ナツ(フェアリーテイル)
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エルザの荒々しい運転に体を振り回され、ルーシィは壁に体ごとぶつかった。右に左に、跳ねる様はまるでピンボールだ。
「ウッ…そ、それにしても、ロアって引きこもってたって割には力あるのね?」
「ま、あれでもフェアリーテイルのS級魔導士だからな。ただゴロゴロ寝てるわけじゃねぇってことだろ」
「さすが光のロア…絵面はかなり珍妙だけど」
ルーシィとグレイは、ガラスのない窓枠から外を眺めて言葉を交わしていた。
細かな光を零しながら宙を滑るロアの腕には、ナツがしっかりと担がれている。
ロアが一見女性な風貌であるだけに、その見た目の破壊力はかなりのものだ。
「つーか、ンな高い位置で跳ぶなって…ナカ見えんぞ、ロア!」
「はぁ!?見んなヘンタイ!グレイこそちゃんと服着てから言え!」
「そうだぞ変態タレ目野郎!」
「今は着てるっつの!」
脈絡のないロアからの返答は、普段のグレイの恰好に起因するものだ。
今でこそ上下共に服を纏っているグレイだが、気を抜けばすぐに全裸になる悪癖がある。
図らずもグレイの全裸を拝んだ記憶の新しいルーシィは、ロアに同調して頷いた後、目の前に見えた駅に息を呑んだ。
「着いたぞ」
ここが既に敵地と化しているという事は明らかだった。
足をもつれさせながら駅から遠ざかるように逃げる人々。誘導する駅員に、駅を取り囲んだ軍人たち。
「中に奴等がいることは間違いなさそうだな。相手が魔導士である以上、軍の小隊では話にならん」
「ま、まさか乗り込む気じゃ…」
「何を言っているんだ。当たり前だろう」
ルーシィはヒェッと高い悲鳴を上げてから、乗り込む気満々の三人から離れて立つロアを振り返った。
「あれ、ロアは?」
「…俺は待機。その方がイイだろ?状況的にも、俺の立場的にもさ」
自ら言い出した割に皮肉っぽい言い草になったのは、その提案がロアが望むものではなかったからだ。
光のロアは目をつけられやすい。だから闇ギルドだろうと正規ギルドであろうと、他ギルドとの抗争には巻き込みたくない…それがエルザの、そしてフェアリーテイルの意思なのだ。
「えっ、一緒に行かねぇのか!?久しぶりにロアの闘いが見れっと思ってたのに!」
「ギャンギャン言うな。それぞれ役割があんだよ」
さっさと行くぞとグレイはナツの背を蹴り、ひらっとロアに手を挙げて歩き出した。
グレイへの怒りで満ちたナツもまた、グレイに飛び掛かりながら駅へ向かっていく。
「外も安全とは限らん。ロア、油断はするな」
「分かってる。そっちも、ヘマすんなよ」
そうして四人と一匹を見送ったロアは空を仰ぎ、不謹慎にも「暇だなぁ」とボヤいた。
エルザ、ナツ、グレイと揃った状態で負けるなど、万に一つとないだろう。エルザの剣が折れたところなど見たことも無い、ナツとグレイの喧嘩が被害をもたらさなかったことなどない。
ただ、そう。もし失敗があるとするのなら、隙をつかれて笛が吹かれること。つまり、ララバイの発動だ。
「ま、ナツならともかく、エルザがいてそれはないだろ」
はははと一人虚しく笑い、駅の階段に腰かける。
ナツの隣で闘えないことは不服だが、ロア自身のことだ、自分が一番理解している。
「人間は光に焦がれる…。俺はその光に近いから」
無条件に好かれ、求められ、奪い合う対象になる。
馬鹿げていると嘗ては真に受けていなかったが、フェアリーテイルに所属してから、ロアが危険に晒された回数は両手で足りなくなった。
魔導士ギルドで力を鍛えた結果、ロアの光は強くなり、人々を魅了した…らしい。
「仕方ないよな…、そんな事で皆に余計な心配かけんのも、もう嫌だし…」
ハァッと嘆息を零す。
その何気ないロアの溜息を合図としたかのように、ドンッと鈍い音が響き、ガラガラと駅の壁が落ちた。
「なっなんだ!?」
驚きのあまり立ち上がり、音のした場所へ目を向ける。
頭上を通り過ぎた黒い影は、よく見るとローブをはためかせた男だった。
振り返ったそこにあったはずの装飾華やかな駅は、轟々と吹き荒れる風に包まれ姿を眩ませている。
試しに放った足元の石が弾き返されるのを見たロアは、改めて過ぎ去った黒い影…もとい、いつか新聞で見た男と思しき人影を目で追いかけた。
「…ヘマしてんじゃねーか!」
そう叫ぶが早いか、ロアはとんっとつま先で地面を蹴った。ふっと宙に浮いた体は、波に乗るサーフボードを彷彿とさせる挙動で影を追いかける。
エリゴールは風を操るのを得意とする魔導士らしい。目の前を行く男は列車と大差ないスピードで空を切っている。
駅を取り囲んだのも、恐らく彼の力だ。そうしてフェアリーテイルの魔導士を閉じ込め、持ち出した笛で事を成すつもりなのだろう。
まんまと出し抜いたわけだ。もっとも、ここにロアがいなければ、だが。
「人混みから遠ざかるなんて、間抜けなんじゃねーの?ほら、追いついたぜ!」
ロアは荒野を行くエリゴールの前に飛び出した。
風で光に勝とうなんざ百年早い。そう鼻息荒く胸を張ったロアに対し、足を止め地に降りたエリゴールは、随分と落ち着いた様子でフッと息を吐いた。
「聞いていた通りだ。本当に来ていたとはな、光のロア」
「おい、もうちょっと焦ったらどうだ。お前、エリゴールだろ?作戦失敗してんだぞ」
「こうして光のロアに会えたのだ。喜ばずにいられるものか」
まただ、とロアは舌を打った。
敵だというのに、毎度こう喜ばれては釈然としない。
「噂通りの美しさだ。どいつもこいつも欲しがって気色悪ぃと思っていたが…」
「あーあー、まさに気色悪いっつーの!冷静に見ろよ、こちとら女装男だぞ」
ロアがそう叫ぶと、エリゴールは顎を上げてロアを見下ろした。
口角を上げたその顔は、もとより眉無し三白眼のせいで益々不気味だ。
「お前の見目を言っていると思ってるのか?とんだ自惚れ野郎だな」
「お、おお?そう言われっとそれはそれで腹立つな」
エリゴールの目はロアの周囲にちらちらと零れる光を追った。ロアの溢れる魔力の断片だ。
ロアは真っ当な指摘に頬を染めながら、照れ隠しに指を突き出した。
「いいか!お前の周りには、もう無数の矢が浮いてんだからな!少しでも変な動きをしてみろ…」
エリゴールの足が、ロアの言葉を無視してじゃりと前進する。
その瞬間、エリゴールの靴に掠るようにして突き刺さったのは、目には見えない光の刃だ。
「なるほど、万能な力だ。こうして向き合った時点で、オレの負けが決まっていたらしい」
「そういうこと。分かったらそれ、その笛こっち寄越しな」
エリゴールは話の通じない闇ギルド特有の専らな悪党ではないらしく、握っていた笛をロアに向けて翳し、それを地面に滑らせた。
からからと地を転がった笛は、ロアの足先2メートルほど前で止まる。
「ララバイっつたな、死の魔法って聞いたけど、コレって何ものなんだ?」
「…ふん、世間知らずめ。ゼレフ書の悪魔を知らんのか。これは生きる魔法だ」
ゼレフとは、嘗て存在した最悪の魔導士の名だ。ゼレフが残した魔法は、生きる魔法…怪物としてこの世に残存しているらしい。
上っ面の知識はあるが、理解などしていないロアは、相手を威嚇する険しい表情を崩さないまま再び口を開いた。
「生きる魔法ってのも、良くわかんねぇな。これ自体がそれなのか?それともこれを依り代にしてるのか?」
「これが生きる魔法なのだと言っているだろう。これ自体がそうなのだ」
「これが?この笛が怪物?」
「そう言っているだろう!」
ロアの理解力の乏しさに、エリゴールの声が苛立ちを纏って震え始める。
新聞は読んでも、魔導士のことやその力のこと、ましてや魔導界の歴史なんてものはロアの知識にはない。
意図せずエリゴールを苛立たせたロアは、「ふぅん」と軽く相槌を打つと共に手を前へ伸ばした。
突き出した人差し指は上から下へ。
それを合図に、笛が地面に食い込んだ。地面が割れ、髑髏の頭は砕けながら地中へと沈んでいく。
「な、何をしているんだ!貴様…!今のは…それを拾い上げる瞬間に隙が出来て…オレにチャンスが訪れるという流れだろう!」
「はは!んなヘマするわけねーだろ」
ワナワナと体を震わせたエリゴールは、怒りと嘆きの雄叫びを上げながら風を巻き上げた。
「おい、動くな…ッ!」
「ふっ、分かったぞ。光のロア、貴様は臆病者だ!他人を傷つけることを恐れている、そうだろう!」
「っ!」
「だからこうしてララバイを破壊して終わり、か。だがそうはいかない!このまま貴様の魔力が尽きるまで、こうして貴様を切り続けてやる!」
癇癪を起こしたエリゴールは、低く唸りながら、鋭い風の刃でロアの周りの空気を裂いた。
咄嗟に片手を突き出し壁を張ったが、舞い上がったロアのスカートが数か所にわたり切り裂かれる。
「わかってない、お前全然わかってないよ」
しかし、ロアは冷静だった。
彼は何も分かっていないが、それについて彼に落ち度は何一つない。ロアはこれまで雑誌に載ろうが、通り名を携えた噂が広がろうが、自身に関することは何一つ語らなかったのだ。
だから初めて、ロアは“ 部外者”に向けて言い放つ。
「一つ、俺は恐れてない。ただ、痛みを知っているだけだ」
ロアは片手で作り続けた盾から、光の線を放出させた。
線は刃のように鋭く、燃えるように熱い。それを腕に喰らったエリゴールは、一瞬痛みに喉を震わせたが、変わらずロアへと怒りの殴打を繰り返した。
「二つ、この空の下、俺の魔力が尽きるなんてことは有り得ない」
エリゴールがはっと目を開く。ロアの視線の先を追い、陽をとらえて目を細めた。
魔道士は皆、体の内側で魔力を作り出し力をふるう。一時的な枯渇はその力を制限し、肉体的にも精神的にも衰えさせるものだ。
ロアは二ィと口角を上げ、トンッと地面を蹴って跳び上がった。
「三つ…俺は一人じゃない!」
くるりと宙で一回転したロアの足跡がキラキラと光り輝く。
それに思わず目を奪われたエリゴールは、ロアの後ろから突っ込んでくるもう一人の魔道士に一瞬遅れをとった。
「火竜の鉄拳!!」
エリゴールの見開いた視界には、轟々と盛る炎で燃え上がっていただろう。
ハッピーから手を離したナツは急降下して、炎を纏う拳をエリゴールに叩きつけた。
ゴオンッと激しい衝突音と共に、エリゴールの体が笛と同じように地面にめり込む。
地響きが止み、砂煙がおさまると、エリゴールはぐったりと体を横たえ気を失っていた。
「ナツ!随分早い到着だったな。あれ突破できたのか」
「ん?ムカつき過ぎてなんも考えてなかった!あれって、なんのことだ?」
「いやまぁ、ナツが無事ならなんだっていいけどさ」
ナツは拳を数回ぐるんぐるんと回し、ようやくそれを収めてロアに向き直った。
「倒してやったぜ!」と満面の笑みを浮かべているのだろうと思いきや、ナツの表情は意外にも真面目なものだ。
「駅から出たらロアがいねぇから焦った。怪我は?なんかされなかったか?」
「え、な、お、俺は平気だって。ほら、触っていいよ」
ロアがぱっと両腕を広げると、ナツは表情を変えずにぺたぺたとロアの体に触れた。
無骨な手が丁寧にロアの腕を摩り、胸や腹に鼻先を寄せ、終いにはロアの頬を撫でて髪を梳く。
その髪の触り心地が不快だったのか、ナツは執拗に手ぐしを通し、絡みついた砂埃を取り払った。
「よし、これで元通りだ!」
それで満足したナツは、ロアの頬を大きな手で包み込み、そのまま顔を近付けた。
額と額がぶつかり、鼻先が触れ合う。
「やっぱロアはすげぇ」
「…っ、や、倒したの、ナツだし…来てくれて、嬉しかった」
…キスするのかと思った。
そんなバカげた思考がロアの鼓動を狂わせ、ロアは咄嗟にそこにある胸へ体を預けた。
「ロア、心臓の音がおかしいぞ。怖かったのか?」
「え!?ち、…違う、けど…い、いや、そういうことにしとく…」
ナツの手がぽんぽんと背中を撫でると、胸の高鳴りも少しずつ落ち着いていく。
安心する体温と力強さだ。
ロアは不思議な感覚をナツの胸に押し付けたくて、暖かな背中に手を回した。
「ロア!ナツ!無事だったか!」
そこにガタガタと荒い運転の音が近付き、ロアは反発するかのようにナツから飛び退いた。
何となくデジャヴを感じながら、猛スピードで近付いてくる車体に目を向ける。
少し掠り傷を増やした面々は、ガガガと急停車した車を降りてロア達に駆け寄った。
「どうやらエリゴールの狙いは評議会の集会所でのララバイ発動らしい、が…もう終わったようだな」
「ああ、エリゴールならぶっ倒したぞ」
「あ、ごめん、ララバイもぶっ壊しちゃった…」
ナツとロアの視線の先には、くたびれた両者がそこに落ちている。
それを目にしたエルザは満足げに微笑み、ロアとナツを思い切り抱き締めた。
「そうか!さすがロアとナツだ!」
「いたっ痛たたた!エルザ放せ…っ」
がつんっと固い鎧が食い込むハグに、ナツとロアはギブギブとその固い背中を叩く。
それを眺めていたグレイとルーシィは顔を見合わせ、やれやれと肩を竦めた。
(第2話・終)
追加日:2018/12/02
移動前:2012/02/16
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