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カカシ夢(2011.04~2016.09)

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苗字は「五色」固定です。
名前

薄暗い空間。見知らぬその場所でナナはサスケを見下ろしていた。


サスケは復讐相手で、実の兄であるイタチを倒した。
事情はよく知らない。けれど、サスケの思っていたことと現実とはかなり違っていたようだ。

そんな、サスケのことを聞く権利はない。
ナナはぼろぼろになって寝ているサスケをじっと見ていることしか出来なかった。



「お前も…成長してんだな…」

サスケの寝顔は、知っているものと違う。幼さは無くなっている。
体つきも、筋肉がついて分厚くなっている。
不思議な感覚だった。


「さて…君が知りたいことを教えてあげようか」

物音立てずに現れた男は、サスケを挟んで向こう側に座った。
怪しげな仮面に全身黒い服。信用出来るはずもなく、ナナは少し腰を浮かせて下がった。

「嘘は言わない。知りたいことを聞けばいい」
「…何が狙いなんだ」
「惜しいと思っただけだ。君のような存在を、木ノ葉に置いておくのは」
「俺は、そんなにすげぇモンじゃねーぞ」

まさか覚えていない2年の間に何か仕出かしたのか。
自分のことまで信じられなくなりそうで、ナナは小さく首を振った。

「あんたは、誰なんだよ」
「…この眼に、見覚えがあるだろう」

男が仮面を少しずらすと、その下にあった目が覗いた。
その目には、見覚えのある勾玉文様が浮かんでいる。

「サスケと同じ…」
「そうだ」

ということは、うちは一族なのだろうか。
しかし、いくらナナでもうちは一族が滅ぼされたという過去は知っている。

うちは一族の生き残りであるサスケ。そのサスケが兄であるイタチを恨んだのは、イタチがうちはを滅ぼした張本人だから。

「…うちはは木ノ葉によって消された」
「は?」
「サスケは復讐者となるだろう」
「ちょっと待て、話が全く見えてこない」

簡潔に話されたと思えば間違いないのだろうが。ナナに理解出来たことは、サスケが復讐者になる、という部分だけだった。

「そ…それを聞いた俺に、何を求めるんだ、あんたは」
「聞きたいことはないのか」
「…」

大事なところははぐらかされている気がする。
それをあまり気にしないように、ナナは目の前の男から視線を逸らした。

「暁って何」
「何とは」
「どういう組織なんだ」
「…知らないのか」

知らない癖に任務に出ていたのか。
そういう馬鹿にした風に聞こえて、ナナの眼がきっと鋭くなる。しかし事実だ。

「だーかーら…知らねぇって言っただろ」
「お前、…」

恐らく男は気付いた。ナナがおかしいことに。
しかし、それには触れずに手を伸ばしてナナの頬に触れた。

「っ、なんだよ」
「俺は五色のことも知っている」
「あ?」
「五色が閉じこもるようになった原因も、木ノ葉だ」

すぐに言葉が出なかった。
咄嗟に男の手を弾いた自身の手が空を彷徨う。

「何の話を…」

その手が急に下から伸びてきた手に掴まれた。


「…ッ」

思いの外強く掴まれて腕が軋む。その手の主は言わずもがな、傷だらけで包帯を巻いた状態で寝かされていた男。

「サスケ…」
「あ…?」

サスケの薄く開かれた目がナナを捕らえる。
しかし、まだぼんやりとしているようで、焦点が合っていない。恐らく、掴んだ腕の主がナナだということにも気付いていないだろう。

「五色ナナ、悪いが外してくれ」
「…は」
「サスケと二人で話したい」
「…」

ナナはサスケの手を腕から外させると、立ち上がった。
薄暗い、部屋というにも何もおかれていない場所。そこを出て、どうしたら良いのか。

あまり考えることをせず、ナナは二人を残してそこから出て行った。


・・・


そもそも知らない場所に知らない人間。それはむしろナナを安心させていた。
知っているのに知らない、その苦痛がここにはない。

何気なく髪を梳くと、思っていたよりも短かった髪はすぐに指の間をすり抜けた。


「なぁ、君」

薄暗い空間の向こう側から、男の、というよりは少年に近い声がナナを呼んだ。

「君が噂の五色ナナ?」
「…誰だ」

ナナの足はぴたっと止まり、目は細めて声の主を探した。
いくら相手が少年だったとしても、ここが敵陣ということを忘れてはいない。

「そんな身構えなくていいよ。ボクは水月。今はサスケと一緒に行動してる」

とん、と足音がして人が近付く気配がした。
少年だと思いきや、身長は明らかにナナと同じかそれ以上。

「…どうして俺を知ってる?」
「サスケに話聞いたんだよ。サスケの心奪うなんて、どんな美人なのかって気になってたんだけど…」

徐々に近付いて来る声は、徐々に小さくなっていく。最後の言葉が消えたときには、顔がすぐそこまで来ていた。
やはり声の通り、恐らくナナよりは年下だろう。

水月はじっとナナの顔を見つめてから、はーっと息混じりの声を漏らした。

「サスケってこういう感じがタイプなんだ。じゃあ香燐に希望はないな」
「は、はぁ…?」
「サスケに何かしたんじゃないの?」
「…何かって?」
「エッチなこと」

初対面でなんてことを聞いてくるんだこいつは。
ナナは自分より少し高い位置にある水月の額を押し返した。

「してねーよ。つかガキに興味はない」
「ガキって…サスケとそんな変わんないじゃん」
「変わるだろ、あいつは…」

子供、と続くはずだった言葉は喉で止まった。
違う。サスケはもう子供ではなかった。ナナの記憶に残る幼いサスケはもういない。

「どうしたの?やっぱりサスケとエッチなことしてた?」
「…男同士で、有り得ないだろ」
「そうかな。少なくともサスケは君に対して思うことがあるっぽかったけどなぁ」

そんなはずはない。そんな予兆などどこにも無かった。
しかし、そう決めつけられるほどナナの中に記憶という証拠が見当たらない。

「変なことを、言うのはやめろ」
「ま、いいけどね」

後ろを向いた水月の背には、その腕に余るほどの大きな武器が背負われている。
少し童顔で危険な人間には見えないが、やはり強大な力を持つ忍であるのだろうか。
サスケも、強くなったのだろうか。

「サスケは…あんたらは何をしているんだ?」
「そんなこと、部外者に話すと思う?」
「正論だ」

水月の後ろをついて行く。
今のサスケの仲間。しかし信用は出来ない。ということはサスケも信用出来ないということになるのか。

「知らないことが多すぎるな…」
「ん?何か言った?」
「いや…」

知らないことが当たり前なのか、思い出せないだけなのか。そんなことを考えるだけで心が不安定になる。

「なぁ」
「何?」
「あんたと俺は初対面で間違いないよな」
「見覚えでもあるの?」
「いや、ない」
「だろうね。初対面だから」
「…そっか、そうだよな」

その一言で安心する。そんな自分の状態が嫌で嫌で仕方なかった。

物覚えは悪くない自信がある。しかし、薄暗いことも相まって、歩いて来た道のりは全く把握出来なかった。

水月の後ろを、ただ何も言わずについていく。


「ここ、入って」
「…何?」
「ボク等は待機。サスケが動けないんじゃ何も出来ないからね」
「…」

本当にサスケの仲間なんだ。それがなんだか不思議で、ナナはためらいながら水月の示す場所へ踏み込んだ。




「おい水月、どこほっつき回って…」

入った途端に赤い髪の女が睨みを効かせてこちらを向く。もう一人大きな男も目に入って、ナナは入りきる前に足を止めた。

見た目にはわからないが、この二人もきっと相当の実力者だろう。
簡単にこんな場所に入って行って良いのかと迷う。その背中を水月がどん、と押した。

「ほーら、さっさと入れってば」
「っ、押すな…」

背中からカタン、と扉が閉まる音が聞こえて、ナナは無意識にごくりと唾を飲んだ。

「連れてきたよ、五色ナナ

当然のように自分の名前が出てきて、ナナの肩が小さく揺れる。
目の前の女は眼鏡をくいっと上げて、やけにじろじろと見てくる。大男はさほど興味はなさげだ。

「それが五色ナナねー…って!男じゃねーか!!」

赤髪眼鏡の女は何を思ったか水月に掴みかかった。

「ぐえっ!」
「サスケよりデケぇし…かっこいい…じゃねーか」

顔がずいっと近付いて、食い入るように見つめられる。
正直、拍子抜けした。どんな連中かと思えば、ただの仲良しグループみたいな感じに見える。

「ウチは香燐。あっちにいるのは重吾」
「…はぁ」
「お前、木ノ葉にいたんだろ?サスケを追ってきたんじゃないだろうな」
「違ぇよ…」

ナナはふいっと顔を背けて壁に体を預けた。なのに、香燐の手がナナの顔を掴むと無理やり向き合わされた。

「…何」
「キレーな顔してんだから、背けんなよ」
「お、香燐。珍しく積極的だな」
「ちっげぇよ!見なきゃもったいねーと思ってだな!」

水月と香燐が言い合う。それを単純に煩いと思いながら、ナナはずっと大人しくしている重吾を視界に映した。

「っ!」

重吾と目が合ってしまって、ナナは意味もなく逸らした。
暫くその後も動かなかった重吾は、大きい体を小さく動かしてナナ達の方へ向く。

「…水月、香燐。彼が困ってる」

穏やかに言う重吾の口調はおっとりと、聞き心地の良い低音で。更にその目を優しい。
意外だった。この空間に見合わない、ただの優しそうな人がそこにいる。

「ボクは悪くないよ。香燐が煩いだけだからね」
「あぁ!?そもそもテメーがな!」

本当になんなんだろう、この連中は。
しかし、嫌な気はしなかった。むしろ、ナルトやサスケ、サクラと班を組んでいた頃を思い出す。
カカシみたいな面倒な大人もいない。

「…ふ」

自然と笑みが零れる。
様子を見て、すぐに木ノ葉の方へ帰るつもりだったが、暫くはここに留まってもいいかもしれない。

そんなことを考えながら、腰にあるはずの刀が無いことを、少し不安にも感じていた。




・・・




その後、暫くしてから姿を見せたサスケは、元より黒い瞳をより一層ぎらぎらと光らせていた。
覚悟を決めた顔。強い意志を感じる瞳は、今までのサスケと同じなのに、少し恐怖を感じるほどだ。

「サスケ、こいつどうすんの?」
ナナか…?」

サスケはナナの存在に気付き、少し驚いたように目を開くとゆっくり近付いてく来た。
ナナは妙に緊張して、息を大きく吸って吐く。

「どうしてここにいる」
「さっきの…変な仮面付けた奴について来た」
「木ノ葉を捨てたくなったのか?」
「考え中だ」

あながち嘘ではない。
ナナの頭の中には先ほどの…写輪眼を持った男の言った言葉が残っている。

うちはの滅んだ原因や、五色が周りの忍の里との関係を断った原因が木ノ葉であるという話。
自分の記憶が消されたという事実もあって、ナナの木ノ葉への信頼は疑われつつあった。

ナナ、お前はオレより弱い」
「あ?」
「余計なことは考えるなよ」

サスケの顔がずいっと近づいてきて、その距離が無くなる。サスケの息が耳を掠めたと思うと、甘い痺れが体に走った。

「っ、」

サスケが耳を噛んだ。
すぐにサスケの体を剥がそうとしたが、思いの外サスケの腕の力が強くて。ぴちゃ、という音と共に生暖かい感触が耳を刺激してくる。

「お、いっ、サスケ…!」
「耳も弱いんだな、ナナ
「調子、のんなっ」

手にチャクラを流してサスケの体を押し返すと、サスケはすぐにナナから離れた。

確実にサスケの体は雷のチャクラで痺れたはずだ。しかし、サスケは不敵に笑っている。

「ちょっと、サスケ。そういうのは見えない所でやってくれる?目に毒なんだけど」
「悪かったな、次は気を付ける」
「…」

次なんかねーよ。
そう思いながらも、ナナはサスケに触られるということが初めてでないことを確信していた。
サスケはナナの耳しか触っていない癖に「耳も弱い」と自然に発言した。それがどういうことか、わからないナナではない。


「これから今後の作戦を決める。ついて来い」

真面目な顔でサスケが言うと、ナナ以外の三人は深く頷いてサスケの後ろへついた。

しかしナナは、自分が彼らにとってどういう存在なのかわかっていたから動かなかった。ナナは木ノ葉の忍だ。腰に巻かれた額当てがそれを証明している。

「本人はわかっているようだけど、まさか敵に情報与えるようなことはしないよね、サスケ」
「…水月、お前はここでナナと待っていろ」
「え!?」
「香燐、重吾、来い」

有無言わせず。サスケは香燐と重吾だけをつれて部屋から出て行った。

ぱたん、と扉が閉まる。
去り際にざまあとでも言わんばかりに笑っていた香燐に水月は拳を震わせていたが、暫くして諦めたのか拳を降ろして項垂れた。



微妙な空気が流れる。

ナナは壁にもたれたまま地面に手をついて座った。水月はナナを見下ろしたまま動かない。

特に交わしたい会話もなければ、お互い相手にさほど興味があるわけではないのだから、こうなるのは当然だ。

「…はぁ。サスケって理不尽」

軽くぼやいた水月はナナの正面に腰を下ろしてナナの顔を覗き込んだ。

「そう思わない?」
「…別に」
「会話を続ける努力をしてくれない?」

水月は静かな空間がどうにも嫌らしい。落ち着きがない、といってもいい。
そわそわしながらナナをじっと見つめて、何も反応がないことがわかると大げさにため息を吐いた。

「ほんと、何で来たの?サスケが見たことないくらい浮かれてるんだけど」
「知らねーよ…」
「あんたの色気は認めるけどさー。男同士ってどうなの?正直グロくない?」
「…っ」

そんなこと知っている。
忘れたくても忘れられない過去。どうせ無くなるならその辺の記憶まで全部奪ってくれたら良かったのに。

「ね、サスケはあんたを逃がす気ないみたいだけど、どうすんの?いつまでボク等と一緒に来るの?」
「さぁ…」
「…キスしてみてもいい?」
「やめろ」

完全に興味津々状態である水月の顔を手のひらで押し退ける。
その手のひらをべろっと舐められて、ナナはその手をさっと引っ込めた。

「…グロいんだろうが」
「男同士はグロいと思うけど、あんたは別かなって」
「胸はねーし、下だって付いてるぞ」
「…やっぱ止めとく」

沈黙。それは嫌な空気ではなかった。
目を瞑ってもこれといって嫌なことが思い浮かぶわけではない。木ノ葉にいるよりは、よっぽど気が楽だ。


薄らとカカシのことが瞼の裏に思い浮かんで、胸がずきりと痛んだ。痛む理由はわからない。

決して嫌いなわけではないのだ。ただイラついていたこともあって、カカシの態度が、あの目が嫌だった。
自分を見ていない、記憶を失う前のナナを見ている、あの目が。

結局サスケから何の話も聞かないまま、ナナは彼らと共にいた。

サスケ、水月、香燐、重吾の四人は「鷹」と名乗り、「暁」と手を組んだ。何故そうなったのかは知らない。
しかし、写輪眼の男、マダラがサスケを上手いこと丸め込んだのだということはナナにもわかった。


サスケの最終目標は木ノ葉を潰すこと。その為の準備段階が今である。

ナナがサスケ達から聞くことなく把握出来たことはこれだけだった。


ナナ、移動するぞ」
「どこに」
「ターゲットのところに、だ」

ナナがきょとんとすると、後ろにいた重吾が軽く背中を押した。

「心配しなくていい」

そしてもう一つわかったこと。重吾はとても優しい。
でかい図体の割に穏やかな性格で、ナナにも親切にしてくれる。香燐に突っ掛れたときなど、特に。
殺人衝動がある、という危険な一面もあるが、基本的にそれがなければ良い奴だった。

「全く、重吾もサスケもナナに甘すぎだよ。その少しをボクに分けてくれてもいいと思うね」
「俺は別に頼んでない」
ナナもつんつんしちゃってさ。可愛いんだから」
「…」

なんだかんだ悪い連中でないことは確かで、共にいればいる程親しくなっていく。

もうこのまま木ノ葉に帰らなくてもいいのではないかという気もし始めていた。
##NAME2##が紹介してくれた場所、というだけでナナにとっては思い入れも何もないのだから。

「なんで紅一点のウチよりナナの方がそれっぽい感じになってんだよ」
「俺に聞くな」

初めは敵視してきた香燐ともなんとなく会話出来るようになってしまった。
今でも敵視されていることに変わりはないが、サスケもあれ以来変な触り方をしてきていない。むしろ最初が気のせいだったのだと思えてくる。

「な、ターゲットって何なのか聞いてもいいのか」

しかし、いくら馴染んでいても彼らと仲間ではない。いつも何をしているのかナナだけが知らない、知らされない。
水月も重吾も香燐も、サスケの顔を見て黙り込んだ。

「…知られたら困ることなら言わなくていい。俺はずっとここに留まるつもりじゃ」
「八尾だ」
「…?」
「これから八尾を回収しに行く」

サスケはためらうことなく告げた。珍しい。ナナだけでなく皆目を丸くしている。
しかし、ナナには何のことだかわからなかった。

「…はちび…?」
「はぁ!?んなことも知らねーのかよ!」
ナナ、木ノ葉に信頼されてなかったんじゃないの?」

香燐と水月が続ける。重吾も戸惑っているし、サスケもそこまで説明する気はないようだ。

「このままボク等と一緒にいるって誓えばもっといろいろ教えてあげるのに」
「そういうわけにはいかねーよ」

そういうわけにはいかない。なんといっても今ナナは刀を持っていないのだ。

何よりも大事な五色の刀。保険として置いて来たが、置いて来た以上ここに居続けることは出来ない。ナナにはあの刀が必要なのだ。

「俺がここにい続けることは有り得ない」
「そこまで言うんだ、度胸あるね」
「だったらさっさと消えろよ。ウチらを誘惑しやがって」

言葉に出したのは水月と香燐だけだったが、明らかに重吾もサスケも良い気持ちはしなかっただろう。自惚れではなく、確実に。
味方でないということはつまり、敵だと認めたことになるのだから。

「それでも、サスケが敵だと見なさない限り、オレはナナを守る」
「重吾…」
「人として、オレはナナを嫌いじゃないからな」
「俺も、重吾のこと嫌いじゃないぜ」

自然と笑顔になる。
居心地が良くなってしまうのを避けられなくて、それが今一番辛いことだった。



・・・
・・・



ちちち、と鳥が鳴きながら空を通り過ぎていく。この空の下、どこかにいるナナを思って、カカシはぼんやりと外を眺めていた。

どこまで遠くを見ても、気配を感じようとしてもナナを感じられない。

「オレが…落ち込んでいる場合じゃないのにな…」

押し殺したような声が漏れる。
カカシは握り締めた拳をそのまま額に当てた。

暁の者に自来也が殺された。
今存在する木ノ葉の忍の中でも一、二を争う実力を誇っていた、木ノ葉の三忍の一人でもあった、あの自来也が。
それは木ノ葉に衝撃を与えたし、何よりナルトの心を傷つけた。

ナナ…オレはどうしたら良かったんだろうな」

暁の狙いが尾獣である以上、自来也を殺した者はまもなく木ノ葉にやって来るだろう。
ナルトは修業の為に安全な場所にいるし、ナナも木ノ葉を離れている。

カカシのやることは、彼らが帰ってくるまでここを守ること。命を捨ててでも、次の世代の子供達を守ることだ。

「…ナナ

最期くらい、ナナの笑顔が見たかった。ナナを抱き締めたかった。
そんな嫌なことを考える自分がいる。

ナナの為に、記憶を消すのは必要なことだった。それを今、カカシは後悔している。

手にしたナナの刀をきつく抱き締めて、この思いがナナにも伝われば良いのにと祈る。
次の瞬間、刀がナナに変われば良いのに、と祈って止まない。

ナナ、愛してる、ナナ…」

どこにいるとも知れない愛しい存在。
どうか無事で、生き延びてくれ。もし自分が命を落とすことがあったら、どうかそのまま思い出さないで。
覆われた左目からは涙が流れて、布を濡らしていた。




・・・
・・・




八尾、それが今目の前にいる。
八尾がどこにいるのか、情報を得るのは簡単だった。サスケの瞳力が新たな能力で相手の言葉を捻り出したからだ。

そう、写輪眼に新たな力が宿って、サスケの強さはもはやナナの知るものではなかった。ナナの知っているサスケはどこにもいない。

そして、その強さを知ってるが故か、元々戦うのはサスケ一人のはずだった。しかし、今、まさにそうもいかなくなっている。

八尾、とは化物だった。



ナナは下がって」

重吾の手がナナを下がらせる。
水月も体を張って闘っているし、サスケもなんとか香燐の力で回復しながら闘っている。
実力は見るからに八尾の方が上だった。

「重吾、俺…!」
ナナ、いいから安全な場所まで下がってくれ」
「でも」
「オレ達は四人だ。ナナの力は必要ない」

ナナは鷹のメンバーではない。だから、力を貸す必要はない。
そう、ナナには関係のないことだ。関係ないとわかっていても、見ているだけ、なんてあまりにも。

初めはちょっと強い男だったが、今、相手は巨大な八本の尾を持つ化物なのだ。

「ここはボクがやる、今のうちに逃げろ!」

サスケ達の連携は上手いこといっている。しかし、それでも圧倒的な相手。
水月が壁をつくってくれているが、それも崩されて。逃げる余裕すら与えられない。

「…っ」

手元に刀はない。ナナに出来るのは、せいぜい術で敵を陽動する程度。
だったら確かに逃げた方が足手まといにならずに済む、のか。

「危ねぇッ!」

八本の大きな尾の攻撃範囲は想像を超えていて、ナナは傍に居た重吾を抱き抱えて攻撃を避けた。風遁のチャクラを身に付けて、通常時よりも瞬間的に反応する。

重吾はサスケを守る為にチャクラを使い、どういうわけか体が縮んでいた。2mをも超える大男だった重吾も、今ならナナの体にも収まるサイズだ。


「サスケ、どうすんだ?」

距離を取る為に飛び退いたサスケもナナの隣に並ぶ。腕に噛み跡をたくさん作った香燐も、すぐに追いつきサスケに寄り添った。

「…」

水月の体は相手の雷遁にやられて原型がなくなっている。これで生きているのが不思議なくらいだ。
さり気なく水月の体に触って、効果があるかわからないが水遁のチャクラを流し込む。

「サスケ!」

香燐も声を上げる。重吾は小さい体で息を荒げて。
今になって、ナナはこいつらが本当にチームなんだと実感していた。
そして、そこに入ってはいけないとわかっていながら、何もせずにはいられない。

「…サスケ」

ナナも、サスケを信じてサスケを見つめた。今、奴を倒せる力を持つのはサスケだけだ。だから皆必死にサスケを守った。


サスケは、一度深く目を閉じて、それから力強く目を開いた。



「ぐあぁああ!!」

あまりにも大きな叫び声に、辺りの空気が震える。
サスケの使った術は、当然のようにナナの全く知らないものだった。いや、その場の誰も知らなかった。

八尾の体を黒い炎が包み込む。消えない炎が敵のでかい体を覆って、蝕んでいく。
形勢は一気に逆転した、というより、その瞬間に勝利は確定した。





辺りは急に静かになって、そこには彼らの息遣いしかなかった。

「八尾…かろうじて生きてるみたいだよ」

水に浮く八尾の男を見て、重吾が呟いた。
サスケの瞳力でその炎を消し去った時、八尾が小さく息を吐いたのが見えていたのだ。その姿は、もう化物ではなく人間の姿に戻っている。

「…これで八尾を殺さずにすんだ…。さっさと連れていくぞ」

サスケは肩で息をしながらも、力を失い倒れた八尾の男を回収する。その横に、重吾が並んで、ナナはその一歩後ろを続いた。

「重吾…そのしおれた水月、俺が持とうか?」
「いや、大丈夫だ。ナナは気にしなくていい」
「…そっか」

重吾は片手ずつに香燐と水月を抱えている。しかし、ナナには何もさせなかった。

「鷹」と名乗りながらも、彼らは「暁」の装束を纏っている。しかし、ナナは違う。ナナだけは彼らの仲間ではない。
サスケはナナに暁とは関わらせなかった。

ナナ、はっきりさせた方がいいと思う」
「ん?」
「サスケもだ」

サスケは顔を動かさず、目だけを重吾に向けた。
ナナはもう重吾の考えていることがわかって、少し俯く。

ナナはオレ達の仲間になるのか、それとも、木ノ葉に帰るのか」
「…」

ナナは本気で迷っていた。正直、ここの居心地は良くて、木ノ葉に帰りたいなんて思えないのだ。

「俺は…」

しかし、何も知らずにいられるほど、この空間は甘くない。いつまでもくっ付いて行くことは出来ないだろう。

ナナはちらりとサスケの顔を見た。何か言ってくれることを、少し期待していたのかもしれない。
しかし、サスケは何も言わなかった。


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