黒バス(2012.10~2017.12)
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抱き締められて、頭を撫でられる。
応えるように胸に掌を重ねてそのまま背中へと回すと、更に強い力で抱き返され、真司は歓びのため息を漏らした。
たぶん、これは懐かしい彼の体温だ。
けれどずいぶんと久しぶりすぎて、これが自分の味わってきた感覚なのかどうかももう分からない。
ただ、嬉しさだけは変わらず真司の中に生まれている。
「俺…赤司君のこと忘れようとしてた」
「どうして?」
「赤司君のこと考えると…おかしくなるから」
今まさにそうだ。
人が通るかもしれない、誰かに見られているかもしれない。そう分かっていても体を離すことが出来ない。
「真司…。僕はずっと真司のことを考えていたよ」
「それは嘘、でしょ」
「嘘じゃない。何度、真司を連れて来れば良かったと後悔したか」
はあ、と赤司が息を吐いて真司の耳に口付ける。
ぞくりと走った感覚に身を捩じらせると、赤司は少しだけ腕を緩め、けれどそのまま呟いた。
「…目、どうした?」
一瞬、真司の中で時間がとまった。
どうして。いや、試合を観ていたのなら、それで気が付いたのか。それとも、誰かが言ったのか。
言葉少ないが、確信を持っていた赤司の言葉に、真司は恐る恐る口を開いた。
「右目…ちょっと、試合で打った衝撃で…その、」
「見えないのか」
「見えないというか…ぼやけてて、距離感とかよく分からなくて」
赤司の腕から離れ、自分の右目を覆う。
片目を塞いでしまえばなんて事の無い景色が、その手を退かすと酷く歪む。
本当はずっとこの景色に吐き気がしていた。
「それ…大輝は知ってるのか?」
「あ、青峰君には…言ってない…けど…。怖くて」
「そうか、それでいい」
「え…?」
歪んだ視界に、赤司の細い指が入り込んだ。
それが瞳に触れそうな程すぐ傍をなぞって、真司は咄嗟に目を閉じた。
「お前と大輝を繋いでいるのはバスケだけだろう?」
「そ…」
「そんな事実を伝えても良い事にはならない」
ズキリと少し胸が痛んだ。
自分でも考えそうになって蓋にして、そう繰り返していた事を突きつけられた。
分かっている。青峰に知られても良い事など一つもない。それでなくても“好かれてない”のだから。
「それにしても…この綺麗な瞳が傷つけられたなんて、許せないな」
「そんな、」
「でも、好都合だとも思っているよ。もう、真司が傷つけられずに済むなら」
覆いかぶさるように、上から赤司の顔が近付いてくる。
耐えきれず目を閉じたまま息を止めると、右目瞼に柔らかい感触が触れた。
「あ、かしくん…止めてよ、そういうこと…するの…」
「嫌?」
「い…嫌じゃないから、困ってる…、ん」
赤司の胸を押す真司の手にはほとんど力が入っていない。
優しく強引に口付けられ、真司の口の端から息と唾液が零れた。
「あ、…っ、ふ…」
口内に自然と招き入れてしまった赤司の舌が、慣れた様子で真司を刺激する。
触れるか触れないか、緩やかな動きで頬から首を撫でられ、真司は震える手で赤司の腕を掴んだ。
「く、すぐ…ったい、…っ」
「ああ、すまない…。真司が可愛くて」
つい、と言いながら笑う赤司からパッと目を逸らす。
駄目だ。緊張しすぎて体から心臓が飛び出しそうだ。
上目でちらと赤司を見れば、余りにも優しい笑顔が返ってくる。
それで再び顔を大げさにも逸らした真司に、赤司は声を出して笑った。
「久しぶりだからって、そんなに緊張することないだろう」
「し、仕方ないだろ…近いし…」
まだ心臓が、全身で鳴っているかのように体を震わせる。
ようやく腕で赤司を押しのけて一歩下がると、真司は肩の力を抜きながら息を吐き出した。
ほんの少し大人びた顔つき。
今日切ったばかりの前髪は、今の真司より短い。
見た目に違和感はあるが、それでも赤司の容姿を美しくみせることには変わりなかった。
「真司…。一応聞くけど、僕を愛してくれている?」
「え…?」
「こうして改めて会って確信したよ。僕はもう真司を手放したくない」
穏やかな声で、けれど強い言葉だった。
「バスケが出来ないのなら…誠凛へ悔いを残すこともないだろう」
「それって…」
「今すぐに答えが欲しいわけじゃない。ただ、真司にとって何が一番大事なのか、考えてみて欲しい」
赤司の手が真司の短くなった前髪をなぞる。
そのままくしゃくしゃと頭を撫でられ、真司は恥ずかしさにまた顔を伏せた。
今赤司の顔を見たら、ついて行くと口走ってもおかしくなかった。それくらい、彼を愛しく思っている。
「…変なこと、言わないでよ」
「本気だよ」
「赤司君らしくない」
「真司の前だと気取ってもいられないからな」
だから今、そういう事を言わないでくれ。
真司は自分でも分かる程熱くなった頬を手で押さえ、赤司に背を向けた。
「そ、そろそろ、戻らなきゃ」
「ああ。また、真司」
赤司の声に、後ろ髪引かれる思いで一度だけ振り返る。
柔らかい笑みと共に見送られ、真司は乙女のように高鳴った胸を弾ませたまま会場へと戻って行った。
顔に浮かぶのは歓びだけ。
久々に会う緊張感や、もう一つの人格に初めて会う恐怖は和らぎ、すっかり無くなっていた。