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カカシ夢(2011.04~2016.09)
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「ナナさん…?」
がら、と転がる小石の音と共に、女の声。
しかしそれさえもナナの耳には入っていなかった。
続く沈黙に、じゃりっと再び音が近付いた。
「ナナさん、戻って来ていたんですね…?」
「…」
「ナナさん?」
とん、と肩に手がのる。大げさだと思われる程に体をびくりと震わせたナナは、ようやく顔を動かした。
歪む視界には桃色の髪の毛。
「さく、ら…」
「っ!」
くしゃくしゃになったナナの顔を見て、サクラは一瞬息を呑んだ。
男性がこんなに理性を失って涙する姿など、過去に一度も見たことがない。
それが見知った人間だから尚更、驚きと困惑が大きい。
しかし、サクラはすぐに真剣な顔に戻って後ろに目を向けた。
「シカマル、チョウジ…あと、お願いしていい?」
「あぁ。お前は治療の方に専念してくれ」
「…ありがと」
サクラの目も、少し赤くなっている。チョウジもそうだった。
今の木ノ葉の状態を見て、冷静でいられる者などいるはずもない。冷静を装って、なんとか自分の出来ることをしているに過ぎなかった。
サクラと入れ違いでやって来たシカマルは、チッと小さく舌打ちをしてナナを見た。
目の前にいるナナは、シカマルの記憶にいる彼とは全く別人だった。
クールで、しかし根は穏やかなお兄さん気質。シカマルが抱いていた印象が見られないどころか、今は泣きじゃくる幼子のようだ。
シカマルはそんなナナを見下ろして、その目を細めた。
「おい、カカシ先生をそこから出すから、手を貸してくれ」
「…」
「手貸す気がねーなら、そこ退いてくれ…」
既にチョウジがカカシの周りの瓦礫を手で退かしにかかっている。
それをぼんやりと見ていたナナの目から、再び涙が流れ落ちた。
「…気持ちはわかるが、泣いてる場合じゃねーぞ」
「…」
「あんた、状況もわかってないんだろ。説明すっから…」
シカマルの言う通りだった。ナナは何もわかっていない。
というより、何もわかってしまいたくなかった。
ナナの首が小さく左右に振られる。それを見たシカマルが細い目を少し開いて、ナナの胸倉を掴み上げた。
「あんたは…!木ノ葉の忍だろ…!!」
「し、シカマル!そこまでしなくてもっ」
「チョウジがカカシ先生の最期を見てる。それも聞かなくていいのか、あんたは!」
シカマルの声に被って、再び衝撃音と共に砂煙が舞う。
「…カカシの、サイゴ…?」
「そうだよ」
「そ、んなの…聞いたら、」
「認めたくない、なんて言うなよ…オレ達は認めてその意志を継がなきゃいけないんだ」
「…」
シカマルは師であるアスマの死を経験している。だからこそ、今のナナの態度が許せなかった。
「シカマル、カカシ先生を安全な場所に運ぶよ」
「あぁ」
チョウジがぐったりとしたまま動かないカカシを担ぐ。
そのまま進もうとしたチョウジの足を、ナナが掴んでいた。
「カカシを…連れて行かないで…」
「あんたもこっち来い!」
シカマルがナナの腕を引いて、無理矢理立ち上がらせた。
ふらっとしながらもナナはそれに従って立ち上がる。目線はずっとカカシに置かれたままだ。
「ねぇ、シカマル…彼に、ボク等と同じ考えを押し付けるのは、違うんじゃないかな…」
「あ?チョウジ、お前まだ自分を責めて…」
「ううん、そうじゃなくて…。ナナさんにとって、カカシ先生は…」
そこまで聞いて、シカマルははっとした。
シカマルにとってアスマは師だった。親しい大切な存在だったことは間違いない。
しかし、ナナにとってのカカシは、それとは違う。もっと、それ以上の存在。
「そっか…そうだったな…」
ちら、とナナの顔を見ればわかる。
このまま放っておいたら、カカシの後を追っていたかもしれない、そう思える程だ。
シカマルにもチョウジにも愛する人がいないから、ナナの今の心境を理解出来るはずもなかった。
・・・
木ノ葉の里は、暁の一人、ペインと呼ばれる男に襲撃されていた。一人と言っても一人ではない。ペインという男は六人だった。
目的は、尾獣である九尾を体に宿したナルト。
しかし、ナルトは修業に出ていた為に、ついの今まで木ノ葉にいなかった。今になってようやく、ナルトは木ノ葉に帰ってきてペインと対面している。
ナルトの不在の中、木ノ葉の忍達は全力で迎え撃った。しかし、その結果が今の、木ノ葉の崩壊となっている。
カカシも全力で闘った。そして、一人のペインを倒すに至ったが、同時にチャクラを使い果たして力尽きてしまった。
それを見届けたものはいない。
一人、写輪眼でチョウジの背中を守り息絶えた。
目を覚まさないカカシを、ナナはずっと見つめていた。
もう涙も枯れてしまった。ただただじっと、カカシの手を握り締めて、その姿を見つめ続ける。
ペインとナルトの闘いは終わっていない。木ノ葉の皆がナルトに託して、ナルトを信じて待っている。
それすら、今のナナにとっては気になりもしない、ちっぽけなことだった。
「…俺の体のことなんて、どうでも良かったのに」
悔やまれるのは、記憶を消した為にカカシを愛しいと思う心まで手放していたことだ。
「あんたさえ居たら…俺はそれで良かった」
体の熱なんて、どうしても耐えられないものではない。自慰だって出来るし、カカシなら手を貸してくれたろう。
そんなことから免れる為に記憶を封印するなんて、そんな思い切ったことをした。
その結果、カカシを失った。
「せめて、あんたの傍に…ずっと…」
闘えなくたって、傍にいることは出来た。
最後の思い出がカカシを信用出来ずに離れたこと、だなんて。
「…愛してる。あんたが俺の全てだ。信用してないなんて、嘘だ…!」
横たわったカカシは、本当にただ寝ているようにしか見えないのに、ぴくりとも動かなかった。
ぎゅっと握り締める手が、握り返してくれることもない。もう、二度と。
「…嫌だ、カカシ。嫌だ。嫌だ」
頬に手を添えて、顔を近づける。いつもなら鼻息が掠めてくすぐったいのに、それが無い。
ゆっくり唇を重ね合わせても、その口が開かれることは無い。
暫く、ナナはカカシと唇を合わせ続けた。周りの目なんて気にせず、ずっと。
・・・
「ナナさん…」
一通り怪我人を看終えたのか、サクラが汗を拭いながらナナに近付いた。
ナナの正面に座り、そっとカカシの胸に手を当てる。
「サクラ…もう、カカシは治らないのか…?」
「…」
顔を寄せて、心音を確認して。サクラの顔が悲しそうに歪んだ。
眉を下げて、きゅっと唇を噛んで、細切れに呼吸を繰り返し。
「カカシ先生って…いつも、自分の命は顧みない」
「サクラ」
「深い傷は見当たらない。きっと、写輪眼の使い過ぎ、ね…」
「なぁ」
サクラは医療忍術を使わなかった。それがどういうことか、ナナにもわかる。
医療忍者はチャクラを激しく消耗する。それでも皆を救う為にもチャクラを使い続けなければならない。
無駄だと分かれば、わざわざ使う必要は無い。
「俺の命を使ってもいい、カカシを…!」
「ナナさん…」
「カカシがいなきゃ、俺は…!生きてる意味なんてない…お願いだ…」
ナナの声が掠れる。
痛々しくて、辛くて、サクラの目からも涙が零れ落ちた。
忍の世界は、いつでも死と隣り合わせだ。何度も死を見てきたし、近い人間の死だって確かにあったのに。
「カカシ先生…なんで、ナナさん残して…!馬鹿ッ」
「サクラ…」
「他の誰も、その場所には行けないのにっ」
「…っ」
サクラの拳が、地面を叩いた。何度も、何度も。
落ちた涙で色が変えられていく。
「ナルトだって!カカシ先生までいなくなったら…っ」
「あ…」
ナナは目を見開いて、サクラを見つめた。
カカシを愛しているのは自分だけじゃない。サクラも、ナルトも。悲しいのは皆一緒だ。
「サクラ…っ!」
ナナは地を殴っていたサクラの手を掴んだ。驚いてナナに向いた顔を引き寄せて、自分の肩に押し付ける。
そして、嗚咽で揺れているサクラの背中を優しく擦った。
「っ、ナナさん…?」
流し切ったと思ったのに、また涙が溢れて止まらなくなった。
サクラをきつく抱き締めて、抱き締め合って涙を流す。
胸が痛いのは、涙が流れるのは、カカシ班で過ごした日々を思い出したからだ。
サクラやナルトの悲しみも考えたから。
「俺だけ、じゃねーよな…」
「ナナさんも…命を使ってでも、なんて言わないで…。ナナさんだって、大事な仲間なんだから…!」
「悪かった…」
互いの肩に、じわっと涙が吸い込まれた。
抑えきれない感情があふれ出す。こんなに辛くて悲しくて苦しいのは初めてだった。
過去のどんなことよりも、ナナの心は酷くきしんでいた。
暫く抱き合っていた二人は、サクラの少し押し返す腕の力をきっかけに離れた。
聞こえるのは強い風の音と、二人の鼻をすする音だけ。
「ナナさん…カカシ先生、お願いしますね」
「あぁ。サクラ、無理するなよ」
「…ナナさんも」
サクラのおかげでナナは何とか正気を取り戻した。
小さなサクラの背中を押して、カカシの傍に寄り添う。それでも、ナナはカカシの顔から視線を逸らして、ずっと遠くを見ていた。
どこかで闘っているナルトを思うのと同時に、これから先のことをぼんやりと思う。
この闘いが終わったら、五色に帰ってしまおうか。カカシのいない木ノ葉になんて、自分は居続けられるのだろうか。
「…ナナさん」
ナナを呼んだのは、カカシの体に少し重なっている大きなナメクジだ。
さっきは驚いて投げ飛ばしてしまったが、このナメクジは火影である綱手の口寄せしたものらしい。名前はカツユというらしい。
カツユは強い治癒能力や防御壁のような役目を果たすことが出来るようで、傷を負った者一人一人にくっ付いている。
「今、ナルト君は仙術を身につけて一人でペインと戦っています…」
「ペイン…?」
「暁の一人です。木ノ葉をここまでしたのは、全てペインの仕業…」
ぼんやりと、カカシの傍で息絶えていた一人の忍を思い出す。
カカシが相打ちになるような相手を、ナルトが。
「…ナルトは、大丈夫なのか?」
「ハイ」
「そうか…」
仙術というものをナナはよく知らない。しかし、もはやナルトが普通の忍のレベルを遙かに超えた存在だということは確かで。
今、この里でペインを倒せるのはナルトしかいない、ということだった。
頭が冴えて、ようやく今の状況を受け入れ始める。
理解した上で、ナナは自分には何も出来ないことを悟った。カカシがもういないことも理解している。
実感の無い恐怖。この闘いが終わったところで、ナナにもう平穏は戻らない。
「っ…」
「ナナさん…」
「あんたにも…カカシは治せないんだろ…」
「…ハイ」
躊躇ったように間があって、高めの透き通るような声は正直に頷いた。
「カカシさんは、あなたのことをずっと思っていました」
「…」
「どうか、あなたはカカシさんの分まで」
「やめろ。俺には、無理だ」
カカシはナナを思っていたとして、それは逆にナナにとっては苦痛でしかない。
その間、ナナはカカシのことを全く思っていなかったのだから。
「…綱手様も、愛する人を失ったことがあります。その時は、綱手様も全てを投げ捨て木ノ葉から姿を消しました」
「…」
「それでも今は…火影を目指していた彼の代わりに火影になりました。未来は、わかりませんよ」
思わず、言葉を真剣に聞いてしまった。
カツユの声は、何故か聞き心地が良くて。すんなりと耳の奥まで入り込んでくる。
「…なんて、今言っても仕方がないことですね」
「いや…」
言われていることがわからない子供ではない。
むしろ、ナナは幼い頃からずっと親という存在無くして生きてきた。子供であったことなど、本当はなかったのかもしれない。
ずっと、心の奥底では一人だった。一人であった頃の自分を捨てきれずにいた。
「そう…だな…昔に戻るだけだ」
どうでも良かった世界に光を与えてくれた人。
世界が少し良い場所だと思えるようにさせてくれた人。
「……さよなら」
声が震えていた。
それでもナナはカカシに最後の別れを告げた。カカシ無しで生きていく覚悟を決めた。全てを受け入れた。
目を閉じて、戻った記憶をさかのぼる。出会ってからいろいろあった。
最初はうざい奴だと思っていたっけ。世話焼きで、しつこくて、でもそれが嬉しかった。
いつしかカカシへの思いが恋情だと気付いて、カカシの気持ちに応えた。触れるカカシの手と重なる体温に安心した。大好きだった。
あまりに大きくなりすぎた存在。
「愛してたよ」
上を向いて、白い空を見つめた。
下を見る事が出来なかっただけだ。溢れそうな思いを抑える為に、ナナは上を向いて唇を強く噛んでいた。
ぱっと、辺りが明るくなったのはその直後だった。
ある一点から光の線が放たれて八方へと散らばって行く。
その光景に誰もが驚き目を見開いた。
「…何だ?」
ナナもその線を目で追って、その一つがこちらに向かって来ていることにもすぐに気付いた。
しかし、避けるだの防ぐだの考える暇など無く。それはものすごい勢いで突っ込んできた。
「…っ!!」
ナナは思わず目を閉じて、手を体の前にやった。
衝撃は無い。というよりぶつかった感触は何もなかった。
ゆっくりと目を開いて何だったのだろうかと瞬きを繰り返す。
「カカシは!?」
まさかカカシに当たってしまったのでは。
ナナは素早く振り返って、そこに寝ているであろう人の姿を目に映した。
「え…?」
ナナはそこで言葉を失った。
先ほどまで息絶えて、ずっと動かずに寝たままでいたカカシは。
「…これは…。あれ、ナナ…?」
きょとんと目を開いて情けなく眉を下げているその人は。
不思議そうにナナを呼んだその人は。
「か、カカシ…?」
「ん?」
「ッ!!」
「え、ちょ、ちょっとナナ?」
体を腰から起き上らせていたカカシの体に、ナナは強く抱きついていた。
何が起こったのか、どうして死んだはずのカカシが。そんな、当たり前のように考えるべきことは、今のナナの頭には一ミリも無かった。
押し付けた胸から聞こえる鼓動の音。頭の上から聞こえる息遣い。
全て、間違いなくカカシのもの。忘れるはずがない、カカシの温もりだ。
「カカシ…カカシ…っう、うぁああッ」
子供のように泣き喚くナナの背中を撫でながら、カカシは未だ自分に起こったことがわからず視線を泳がせていた。
自分が死んだという認識は確かにしていたのだ。死んだはずだった。
「これは一体…?」
不思議な感覚だった。死後の世界を見てきたような、生き返ったような。
しかし、抱いているナナの暖かさは今生きていることを示している。
「…ナナ、顔を見せて」
「っ、ふ…ぅ、カカシ…」
「そうか、オレは帰って来れたんだな…」
ナナの目から流れて止まらない滴を指ですくって、そのまま頬に手を這わす。
真っ赤になった目元は、ナナがどれだけ悲しんだかをカカシに痛感させていた。
「カカシ…俺…もう、絶対に離れない…っ」
「ナナ?」
「あんたを失うこと程辛いことなんて無い…!」
同じようにナナの手もカカシの顔を包んで、ようやくナナの顔に笑みが零れた。
「生きてる…カカシ、生きてるんだよな…?」
「あぁ、生きてるらしい」
「…っ、馬鹿やろ…地獄までぶっ殺しに行く、とこだった…」
「オレの行先は地獄か」
引き寄せて、確かに動く唇を重ね合わせる。
かさついているが、暖かい。求めていた感触だった。
カカシだけでなく、この闘いで死んだ人間は次々と生き返った。
そんな奇跡のような出来事。それは、ナルトに倒され、そしてナルトを認めたペインによる最期の罪滅ぼしだった。
自来也の弟子であったペイン。彼は仲間を忍に殺され、人も世界の平和も何もかも信じられなくなったというだけの、長門という名の人間だったのだ。
その長門の思いを、ナルトの信じる心が上回った。
木ノ葉を崩壊させた闘いは終わる。
そしてその日、ナルトは木ノ葉の英雄になった。
英雄が生まれた木ノ葉は、もはや原型を留めていなかった。
建物のほとんどが崩れて消え去り、少し足元を見てあるけばどこを歩いているのかわからなくなる程景色が変わってしまった。
意識を取り戻すどころか怪我の一つもない状態に戻ったカカシは、英雄となった教え子ナルトを祝福しに行った。
体の方が本当に大丈夫なのか心配だったが、それもいらぬ世話だったようだ。
ナナはというと、そこには行かず、一人で辺りをうろついていた。
どうしても行きたい場所があったのだ。
「…ここが、俺達の家」
目の前には瓦礫の山が広がっている。そこはカカシとナナの過ごした二人の家だった。
思わず切ない気持ちになってしまう。それを堪えながら、ナナは家であった木材に触れた。
今自分に出来ることは何か。
それを考えた結果行き着いた答えは一つ。木ノ葉の復興。
遠くで聞こえるにぎやかな声。ナナはそれを気にせずに、じっと自分の手を見つめた。
出来るかわからない。
違う。出来なければならない。
「頼む、俺なら出来る…出来るはずだ…」
目の前で何度も見た術。チャクラの流し方はなんとなくわかる。後は慣れとかそういうものだけだ。
ナナは自分の力を信じて、その手を地面に押し当てた。
・・・
翌日から、人々はすぐに木ノ葉を元の姿に戻す為に動き始めた。
どんなに木ノ葉が壊されてしまったとしても、彼らには暁の襲撃に勝利したという心の支えがある。
ナルトがいたから、皆強い心を持ち続けていられた。
その中で一際目立った活躍をしているのが、木遁使いのヤマトだった。
「おぉ!これならあっという間に木ノ葉も復活だ!」
歓声の上がる中心にいるヤマトは息を荒くしてそこに手を付いている。
ヤマトの術があれば、建物なんかは一瞬で新しく建て直すことが出来た。それ故の信頼。
だがしかし、いくらなんでも消費するチャクラの量が大きすぎる。
「ハァ…簡単に言ってくれますね…」
少し休憩させてくれ、と思うが、周りの連中が期待の目を向けるせいで気持ちが休まらない。
とはいえこのまま術を使いすぎたら倒れてしまう。
ヤマトは地面に手を付いたまま、暫く息を整えようと目を閉じた。
「…ヤマト隊長」
ぽつりと上から落とされた声。周りの騒がしかった連中も静かになり、ヤマトは驚いて顔を上げた。
「ナナ…!?どうしたんだい、こんなとこで…」
「俺も、手伝います」
「え…?」
ヤマトを見下ろすように立っていたナナがまだ殺風景のままの場所まで進んで行く。
ヤマトもまだ疲労のたまった体をなんとか立たせてナナに続いた。
「…まだ、ヤマト隊長程ではないのですが。少しなら」
「まさか、ナナ」
「あまり期待しないで見ていて下さい」
周りにいた人間に少し退いていてくれと頼み、ナナはその場にしゃがんだ。
そのナナの真剣な雰囲気に、皆がしんとなって見つめる。ヤマトに向けられていた期待の目とは違う、不審を訴えるような視線。
「…っ、ふ…!」
ナナは息を吸って、そこに手を置いた。
途端に地面を割ってたくさんの木が現れる。
それは少しずつとはいえしっかりと形を成していった。
思わず皆が言葉を失う。
ヤマトだけが、静かに口を開いた。
「ナナ、いつの間に…」
「隊長のことを思い出しながら、結構頑張って練習したんですよ」
「っ、いやこれは…すごいよナナ」
一気にいくつもの建物を完成させるヤマトには敵わない、とはいえ。
そこにはしっかり一つの建物が出来上がっていた。
「俺に出来ることなんて…これしかないから」
自虐するように呟かれたナナの言葉。それは巻き起こった歓声にかき消された。
「あんた五色の…!」
「木遁も使えちまうのか!」
「すげぇ…!」
口ぐちにナナを讃える声が飛び交う。
しかし、それには全く反応を見せずに、ナナはヤマトの肩に手を回した。
「大丈夫ですか」
「あ…はは、面目ない」
「いえ、一人でお疲れ様でした」
にこ、と至近距離でナナが微笑むから、ヤマトの顔はぼうっと赤く染まった。
なんだか、今のナナは今までと全然違う。人間らしいというか、単純に可愛い。
「なんか、どうかした?」
「は?」
「いや、なんでもない…」
一緒に足を進めるナナの顔を横目で確認する。
ずいぶん大蛇丸に苦しめられたナナの体を、ヤマトは未だに心配していた。今はその症状が見られない。
「ナナ…本当に、木ノ葉のことだけを考えてくれてるのか…」
「はぁ…まぁ。木ノ葉の忍ですから」
「そうだよね」
今のように、ナナには忙しすぎるくらいやる事で溢れているくらいの方がいいのかもしれない。
せっかくだから自分が回復するまではナナにお願いしようか。
そう思うと、ようやくヤマトの精神状態も落ち着いて来て、ナナにかかっていた体重を少し緩めた。
「こんな所をカカシさんに見られたら大変だ」
「はぁ」
呆れたようなため息を吐いて、ナナはヤマトをそこにあったベンチに座らせた。
ナナは振り返らずに次の場所へと移動していく。
五色は元々戦闘用の術は得なかった。これこそが五色の本来の役目。
「…ナナ、君はすごいよ」
ヤマトはもう聞こえないだろう背中に向けて言った。
そのチャクラに愛された体と、辛い経験を乗り越えてここに立つ凛とした姿に。
そして、そんなナナに愛されるカカシに少し嫉妬するのだった。
・・・
「はぁ…っ」
何軒建てられただろうか、数えてなければ忘れる程度には出来たことは確か。
ナナはチャクラが足りないことに気付き、続けていた作業を止めて休んでいた。
一日修業しただけで習得出来るとはさすがに思っていなかった。
やはりチャクラの扱いにも慣れてきていたということか。
座った横に長いベンチに体を寝かせる。急に押し寄せて来た疲れに、ナナの瞼は重たくなっていた。
一度押し寄せた睡魔を押し返す力など残っていない。
「…ん」
潔く寝てしまおうかと完全に目を閉じて。
それからすぐに目を開いた。
「おっと、動くなよ」
「ッ、」
首元にクナイを突きつけられている。
ナナは横になった状態のまま、クナイの持ち主を確認するために視線を上に持っていった。
「お前、うちはサスケの仲間だろ」
「…あ?」
逆光で顔がよく見えない。
ナナは目を細めて、なんとか相手の特徴を探ろうとした。
そしてようやく見えた額に当てられたもの。
それは、この男が雲隠れの忍であることを表していた。