黒バス(2012.10~2017.12)
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1.黄瀬とちょっと緑間
クリスマスに対して思い入れなんてなかった。
華やかになる街が眩しくて、自ら聴こうとしているわけでなく聞き飽きたメロディーが流れ続ける。
むしろ煩くて、面倒で、うざったいだけ。
そんな風に思っていたクリスマスに、それこそ似合うだろう華やかな男がパッと顔を出した。
「真司っちー!メリークリスマス!」
キラキラとした笑顔はいつも通り。けれど少しテンションが高いのは、この男もイベントに感化されているからだろう。
「黄瀬君…俺なんも持ってないからね」
「ん?いや別に真司っちにたかりに来たんじゃないっスよー」
そう言いながら、黄瀬は休み時間になって空いた隣の席にためらうことなく腰掛けた。
頬杖ついてニヤついている顔は、なんとも腹立たしい程綺麗だ。
「真司っちさ、クリスマスなんてつまんねーってずーっと言ってたっしょ」
「え、そりゃ…。だって今まで特別なことなんてなんもなかったし」
「そんなんじゃせっかくのクリスマスがもったいねーじゃんって思って」
急に視線を落とした黄瀬は、自分の制服のポケットに手を突っ込んだ。
ふふんと楽しげに鼻を鳴らす黄瀬に、真司は机に上半身を預けて視線だけを彼に送った。
嫌だ、何か期待してしまいそうになる。
「真司っち、手ェ出して」
「な、何だよ」
「いーから、はーやーくー」
キラキラとした笑顔に思わず視線を逸らして、手だけを黄瀬の方へ向ける。
視界の外でとんと手に何か乗せられたのが分かり、思わずごくりと唾を飲んだ。
「何目ェ閉じてんスか?目開けてていっスよ?」
「や、うん…」
妙な緊張感にゆっくりと目を開く。
手の上に乗っているのは、黄瀬によく似合いそうな、お洒落なシルバーのブレスレットだった。
「…これを、俺に?」
「何がいいか考えたんスけど、真司っちが欲しいモンなんて分かんないしさ。オレの好みプラス真司っちに似合うだろうなっての選んだんスけど…」
どう?とさっきまでの自信満々の笑顔とは裏腹に、少し不安そうな目が真司を見つめる。
どう、と言われても。
真司はじっとそれを見下ろして、恐る恐ると腕に通した。
これが自分に似合っているのか。黄瀬のように煌びやかな人間じゃないのに。
「思った通り、似合ってる」
「…そう?」
「真司っちって何か華やかだから、選ぶのチョー楽しかったんスよ」
「そ、そう、なのかな…。でも有難う」
「これでちょっとは特別な日になった?」
今度はやっぱり嬉しそうに。
黄瀬の大きな手が真司の腕に重なって、真司はすっとその手を引いた。
「黄瀬君さあ、やっぱり俺のこと女の子だと勘違いしてるだろ。恥ずかしいなあ、もう」
「あ、もしかしてドキドキしちゃったっスか?」
「…何俺のこと口説いてんだよやらしい目で見ないで下さい」
ふいっとそっぽを向いて、触られた手を擦る。
なるほど確かにプレゼントってのは、欲しい物だとかそういうことじゃなくても嬉しいものだ。
「あ」
「ん?どうしたんスか?」
「いや…あー…朝のあれもそうだったのかな…」
「え?朝?え!?オレ一番のりじゃなかったんスか!?」
ガタン、と大げさに椅子を揺らして迫って来た黄瀬に、どうどうと手のひらをかざす。
朝、偶然にも校門のところで一緒になったのは緑間だった。
いやあれは、本当に偶然だったのだろうか。
『あれ、緑間君おはよう』
『烏羽…ああ、おはよう』
いつも通りに校門を入り通り過ぎようとしたところ、そこに緑間が立っていた。
何やら緑間は珍しくポケットに手を突っ込んでいて、寒いのかなと考えつつその隣に並ぶ。
緑間はごそごそとポケットの中で手を動かし、それからその手を真司の前に出した。
『え?何?』
『手を、出すのだよ』
『はぁ…こう?』
ぱっと手を開くと、緑間の握られた手の中から何か落ちた。
真司の手のひらに落ちたのは、小さくて綺麗な色をした飴玉の入った袋。
『わあ…何これ可愛い!』
『お前にやるのだよ』
『え?』
驚いて顔を上げると、緑間はこちらを見ていない。
全く、いつも通りこの人は何を考えているか分からないな。そんなことを考えつつ、真司はその袋を片手で掴んで持ち上げ、目の前にかざした。やはり綺麗な色だ。
『なんだよどうしたの?あ、もしかしてクリスマスとかそういう』
『今日の、お前の、ら、ラッキーアイテム…なのだよ』
『あはは!まあそうだと思ってたけど!』
人のラッキーアイテムを持ってきてくれるなんて、やはり今日はちょっと気分がいいのかもしれないな。
隣を歩く緑間への感謝を示す為に、少し近付いて肩をとんと緑間の体にぶつける。
満足そうに鼻息をふんっと漏らした緑間に、真司は面白いなあと何気なく思っていた。
だけだったのだが。
真司は鞄の中にしまった緑間からもらったラッキーアイテムだという飴玉を取り出した。
綺麗な飴玉。少しお洒落なリボンが袋を飾っているところも今見るとやはり。
「それを、緑間っちが?」
「今朝もらったんだけど…これやっぱりクリスマスだからくれたのかなあ…」
「や、そうにしか見えないんスけど…」
頬杖ついた黄瀬が、ため息交じりに返す。
ていうか実は真司っちのこと待ってたんじゃね?と言われてしまえばそうとしか思えなくなって。
腕につけられたシルバーと、手の上でキラキラと光る飴玉。
真司は二つをじっと見つめ、緩んだ顔に腕を引き寄せた。
「あー…」
「真司っち?」
「うん、すっごく嬉しいかも…」
何も用意してないのに。何かしたわけでもないのに。
真司は頬にシルバーのブレスレットを寄せて、黄瀬の方へ視線を向けた。
「メリークリスマス、黄瀬君」
「…!」
感じた事の無い喜びに、顔が熱くてどうにかなりそうだ。
緑間君も有難う、後でちゃんと伝えよう。そんな事を考えて目を閉じると、がららっと黄瀬が立ち上がった。
「、…っ、真司っち…!」
「え、何どうしたの?」
「今日、帰り、…とか!ケーキ、そうだケーキ食べに行こう!ちゃんとさ、そういうのやろう!!」
黄瀬を見上げると、何やら黄瀬も頬を赤くしている。
それからちらと時計を見て、ああもう!と叫んだ。
「や、約束っスよ!帰り、どっか行かないでね!」
「か、考えとくから…早く教室戻りなよ黄瀬君」
「うん!じゃあ後でね!!」
ばたばたとイケメンが女子生徒をかき分けて教室を出て行く。
急にテンション上がってどうしたんだろう。
真司はふーっと息を吐いてから、リボンを外した袋から取り出した小さな飴玉を口に放り込んだ。
2.赤司と紫原
何となく学校中が浮かれたような空気のまま、その日の昼休みをむかえた。
授業も何だか皆集中していなくて、落ち着きが無い感じはあまり好きではない。
けれど1年に1度だしこんな日もあっていいのかな、なんて思い始めた真司は、あまり周りを気にする事なく弁当箱を机に広げた。
「烏羽ちーん」
覇気のない声が教室の外から真司を呼んだ。
呼び方だけで分かる。真司はぱっと顔を上げて、それからすぐに椅子から腰を上げた。
「紫原君…と赤司君!?」
「烏羽、メリークリスマス」
「うわあ、赤司君もそういうのちゃんと気にする人だったんだ!」
「…お前はオレを何だと思っているんだ」
呆れた目をする赤司と、紫原は異様に楽しげだ。
抱えた袋には、恐らくいろんな人(女子)にもらったお菓子がパンパンに入っているのだろう。
「メリークリスマス、赤司君、紫原君」
「んーメリークリスマス、烏羽ちん」
「二人してどうしたの?」
「赤ちんとはさっきそこであっただけ~」
ね?と紫原が赤司に言うと、赤司もそうだなと返すだけ。
じゃあ一体なんなんだと思いながら二人を見上げると、紫原は徐に抱えた袋に手を突っ込んだ。
「烏羽ちん、口開けて?」
「え、口?」
「あーん」
紫原の目の前に立つと、その楽しげな瞳がじっと真司を見下ろしていて、何とも威圧感を増す。
ちょっとした恐怖も感じながら、真司は恐る恐る口を開いた。
「口ちっちゃいね烏羽ちん」
「悪かった、な…!?」
開けた口に、紫原が手に持っていた何かをカコンと突っ込んだ。
驚いて目を丸くしている間にも、口の中に広がるのは甘い味。
「え何これ!美味しい、梨!?」
「そー、今朝見つけたんだ~。烏羽ちん梨好きだったっしょ?」
「うん!美味しい!」
カラカラと舌の上で転がるのは棒つきのキャンディだ。
今まで昼食の時何かに言ったことがある程度だが、自分が梨を好きだと紫原が知っていたとは。
嬉しさと、美味しさとで頬が緩む。
「烏羽ちん喜んでくれた?」
「うん、紫原君有難う!」
そもそもお礼とか代償なしに紫原が自らお菓子を差し出すことなんて滅多にない。
これもクリスマスの力だとしたら、やはり今日は良い日だ。
「そうか…お菓子でそんなに喜んでもらえるなら、オレも何か用意すればよかったな」
「え、いいよ!俺、赤司君が会いに来てくれただけで嬉しいし」
既にポテチを頬張り出した紫原の隣で、赤司は顎に手を当てて眉間にシワを寄せている。
お菓子をもらって嬉しいのは確かだが、別にそういうことを求めているわけではない。
「俺も何も持ってないし…」
「…烏羽」
やっぱり自分も何か用意するべきだったのかな。
しゅんと眉を下げると、赤司の手が頭を上にぽふんと乗せられた。
「あまりはしゃぎ過ぎて怪我をしないようにな」
「そ…そんなガキじゃないし…」
「そうかな」
「そうだよ!」
頭を撫でた赤司の手がするりと頬に落ちてくる。
頬を撫でる赤司の手は思いの外暖かい。
すりと自ら頬を寄せると全身にその暖かさが広がるようで、真司は目を閉じてふふっと笑った。
「え~何それ、烏羽ちん、赤ちんに対して反応違くね~?」
「そんなことないでしょ」
「ある!赤ちんズルい」
「別にずるなんてしていないだろ」
急にムッと膨れた紫原が面白くて、赤司と二人で目を合わせて笑う。
頬から離れてしまった手の温度は少し名残惜しかったけれど、口に広がる甘さはまだずっと続いていた。
3.青峰と黒子
放課後、明日から冬休みということで、帰宅時間はいつもより早い。
そういえば黄瀬に一緒にどうこうしようなどと言われたが、どうするつもりなのだろう。
ぼんやりと考えていた真司は、背後から腕をがしっと掴まれ、大げさにも肩を震わせた。
「うわ何!?」
「真司、帰り付き合えよ」
「はあ?」
真司の腕を掴んだのは青峰だったらしい。
既に帰り支度を済ませた青峰は、当然のように真司を引っ張って行く気満々だ。
「ちょっと待ってよ、どうしたの?」
「あ?いやこれからテツとマジバ行っから」
「いやうん、で?」
「お前も行くに決まってんだろ?」
何でだ。
と突っ込む気も失せ、真司ははーっとため息を吐いて青峰の頬をつねった。
「いって!」
「そりゃ誘ってくれて嬉しいけどさ、黄瀬君との約束が」
「あ?アイツ今日は無理だろ。スゲー囲まれてっし」
くいっと親指を廊下の方へ向けた青峰は実際にその目で確認したわけではないだろうに、確かな説得力がある。
まあ後で連絡すれば良いかな、なんて考えていると、後ろからひょこっともう一人が顔を覗かせた。
「青峰君、烏羽君捕まえました?」
「おー、行けるぜ」
「グッジョブです」
ぐっと親指を立てた黒子と青峰は何か作戦でも立てていたのだろうか。
突然後ろから現れた黒子に驚く間もなく、真司は青峰にぐいっと引っ張られた。
「おっし行くぞ」
「ええ、ちょっと」
「烏羽君、嫌でしたか?」
「嫌じゃ…ないけどさぁ」
「ならいいだろ!他の奴に捕まんねーうちに行くぞ!」
何を焦っているやら真司の手を引いて歩き出す青峰に、何なんだと黒子を横目で見る。
すると黒子は少し申し訳なさそうに眉を下げて笑った。
「すみません、強引になってしまって」
「何か、どうしたの?」
「今日一日、烏羽君が捕まらなくて焦ってたんですよ」
青峰が大股で歩くせいで、真司と黒子とは足早になる。
黒子の言葉に耳を傾けながら、真司はちょっと良く分からんと首を傾げた。
校内から外に出ると寒さが身に染みわたり、思わず青峰の暖かい手をぎゅっと掴む。
もう今年もあとわずか何だなあと気の早いことを考えて、真司はまだ終わっていないクリスマスに既に別れを告げようとしていた。
「一応確認すっけどマジバでいいよな、テツ?」
「はい。シェイクで」
「寒くねーのかよお前」
「あ、俺はコーラで」
「何か食う気ねーのかお前ら…」
慣れ親しんだ店内に入り、勝手に真司を連行した青峰にいろいろ任せて二人先に席に着く。
そろそろ忘れそうになっていたクリスマスの曲が店内で流れていて、真司はふうっと息を吐いた。
「男が揃ってマジバってどうなんだろうね」
「どう、とは」
「いやさ、クリスマスって一応そういうあれじゃないの?」
ここに来るまでも何組かのカップルを見かけたものだ。
全く、どいつもこいつも。大して興味もないのに目につく世間の有様に、真司は顔を伏せて正面に座った黒子を見た。
「君は、女の子と一緒に過ごしたかったですか?」
「え?まさかあ、そんな人いないし」
「ですよね」
「そうすっぱり断言されんのはちょっと腹立つけど」
にっこりと笑って言う黒子に、そういう君はどうなのだと考えて。
いやそんな相手がいたらこんな事にはなっていないだろうと安心する。
何だかんだで青峰と黒子と三人でマジバ、らしいっちゃらしい状況だ。
「おら、真司詰めろ」
「え、こっち来んの?」
買うもの買ったのだろう青峰が真司の隣に立った。
飲み物らしきものは恐らく真司と黒子ので、バーガーらしきものは青峰のだろう。
「有難うございます、青峰君」
「おー、真司もほら」
「ありがとー」
こうも素直にパシリになる青峰も珍しいものだ。少し感心しながら席を詰めると、青峰はすっすと真司と黒子の前にカップを置いて、真司の隣に座った。
隣に座る青峰と、正面にいる黒子とを見て、思わず口元が笑みが浮かぶ。
「何笑ってんだよ」
「んー?ふふ」
何だかんだで今の状況に不服がないどころか満足している。
ちょっと気持ち悪いかな。まあ今日くらいいいか。
真司は青峰の大きな体に肩をとんとぶつけた。
「何だよ」
「なんでもー」
「あの、目の前でいちゃつくの止めてください」
今までクリスマスなんて特別な日に思ったことがなかったのに。
今日は一日何気ないことでも嬉しかった。
しみじみと感じながらコーラを口に含む。
「来年は、ちゃんとプレゼント用意するからね」
ぽつりと漏らした思いは、ただ今が楽しかったから。
「あ?プレゼントなんていらねーよ」
「え?そう?でもなんかさ…返したいんだよ、ちゃんと」
朝から緑間にも、黄瀬にもプレゼントをもらって。紫原も、赤司まで会いに来てくれて。
今こうして青峰と黒子と一緒に居て。
「今すごく幸せだから、俺」
「そうですね…ボクも、幸せです」
「…そーかよ」
いつも一緒に、なんて贅沢は言わないから、せめてこういう特別な日だけは。
祈ったわけじゃなく、願ったわけでもない。ただ、そうあるのだろうと思っていたから。
窓の外のキラキラとしたイルミネーションを、真司は今日を噛み締める思いで見つめていた。
クリスマスに対して思い入れなんてなかった。
華やかになる街が眩しくて、自ら聴こうとしているわけでなく聞き飽きたメロディーが流れ続ける。
むしろ煩くて、面倒で、うざったいだけ。
そんな風に思っていたクリスマスに、それこそ似合うだろう華やかな男がパッと顔を出した。
「真司っちー!メリークリスマス!」
キラキラとした笑顔はいつも通り。けれど少しテンションが高いのは、この男もイベントに感化されているからだろう。
「黄瀬君…俺なんも持ってないからね」
「ん?いや別に真司っちにたかりに来たんじゃないっスよー」
そう言いながら、黄瀬は休み時間になって空いた隣の席にためらうことなく腰掛けた。
頬杖ついてニヤついている顔は、なんとも腹立たしい程綺麗だ。
「真司っちさ、クリスマスなんてつまんねーってずーっと言ってたっしょ」
「え、そりゃ…。だって今まで特別なことなんてなんもなかったし」
「そんなんじゃせっかくのクリスマスがもったいねーじゃんって思って」
急に視線を落とした黄瀬は、自分の制服のポケットに手を突っ込んだ。
ふふんと楽しげに鼻を鳴らす黄瀬に、真司は机に上半身を預けて視線だけを彼に送った。
嫌だ、何か期待してしまいそうになる。
「真司っち、手ェ出して」
「な、何だよ」
「いーから、はーやーくー」
キラキラとした笑顔に思わず視線を逸らして、手だけを黄瀬の方へ向ける。
視界の外でとんと手に何か乗せられたのが分かり、思わずごくりと唾を飲んだ。
「何目ェ閉じてんスか?目開けてていっスよ?」
「や、うん…」
妙な緊張感にゆっくりと目を開く。
手の上に乗っているのは、黄瀬によく似合いそうな、お洒落なシルバーのブレスレットだった。
「…これを、俺に?」
「何がいいか考えたんスけど、真司っちが欲しいモンなんて分かんないしさ。オレの好みプラス真司っちに似合うだろうなっての選んだんスけど…」
どう?とさっきまでの自信満々の笑顔とは裏腹に、少し不安そうな目が真司を見つめる。
どう、と言われても。
真司はじっとそれを見下ろして、恐る恐ると腕に通した。
これが自分に似合っているのか。黄瀬のように煌びやかな人間じゃないのに。
「思った通り、似合ってる」
「…そう?」
「真司っちって何か華やかだから、選ぶのチョー楽しかったんスよ」
「そ、そう、なのかな…。でも有難う」
「これでちょっとは特別な日になった?」
今度はやっぱり嬉しそうに。
黄瀬の大きな手が真司の腕に重なって、真司はすっとその手を引いた。
「黄瀬君さあ、やっぱり俺のこと女の子だと勘違いしてるだろ。恥ずかしいなあ、もう」
「あ、もしかしてドキドキしちゃったっスか?」
「…何俺のこと口説いてんだよやらしい目で見ないで下さい」
ふいっとそっぽを向いて、触られた手を擦る。
なるほど確かにプレゼントってのは、欲しい物だとかそういうことじゃなくても嬉しいものだ。
「あ」
「ん?どうしたんスか?」
「いや…あー…朝のあれもそうだったのかな…」
「え?朝?え!?オレ一番のりじゃなかったんスか!?」
ガタン、と大げさに椅子を揺らして迫って来た黄瀬に、どうどうと手のひらをかざす。
朝、偶然にも校門のところで一緒になったのは緑間だった。
いやあれは、本当に偶然だったのだろうか。
『あれ、緑間君おはよう』
『烏羽…ああ、おはよう』
いつも通りに校門を入り通り過ぎようとしたところ、そこに緑間が立っていた。
何やら緑間は珍しくポケットに手を突っ込んでいて、寒いのかなと考えつつその隣に並ぶ。
緑間はごそごそとポケットの中で手を動かし、それからその手を真司の前に出した。
『え?何?』
『手を、出すのだよ』
『はぁ…こう?』
ぱっと手を開くと、緑間の握られた手の中から何か落ちた。
真司の手のひらに落ちたのは、小さくて綺麗な色をした飴玉の入った袋。
『わあ…何これ可愛い!』
『お前にやるのだよ』
『え?』
驚いて顔を上げると、緑間はこちらを見ていない。
全く、いつも通りこの人は何を考えているか分からないな。そんなことを考えつつ、真司はその袋を片手で掴んで持ち上げ、目の前にかざした。やはり綺麗な色だ。
『なんだよどうしたの?あ、もしかしてクリスマスとかそういう』
『今日の、お前の、ら、ラッキーアイテム…なのだよ』
『あはは!まあそうだと思ってたけど!』
人のラッキーアイテムを持ってきてくれるなんて、やはり今日はちょっと気分がいいのかもしれないな。
隣を歩く緑間への感謝を示す為に、少し近付いて肩をとんと緑間の体にぶつける。
満足そうに鼻息をふんっと漏らした緑間に、真司は面白いなあと何気なく思っていた。
だけだったのだが。
真司は鞄の中にしまった緑間からもらったラッキーアイテムだという飴玉を取り出した。
綺麗な飴玉。少しお洒落なリボンが袋を飾っているところも今見るとやはり。
「それを、緑間っちが?」
「今朝もらったんだけど…これやっぱりクリスマスだからくれたのかなあ…」
「や、そうにしか見えないんスけど…」
頬杖ついた黄瀬が、ため息交じりに返す。
ていうか実は真司っちのこと待ってたんじゃね?と言われてしまえばそうとしか思えなくなって。
腕につけられたシルバーと、手の上でキラキラと光る飴玉。
真司は二つをじっと見つめ、緩んだ顔に腕を引き寄せた。
「あー…」
「真司っち?」
「うん、すっごく嬉しいかも…」
何も用意してないのに。何かしたわけでもないのに。
真司は頬にシルバーのブレスレットを寄せて、黄瀬の方へ視線を向けた。
「メリークリスマス、黄瀬君」
「…!」
感じた事の無い喜びに、顔が熱くてどうにかなりそうだ。
緑間君も有難う、後でちゃんと伝えよう。そんな事を考えて目を閉じると、がららっと黄瀬が立ち上がった。
「、…っ、真司っち…!」
「え、何どうしたの?」
「今日、帰り、…とか!ケーキ、そうだケーキ食べに行こう!ちゃんとさ、そういうのやろう!!」
黄瀬を見上げると、何やら黄瀬も頬を赤くしている。
それからちらと時計を見て、ああもう!と叫んだ。
「や、約束っスよ!帰り、どっか行かないでね!」
「か、考えとくから…早く教室戻りなよ黄瀬君」
「うん!じゃあ後でね!!」
ばたばたとイケメンが女子生徒をかき分けて教室を出て行く。
急にテンション上がってどうしたんだろう。
真司はふーっと息を吐いてから、リボンを外した袋から取り出した小さな飴玉を口に放り込んだ。
2.赤司と紫原
何となく学校中が浮かれたような空気のまま、その日の昼休みをむかえた。
授業も何だか皆集中していなくて、落ち着きが無い感じはあまり好きではない。
けれど1年に1度だしこんな日もあっていいのかな、なんて思い始めた真司は、あまり周りを気にする事なく弁当箱を机に広げた。
「烏羽ちーん」
覇気のない声が教室の外から真司を呼んだ。
呼び方だけで分かる。真司はぱっと顔を上げて、それからすぐに椅子から腰を上げた。
「紫原君…と赤司君!?」
「烏羽、メリークリスマス」
「うわあ、赤司君もそういうのちゃんと気にする人だったんだ!」
「…お前はオレを何だと思っているんだ」
呆れた目をする赤司と、紫原は異様に楽しげだ。
抱えた袋には、恐らくいろんな人(女子)にもらったお菓子がパンパンに入っているのだろう。
「メリークリスマス、赤司君、紫原君」
「んーメリークリスマス、烏羽ちん」
「二人してどうしたの?」
「赤ちんとはさっきそこであっただけ~」
ね?と紫原が赤司に言うと、赤司もそうだなと返すだけ。
じゃあ一体なんなんだと思いながら二人を見上げると、紫原は徐に抱えた袋に手を突っ込んだ。
「烏羽ちん、口開けて?」
「え、口?」
「あーん」
紫原の目の前に立つと、その楽しげな瞳がじっと真司を見下ろしていて、何とも威圧感を増す。
ちょっとした恐怖も感じながら、真司は恐る恐る口を開いた。
「口ちっちゃいね烏羽ちん」
「悪かった、な…!?」
開けた口に、紫原が手に持っていた何かをカコンと突っ込んだ。
驚いて目を丸くしている間にも、口の中に広がるのは甘い味。
「え何これ!美味しい、梨!?」
「そー、今朝見つけたんだ~。烏羽ちん梨好きだったっしょ?」
「うん!美味しい!」
カラカラと舌の上で転がるのは棒つきのキャンディだ。
今まで昼食の時何かに言ったことがある程度だが、自分が梨を好きだと紫原が知っていたとは。
嬉しさと、美味しさとで頬が緩む。
「烏羽ちん喜んでくれた?」
「うん、紫原君有難う!」
そもそもお礼とか代償なしに紫原が自らお菓子を差し出すことなんて滅多にない。
これもクリスマスの力だとしたら、やはり今日は良い日だ。
「そうか…お菓子でそんなに喜んでもらえるなら、オレも何か用意すればよかったな」
「え、いいよ!俺、赤司君が会いに来てくれただけで嬉しいし」
既にポテチを頬張り出した紫原の隣で、赤司は顎に手を当てて眉間にシワを寄せている。
お菓子をもらって嬉しいのは確かだが、別にそういうことを求めているわけではない。
「俺も何も持ってないし…」
「…烏羽」
やっぱり自分も何か用意するべきだったのかな。
しゅんと眉を下げると、赤司の手が頭を上にぽふんと乗せられた。
「あまりはしゃぎ過ぎて怪我をしないようにな」
「そ…そんなガキじゃないし…」
「そうかな」
「そうだよ!」
頭を撫でた赤司の手がするりと頬に落ちてくる。
頬を撫でる赤司の手は思いの外暖かい。
すりと自ら頬を寄せると全身にその暖かさが広がるようで、真司は目を閉じてふふっと笑った。
「え~何それ、烏羽ちん、赤ちんに対して反応違くね~?」
「そんなことないでしょ」
「ある!赤ちんズルい」
「別にずるなんてしていないだろ」
急にムッと膨れた紫原が面白くて、赤司と二人で目を合わせて笑う。
頬から離れてしまった手の温度は少し名残惜しかったけれど、口に広がる甘さはまだずっと続いていた。
3.青峰と黒子
放課後、明日から冬休みということで、帰宅時間はいつもより早い。
そういえば黄瀬に一緒にどうこうしようなどと言われたが、どうするつもりなのだろう。
ぼんやりと考えていた真司は、背後から腕をがしっと掴まれ、大げさにも肩を震わせた。
「うわ何!?」
「真司、帰り付き合えよ」
「はあ?」
真司の腕を掴んだのは青峰だったらしい。
既に帰り支度を済ませた青峰は、当然のように真司を引っ張って行く気満々だ。
「ちょっと待ってよ、どうしたの?」
「あ?いやこれからテツとマジバ行っから」
「いやうん、で?」
「お前も行くに決まってんだろ?」
何でだ。
と突っ込む気も失せ、真司ははーっとため息を吐いて青峰の頬をつねった。
「いって!」
「そりゃ誘ってくれて嬉しいけどさ、黄瀬君との約束が」
「あ?アイツ今日は無理だろ。スゲー囲まれてっし」
くいっと親指を廊下の方へ向けた青峰は実際にその目で確認したわけではないだろうに、確かな説得力がある。
まあ後で連絡すれば良いかな、なんて考えていると、後ろからひょこっともう一人が顔を覗かせた。
「青峰君、烏羽君捕まえました?」
「おー、行けるぜ」
「グッジョブです」
ぐっと親指を立てた黒子と青峰は何か作戦でも立てていたのだろうか。
突然後ろから現れた黒子に驚く間もなく、真司は青峰にぐいっと引っ張られた。
「おっし行くぞ」
「ええ、ちょっと」
「烏羽君、嫌でしたか?」
「嫌じゃ…ないけどさぁ」
「ならいいだろ!他の奴に捕まんねーうちに行くぞ!」
何を焦っているやら真司の手を引いて歩き出す青峰に、何なんだと黒子を横目で見る。
すると黒子は少し申し訳なさそうに眉を下げて笑った。
「すみません、強引になってしまって」
「何か、どうしたの?」
「今日一日、烏羽君が捕まらなくて焦ってたんですよ」
青峰が大股で歩くせいで、真司と黒子とは足早になる。
黒子の言葉に耳を傾けながら、真司はちょっと良く分からんと首を傾げた。
校内から外に出ると寒さが身に染みわたり、思わず青峰の暖かい手をぎゅっと掴む。
もう今年もあとわずか何だなあと気の早いことを考えて、真司はまだ終わっていないクリスマスに既に別れを告げようとしていた。
「一応確認すっけどマジバでいいよな、テツ?」
「はい。シェイクで」
「寒くねーのかよお前」
「あ、俺はコーラで」
「何か食う気ねーのかお前ら…」
慣れ親しんだ店内に入り、勝手に真司を連行した青峰にいろいろ任せて二人先に席に着く。
そろそろ忘れそうになっていたクリスマスの曲が店内で流れていて、真司はふうっと息を吐いた。
「男が揃ってマジバってどうなんだろうね」
「どう、とは」
「いやさ、クリスマスって一応そういうあれじゃないの?」
ここに来るまでも何組かのカップルを見かけたものだ。
全く、どいつもこいつも。大して興味もないのに目につく世間の有様に、真司は顔を伏せて正面に座った黒子を見た。
「君は、女の子と一緒に過ごしたかったですか?」
「え?まさかあ、そんな人いないし」
「ですよね」
「そうすっぱり断言されんのはちょっと腹立つけど」
にっこりと笑って言う黒子に、そういう君はどうなのだと考えて。
いやそんな相手がいたらこんな事にはなっていないだろうと安心する。
何だかんだで青峰と黒子と三人でマジバ、らしいっちゃらしい状況だ。
「おら、真司詰めろ」
「え、こっち来んの?」
買うもの買ったのだろう青峰が真司の隣に立った。
飲み物らしきものは恐らく真司と黒子ので、バーガーらしきものは青峰のだろう。
「有難うございます、青峰君」
「おー、真司もほら」
「ありがとー」
こうも素直にパシリになる青峰も珍しいものだ。少し感心しながら席を詰めると、青峰はすっすと真司と黒子の前にカップを置いて、真司の隣に座った。
隣に座る青峰と、正面にいる黒子とを見て、思わず口元が笑みが浮かぶ。
「何笑ってんだよ」
「んー?ふふ」
何だかんだで今の状況に不服がないどころか満足している。
ちょっと気持ち悪いかな。まあ今日くらいいいか。
真司は青峰の大きな体に肩をとんとぶつけた。
「何だよ」
「なんでもー」
「あの、目の前でいちゃつくの止めてください」
今までクリスマスなんて特別な日に思ったことがなかったのに。
今日は一日何気ないことでも嬉しかった。
しみじみと感じながらコーラを口に含む。
「来年は、ちゃんとプレゼント用意するからね」
ぽつりと漏らした思いは、ただ今が楽しかったから。
「あ?プレゼントなんていらねーよ」
「え?そう?でもなんかさ…返したいんだよ、ちゃんと」
朝から緑間にも、黄瀬にもプレゼントをもらって。紫原も、赤司まで会いに来てくれて。
今こうして青峰と黒子と一緒に居て。
「今すごく幸せだから、俺」
「そうですね…ボクも、幸せです」
「…そーかよ」
いつも一緒に、なんて贅沢は言わないから、せめてこういう特別な日だけは。
祈ったわけじゃなく、願ったわけでもない。ただ、そうあるのだろうと思っていたから。
窓の外のキラキラとしたイルミネーションを、真司は今日を噛み締める思いで見つめていた。