黒バス(2012.10~2017.12)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鳥のさえずりと、差し込む朝日に目を細く開ける。
腰に回された大きな手は、目の前で目を閉じて寝息を漏らす紫原のものだ。
「…可愛いなぁ」
横になって寝ていれば、彼の大きさ故の威圧感と目付きの悪さが緩和される。
しかし長い髪の毛が頬にかかる姿は、可愛さとは裏腹に色っぽさを引き出していて。
それを指先で退かし、真司はそのまま紫原の頬をきゅっと摘まんだ。
「紫原君、朝だよ」
「ん~…」
「今日も学校だよ」
もぞっと体を布団から出すと、何も纏っていない体は寒さに震えて。真司は紫原の体に自分の体をくっつけた。
「烏羽ちん…なーに可愛いことしてんの?」
「あ、起きた」
「勃っちゃいそ」
「こら」
腰を撫でてくる手をぱしっと叩いて、真司は今度こそ体を起き上らせた。
「ん…っ」
ズキッと走った痛みは、昨夜の行為によるものだろう。
大きな体に有り余る体力。そのせいで真司の体に残る疲労はなかなか大きい。
「今の烏羽ちんの可愛い声で勃ったー…」
「トイレで抜いてきて下さい…」
こう自覚した途端に、愛しさが込み上げるのだから不思議だ。
真司は軽く紫原の額に唇を押し当ててから布団を出た。
「烏羽ちん」
「んー?」
「呼んだだけー」
「何だよ、それ」
ごろっと紫原がベッドの上で反転する。
にこにこと笑っている紫原も、真司との思いが通じた嬉しさを感じているのだろう。
嬉しい。
しかし、ここで紫原に甘え過ぎるわけにもいかない。
「おっし、準備するかぁ」
「え~もう~?」
「早く起きないと、紫原君また寝るだろー」
ばっと布団をめくりあげると、下着だけを付けた紫原の体が露わになる。
真司とは完全に異なる体格。それに思わず見惚れて、がっちりとした胸板に手を置いた。
「烏羽ちん、もしかして欲情中?」
「…違います」
もぞっと紫原も体を起こす。
それに合わせて真司もとんっと床に足を降ろす。
新たな一日。
それが少し憂鬱なのは、解決できていない問題のせい。
真司は目を伏せて、そこに落ちている自分の服を回収した。
・・・
紫原と共に登校し、昇降口で分かれた後。
そこに待ち伏せしている男が真司の視界に映った。そわそわとこちらを見ているあたり、真司に用があるのは間違いないだろう。
「…おはよう、緑間君」
「あ、あぁ」
「どうかしたの?」
真司から声をかけると、少し嬉しそうに緑間の頬が緩んだ。
「今日は…お前の星座は蟹座と共にいるのが良いのだよ…」
「へぇ、そうなんだ?」
眼鏡の鼻に当たる部分を指先で押さえる。
そんな良く見るポーズで立っている緑間を目の前に、真司は首を斜めに傾けた。
それはつまり、そういうことなのか。
「蟹座ってことは、緑間君が丁度いいね」
「そ、そうだ。偶然ながら丁度オレは蟹座なのだよ」
「ふふ」
「何を笑っているのだよ…っ」
薄らと頬を赤くしている緑間の考えていることは分かりやすい。
恐らく真司といる為の口実として持ってきたのだろう。
真司は緑間を見上げ、目を細めて笑った。
「俺…青峰君に勉強教えなきゃなんだけど…、その前に緑間君に教えてもらおうかな」
「青峰に?お前がか?」
「うん。赤司君にそうしろって」
青峰の事を忘れているわけではない。ただ、その前に緑間に教わることにしただけ。そう、自分に言い聞かせる。
しかし、それを聞いた緑間は、深く眉間にシワを寄せた。
「…あいつは、何を考えているのだよ…」
「緑間君?」
「青峰のことを、お前が必死になる必要はないのだよ」
「え?うん…」
緑間は真司と青峰にある問題が、バスケ部のことだけだと思っているのだろう。
勿論、そう思っていてくれた方が良いに決まっているのだが。
緑間が何も知らない、ということに妙な安心感を抱く。
そんな真司に、片手にマイナスドライバーを持っている緑間は、もう片方の手に持っているノートを真司に差し出した。
「…何?」
「お前のラッキーアイテムなのだよ」
「へー。ノートとか、そんな普通のものもあるんだ」
緑間が持ってくるラッキーアイテムは異様な物であることの方が多い。
意外に思いながらそれを受け取った真司は、更に首を横に傾けた。
「でもノートなら俺持ってるけど」
「そ、そのノートで無ければ意味がないのだよ…」
「そーなの?なら有り難く借りるね」
そのノートは表も裏も青い色で、白の線でデザインが施されている。
緑間の手に似合うかっこいいノートだ。
真司が礼を言って見上げると、緑間は視線を逸らして気恥ずかしそうにしている。
何故だかわからないが、いつも通りの照れ隠しなのだろう。
「緑間君、可愛い」
「な!?」
「じゃあ、また後でね」
緑間に軽く手を振って教室に入って行く。
すぐに見えた自分の席と青峰の席。残念ながらというべきか、運良くというべきか、青峰はそこにいなかった。
「青峰君…」
彼のいない机を撫でて、そこに手を乗せる。
愛しくて堪らないのに他の皆みたいに触れることが出来ない。誰よりも近くて、遠くなってしまった人。
「っ、」
息を呑んで、手を引っ込める。
哀しんでいる場合ではない。真司なんかよりも、黒子や桃井の方が辛いはずだ。
真司は目を伏せて、自分の席に腰掛けた。
受け取った青いノートを置いて、ぱらぱらとページをめくる。
「…緑間君」
そこには数学、国語、社会、理科。数ページに渡って丁寧な文字が綴られていた。
「俺がサボった日の…ノートじゃん…」
見覚えのない式や文字、単語の数々。
以前に教わった時、緑間は真司の性質を理解したのだろう。見たモノや教わったモノ以外に関しては全く理解出来ないということ。
じわっと胸の奥が暖かくなる。
真司はふっと笑って、ノートに額をくっつけた。
チャイムが鳴り、一斉に教室がざわつき出す。
真司は静かに一人椅子から立ち上がると、そのまま横にかけていた弁当を手に取って教室を後にした。
青峰のいない教室に、特別仲の良い生徒はいない。
地味で真面目な生徒だという真司のイメージも完全に無くなったわけではなく、執拗に近付いてくる者もいない。
廊下を歩く真司の手には朝借りたノート。
真司は真っ直ぐに緑間がいるだろう教室に足を運んでいた。
「…緑間君、は」
知らない人ばかりの教室に顔だけを覗かせて、中をうかがう。
正直言って、緑間を探すのはかなり容易だ。背の高さ、綺麗な髪の色、背筋を伸ばした姿勢にラッキーアイテム。
「あれ…?」
勿論すぐさま発見したのだが、真司はそこにいるもう一人の人物に、胸をぐっと高鳴らせた。
「緑間君、赤司君」
「烏羽…?」
「真司が緑間を訪ねるとは、珍しいな」
意外そうな顔が二つ、真司に向く。
真司はその二人の表情に小さく笑ってから、たたっと駆け寄った。
「緑間君が言ったんじゃん、今日は蟹座の傍にいろって」
「た、確かにそのようなことは言ったが…」
「へぇ。緑間、やるじゃないか」
「う、煩いのだよ、赤司」
くっくと赤司が笑う。
真司は二人が挟む机の横で膝をつくと、その机に腕を乗せた。
「俺、邪魔じゃない?ここにいてもいい?」
「あぁ、構わないよ」
「別に大した話もしていなかったからな」
「良かった」
赤司がさり気なくぱたんとノートを閉じる。部活の話でもしていたのだろう。
ノートといえば。
真司は持ってきたノートをぱっと緑間の前に置いた。
「これ、有難う」
「…それはお前のラッキーアイテムなのだよ。一日持っていろ」
「もー十分頭に叩き込んだよ」
「…そ、そうか…」
ぴくっと緑間の指が動く。ラッキーアイテム、なんて嘘だ。それがはっきりして、緑間の優しさに頬が緩む。
そんな真司を見て、赤司が意味ありげに目を細めた。
じっと向けられた視線に、真司の目も赤司を捕らえる。
「赤司君?」
「いや…真司、お前も分かりやすい表情をするようになったものだと思ってな」
「分かりやすい表情?」
「あぁ」
自分の表情など、自分では全く分からない。
真司は自分の頬を両手で押さえながら、緑間に顔を向けた。
どんな顔をしているか、そう問うつもりだったのだが、緑間には伝わらなかったらしい。
「き、急にこっちを見るな…!」
「えぇ…理不尽」
真司から逸らされた緑間の顔が薄らと赤い。
「緑間君、照れてる」
「て、照れてなどないのだよ…」
「そういうお前も頬が赤いぞ、真司」
「え?」
伸ばされた赤司の手が真司の頬に触れた。線の細い指のイメージ通りの、ひやりとした指先がぶつかる。
それで更に熱が上昇していくのが分かって、真司は机の上に乗せた腕に自分の顔を埋めた。
「あ…赤司君が、何か優しいからだよ…」
「そう思うなら、まだまだだな。真司」
「何…?意味分かんない」
くしゃくしゃと髪を撫でられて、それだけで嬉しくなる。
その赤司の手の横で、緑間のテーピングの巻かれた指がわずかに真司の髪に触れた。
「っ、」
「あ…すまない」
「う、ううん、嫌だったんじゃないよ。びっくりして」
そういえば、以前に緑間のテーピングが気になってそれで。その指に触れられて、どきどきしたことがあった。
今更ながらに思い出して、胸が騒ぎ出す。
(あれ、この感覚は)
ちらっと目線だけを緑間に向ける。今度は目が合わない。
「…緑間君」
「な、何なのだよ」
「いや…、うん。分かったかも」
「?」
この感覚は知っている。
今真司の胸を鳴らしているのは、赤司だけでは無かった。それが答えだ。
赤くなった二人を横目に、赤司はやはり一人くくっと笑っていた。
・・・
「真司っちー!一緒に帰ろ!」
HRが終わった途端に駆け寄ってくるは黄色くて目立つ男。
真司を見かければすぐにデレデレと顔をとろけさせる男に、よもや近付く女子はいなくなった。
勿論、放課後限定で。遠巻きは当然のように居るとして。
「昨日は一緒に帰れなくって、寂しかったんスよ?」
「あ、ごめんね黄瀬君。今日も遠慮する」
「え!?」
ガーン、という効果音が黄瀬の頭の上に見える。まさに、分かりやすい表情ってやつだ。
「今日の俺には蟹座が必要なんだってさ」
「蟹座…って、緑間っちっスね!?」
「おぉ、よくわかるね」
昨日は紫原、そして今日は緑間。
黄瀬の頭に嫌な予感が過る。真司を一人占めしてしまいたい黄瀬にとっての、嫌な予感だ。
「真司っち…。オレのこと、好き?」
「な、何だよ急に」
「ちゃんとオレのとこ戻ってきてくれる?」
「大丈夫だよ、ちゃんと好きだよ」
「なら…いいっスけど」
名残惜しそうに、黄瀬が真司から一歩離れる。
真司は黄瀬に軽く頭を下げて、緑間の教室の方へと向かって行った。
昼休みと同じように、緑間のいる教室を覗き込む。
ほとんど人の居なくなった教室に、ぽつんといる緑間。静かな教室が似合う。
そういえば緑間の告白に未だはっきりとした返事をしていなかった。それが、今ならすぐに出せる気がする。
「だって、今は黄瀬君より…一緒に居たいって思ったもん」
黄瀬への思いは自覚している。間違いなく真司は黄瀬を愛している。
それを上回るこの思いが、他の何であるというのだろう。
「…烏羽?」
「あ…!」
不意に緑間と目が合った。教室の外から覗き込んでいる真司に、緑間が気付いたようだ。
すぐに帰りの支度を済ませた緑間が鞄を肩にかけて近付いてくる。
「すまない、待たせたな」
「日直だったの?」
「あぁ。日誌を書いていて遅くなった」
日誌なんて、真面目に書く生徒の方が少ない。
しかし緑間は間違いなくその少数派だ。しっかりと丁寧な字で書き上げたのだろう。
「真面目だなぁ」
「お前には言われたくないのだよ」
「俺は結構適当人間だよ」
「…そうだったな」
がらっと教室の扉を閉めて、二人歩き出す。
さらりと風に揺れる髪。光が当たって、奥にある睫毛の長い瞳を隠す眼鏡。
低めの聞きやすい声に触れてくる細い指。皆みんな、真司の胸を暖かくさせる。
(あぁもう…むしろなんで今まで気が付かなかったんだろう)
立て続けに恋愛感情を覚えた真司に、もう迷うことは無かった。
「…緑間君、俺…変わらずにいられるよ」
「?」
「緑間君とイロイロしたけど、こうして隣にいられるよ」
「…な…!」
以前、緑間から難しいことを散々言われた。
体を重ねて、それで平気でいられるのは友でない。青峰と黒子の二人では想像がつかないのと同じだ、と。
その答えが、既に心に決まっている。
「きっとさ…ずっと、緑間君のこと好きだったんだろーなって」
「…烏羽…?」
「多分、赤司君も気付いてたね。俺が緑間君を好きだって」
「っ…」
真っ赤になっている緑間を愛しいと思う。
靴を履いて学校の外に出て、真司は人目もはばからず緑間の手を掴んだ。
「緑間君、汗かいてる」
「烏羽…」
「ん?」
「すぐにでも、お前に触れたい…」
「…いいよ」
緑間が言う触れたいの意味はすぐに分かった。
紫原の言う“食べたい”と同じものだろう。
「待たせて、ごめんね」
「願っても無かったことなのだよ」
ぎゅっと手が強く握り返される。
嬉しくて、胸が熱くてたまらないのに、酷く申し訳ない気持ちが襲いかかってきた。
「俺…ね、青峰君も好きなんだ…」
「烏羽?」
「こんなに愛されてんのに、青峰君も取り戻したいんだ…」
欲しい、とまでは言わない。けれどせめて、前のような友人に。
「俺が好きになっちゃった時点で…もう友人には戻れないんだろうな」
「あまり深く考えるな、烏羽」
「…うん」
歩幅の違う足。緑間は、横で歩く真司に合わせて歩みを遅くしてくれている。
そういえば、青峰について行くのはいつも大変だった。
そんなことを思い出してまた悲しくなって。真司は開いていたもう片方の手も緑間の腕に回した。
ベッドに寝かされた体が少し沈んだ。
真司の上に跨った緑間の髪は少し濡れていて、ふわりとシャンプーが香っている。
ぽたっと髪から落ちた水が頬を濡らすと、それだけでぞくっと体に何かが走った。
「緑間君、早く…」
「あ、あまり煽るな」
緑間の腕を掴んで、自分の方に引く。
いつも真面目な顔した男の切羽詰まった姿。それが堪らなく愛おしい。
真司は自分で自分の服を捲し上げた。
「おい烏羽」
「いいじゃん、早く触って欲しいんだよ」
「…全くお前は…赤司に慣らされ過ぎなのだよ…」
テーピングの解かれた緑間の指が真司の胸をなぞる。
赤司よりも大きくて、紫原よりも細くて、黄瀬よりも男らしい手。
「どうしよう、俺。すごく緑間君のこと好きだ」
「もう、分かったから…あまり言うな」
「なんでよ」
「…もったいない、のだよ」
「好き、好き好き」
「おい…!」
頬を赤くした緑間の熱い視線。
同い年とは思えない程の色気は、赤司と良い勝負だろう。着やせするタイプなのか、目の前に晒される緑間の上半身は思いの外がっちりとしていて。
これが自分のモノだということが堪らなく喜びを感じさせる。
「お前は本当に細いな…」
「言っとくけど、俺は標準だからな」
「いや、14歳の標準は」
「だー!言うな馬鹿っ!」
どうせ標準以下の身長と体重ですよ。
少し熱くなっていた空気が和らいで、二人で笑い合う。
しかしすぐに緑間の手が真司の体を滑って、二人の熱い息が混ざり合った。
「…緑間君、俺も、おれにも触らせて…」
「お、お前は無理しなくて良いのだよ」
「触りたいの、俺も緑間くんに」
手を伸ばして緑間の下半身に触れる。言うまでもなく真司よりも遙かに大きい。
そこを撫でると、緑間の体が小刻みに震えた。
「烏羽…っ」
「うわ、」
太腿を掴んだ腕が、真司の足を上に持ち上げる。
完全に緑間の目の前で開脚する体勢になった真司には、そこが自分にも丸見えで。さすがに羞恥心が掻き立てられた。
「や、やだ、この体勢…」
「心配するな、オレしか見ていない」
「そ、そーいう問題じゃ」
既に下着も剥がれた真司の下半身。そこを擦る緑間の手は確実に真司を快楽へと導いていく。
「ぁ…っ、み、どりまくんも慣れてんじゃん…っ」
「烏羽のいろんな姿が見たいだけなのだよ」
「ばっ、恥ずかしいこと言うな…!」
既にこんなにもさらけ出させといて何を言うか。
なんて文句を口にする暇も与えず、緑間の指が開かれたところへと入って来る。
しかしそれでは物足りない。もっと、奥まで欲しい。
「…っ」
「そんなに…物欲しそうな顔をするな…」
「っあ、ぅ」
緑間が煽られている。真司の誘惑に乱れている。
顔を近付ければ愛のこもった口付けが落とされて。体と体が密着する、それと同時に入り込んでくる体の一部。
「うあッ!」
「ん…っ」
ずしっとした痛みと快感。それよりも一瞬目を瞑って息を呑んだ、その緑間の姿が真司にとって喜びだった。
緑間も感じているのだということが嬉しいのだ。
「ぁ、あっ、緑間君…!」
「烏羽?」
「もっと、奥…」
「こうか?」
「っん!ん…気持ちい…」
縋るように緑間の首に腕を回して、体をくっつける。
優しすぎるくらい静かに、しかし深く押し付けられる圧力。それが余りにも気持ち良くて、熱くてくらくらする。
「だめ…っも、いく」
「烏羽」
「あ、あ!」
緑間の手が真司の腕を掴む。ベッドに押さえ付けるようにシーツの上で手が重なって、急に打ち付ける速さが増し始めた。
緑間の息が乱れている。ぽたっと頬に落ちたのは、緑間の頬に流れる汗。
「っあ!や、おかしくなっ、ぁ…ッ」
「烏羽…っは、」
「ああッ…!」
口を抑えても、声を抑えることが出来ない。
あまりの感覚に真司はびくっと体を震わせて、腹部に精液を放った。
直後訪れる疲労感。
しかし、まだ終わっていなかった。
「すまない、烏羽…」
「え、あ…!?」
目を閉じて歯を食いしばっている緑間が、体を揺らしている。
その揺れに合わせて、真司の体に先程よりも深い快感が押し寄せた。
「や、やだ、あッ!」
「ん…烏羽…っ」
それでも緑間が気持ちよさそうにしているから。それだけで満足感が大きくて。
真司は緑間に体を委ねて、まだ暫く続く刺激の波に身を任せていた。
・・・
翌日。
朝から用事があると言って出て行った緑間に遅れて学校に向かう。
いつの間にか緑間の家から学校に向かう道のりにも慣れてしまった。
昨日と同じ下着とワイシャツは嫌だったが仕方がない。
そんなことよりも昨日の今日で感じる幸せの方が大きくて。
だからこそ、学校付近で見えた後姿に、真司の思考は停止した。
「…青峰君」
大きな背に色黒な肌はあまりにも見つけやすくて、真司は一度足を止めてしまった。
「…」
普通に挨拶すべきか、というか普通に声をかけて良いのか。
妙な不安ばかりが頭に過って、足を進めるのが躊躇われる。
なんて、逃げてばかりいられないことだって分かっている。
「っ、よし」
真司はぐっと拳を握りしめると前を行く背中を追いかけて駆け出した。
「よぉ、会いたかったぜ。真司」
「うわ…っ」
まだ青峰に手が届くところまで近付いていない。
しかし、真司が声をかけるよりも青峰が振り返る方が早かった。
「青峰君」
「今日こそは…勉強、教えてくれんだろ?」
「うん」
勿論そのつもりだ。少なくとも真司は。
「…青峰君」
ぱっと前を向いてしまった青峰の目に、真司はどう映っているのだろう。
近いのに遠い。届くのに届かない。
「…青峰君!」
「あ?」
振り返った青峰の顔に前のような笑顔が咲くことは無い。
しかし一瞬、青峰の瞳が揺れた気がして、真司は青峰の横に並んだ。
「隣、歩いてもいい?」
「…勝手にしろよ」
「うん、勝手にする」
隣にいれるだけでもいい。
真司は伸ばしかけた手を引っ込めた。
腰に回された大きな手は、目の前で目を閉じて寝息を漏らす紫原のものだ。
「…可愛いなぁ」
横になって寝ていれば、彼の大きさ故の威圧感と目付きの悪さが緩和される。
しかし長い髪の毛が頬にかかる姿は、可愛さとは裏腹に色っぽさを引き出していて。
それを指先で退かし、真司はそのまま紫原の頬をきゅっと摘まんだ。
「紫原君、朝だよ」
「ん~…」
「今日も学校だよ」
もぞっと体を布団から出すと、何も纏っていない体は寒さに震えて。真司は紫原の体に自分の体をくっつけた。
「烏羽ちん…なーに可愛いことしてんの?」
「あ、起きた」
「勃っちゃいそ」
「こら」
腰を撫でてくる手をぱしっと叩いて、真司は今度こそ体を起き上らせた。
「ん…っ」
ズキッと走った痛みは、昨夜の行為によるものだろう。
大きな体に有り余る体力。そのせいで真司の体に残る疲労はなかなか大きい。
「今の烏羽ちんの可愛い声で勃ったー…」
「トイレで抜いてきて下さい…」
こう自覚した途端に、愛しさが込み上げるのだから不思議だ。
真司は軽く紫原の額に唇を押し当ててから布団を出た。
「烏羽ちん」
「んー?」
「呼んだだけー」
「何だよ、それ」
ごろっと紫原がベッドの上で反転する。
にこにこと笑っている紫原も、真司との思いが通じた嬉しさを感じているのだろう。
嬉しい。
しかし、ここで紫原に甘え過ぎるわけにもいかない。
「おっし、準備するかぁ」
「え~もう~?」
「早く起きないと、紫原君また寝るだろー」
ばっと布団をめくりあげると、下着だけを付けた紫原の体が露わになる。
真司とは完全に異なる体格。それに思わず見惚れて、がっちりとした胸板に手を置いた。
「烏羽ちん、もしかして欲情中?」
「…違います」
もぞっと紫原も体を起こす。
それに合わせて真司もとんっと床に足を降ろす。
新たな一日。
それが少し憂鬱なのは、解決できていない問題のせい。
真司は目を伏せて、そこに落ちている自分の服を回収した。
・・・
紫原と共に登校し、昇降口で分かれた後。
そこに待ち伏せしている男が真司の視界に映った。そわそわとこちらを見ているあたり、真司に用があるのは間違いないだろう。
「…おはよう、緑間君」
「あ、あぁ」
「どうかしたの?」
真司から声をかけると、少し嬉しそうに緑間の頬が緩んだ。
「今日は…お前の星座は蟹座と共にいるのが良いのだよ…」
「へぇ、そうなんだ?」
眼鏡の鼻に当たる部分を指先で押さえる。
そんな良く見るポーズで立っている緑間を目の前に、真司は首を斜めに傾けた。
それはつまり、そういうことなのか。
「蟹座ってことは、緑間君が丁度いいね」
「そ、そうだ。偶然ながら丁度オレは蟹座なのだよ」
「ふふ」
「何を笑っているのだよ…っ」
薄らと頬を赤くしている緑間の考えていることは分かりやすい。
恐らく真司といる為の口実として持ってきたのだろう。
真司は緑間を見上げ、目を細めて笑った。
「俺…青峰君に勉強教えなきゃなんだけど…、その前に緑間君に教えてもらおうかな」
「青峰に?お前がか?」
「うん。赤司君にそうしろって」
青峰の事を忘れているわけではない。ただ、その前に緑間に教わることにしただけ。そう、自分に言い聞かせる。
しかし、それを聞いた緑間は、深く眉間にシワを寄せた。
「…あいつは、何を考えているのだよ…」
「緑間君?」
「青峰のことを、お前が必死になる必要はないのだよ」
「え?うん…」
緑間は真司と青峰にある問題が、バスケ部のことだけだと思っているのだろう。
勿論、そう思っていてくれた方が良いに決まっているのだが。
緑間が何も知らない、ということに妙な安心感を抱く。
そんな真司に、片手にマイナスドライバーを持っている緑間は、もう片方の手に持っているノートを真司に差し出した。
「…何?」
「お前のラッキーアイテムなのだよ」
「へー。ノートとか、そんな普通のものもあるんだ」
緑間が持ってくるラッキーアイテムは異様な物であることの方が多い。
意外に思いながらそれを受け取った真司は、更に首を横に傾けた。
「でもノートなら俺持ってるけど」
「そ、そのノートで無ければ意味がないのだよ…」
「そーなの?なら有り難く借りるね」
そのノートは表も裏も青い色で、白の線でデザインが施されている。
緑間の手に似合うかっこいいノートだ。
真司が礼を言って見上げると、緑間は視線を逸らして気恥ずかしそうにしている。
何故だかわからないが、いつも通りの照れ隠しなのだろう。
「緑間君、可愛い」
「な!?」
「じゃあ、また後でね」
緑間に軽く手を振って教室に入って行く。
すぐに見えた自分の席と青峰の席。残念ながらというべきか、運良くというべきか、青峰はそこにいなかった。
「青峰君…」
彼のいない机を撫でて、そこに手を乗せる。
愛しくて堪らないのに他の皆みたいに触れることが出来ない。誰よりも近くて、遠くなってしまった人。
「っ、」
息を呑んで、手を引っ込める。
哀しんでいる場合ではない。真司なんかよりも、黒子や桃井の方が辛いはずだ。
真司は目を伏せて、自分の席に腰掛けた。
受け取った青いノートを置いて、ぱらぱらとページをめくる。
「…緑間君」
そこには数学、国語、社会、理科。数ページに渡って丁寧な文字が綴られていた。
「俺がサボった日の…ノートじゃん…」
見覚えのない式や文字、単語の数々。
以前に教わった時、緑間は真司の性質を理解したのだろう。見たモノや教わったモノ以外に関しては全く理解出来ないということ。
じわっと胸の奥が暖かくなる。
真司はふっと笑って、ノートに額をくっつけた。
チャイムが鳴り、一斉に教室がざわつき出す。
真司は静かに一人椅子から立ち上がると、そのまま横にかけていた弁当を手に取って教室を後にした。
青峰のいない教室に、特別仲の良い生徒はいない。
地味で真面目な生徒だという真司のイメージも完全に無くなったわけではなく、執拗に近付いてくる者もいない。
廊下を歩く真司の手には朝借りたノート。
真司は真っ直ぐに緑間がいるだろう教室に足を運んでいた。
「…緑間君、は」
知らない人ばかりの教室に顔だけを覗かせて、中をうかがう。
正直言って、緑間を探すのはかなり容易だ。背の高さ、綺麗な髪の色、背筋を伸ばした姿勢にラッキーアイテム。
「あれ…?」
勿論すぐさま発見したのだが、真司はそこにいるもう一人の人物に、胸をぐっと高鳴らせた。
「緑間君、赤司君」
「烏羽…?」
「真司が緑間を訪ねるとは、珍しいな」
意外そうな顔が二つ、真司に向く。
真司はその二人の表情に小さく笑ってから、たたっと駆け寄った。
「緑間君が言ったんじゃん、今日は蟹座の傍にいろって」
「た、確かにそのようなことは言ったが…」
「へぇ。緑間、やるじゃないか」
「う、煩いのだよ、赤司」
くっくと赤司が笑う。
真司は二人が挟む机の横で膝をつくと、その机に腕を乗せた。
「俺、邪魔じゃない?ここにいてもいい?」
「あぁ、構わないよ」
「別に大した話もしていなかったからな」
「良かった」
赤司がさり気なくぱたんとノートを閉じる。部活の話でもしていたのだろう。
ノートといえば。
真司は持ってきたノートをぱっと緑間の前に置いた。
「これ、有難う」
「…それはお前のラッキーアイテムなのだよ。一日持っていろ」
「もー十分頭に叩き込んだよ」
「…そ、そうか…」
ぴくっと緑間の指が動く。ラッキーアイテム、なんて嘘だ。それがはっきりして、緑間の優しさに頬が緩む。
そんな真司を見て、赤司が意味ありげに目を細めた。
じっと向けられた視線に、真司の目も赤司を捕らえる。
「赤司君?」
「いや…真司、お前も分かりやすい表情をするようになったものだと思ってな」
「分かりやすい表情?」
「あぁ」
自分の表情など、自分では全く分からない。
真司は自分の頬を両手で押さえながら、緑間に顔を向けた。
どんな顔をしているか、そう問うつもりだったのだが、緑間には伝わらなかったらしい。
「き、急にこっちを見るな…!」
「えぇ…理不尽」
真司から逸らされた緑間の顔が薄らと赤い。
「緑間君、照れてる」
「て、照れてなどないのだよ…」
「そういうお前も頬が赤いぞ、真司」
「え?」
伸ばされた赤司の手が真司の頬に触れた。線の細い指のイメージ通りの、ひやりとした指先がぶつかる。
それで更に熱が上昇していくのが分かって、真司は机の上に乗せた腕に自分の顔を埋めた。
「あ…赤司君が、何か優しいからだよ…」
「そう思うなら、まだまだだな。真司」
「何…?意味分かんない」
くしゃくしゃと髪を撫でられて、それだけで嬉しくなる。
その赤司の手の横で、緑間のテーピングの巻かれた指がわずかに真司の髪に触れた。
「っ、」
「あ…すまない」
「う、ううん、嫌だったんじゃないよ。びっくりして」
そういえば、以前に緑間のテーピングが気になってそれで。その指に触れられて、どきどきしたことがあった。
今更ながらに思い出して、胸が騒ぎ出す。
(あれ、この感覚は)
ちらっと目線だけを緑間に向ける。今度は目が合わない。
「…緑間君」
「な、何なのだよ」
「いや…、うん。分かったかも」
「?」
この感覚は知っている。
今真司の胸を鳴らしているのは、赤司だけでは無かった。それが答えだ。
赤くなった二人を横目に、赤司はやはり一人くくっと笑っていた。
・・・
「真司っちー!一緒に帰ろ!」
HRが終わった途端に駆け寄ってくるは黄色くて目立つ男。
真司を見かければすぐにデレデレと顔をとろけさせる男に、よもや近付く女子はいなくなった。
勿論、放課後限定で。遠巻きは当然のように居るとして。
「昨日は一緒に帰れなくって、寂しかったんスよ?」
「あ、ごめんね黄瀬君。今日も遠慮する」
「え!?」
ガーン、という効果音が黄瀬の頭の上に見える。まさに、分かりやすい表情ってやつだ。
「今日の俺には蟹座が必要なんだってさ」
「蟹座…って、緑間っちっスね!?」
「おぉ、よくわかるね」
昨日は紫原、そして今日は緑間。
黄瀬の頭に嫌な予感が過る。真司を一人占めしてしまいたい黄瀬にとっての、嫌な予感だ。
「真司っち…。オレのこと、好き?」
「な、何だよ急に」
「ちゃんとオレのとこ戻ってきてくれる?」
「大丈夫だよ、ちゃんと好きだよ」
「なら…いいっスけど」
名残惜しそうに、黄瀬が真司から一歩離れる。
真司は黄瀬に軽く頭を下げて、緑間の教室の方へと向かって行った。
昼休みと同じように、緑間のいる教室を覗き込む。
ほとんど人の居なくなった教室に、ぽつんといる緑間。静かな教室が似合う。
そういえば緑間の告白に未だはっきりとした返事をしていなかった。それが、今ならすぐに出せる気がする。
「だって、今は黄瀬君より…一緒に居たいって思ったもん」
黄瀬への思いは自覚している。間違いなく真司は黄瀬を愛している。
それを上回るこの思いが、他の何であるというのだろう。
「…烏羽?」
「あ…!」
不意に緑間と目が合った。教室の外から覗き込んでいる真司に、緑間が気付いたようだ。
すぐに帰りの支度を済ませた緑間が鞄を肩にかけて近付いてくる。
「すまない、待たせたな」
「日直だったの?」
「あぁ。日誌を書いていて遅くなった」
日誌なんて、真面目に書く生徒の方が少ない。
しかし緑間は間違いなくその少数派だ。しっかりと丁寧な字で書き上げたのだろう。
「真面目だなぁ」
「お前には言われたくないのだよ」
「俺は結構適当人間だよ」
「…そうだったな」
がらっと教室の扉を閉めて、二人歩き出す。
さらりと風に揺れる髪。光が当たって、奥にある睫毛の長い瞳を隠す眼鏡。
低めの聞きやすい声に触れてくる細い指。皆みんな、真司の胸を暖かくさせる。
(あぁもう…むしろなんで今まで気が付かなかったんだろう)
立て続けに恋愛感情を覚えた真司に、もう迷うことは無かった。
「…緑間君、俺…変わらずにいられるよ」
「?」
「緑間君とイロイロしたけど、こうして隣にいられるよ」
「…な…!」
以前、緑間から難しいことを散々言われた。
体を重ねて、それで平気でいられるのは友でない。青峰と黒子の二人では想像がつかないのと同じだ、と。
その答えが、既に心に決まっている。
「きっとさ…ずっと、緑間君のこと好きだったんだろーなって」
「…烏羽…?」
「多分、赤司君も気付いてたね。俺が緑間君を好きだって」
「っ…」
真っ赤になっている緑間を愛しいと思う。
靴を履いて学校の外に出て、真司は人目もはばからず緑間の手を掴んだ。
「緑間君、汗かいてる」
「烏羽…」
「ん?」
「すぐにでも、お前に触れたい…」
「…いいよ」
緑間が言う触れたいの意味はすぐに分かった。
紫原の言う“食べたい”と同じものだろう。
「待たせて、ごめんね」
「願っても無かったことなのだよ」
ぎゅっと手が強く握り返される。
嬉しくて、胸が熱くてたまらないのに、酷く申し訳ない気持ちが襲いかかってきた。
「俺…ね、青峰君も好きなんだ…」
「烏羽?」
「こんなに愛されてんのに、青峰君も取り戻したいんだ…」
欲しい、とまでは言わない。けれどせめて、前のような友人に。
「俺が好きになっちゃった時点で…もう友人には戻れないんだろうな」
「あまり深く考えるな、烏羽」
「…うん」
歩幅の違う足。緑間は、横で歩く真司に合わせて歩みを遅くしてくれている。
そういえば、青峰について行くのはいつも大変だった。
そんなことを思い出してまた悲しくなって。真司は開いていたもう片方の手も緑間の腕に回した。
ベッドに寝かされた体が少し沈んだ。
真司の上に跨った緑間の髪は少し濡れていて、ふわりとシャンプーが香っている。
ぽたっと髪から落ちた水が頬を濡らすと、それだけでぞくっと体に何かが走った。
「緑間君、早く…」
「あ、あまり煽るな」
緑間の腕を掴んで、自分の方に引く。
いつも真面目な顔した男の切羽詰まった姿。それが堪らなく愛おしい。
真司は自分で自分の服を捲し上げた。
「おい烏羽」
「いいじゃん、早く触って欲しいんだよ」
「…全くお前は…赤司に慣らされ過ぎなのだよ…」
テーピングの解かれた緑間の指が真司の胸をなぞる。
赤司よりも大きくて、紫原よりも細くて、黄瀬よりも男らしい手。
「どうしよう、俺。すごく緑間君のこと好きだ」
「もう、分かったから…あまり言うな」
「なんでよ」
「…もったいない、のだよ」
「好き、好き好き」
「おい…!」
頬を赤くした緑間の熱い視線。
同い年とは思えない程の色気は、赤司と良い勝負だろう。着やせするタイプなのか、目の前に晒される緑間の上半身は思いの外がっちりとしていて。
これが自分のモノだということが堪らなく喜びを感じさせる。
「お前は本当に細いな…」
「言っとくけど、俺は標準だからな」
「いや、14歳の標準は」
「だー!言うな馬鹿っ!」
どうせ標準以下の身長と体重ですよ。
少し熱くなっていた空気が和らいで、二人で笑い合う。
しかしすぐに緑間の手が真司の体を滑って、二人の熱い息が混ざり合った。
「…緑間君、俺も、おれにも触らせて…」
「お、お前は無理しなくて良いのだよ」
「触りたいの、俺も緑間くんに」
手を伸ばして緑間の下半身に触れる。言うまでもなく真司よりも遙かに大きい。
そこを撫でると、緑間の体が小刻みに震えた。
「烏羽…っ」
「うわ、」
太腿を掴んだ腕が、真司の足を上に持ち上げる。
完全に緑間の目の前で開脚する体勢になった真司には、そこが自分にも丸見えで。さすがに羞恥心が掻き立てられた。
「や、やだ、この体勢…」
「心配するな、オレしか見ていない」
「そ、そーいう問題じゃ」
既に下着も剥がれた真司の下半身。そこを擦る緑間の手は確実に真司を快楽へと導いていく。
「ぁ…っ、み、どりまくんも慣れてんじゃん…っ」
「烏羽のいろんな姿が見たいだけなのだよ」
「ばっ、恥ずかしいこと言うな…!」
既にこんなにもさらけ出させといて何を言うか。
なんて文句を口にする暇も与えず、緑間の指が開かれたところへと入って来る。
しかしそれでは物足りない。もっと、奥まで欲しい。
「…っ」
「そんなに…物欲しそうな顔をするな…」
「っあ、ぅ」
緑間が煽られている。真司の誘惑に乱れている。
顔を近付ければ愛のこもった口付けが落とされて。体と体が密着する、それと同時に入り込んでくる体の一部。
「うあッ!」
「ん…っ」
ずしっとした痛みと快感。それよりも一瞬目を瞑って息を呑んだ、その緑間の姿が真司にとって喜びだった。
緑間も感じているのだということが嬉しいのだ。
「ぁ、あっ、緑間君…!」
「烏羽?」
「もっと、奥…」
「こうか?」
「っん!ん…気持ちい…」
縋るように緑間の首に腕を回して、体をくっつける。
優しすぎるくらい静かに、しかし深く押し付けられる圧力。それが余りにも気持ち良くて、熱くてくらくらする。
「だめ…っも、いく」
「烏羽」
「あ、あ!」
緑間の手が真司の腕を掴む。ベッドに押さえ付けるようにシーツの上で手が重なって、急に打ち付ける速さが増し始めた。
緑間の息が乱れている。ぽたっと頬に落ちたのは、緑間の頬に流れる汗。
「っあ!や、おかしくなっ、ぁ…ッ」
「烏羽…っは、」
「ああッ…!」
口を抑えても、声を抑えることが出来ない。
あまりの感覚に真司はびくっと体を震わせて、腹部に精液を放った。
直後訪れる疲労感。
しかし、まだ終わっていなかった。
「すまない、烏羽…」
「え、あ…!?」
目を閉じて歯を食いしばっている緑間が、体を揺らしている。
その揺れに合わせて、真司の体に先程よりも深い快感が押し寄せた。
「や、やだ、あッ!」
「ん…烏羽…っ」
それでも緑間が気持ちよさそうにしているから。それだけで満足感が大きくて。
真司は緑間に体を委ねて、まだ暫く続く刺激の波に身を任せていた。
・・・
翌日。
朝から用事があると言って出て行った緑間に遅れて学校に向かう。
いつの間にか緑間の家から学校に向かう道のりにも慣れてしまった。
昨日と同じ下着とワイシャツは嫌だったが仕方がない。
そんなことよりも昨日の今日で感じる幸せの方が大きくて。
だからこそ、学校付近で見えた後姿に、真司の思考は停止した。
「…青峰君」
大きな背に色黒な肌はあまりにも見つけやすくて、真司は一度足を止めてしまった。
「…」
普通に挨拶すべきか、というか普通に声をかけて良いのか。
妙な不安ばかりが頭に過って、足を進めるのが躊躇われる。
なんて、逃げてばかりいられないことだって分かっている。
「っ、よし」
真司はぐっと拳を握りしめると前を行く背中を追いかけて駆け出した。
「よぉ、会いたかったぜ。真司」
「うわ…っ」
まだ青峰に手が届くところまで近付いていない。
しかし、真司が声をかけるよりも青峰が振り返る方が早かった。
「青峰君」
「今日こそは…勉強、教えてくれんだろ?」
「うん」
勿論そのつもりだ。少なくとも真司は。
「…青峰君」
ぱっと前を向いてしまった青峰の目に、真司はどう映っているのだろう。
近いのに遠い。届くのに届かない。
「…青峰君!」
「あ?」
振り返った青峰の顔に前のような笑顔が咲くことは無い。
しかし一瞬、青峰の瞳が揺れた気がして、真司は青峰の横に並んだ。
「隣、歩いてもいい?」
「…勝手にしろよ」
「うん、勝手にする」
隣にいれるだけでもいい。
真司は伸ばしかけた手を引っ込めた。