケが初めて目を見開いた。今度は無言とは違う、言葉が出てこなかったのだろう。
それほど、ナルトの覚悟は大きく強かった。
「もういい、ナルト。サスケはオレがやる」
ぱしゃ、と足元の水を弾いてカカシがナルトに近付く。それでもナルトは、首を左右に振った。
「仲間一人救えねぇ奴が、火影になんてなれっかよ。サスケとは、オレがやる」
その強い声色に、カカシも息を呑みこんだ。
カカシにとっては相当辛いことのはずだ。教え子二人が、真正面から敵対しているのだから。
しかし、そんな感情で抑え込めるような事では無くなっていた。
「…カカシ、ナルトに任せてやろうぜ」
「ナナ…」
「ナルトは本気だ。俺達に、口挟めることじゃねーよ」
「…はぁ」
カカシが額を押さえて首を振った。実力的にも、既にナルトはカカシを超えている。
ナルトに任せる他ない。
「分かった。サスケはナルト、お前に任せる」
しかし、今はまだその時ではない。
「サスケ、行くぞ」
「…」
マダラに連れられてサスケとゼツも皆姿を消す。それでも、ナルトの目にはサスケの鋭い視線が離れずにいた。
いなくなったサスケをじっと見つめたまま動かない。
そのせいか、サスケがいなくなった今も、何やら解けない緊張感が漂っていた。
「…あれ…」
「ナナ?」
そんな空気を壊したのは、ナナだった。
ふらっと足元おぼつか無くなったナナがカカシの体へ倒れ込む。
「なんか、体、痺れて…」
「え?」
「立ってられな…」
ぎゅっとカカシの腕に掴まるその手にすら、ほとんど力が入っていない。
驚いてナナの体に伸ばしたカカシの手は、頬に作られた傷に触れた。
「この傷…」
「あ!それ私が…っ!」
サクラが気付いて駆け寄る。
その頬の傷は、サクラがサスケを殺す為に持っていたクナイによってついたもの。
「もしかしてサクラ」
「ご、ごめんなさい!毒付きなの忘れてて…!」
ただのクナイで致死能力などあるはずがなく。
掠っただけでも体に浸透する程度の毒が塗り込まれていたのだった。
ふらっとナナの体から力が失われていく。
「サクラ、すぐに解毒してくれ」
「は、はい!」
騒がしくカカシとサクラがナナの体を診る。
それを少し離れたところから見ていた香燐は、飽きれたような顔で笑っていた。
ここでもナナは愛されている。ナナは良い仲間に恵まれているのだ。
「…そりゃ、ウチ等のとこには残んねーよな」
ナナならサスケの支えになれるんじゃないかと、思ったこともあった。
けれど、こんな良い仲間に恵まれながらもサスケは堕ちた。
「サスケの笑った顔…見たかったな」
ぽつりと呟く香燐の脳裏には、まだ復讐に囚われていなかった頃のサスケの笑顔。
香燐は、サスケに惚れていた。それもずっと前から。
しかしサスケは帰ってこない。
見上げた空が気持ち良いくらいの青空で、酷く吐き気がした。
「…気持ち悪ぃ」
帰り道、カカシの体に寄りかかりながら歩くナナが小さくぼやいた。
それを聞いてカカシとサクラが苦笑いを浮かべる。
サクラの力あって解毒はすぐに終わったが、ナナの足はまだふらふらしていた。
「大丈夫か?」
「ん…。大丈夫だけど、気持ち悪い」
「ごめんなさい、ナナさん…」
頬に伝う汗をぬぐいながら、ナナははぁっとため息を吐いた。
サクラは先ほどからぺこぺこと頭を下げっぱなしだ。しかし、サクラが謝るべきはそこではない。
「サクラ、もう一人で無茶すんじゃねーぞ」
「っ…」
「サクラ」
「はい…」
こくりと頷いたサクラは、きっともう一人でどうこうしようとは思わないだろう。
何せ、あのナルトの覚悟を目にしてしまったのだ。
ナナだって、サスケのことはナルトに任せると決めた。
カカシの背に負ぶさる香燐も、サスケのことは諦めたらしい。
いつもの覇気はなく、大人しくカカシの背に身を任せている。
「おい、ナナ」
「ん?」
「もしかしなくても、このおっさんに惚れてんのか?」
「え、」
このおっさん。そう言いながら、香燐はカカシの体を蹴った。
「なん、で」
「はぁ?お前分かりやすすぎなんだよ」
「…そう、なのか…」
うんうんと隣でサクラも頷いている。
ナルトはぽかんとして、カカシはおっさんと呼ばれたことにショックを受けているようだが。
ナナはカカシの前では気が緩んでいる。香燐の目にもそれは明らかだった。
「趣味悪いな…よりにもよってこれかよ」
「い、いいだろ、別に」
「…っち、デレデレしやがって」
余りにも分かりやすい反応に、見ているこっちが恥ずかしくなる。
香燐はぱっとナナから視線を逸らし、一方サクラはさり気なく顔を赤らめる二人を観察していた。
サクラのせいで道端に眠っていたキバとリーとサイを起こし、彼等は木ノ葉へと戻った。
ナルト達は同期の皆を集めて話をすると言い、カカシは上層部へ火影になるという話をしに行く言う。
当然ナナはカカシについて行った。
といっても、話に行ったカカシを見送り、待っていることしか出来ないのだが。
「…はぁ」
溜め息を吐いて、ナナは額に滲む汗を拭った。
嫌な汗だ。その原因は、さっき尋問班に香燐を引き渡す前に告げられた言葉にある。
『ナナ、お前のチャクラなんか妙だぞ。五色じゃないチャクラが胸んとこにくっ付いてる』
それによって、すっかり忘れていた事実を思い出してしまった。
無くなったワケではない宿されたチャクラ。
思い出したせいで疼いているのか、それとも奴が動き始めているのか。
「薬師カブト…っ」
今、大蛇丸として存在しているのは、カブトの方だ。
目を付けられたのが運の尽き。いつまでもナナの中に入り込もうとしてくる。
それでも、今与えられる刺激が弱いのは、カブトが近くにいないからだろう。しかし、一度思い出してしまうとなかなか脳裏から離れていかない。
「くそ、こんなもの…っ」
そこの壁をガツンと殴って、その痛みで紛らわせる。
今大事なのはカカシのことなのだ。他のことを考えてなんかいたくない。
歯を食いしばって呼吸を荒々しく繰り返す。
その横を、一人の忍が慌ただしく入って行った。
「…なんだ?」
今この建物の中では、木ノ葉のお偉いさん方が集まって大事な会議を行っているというのに。
そんなに慌てて乗り込む程に大事なことがあるのか。
「どうかしたんですか?」
ナナは後ろに控えていたもう一人の男に顔を向けた。その男もずっと落ち着かない様子でそわそわとしている。
しかしその男はどういうわけか、ナナの質問に笑って返した。
「綱手様が目を覚ましたんです!」
「五代目火影が…?」
「はい!」
それは、ナナにとっても相当喜ばしいことであった。
ということは、カカシが火影になるという話も無くなるはずだ。
ほっとしたナナの膝はがくりと折れていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…気にしないで下さい」
冷めない顔の熱を隠しながら、ナナは曖昧に笑う。
その忍は大してナナを気にすること無く、中に入って行ってくれた。
「はぁっ…」
とにかく今は一人になれる空間に行きたい。
ナナはゆっくり壁を使って立ち上がると、辺りを見渡した。
考えるまでもなく、今の木ノ葉にナナとカカシの家など残っていない。
「…や、ば」
壁に寄りかかって、ナナは股間に手を置いた。
こんな場所でこの状態はまずい。明らかにただの変態だ。
ナナはせめてこの場から離れようと一歩踏み出した。
「ナナ、待たせたね」
「っ、」
真っ赤な顔が、さっと青ざめていくような感覚。
タイミング悪く、カカシが戻ってきてしまった。
「綱手様の意識が戻ったらしい。いやぁ、危うく本当に火影になるところだったよ」
「そ…それは、良かった」
「ナナ?」
顔をカカシから逸らして、ぐっと息を呑む。
なんてことをしたところで、カカシがナナの様子の変化に気付かないはずがなかった。
じゃりっという足音が近付く。
「オレは綱手様に会いに行くけど…ナナは」
「いい、俺は…その」
「…ナナ、もしかして」
「俺は、便所!行ってくるから…!」
ぱっと顔を上げてカカシを避けようとした。のが間違いだったのか。
カカシの顔を見た途端、じわじわと湧き上がる熱。
ナナの体がかくんと落ちた。
「ナナ…!」
「触んなっ…ぁあっ!」
抱きかかえるように支えられ、ナナは逃げることが出来なかった。
触られたせいで、もっと欲しくなってしまう。もっと、触って、いかせて欲しい。
そんな淫らなことを考える自分に、ナナの顔が更に赤くなる。それを、カカシが見逃さなかった。
「ナナ…歩けるか?」
「あ…るける、けど」
「オレも便所に行きたくなった」
「っ…」
急かされるように、ナナはカカシの腕に引かれて行った。
カカシはその言葉の通りに、近くに建てられている仮設の便所に向かっている。
「カカシ…」
「大丈夫だから、何も考えるな」
「…ん」
腕を掴むカカシの大きな手を見つめて、ただただその後をついていく。
その便所が視界に入った時には、ナナの我慢はもはや限界となっていた。
建てられたばかりのその場所は、まだあまり使われていないらしい。ほとんど綺麗なままだ。
カカシと共に同じ個室に入ると、そのまま静かにドアを閉めた。かちゃんと鍵のかかる音が耳を掠める。
その直後、二人の体は密着していた
「ん…」
軽く口付け、そのまま深く舌を絡め合う。
カカシの手はすぐにナナの下半身へと伸ばされた。
「ぁっ、あ…ッ」
「なるべく、声抑えてな」
「ん…分かってる…」
さすがに公共の場。誰が来るとも知れない場所で堂々とは出来ない。
ナナは壁に体を預け、両手で口を覆った。
カカシの手が、ナナの感じる場所をしつこく攻める。それでなくとも敏感になっている体は、がくがくと震えた。
「んっ…!」
「ナナ…いれても、いいか?」
「ん、早く…」
ナナはカカシの言葉に首を何度も縦に振った。もう待てなかった。久しぶりの行為に互いを求めて、止まらない。
今にも崩れ落ちそうなナナの腰を掴むと、カカシはそのまま引き寄せ便器に座った。
「っア…!」
中を貫く感覚に、ナナの声が高くなった。
背中にぶつかる体温と、駆け抜ける快感。おかしくなってしまいそうな程に全身が痺れている。
「か、カカシ…っ」
「ん?」
「反対、がいい…っこれじゃ、あんたが見えない、から…」
「…そう、だったね」
初めての時にもそんなことを言われた気がする。
カカシはナナの体を一度放すと、ナナが体を反転させるのを待った。
大きく息を吐き出しながら、ナナはカカシの方を向いてその首に手を回す。
そのまま、自ら上に乗って腰を下ろした。
「―っん、ぁ…!」
「もっと、オレにしがみ付いて。揺らすよ」
「あぁ、っ!く…ッ」
ぎゅっと首に回した腕に力を込める。
カカシの体温が心地よくて、ナナはすっかり大蛇丸のことなど考えなくなっていた。
・・・
暗い、怪しげな通路を進む木ノ葉の忍達。
そこには鋭い噛み跡を付けた忍が命を失い倒れている。
「カブトの奴…どんどん大蛇丸に近付いてるな」
わざわざ目立つように殺すのは、あえて気付かせようとしている為としか思えない。
大蛇丸の意志を継いでいるのだとしたら、カブトの狙いは暁か木ノ葉か。
木ノ葉の特別上忍であるみたらしアンコは静かに立ち上がった。
白眼を持つ者がその力を使って見たのは、謎の洞窟に入っていくカブトと暁の装束に身に纏った男。
「二人は手を組んだのか!?だとしたら何故」
「わざわざここへ導いたのか…?暁のアジトを知らせる為に…」
予想外の事態に焦った様子を見せる者達の中で、唯一アンコだけが冷静でいた。
大蛇丸の教え子だったアンコ。彼女の後悔は、常に大蛇丸を仕留め損ねたことにある。
「とにかく、すぐにこの事を里に知らせる」
カブトの狙いは、まだ誰にも知られていない。
ただ彼等に分かるのは、戦争の開始が目前に迫っているということだけだった。