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カカシ夢(2011.04~2016.09)
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微かな寝息。一定の間隔で聞こえてくるそれは、ソファーからきている。
任務の報告に戻る前に、ナナだけ家に返した。そしてカカシが戻ってきた時にはこれだ。
「…なんでベッドで寝ないかな」
だいたい想像は出来る。ナナ自身、ここで寝てしまうつもりはなかったのだろう。
疲れて帰宅し、何気なくソファーに寝っころがって、そのままフェードアウトってところか。
「ん…」
足の擦れる音と共に、ナナが小さく声を漏らす。特にやましい事は考えていなかったが、カカシはびくりと体を強張らせた。
寝ているだけで、どうしてこんなに色気があるかね、この子は。
口には出さずに、カカシはゆっくりナナに近寄った。これが自分のものであるという至福。
「…ナナ」
名前を呼んで、顔にかかる髪を指でどかす。
それはほんの一瞬で、カカシの手は寝ていたはずのナナに掴まれていた。
「おかえり」
「ん、ただいま」
ナナはソファーに寝たまま体を伸ばした。あまりにも無防備な姿にカカシは視線を少しナナからずらす。
そんなカカシの思考など知らないナナは握り締めていたカカシの手に頬を寄せた。
「俺…結構寝てた?」
「いや、今帰ってきたところだよ」
「そう、良かった」
「良かった?」
こくりと頷いたナナはカカシの手を離し、その手をカカシの方へと向けて伸ばした。
「…二人きりなの、久しぶりだろ」
「っ、」
「キスしたい」
ごくりとカカシの喉が鳴った。ナナはそんなカカシの様子に気付いて笑っている。それから手をもう一度、カカシを求めるかのように思い切り伸ばした。
「なんてこと言うのかな…ホント…」
「なんだよ、したくねぇの?」
「まさか」
伸ばされた手を掴んでソファーに押し付ける。上から見下ろしたナナの姿は、寝起きだからか目がとろんとしていて、普段の寄せ付けない空気は微塵も感じられない。
カカシはソファーの横で腰を曲げると、ナナに唇を重ねた。
「ん」
触れるだけのキスに、不服そうにしたのはナナだ。
「…カカシ」
「いや、これ以上したら止まらなくなるでしょ…」
「止まんなくていい」
「残念だけど…綱手様がお呼びだよ、ナナ」
明らかにナナの顔が曇った。むしろ、こちらがいつものナナの顔のような気はするが。
「行く必要ない」
「あるから」
「…」
「ナナ」
「…ずりぃよ、そうやって」
優しく名前を呼ぶから、言い返せなくなる。
ナナは渋々体を起き上らせると、洗面台へと足を進めた。
ばしゃ、と冷たい水を顔に浴びて、乱暴に顔を拭く。ついでに髪の毛を適当に整えれば、もうさっきまでのナナはいない。
「行けばいいんだろ」
「うん、行こう」
「一緒に?」
「行くよ」
「…」
ナナの口元が少しだけ柔らかくなったように見えた。
ナルトがナナは最近わかりやすくなった、とヤケに主張していたが、確かに納得できる。
「何笑ってんだよ」
「別に?」
「うぜぇ」
口悪いのは変わらないが、嫌な気はしない。
カカシはさり気なくナナの手を引いて扉を開けた。
・・・
繋がれていた手は前触れなくぱっと離れた。
待ち構えていたかのように立っていた綱手を前にして、ナナの表情は固くなる。
「何を言われるか、だいたい予想はついているって顔だな」
「…俺が呼ばれる理由は、一つでしょう」
「大蛇丸が死んだ」
不意打ちだった。綱手はナナの予想していなかったことを告げた。
新しい情報であるはずのそれ。しかしナナはその綱手の言葉に対して上手く反応することが出来なかった。
隣にいるカカシは驚いて目を見開いたというのに。
「…知っていたな」
「しっ…」
「演習場で会ったのはカブトか」
「っ!なんで、それ…、あの野郎、報告しやがったのか!」
まんまとやられた。演習場で倒れていたというのはゲンマが知ることで、それはナナが口止めしたはずだった。
声を荒げて怒りを露わにするナナを、綱手は冷ややかな目で見つめている。
「何故隠そうとした」
「…」
「報告してもらうぞ、カブトと接触して、何があったのか」
「…っ、」
ナナの息が上がった。体が記憶する感触を、嫌でも思い出してしまう。
そのナナの視線が一瞬カカシに向いたのを、綱手は見逃さなかった。
「…わかった。カカシ、席を外せ」
「な、何故です」
「空気を読め。いいから出ろ」
「はい…」
カカシが横からいなくなる。ナナはそれに少し安心してしまった。
カカシにだけは知られたくない体の異常、やってしまった事実。
かたん、と扉の閉まる音がして、綱手もナナへ向ける視線を強くした。
「これで話せるか?」
「…」
「言いたくないのはわかるが、言ってくれなければ出来る対処も行えないだろう」
ため息交じりに言った綱手の言葉に、ナナの手に加わる力が抜けた。
「対処…出来るのか」
「言ってもらわなければわからん」
「…」
ナナの口から熱い息が吐き出される。思い出せば思い出すほどおかしくなる。掻き乱される。
それでもナナは覚悟して、静かに口を開いた。
「薬師カブトに、会った」
「演習場だな」
「ん…カブトは大蛇丸を取り込んだ」
「…どういうことだ」
「よくは知らない。ただ…俺は、カブトに支配されているみたいだ」
再び手に力がこもる。きつく握り締めて爪が食い込むのも気にならない。今は痛みの方がまだ良いと思えた。
「カブトは、俺が欲しいと…。俺が、奴に対して過敏に反応するようにした」
「あの変態ヤローが…っ、お前、今頭は正常か?」
「あぁ…洗脳はされてない。俺の、抵抗する顔が…見たいらしい」
自分で言って吐き気がした。相当の変態野郎だ。そして、その変態野郎に抵抗出来なかったのが一番の屈辱だった。
「今の、その体の症状は?」
「…熱い。自分の意思に関係なく…性欲求が強くなる」
「何もしなくとも、突然なるのか」
「いや…主に、奴を思い出した時と…チャクラを練った時だ」
確か、そうであるはず。
しかし、ナナの中でカブトの存在が大きくなりすぎて、こうならない時間が減ってきているのだ。
ナナは俯いて体を抱きしめた。どうしたら良いかわからない、この熱を取り除く術が見つけられない。
「なるほどな。お前の言うことが正しいなら…方法はある」
「…!」
「無茶なやり方になるが…一時的に、なら」
綱手のただならぬ雰囲気に、ナナは聞くのを躊躇った。嫌な予感がする。聞きたくないような気がした。それしか方法がない、と思わされたくないような、そんな予感。
しかし、ナナが聞かずとも、綱手は自ら口を開いた。
「奴との記憶を消せばいい」
「は…」
「そうすれば、記憶から反応することはなくなるはずだ」
「そ、」
「当然、連想されるだろう他の記憶も消さねばならないが」
連想されるだろう記憶。
「カブトや大蛇丸と接触した、それ以降の記憶、全部だ」
がん、と鉛をぶつけられたような感覚だった。
「接触して以降…全て…!?」
それは、いつだろうかと記憶を巡らせる。咄嗟に思い出せないほど、過去のことだ。
「で、でも…チャクラを練ると…」
「それは大丈夫だろう。お前の中に埋め込まれた、奴のチャクラを孤立させる。チャクラを練った時に刺激されないようにすれば問題ない」
カブトと会ったのは、中忍試験の後半、カカシとサスケと修業に出た時だ。
しかし、大蛇丸と会ったのは。中忍試験の前半…
それ以降がなくなるとすれば、それは木ノ葉に来てからの記憶ほぼ全てなくなるということで。
当然、カカシとの記憶も、ほとんど消える。
「で、でも…逆に問題が、っ多くなるんじゃ」
「どうせ今のままじゃ戦力にならんだろう。お前がその体の状態に耐えられるならいいが…」
今の状態では何も出来ない。綱手の言うことは正しかった。
戦えない上に、熱に犯される日々。今まさに、どうにもならない熱が体を刺激している。
耐えられるとは思えなかった。
「記憶が完全になくなるわけではない。大蛇丸やカブトを思い出す切っ掛けがあれば、解かれるだろう」
「…」
「それに、カブトを倒せれば…すぐに戻る」
「…それしか、ないのですか」
「ない」
他にあるとすれば、木ノ葉を離れ、カブトの手が届かない五色に戻る。そこで何も考えず大人しくすること。
しかし、それは有り得ない。それこそナナにとっては辛いこととなる。
綱手の提案を、断ることなど出来なかった。
「なぁ、木ノ葉は関係ない…これは、俺一人の問題だ。なのに、どうして」
「お前は守るべき五色の子だからな」
「…」
「ふっ、冗談だ。木ノ葉の仲間だから、それで十分だろう」
木ノ葉の仲間。
じわ、と込み上げるものがあって、ナナは上を向いて目を閉じた。
どうせ迷惑しかかけない体。綱手の言うことを聞くしか今のナナに出来ることはない。
少し我慢するだけ。少しだけだ、そう自分を思い込ませて、ナナは静かに頷いた。
・・・
明日、体の状態を再度確認してから。そう綱手に告げられて、ナナは部屋を出た。
もし記憶を封じ込める術を使ったなら、ナナにカブトや大蛇丸について思い出させないよう、周りの人間も気を遣わなければならなくなるらしい。
それに関わるワードを言わないように。
入れ違いに綱手の元へ行ったカカシも、説明されている頃だろう。
「…これで、迷惑をかけずに済む」
ナナの手は熱から解放されたくて、体を執拗に擦っていた。肌が、全身が敏感に反応する。
「は…」
この状態でい続けるのは、確かによろしくない。一時的に逃れる手段と思って受け入れるしかないだろう。
カカシは、どう思うかな。
ふと、そんなことを考えたタイミングでカカシが出てきた。
「カカシ」
そのカカシの表情はなんとも言えないような、複雑そうに目が細められていて。
ナナをくくっと笑った。
「わっかりやすい顔」
「…ナナが納得して決めたことに、口出しはしない」
台詞と顔があっていない。
「ナナ…オレは、ナナがそんなに苦しんでいることを知らなかった自分に腹が立つよ」
「…俺は、あんたに知られたくなかったよ」
二人、横に並んで歩き出す。
たんたん、と廊下に響く足音が煩く感じた。
「カカシ、ごめん」
「謝るな。ナナは何も悪くない」
「忘れる方より、忘れられた方が辛いだろ、きっと」
「…」
外に出ると、日の光が眩しくて、ナナはそれを手で遮った。
正直に言えば、記憶を消すなんてピンと来ない。記憶を消した後は、それさえも忘れているのだから。
「ナナ」
カカシの手がナナの手を掴んだ。
「何?」
「他の奴にナナを触れさせたくない。片時も…手放したくない」
引き寄せられて、抱き込まれる。心地の良い体温に、ナナも目を閉じて体を寄せた。
「今度は絶対に守るよ」
人目があることも気にせずに、手を絡ませ合う。それほど、二人に余裕なんてなかったのだ。
・・・
一楽、と書かれたのれん。その奥から騒がしく楽しげな声が聞こえる。
特徴的な少し高めの声は、ナルトのものだとすぐにわかった。
「何やら騒がしいねぇ」
カカシは、のれんを腕で押し退けながら中に入って行く。その背中を追ってナナものれんをくぐった。
「カカシ先生!それにナナさんも」
サクラがぱっと振り返る。横に並ぶのはナルトとサイだ。
ナルトは腕にぐるぐると包帯を巻いていて、ラーメンを食べるのに苦労しているようだった。
「ナルト、食わしてやろうか」
「え!?」
ナナが前に出てナルトの肩を叩く。ナルトは心底驚いたように目を開いて、それからニッと笑った。
「じゃあ、頼むってばよ」
箸をサイから手渡されて、ナナはナルトの横に座った。
「ナルト、腕…痛いか?」
「んー」
息を吹きかけたラーメンをナルトの口元に持っていくと、ナルトは嬉しそうにズズッとすすった。
「新技、出来たんだってな」
「おう!」
ナナはナルトの活躍を見る事が出来なかった。それが申し訳なくて、そして恥ずかしい。
「俺も見たかった」
ぽつりと呟くと、ナルトよりも先にカカシの方が反応した。
「ナルト、わかってると思うけど、大きな術にはそれ相応のリスクがある」
「うん…」
「その腕が証拠だ」
ナルトの視線が落ち込む。ナナもそれでようやく気付いた。
ナルトのこの包帯で巻かれた腕は、自分の術によって傷ついたのだと。
「ナルト」
「あっちィ!!」
ほとんど冷ましていないラーメンを口にぶつけてやると、ナルトは飛び上がって体を震わせた。
突然のことに、ナナを見る目は涙で揺れている。
「な、なんだってば…」
「大丈夫か?」
「へ?」
「…大丈夫なんだろ」
真っ直ぐにナナの目はナルトを見つめる。大丈夫、という言葉に力を込めた。
大丈夫、ナルトは大丈夫だ。
ナルトは暫く茫然とナナを見て瞬きを繰り返していたが、強く頷いた。
「うん。自分の体のことは自分が一番わかってる!」
ナルトの顔に笑顔が戻る。
「オレはスゲー奴だから、何にも問題ねーってばよ!」
安心と呆れ、彼らは両方の意味で笑った。
ナナも無意識に頬が緩んでいる。ナルトの強さを何度も羨ましいと思った。そんなナルトの背中を押せたなら、それで十分だ。
「ナナさん、なんか良い顔してる」
「あぁ…」
サクラの言葉に、カカシは小さく頷いた。ナナがこんな顔をするようになったのは、カカシ班の中で人との関わり方を学んだからだ。
それを自ら手放すなんて。カカシの、ナナを見る瞳が一瞬揺らいだ。
「ナナ、食ってみろよ、それ」
「いいのか?」
「おう、すっげぇ美味いんだぜ!」
ナルトに向けた箸を自分の口に運ぶ。楽しそうに笑い合うナナとナルト。
ナナが本来の自分を残そうと足掻いているようで、カカシは静かに視線を逸らしていた。
その日、ナルト達には話さなかった。実際に術を受けてからでも遅くはないだろうし、ナルト達に不安な顔をさせたくなかったからだ。
不安にさせたくない、だなんて。自惚れにも程がある。それでも、あいつらは悲しい顔をしてくれるのではないかと、変な期待をしてしまう。
「カカシ、一緒に寝ようぜ…?」
とんとん、と腰かけるベッドを手のひらで軽く叩く。シャワーを浴びて出てきたばかりのカカシは、頭をタオルでがしがしと拭いながらこちらへと向かって来た。
「怖いのか?」
「怖い…とは違うな。正直よくわかんねぇ」
ナナは目の前に来たカカシの手を取った。確かめるように握ったり、擦ったりを繰り返す。
「確かに、俺は変わったよな…」
カカシといると、こんなに心が穏やかだ。先生以外の人間なんてどうでもいいと思っていたのに。
「あんたが好きだ」
「知ってるよ」
「…だよな」
ぱっと手を離してナナはベッドに体を預けた。カカシとは反対側に向けられた顔は薄ら赤くなっている。
そりゃそうだ。うっかり言ってしまった言葉は余りにも恥ずかしすぎた。
「オレも、ナナを愛してるよ」
「も…いい、黙れ」
「わかった」
まさかカカシが素直に頷くとは思っていなくて。ナナは振り返ってカカシの顔を確認した。
途端に唇に触れる暖かい感触。
「ん、ぁ」
唇から首へとカカシの唇が辿る。じわじわと熱くなる体に、ナナはシーツをきつく握った。
駄目だ、こんなんじゃ足りない。
「か、ぶとが…っ」
「ナナ?」
「俺に触るんだ…熱くて、もっと…っ」
感触が思い出される。カカシが触れているのにカブトの手と熱を思い出してしまう。
本当に嫌な体だ。
「ナナ…オレじゃ忘れさせてやれないかもしれないけど…」
「いい、よ。いいよ。触ってくれ…」
最後に自分を抱いた人間が、カカシでないのは嫌だ。そんな贅沢なことを考えている。
違う。別に贅沢なことなんかじゃない。望んで当たり前なんだ。
「好きだ、好き…っ」
思いが溢れる。
その時、初めてこの思いが消えることに恐怖を感じた。
・・・
嫌になるくらいの良い天気。
朝が来るのが憂鬱で、朝が来てもやはり気分は優れなかった。
カカシとは別に一人で家を出たのは、これ以上揺らぎたくなかったからだ。
ナナは、もう見慣れた風景の広がる部屋に導かれる。
「覚悟は出来ているか」
「…あぁ」
「脳に作用する術だ。余計なことは考えるなよ」
「…大丈夫です」
本当は、大丈夫じゃなかった。
昨夜気付いてしまった、忘れたくないという感情。
「…」
「本当に平気か?」
「今じゃないと…もっとダメになる」
覚悟を決めてここに来た。むしろ今しかない。
時間が経てば経つほど後ろ髪引かれる思いが強くなることに、ナナ自身気付いていた。
「あ、一つ…いや、二つ伝言を頼んでいいですか」
「ん、なんだ?」
「ゲンマって奴に、今度会ったらぶん殴ると」
今度会った時、覚えているかはわからないけれど。
「あと…」
ずきりと胸が痛む。ナナは震える息を大きく吐き出してから、すんと吸い込んだ。
「…カカシに、迷惑かけてごめん、と」
目を閉じる。次に目を開けたときには、カカシのことを愛していないのだろう。
切ないな。
朝なのに、起きてからそんなに時間も経っていないのに、ナナは再び眠りに誘われていった。
・・・
「き、記憶ってどういうことだってばよ…!?」
ぽかんと口を開けて理解出来ない、という視線を向けるのはナルトだけではない。隣に立っているサクラもナルトと同じような表情を作っている。
「ナナさんに、一体何があったんですか…?」
「詳しくは話せない」
「なんで!」
カカシから呼び出されて集まったナルトとサクラとサイ。そこで説明されたのは、ナナがここ数年の記憶を封印する、ということ。
「ナナの前で、大蛇丸やカブトの話をしないで欲しい」
「もしかして、大蛇丸に何かされていたんですか!?」
「ま、そんなとこだよ」
「…そんなとこって…」
ナナにかけられる術の解かれるきっかけ。それは封印された記憶が刺激されることだ。
術を解くことも可能だが、脳に対して行う術であるため、ナナ自身が受け入れる状態でないとリスクがかかる。綱手はそう言っていた。
「ナナは、それでいいって言ったのか?」
「あぁ、ナナは自ら望んだ」
「そんなに…辛いことがあったのか…?」
ナルトの瞳が揺れる。
昨日、一緒にラーメンを食べた時も、ずっと苦しめられていたのだろうか。
「ナナ…なんでオレ達に言ってくれなかったんだ」
「言えないこともあるんだよ」
「カカシ先生は、ずっと知ってたのか」
「いや…オレも知らなかった」
カカシの目が伏せられて、ナルトもサクラも何も言えなくなった。
「ボクは…」
「サイ?」
「ボクは知っていたかもしれない」
それまで黙っていたサイが、少し躊躇いながら言う。
「ボクは目の前にいながら彼を助けなかった」
「何を…」
「言えません。ナナさんが言えるわけがない…」
無表情でい続けたサイの顔が歪んだ。
もうナルトもサクラも、カカシでさえ何も言えなかった。それほどのことがあって、ナナは耐えてきたのだと、嫌でも理解させられてしまった。
「…わかった。ナナがこれ以上辛い思いをしないようにすればいいんだな」
「ナルト…」
「ナナは仲間だ。記憶とか、んなもん関係ねーってばよ!」
「ええ、そうね!」
彼らに出来るのは、ナナを受け入れること。
ナナが戻って来やすい環境を作ること。
しかし、それは口で言うほど容易なことではなかった。
任務の報告に戻る前に、ナナだけ家に返した。そしてカカシが戻ってきた時にはこれだ。
「…なんでベッドで寝ないかな」
だいたい想像は出来る。ナナ自身、ここで寝てしまうつもりはなかったのだろう。
疲れて帰宅し、何気なくソファーに寝っころがって、そのままフェードアウトってところか。
「ん…」
足の擦れる音と共に、ナナが小さく声を漏らす。特にやましい事は考えていなかったが、カカシはびくりと体を強張らせた。
寝ているだけで、どうしてこんなに色気があるかね、この子は。
口には出さずに、カカシはゆっくりナナに近寄った。これが自分のものであるという至福。
「…ナナ」
名前を呼んで、顔にかかる髪を指でどかす。
それはほんの一瞬で、カカシの手は寝ていたはずのナナに掴まれていた。
「おかえり」
「ん、ただいま」
ナナはソファーに寝たまま体を伸ばした。あまりにも無防備な姿にカカシは視線を少しナナからずらす。
そんなカカシの思考など知らないナナは握り締めていたカカシの手に頬を寄せた。
「俺…結構寝てた?」
「いや、今帰ってきたところだよ」
「そう、良かった」
「良かった?」
こくりと頷いたナナはカカシの手を離し、その手をカカシの方へと向けて伸ばした。
「…二人きりなの、久しぶりだろ」
「っ、」
「キスしたい」
ごくりとカカシの喉が鳴った。ナナはそんなカカシの様子に気付いて笑っている。それから手をもう一度、カカシを求めるかのように思い切り伸ばした。
「なんてこと言うのかな…ホント…」
「なんだよ、したくねぇの?」
「まさか」
伸ばされた手を掴んでソファーに押し付ける。上から見下ろしたナナの姿は、寝起きだからか目がとろんとしていて、普段の寄せ付けない空気は微塵も感じられない。
カカシはソファーの横で腰を曲げると、ナナに唇を重ねた。
「ん」
触れるだけのキスに、不服そうにしたのはナナだ。
「…カカシ」
「いや、これ以上したら止まらなくなるでしょ…」
「止まんなくていい」
「残念だけど…綱手様がお呼びだよ、ナナ」
明らかにナナの顔が曇った。むしろ、こちらがいつものナナの顔のような気はするが。
「行く必要ない」
「あるから」
「…」
「ナナ」
「…ずりぃよ、そうやって」
優しく名前を呼ぶから、言い返せなくなる。
ナナは渋々体を起き上らせると、洗面台へと足を進めた。
ばしゃ、と冷たい水を顔に浴びて、乱暴に顔を拭く。ついでに髪の毛を適当に整えれば、もうさっきまでのナナはいない。
「行けばいいんだろ」
「うん、行こう」
「一緒に?」
「行くよ」
「…」
ナナの口元が少しだけ柔らかくなったように見えた。
ナルトがナナは最近わかりやすくなった、とヤケに主張していたが、確かに納得できる。
「何笑ってんだよ」
「別に?」
「うぜぇ」
口悪いのは変わらないが、嫌な気はしない。
カカシはさり気なくナナの手を引いて扉を開けた。
・・・
繋がれていた手は前触れなくぱっと離れた。
待ち構えていたかのように立っていた綱手を前にして、ナナの表情は固くなる。
「何を言われるか、だいたい予想はついているって顔だな」
「…俺が呼ばれる理由は、一つでしょう」
「大蛇丸が死んだ」
不意打ちだった。綱手はナナの予想していなかったことを告げた。
新しい情報であるはずのそれ。しかしナナはその綱手の言葉に対して上手く反応することが出来なかった。
隣にいるカカシは驚いて目を見開いたというのに。
「…知っていたな」
「しっ…」
「演習場で会ったのはカブトか」
「っ!なんで、それ…、あの野郎、報告しやがったのか!」
まんまとやられた。演習場で倒れていたというのはゲンマが知ることで、それはナナが口止めしたはずだった。
声を荒げて怒りを露わにするナナを、綱手は冷ややかな目で見つめている。
「何故隠そうとした」
「…」
「報告してもらうぞ、カブトと接触して、何があったのか」
「…っ、」
ナナの息が上がった。体が記憶する感触を、嫌でも思い出してしまう。
そのナナの視線が一瞬カカシに向いたのを、綱手は見逃さなかった。
「…わかった。カカシ、席を外せ」
「な、何故です」
「空気を読め。いいから出ろ」
「はい…」
カカシが横からいなくなる。ナナはそれに少し安心してしまった。
カカシにだけは知られたくない体の異常、やってしまった事実。
かたん、と扉の閉まる音がして、綱手もナナへ向ける視線を強くした。
「これで話せるか?」
「…」
「言いたくないのはわかるが、言ってくれなければ出来る対処も行えないだろう」
ため息交じりに言った綱手の言葉に、ナナの手に加わる力が抜けた。
「対処…出来るのか」
「言ってもらわなければわからん」
「…」
ナナの口から熱い息が吐き出される。思い出せば思い出すほどおかしくなる。掻き乱される。
それでもナナは覚悟して、静かに口を開いた。
「薬師カブトに、会った」
「演習場だな」
「ん…カブトは大蛇丸を取り込んだ」
「…どういうことだ」
「よくは知らない。ただ…俺は、カブトに支配されているみたいだ」
再び手に力がこもる。きつく握り締めて爪が食い込むのも気にならない。今は痛みの方がまだ良いと思えた。
「カブトは、俺が欲しいと…。俺が、奴に対して過敏に反応するようにした」
「あの変態ヤローが…っ、お前、今頭は正常か?」
「あぁ…洗脳はされてない。俺の、抵抗する顔が…見たいらしい」
自分で言って吐き気がした。相当の変態野郎だ。そして、その変態野郎に抵抗出来なかったのが一番の屈辱だった。
「今の、その体の症状は?」
「…熱い。自分の意思に関係なく…性欲求が強くなる」
「何もしなくとも、突然なるのか」
「いや…主に、奴を思い出した時と…チャクラを練った時だ」
確か、そうであるはず。
しかし、ナナの中でカブトの存在が大きくなりすぎて、こうならない時間が減ってきているのだ。
ナナは俯いて体を抱きしめた。どうしたら良いかわからない、この熱を取り除く術が見つけられない。
「なるほどな。お前の言うことが正しいなら…方法はある」
「…!」
「無茶なやり方になるが…一時的に、なら」
綱手のただならぬ雰囲気に、ナナは聞くのを躊躇った。嫌な予感がする。聞きたくないような気がした。それしか方法がない、と思わされたくないような、そんな予感。
しかし、ナナが聞かずとも、綱手は自ら口を開いた。
「奴との記憶を消せばいい」
「は…」
「そうすれば、記憶から反応することはなくなるはずだ」
「そ、」
「当然、連想されるだろう他の記憶も消さねばならないが」
連想されるだろう記憶。
「カブトや大蛇丸と接触した、それ以降の記憶、全部だ」
がん、と鉛をぶつけられたような感覚だった。
「接触して以降…全て…!?」
それは、いつだろうかと記憶を巡らせる。咄嗟に思い出せないほど、過去のことだ。
「で、でも…チャクラを練ると…」
「それは大丈夫だろう。お前の中に埋め込まれた、奴のチャクラを孤立させる。チャクラを練った時に刺激されないようにすれば問題ない」
カブトと会ったのは、中忍試験の後半、カカシとサスケと修業に出た時だ。
しかし、大蛇丸と会ったのは。中忍試験の前半…
それ以降がなくなるとすれば、それは木ノ葉に来てからの記憶ほぼ全てなくなるということで。
当然、カカシとの記憶も、ほとんど消える。
「で、でも…逆に問題が、っ多くなるんじゃ」
「どうせ今のままじゃ戦力にならんだろう。お前がその体の状態に耐えられるならいいが…」
今の状態では何も出来ない。綱手の言うことは正しかった。
戦えない上に、熱に犯される日々。今まさに、どうにもならない熱が体を刺激している。
耐えられるとは思えなかった。
「記憶が完全になくなるわけではない。大蛇丸やカブトを思い出す切っ掛けがあれば、解かれるだろう」
「…」
「それに、カブトを倒せれば…すぐに戻る」
「…それしか、ないのですか」
「ない」
他にあるとすれば、木ノ葉を離れ、カブトの手が届かない五色に戻る。そこで何も考えず大人しくすること。
しかし、それは有り得ない。それこそナナにとっては辛いこととなる。
綱手の提案を、断ることなど出来なかった。
「なぁ、木ノ葉は関係ない…これは、俺一人の問題だ。なのに、どうして」
「お前は守るべき五色の子だからな」
「…」
「ふっ、冗談だ。木ノ葉の仲間だから、それで十分だろう」
木ノ葉の仲間。
じわ、と込み上げるものがあって、ナナは上を向いて目を閉じた。
どうせ迷惑しかかけない体。綱手の言うことを聞くしか今のナナに出来ることはない。
少し我慢するだけ。少しだけだ、そう自分を思い込ませて、ナナは静かに頷いた。
・・・
明日、体の状態を再度確認してから。そう綱手に告げられて、ナナは部屋を出た。
もし記憶を封じ込める術を使ったなら、ナナにカブトや大蛇丸について思い出させないよう、周りの人間も気を遣わなければならなくなるらしい。
それに関わるワードを言わないように。
入れ違いに綱手の元へ行ったカカシも、説明されている頃だろう。
「…これで、迷惑をかけずに済む」
ナナの手は熱から解放されたくて、体を執拗に擦っていた。肌が、全身が敏感に反応する。
「は…」
この状態でい続けるのは、確かによろしくない。一時的に逃れる手段と思って受け入れるしかないだろう。
カカシは、どう思うかな。
ふと、そんなことを考えたタイミングでカカシが出てきた。
「カカシ」
そのカカシの表情はなんとも言えないような、複雑そうに目が細められていて。
ナナをくくっと笑った。
「わっかりやすい顔」
「…ナナが納得して決めたことに、口出しはしない」
台詞と顔があっていない。
「ナナ…オレは、ナナがそんなに苦しんでいることを知らなかった自分に腹が立つよ」
「…俺は、あんたに知られたくなかったよ」
二人、横に並んで歩き出す。
たんたん、と廊下に響く足音が煩く感じた。
「カカシ、ごめん」
「謝るな。ナナは何も悪くない」
「忘れる方より、忘れられた方が辛いだろ、きっと」
「…」
外に出ると、日の光が眩しくて、ナナはそれを手で遮った。
正直に言えば、記憶を消すなんてピンと来ない。記憶を消した後は、それさえも忘れているのだから。
「ナナ」
カカシの手がナナの手を掴んだ。
「何?」
「他の奴にナナを触れさせたくない。片時も…手放したくない」
引き寄せられて、抱き込まれる。心地の良い体温に、ナナも目を閉じて体を寄せた。
「今度は絶対に守るよ」
人目があることも気にせずに、手を絡ませ合う。それほど、二人に余裕なんてなかったのだ。
・・・
一楽、と書かれたのれん。その奥から騒がしく楽しげな声が聞こえる。
特徴的な少し高めの声は、ナルトのものだとすぐにわかった。
「何やら騒がしいねぇ」
カカシは、のれんを腕で押し退けながら中に入って行く。その背中を追ってナナものれんをくぐった。
「カカシ先生!それにナナさんも」
サクラがぱっと振り返る。横に並ぶのはナルトとサイだ。
ナルトは腕にぐるぐると包帯を巻いていて、ラーメンを食べるのに苦労しているようだった。
「ナルト、食わしてやろうか」
「え!?」
ナナが前に出てナルトの肩を叩く。ナルトは心底驚いたように目を開いて、それからニッと笑った。
「じゃあ、頼むってばよ」
箸をサイから手渡されて、ナナはナルトの横に座った。
「ナルト、腕…痛いか?」
「んー」
息を吹きかけたラーメンをナルトの口元に持っていくと、ナルトは嬉しそうにズズッとすすった。
「新技、出来たんだってな」
「おう!」
ナナはナルトの活躍を見る事が出来なかった。それが申し訳なくて、そして恥ずかしい。
「俺も見たかった」
ぽつりと呟くと、ナルトよりも先にカカシの方が反応した。
「ナルト、わかってると思うけど、大きな術にはそれ相応のリスクがある」
「うん…」
「その腕が証拠だ」
ナルトの視線が落ち込む。ナナもそれでようやく気付いた。
ナルトのこの包帯で巻かれた腕は、自分の術によって傷ついたのだと。
「ナルト」
「あっちィ!!」
ほとんど冷ましていないラーメンを口にぶつけてやると、ナルトは飛び上がって体を震わせた。
突然のことに、ナナを見る目は涙で揺れている。
「な、なんだってば…」
「大丈夫か?」
「へ?」
「…大丈夫なんだろ」
真っ直ぐにナナの目はナルトを見つめる。大丈夫、という言葉に力を込めた。
大丈夫、ナルトは大丈夫だ。
ナルトは暫く茫然とナナを見て瞬きを繰り返していたが、強く頷いた。
「うん。自分の体のことは自分が一番わかってる!」
ナルトの顔に笑顔が戻る。
「オレはスゲー奴だから、何にも問題ねーってばよ!」
安心と呆れ、彼らは両方の意味で笑った。
ナナも無意識に頬が緩んでいる。ナルトの強さを何度も羨ましいと思った。そんなナルトの背中を押せたなら、それで十分だ。
「ナナさん、なんか良い顔してる」
「あぁ…」
サクラの言葉に、カカシは小さく頷いた。ナナがこんな顔をするようになったのは、カカシ班の中で人との関わり方を学んだからだ。
それを自ら手放すなんて。カカシの、ナナを見る瞳が一瞬揺らいだ。
「ナナ、食ってみろよ、それ」
「いいのか?」
「おう、すっげぇ美味いんだぜ!」
ナルトに向けた箸を自分の口に運ぶ。楽しそうに笑い合うナナとナルト。
ナナが本来の自分を残そうと足掻いているようで、カカシは静かに視線を逸らしていた。
その日、ナルト達には話さなかった。実際に術を受けてからでも遅くはないだろうし、ナルト達に不安な顔をさせたくなかったからだ。
不安にさせたくない、だなんて。自惚れにも程がある。それでも、あいつらは悲しい顔をしてくれるのではないかと、変な期待をしてしまう。
「カカシ、一緒に寝ようぜ…?」
とんとん、と腰かけるベッドを手のひらで軽く叩く。シャワーを浴びて出てきたばかりのカカシは、頭をタオルでがしがしと拭いながらこちらへと向かって来た。
「怖いのか?」
「怖い…とは違うな。正直よくわかんねぇ」
ナナは目の前に来たカカシの手を取った。確かめるように握ったり、擦ったりを繰り返す。
「確かに、俺は変わったよな…」
カカシといると、こんなに心が穏やかだ。先生以外の人間なんてどうでもいいと思っていたのに。
「あんたが好きだ」
「知ってるよ」
「…だよな」
ぱっと手を離してナナはベッドに体を預けた。カカシとは反対側に向けられた顔は薄ら赤くなっている。
そりゃそうだ。うっかり言ってしまった言葉は余りにも恥ずかしすぎた。
「オレも、ナナを愛してるよ」
「も…いい、黙れ」
「わかった」
まさかカカシが素直に頷くとは思っていなくて。ナナは振り返ってカカシの顔を確認した。
途端に唇に触れる暖かい感触。
「ん、ぁ」
唇から首へとカカシの唇が辿る。じわじわと熱くなる体に、ナナはシーツをきつく握った。
駄目だ、こんなんじゃ足りない。
「か、ぶとが…っ」
「ナナ?」
「俺に触るんだ…熱くて、もっと…っ」
感触が思い出される。カカシが触れているのにカブトの手と熱を思い出してしまう。
本当に嫌な体だ。
「ナナ…オレじゃ忘れさせてやれないかもしれないけど…」
「いい、よ。いいよ。触ってくれ…」
最後に自分を抱いた人間が、カカシでないのは嫌だ。そんな贅沢なことを考えている。
違う。別に贅沢なことなんかじゃない。望んで当たり前なんだ。
「好きだ、好き…っ」
思いが溢れる。
その時、初めてこの思いが消えることに恐怖を感じた。
・・・
嫌になるくらいの良い天気。
朝が来るのが憂鬱で、朝が来てもやはり気分は優れなかった。
カカシとは別に一人で家を出たのは、これ以上揺らぎたくなかったからだ。
ナナは、もう見慣れた風景の広がる部屋に導かれる。
「覚悟は出来ているか」
「…あぁ」
「脳に作用する術だ。余計なことは考えるなよ」
「…大丈夫です」
本当は、大丈夫じゃなかった。
昨夜気付いてしまった、忘れたくないという感情。
「…」
「本当に平気か?」
「今じゃないと…もっとダメになる」
覚悟を決めてここに来た。むしろ今しかない。
時間が経てば経つほど後ろ髪引かれる思いが強くなることに、ナナ自身気付いていた。
「あ、一つ…いや、二つ伝言を頼んでいいですか」
「ん、なんだ?」
「ゲンマって奴に、今度会ったらぶん殴ると」
今度会った時、覚えているかはわからないけれど。
「あと…」
ずきりと胸が痛む。ナナは震える息を大きく吐き出してから、すんと吸い込んだ。
「…カカシに、迷惑かけてごめん、と」
目を閉じる。次に目を開けたときには、カカシのことを愛していないのだろう。
切ないな。
朝なのに、起きてからそんなに時間も経っていないのに、ナナは再び眠りに誘われていった。
・・・
「き、記憶ってどういうことだってばよ…!?」
ぽかんと口を開けて理解出来ない、という視線を向けるのはナルトだけではない。隣に立っているサクラもナルトと同じような表情を作っている。
「ナナさんに、一体何があったんですか…?」
「詳しくは話せない」
「なんで!」
カカシから呼び出されて集まったナルトとサクラとサイ。そこで説明されたのは、ナナがここ数年の記憶を封印する、ということ。
「ナナの前で、大蛇丸やカブトの話をしないで欲しい」
「もしかして、大蛇丸に何かされていたんですか!?」
「ま、そんなとこだよ」
「…そんなとこって…」
ナナにかけられる術の解かれるきっかけ。それは封印された記憶が刺激されることだ。
術を解くことも可能だが、脳に対して行う術であるため、ナナ自身が受け入れる状態でないとリスクがかかる。綱手はそう言っていた。
「ナナは、それでいいって言ったのか?」
「あぁ、ナナは自ら望んだ」
「そんなに…辛いことがあったのか…?」
ナルトの瞳が揺れる。
昨日、一緒にラーメンを食べた時も、ずっと苦しめられていたのだろうか。
「ナナ…なんでオレ達に言ってくれなかったんだ」
「言えないこともあるんだよ」
「カカシ先生は、ずっと知ってたのか」
「いや…オレも知らなかった」
カカシの目が伏せられて、ナルトもサクラも何も言えなくなった。
「ボクは…」
「サイ?」
「ボクは知っていたかもしれない」
それまで黙っていたサイが、少し躊躇いながら言う。
「ボクは目の前にいながら彼を助けなかった」
「何を…」
「言えません。ナナさんが言えるわけがない…」
無表情でい続けたサイの顔が歪んだ。
もうナルトもサクラも、カカシでさえ何も言えなかった。それほどのことがあって、ナナは耐えてきたのだと、嫌でも理解させられてしまった。
「…わかった。ナナがこれ以上辛い思いをしないようにすればいいんだな」
「ナルト…」
「ナナは仲間だ。記憶とか、んなもん関係ねーってばよ!」
「ええ、そうね!」
彼らに出来るのは、ナナを受け入れること。
ナナが戻って来やすい環境を作ること。
しかし、それは口で言うほど容易なことではなかった。