黒バス(2012.10~2017.12)
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「あっれ、そこにいんの真司じゃね!?」
たまにはショッピングとかいいかな、なんて暇つぶしに家を出た休日。
真司は聞いたことのある騒がしい声に、足を止めた。
「あ、高尾君だ」
「おーオレオレ、何どったの?一人?」
足元に置いていた視線を声の方に動かせば、当然知った顔がある。
高尾和成、秀徳高校の一年生。
他校の学生の中では関わることの多い人物の一人だ。
「なーんか家にいてもすることなくてさ、ちょっと気晴らしに来ました。高尾君は?」
「オレは真ちゃんのオトモ。新しいラッキーアイテムを収集するんだと」
はーっとため息を吐き出しながらそう言う高尾は、相当の苦労人だといえる。
跨る自転車の後ろにはリアカーがついている。
そこにあの大男、緑間を乗せてここまで走ってきたのだろう。
「相変わらずというか、お疲れ様」
「はー…真司の優しいお言葉身に染みるわー。もっとねぎらって!」
ぐでーっと自転車のハンドルに上半身を預けた高尾の腕が真司の方に伸ばされる。
真司は自然とその腕が届くくらいの距離まで足を進めた。
「高尾君は優しいなあ。もう緑間君なんて置いてっちゃえば?」
「って真司結構辛辣だな!」
高尾のいつもより低い位置にある頭に手をのせて、よしよしと数回撫でる。
さすがに嫌がられるかなと思いきや、そんなことはなく、高尾はむしろ嬉しそうににっこりと微笑んだ。
「そんなこと言ってェ、ホントは真ちゃんに会いたい癖に!」
「え?うーん…」
「ちょ、会いたくねーの?あ、もしかして実は頻繁に会ってるとか?」
「そうじゃなくて…気分転換したい時に緑間君はちょっと、何か違う」
「ははっ、んだよそれ!」
ケラケラと大げさに笑う高尾は、見ていて清々しい。
家でのジメジメした雰囲気を一転させたかった今、高尾のこういう無邪気な性格は眩しく真司を照らしてくれる。
なんて、初めて会った時と同じようなことを感じていることに気付き、真司はクスッと小さく笑った。
「ん?何よ」
「いや、高尾君に会えて良かったなぁって」
「うわ、それチョー嬉しい!真司は人を喜ばすの上手ぇなぁ。真ちゃんにも見習って欲しいわ」
“真ちゃん”。当然のようにそう相棒を呼ぶのは高尾だけだ。
ふと脳裏に浮かんだ二人のバランスに、真司は高尾の頭から手を引っ込めると、自転車の籠に手をかけて高尾を覗き込んだ。
「高尾君はさ、なんで緑間君に付き合ってるの?」
何気なく出た疑問。とはいえ、初めて思ったわけでもない。
初めて二人を見た時からずっとあった疑問だ。
それを聞いて、高尾は珍しくきょとんとして言葉無く真司を見上げた。
「あ、えっと…何か絶対タイプ違うじゃん?もしかして高尾君って相当の世話焼き?」
「あーそういうことね。そーだなぁ、一言で言えば…“運命なのだよ”ってヤツ?」
全く持って似てはいないが、声を低くして放たれたその台詞は緑間を真似たつもりなのだろうか。
それはともかく。そんな高尾の返答に、今度は真司の方がきょとんと目を丸くした。
「真司と出会ったのも、その元中の真ちゃんと仲間になったのも…真司と再会したのも、ぜーんぶ」
「運命なのだよ?」
「そ!なるべくしてなったっていうかさ、理由は特にねーんだよな」
なるべくしてなった。
疑問を解消する理由ではなかったが、文句の一言も付け足すことが出来ない程、明確に現状を表している。
だからか、真司は腑に落ちない風でありながらも、首をなるほどと縦に動かしていた。
「ま…真司はオレの事忘れてたみてーだけど?」
ずいっと、急に高尾が真司に顔を近付け、真司ははっと背筋を伸ばした。
切れ長の目が怪しげに真司を見つめている。
「しょ、しょうがないじゃん…あんな一回覚えてた高尾君がすごいんだよ」
再会したその日、高尾が声をかけてくれても真司はすぐに気が付けなかった。
それを多少は申し訳なく思っているわけで。
真司が思わず高尾から目を逸らすと、ふっと鼻で笑った高尾が、真司の手に自分の手を重ねていた。
「まーな、あん時、ナンパじゃねーって言ったけど実際ナンパだったし」
「は…?」
「濡れて涙目になってる真司、すっげぇ魅力的だったからさ」
さらりと言ってのけたその台詞は、余りにも真司と高尾の間に漂う雰囲気として似つかわしく無くて。
何だろう、こそばゆい空気に掌にじわと汗が滲む。
「一方オレはフツメン、いや地味メンだし?真司が忘れてても仕方ねーのは事実なんだけど」
「な…何言ってんだよ、高尾君格好良いよ」
「はいはい、お世辞ドーモ」
「お、お世辞じゃないし!高尾君イケメンだから!」
その照れ隠しか、大きくなった声。
しかし照れを隠すどころかもっと恥ずかしくなる言葉を吐いていることに、真司自身気付いていない。
「…じゃー、さ。オレと緑間、どっちか選べって言われたら、どっち選ぶ?」
「え…何それ、顔でってこと?」
「顔っつか…彼氏にしたいのどっち?的な?」
話の内容とは裏腹に、高尾が酷く真面目なトーンで言う。
真司は眉をひそめながらも、少し赤くなった頬のまますぐに返した。
「……質問の意図が分かんないんだけど、普通に考えて高尾君でしょ、そこは」
「はぁ!?マジで!?」
「えっ、なんでそんな驚くの」
考える時間などいらなかった、それ程答えは明確にはっきりと。
それに今度は高尾がまた声を大きくして目を丸くした。
「り、理由は!?」
「な…だって、恋人にってことでしょ?理由もなく毎日会いたいなーって思うのは高尾君の方かなって」
「ま…毎日…」
「一緒にいるだけで楽しそう…って、俺何真面目に答えてんだろ恥ずかし…」
ペラペラとここまで続けて、ようやく自分の発言の恥ずかしさに気付く。
真司はすっと高尾の手を退けて体の後ろに手を引込めると、一歩後ろに下がった。
「変な質問した高尾君が悪いんだからな」
「う、わ…マジごめん。でも今の刺さったわ…やっぱ真ちゃん置いて二人で」
しかし、ここまで意味があるのかないのか定かではないが、続いた会話はぴたりと止まった。
高尾と真司と二人の視線が同じ方向へ動く。
「うっわ、空気読めねーの…」
「高尾ォ…今の台詞、最後まで言えるものなら言ってみるのだよ…」
「悪ィ悪ィ、じょーだんだって」
想定外の高さにある顔。
自転車に腰掛ける高尾も元々背の低い真司も、首を上にやってその男を見た。
「緑間君、久しぶり」
「久しぶり、じゃないのだよ。何故ここにいる」
「何故って…偶然ですけど」
ラッキーアイテム収集は成功したのか、その緑間の手には少々大きめの袋が握られている。
それに気付いてか、高尾はふーっとため息を吐いてから腰を体勢を戻してハンドルを握り直した。
「で?真ちゃん、お買いものは終わった?」
「…ああ、もう十分だ。帰るぞ」
当然のような流れで緑間がリアカーの方へ足を進める。
それを見ていた真司は、焦ったように口を開いた。
「え?帰るの?この後の予定は無し?」
まさかこのタイミングで口をはさまれると思っていなかったのか、高尾と緑間がぱっと首を真司の方へ向ける。
思わず口に出てしまった言葉に、真司は一度腕にはめられた時計を見てからもう一度口を開いた。
「あの、えっと…良ければウチに来ない?ここからそんな距離ないし…お茶とか、お菓子くらいなら出せるよ?」
「マジ!?行く行く!!」
「おい高尾!」
「嫌なら真ちゃんだけばいばーい」
少し緊張しながらのお誘いだったが、緊張の意味もなく高尾がハイハーイと手を挙げた。
その後ろにいる緑間の表情は妙に険しいが、その返答もすぐ。
「嫌だとは言っていない」
「はいはい、ツンデレ真ちゃんも行くってさ」
「そっか、良かった…」
今日一日どう過ごすか…さっきまでは何も浮かんでいなかったのに、この後のビジョンが明るい。
真司はパッと笑顔を咲かせると、こっちだよと後ろを向いて来た道を戻り始めた。
やっぱり、たまにはいいものだ。特に理由のない外出も。
「…真ちゃん、オレ結構ガチかも」
「…何が、とは聞かんぞ」
結局緑間がリアカーに腰掛けることは変わらず、真司の後を追って高尾がペダルに足をかける。
そこで交わされた会話は、真司の耳には届いていない。
花開いた思いにも、真司が気付くことはなかった。