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カカシ夢(2011.04~2016.09)
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八尾のことが終わって落ち着いてきた頃。
体を原型に戻す為、大きな水槽に入れられた水月と、それを念の為に見守る香燐。重吾も体の大きさは戻っていない。
そんな状況の中、ナナは居辛さを感じ始めていた。
そんなことを皆は気にしていないのかもしれない。しかし、自分だけ無傷で堂々といられる程、ナナは心は軽くなかった。
「なんでボクの首切り包丁を置いて来たんだよ!」
「うるせーぞ水月!てめェを連れ帰っただけでも有難いと思え!」
いつも通り言い合う水月と香燐を眺めていたナナは、さりげなく重吾の隣に座った。
小さな重吾が少しだけ顔を上げる。
「どうかしたのか?」
「いや…」
「迷っているのか。オレのせいで」
「違う。最初から分かってたことだ、重吾のせいってんじゃない」
はっきりさせた方がいい。そう言った重吾だが、それ以来は全く言ってこない。
ここにいろ、もしくは帰れ。どちらかを言ってくれたならナナにとっては行動しやすかったのに。
「俺、刀置いてきたんだ」
「…?」
「保険のつもりで。でも持ってくれば良かったって少し後悔してる」
五色の刀のことを良く知らない重吾は、意味がわからないといった様子で首を傾げた。
実際のところ、木ノ葉に帰りたいと思うことは一度もなかったのだ。まして、ナナの中には晴れぬ疑いがいくつかあるわけで。
「どうしたもんかな…」
一人呟いて、背中を壁に預けた。
目を閉じても見える光景に良いものは見当たらない。
木ノ葉が悪で、それを捨てたサスケが正しいのか。それとも暁という組織が裏を持っているのか。
「…はぁ」
ナナは不毛な思考回路を閉ざしてため息を吐き出した。
その時。カシャン、とグラスの倒れる音がして皆の視線が一か所に集まった。
サスケが手に取ろうとしたグラスを倒したのだ。
「どうしたサスケ?」
香燐が真っ先に声をかける。
返答はない。しかしサスケの小刻みに震える手は普通ではなかった。
「おい、サスケ?」
ナナはぱっと立ち上がってサスケに近付いた。頭痛があるのかサスケは頭を抑えて目を細めている。
いや、頭ではない。目だ。サスケは目を抑えていた。
「写輪眼のせいか?」
「…なんでもない」
「なんでもないことないだろ。その写輪眼、リスクあるんじゃ…」
サスケの目を抑えている手に、重ねるように手を伸ばす。
しかし、その手はサスケのもう片方の手に掴まれていた。
「サスケ?」
「…こっちに来い」
「は?あ、おい…!?」
力強く掴まれた腕が引っ張られる。
水月も香燐も重吾も、誰も何も言わずにその様子を見ていた。
サスケは振り返らずにナナの手を引いて行く。ナナも訳が分からずに抵抗しようとはしなかった。
・・・
ばたん、とやけに煩く扉の音が響いた。
誰もいない、薄暗い部屋に押し込まれたナナは茫然とサスケを見ている。
「急に、なんだよ」
突然のサスケの行動に、ナナは立ち尽くすばかりだ。
辺りを見渡せば、そこは一つの部屋のようだが何も見当たらない。特別何かに利用している場所ではないらしい。
「サスケ、目は…」
「オレは大蛇丸を倒した」
「あ?」
無言だったサスケがぽつりと呟いた内容は、ナナには理解出来なかった。
「アンタを支配していた大蛇丸はオレが殺した。オレが取り込んだ」
「何を言ってるんだ…?」
「オレがアンタを支配出来ると思っていたのに…イタチによって除かれちまった」
「…」
何も言えなかった。
サスケの様子が少しおかしい。しかし、話の内容がわからない為にナナはどうしたら良いのかわからなかった。
「だが…アンタはここにいる」
「おいサスケ。何を言ってんだ」
「オレのものだ」
今度は向かい合ったまま腕を引かれていた。
「ん…っ!?」
目の前に広がるのはサスケの顔。がちっと歯がぶつかって、唇から血が流れた。
「何、して…っん、ぅ…」
どこでスイッチが入ったのか、サスケはナナの唇を貪った。
呼吸が奪われる。ナナは空気を求めてサスケを押し返したが、それよりもサスケの力の方が勝っていた。
押し切れない。隙間が塞がれて、開かれた口からはだらしなく唾液が零れた。
「はァ…っあ、サスケ…!?」
「カカシなんかには、渡さない。木ノ葉にアンタは不釣り合いだ」
「何言ってんだよっ!」
サスケ目掛けて打った拳はひらりと交わされて、その腕ごと押し倒された。
がつんと固い床に頭が打ちつけられて、一瞬意識が飛びかける。
「ナナ、オレは木ノ葉を潰す。その力を手に入れた」
「…っは」
「だが、オレだけではない。他の暁の奴が、今ナルトを捕獲しに行っている」
サスケの手は、ナナの頬を撫で、そのまま下にさがってくる。
頭がぼーっとして、サスケの言葉が耳を通り抜けた。
大蛇丸、支配、カカシ、暁。
単語だけを並べて、その意味を見出そうとする。ナナに聞き覚えのないものは、一つ。
「…ア、ぁっ」
自分のものとは思えない程、甘い吐息が漏れていた。
その声にサスケの喉が上下に揺れる。
「ナナ…」
「さす、け…俺は…俺…ッ」
ナナは目をきつく閉じて、肌に食い込む程に拳を握り締めた。
頭が酷く痛むのは、ぶつけたからではない。もっと奥の方から叩きつけられるような痛みが続いている。
大蛇丸。その単語が、その名前が、何かを刺激して、痺れと痛みが終わらない。
「どうせ木ノ葉は終わりだ。ナナ、オレを選べ」
「う、ぁ…ッ」
「カカシなんて忘れろ」
「あ…!」
びくんとナナの体が跳ねた。
サスケの手による刺激ではない。もっと深いトコロが疼いて、ぼんやりとしていた頭が開き始めていた。
目から一筋、こぼれた涙が頬をつたった。
一気に頭を駆け巡る光景に、いろんな思いが交差する。そんな、今にもおかしくなりそうな状況の中、ナナは小さく声を発した。
「…駄目、だ」
言葉と同時にどくんと体が鳴って、ナナの視界が開けた。
視線を少し下げると、サスケがナナの体に跨ってナナの服を捲っている。
鎖骨辺りを噛まれ、胸や腰を撫で回す。自然と甘い声が漏れそうになって、ナナは唇を強く噛んだ。
「っ…、サスケ、止めろ」
「感じてるんだろ」
「おい、サスケ…」
片手でがっちりと両手を抑えつけられる。頭の上に持って行かれた手には、どうしても力が入らなかった。
サスケの力が強いのはわかっている。しかし、それ以上におかしいのはナナの方だ。
媚薬でも飲まされたかのように、敏感になった体。
「全部、思い出した…」
「何?」
「サスケ、お前…いつから俺のこと、こんな風にしたいと思ってた…?」
「そんなの、聞かなくてもわかってんだろ」
「あ、っァ…待てって!そう、焦んな…」
サスケの足が、ナナの股間を擦る。それをなんとか制止して、ナナはサスケをきっと睨み付けた。
赤くなった頬のせいでその威力は全くといって良い程無かったが。
「わかってる…俺のせいで、踏み外させた…っん、だから、いいよ」
「あ?」
「いいよ、俺を好きにして。満足するまで、好きにしたらいい。でも、それだけ、一度だけだ」
こんなことをしたら、余計にサスケを誤った道に引き込むことになるかもしれない。
それでも、今のナナに出来ることは他になかった。
「どうして、そんなことを言う…?」
「どうして…?サスケは俺を、そうしたいんだろ?」
「オレのものになるつもりはないってことか」
「当たり前だろ」
不服そうにしながらも、サスケはナナの足を持ち上げた。それだけで、ナナは小さく喘ぐ。
その間に体を割り込ませて、ナナは完全にサスケの前で足を開く形となった。
「渡したくない、誰にも」
「ッ、ん!」
もう抵抗する気は無いというのに、サスケは荒々しくナナの着物を剥いだ。ぶるっと全身に鳥肌が立つ。
「どうして、そんなにアイツがいいんだ…!」
「っ!あ、っは…ッ」
「ようやく、オレの元に来たと思ったのに…っ」
「サスケ、や…待っ、」
無理矢理熱が捻じ込まれ、思わず息が止まった。外側から裂かれる感覚。
先ほどとは違う、痛みによる涙が流れて、ナナは酷く後悔した。どこから後悔したら良いのかわからないくらい、後悔しかない。
「さ、す…っぐ、ぅあ…」
「ナナ…」
サスケの爪が肌に食い込む。サスケはナナの体に傷を付け続けた。
爪で引っ掻いて、首に、腕に、足に強く噛み付いて、流れる血を舐め上げる。
サスケを狂わせてしまった。自分が、大蛇丸なんかに囚われたせいで。
「悪かった、サスケ…」
「そんな言葉、聞きたくない」
「あ!ぁ、んっ…ごめ、ん、」
「謝るくらいなら、ここに居ろ、ずっと、ここに」
それは無理だ、と心の中で呟いた。
こんな風に求められることが、こんなに辛いなんて知らなかった。
体を差し出すことなんて簡単だ。心が無くたって、抱き合うことは出来る。抱かれて、それで終わり。その人との関係なんてあってないようなもの。
「ナナ、アンタの顔が離れないんだ。この顔が…この体が…」
「ん、ん…ッ」
「アンタはオレを縛るのに、どうしてアンタは」
「ごめ…ッ、あ!ァ、っは」
しかし、サスケにはそう出来なかった。触れた体温を、その表情を植え付けてしまった。
ナナは自分の感覚がおかしかったことにようやく気付いて、また涙を落とした。
「っ…ナナ…、っく…」
「あ、あァ、ッん……!」
奥まで流し込まれた熱が、足の先から頭まで犯していく。
サスケの辛そうな顔が目に入って、ナナは目を逸らした。
情が移りそうになる。いや、もう移っていた。だから、こんなことを許してしまったのだろう。
記憶が戻った時以上に、頭がぼーっとしていた。
何も、考えたくない。何も、したくない。
このまま目を閉じて、全てのことから逃げ出したい気分だった。
「…サスケ」
「黙れ、もう…何も聞きたくない」
「…」
乱れた服を戻して、何もなかったかのようにサスケが立ち上がる。
射精後のだるさがあるのか、声に覇気は無い。
「ここから去るなら…アンタはもうオレの敵だ」
「…ん」
「後悔するぞ」
「…もう、してる」
木ノ葉が危険な目に合っているかもしれない。急いで木ノ葉に帰らなくちゃ。カカシの元に。
頭ではそう思っているのに、体が動かない。
「シャワーは…出て右だ」
「サスケ」
「鏡を見て、絶望しろ」
「…は、はは。そう、だな」
手首に残された傷。同じものが至る所にあるのだろう。
ズキズキと痛むそこはまだ血が滲んでいて、きっと染みるのだろうと思うと気だるさが増した。
散らばった服を手に取って、ゆっくりと立ち上がる。
「…痛い」
ナナがそう呟くと、サスケはふっと笑った。
サスケの思い通りだ。ナナはこの傷を見て、この痛みを感じる度にサスケを思い出す。
今は、その枷を甘んじて受け入れよう。
ナナは籠った部屋を抜けて、シャワーのある場所に移動した。
「はは…」
笑いが出る。自分の判断の甘さに、自分の愚かさに。
頭から水を被って、それで自分の汚れが全て落ちれば良いと思ったことは何度もある。
染み込んだ汚れは落ちない。落ちないどころか、どんどん浸食してきた。
「この体は…もう、汚れ過ぎた」
カカシの大事な教え子であるサスケを巻き込んで、ようやく思い知ることになるなんて。
「…カカシ」
排水溝に赤い水が流れて行く。
それでも、カカシに執着する。ナナにとって、カカシは最後の希望だった。
こんな体でも、カカシはまとめて愛してくれた。過去ごと全部受け入れてくれた。
「すぐ行く、から…」
どうか無事で。
心配かけないようにと、服を細く切って傷口を塞ぐ。それから素早く服に着替え、ナナは意識を集中させた。
刀とリンクする。
「…じゃあな」
ナナは、血の跡を残してそこから姿を消した。
髪がかき上げられる感覚があった。
風が吹いている。ということは外か。
ナナは空気の変化に一度体を震わせてから辺りを見渡した。
刀を置いていった場所とは違う。誰かが気付いて移動させてくれたということなのだろうが、木ノ葉にも、カカシの家にも見えなかった。
記憶を失って、木ノ葉への不信感が高まっていた中、よく刀を置いていくという判断が出来たものだ。
そこだけ、その時の自分をほめたいと思う。
「…っ」
ナナは思い出していた。全て、失った部分と失っている間のことも全て。
痛みの残る体を擦って、ナナは我慢できずにその場でうずくまった。
きっかけは、カブトと大蛇丸に掴まって体をこんな風にされたあの日。
あの日サスケと会わなければ、サスケの名前を呼ばなければ。
「は…っ」
ナナは熱い息を吐き出して、唇を強く噛んだ。
今は、そんなことを考えている場合じゃない。わかっている。
風が通り抜けていくのを感じながら、ナナは今のことに集中しようと顔を上げた。
自分がどれだけカカシにきつく当たったか、思い出すだけで胸が痛くなる。
全ては、ナナが自分の体の異変に耐えることが出来なかったから。
「くそ、本当…最低だ俺は…っ!」
思い出したせいで先ほどから体の熱は高まって仕方ないが、もはやそんなものどうでも良かった。
今は、カカシに会いたい、謝りたい、そればかりが募る。
「…ここはどこだ?」
改めて、ナナは自分の眼前に広がる景色に首を傾げた。
瓦礫の山は、そこが廃れた場所か、もしくは襲撃にあった場所のように思わせる。
ふと、視線を彷徨わせていたナナの視界に激しい砂煙が映った。
同時に響き渡った爆発音は、今まさに戦闘が行われていることを示していて。
「……!?」
瓦礫の中に“火”の字を確認したナナは息を止めていた。
「ッ!…まさか、そんな」
思わず立ち上がって、その足場の悪さに一歩後退する。
「冗談だろ、おい…こんなこと…」
ふと思い出されるのはサスケの言った言葉。
『オレは木ノ葉を潰す。その力を手に入れた。だが、オレだけではない。他の暁の奴が、今ナルトを捕獲しに行っている』
サスケの言うことから察するに、これはナルトを狙ってやって来た暁の仕業。
そうわかるのに、ナナは認めたくなかった。この、崩れ果てた荒地が、木ノ葉の里だということを。
「な、ナルトは…!?」
ナルトでなくてもいい、誰か知った顔を見つけて安心したい。
そう思って目を凝らしたナナは、見つけてしまった。
瓦礫に埋もれた人影。銀髪の一人の男。
「カカシ…?」
がくりと項垂れて、瓦礫の中に体のほとんどを埋めているその人。
ナナはゆっくりと足を進めた。一歩進む度にカラカラと崩れる足場に手を付きながら、カカシと思われる影に近付く。
「なぁ…カカシ…?」
辿り着いてその肩に手を置いた瞬間に、ナナは確信した。
「…うそ、だろ。なぁ…嘘、なんだろ…?」
膝から折れるようにナナはその場にしゃがみ込んだ。
恐る恐る覗き込めば、よく知った顔がそこにある。ぼろぼろで、傷だらけになって、目を開かない。
「ぁ…あ…、あ…」
ナナは手をカカシの頬に当てて、自分の胸に抱き込んだ。ずしりと重い頭が胸にのしかかる。
「ッ…!!」
自然にあふれ出る涙を制御することなど出来なかった。
起こってしまった最悪の現実に、そしてそんなことが起こっている間ここにいなかった自分に。
追い打ちをかけるように、再び爆音が地を揺らす。まだ闘いは終わっていないのだ。まだ、誰かが闘っている。
しかし、ナナは動くことが出来なかった。
「俺、は…なんてことを…」
綱手の言うことを受け入れなければ。カカシの傍を離れなければ。
何も躊躇することなく、木ノ葉に帰って来ていれば。
ナナが戻ってきた場所は、カカシのいる瓦礫の下。
カカシは刀を体に身に着けてくれていたのだろう。ずっと、傍にいてくれたのに。
「カカシ、俺…俺の名前、呼んでよ、なぁ…カカシ…」
カカシの息の音がない。心臓の音さえも聞こえない。
ナナの世界が暗くなる。
ずき、と痛む体が、ナナの罪悪感と絶望を誘う。底へと突き落としていく。
もう、何も無かった。
体を原型に戻す為、大きな水槽に入れられた水月と、それを念の為に見守る香燐。重吾も体の大きさは戻っていない。
そんな状況の中、ナナは居辛さを感じ始めていた。
そんなことを皆は気にしていないのかもしれない。しかし、自分だけ無傷で堂々といられる程、ナナは心は軽くなかった。
「なんでボクの首切り包丁を置いて来たんだよ!」
「うるせーぞ水月!てめェを連れ帰っただけでも有難いと思え!」
いつも通り言い合う水月と香燐を眺めていたナナは、さりげなく重吾の隣に座った。
小さな重吾が少しだけ顔を上げる。
「どうかしたのか?」
「いや…」
「迷っているのか。オレのせいで」
「違う。最初から分かってたことだ、重吾のせいってんじゃない」
はっきりさせた方がいい。そう言った重吾だが、それ以来は全く言ってこない。
ここにいろ、もしくは帰れ。どちらかを言ってくれたならナナにとっては行動しやすかったのに。
「俺、刀置いてきたんだ」
「…?」
「保険のつもりで。でも持ってくれば良かったって少し後悔してる」
五色の刀のことを良く知らない重吾は、意味がわからないといった様子で首を傾げた。
実際のところ、木ノ葉に帰りたいと思うことは一度もなかったのだ。まして、ナナの中には晴れぬ疑いがいくつかあるわけで。
「どうしたもんかな…」
一人呟いて、背中を壁に預けた。
目を閉じても見える光景に良いものは見当たらない。
木ノ葉が悪で、それを捨てたサスケが正しいのか。それとも暁という組織が裏を持っているのか。
「…はぁ」
ナナは不毛な思考回路を閉ざしてため息を吐き出した。
その時。カシャン、とグラスの倒れる音がして皆の視線が一か所に集まった。
サスケが手に取ろうとしたグラスを倒したのだ。
「どうしたサスケ?」
香燐が真っ先に声をかける。
返答はない。しかしサスケの小刻みに震える手は普通ではなかった。
「おい、サスケ?」
ナナはぱっと立ち上がってサスケに近付いた。頭痛があるのかサスケは頭を抑えて目を細めている。
いや、頭ではない。目だ。サスケは目を抑えていた。
「写輪眼のせいか?」
「…なんでもない」
「なんでもないことないだろ。その写輪眼、リスクあるんじゃ…」
サスケの目を抑えている手に、重ねるように手を伸ばす。
しかし、その手はサスケのもう片方の手に掴まれていた。
「サスケ?」
「…こっちに来い」
「は?あ、おい…!?」
力強く掴まれた腕が引っ張られる。
水月も香燐も重吾も、誰も何も言わずにその様子を見ていた。
サスケは振り返らずにナナの手を引いて行く。ナナも訳が分からずに抵抗しようとはしなかった。
・・・
ばたん、とやけに煩く扉の音が響いた。
誰もいない、薄暗い部屋に押し込まれたナナは茫然とサスケを見ている。
「急に、なんだよ」
突然のサスケの行動に、ナナは立ち尽くすばかりだ。
辺りを見渡せば、そこは一つの部屋のようだが何も見当たらない。特別何かに利用している場所ではないらしい。
「サスケ、目は…」
「オレは大蛇丸を倒した」
「あ?」
無言だったサスケがぽつりと呟いた内容は、ナナには理解出来なかった。
「アンタを支配していた大蛇丸はオレが殺した。オレが取り込んだ」
「何を言ってるんだ…?」
「オレがアンタを支配出来ると思っていたのに…イタチによって除かれちまった」
「…」
何も言えなかった。
サスケの様子が少しおかしい。しかし、話の内容がわからない為にナナはどうしたら良いのかわからなかった。
「だが…アンタはここにいる」
「おいサスケ。何を言ってんだ」
「オレのものだ」
今度は向かい合ったまま腕を引かれていた。
「ん…っ!?」
目の前に広がるのはサスケの顔。がちっと歯がぶつかって、唇から血が流れた。
「何、して…っん、ぅ…」
どこでスイッチが入ったのか、サスケはナナの唇を貪った。
呼吸が奪われる。ナナは空気を求めてサスケを押し返したが、それよりもサスケの力の方が勝っていた。
押し切れない。隙間が塞がれて、開かれた口からはだらしなく唾液が零れた。
「はァ…っあ、サスケ…!?」
「カカシなんかには、渡さない。木ノ葉にアンタは不釣り合いだ」
「何言ってんだよっ!」
サスケ目掛けて打った拳はひらりと交わされて、その腕ごと押し倒された。
がつんと固い床に頭が打ちつけられて、一瞬意識が飛びかける。
「ナナ、オレは木ノ葉を潰す。その力を手に入れた」
「…っは」
「だが、オレだけではない。他の暁の奴が、今ナルトを捕獲しに行っている」
サスケの手は、ナナの頬を撫で、そのまま下にさがってくる。
頭がぼーっとして、サスケの言葉が耳を通り抜けた。
大蛇丸、支配、カカシ、暁。
単語だけを並べて、その意味を見出そうとする。ナナに聞き覚えのないものは、一つ。
「…ア、ぁっ」
自分のものとは思えない程、甘い吐息が漏れていた。
その声にサスケの喉が上下に揺れる。
「ナナ…」
「さす、け…俺は…俺…ッ」
ナナは目をきつく閉じて、肌に食い込む程に拳を握り締めた。
頭が酷く痛むのは、ぶつけたからではない。もっと奥の方から叩きつけられるような痛みが続いている。
大蛇丸。その単語が、その名前が、何かを刺激して、痺れと痛みが終わらない。
「どうせ木ノ葉は終わりだ。ナナ、オレを選べ」
「う、ぁ…ッ」
「カカシなんて忘れろ」
「あ…!」
びくんとナナの体が跳ねた。
サスケの手による刺激ではない。もっと深いトコロが疼いて、ぼんやりとしていた頭が開き始めていた。
目から一筋、こぼれた涙が頬をつたった。
一気に頭を駆け巡る光景に、いろんな思いが交差する。そんな、今にもおかしくなりそうな状況の中、ナナは小さく声を発した。
「…駄目、だ」
言葉と同時にどくんと体が鳴って、ナナの視界が開けた。
視線を少し下げると、サスケがナナの体に跨ってナナの服を捲っている。
鎖骨辺りを噛まれ、胸や腰を撫で回す。自然と甘い声が漏れそうになって、ナナは唇を強く噛んだ。
「っ…、サスケ、止めろ」
「感じてるんだろ」
「おい、サスケ…」
片手でがっちりと両手を抑えつけられる。頭の上に持って行かれた手には、どうしても力が入らなかった。
サスケの力が強いのはわかっている。しかし、それ以上におかしいのはナナの方だ。
媚薬でも飲まされたかのように、敏感になった体。
「全部、思い出した…」
「何?」
「サスケ、お前…いつから俺のこと、こんな風にしたいと思ってた…?」
「そんなの、聞かなくてもわかってんだろ」
「あ、っァ…待てって!そう、焦んな…」
サスケの足が、ナナの股間を擦る。それをなんとか制止して、ナナはサスケをきっと睨み付けた。
赤くなった頬のせいでその威力は全くといって良い程無かったが。
「わかってる…俺のせいで、踏み外させた…っん、だから、いいよ」
「あ?」
「いいよ、俺を好きにして。満足するまで、好きにしたらいい。でも、それだけ、一度だけだ」
こんなことをしたら、余計にサスケを誤った道に引き込むことになるかもしれない。
それでも、今のナナに出来ることは他になかった。
「どうして、そんなことを言う…?」
「どうして…?サスケは俺を、そうしたいんだろ?」
「オレのものになるつもりはないってことか」
「当たり前だろ」
不服そうにしながらも、サスケはナナの足を持ち上げた。それだけで、ナナは小さく喘ぐ。
その間に体を割り込ませて、ナナは完全にサスケの前で足を開く形となった。
「渡したくない、誰にも」
「ッ、ん!」
もう抵抗する気は無いというのに、サスケは荒々しくナナの着物を剥いだ。ぶるっと全身に鳥肌が立つ。
「どうして、そんなにアイツがいいんだ…!」
「っ!あ、っは…ッ」
「ようやく、オレの元に来たと思ったのに…っ」
「サスケ、や…待っ、」
無理矢理熱が捻じ込まれ、思わず息が止まった。外側から裂かれる感覚。
先ほどとは違う、痛みによる涙が流れて、ナナは酷く後悔した。どこから後悔したら良いのかわからないくらい、後悔しかない。
「さ、す…っぐ、ぅあ…」
「ナナ…」
サスケの爪が肌に食い込む。サスケはナナの体に傷を付け続けた。
爪で引っ掻いて、首に、腕に、足に強く噛み付いて、流れる血を舐め上げる。
サスケを狂わせてしまった。自分が、大蛇丸なんかに囚われたせいで。
「悪かった、サスケ…」
「そんな言葉、聞きたくない」
「あ!ぁ、んっ…ごめ、ん、」
「謝るくらいなら、ここに居ろ、ずっと、ここに」
それは無理だ、と心の中で呟いた。
こんな風に求められることが、こんなに辛いなんて知らなかった。
体を差し出すことなんて簡単だ。心が無くたって、抱き合うことは出来る。抱かれて、それで終わり。その人との関係なんてあってないようなもの。
「ナナ、アンタの顔が離れないんだ。この顔が…この体が…」
「ん、ん…ッ」
「アンタはオレを縛るのに、どうしてアンタは」
「ごめ…ッ、あ!ァ、っは」
しかし、サスケにはそう出来なかった。触れた体温を、その表情を植え付けてしまった。
ナナは自分の感覚がおかしかったことにようやく気付いて、また涙を落とした。
「っ…ナナ…、っく…」
「あ、あァ、ッん……!」
奥まで流し込まれた熱が、足の先から頭まで犯していく。
サスケの辛そうな顔が目に入って、ナナは目を逸らした。
情が移りそうになる。いや、もう移っていた。だから、こんなことを許してしまったのだろう。
記憶が戻った時以上に、頭がぼーっとしていた。
何も、考えたくない。何も、したくない。
このまま目を閉じて、全てのことから逃げ出したい気分だった。
「…サスケ」
「黙れ、もう…何も聞きたくない」
「…」
乱れた服を戻して、何もなかったかのようにサスケが立ち上がる。
射精後のだるさがあるのか、声に覇気は無い。
「ここから去るなら…アンタはもうオレの敵だ」
「…ん」
「後悔するぞ」
「…もう、してる」
木ノ葉が危険な目に合っているかもしれない。急いで木ノ葉に帰らなくちゃ。カカシの元に。
頭ではそう思っているのに、体が動かない。
「シャワーは…出て右だ」
「サスケ」
「鏡を見て、絶望しろ」
「…は、はは。そう、だな」
手首に残された傷。同じものが至る所にあるのだろう。
ズキズキと痛むそこはまだ血が滲んでいて、きっと染みるのだろうと思うと気だるさが増した。
散らばった服を手に取って、ゆっくりと立ち上がる。
「…痛い」
ナナがそう呟くと、サスケはふっと笑った。
サスケの思い通りだ。ナナはこの傷を見て、この痛みを感じる度にサスケを思い出す。
今は、その枷を甘んじて受け入れよう。
ナナは籠った部屋を抜けて、シャワーのある場所に移動した。
「はは…」
笑いが出る。自分の判断の甘さに、自分の愚かさに。
頭から水を被って、それで自分の汚れが全て落ちれば良いと思ったことは何度もある。
染み込んだ汚れは落ちない。落ちないどころか、どんどん浸食してきた。
「この体は…もう、汚れ過ぎた」
カカシの大事な教え子であるサスケを巻き込んで、ようやく思い知ることになるなんて。
「…カカシ」
排水溝に赤い水が流れて行く。
それでも、カカシに執着する。ナナにとって、カカシは最後の希望だった。
こんな体でも、カカシはまとめて愛してくれた。過去ごと全部受け入れてくれた。
「すぐ行く、から…」
どうか無事で。
心配かけないようにと、服を細く切って傷口を塞ぐ。それから素早く服に着替え、ナナは意識を集中させた。
刀とリンクする。
「…じゃあな」
ナナは、血の跡を残してそこから姿を消した。
髪がかき上げられる感覚があった。
風が吹いている。ということは外か。
ナナは空気の変化に一度体を震わせてから辺りを見渡した。
刀を置いていった場所とは違う。誰かが気付いて移動させてくれたということなのだろうが、木ノ葉にも、カカシの家にも見えなかった。
記憶を失って、木ノ葉への不信感が高まっていた中、よく刀を置いていくという判断が出来たものだ。
そこだけ、その時の自分をほめたいと思う。
「…っ」
ナナは思い出していた。全て、失った部分と失っている間のことも全て。
痛みの残る体を擦って、ナナは我慢できずにその場でうずくまった。
きっかけは、カブトと大蛇丸に掴まって体をこんな風にされたあの日。
あの日サスケと会わなければ、サスケの名前を呼ばなければ。
「は…っ」
ナナは熱い息を吐き出して、唇を強く噛んだ。
今は、そんなことを考えている場合じゃない。わかっている。
風が通り抜けていくのを感じながら、ナナは今のことに集中しようと顔を上げた。
自分がどれだけカカシにきつく当たったか、思い出すだけで胸が痛くなる。
全ては、ナナが自分の体の異変に耐えることが出来なかったから。
「くそ、本当…最低だ俺は…っ!」
思い出したせいで先ほどから体の熱は高まって仕方ないが、もはやそんなものどうでも良かった。
今は、カカシに会いたい、謝りたい、そればかりが募る。
「…ここはどこだ?」
改めて、ナナは自分の眼前に広がる景色に首を傾げた。
瓦礫の山は、そこが廃れた場所か、もしくは襲撃にあった場所のように思わせる。
ふと、視線を彷徨わせていたナナの視界に激しい砂煙が映った。
同時に響き渡った爆発音は、今まさに戦闘が行われていることを示していて。
「……!?」
瓦礫の中に“火”の字を確認したナナは息を止めていた。
「ッ!…まさか、そんな」
思わず立ち上がって、その足場の悪さに一歩後退する。
「冗談だろ、おい…こんなこと…」
ふと思い出されるのはサスケの言った言葉。
『オレは木ノ葉を潰す。その力を手に入れた。だが、オレだけではない。他の暁の奴が、今ナルトを捕獲しに行っている』
サスケの言うことから察するに、これはナルトを狙ってやって来た暁の仕業。
そうわかるのに、ナナは認めたくなかった。この、崩れ果てた荒地が、木ノ葉の里だということを。
「な、ナルトは…!?」
ナルトでなくてもいい、誰か知った顔を見つけて安心したい。
そう思って目を凝らしたナナは、見つけてしまった。
瓦礫に埋もれた人影。銀髪の一人の男。
「カカシ…?」
がくりと項垂れて、瓦礫の中に体のほとんどを埋めているその人。
ナナはゆっくりと足を進めた。一歩進む度にカラカラと崩れる足場に手を付きながら、カカシと思われる影に近付く。
「なぁ…カカシ…?」
辿り着いてその肩に手を置いた瞬間に、ナナは確信した。
「…うそ、だろ。なぁ…嘘、なんだろ…?」
膝から折れるようにナナはその場にしゃがみ込んだ。
恐る恐る覗き込めば、よく知った顔がそこにある。ぼろぼろで、傷だらけになって、目を開かない。
「ぁ…あ…、あ…」
ナナは手をカカシの頬に当てて、自分の胸に抱き込んだ。ずしりと重い頭が胸にのしかかる。
「ッ…!!」
自然にあふれ出る涙を制御することなど出来なかった。
起こってしまった最悪の現実に、そしてそんなことが起こっている間ここにいなかった自分に。
追い打ちをかけるように、再び爆音が地を揺らす。まだ闘いは終わっていないのだ。まだ、誰かが闘っている。
しかし、ナナは動くことが出来なかった。
「俺、は…なんてことを…」
綱手の言うことを受け入れなければ。カカシの傍を離れなければ。
何も躊躇することなく、木ノ葉に帰って来ていれば。
ナナが戻ってきた場所は、カカシのいる瓦礫の下。
カカシは刀を体に身に着けてくれていたのだろう。ずっと、傍にいてくれたのに。
「カカシ、俺…俺の名前、呼んでよ、なぁ…カカシ…」
カカシの息の音がない。心臓の音さえも聞こえない。
ナナの世界が暗くなる。
ずき、と痛む体が、ナナの罪悪感と絶望を誘う。底へと突き落としていく。
もう、何も無かった。