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カカシ夢(2011.04~2016.09)
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その日、ナルト達には話さなかった。実際に術を受けてからでも遅くはないだろうし、ナルト達に不安な顔をさせたくなかったからだ。
不安にさせたくない、だなんて。自惚れにも程がある。それでも、あいつらは悲しい顔をしてくれるのではないかと、変な期待をしてしまう。
「カカシ、一緒に寝ようぜ…?」
とんとん、と腰かけるベッドを手のひらで軽く叩く。シャワーを浴びて出てきたばかりのカカシは、頭をタオルでがしがしと拭いながらこちらへと向かって来た。
「怖いのか?」
「怖い…とは違うな。正直よくわかんねぇ」
ナナは目の前に来たカカシの手を取った。確かめるように握ったり、擦ったりを繰り返す。
「確かに、俺は変わったよな…」
カカシといると、こんなに心が穏やかだ。先生以外の人間なんてどうでもいいと思っていたのに。
「あんたが好きだ」
「知ってるよ」
「…だよな」
ぱっと手を離してナナはベッドに体を預けた。カカシとは反対側に向けられた顔は薄ら赤くなっている。
そりゃそうだ。うっかり言ってしまった言葉は余りにも恥ずかしすぎた。
「オレも、ナナを愛してるよ」
「も…いい、黙れ」
「わかった」
まさかカカシが素直に頷くとは思っていなくて。ナナは振り返ってカカシの顔を確認した。
途端に唇に触れる暖かい感触。
「ん、ぁ」
唇から首へとカカシの唇が辿る。じわじわと熱くなる体に、ナナはシーツをきつく握った。
駄目だ、こんなんじゃ足りない。
「か、ぶとが…っ」
「ナナ?」
「俺に触るんだ…熱くて、もっと…っ」
感触が思い出される。カカシが触れているのにカブトの手と熱を思い出してしまう。
本当に嫌な体だ。
「ナナ…オレじゃ忘れさせてやれないかもしれないけど…」
「いい、よ。いいよ。触ってくれ…」
最後に自分を抱いた人間が、カカシでないのは嫌だ。そんな贅沢なことを考えている。
違う。別に贅沢なことなんかじゃない。望んで当たり前なんだ。
「好きだ、好き…っ」
思いが溢れる。
その時、初めてこの思いが消えることに恐怖を感じた。
・・・
嫌になるくらいの良い天気。
朝が来るのが憂鬱で、朝が来てもやはり気分は優れなかった。
カカシとは別に一人で家を出たのは、これ以上揺らぎたくなかったからだ。
ナナは、もう見慣れた風景の広がる部屋に導かれる。
「覚悟は出来ているか」
「…あぁ」
「脳に作用する術だ。余計なことは考えるなよ」
「…大丈夫です」
本当は、大丈夫じゃなかった。
昨夜気付いてしまった、忘れたくないという感情。
「…」
「本当に平気か?」
「今じゃないと…もっとダメになる」
覚悟を決めてここに来た。むしろ今しかない。
時間が経てば経つほど後ろ髪引かれる思いが強くなることに、ナナ自身気付いていた。
「あ、一つ…いや、二つ伝言を頼んでいいですか」
「ん、なんだ?」
「ゲンマって奴に、今度会ったらぶん殴ると」
今度会った時、覚えているかはわからないけれど。
「あと…」
ずきりと胸が痛む。ナナは震える息を大きく吐き出してから、すんと吸い込んだ。
「…カカシに、迷惑かけてごめん、と」
目を閉じる。次に目を開けたときには、カカシのことを愛していないのだろう。
切ないな。
朝なのに、起きてからそんなに時間も経っていないのに、ナナは再び眠りに誘われていった。
・・・
「き、記憶ってどういうことだってばよ…!?」
ぽかんと口を開けて理解出来ない、という視線を向けるのはナルトだけではない。隣に立っているサクラもナルトと同じような表情を作っている。
「ナナさんに、一体何があったんですか…?」
「詳しくは話せない」
「なんで!」
カカシから呼び出されて集まったナルトとサクラとサイ。そこで説明されたのは、ナナがここ数年の記憶を封印する、ということ。
「ナナの前で、大蛇丸やカブトの話をしないで欲しい」
「もしかして、大蛇丸に何かされていたんですか!?」
「ま、そんなとこだよ」
「…そんなとこって…」
ナナにかけられる術の解かれるきっかけ。それは封印された記憶が刺激されることだ。
術を解くことも可能だが、脳に対して行う術であるため、ナナ自身が受け入れる状態でないとリスクがかかる。綱手はそう言っていた。
「ナナは、それでいいって言ったのか?」
「あぁ、ナナは自ら望んだ」
「そんなに…辛いことがあったのか…?」
ナルトの瞳が揺れる。
昨日、一緒にラーメンを食べた時も、ずっと苦しめられていたのだろうか。
「ナナ…なんでオレ達に言ってくれなかったんだ」
「言えないこともあるんだよ」
「カカシ先生は、ずっと知ってたのか」
「いや…オレも知らなかった」
カカシの目が伏せられて、ナルトもサクラも何も言えなくなった。
「ボクは…」
「サイ?」
「ボクは知っていたかもしれない」
それまで黙っていたサイが、少し躊躇いながら言う。
「ボクは目の前にいながら彼を助けなかった」
「何を…」
「言えません。ナナさんが言えるわけがない…」
無表情でい続けたサイの顔が歪んだ。
もうナルトもサクラも、カカシでさえ何も言えなかった。それほどのことがあって、ナナは耐えてきたのだと、嫌でも理解させられてしまった。
「…わかった。ナナがこれ以上辛い思いをしないようにすればいいんだな」
「ナルト…」
「ナナは仲間だ。記憶とか、んなもん関係ねーってばよ!」
「ええ、そうね!」
彼らに出来るのは、ナナを受け入れること。
ナナが戻って来やすい環境を作ること。
しかし、それは口で言うほど容易なことではなかった。
散り散りに飛び出して、ナナはカカシの後を追った。
正直に言うと、今のナナにとって一番気に食わないのがカカシだった。
向けてくる目が、表情が気に食わない。
そんな文句を言っても仕方がないために無言でカカシの後を追うが、居心地が悪いったらなかった。
「…ナナ」
沈黙の中、先に口を開いたのはカカシだった。
「ナナには少し、説明する必要がある」
「だろうな」
二年という大きな隙間。
今のナナにわかるのは、サスケが木ノ葉を抜けたということ程度。状況を知らずに動くというのは、精神的にもよくなかった。
「元々、サスケには復讐という目的があった。その復讐の相手が実の兄、うちはイタチだ」
聞いたことがあるような、ないような。
サスケに何かあまりよくない目的がある、ということは知っていたような気がする。
「そのイタチが暁という組織に所属している。そして、その暁はナルトを狙っているんだ」
「…なんでまたナルトを」
「ナルトには…九尾という巨大なチャクラを持つ存在が封印されているからだ」
「へぇ」
この任務の内容は、サスケを見つけるためにイタチを探すというもの。
ナナはあまりピンと来ない内容に首を傾げた。
「どうして、今なんだ?」
「…ん?」
「なんで今サスケを追うんだ」
「…」
カカシはいつも細めている目を一瞬大きくさせた。
「…サスケが、自由に動けるようになったからだ」
「今までは自由じゃなかったのか?」
「ん。そういうこと」
何か隠された。
そう気付きながらも、ナナはそれ以上聞かなかった。
それよりも気になるのは、カカシの態度だ。
「あんたは俺に後ろめたいことでもあんのかよ」
「え?」
「あんたの目、見てるとイライラすんだけど」
カカシが足を止めた。それに続いてナナもカカシの横で止まる。
「あんたが俺に何かした?それとも俺があんたにした?」
「何かって…?」
「さぁ、あんたの思う通りだろ。俺は知らねーんだから」
誘導するのが上手いな。カカシは悠長にそんなことを思っていた。
今のナナははっきりと物を言う。それは有難くて、そして残酷だった。
「だから…大人は嫌いなんだ」
「ナナ…」
「俺は、あんたを信用しない」
鋭い目つき。明らかに敵視する視線がカカシを捕らえている。
「…それでいいよ」
カカシはその視線から逃れるように再び前を向いた。
地味にきつい。ナナの言葉が確実にカカシの心に突き刺さっている。
「それでもオレは、ナナを信じてるから」
ぼそっと呟いた言葉はナナに聞こえていたのかわからない。
ナナはそれ以上何も言わなかった。
神経を鋭くさせながら道を進む。
その間、彼らに会話はなかった。ピリピリとした空気が二人の肌を刺激する。
「…なんだ?」
ふと、ナナがぱっと顔を上げた。
その方へ顔を向けたカカシの目にも、不可解なものが映る。
光を纏った人型のようなもの。それはゴゴゴ…と音を立てながら大きくなり、辺りを包み込んでいた。
「…暁の気配だ」
「暁?」
「あぁ、あそこへ行こう。あれなら、皆も気付いて集まるはずだ」
こくりとナナが頷くのを確認して、二人は地を蹴った。
・・・
妙なものが見えた場所に辿り着くと、そこ一帯が殺風景と化していた。
元からこうであったとは思えない。不自然な円状の窪みがそこには出来ていた。
「パックン、どう?」
「…サスケのニオイだ」
カカシが忍犬のパックンに声をかけると、鼻をひくひくと動かしながらパックンが呟いた。
「他にもいくつかニオイが残っているな」
なんとなく、何があったか推測は出来る。
カカシが難しい顔をしてその周辺を見渡していると、少しずつ聞こえてきた軽い足音がそこに到着した。
「カカシ先生、それにナナさんも!」
「やっぱりここに来たか!」
サクラと、大きな犬、赤丸に跨って来たキバ。少し間があって、すぐにシノも後を追って来る。
彼らもまた、カカシ達と同じように暫く不思議そうに辺りを見ていたが、誰よりも早くキバが口を開いた。
「サスケ…あいつのニオイが残ってる。でもここで消えてるぜ」
「見た感じ…ここで戦っていたのかしら…」
サクラが不安そうに言う。しかし、戦闘があったということは間違いがなさそうだった。
「いくつか残っているニオイの二つは暁のものだ」
「じゃあ、サスケ君と…暁が?」
「可能性はある。その他のニオイはたぶん…サスケが行動を共にしている忍のものだろうな」
サスケは小隊で行動している。そして、小隊の基本は四人。サスケには他に三人の忍が付いていると考えて良いだろう。
「なぁ」
ずっと黙っていたナナが小さく声を漏らした。
そこにいた皆の視線がナナに集まる。
「サスケには今、他に仲間がいるってことだろ。そのサスケを追って…あんたらはどうしたいんだ?」
単純な疑問。
それに対してすぐさま返答出来るものはいなかった。
「俺には、こうしてサスケを追っている意味がわかんねぇ」
「…サスケを追うことは、そのまま暁に繋がるから」
「だから、わざわざサスケ経由なのはなんでだよ」
カカシは困ったように頬をかいて、サクラはナナの態度にびくりと震えた。
こんなに怖い人だったろうか、こんなに威圧感のある人だったろうか。仲間であるナナに恐怖を感じてしまう。
「…ナナ」
「つまり、サスケを連れ戻したいってことだろ?」
「まぁ…そうだよ。ナルトも、そう望んでる」
「なんつーか。木ノ葉って勝手な奴多いよな。偽善…っていうのか」
ふっと笑ったナナの、その笑顔は昨日までとは全く違った。
嘲笑、木ノ葉を見下したような、馬鹿にしたような言い方。
「おい、ナナ…そりゃあ言い過ぎなんじゃねーのか」
怯えたようなサクラの様子に、キバが間に割り込む。
そのキバにも、今のナナがそれまでのナナと違う存在に見えていた。
あまり関わりのなかったキバでさえそう感じるのだから、カカシやサクラにとっては相当のものだろう。
「…サスケは…あれでも木ノ葉の、オレ達の仲間なんだから、よ」
「俺達の、ねぇ」
ナナは、まだ疑っている。
カカシを信用しないと言ったように、木ノ葉、人間を信用出来なくなっている。
そうわかって、カカシがナナに近付こうとしたとき、足音が増えた。
まだ到着していなかった、ナルトとヤマトとヒナタ。
「何があったんだってばよ!?」
ナルトの大きな声に、カカシは踏み出した足を止めた。ナナの視線は、誰とも交差しない地へと伏せられる。
「…サスケくんのいた痕跡があるの」
「じゃ、じゃあ!さっさと追うってばよ!」
「ちょっと待て、今探す」
キバが印を結んで目を瞑る。
キバの嗅覚は忍犬のそれ以上に敏感である。今、サスケを追うことが出来るのはキバだけだった。
その隙に、ヤマトはカカシに近付いた。
「何があったんです」
「まぁ…ちょっと、ごたごた」
ヤマトの目はちらりとナナに向けられて、カカシは小さく頷いた。
「やはり、簡単にはいきませんか」
はぁ、と息を吐くヤマトに対して、カカシはじっとナナを見つめていた。
このままでは、ナナから離れていってしまう。
一度失った信用の取り戻し方など、わからなかった。
・・・
サスケのニオイは多数に分散して、それを追うためにナルトは影分身をした。
主に追うのはナルトで、発見し次第、皆に知らせる。
そうして走り出した彼らの心中は、やはり複雑なものだった。
ナナの発言は、カブトの言うものに似ていた。
自分から木ノ葉を抜けたサスケを追うことへの嘲笑。あながち間違っていないから言い返せない。
それでも、サクラはこのままにしたくなかった。
「…ナナさん」
キバが先頭で走る中、サクラはナナの横に並んだ。
ナナは返事をせずに、目だけをサクラに向ける。それでも、話は聞いてくれるのだということに安心し、サクラは続けた。
「ナナさんは、何が気に入らないんですか…?サスケくんを追うことですか、それとも…私達ですか?」
気に入らないと言われたらどうしよう。不安から声が詰まる。
しかし、そのサクラの不安を余所に、ナナは軽く言い返した。
「違う」
「違う…?」
じゃあ何故。そう言う前に、ナナは口元に小さく笑みを浮かべてサクラに向けた。
「悪かった」
「え、え?」
「サクラにそんな顔させたかったわけじゃない…」
その顔は、よく知ったナナに近くて。サクラは逆に困惑してしまった。
「な、なら…どうしてあんな態度…」
「…腹が立ってたから」
「何に?」
それには答えなかった。
答えようとしたその瞬間、ナナの目はカカシと合ってしまったから。
ナナは大人を信じられない、それも特に男性に絞られている。
その対象にカカシが入ったことはなかった。それが今、こうして真っ直ぐ嫌悪感を向けられている。
「…っ」
カカシは隠しきれない辛さを表情に浮かべていた。
ナルトの影分身がサスケと接触した。
接触した影分身が消えたことで、直接ナルトにその情報が伝わったのだ。
当然、その影分身を追ってサスケの元を目指していたし、間違いなく彼らはサスケとの距離は縮まっていた。はずだったのに。
彼らの足はある場所で止まっていた。
「さてと。何して遊びましょうか?木ノ葉の皆さん」
眼前にある木の上に立って見下ろしているのは暁の装束を着た一人の男。
今までに一度も見たことのない暁の者だった。
「そんな暇ねーんだってばよ…!」
「フォーメーションBでさっさとケリをつけるぞ」
元より決められたフォーメーションで相手に立ち向かう皆の背中を、ナナは後ろで眺めていた。
フォーメーションの説明を受けていないとか、そういうことではなくて。なんとなく、彼らと協力して動く気にはなれなかったというだけ。
「うわあ!キモいって!!」
暁の男に、シノの寄壊蟲が襲いかかる。
無数の蟲達が全身を覆い尽くすまでに時間はかからなかった。
「ヒナタ、どう?」
「はい!確かにターゲットはシノ君の蟲達の中にいます!」
この確認をする理由は、今まで全ての攻撃がすり抜けるようにかわされていたからだ。
相手の能力は謎だった。
「…何!?」
蟲達がわらわらと散り出す。そこに、男はいなくなっていた。
一瞬、誰もが暁の男の行方を見失う。
ヒナタがいなければ、再び見つけるまでに時間が必要だっただろう。
「あそこです!」
ヒナタが指をさした先には、ナナ。
そして、その背後に回るように暁の男が立っていた。
「…君は戦わないのかい?」
腕を掴まれて、盾にされている。
すり抜けるようにして今まで全ての攻撃を避けてきた男に、そんなものは必要ないだろうに。
「戦うつもりはないぜ。俺はあんたらのこと、よく知らねーし」
「あんたら…?暁のこと?」
「そーだよ。暁、なんて組織知らない。今の俺にわかることは何もないから」
「へぇ…」
面を着けている男の顔は見えないが、恐らく不敵に笑っていたことだろう。
押さえ込まれたまま、ナナの体は宙に浮いた。
そのまま、ナルト達の前にある木の上まで連れて行かれる。
「な…!ナナを放せ!」
真っ先にカカシが声を上げた。
それを気にしない様子で、男がナナの顔をじっと見つめて放そうとしない。
「君知ってるよ。サスケと同じ班だった…五色ナナ君」
「だったら、何だよ」
「綺麗な顔だな…」
頬を撫でられて、少し身震いする。
しかし、この男にその気がないことくらいすぐにわかった。
「サスケに会いたくはないか?」
「…」
別にサスケに会いたいとは思わない。
しかし、ナナはこの男ならナナの知らないことを教えてくれるのだと、根拠なく感じ取っていた。
正直に言ってしまえば、今のナナにとって何が正しいのか判断しようがなかったのだ。
無言は、もはや肯定を示していた。
「うちはイタチは死んだ。サスケの勝ちだ」
その言葉は、全員に聞こえるように放たれた。
驚いたように目を見開く者が続出する中、ナナだけは表情を変えず。
「あれ?君は驚かないね」
「だから言ったろ、俺は何も知らない」
「…俺が教えてやろうか。君が知りたいことを、全て」
「願ったり叶ったりだな」
ナナの体は暁の、細身の男に抱き上げられた。
「おい!待てってばよ!今、サスケはどこにいる!?」
「…貴様らの相手はまた今度だ。彼は頂いて行くよ」
「ま、待て…!」
「じゃあな」
追いかけることが出来なかったのは、その男に対して疑問と恐怖を抱いたからだった。
赤く光る瞳は、うちは一族と、カカシにしかない写輪眼で。
驚いて身構えたその隙に、ナナごと、その男は姿を消していた。
取り残されたナルト達は、暫く、暁の男が消えた一点を見つめ続ける。
一体、あの男は何者なのか。そしてナナは何を考えているのか。
「ナナ…なんでだ…」
ナルトが呟く。
ナナは明らかに、抵抗する気がなかった。
抵抗したって敵わなかったかもしれない。しかし、ナナは全く、身動きすらとろうとしなかったのだ。
「記憶ないっつっても、戦えないわけじゃねーんだよな?」
「ナナさん…」
キバとヒナタも怪訝そうに眉をひそめて、ナナの行動を理解出来ない様子でいる。
「オレのせいだ…」
カカシは頭を抱えていた。
ナナは木ノ葉を信じられなくなっていたのに、カカシはその不信感を取り除いてやるどころか、それを増幅させてしまったのだ。
「で、でも、ナナさんは…考えなしに行動する人ではないはずです」
「そうですよ、カカシ先輩」
ヤマトが腰を折って、そこに落ちているものを拾い上げた。
「見て下さい、カカシ先輩」
「…それ、は」
「ナナは、唯一の武器であるこれを置いていきました」
ヤマトの手に握られていたのは、ナナの刀。
それを良く知らないナルト達はぽかんとして首を傾げる。
しかし、それを知っているカカシは険しくなっていた表情を和らげた。
「ナナ…」
ヤマトの手からナナの刀を受け取って、きつく抱き締める。
この刀はナナそのものだ。
「ナナは大丈夫だ…オレ達は戻ろう」
「カカシ先生!?何言ってんだってばよ!」
「大丈夫だ。ナナを信じよう」
何か確信を持っていうカカシに、ナルトも渋々頷いた。
その日、サスケを連れ戻すことは出来なかった。
わかったのは、サスケの復讐が果たされたということと、見知らぬ能力を持つ暁の男が存在すること。
そして、ナナが暁の男に連れて行かれたということだけだった。
不安にさせたくない、だなんて。自惚れにも程がある。それでも、あいつらは悲しい顔をしてくれるのではないかと、変な期待をしてしまう。
「カカシ、一緒に寝ようぜ…?」
とんとん、と腰かけるベッドを手のひらで軽く叩く。シャワーを浴びて出てきたばかりのカカシは、頭をタオルでがしがしと拭いながらこちらへと向かって来た。
「怖いのか?」
「怖い…とは違うな。正直よくわかんねぇ」
ナナは目の前に来たカカシの手を取った。確かめるように握ったり、擦ったりを繰り返す。
「確かに、俺は変わったよな…」
カカシといると、こんなに心が穏やかだ。先生以外の人間なんてどうでもいいと思っていたのに。
「あんたが好きだ」
「知ってるよ」
「…だよな」
ぱっと手を離してナナはベッドに体を預けた。カカシとは反対側に向けられた顔は薄ら赤くなっている。
そりゃそうだ。うっかり言ってしまった言葉は余りにも恥ずかしすぎた。
「オレも、ナナを愛してるよ」
「も…いい、黙れ」
「わかった」
まさかカカシが素直に頷くとは思っていなくて。ナナは振り返ってカカシの顔を確認した。
途端に唇に触れる暖かい感触。
「ん、ぁ」
唇から首へとカカシの唇が辿る。じわじわと熱くなる体に、ナナはシーツをきつく握った。
駄目だ、こんなんじゃ足りない。
「か、ぶとが…っ」
「ナナ?」
「俺に触るんだ…熱くて、もっと…っ」
感触が思い出される。カカシが触れているのにカブトの手と熱を思い出してしまう。
本当に嫌な体だ。
「ナナ…オレじゃ忘れさせてやれないかもしれないけど…」
「いい、よ。いいよ。触ってくれ…」
最後に自分を抱いた人間が、カカシでないのは嫌だ。そんな贅沢なことを考えている。
違う。別に贅沢なことなんかじゃない。望んで当たり前なんだ。
「好きだ、好き…っ」
思いが溢れる。
その時、初めてこの思いが消えることに恐怖を感じた。
・・・
嫌になるくらいの良い天気。
朝が来るのが憂鬱で、朝が来てもやはり気分は優れなかった。
カカシとは別に一人で家を出たのは、これ以上揺らぎたくなかったからだ。
ナナは、もう見慣れた風景の広がる部屋に導かれる。
「覚悟は出来ているか」
「…あぁ」
「脳に作用する術だ。余計なことは考えるなよ」
「…大丈夫です」
本当は、大丈夫じゃなかった。
昨夜気付いてしまった、忘れたくないという感情。
「…」
「本当に平気か?」
「今じゃないと…もっとダメになる」
覚悟を決めてここに来た。むしろ今しかない。
時間が経てば経つほど後ろ髪引かれる思いが強くなることに、ナナ自身気付いていた。
「あ、一つ…いや、二つ伝言を頼んでいいですか」
「ん、なんだ?」
「ゲンマって奴に、今度会ったらぶん殴ると」
今度会った時、覚えているかはわからないけれど。
「あと…」
ずきりと胸が痛む。ナナは震える息を大きく吐き出してから、すんと吸い込んだ。
「…カカシに、迷惑かけてごめん、と」
目を閉じる。次に目を開けたときには、カカシのことを愛していないのだろう。
切ないな。
朝なのに、起きてからそんなに時間も経っていないのに、ナナは再び眠りに誘われていった。
・・・
「き、記憶ってどういうことだってばよ…!?」
ぽかんと口を開けて理解出来ない、という視線を向けるのはナルトだけではない。隣に立っているサクラもナルトと同じような表情を作っている。
「ナナさんに、一体何があったんですか…?」
「詳しくは話せない」
「なんで!」
カカシから呼び出されて集まったナルトとサクラとサイ。そこで説明されたのは、ナナがここ数年の記憶を封印する、ということ。
「ナナの前で、大蛇丸やカブトの話をしないで欲しい」
「もしかして、大蛇丸に何かされていたんですか!?」
「ま、そんなとこだよ」
「…そんなとこって…」
ナナにかけられる術の解かれるきっかけ。それは封印された記憶が刺激されることだ。
術を解くことも可能だが、脳に対して行う術であるため、ナナ自身が受け入れる状態でないとリスクがかかる。綱手はそう言っていた。
「ナナは、それでいいって言ったのか?」
「あぁ、ナナは自ら望んだ」
「そんなに…辛いことがあったのか…?」
ナルトの瞳が揺れる。
昨日、一緒にラーメンを食べた時も、ずっと苦しめられていたのだろうか。
「ナナ…なんでオレ達に言ってくれなかったんだ」
「言えないこともあるんだよ」
「カカシ先生は、ずっと知ってたのか」
「いや…オレも知らなかった」
カカシの目が伏せられて、ナルトもサクラも何も言えなくなった。
「ボクは…」
「サイ?」
「ボクは知っていたかもしれない」
それまで黙っていたサイが、少し躊躇いながら言う。
「ボクは目の前にいながら彼を助けなかった」
「何を…」
「言えません。ナナさんが言えるわけがない…」
無表情でい続けたサイの顔が歪んだ。
もうナルトもサクラも、カカシでさえ何も言えなかった。それほどのことがあって、ナナは耐えてきたのだと、嫌でも理解させられてしまった。
「…わかった。ナナがこれ以上辛い思いをしないようにすればいいんだな」
「ナルト…」
「ナナは仲間だ。記憶とか、んなもん関係ねーってばよ!」
「ええ、そうね!」
彼らに出来るのは、ナナを受け入れること。
ナナが戻って来やすい環境を作ること。
しかし、それは口で言うほど容易なことではなかった。
散り散りに飛び出して、ナナはカカシの後を追った。
正直に言うと、今のナナにとって一番気に食わないのがカカシだった。
向けてくる目が、表情が気に食わない。
そんな文句を言っても仕方がないために無言でカカシの後を追うが、居心地が悪いったらなかった。
「…ナナ」
沈黙の中、先に口を開いたのはカカシだった。
「ナナには少し、説明する必要がある」
「だろうな」
二年という大きな隙間。
今のナナにわかるのは、サスケが木ノ葉を抜けたということ程度。状況を知らずに動くというのは、精神的にもよくなかった。
「元々、サスケには復讐という目的があった。その復讐の相手が実の兄、うちはイタチだ」
聞いたことがあるような、ないような。
サスケに何かあまりよくない目的がある、ということは知っていたような気がする。
「そのイタチが暁という組織に所属している。そして、その暁はナルトを狙っているんだ」
「…なんでまたナルトを」
「ナルトには…九尾という巨大なチャクラを持つ存在が封印されているからだ」
「へぇ」
この任務の内容は、サスケを見つけるためにイタチを探すというもの。
ナナはあまりピンと来ない内容に首を傾げた。
「どうして、今なんだ?」
「…ん?」
「なんで今サスケを追うんだ」
「…」
カカシはいつも細めている目を一瞬大きくさせた。
「…サスケが、自由に動けるようになったからだ」
「今までは自由じゃなかったのか?」
「ん。そういうこと」
何か隠された。
そう気付きながらも、ナナはそれ以上聞かなかった。
それよりも気になるのは、カカシの態度だ。
「あんたは俺に後ろめたいことでもあんのかよ」
「え?」
「あんたの目、見てるとイライラすんだけど」
カカシが足を止めた。それに続いてナナもカカシの横で止まる。
「あんたが俺に何かした?それとも俺があんたにした?」
「何かって…?」
「さぁ、あんたの思う通りだろ。俺は知らねーんだから」
誘導するのが上手いな。カカシは悠長にそんなことを思っていた。
今のナナははっきりと物を言う。それは有難くて、そして残酷だった。
「だから…大人は嫌いなんだ」
「ナナ…」
「俺は、あんたを信用しない」
鋭い目つき。明らかに敵視する視線がカカシを捕らえている。
「…それでいいよ」
カカシはその視線から逃れるように再び前を向いた。
地味にきつい。ナナの言葉が確実にカカシの心に突き刺さっている。
「それでもオレは、ナナを信じてるから」
ぼそっと呟いた言葉はナナに聞こえていたのかわからない。
ナナはそれ以上何も言わなかった。
神経を鋭くさせながら道を進む。
その間、彼らに会話はなかった。ピリピリとした空気が二人の肌を刺激する。
「…なんだ?」
ふと、ナナがぱっと顔を上げた。
その方へ顔を向けたカカシの目にも、不可解なものが映る。
光を纏った人型のようなもの。それはゴゴゴ…と音を立てながら大きくなり、辺りを包み込んでいた。
「…暁の気配だ」
「暁?」
「あぁ、あそこへ行こう。あれなら、皆も気付いて集まるはずだ」
こくりとナナが頷くのを確認して、二人は地を蹴った。
・・・
妙なものが見えた場所に辿り着くと、そこ一帯が殺風景と化していた。
元からこうであったとは思えない。不自然な円状の窪みがそこには出来ていた。
「パックン、どう?」
「…サスケのニオイだ」
カカシが忍犬のパックンに声をかけると、鼻をひくひくと動かしながらパックンが呟いた。
「他にもいくつかニオイが残っているな」
なんとなく、何があったか推測は出来る。
カカシが難しい顔をしてその周辺を見渡していると、少しずつ聞こえてきた軽い足音がそこに到着した。
「カカシ先生、それにナナさんも!」
「やっぱりここに来たか!」
サクラと、大きな犬、赤丸に跨って来たキバ。少し間があって、すぐにシノも後を追って来る。
彼らもまた、カカシ達と同じように暫く不思議そうに辺りを見ていたが、誰よりも早くキバが口を開いた。
「サスケ…あいつのニオイが残ってる。でもここで消えてるぜ」
「見た感じ…ここで戦っていたのかしら…」
サクラが不安そうに言う。しかし、戦闘があったということは間違いがなさそうだった。
「いくつか残っているニオイの二つは暁のものだ」
「じゃあ、サスケ君と…暁が?」
「可能性はある。その他のニオイはたぶん…サスケが行動を共にしている忍のものだろうな」
サスケは小隊で行動している。そして、小隊の基本は四人。サスケには他に三人の忍が付いていると考えて良いだろう。
「なぁ」
ずっと黙っていたナナが小さく声を漏らした。
そこにいた皆の視線がナナに集まる。
「サスケには今、他に仲間がいるってことだろ。そのサスケを追って…あんたらはどうしたいんだ?」
単純な疑問。
それに対してすぐさま返答出来るものはいなかった。
「俺には、こうしてサスケを追っている意味がわかんねぇ」
「…サスケを追うことは、そのまま暁に繋がるから」
「だから、わざわざサスケ経由なのはなんでだよ」
カカシは困ったように頬をかいて、サクラはナナの態度にびくりと震えた。
こんなに怖い人だったろうか、こんなに威圧感のある人だったろうか。仲間であるナナに恐怖を感じてしまう。
「…ナナ」
「つまり、サスケを連れ戻したいってことだろ?」
「まぁ…そうだよ。ナルトも、そう望んでる」
「なんつーか。木ノ葉って勝手な奴多いよな。偽善…っていうのか」
ふっと笑ったナナの、その笑顔は昨日までとは全く違った。
嘲笑、木ノ葉を見下したような、馬鹿にしたような言い方。
「おい、ナナ…そりゃあ言い過ぎなんじゃねーのか」
怯えたようなサクラの様子に、キバが間に割り込む。
そのキバにも、今のナナがそれまでのナナと違う存在に見えていた。
あまり関わりのなかったキバでさえそう感じるのだから、カカシやサクラにとっては相当のものだろう。
「…サスケは…あれでも木ノ葉の、オレ達の仲間なんだから、よ」
「俺達の、ねぇ」
ナナは、まだ疑っている。
カカシを信用しないと言ったように、木ノ葉、人間を信用出来なくなっている。
そうわかって、カカシがナナに近付こうとしたとき、足音が増えた。
まだ到着していなかった、ナルトとヤマトとヒナタ。
「何があったんだってばよ!?」
ナルトの大きな声に、カカシは踏み出した足を止めた。ナナの視線は、誰とも交差しない地へと伏せられる。
「…サスケくんのいた痕跡があるの」
「じゃ、じゃあ!さっさと追うってばよ!」
「ちょっと待て、今探す」
キバが印を結んで目を瞑る。
キバの嗅覚は忍犬のそれ以上に敏感である。今、サスケを追うことが出来るのはキバだけだった。
その隙に、ヤマトはカカシに近付いた。
「何があったんです」
「まぁ…ちょっと、ごたごた」
ヤマトの目はちらりとナナに向けられて、カカシは小さく頷いた。
「やはり、簡単にはいきませんか」
はぁ、と息を吐くヤマトに対して、カカシはじっとナナを見つめていた。
このままでは、ナナから離れていってしまう。
一度失った信用の取り戻し方など、わからなかった。
・・・
サスケのニオイは多数に分散して、それを追うためにナルトは影分身をした。
主に追うのはナルトで、発見し次第、皆に知らせる。
そうして走り出した彼らの心中は、やはり複雑なものだった。
ナナの発言は、カブトの言うものに似ていた。
自分から木ノ葉を抜けたサスケを追うことへの嘲笑。あながち間違っていないから言い返せない。
それでも、サクラはこのままにしたくなかった。
「…ナナさん」
キバが先頭で走る中、サクラはナナの横に並んだ。
ナナは返事をせずに、目だけをサクラに向ける。それでも、話は聞いてくれるのだということに安心し、サクラは続けた。
「ナナさんは、何が気に入らないんですか…?サスケくんを追うことですか、それとも…私達ですか?」
気に入らないと言われたらどうしよう。不安から声が詰まる。
しかし、そのサクラの不安を余所に、ナナは軽く言い返した。
「違う」
「違う…?」
じゃあ何故。そう言う前に、ナナは口元に小さく笑みを浮かべてサクラに向けた。
「悪かった」
「え、え?」
「サクラにそんな顔させたかったわけじゃない…」
その顔は、よく知ったナナに近くて。サクラは逆に困惑してしまった。
「な、なら…どうしてあんな態度…」
「…腹が立ってたから」
「何に?」
それには答えなかった。
答えようとしたその瞬間、ナナの目はカカシと合ってしまったから。
ナナは大人を信じられない、それも特に男性に絞られている。
その対象にカカシが入ったことはなかった。それが今、こうして真っ直ぐ嫌悪感を向けられている。
「…っ」
カカシは隠しきれない辛さを表情に浮かべていた。
ナルトの影分身がサスケと接触した。
接触した影分身が消えたことで、直接ナルトにその情報が伝わったのだ。
当然、その影分身を追ってサスケの元を目指していたし、間違いなく彼らはサスケとの距離は縮まっていた。はずだったのに。
彼らの足はある場所で止まっていた。
「さてと。何して遊びましょうか?木ノ葉の皆さん」
眼前にある木の上に立って見下ろしているのは暁の装束を着た一人の男。
今までに一度も見たことのない暁の者だった。
「そんな暇ねーんだってばよ…!」
「フォーメーションBでさっさとケリをつけるぞ」
元より決められたフォーメーションで相手に立ち向かう皆の背中を、ナナは後ろで眺めていた。
フォーメーションの説明を受けていないとか、そういうことではなくて。なんとなく、彼らと協力して動く気にはなれなかったというだけ。
「うわあ!キモいって!!」
暁の男に、シノの寄壊蟲が襲いかかる。
無数の蟲達が全身を覆い尽くすまでに時間はかからなかった。
「ヒナタ、どう?」
「はい!確かにターゲットはシノ君の蟲達の中にいます!」
この確認をする理由は、今まで全ての攻撃がすり抜けるようにかわされていたからだ。
相手の能力は謎だった。
「…何!?」
蟲達がわらわらと散り出す。そこに、男はいなくなっていた。
一瞬、誰もが暁の男の行方を見失う。
ヒナタがいなければ、再び見つけるまでに時間が必要だっただろう。
「あそこです!」
ヒナタが指をさした先には、ナナ。
そして、その背後に回るように暁の男が立っていた。
「…君は戦わないのかい?」
腕を掴まれて、盾にされている。
すり抜けるようにして今まで全ての攻撃を避けてきた男に、そんなものは必要ないだろうに。
「戦うつもりはないぜ。俺はあんたらのこと、よく知らねーし」
「あんたら…?暁のこと?」
「そーだよ。暁、なんて組織知らない。今の俺にわかることは何もないから」
「へぇ…」
面を着けている男の顔は見えないが、恐らく不敵に笑っていたことだろう。
押さえ込まれたまま、ナナの体は宙に浮いた。
そのまま、ナルト達の前にある木の上まで連れて行かれる。
「な…!ナナを放せ!」
真っ先にカカシが声を上げた。
それを気にしない様子で、男がナナの顔をじっと見つめて放そうとしない。
「君知ってるよ。サスケと同じ班だった…五色ナナ君」
「だったら、何だよ」
「綺麗な顔だな…」
頬を撫でられて、少し身震いする。
しかし、この男にその気がないことくらいすぐにわかった。
「サスケに会いたくはないか?」
「…」
別にサスケに会いたいとは思わない。
しかし、ナナはこの男ならナナの知らないことを教えてくれるのだと、根拠なく感じ取っていた。
正直に言ってしまえば、今のナナにとって何が正しいのか判断しようがなかったのだ。
無言は、もはや肯定を示していた。
「うちはイタチは死んだ。サスケの勝ちだ」
その言葉は、全員に聞こえるように放たれた。
驚いたように目を見開く者が続出する中、ナナだけは表情を変えず。
「あれ?君は驚かないね」
「だから言ったろ、俺は何も知らない」
「…俺が教えてやろうか。君が知りたいことを、全て」
「願ったり叶ったりだな」
ナナの体は暁の、細身の男に抱き上げられた。
「おい!待てってばよ!今、サスケはどこにいる!?」
「…貴様らの相手はまた今度だ。彼は頂いて行くよ」
「ま、待て…!」
「じゃあな」
追いかけることが出来なかったのは、その男に対して疑問と恐怖を抱いたからだった。
赤く光る瞳は、うちは一族と、カカシにしかない写輪眼で。
驚いて身構えたその隙に、ナナごと、その男は姿を消していた。
取り残されたナルト達は、暫く、暁の男が消えた一点を見つめ続ける。
一体、あの男は何者なのか。そしてナナは何を考えているのか。
「ナナ…なんでだ…」
ナルトが呟く。
ナナは明らかに、抵抗する気がなかった。
抵抗したって敵わなかったかもしれない。しかし、ナナは全く、身動きすらとろうとしなかったのだ。
「記憶ないっつっても、戦えないわけじゃねーんだよな?」
「ナナさん…」
キバとヒナタも怪訝そうに眉をひそめて、ナナの行動を理解出来ない様子でいる。
「オレのせいだ…」
カカシは頭を抱えていた。
ナナは木ノ葉を信じられなくなっていたのに、カカシはその不信感を取り除いてやるどころか、それを増幅させてしまったのだ。
「で、でも、ナナさんは…考えなしに行動する人ではないはずです」
「そうですよ、カカシ先輩」
ヤマトが腰を折って、そこに落ちているものを拾い上げた。
「見て下さい、カカシ先輩」
「…それ、は」
「ナナは、唯一の武器であるこれを置いていきました」
ヤマトの手に握られていたのは、ナナの刀。
それを良く知らないナルト達はぽかんとして首を傾げる。
しかし、それを知っているカカシは険しくなっていた表情を和らげた。
「ナナ…」
ヤマトの手からナナの刀を受け取って、きつく抱き締める。
この刀はナナそのものだ。
「ナナは大丈夫だ…オレ達は戻ろう」
「カカシ先生!?何言ってんだってばよ!」
「大丈夫だ。ナナを信じよう」
何か確信を持っていうカカシに、ナルトも渋々頷いた。
その日、サスケを連れ戻すことは出来なかった。
わかったのは、サスケの復讐が果たされたということと、見知らぬ能力を持つ暁の男が存在すること。
そして、ナナが暁の男に連れて行かれたということだけだった。