黒バス(2012.10~2017.12)
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なんやかんやとあったが、無事に試合は始まった。
真司の知り得ない因縁もあって、初っ端から本気の火神と黒子。
木吉もどうやら紫原とは因縁があるらしく、ストリートとは思えない熱が宿っている。
一方向こうのチームは、氷室の攻撃がかなり目立っていた。
美しいフォーム、無駄のない洗練された動き。
思わず言葉も失い見惚れたのは、観戦している人々のその大半だった。
そして初めはぼんやりとゴール下に立っていただけの紫原も、火神や木吉を見て目の色を変えた。
ぷちんと何かが切れたのであろう、紫原のオーラはやはり“キセキの世代”と呼ばれるだけはある威力を持っていて。
もしかして、これはかなり激しい試合になるのでは…そう固唾を飲んだ時。
『中断!一時中断します!皆さんテントに入って下さい!』
試合に水を差したのは、突然降り注いだ大雨。
止む気配のない雨に、試合は数分足らずで終了せざるを得なくなってしまった。
・・・
「テツ君!木吉先輩も、とりあえず皆あっちのテントの方に…」
「あー、こりゃ中止かな」
「そうですね、残念ですが…」
思いの外激しく降ってきた雨に、真司は慌てて皆の方へと駆け寄った。
そういやよく雨に濡れるなぁ、なんて思いつつ、向こうにいる火神にも目を向ける。
「火神君もー…」
しかし、呼びかけようとした真司の声はそこで途切れた。
「残念だけど、勝負はお預けだな、タイガ」
「待てよタツヤ!」
「オレも続けたいのはヤマヤマだが…そうだな、せっかくの再会だ。土産をおいていくよ」
火神と氷室、過去に繋がりがあるという二人が向かい合っている。
雨が打ち付ける中、たんっとボールが跳ねた。
氷室がゴールに向けたボールを放ち、それに合わせて火神が跳ぶ。
しかし、止める為に跳んだ火神の手は、氷室の投げたボールに掠りもしなかった。
「え…!?」
驚き目を見開く。
黒子も木吉も皆、目を丸くして唖然としていた。
「なっ!?ジャンプのタイミングは完璧だったはずだ!ただのジャンプシュートじゃねーのか!?」
「ただのジャンプシュートなわけないだろ。タイガの知らない業だよ」
不敵に笑った氷室がくるりとこちらに振り返る。
ばちりと目が合ってしまった真司は、動くことが出来なかった。
「烏羽君」
名前を呼ばれてびくっと体が震える。
何だろう、彼のオーラはどことなく彼等に近い気がする。
「次会うとしたら冬、だね」
「あ…、あの、インターハイって陽泉は…どこまでいったんですか」
「ん?三位だったかな。でも敦もオレもいなかったし、次はもっと上まで行くよ」
誠凛も勝ち残ってね、そう言いたげな言葉に、真司はこくりと頷いた。
結局上位は皆、キセキの世代の一人がいる学校に制覇されたのだ。
負けるわけにはいかない。
「…負けません、絶対に」
「楽しみにしているよ」
「…、あ、」
にこ、と目を細めて微笑んだ氷室が真司の頭を撫でる。
そんな氷室を見上げたまま、真司はまた動けなくなってしまった。
「ふ…そんな目で見られると困るな」
「え、」
「誘ってるのかい?」
細められた目に射抜かれる。
近付いてきた顔は、視界の外で真司の額に触れた。
「え、え!?」
「君は本当に可愛いね」
「っ…!?」
「また、ウィンターカップで」
ひらりと軽く手を振って、氷室が目の前から消える。
雨に濡れた額が風に吹かれてひやりとする中、柔く残る唇の感触。
「あー!室ちん!」
ぼうっとしたまま立ち尽くす真司を現実に引き戻したのは、紫原の大きめな声で。
がばっと大きな体に抱きしめられて、真司はようやく額を押さえて顔を真っ赤に染めた。
「室ちんのバカ!烏羽ちんなんでそんな可愛い顔してんの!?」
「は!?え!?」
「ダメダメ絶対ダメ!室ちんヤな奴だかんね!だまされちゃ駄目だから!」
「そ、そんなじゃないし!」
ぎゃんぎゃんと声を荒げる紫原に、氷室の背中がひくっと動く。
肩を揺らして笑っている様からするに、からかわれたのだろう。
それでも怒る気がしなかったのは、どうしようもなく氷室が素敵な男だったからかもしれない。
「もー!黒ちん、ちゃんと烏羽ちん見張っててよ!」
「出来たら苦労しません」
「や、でも、氷室さん格好良いよね?」
「烏羽ちん!?」
真司の率直な感想に紫原と黒子と、ついでに火神の顔が青くなったのは言うまでもなく。
呆れた顔した降旗に肩を叩かれるまで、彼等は雨の下なかなか動くことが出来ずにいた。
・・・
「あー、ビシャビシャだもー!」
雨は降り止むことなく、彼等は中止となったストバス会場を後にして駅に到着した。
着くなり鞄を下ろし、それぞれにタオルを取り出す。
早速疲れ切った声を出した降旗の言う通り、全員頭の上から水の入ったバケツをひっくり返されたかのような状態だ。
「烏羽タオル持ってないよね?これ貸すよ、って濡れてるんだけど」
「有難う、降旗君」
差し出されたタオルを受け取って、水の滴っている髪に当てる。
なんだか想定外なことばかりで、思いの外疲れてしまった。
「なんかさ、こんな事言うのあれだけど…烏羽ってああいう人がタイプなんだね」
「え、何?」
「いやほら、さっきの…火神の兄貴」
「氷室さんのこと?…まぁ、素敵だと思ったけど」
隣に立つ降旗の頬はほんのり赤い。
素直に頷いた真司には別にやましい気持ちはなかったが、それを聞いた火神と黒子と木吉が揃って振り返った。
「おまっ!そういうの隠せよ!」
「え」
「タツヤは確かにかっけぇけど、それ認められっと…」
「火神は正反対っぽいもんなぁ。勿論オレもだけど」
「烏羽君ってかなりの面食いですよね。分かってましたけど、ちょっとそればかりはどうしようもないので…」
なんだか責められている気がする。
確かに格好良いと思ったし、ドキドキもしたけれど、ここまで反応されるとは思っていなかった。
「だから!違うよ!別に、格好良いなーって思っただけだって!」
「それすら羨ましいよな、黒子」
「羨ましいです。けど、なんでボクにふるんですか木吉先輩」
むっと膨れてしまった黒子に、がっかりしたように俯く火神。
真司は隣で苦笑いする降旗の背中をパチンと叩いて、濡れて張り付く髪をかき分けた。
「そんなことより、気にすることあるでしょ、紫原君とか陽泉とか!」
「烏羽って…本当にキセキの世代を手懐けてんだね」
「そうじゃなくて!ウィンターカップ!陽泉とあたるかもしれないってそういう!」
「わ、分かってるって、ごめんごめん」
また面倒なことを言う降旗の背中をべしべしと叩き、真司ははぁっと短いため息を吐いた。
ウィンターカップ、陽泉とぶつかれば当然立ちはだかる壁となるだろう。
「紫原君は…やっぱり、バスケのことになるとあんな態度とるし…」
やっぱり彼とは相容れないのかな。
しゅん、と真司の視線が地面に落ちる。
それを見てか、火神は数回咳払いをしてから、黒子に声をかけた。
「…なぁ、真司はともかく、黒子は紫原の仲悪いのか?やけに険悪な挨拶だったな」
「…そんなことないですよ。ただ、選手としては、お互い気が合いませんでした」
人より体が大きかった、それだけでバスケを始めた紫原。
紫原はバスケは好きでないと言うが、好きでなくても出来てしまう、天才だった。
「彼は、才能があれば好きである必要はなく、また好きでも才能がない人を見るとイライラすると言っていました」
「テツ君、よく喧嘩してたもんね」
「紫原君が酷いことばかり言うからです」
全く正反対の二人。バスケを介したことでは黒子と紫原の相性は最悪だった。
黒子ほどではないものも、真司でさえ紫原とはよくもめたものだ。
「俺も…紫原君のことは好きだけど、バスケへの考え方はやっぱり違うと思うよ」
「ですね。好きだから頑張れるし、勝った時心から嬉しい。だから、ボクはバスケが好きだし、皆バスケが好きな誠凛が好きです」
にこっと黒子が柔らかく笑う。
それにドキッとしてしまったのは、意識していたからとかではなくて。
単純に心から美しいと思った。黒子の心が純粋に輝いていたから。
「…テツ君…」
「はい」
「俺も…」
好きだ。バスケが、そして黒子テツヤという存在が。
開いた口が震える。こちらを見つめる黒子の丸い瞳に、こんなに魅入られたことなどあっただろうか。
「烏羽君?」
きょとんと首を傾げるその仕草さえも、胸をくすぐるような。
真司はごくりと唾を飲んで、黒子へ一歩近付いた。
そして無意識に、まだ濡れている黒子の頬に手を伸ばす。
「ん?」
しかしその直後。
携帯の電子音と火神の素っ頓狂な声に、真司はばっと黒子に伸ばした手を引っ込めた。
「ど、どうしたの、火神君」
「あ?いや…監督が今から学校来いって…」
「え」
自分の思わぬ行動に心臓がかなり高鳴っていたが、その内容に熱は一気に飛んで行った。
今から学校に、なんて。
真司は黒子と目を合わせ、何故だかわからないその事情に首を傾げた。
事情も分からず学校に向かった真司達は、それから程無くして到着した。
全く、朝からあっちに行ったりこっちに行ったり。
元々は一日悩みベッドに沈んでいる予定だった真司からすれば、予想外も甚だしい。
「烏羽君、大丈夫ですか?」
「え?何が?」
「烏羽君はすぐに風邪をひいてしまうイメージなので」
ばさっと傘を閉じた黒子が真司の頭に触る。
頭から雨を盛大にくらった真司の髪の毛は当然のことながらまだ濡れていた。
他の部員と比べて髪が長いせいか、一人だけ全く乾いていない。
「体育館に入ったら良く拭いて下さいね」
「うん。ありがと」
「君が今日その分厚い眼鏡をかけていて、本当に良かったです」
「は?」
良く分からないことを言い残して、黒子が先に靴を脱ぐ。
それにつられて後を追うと、それよりも先に体育館を覗き込んでいた降旗が不思議そうに声を上げた。
「あれ?先輩達みんないる…」
やっぱり皆自主練をしていたのだろう。
さすがだな、と感心しながら真司も続くと異変に気が付いた。
なんだろう、神妙な顔をした先輩達がこちらを見ている。
「やっと来たか…」
日向がそう呟き、顔を後ろに向ける。
と、それを合図にしたかのように、先輩達の間から飛び出してくる人影。
「テツ君!!」
「桃井さん?」
桃色の髪を揺らして黒子に抱き着いたのは、ここにいるはずのない桃井だった。
「え、なんで…!?」
さすがに驚き真司も桃井を覗き込む。
黒子の胸に顔を埋めて肩を揺らしている桃井は、ぐずぐずと涙をこぼしていた。
「桃井さん、とりあえず落ち着いて…こちらに」
巨乳で美人な桃井に抱き着かれてもなんともないのか、黒子は動揺することなく桃井の肩を掴む。
桃井の肩を抱いて体育館の隅に移動した黒子に感心しつつ、真司はさりげなく日向の腕をぐいと掴んだ。
「あの、監督がこっちに来るよう言ったのって…」
「ん?ああ、見ての通りだよ。黒子君いませんかって彼女が」
「なんだろう…俺も、話聞いてきますね」
「そりゃいいけどお前…ちゃんと拭いた方がいいぞ」
首にかけていたタオルをするっと取られ、頭をがしがしと拭かれる。
その乱暴さに少しよろけながら見上げた日向の顔は少し赤いような。
雨に濡れて飛び込んできた桃井の色気にやられたのだろう、と的外れな事を考えながら、真司は黒子と桃井に駆け寄った。
「…何があったんですか、桃井さん」
「っ、どうしようテツ君…、私、青峰君に嫌われちゃったかもしれない…!」
ぐずりながらそう言う桃井の言葉に、真司は耳を疑った。
いやいや、さすがにそりゃないだろと咄嗟に真司が思ったのは、青峰と桃井のその深い絆を知っているからこそだ。
ずっと共にいた幼馴染。何度羨ましいと思ったことか数えきれない。
「え、っと…そんなこと有り得ないと思うけど、どうしてそう思ったの?」
「うん…聞いてくれる?」
涙を拭い少し濡れた髪を耳にかける。
そんな仕草にキュンとしそうになる男心はともかく。
桃井の寂しそうな顔に、真司も黒子も口を噤んだ。
「青峰君は、今年のインターハイ、準決勝・決勝と欠場したの…主に肘の故障で」
「…!」
思わず開きそうになった口を、真司は息を呑むだけに止めた。
黄瀬とやった海常との準々決勝、青峰はかなり無茶をしていたのだ。
近くで見ていたからそれは良く分かっていた。だけど、まさかそんなことになっていたなんて。
「私…それに気付いて、監督に試合に出さないように訴えたの」
「え、それ、青峰君は…」
「すっごく怒ったよ。でも無理矢理スタメンから外して…けどそれがさっきバレて…」
桃井が監督に怪我のことを教えた。
それに対して青峰はおせっかいだの、余計なことすんなだの、かなり酷い言葉で責めたのだろう。
「大丈夫ですよ、桃井さん。青峰君もちょっとカッとなって言いすぎただけです。本当に嫌いになったりしませんよ」
黒子はそう言いながら桃井の頭に手をのせた。
よしよし、と子供をあやすように優しく撫でれば、桃井はうるっと瞳を揺らす。
「帰りましょう。青峰君もきっと今頃探していますよ」
「テツ君…!」
止まりかけた涙は、黒子の優しさに触れて再び溢れ出していた。
黒子は優しげに目を細めて、桃井を受け止めている。
どこまで優しい人なのだろう。
そんな黒子に胸が高鳴るのを感じながら、どこか青峰を心配している自分が憎い。
「すみません、ボクちょっと桃井さん送ってきます」
「え、じゃあ俺も…」
「君はしっかり体を拭いて、風邪を引かないようにしていて下さい」
「…、…えー…」
ばっさりと断られて、伸ばしかけた手を引っ込める。
黒子について行こうと思った裏側で、青峰に会いたいと思ってしまった気持ちを見透かされたかのようだ。
「…烏羽君、青峰君、怪我はもうかなり良くなったよ」
気持ちを見透かしていたのは、黒子だけではなかったらしい。
「桃井さん…」
「心配しないでね。そういうつもりで話したんじゃないし…。久しぶりに本気で試合出来て、楽しかったんだよね、あいつも」
「うん、知ってる…。だから俺は…」
桐皇と海常の試合の後から、青峰への思いは明らかに大きくなった。
考えないようにしていたけれど、やっぱり名前を聞くだけで思いは膨らんでしまうのだ。
「…じゃあ、桃井さん、ばいばい」
「うん、バイバイ、烏羽君」
その言葉を合図に、桃井は頭を下げて黒子と共に体育館を出て行った。
ついて行ったら、青峰に会えたのかもしれない。
性懲りもなくそんなことを考えて、振った手を握り締める。
「…」
視線を落として、目を閉じて、それから大きく息を吸う。
そうして切り替えようとしていた頭は、大きな手にがしっと掴まれていた。
「う、わ」
「お前の考えてること、分かりやすすぎて腹立つ」
上から火神の低い声が聞こえて来る。
意味も分からず「ごめん」と言いそうになった口は、ぼふんと火神の体にぶつかっていた。
「お前は悪くねーから。オレが勝手に…、」
その切なげな声色に察するのは容易かった。
何度目になるだろう、心の中で火神に謝罪するのは。
真司も何も言えず、沈黙と同時にその体温に身を任せる。
互いに重なり合うことの無い思いは、どうしようもなく居場所を失っていた。
「…おい火神、何どさくさに紛れて抱き締めちゃってんだ?」
「うお!?」
日向の声と同時に火神の手が素早く離れる。
真司を見下ろす日向の目もまた微かな痛みを帯びていた。
・・・
がたんがたんと大きく揺れる車内。
すっかり疲れ切ってウトウトとしている紫原の隣で、氷室はふっと息を吐いた。
今日はまさかの出会いが多すぎた。
弟分と、後輩の友人。いや、“友人”ではないかな。
「ねぇ敦、敦が言ってた烏羽君は本当に可愛いね」
ぽつりと落ち着いた声でそう言うと、ほとんど落ちていた瞼がゆっくりと開いた。
「え~?あったりまえじゃん。烏羽ちん相変わらず目ん玉真ん丸で可愛かったー…」
「そうだね、高校生男子とは思えない目をしていたよ」
紫原の言う通り、目は大きくて、睫毛も長い。
顔だけなら女の子と間違えそうな…身長も小さかったけれど。
ただ、気になるのはそれだけでなくて。
「敦もご執心だし…それにタイガも…」
「え?タイガ?ってあのうっざい奴?」
「あぁ、彼はかなり人を惹き付けやすいみたいだ」
本人の口から聞いたわけではないけれど、可愛らしくて才能もある、そんな一人の少年に誰も彼もが魅了されていく。
それは、氷室が興味を持つのに十分な要素だった。
「烏羽君…彼も、バスケは上手いんだろう?」
「は?ちっさくてすばしっこいだけだし」
「え、でも帝光中で一軍だったんだろ、それは」
「そんなん関係ねーもん。ちっさくて危ないから辞めればいいのに」
紫原の適当な答えに、氷室は訝しげに眉を寄せた。
そりゃあ恵まれた紫原からすれば、他の人など大したことはないのだろうが。
「室ちん、もしかして室ちんも烏羽ちん欲しいとか言い出すつもり?」
「え、いやそんな、物じゃあるまいし」
「やだやだ、烏羽ちんってばいっつもそうだから。ま、誰にもやんねーけど」
面倒くさそうに言うわりには、いつの間にか覚めたのだろう目をしっかりと開いて、それでいて抱えるお菓子を口にしようとはしない。
そんな紫原の様子に、氷室は口元にだけ笑みを浮かべると、窓の外に視線を移した。
「やんねーって、敦に何が出来るの?」
向こうは東京、こちらは秋田。
明らかな距離のせいで、卒業から今まで一度も会えていなかったのだろうに。
氷室のその言葉には、さすがの紫原もむっと口をへの字に曲げた。
「…もしかして室ちん、変なこと考えてない?ほんっと止めてよね、室ちんでも許さねーから」
「分かってるよ」
分かっている。手を出そうとすれば彼等を全て敵に回すことになる。
それが、面白い。
氷室はこつんと窓に頭を寄せて、今度は楽しそうに微笑んだ。
可愛らしい少年を脳裏に浮かべながら。
真司の知り得ない因縁もあって、初っ端から本気の火神と黒子。
木吉もどうやら紫原とは因縁があるらしく、ストリートとは思えない熱が宿っている。
一方向こうのチームは、氷室の攻撃がかなり目立っていた。
美しいフォーム、無駄のない洗練された動き。
思わず言葉も失い見惚れたのは、観戦している人々のその大半だった。
そして初めはぼんやりとゴール下に立っていただけの紫原も、火神や木吉を見て目の色を変えた。
ぷちんと何かが切れたのであろう、紫原のオーラはやはり“キセキの世代”と呼ばれるだけはある威力を持っていて。
もしかして、これはかなり激しい試合になるのでは…そう固唾を飲んだ時。
『中断!一時中断します!皆さんテントに入って下さい!』
試合に水を差したのは、突然降り注いだ大雨。
止む気配のない雨に、試合は数分足らずで終了せざるを得なくなってしまった。
・・・
「テツ君!木吉先輩も、とりあえず皆あっちのテントの方に…」
「あー、こりゃ中止かな」
「そうですね、残念ですが…」
思いの外激しく降ってきた雨に、真司は慌てて皆の方へと駆け寄った。
そういやよく雨に濡れるなぁ、なんて思いつつ、向こうにいる火神にも目を向ける。
「火神君もー…」
しかし、呼びかけようとした真司の声はそこで途切れた。
「残念だけど、勝負はお預けだな、タイガ」
「待てよタツヤ!」
「オレも続けたいのはヤマヤマだが…そうだな、せっかくの再会だ。土産をおいていくよ」
火神と氷室、過去に繋がりがあるという二人が向かい合っている。
雨が打ち付ける中、たんっとボールが跳ねた。
氷室がゴールに向けたボールを放ち、それに合わせて火神が跳ぶ。
しかし、止める為に跳んだ火神の手は、氷室の投げたボールに掠りもしなかった。
「え…!?」
驚き目を見開く。
黒子も木吉も皆、目を丸くして唖然としていた。
「なっ!?ジャンプのタイミングは完璧だったはずだ!ただのジャンプシュートじゃねーのか!?」
「ただのジャンプシュートなわけないだろ。タイガの知らない業だよ」
不敵に笑った氷室がくるりとこちらに振り返る。
ばちりと目が合ってしまった真司は、動くことが出来なかった。
「烏羽君」
名前を呼ばれてびくっと体が震える。
何だろう、彼のオーラはどことなく彼等に近い気がする。
「次会うとしたら冬、だね」
「あ…、あの、インターハイって陽泉は…どこまでいったんですか」
「ん?三位だったかな。でも敦もオレもいなかったし、次はもっと上まで行くよ」
誠凛も勝ち残ってね、そう言いたげな言葉に、真司はこくりと頷いた。
結局上位は皆、キセキの世代の一人がいる学校に制覇されたのだ。
負けるわけにはいかない。
「…負けません、絶対に」
「楽しみにしているよ」
「…、あ、」
にこ、と目を細めて微笑んだ氷室が真司の頭を撫でる。
そんな氷室を見上げたまま、真司はまた動けなくなってしまった。
「ふ…そんな目で見られると困るな」
「え、」
「誘ってるのかい?」
細められた目に射抜かれる。
近付いてきた顔は、視界の外で真司の額に触れた。
「え、え!?」
「君は本当に可愛いね」
「っ…!?」
「また、ウィンターカップで」
ひらりと軽く手を振って、氷室が目の前から消える。
雨に濡れた額が風に吹かれてひやりとする中、柔く残る唇の感触。
「あー!室ちん!」
ぼうっとしたまま立ち尽くす真司を現実に引き戻したのは、紫原の大きめな声で。
がばっと大きな体に抱きしめられて、真司はようやく額を押さえて顔を真っ赤に染めた。
「室ちんのバカ!烏羽ちんなんでそんな可愛い顔してんの!?」
「は!?え!?」
「ダメダメ絶対ダメ!室ちんヤな奴だかんね!だまされちゃ駄目だから!」
「そ、そんなじゃないし!」
ぎゃんぎゃんと声を荒げる紫原に、氷室の背中がひくっと動く。
肩を揺らして笑っている様からするに、からかわれたのだろう。
それでも怒る気がしなかったのは、どうしようもなく氷室が素敵な男だったからかもしれない。
「もー!黒ちん、ちゃんと烏羽ちん見張っててよ!」
「出来たら苦労しません」
「や、でも、氷室さん格好良いよね?」
「烏羽ちん!?」
真司の率直な感想に紫原と黒子と、ついでに火神の顔が青くなったのは言うまでもなく。
呆れた顔した降旗に肩を叩かれるまで、彼等は雨の下なかなか動くことが出来ずにいた。
・・・
「あー、ビシャビシャだもー!」
雨は降り止むことなく、彼等は中止となったストバス会場を後にして駅に到着した。
着くなり鞄を下ろし、それぞれにタオルを取り出す。
早速疲れ切った声を出した降旗の言う通り、全員頭の上から水の入ったバケツをひっくり返されたかのような状態だ。
「烏羽タオル持ってないよね?これ貸すよ、って濡れてるんだけど」
「有難う、降旗君」
差し出されたタオルを受け取って、水の滴っている髪に当てる。
なんだか想定外なことばかりで、思いの外疲れてしまった。
「なんかさ、こんな事言うのあれだけど…烏羽ってああいう人がタイプなんだね」
「え、何?」
「いやほら、さっきの…火神の兄貴」
「氷室さんのこと?…まぁ、素敵だと思ったけど」
隣に立つ降旗の頬はほんのり赤い。
素直に頷いた真司には別にやましい気持ちはなかったが、それを聞いた火神と黒子と木吉が揃って振り返った。
「おまっ!そういうの隠せよ!」
「え」
「タツヤは確かにかっけぇけど、それ認められっと…」
「火神は正反対っぽいもんなぁ。勿論オレもだけど」
「烏羽君ってかなりの面食いですよね。分かってましたけど、ちょっとそればかりはどうしようもないので…」
なんだか責められている気がする。
確かに格好良いと思ったし、ドキドキもしたけれど、ここまで反応されるとは思っていなかった。
「だから!違うよ!別に、格好良いなーって思っただけだって!」
「それすら羨ましいよな、黒子」
「羨ましいです。けど、なんでボクにふるんですか木吉先輩」
むっと膨れてしまった黒子に、がっかりしたように俯く火神。
真司は隣で苦笑いする降旗の背中をパチンと叩いて、濡れて張り付く髪をかき分けた。
「そんなことより、気にすることあるでしょ、紫原君とか陽泉とか!」
「烏羽って…本当にキセキの世代を手懐けてんだね」
「そうじゃなくて!ウィンターカップ!陽泉とあたるかもしれないってそういう!」
「わ、分かってるって、ごめんごめん」
また面倒なことを言う降旗の背中をべしべしと叩き、真司ははぁっと短いため息を吐いた。
ウィンターカップ、陽泉とぶつかれば当然立ちはだかる壁となるだろう。
「紫原君は…やっぱり、バスケのことになるとあんな態度とるし…」
やっぱり彼とは相容れないのかな。
しゅん、と真司の視線が地面に落ちる。
それを見てか、火神は数回咳払いをしてから、黒子に声をかけた。
「…なぁ、真司はともかく、黒子は紫原の仲悪いのか?やけに険悪な挨拶だったな」
「…そんなことないですよ。ただ、選手としては、お互い気が合いませんでした」
人より体が大きかった、それだけでバスケを始めた紫原。
紫原はバスケは好きでないと言うが、好きでなくても出来てしまう、天才だった。
「彼は、才能があれば好きである必要はなく、また好きでも才能がない人を見るとイライラすると言っていました」
「テツ君、よく喧嘩してたもんね」
「紫原君が酷いことばかり言うからです」
全く正反対の二人。バスケを介したことでは黒子と紫原の相性は最悪だった。
黒子ほどではないものも、真司でさえ紫原とはよくもめたものだ。
「俺も…紫原君のことは好きだけど、バスケへの考え方はやっぱり違うと思うよ」
「ですね。好きだから頑張れるし、勝った時心から嬉しい。だから、ボクはバスケが好きだし、皆バスケが好きな誠凛が好きです」
にこっと黒子が柔らかく笑う。
それにドキッとしてしまったのは、意識していたからとかではなくて。
単純に心から美しいと思った。黒子の心が純粋に輝いていたから。
「…テツ君…」
「はい」
「俺も…」
好きだ。バスケが、そして黒子テツヤという存在が。
開いた口が震える。こちらを見つめる黒子の丸い瞳に、こんなに魅入られたことなどあっただろうか。
「烏羽君?」
きょとんと首を傾げるその仕草さえも、胸をくすぐるような。
真司はごくりと唾を飲んで、黒子へ一歩近付いた。
そして無意識に、まだ濡れている黒子の頬に手を伸ばす。
「ん?」
しかしその直後。
携帯の電子音と火神の素っ頓狂な声に、真司はばっと黒子に伸ばした手を引っ込めた。
「ど、どうしたの、火神君」
「あ?いや…監督が今から学校来いって…」
「え」
自分の思わぬ行動に心臓がかなり高鳴っていたが、その内容に熱は一気に飛んで行った。
今から学校に、なんて。
真司は黒子と目を合わせ、何故だかわからないその事情に首を傾げた。
事情も分からず学校に向かった真司達は、それから程無くして到着した。
全く、朝からあっちに行ったりこっちに行ったり。
元々は一日悩みベッドに沈んでいる予定だった真司からすれば、予想外も甚だしい。
「烏羽君、大丈夫ですか?」
「え?何が?」
「烏羽君はすぐに風邪をひいてしまうイメージなので」
ばさっと傘を閉じた黒子が真司の頭に触る。
頭から雨を盛大にくらった真司の髪の毛は当然のことながらまだ濡れていた。
他の部員と比べて髪が長いせいか、一人だけ全く乾いていない。
「体育館に入ったら良く拭いて下さいね」
「うん。ありがと」
「君が今日その分厚い眼鏡をかけていて、本当に良かったです」
「は?」
良く分からないことを言い残して、黒子が先に靴を脱ぐ。
それにつられて後を追うと、それよりも先に体育館を覗き込んでいた降旗が不思議そうに声を上げた。
「あれ?先輩達みんないる…」
やっぱり皆自主練をしていたのだろう。
さすがだな、と感心しながら真司も続くと異変に気が付いた。
なんだろう、神妙な顔をした先輩達がこちらを見ている。
「やっと来たか…」
日向がそう呟き、顔を後ろに向ける。
と、それを合図にしたかのように、先輩達の間から飛び出してくる人影。
「テツ君!!」
「桃井さん?」
桃色の髪を揺らして黒子に抱き着いたのは、ここにいるはずのない桃井だった。
「え、なんで…!?」
さすがに驚き真司も桃井を覗き込む。
黒子の胸に顔を埋めて肩を揺らしている桃井は、ぐずぐずと涙をこぼしていた。
「桃井さん、とりあえず落ち着いて…こちらに」
巨乳で美人な桃井に抱き着かれてもなんともないのか、黒子は動揺することなく桃井の肩を掴む。
桃井の肩を抱いて体育館の隅に移動した黒子に感心しつつ、真司はさりげなく日向の腕をぐいと掴んだ。
「あの、監督がこっちに来るよう言ったのって…」
「ん?ああ、見ての通りだよ。黒子君いませんかって彼女が」
「なんだろう…俺も、話聞いてきますね」
「そりゃいいけどお前…ちゃんと拭いた方がいいぞ」
首にかけていたタオルをするっと取られ、頭をがしがしと拭かれる。
その乱暴さに少しよろけながら見上げた日向の顔は少し赤いような。
雨に濡れて飛び込んできた桃井の色気にやられたのだろう、と的外れな事を考えながら、真司は黒子と桃井に駆け寄った。
「…何があったんですか、桃井さん」
「っ、どうしようテツ君…、私、青峰君に嫌われちゃったかもしれない…!」
ぐずりながらそう言う桃井の言葉に、真司は耳を疑った。
いやいや、さすがにそりゃないだろと咄嗟に真司が思ったのは、青峰と桃井のその深い絆を知っているからこそだ。
ずっと共にいた幼馴染。何度羨ましいと思ったことか数えきれない。
「え、っと…そんなこと有り得ないと思うけど、どうしてそう思ったの?」
「うん…聞いてくれる?」
涙を拭い少し濡れた髪を耳にかける。
そんな仕草にキュンとしそうになる男心はともかく。
桃井の寂しそうな顔に、真司も黒子も口を噤んだ。
「青峰君は、今年のインターハイ、準決勝・決勝と欠場したの…主に肘の故障で」
「…!」
思わず開きそうになった口を、真司は息を呑むだけに止めた。
黄瀬とやった海常との準々決勝、青峰はかなり無茶をしていたのだ。
近くで見ていたからそれは良く分かっていた。だけど、まさかそんなことになっていたなんて。
「私…それに気付いて、監督に試合に出さないように訴えたの」
「え、それ、青峰君は…」
「すっごく怒ったよ。でも無理矢理スタメンから外して…けどそれがさっきバレて…」
桃井が監督に怪我のことを教えた。
それに対して青峰はおせっかいだの、余計なことすんなだの、かなり酷い言葉で責めたのだろう。
「大丈夫ですよ、桃井さん。青峰君もちょっとカッとなって言いすぎただけです。本当に嫌いになったりしませんよ」
黒子はそう言いながら桃井の頭に手をのせた。
よしよし、と子供をあやすように優しく撫でれば、桃井はうるっと瞳を揺らす。
「帰りましょう。青峰君もきっと今頃探していますよ」
「テツ君…!」
止まりかけた涙は、黒子の優しさに触れて再び溢れ出していた。
黒子は優しげに目を細めて、桃井を受け止めている。
どこまで優しい人なのだろう。
そんな黒子に胸が高鳴るのを感じながら、どこか青峰を心配している自分が憎い。
「すみません、ボクちょっと桃井さん送ってきます」
「え、じゃあ俺も…」
「君はしっかり体を拭いて、風邪を引かないようにしていて下さい」
「…、…えー…」
ばっさりと断られて、伸ばしかけた手を引っ込める。
黒子について行こうと思った裏側で、青峰に会いたいと思ってしまった気持ちを見透かされたかのようだ。
「…烏羽君、青峰君、怪我はもうかなり良くなったよ」
気持ちを見透かしていたのは、黒子だけではなかったらしい。
「桃井さん…」
「心配しないでね。そういうつもりで話したんじゃないし…。久しぶりに本気で試合出来て、楽しかったんだよね、あいつも」
「うん、知ってる…。だから俺は…」
桐皇と海常の試合の後から、青峰への思いは明らかに大きくなった。
考えないようにしていたけれど、やっぱり名前を聞くだけで思いは膨らんでしまうのだ。
「…じゃあ、桃井さん、ばいばい」
「うん、バイバイ、烏羽君」
その言葉を合図に、桃井は頭を下げて黒子と共に体育館を出て行った。
ついて行ったら、青峰に会えたのかもしれない。
性懲りもなくそんなことを考えて、振った手を握り締める。
「…」
視線を落として、目を閉じて、それから大きく息を吸う。
そうして切り替えようとしていた頭は、大きな手にがしっと掴まれていた。
「う、わ」
「お前の考えてること、分かりやすすぎて腹立つ」
上から火神の低い声が聞こえて来る。
意味も分からず「ごめん」と言いそうになった口は、ぼふんと火神の体にぶつかっていた。
「お前は悪くねーから。オレが勝手に…、」
その切なげな声色に察するのは容易かった。
何度目になるだろう、心の中で火神に謝罪するのは。
真司も何も言えず、沈黙と同時にその体温に身を任せる。
互いに重なり合うことの無い思いは、どうしようもなく居場所を失っていた。
「…おい火神、何どさくさに紛れて抱き締めちゃってんだ?」
「うお!?」
日向の声と同時に火神の手が素早く離れる。
真司を見下ろす日向の目もまた微かな痛みを帯びていた。
・・・
がたんがたんと大きく揺れる車内。
すっかり疲れ切ってウトウトとしている紫原の隣で、氷室はふっと息を吐いた。
今日はまさかの出会いが多すぎた。
弟分と、後輩の友人。いや、“友人”ではないかな。
「ねぇ敦、敦が言ってた烏羽君は本当に可愛いね」
ぽつりと落ち着いた声でそう言うと、ほとんど落ちていた瞼がゆっくりと開いた。
「え~?あったりまえじゃん。烏羽ちん相変わらず目ん玉真ん丸で可愛かったー…」
「そうだね、高校生男子とは思えない目をしていたよ」
紫原の言う通り、目は大きくて、睫毛も長い。
顔だけなら女の子と間違えそうな…身長も小さかったけれど。
ただ、気になるのはそれだけでなくて。
「敦もご執心だし…それにタイガも…」
「え?タイガ?ってあのうっざい奴?」
「あぁ、彼はかなり人を惹き付けやすいみたいだ」
本人の口から聞いたわけではないけれど、可愛らしくて才能もある、そんな一人の少年に誰も彼もが魅了されていく。
それは、氷室が興味を持つのに十分な要素だった。
「烏羽君…彼も、バスケは上手いんだろう?」
「は?ちっさくてすばしっこいだけだし」
「え、でも帝光中で一軍だったんだろ、それは」
「そんなん関係ねーもん。ちっさくて危ないから辞めればいいのに」
紫原の適当な答えに、氷室は訝しげに眉を寄せた。
そりゃあ恵まれた紫原からすれば、他の人など大したことはないのだろうが。
「室ちん、もしかして室ちんも烏羽ちん欲しいとか言い出すつもり?」
「え、いやそんな、物じゃあるまいし」
「やだやだ、烏羽ちんってばいっつもそうだから。ま、誰にもやんねーけど」
面倒くさそうに言うわりには、いつの間にか覚めたのだろう目をしっかりと開いて、それでいて抱えるお菓子を口にしようとはしない。
そんな紫原の様子に、氷室は口元にだけ笑みを浮かべると、窓の外に視線を移した。
「やんねーって、敦に何が出来るの?」
向こうは東京、こちらは秋田。
明らかな距離のせいで、卒業から今まで一度も会えていなかったのだろうに。
氷室のその言葉には、さすがの紫原もむっと口をへの字に曲げた。
「…もしかして室ちん、変なこと考えてない?ほんっと止めてよね、室ちんでも許さねーから」
「分かってるよ」
分かっている。手を出そうとすれば彼等を全て敵に回すことになる。
それが、面白い。
氷室はこつんと窓に頭を寄せて、今度は楽しそうに微笑んだ。
可愛らしい少年を脳裏に浮かべながら。