黒バス(2012.10~2017.12)
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季節が変わって、少しずつカーディガンを脱いでワイシャツを捲るようになり始めた頃。
外では野球部やらサッカー部やらが熱の入った練習を行っている。開いた窓から賑やかな声が入り込んできて、教師は静かに教室の窓を閉めた。
「少しだけ、暑くても我慢してくれよ」
「はい」
三年になっても変わらなかった担任の教師。暑がりなのか、手に持っているプリントで首元を扇いでいる。
真司の目の前には分厚い本。書かれているのは無数の高校名と数字の羅列。
「ま、あまり長くはならないから大丈夫だと思うけどな」
「はい、お気になさらず」
がたがたと音を立てて引いた椅子に腰かけた教師は、笑いながら指を本の一部へと向けた。
「本題だが…お前の学力なら、この学校も狙えると思うぞ。この辺りも余裕なんじゃないか?」
「…そう、ですね」
「親御さんは何と言っているんだ?勿論、親御さんとは話しているんだろう?」
「親は行きたいところに行けと」
元々機嫌が良いのか、はたまた教師受けの良い真司が相手だからか、教師はいつもより饒舌に語る。
決して内容を聞いていなかったわけでもなく、興味のない話だというわけでもなく、それでも真司は上辺だけの笑いを浮かべて答えた。
まだ早い、と思っていた進路相談。直に三者面談もあるのだという。
「じゃあ…烏羽、お前はどこを狙いたいんだ?スポーツの推薦もあるんだろ?」
「まだ、全然考えていなくて」
「そうか…。そろそろ考えないとな」
「はい」
教師がそこまで熱い人でなかったことが救いといったところか。
決まっていないなら、今長く話したところで意味が無いと判断したのだろう。本を閉じて、教師はもういいぞと軽く言った。
「これからちゃんと決めていこうな」
「…有難うございました」
頭を下げて、教師と二人きりだった教室から立ち去る。
行きたい高校なんて無いどころか、考えたことすらなかった。
勉強だってスポーツだって、高校受験を考えながら行っていたものではない。
「まぁ…まだ先だし」
と思うのも当然なのではないかという、まだ春に近い空気。
真司は廊下を歩きながら、はぁ…と息を吐いた。
耳を澄ませば聞こえる真司を噂する声。先日の事があって、確実に黄瀬と真司の関係を噂する声が広まった。
それに対しても、思いの外早かったなーくらいの感想しか抱かない。いろんな事に慣れてきてしまったらしい。
「あれ、青峰君?」
ふと顔を上げると、前方に見えるのは階段を上っていく青峰の姿。
真司は慌ててその後を追いかけた。
「青峰君!」
「あ?…真司か」
「何してんの?」
「何もしてねーよ」
現在、面談をしていた等の理由が無ければ部活をしている時間だ。
ということは、青峰はまたサボっていたのだろう。
それが分かって見過ごすわけにはいかない。真司は青峰の手を掴んで引っ張った。
「じゃあ丁度良かった。部活行こ」
「分かって言ってんだろ、真司」
「青峰君…」
「…」
じっと見つめる。青峰の暗く深い青の瞳に真司は映っていない。
青峰と、こんな風にぎこちなくなっていくのを止めることが出来なかった。青峰が自分のことを好きでいるのかも、なんて希望も打ち砕かれたかのようだ。
「あ…青峰君、進路とか、考えた?」
「はぁ?んなの考えてるわけねーだろ」
「だよねぇ」
「…」
違う、こんな話したいんじゃない。
ぎゅっと握る手を離さずに、それでもかける言葉が見つからない。
「真司」
「な、何?」
「お前、レギュラーになって嬉しいか?」
「…え?」
掴んだ腕もそのまま、青峰が階段を上って行く。
当然ながら真司の力で青峰を止めることなど敵わず、真司は青峰に掴まったままついて行った。
「う、嬉しいよ、皆と一緒にバスケ出来るんだもん」
「じゃあ…本当に自分が必要だと思うか?」
重い扉だということを感じさせない程、片手であっさりと開け放つ。
ぶわっと風が髪をかき上げて、夕日の赤が二人を照らした。
振り返り真司を見る青峰の目は、何を思っているのだろう。嘲笑、憐み、それとも同情か。
「…なんだよ、それ…」
「オレ、赤司、緑間、黄瀬、紫原。十分だろ」
思わず青峰の腕を掴んでいた手から力が抜けた。青峰は何も言わずに足を進めていく。
それを、真司は追う事も出来ずに立ち竦んでいた。
だって、青峰の口から、そんな言葉。
「確かに、皆すごいよ…俺なんか、足元にも及ばないし…」
試合に勝つ、それだけなら彼等だけで十分だろう。それでも彼等の中で黒子はずっと一緒に戦っていた。
青峰の相棒はずっと黒子だった。
「でも、俺やテツくんにも出来ることがあるから…」
「確かにテツも真司もスゲェよ。だけどな、お前等じゃ、勝てねぇんだよ」
相棒として青峰の隣に立っていた黒子さえも、青峰は必要ないと言うのか。
ぷちんと真司の中の何かが音を立てて切れた。
「…ふざけんな」
「あ?」
ずかずかと青峰に向かって歩き出す。
手を伸ばして青峰の肩を掴めば、逆にその手が掴まれて。二人の間にある圧倒的な力の差が、真司の体を押し倒させた。
「っ!」
「分かんだろ、真司。お前はオレに勝てねぇ」
「そんなの!分かんない!」
「分かんだよ」
青峰の体が覆いかぶさって真司の上に影が出来る。逆光が眩しくて、青峰の顔が見えない。
それでも、青峰の顔はきっと酷く歪んでいるはずだ。青峰が言っていることは、青峰の望むものではないから。
「なんで…そんな悲しいこというんだよ…」
手を伸ばして、青峰の頬に触れる。暖かさは変わらないのに、ふさぎ込んでしまった彼は戻って来ない。
「バスケ…そんなに楽しくない…?」
「あぁ。バスケなんて、つまんねぇんだよ」
強すぎる青峰に、誰も本気で挑まなかったから。誰もが力の前では成す術も無かったから。
それなら、真司に出来る事は一つだけだ。
「負かす。絶対負かしてやる…」
「んな泣きそうな顔で何言ってんだ」
「誰のせいだよ馬鹿」
青峰の大して柔らかくない頬を摘まんで引っ張る。ほんの小さな青峰への対抗心のつもりだった。
しかし、その手はやはり簡単に青峰に掴まれ、そして何故か青峰は真司に顔を近付けていた。
「あ、おみねく…!?」
軽く、本当に一瞬だけ。
青峰と真司の唇は重なっていた。
「っ…」
驚いて目を見開けば、青峰も同じような顔で真司を見ている。
心臓が煩い程に内側から胸を叩いて、頬から広がった熱は体全身に巡って、頬から汗が一筋流れた。
「何してんだ、オレ」
「いや…知らないし…」
「お前、なんでそんな細ぇんだよ」
「これでも鍛えてるよ!」
のそっと青峰が立ち上がり、意味もなくズボンを手で払った。
眩しくなった視界を手で覆いながら、真司も続いて体を起き上らせる。眩しい夕暮れの光に目が開けられない。
「…今の、答えのつもりじゃないんだよね…」
「あ?」
「さっきのキス、ホントはルール違反だかんな」
「おま…キスとか言うな」
青峰の背中、こちらを見ない顔。
本当はもっと近付きたくて、その大きな背中に抱き着きたくて仕方がない。
それでも立ち向かうと決めたから、真司はきゅっと唇を噤んで扉の方へ戻って行った。
「好き」
出て行く直前に、青峰には聞こえないくらいの小さな声で呟く。実際のところ、それが青峰に聞こえていたかどうかは真司の知る所ではない。
青峰は首だけこちらに向けて、去って行く真司をじっと見つめていた。
月日は過ぎて、迎える夏の大会。
真司は試合に出なかった。
本来なら皆と試合に出て戦うはずだったのだが、真司自ら赤司に頼んだのだ。
「俺を…レギュラーから外して下さい…」
それは、自分が弱いのを認めたからではなく。必要じゃない、そうはっきりと告げた青峰と共に戦う気になれなかったからだ。
「本来なら…そんな我が儘を受け入れることは出来ないのだが」
「赤司君、ごめんなさい」
「はぁ…。まぁ、これも想定内だな」
赤司は残念そうにしていたが、半分諦めたように頷いてくれた。
皆とは同じチームとして戦えない、そんな決別を込めた覚悟。それを、赤司は全て察していたのだろう。想定内、その言葉が証拠だ。
「真司も…オレの意志と違うのか」
「赤司君?」
「いや…。真司、オレが好きか?」
「え、うん、好きだよ」
「ならいい」
好き、なんて何度も何度も伝え合った。心も体も繋がり合っているはずなのに、何故か途端に不安になったのを覚えている。
そしてその不安は消え去ることなく夏の大会を終え、そして帝光中学校バスケ部は全中三連覇を成し遂げた。
完全勝利、敵などいなかった。
赤司、青峰、黄瀬、緑間、紫原、そして黒子の手で勝ち取った勝利。
しかし、その直後、黒子は姿を消した。
「黒子っち…どこ行っちゃったんスかね…」
「うん」
「退部するにも一言くらい言って欲しかったっスよね」
「…」
秋風吹き付ける屋上。そこに黄瀬と二人、真司は昼食をとっていた。
大会が終わってすぐ、黒子は赤司に退部届を提出したそうだ。それだけで済めばまだ良かった。
しかし、黒子は完全にいなくなった。
「あれだけ探したのに見つかんないなんて…。見つけて欲しくない、んスよね、きっと」
「多分…」
初めは黒子を探して校内を歩き回ったが、それももう諦めてしまった。全力のミスディレクションは思っていた以上に黒子の姿を薄くしているらしい。
「真司っち、何か黒子っちから聞いてないんスか?」
「俺、は…」
黄瀬の言葉に、真司は無意識にごくりと唾を飲んだ。
黒子は悩みを打ち明けてくれたのだ。しかし、真司はそれに応えてあげることもせず、挙句先に身を引いてしまった。
最後まで、黒子は一人、必要とされていないと分かっていながら戦っていたのだろう。
それが、どれだけ辛かったか。想像には難くない。
「真司っち…?ど、どうしたんスか!?」
「…っ、」
黒子が退部して、それでも真司はバスケ部に残った。少しでも、もっと強くなる為に。
そう決めたのに、ボールを見る度に考えてしまう。
自分が一緒に戦っていたなら、少しは違ったのかもしれない。皆の変化に気付いて、共にいたなら。
何てこと、今となっては遅すぎるのに。
「真司っち、泣かないで…」
「泣いてない…」
「泣いてるじゃん、ほら」
黄瀬の体に抱き締められ、涙が暖かい匂いの香る服へ吸い込まれていった。
黄瀬も、緑間も、紫原も、そして赤司も、皆みんな勝利が全てのバスケをしている。
それは夏になってようやく分かったことだった。
強すぎて、勝つことが当然になってしまったのだ。
もう、彼等と楽しくバスケをすることは出来ないだろう。
「…真司、やはりここにいたか」
「あれ、赤司っち?」
顔を上げて、そこに現れた人を映す。
勝つことが全てだと言う、その筆頭がこの赤司だ。
「赤司っちがここに来るの、珍しいっスね」
「あぁ。真司に用があってな」
黄瀬の腕から出て、赤司の方へと踏み出す。
バスケでは分かり合えなくても、こうして前に立たれると堪らなく愛しい人。そこに変わりはないから厄介だ。
真司はたたっと駆け寄りながら、目を手で擦った。
「真司は泣き虫だな」
「…泣いてない」
「目を赤くして良く言う。黄瀬、真司を借りるぞ」
「あ、はいっス」
先に屋上を出ていく赤司について歩く。
たんたんと進んでいく赤司との身長差も、気付けば大きくなっていた。
少し目線の高い位置にある赤い髪が揺れている。
「真司、進路は決めたか?」
ふと問いかけられた質問に、真司は目を丸くした。
わざわざ屋上まで呼びに来て、そんなことを問われるとは思いもしなかったのだ。
「え、ううん、全く…」
「そうか、そうだろうな」
階段を降りて、赤司は何故か滅多に行く事の無い生徒指導の教室がある方へと向かっていた。
生徒などほとんど通らない廊下。そこでぴたりと足を止める。
「黒子は、誠凛高校へ行くことにしたそうだ」
「せい、りん…?」
「スポーツ推薦は蹴って、今年バスケ部が新設されたばかりの高校を選んだみたいだな」
振り返った赤司と目が合って、その瞬間びりっとした感覚が肌を掠めた。
どうして、赤司がそれを、今、真司に。
「それって…テツ君は諦めてないってことだよね」
「…」
「立ち向かっていいってことだよね」
赤司の傍を離れたくないという思いと、黒子と共に戦いたいという思いの交差。
迷いは確かにあった。しかし、皆とまた楽しくバスケをする為には、敵対するしかないのだ。敵対して、勝つ、勝って証明する。
「皆が…大好きだから」
大好きだからこそ、妥協したくない。
真っ直ぐに赤司の瞳を見つめる。赤司はその視線に気付きながらも、何も言わなかった。
ただ小さく笑みを浮かべて、真司に背中を向ける。
「待って、赤司く…」
「真司」
赤司を呼び止めようと伸ばした手は、ぴたりと空で止まった。
今真司を呼んだのは、少し低めの女性の声。
ずいぶんと久しぶりに聞いたその声は、こんな所で聞こえるはずの無いもので。
「…母さん……?」
驚いて振り返った真司の視界には、間違いなく母が映っていた。
つかつかとヒールの音を鳴らして、近付いて来るその人。今まで見たどの時と比べても、身形整った姿をしている。
「…さっさと済ませて帰るから」
「え、え」
「何してんの、相変わらず鈍臭いわね」
怒られるかと思いきや、そんなこともなく。
「あんたがポストにこれ、入れてったんでしょ」
そう言って母が見せたのは、三者面談を知らせるプリント。勿論、そんなものを家に届けた覚えなど真司には全くない。
しかし、母は横にあった教室の扉を開けてそこに入って行った。
その教室に貼られているプリントは、三者面談の時刻と名前が書かれたもの。
「嘘…」
そこには、本日の、この時刻の欄にしっかりと“烏羽”の名が記されていた。
慌てて教室の中に入れば、さも当然のように担任の教師が座って待っていて、思わずそこに用意されている席に着く。
「さて…まぁ進路のことなんですが」
お決まりのようなフレーズ。教師は普段よりもしゃんとした姿で、母に向けて語り出した。
「息子さん、成績も優秀でスポーツの推薦もきているんですよ。お母さんは、どうお考えですか?」
「息子に任せます。私無しでも、生きていける子ですから」
これは、夢なんじゃないか。そう疑いたくなる状況も、ここまでの経緯を辿れば自ずと導き出された。
結局、全て赤司の思い通りなのだ。
赤司に魅入られた時点で、全て彼の思いのまま。
「烏羽くん、志望校は決まった?」
今までの面談で、一番聞かれたくなかった言葉。しかし、今ならはっきりと答えられる。
真司は大きく頷いて、真っ直ぐ顔を上げた。
「誠凛高校を志望します」
教室の中から微かに聞こえてくる声。
赤司はそれを確認すると、ふっと笑って壁に預けていた背を離した。
「赤ちんやさし~」
「良かったのか、赤司」
顔を上げると、待ち構えてそこに立っている長身二人が視界に入った。
「お前達…こんなところで何をしている」
「ん~?赤ちんを慰めようと思って」
「余計なお世話だ」
人のことを優しいなどと言っているが、廊下の角でわざわざ待機しているこの二人こそ、余程の心配性だ。
ということを言及したら、ツンな緑間に怒られ面倒になりそうだが。
「言っただろう、真司は黒子をとる、と」
「それ、いつの話~?」
「そうだな…ずいぶん前かもしれないな」
一人一人、真司と心を通わせていった。その中で、最後まで一定以上の距離を縮めなかった黒子。
それ故に、真司は黒子の気持ちを読み取りきれなかった。
「こうなると分かっていて、策をとらなかったのはオレだ。後悔はないよ」
「烏羽と敵対しても良い、ということか」
「ちょっとした反抗期だ。大目に見てやるさ」
「赤司、オレが言っているのはー…」
季節は秋。まだ部活は続けているものの引退も近い。そうすれば後は受験勉強にいそしむだけとなる。
真司も今は赤司の練習メニューをこなしているが、直に一人で戦う為の努力を始めることだろう。
何せ、真司が戦い、そして倒したいのは“キセキの世代”なのだから。
「…本当は、手放したくなんてなかった」
これからも、ずっと近くで。それが叶えばどんなに良かったか。
「この腕の中に、捕えておきたかった」
「赤司…」
自分の掌を見つめ、寂しそうに目を細める。
こんな赤司の姿を、未だ嘗て見たことがあっただろうか。
緑間も紫原も、赤司から視線を逸らした。
本心を言ってしまえば、二人とも同じ気持ちだった。
ようやく手に入れた愛しい人を、みすみす手放すなど。
「だが、真司の心がオレ達から離れることはない」
ぽつりと、赤司が呟いた。
はっとして赤司に視線を戻すと、広げられていた掌は、きつく握り締められている。
「一度許した心は、そう簡単に閉じられたりしない」
「はっきりと言うのだな」
「今も、オレがいかに必要な存在か実感しているはずだからな」
最後の仕込みも終了した今、真司の中で赤司の存在は誰よりも大きくなっているはず。
なんて、そんなことに頼ってまで真司を離すまいとしている。
「はは…オレも、完全に囚われているな」
珍しく自嘲を含んだ赤司の笑いに、緑間は目を丸くした。
赤司にこんな顔をさせる真司は、やはり余程の存在なのだろう。
「オレも、みすみす黒子に渡すつもりはないのだよ」
「勿論だ」
今回は黒子の一人勝ちだったというだけのこと。
それが今後に影響するかといったら、それはまた別の話だ。
「でもさ~、黒ちんと烏羽ちん、二人くっ付いたって弱っちいのには変わりなくね?」
ばりっと頭上で菓子の粉が舞う。
それを怪訝そうに見ながらも、赤司は口元に笑みを浮かべた。
「そうしてまたオレが必要になる」
「赤ちん性悪~」
「それがオレのやり方だ」
初めから、悪役のような顔をしながらも、赤司はただ真司が好きだっただけ。
それが分かった今、緑間も赤司を否定するような考えはしない。
「オレ達、なのだよ」
「はは、そうだな。オレ達だ」
それぞれ違う進路を決めて、違う道を歩き出す。それでも心は繋がっているのだと信じた。
短かった中学生活。その中のほんの一部を共にした仲間たち。
彼等の物語はここで一度幕を閉じ、そしてまた始まる。
むしろ、ここからが本当の始まりだということを、彼等もまた感じ取っていた。
外では野球部やらサッカー部やらが熱の入った練習を行っている。開いた窓から賑やかな声が入り込んできて、教師は静かに教室の窓を閉めた。
「少しだけ、暑くても我慢してくれよ」
「はい」
三年になっても変わらなかった担任の教師。暑がりなのか、手に持っているプリントで首元を扇いでいる。
真司の目の前には分厚い本。書かれているのは無数の高校名と数字の羅列。
「ま、あまり長くはならないから大丈夫だと思うけどな」
「はい、お気になさらず」
がたがたと音を立てて引いた椅子に腰かけた教師は、笑いながら指を本の一部へと向けた。
「本題だが…お前の学力なら、この学校も狙えると思うぞ。この辺りも余裕なんじゃないか?」
「…そう、ですね」
「親御さんは何と言っているんだ?勿論、親御さんとは話しているんだろう?」
「親は行きたいところに行けと」
元々機嫌が良いのか、はたまた教師受けの良い真司が相手だからか、教師はいつもより饒舌に語る。
決して内容を聞いていなかったわけでもなく、興味のない話だというわけでもなく、それでも真司は上辺だけの笑いを浮かべて答えた。
まだ早い、と思っていた進路相談。直に三者面談もあるのだという。
「じゃあ…烏羽、お前はどこを狙いたいんだ?スポーツの推薦もあるんだろ?」
「まだ、全然考えていなくて」
「そうか…。そろそろ考えないとな」
「はい」
教師がそこまで熱い人でなかったことが救いといったところか。
決まっていないなら、今長く話したところで意味が無いと判断したのだろう。本を閉じて、教師はもういいぞと軽く言った。
「これからちゃんと決めていこうな」
「…有難うございました」
頭を下げて、教師と二人きりだった教室から立ち去る。
行きたい高校なんて無いどころか、考えたことすらなかった。
勉強だってスポーツだって、高校受験を考えながら行っていたものではない。
「まぁ…まだ先だし」
と思うのも当然なのではないかという、まだ春に近い空気。
真司は廊下を歩きながら、はぁ…と息を吐いた。
耳を澄ませば聞こえる真司を噂する声。先日の事があって、確実に黄瀬と真司の関係を噂する声が広まった。
それに対しても、思いの外早かったなーくらいの感想しか抱かない。いろんな事に慣れてきてしまったらしい。
「あれ、青峰君?」
ふと顔を上げると、前方に見えるのは階段を上っていく青峰の姿。
真司は慌ててその後を追いかけた。
「青峰君!」
「あ?…真司か」
「何してんの?」
「何もしてねーよ」
現在、面談をしていた等の理由が無ければ部活をしている時間だ。
ということは、青峰はまたサボっていたのだろう。
それが分かって見過ごすわけにはいかない。真司は青峰の手を掴んで引っ張った。
「じゃあ丁度良かった。部活行こ」
「分かって言ってんだろ、真司」
「青峰君…」
「…」
じっと見つめる。青峰の暗く深い青の瞳に真司は映っていない。
青峰と、こんな風にぎこちなくなっていくのを止めることが出来なかった。青峰が自分のことを好きでいるのかも、なんて希望も打ち砕かれたかのようだ。
「あ…青峰君、進路とか、考えた?」
「はぁ?んなの考えてるわけねーだろ」
「だよねぇ」
「…」
違う、こんな話したいんじゃない。
ぎゅっと握る手を離さずに、それでもかける言葉が見つからない。
「真司」
「な、何?」
「お前、レギュラーになって嬉しいか?」
「…え?」
掴んだ腕もそのまま、青峰が階段を上って行く。
当然ながら真司の力で青峰を止めることなど敵わず、真司は青峰に掴まったままついて行った。
「う、嬉しいよ、皆と一緒にバスケ出来るんだもん」
「じゃあ…本当に自分が必要だと思うか?」
重い扉だということを感じさせない程、片手であっさりと開け放つ。
ぶわっと風が髪をかき上げて、夕日の赤が二人を照らした。
振り返り真司を見る青峰の目は、何を思っているのだろう。嘲笑、憐み、それとも同情か。
「…なんだよ、それ…」
「オレ、赤司、緑間、黄瀬、紫原。十分だろ」
思わず青峰の腕を掴んでいた手から力が抜けた。青峰は何も言わずに足を進めていく。
それを、真司は追う事も出来ずに立ち竦んでいた。
だって、青峰の口から、そんな言葉。
「確かに、皆すごいよ…俺なんか、足元にも及ばないし…」
試合に勝つ、それだけなら彼等だけで十分だろう。それでも彼等の中で黒子はずっと一緒に戦っていた。
青峰の相棒はずっと黒子だった。
「でも、俺やテツくんにも出来ることがあるから…」
「確かにテツも真司もスゲェよ。だけどな、お前等じゃ、勝てねぇんだよ」
相棒として青峰の隣に立っていた黒子さえも、青峰は必要ないと言うのか。
ぷちんと真司の中の何かが音を立てて切れた。
「…ふざけんな」
「あ?」
ずかずかと青峰に向かって歩き出す。
手を伸ばして青峰の肩を掴めば、逆にその手が掴まれて。二人の間にある圧倒的な力の差が、真司の体を押し倒させた。
「っ!」
「分かんだろ、真司。お前はオレに勝てねぇ」
「そんなの!分かんない!」
「分かんだよ」
青峰の体が覆いかぶさって真司の上に影が出来る。逆光が眩しくて、青峰の顔が見えない。
それでも、青峰の顔はきっと酷く歪んでいるはずだ。青峰が言っていることは、青峰の望むものではないから。
「なんで…そんな悲しいこというんだよ…」
手を伸ばして、青峰の頬に触れる。暖かさは変わらないのに、ふさぎ込んでしまった彼は戻って来ない。
「バスケ…そんなに楽しくない…?」
「あぁ。バスケなんて、つまんねぇんだよ」
強すぎる青峰に、誰も本気で挑まなかったから。誰もが力の前では成す術も無かったから。
それなら、真司に出来る事は一つだけだ。
「負かす。絶対負かしてやる…」
「んな泣きそうな顔で何言ってんだ」
「誰のせいだよ馬鹿」
青峰の大して柔らかくない頬を摘まんで引っ張る。ほんの小さな青峰への対抗心のつもりだった。
しかし、その手はやはり簡単に青峰に掴まれ、そして何故か青峰は真司に顔を近付けていた。
「あ、おみねく…!?」
軽く、本当に一瞬だけ。
青峰と真司の唇は重なっていた。
「っ…」
驚いて目を見開けば、青峰も同じような顔で真司を見ている。
心臓が煩い程に内側から胸を叩いて、頬から広がった熱は体全身に巡って、頬から汗が一筋流れた。
「何してんだ、オレ」
「いや…知らないし…」
「お前、なんでそんな細ぇんだよ」
「これでも鍛えてるよ!」
のそっと青峰が立ち上がり、意味もなくズボンを手で払った。
眩しくなった視界を手で覆いながら、真司も続いて体を起き上らせる。眩しい夕暮れの光に目が開けられない。
「…今の、答えのつもりじゃないんだよね…」
「あ?」
「さっきのキス、ホントはルール違反だかんな」
「おま…キスとか言うな」
青峰の背中、こちらを見ない顔。
本当はもっと近付きたくて、その大きな背中に抱き着きたくて仕方がない。
それでも立ち向かうと決めたから、真司はきゅっと唇を噤んで扉の方へ戻って行った。
「好き」
出て行く直前に、青峰には聞こえないくらいの小さな声で呟く。実際のところ、それが青峰に聞こえていたかどうかは真司の知る所ではない。
青峰は首だけこちらに向けて、去って行く真司をじっと見つめていた。
月日は過ぎて、迎える夏の大会。
真司は試合に出なかった。
本来なら皆と試合に出て戦うはずだったのだが、真司自ら赤司に頼んだのだ。
「俺を…レギュラーから外して下さい…」
それは、自分が弱いのを認めたからではなく。必要じゃない、そうはっきりと告げた青峰と共に戦う気になれなかったからだ。
「本来なら…そんな我が儘を受け入れることは出来ないのだが」
「赤司君、ごめんなさい」
「はぁ…。まぁ、これも想定内だな」
赤司は残念そうにしていたが、半分諦めたように頷いてくれた。
皆とは同じチームとして戦えない、そんな決別を込めた覚悟。それを、赤司は全て察していたのだろう。想定内、その言葉が証拠だ。
「真司も…オレの意志と違うのか」
「赤司君?」
「いや…。真司、オレが好きか?」
「え、うん、好きだよ」
「ならいい」
好き、なんて何度も何度も伝え合った。心も体も繋がり合っているはずなのに、何故か途端に不安になったのを覚えている。
そしてその不安は消え去ることなく夏の大会を終え、そして帝光中学校バスケ部は全中三連覇を成し遂げた。
完全勝利、敵などいなかった。
赤司、青峰、黄瀬、緑間、紫原、そして黒子の手で勝ち取った勝利。
しかし、その直後、黒子は姿を消した。
「黒子っち…どこ行っちゃったんスかね…」
「うん」
「退部するにも一言くらい言って欲しかったっスよね」
「…」
秋風吹き付ける屋上。そこに黄瀬と二人、真司は昼食をとっていた。
大会が終わってすぐ、黒子は赤司に退部届を提出したそうだ。それだけで済めばまだ良かった。
しかし、黒子は完全にいなくなった。
「あれだけ探したのに見つかんないなんて…。見つけて欲しくない、んスよね、きっと」
「多分…」
初めは黒子を探して校内を歩き回ったが、それももう諦めてしまった。全力のミスディレクションは思っていた以上に黒子の姿を薄くしているらしい。
「真司っち、何か黒子っちから聞いてないんスか?」
「俺、は…」
黄瀬の言葉に、真司は無意識にごくりと唾を飲んだ。
黒子は悩みを打ち明けてくれたのだ。しかし、真司はそれに応えてあげることもせず、挙句先に身を引いてしまった。
最後まで、黒子は一人、必要とされていないと分かっていながら戦っていたのだろう。
それが、どれだけ辛かったか。想像には難くない。
「真司っち…?ど、どうしたんスか!?」
「…っ、」
黒子が退部して、それでも真司はバスケ部に残った。少しでも、もっと強くなる為に。
そう決めたのに、ボールを見る度に考えてしまう。
自分が一緒に戦っていたなら、少しは違ったのかもしれない。皆の変化に気付いて、共にいたなら。
何てこと、今となっては遅すぎるのに。
「真司っち、泣かないで…」
「泣いてない…」
「泣いてるじゃん、ほら」
黄瀬の体に抱き締められ、涙が暖かい匂いの香る服へ吸い込まれていった。
黄瀬も、緑間も、紫原も、そして赤司も、皆みんな勝利が全てのバスケをしている。
それは夏になってようやく分かったことだった。
強すぎて、勝つことが当然になってしまったのだ。
もう、彼等と楽しくバスケをすることは出来ないだろう。
「…真司、やはりここにいたか」
「あれ、赤司っち?」
顔を上げて、そこに現れた人を映す。
勝つことが全てだと言う、その筆頭がこの赤司だ。
「赤司っちがここに来るの、珍しいっスね」
「あぁ。真司に用があってな」
黄瀬の腕から出て、赤司の方へと踏み出す。
バスケでは分かり合えなくても、こうして前に立たれると堪らなく愛しい人。そこに変わりはないから厄介だ。
真司はたたっと駆け寄りながら、目を手で擦った。
「真司は泣き虫だな」
「…泣いてない」
「目を赤くして良く言う。黄瀬、真司を借りるぞ」
「あ、はいっス」
先に屋上を出ていく赤司について歩く。
たんたんと進んでいく赤司との身長差も、気付けば大きくなっていた。
少し目線の高い位置にある赤い髪が揺れている。
「真司、進路は決めたか?」
ふと問いかけられた質問に、真司は目を丸くした。
わざわざ屋上まで呼びに来て、そんなことを問われるとは思いもしなかったのだ。
「え、ううん、全く…」
「そうか、そうだろうな」
階段を降りて、赤司は何故か滅多に行く事の無い生徒指導の教室がある方へと向かっていた。
生徒などほとんど通らない廊下。そこでぴたりと足を止める。
「黒子は、誠凛高校へ行くことにしたそうだ」
「せい、りん…?」
「スポーツ推薦は蹴って、今年バスケ部が新設されたばかりの高校を選んだみたいだな」
振り返った赤司と目が合って、その瞬間びりっとした感覚が肌を掠めた。
どうして、赤司がそれを、今、真司に。
「それって…テツ君は諦めてないってことだよね」
「…」
「立ち向かっていいってことだよね」
赤司の傍を離れたくないという思いと、黒子と共に戦いたいという思いの交差。
迷いは確かにあった。しかし、皆とまた楽しくバスケをする為には、敵対するしかないのだ。敵対して、勝つ、勝って証明する。
「皆が…大好きだから」
大好きだからこそ、妥協したくない。
真っ直ぐに赤司の瞳を見つめる。赤司はその視線に気付きながらも、何も言わなかった。
ただ小さく笑みを浮かべて、真司に背中を向ける。
「待って、赤司く…」
「真司」
赤司を呼び止めようと伸ばした手は、ぴたりと空で止まった。
今真司を呼んだのは、少し低めの女性の声。
ずいぶんと久しぶりに聞いたその声は、こんな所で聞こえるはずの無いもので。
「…母さん……?」
驚いて振り返った真司の視界には、間違いなく母が映っていた。
つかつかとヒールの音を鳴らして、近付いて来るその人。今まで見たどの時と比べても、身形整った姿をしている。
「…さっさと済ませて帰るから」
「え、え」
「何してんの、相変わらず鈍臭いわね」
怒られるかと思いきや、そんなこともなく。
「あんたがポストにこれ、入れてったんでしょ」
そう言って母が見せたのは、三者面談を知らせるプリント。勿論、そんなものを家に届けた覚えなど真司には全くない。
しかし、母は横にあった教室の扉を開けてそこに入って行った。
その教室に貼られているプリントは、三者面談の時刻と名前が書かれたもの。
「嘘…」
そこには、本日の、この時刻の欄にしっかりと“烏羽”の名が記されていた。
慌てて教室の中に入れば、さも当然のように担任の教師が座って待っていて、思わずそこに用意されている席に着く。
「さて…まぁ進路のことなんですが」
お決まりのようなフレーズ。教師は普段よりもしゃんとした姿で、母に向けて語り出した。
「息子さん、成績も優秀でスポーツの推薦もきているんですよ。お母さんは、どうお考えですか?」
「息子に任せます。私無しでも、生きていける子ですから」
これは、夢なんじゃないか。そう疑いたくなる状況も、ここまでの経緯を辿れば自ずと導き出された。
結局、全て赤司の思い通りなのだ。
赤司に魅入られた時点で、全て彼の思いのまま。
「烏羽くん、志望校は決まった?」
今までの面談で、一番聞かれたくなかった言葉。しかし、今ならはっきりと答えられる。
真司は大きく頷いて、真っ直ぐ顔を上げた。
「誠凛高校を志望します」
教室の中から微かに聞こえてくる声。
赤司はそれを確認すると、ふっと笑って壁に預けていた背を離した。
「赤ちんやさし~」
「良かったのか、赤司」
顔を上げると、待ち構えてそこに立っている長身二人が視界に入った。
「お前達…こんなところで何をしている」
「ん~?赤ちんを慰めようと思って」
「余計なお世話だ」
人のことを優しいなどと言っているが、廊下の角でわざわざ待機しているこの二人こそ、余程の心配性だ。
ということを言及したら、ツンな緑間に怒られ面倒になりそうだが。
「言っただろう、真司は黒子をとる、と」
「それ、いつの話~?」
「そうだな…ずいぶん前かもしれないな」
一人一人、真司と心を通わせていった。その中で、最後まで一定以上の距離を縮めなかった黒子。
それ故に、真司は黒子の気持ちを読み取りきれなかった。
「こうなると分かっていて、策をとらなかったのはオレだ。後悔はないよ」
「烏羽と敵対しても良い、ということか」
「ちょっとした反抗期だ。大目に見てやるさ」
「赤司、オレが言っているのはー…」
季節は秋。まだ部活は続けているものの引退も近い。そうすれば後は受験勉強にいそしむだけとなる。
真司も今は赤司の練習メニューをこなしているが、直に一人で戦う為の努力を始めることだろう。
何せ、真司が戦い、そして倒したいのは“キセキの世代”なのだから。
「…本当は、手放したくなんてなかった」
これからも、ずっと近くで。それが叶えばどんなに良かったか。
「この腕の中に、捕えておきたかった」
「赤司…」
自分の掌を見つめ、寂しそうに目を細める。
こんな赤司の姿を、未だ嘗て見たことがあっただろうか。
緑間も紫原も、赤司から視線を逸らした。
本心を言ってしまえば、二人とも同じ気持ちだった。
ようやく手に入れた愛しい人を、みすみす手放すなど。
「だが、真司の心がオレ達から離れることはない」
ぽつりと、赤司が呟いた。
はっとして赤司に視線を戻すと、広げられていた掌は、きつく握り締められている。
「一度許した心は、そう簡単に閉じられたりしない」
「はっきりと言うのだな」
「今も、オレがいかに必要な存在か実感しているはずだからな」
最後の仕込みも終了した今、真司の中で赤司の存在は誰よりも大きくなっているはず。
なんて、そんなことに頼ってまで真司を離すまいとしている。
「はは…オレも、完全に囚われているな」
珍しく自嘲を含んだ赤司の笑いに、緑間は目を丸くした。
赤司にこんな顔をさせる真司は、やはり余程の存在なのだろう。
「オレも、みすみす黒子に渡すつもりはないのだよ」
「勿論だ」
今回は黒子の一人勝ちだったというだけのこと。
それが今後に影響するかといったら、それはまた別の話だ。
「でもさ~、黒ちんと烏羽ちん、二人くっ付いたって弱っちいのには変わりなくね?」
ばりっと頭上で菓子の粉が舞う。
それを怪訝そうに見ながらも、赤司は口元に笑みを浮かべた。
「そうしてまたオレが必要になる」
「赤ちん性悪~」
「それがオレのやり方だ」
初めから、悪役のような顔をしながらも、赤司はただ真司が好きだっただけ。
それが分かった今、緑間も赤司を否定するような考えはしない。
「オレ達、なのだよ」
「はは、そうだな。オレ達だ」
それぞれ違う進路を決めて、違う道を歩き出す。それでも心は繋がっているのだと信じた。
短かった中学生活。その中のほんの一部を共にした仲間たち。
彼等の物語はここで一度幕を閉じ、そしてまた始まる。
むしろ、ここからが本当の始まりだということを、彼等もまた感じ取っていた。