黒バス(2012.10~2017.12)
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ずっと、羨ましいと思っていた。
「やっぱテツとはバスケだと気が合うんだよなァ」
「同感です」
「他のことだと、からっきしだけどな!」
「…ですね」
そう言ってボールを繋ぐ。
手から手へ。そして高いゴールへと。
自分では届かないゴールに、彼の手は運んでくれる。
それを、独占出来たら良いと、
「おーい真司?いつまで休憩してんだよ」
「烏羽君…チェンジお願いします…」
「あはは、りょーかい!」
黒子がこちらに向けた手に、自分の手のひらを合わせる。
ぱちん、と軽い音がなるなり、黒子はへろへろとその場に座り込んだ。
「ハァ、ったくテツは体力ねーな」
「君達が、無尽蔵なんです」
「だってよ、真司」
「いやそこは、たぶんテツ君正論だから。俺ら無尽蔵だし?」
一緒にいることが嫌だと感じたことは無い。
黒子といる時間も楽しくて、大好きで。
けれど、どうしてだろう。青峰に対して抱くこの収まりきらない感情は、他の何をも流して真司の心を乱す。
「…なんか、あれだな。オレが真司と同じ背の高さだったら、何か違ったかな」
「え?」
「いや。ゴールがさ、なんかスゲェ近いんだよな…」
「うっわあ、それ嫌味だよ。言っちゃいけない類のやつだよ」
青峰が長い腕をゴールに向けて伸ばす。それに従って伸ばした真司の腕は、あまりにも遠くゴールに届かない。
それどころか、青峰の手にも触れられない。
その距離が無性に悲しくて。
「…、」
急に喉がつっかえたように、言葉が途切れた。
空気を掴んだ腕を、静かに下ろして自分の顔を覆う。
意味も分からず込み上げる熱が、指の隙間を辿って零れ落ちていく。
「…え、おい、真司…?」
「ご、め…ちょっと……駄目、だ…」
「はあ!?な、なんで、おおオレのせいか!?」
低い声を裏返させて、青峰が珍しく動揺して真司を覗き込む。
どうしたら良いのか迷った結論なのだろう。青峰は静かに真司の頭を撫でて、そのまま自分の胸に真司の顔を押し付けた。
「わ、わりぃ…そんなに背ひっくいの気にしてるとは…」
「青峰君、それ慰められてないですよ。ていうかボクも割とカチンと来ました」
「いや…だってよぉ…」
違う、違わないけれど、違う。
どんなに頑張っても、青峰の立場に立って世界を見ることは出来ない。
彼の苦しみだとか悩みだとか、そういう些細な事でも真司には辿り着けない一線がある。
もしも、そこに辿り着いて青峰の心を癒せる者がいるとすればそれは、青峰と同じ立場の者か、もしくは影。
「はぁ…俺、なんで泣いてんだろ…馬鹿みたい…」
「お、泣き止んだか…?」
「……でも、もうちょっと慰めてよ。反省の意を込めて」
「ま、まだ伸びるって。なあテツ?」
「それは何とも」
「二人とも酷い…!」
わしゃわしゃと髪を乱暴に撫でる大きな手。
真司の高さに合わせて少し腰をかがめてくれる大きな体。
そして、耳をくすぐる低い声。
もうずっと特別だった。
大好きな黒子を羨ましく思ってしまうくらいには、ずっと。
そして、そんな真司の思いに、ずっと黒子は気付いていた。
そんな不毛な関係を見て見ぬふりし続けて。気付かないふりをし続けて。
一つ欠けたまま、無理矢理歯車を回していた。